三日月達が帰還した。
予定通りの日に、特に大きなトラブルも無く。
「お帰りなさい、皆さん」
「ああ、ただいま帰ったぞ。本丸は大事無かったか?」
「ええ、全て恙無く。主が報告をお待ちです」
その日の昼も過ぎた頃に、三日月達はいつもと変わらぬ姿を見せ、本丸の留守番組の出迎えを受けていた。
遡行軍との戦いに赴いた訳でもなかったので、それは当然と言えば当然の光景だったのだが、やはり直に無事な姿を見たら安心するものだ。
「………」
そんな彼らの少し後ろの立ち位置から、面影も帰還した三日月達の姿を確認し、ほっと胸を撫で下ろしていた。
心の片隅で、『…何とか、誤魔化し切れるように』と願いながら……
実は昨日は、面影にとっては色々と大変な一日だった。
昼に外に軽く散策に出たところが、その先で別の刀剣男士達の淫らな交わりを目の当たりにしてしまったのだ。
三日月とそういう関係にはなってはいたものの、最後まではまだ至っていなかった彼にとって、彼らの営みは衝撃が過ぎた。
その為か、その夜には彼らの事を思い出した事もあって、三日月を想うあまりに自分を慰める行為も激しいものになってしまっていた。
知られるはずがないと分かってはいたものの、いざ三日月本人を前にすると、どうにも心がざわめいてしまう。
それはあの行為を行っていた二人の刀剣男士相手にも言えることであり、面影は彼らを目にし、話をする度に、いつも通りの自分を演じることに苦労した。
そういう営みが悪いものではないということは分かっているが…意図的ではなかったとは言え、偶々それを自分が見てしまったという罪悪感が己を苛んでしまうのだ。
(誰にも言わない…そうする事しか、自分には出来ない)
自分さえ何も言わなければ、彼らの秘密は守られる……
改めてそれを誓う面影を、三日月が何か言いたそうな表情で見つめていたが、その場では特に何かが起こる訳でもなく、そのまま筆頭近侍の男は主の待つ執務室へと呼ばれていった………
夕刻
(今日は、三日月達が戻ってくる他には大きな予定は無かったな……一行にも特に異常が無かったのは幸いだった)
夕餉も終わり、入浴も済ませ後は部屋で休むだけとなった面影が、ゆっくりと浴衣姿で廊下を歩いていた時だった。
「面影?」
「っ! 三日月…」
不意に呼びかけられ、振り向いた先にあの男が佇んでいた。
一体何処から、と一瞬思ったが、そこは丁度T字路の様になっている場所だった事を思い出す。
「…あ…その…おかえり」
「うむ」
「………その…何か用だろうか?」
ああ、大失敗だ…と思いながら面影は場を取り繕った。
平静を装わなくてはと思えば思う程に、態度が怪しいものになってしまう。
(駄目だ………まともに顔を見れない)
向こうからどんな追求が為されるか…と不安に思っていた面影に、三日月は無言のままに近づき、すぅと耳元に顔を寄せて囁いてきた。
『今宵……お前を夜這う』
「!?」
忘れさせぬと言わんばかりに、離れざまにちゅ、と耳朶に唇を落とされ、面影はそのまま何も無かった様に歩いて去って行く相手の背中を見つめ……
「~~~っ!?」
十秒後辺りでようやく事実を認識し、真っ赤になった。
(夜、這う、とは………!?)
それは、勿論そういう意味でしかないのだろうが、頭の中で理解するまでには相当の時間を要した。
(………つまり、今夜…三日月が私の寝所に……?)
そういう目的の為に……訪れると……?
「あ………」
振り返っても、既に相手は姿を消しており、意図を確認する事はもう叶わない。
向こうもそれを考えた上で早々に立ち去ったのかもしれないが……
(……どうして…)
よりによって、こんな心がざわめいている時にそんな事を……
(いや……しかし……)
これまで、三日月に淫らな悪戯を施されたのは大体が偶発的な事が多かった。
こうして最初からそれを告知して来るということが、今回が初めてだというだけで……いつもと同じことで終わるかもしれない。
しかし、そうなるとまた別の不安が湧き上がってくる……
(まさか……私から強請る訳にはいかないが……)
今は恥ずかしいと思う気持ちがあるから、そんな事など出来る訳がない、と思う。
しかし…
あの男は、本当に……こちらの理性を剥がすのが上手いのだ。
もしかしたら、彼の手練手管に絆されて、思わず強請ってしまうかもしれない。
最後まで、してほしいと……
「……っ!!」
そこまで考えたところで、自分が一切、彼の夜這いを拒否する意志がない事を自覚して面影は激しく動揺した。
(ああ、もう………)
何処まで自分は彼によって侵されてしまっているのか……
いっそ三日月の夜這いを拒絶してしまえたら、こんな悩みなど抱かなくても済むようになるというのに……
しかし、それは最早不可能であるという事も彼は分かっていた。
もう、知ってしまったのだから……あの男から与えられる快楽を……
期待と羞恥…そして若干の自己嫌悪を胸に抱きながら、面影は自室へと戻った。
いつ来るか分からない男を、こんな気持ちで待つのか…と思いながら部屋に入ったところでふと思う。
(……こういう時は…何処で待てば良いのだろうか…?)
当然、目的を考えたら布団の中が正解なのだろうが……まるで期待しているようではないのかと思い悩む。
かと言って書机の前などで待機しているというのもおかしな話ではあるが……
(あの男の場合は……)
書机の前に座って待機なぞしようものなら、布団に移動する事も許さずその場で押し倒されてしまいそうだ………と考えたところで、最早どうにでもなれという投げやりにも似た心境で、面影は布団に入ることにした。
布団に入っても、当然眠る訳にもいかず眠れる心境でもないので、面影は横になりながら行灯を灯し、読みかけていた戦術書などを読んでいた。
人の姿となってからは自発的に陣などを構築出来るようにもなり、刀剣だった頃から一気に戦場の解像度が広がった気がする。
昔…人に使われるだけの刀剣の姿だった時には、只、人を斬る事だけが目的であり、生きる理由だった。
それが今は、自分達で頭を付き合わせ、様々な可能性を考えた上で自分達が戦陣を整え、出撃する。
緊張感は勿論かつての時より高いものとなったが、達成感は更にそれを上回るものだ。
最初は気を紛らわせるために読んでいた戦術書だったが、徐々に熱が入り真剣に読み込んでいく。
しかし、読み進めていき、戦術展開の解説が難解になってきたところで、つい面影はうとうとと微睡んでしまった。
そして彼が夢の橋を渡ろうとしたところで、しゅっと小さくも鋭い音が男の耳を掠め、彼を瞬時に戦闘態勢へと覚醒させる。
「っ!?」
はっと上体を起こして音のした方へと視線を遣った面影が見たのは、襖を開けて寝所へと一歩踏み入れてきた三日月の姿だった。
「……あ…」
一瞬、思考が混乱して間抜けな声を出したが、徐々に意識が戻ってきたところで自分の置かれた状況を理解すると、面影はやってしまったと頭を俯けた。
夜這いを宣言されながら、呑気に寝ている姿を本人に見られてしまうとは……
「おや、寝ていたのか?」
相変わらず向こうは飄々とした口調で笑みさえも含んでおり、何処までが真意なのかが分からない。
普通なら怒っていてもおかしくないところだが……
「す…すまない…」
咄嗟に謝った面影の、開かれたままだった手元の戦術書を見遣り、三日月は大体の事情を察して微笑んだ。
「はは……それは確かに難しいからな。まぁ、知恵熱が出ていなければ良い」
「……流石に、そこまでは…」
反論する声が徐々に小さくなるのは相手が布団の方へと歩を進めてきたからだ。
これから起こることを予想、想像すると、どうしても動悸が抑えられなくなり、相手が目の前に座るのに併せて自分も布団の上に正座しながら、この動悸が聞かれてしまうのではないかとあらぬ心配をしてしまった。
「…すまぬな、お前も疲れているやもしれんが」
「い、いや……遠征に行っていたお前程ではない……お前こそ…今日は休んだ方が良いのでは…」
「それは……出来ぬ」
「え?」
どうして…と答える前に、三日月が身体を寄せて面影の唇を塞いでいた。
「っ!?」
急な行動に狼狽する相手の隙を突くように、三日月は唇を重ねたまま実に器用に面影の背中へと手を回し、あっさりと帯を解いてそれを手元に手繰り寄せてしまった。
(え……っ)
狼狽したままの面影への奇襲はまだ終わらず、今度は唇を離したかと思うと三日月が相手を布団の上に仰向けに押し倒し、彼の両腕を頭の上に上げさせると、先程解いたばかりの面影の帯できつく手首を縛り拘束してしまった。
「……!? み、かづきっ!?」
余りにも急な展開で、面影が自分の態勢を認識するまでは少しの時間を要したが、理解したところで当然ながら拘束を外そうとする。
しかし、帯で止めただけの拘束にも関わらず、それはまるで鋼鉄の施錠の様にびくともしない。
「ちょっとした呪いをかけた…お前では外せんよ」
「なん……で…」
何でもない事のようにあっさりと言い切った相手に、面影は戸惑いの目を向けた。
どうしてこんな事をわざわざする必要が……?
「三日月……?」
「ああ、お前に土産を持ってきた」
敢えてなのか、欲しい答えを与えようとはせず、三日月は懐から一本の組紐を取り出した。
金糸と銀糸を組み合わせた紐が、行灯の小さな灯火に照らされ、彼の手の中で鮮やかに光っている。
しかし……何故、男の自分に組紐を……髪を結うと言っても、あれは太すぎる。
赤子の指ほどの太さを持つそれを見て、その使い道を思いつけない面影が首を傾げ眉を顰めると、相手はくすりと笑ってばさりと面影の浴衣をはだけてその裸体を露わにして、さわりとその分身に手を触れた。
「あ…っ!?」
まだ何もしていないにも等しいのに、いきなりそこに触れられるとは思っていなかった面影は驚きに声を上げたが、それにも構わず、三日月は手にしていたその組紐で相手の分身の根元を縛り、蝶々結びで飾り立てた。
「ああ……思った通りよく似合うぞ」
「いやっ……! 何をして…っ、解け…!」
今日の三日月は何かおかしい……
うっすらと狂気すら感じられるその言動に戦きながらも、面影は必死に身体を捩りながら抵抗を試みるが、如何せん、両腕を封じられているのは大きかった。
彼の動きは完全に無視で、三日月はずいと上体を相手のそれに近づけると躊躇いなくその胸に唇を寄せ、ちろちろと淡く色づいた蕾をくすぐり始めた。
「あ…ああっ…!」
「…ここを……触って、吸ってほしかったのだったな…」
「…?」
不思議な言葉が聞こえた。
そんな事、まだ一言も強請ってはいない……過去にそんな事を言った事があっただろうか…?
もしあったのだとしても…どうして今になってそれを…?
「…会えなかった間の分……たっぷりと可愛がってやらねばな…」
「え……?」
会えなかった……? それはどういう……
考えようとしても、それは三日月の指できゅうっと固く尖り始めていた蕾を摘まみ上げられ、そのまま口に含まれてきつく吸われた快感であっという間に阻止された。
「ふぁあっ……! や、ぁ…!」
「嫌ではないだろう?………あんなに物欲しげに強請ってくれていたではないか」
ちゅうちゅうときつく優しく吸いたて、赤く腫れた二つの蕾を慰めるように、くりくりと指の腹でその頂を捏ね回しながら三日月は妖しく微笑んだ。
「…その指先を俺の舌に見立てる程に…」
「…っ!!」
「ああ……まさかお前があんなに淫らに乱れてくれるとは…あられもない姿で…俺に懇願していた…」
「お前………まさか…っ」
ざぁっと顔色を失い見つめてくる若者に、三日月はちゅ…と相手の蕾から唇を離して応えた。
「………お前の顔を見たくてな……遠見が出来る術を使って様子を窺ったら、可愛い声で鳴くお前がいた…年甲斐もなく俺まで昂ってしまったぞ」
「!!」
あの姿を見られた…!?
知られた衝撃と勝手に自分の様子を覗き見られた怒りで、面影の顔色が青くなったり赤くなったりしていると、三日月がしかし、と言葉を継ぐ。
「……俺の事を求めていたのは嬉しい限りだが……聞きたい事がある。お前に、『そういう行為』を教えたのは誰だ?」
「……っ」
咄嗟に脳裏にあの二人の刀剣男士が浮かんだが、それを言う訳にはいかない、と唇を噛む面影に、三日月が冷えた瞳を向けて続けた。
「…お前という男は、そういう事を調べる様な事はしない……与えられる快楽には素直に応えるが、己からそういう知識を求める様な性格ではないだろう……では、誰かがお前にそういう知識を与えたという事だ……何者だ」
「……い、えない……それは…」
彼らの秘密を他人に漏らすという行為は、人としてしてはならない行為だと分かっている以上、自分はそれを侵せない。
それに、それを語ることは、自分があの二人の行為を覗き見てしまった事実をも三日月に晒す事になってしまう。
言うことは出来ないと面影から拒絶された三日月は、一瞬、哀しそうな表情を浮かべたが、それはすぐにいつもの笑みに隠されてしまった。
「そう、か……仕方がない、な…」
言いながら、彼の右手がゆっくりと下へと下ろされ、再び面影の分身に触れる。
先程までの胸への愛撫の影響でそれは既に半分勃ち上がった状態であり、三日月はそれを優しく握るとそのままやわやわと握り込んだ。
「では、話したくなるように仕置きをしなければ、な……」
「う、あ、あぁっ…!」
「心配は要らぬ…大切なお前に苦痛を与える様な事はせんよ……だが」
くす、と笑った三日月は、その瞳の奥に昏い欲情を秘めながら断った。
「苦痛の方がましかもしれぬがな………」
ちゅ…っ
「んあ……っ、あ…」
三日月が再び乳首を口に含んで舌を這わせ、同時に手が己の岐立しつつあるものをゆるゆると扱き出す。
苦痛とは程遠い純粋な快楽を与えられ、面影の身体が再び素直に反応し始めた。
感じやすい場所は既に相手には知り尽くされており、彼は的確にそこを攻め、こちらを着実に追い詰めていく。
いつもなら、ただその快楽の波に身を委ねていれば良かった……しかし、
「あ……っ」
絶頂に向かいそうになったところで、面影はいつもと異なる身体の反応に気付いた。
(ああ…っ、これっ……紐が……!)
達しそうになったところで、紐が物理的にそれを阻んでしまっていた。
達きたいのに達けない……身体は放てない熱に苛まれ、快楽だけが上乗せされていく。
「み、かづき……っ…紐……ほ、どいて…っ」
「言う気になったか?」
「…っ!!」
間髪入れずに問い掛けてきた相手の台詞に絶望する。
ああ、この男は…自分が応えるまでずっと、快楽の檻の中に閉じ込める心づもりなのだ。
苦痛の方がまし…というのはこれが理由か……
確かに、常に戦いの中に身を置く刀剣男士にとっては、苦痛など隣人の様なものだ。
しかし、このまま…快楽が解放されずにずっとこの身に留められるというのは……果たして何処まで耐えられるのか……
「……面影?」
「……い、わな…っ」
それでも尚、矜持を守ると判断した面影に、三日月は嘆息して呟いた。
「…強情だな……」
更に追い詰める様に、今度は身体をずり下げて、彼は直接面影を口に含んだ。
「ひ、あぁっ!!」
ちゅ……くちゅ…っ…
わざと音をたてるように舌で先端を舐め回し、それを徐々に茎へと移してゆく。
爆ぜる事も許されないまま、熱く昂ったままのそれは先端から先走りをかろうじて零すのみであり、それを三日月の舌が舐め取る度に更に快感のみを重ねていった。
「あ、あーーーーっ!! やっ…もうっ…やめっ……」
それからも、容赦なく三日月からの甘い責め苦は続いた。
二度…いや、三度、か……?
何度も高みに駆け上がる度に、そこからまた熱を孕んだまま突き落とされる……
がくがくと腰が震えるのを止められず、どうにかなってしまいそうな快感の嵐の中で、面影は目尻に涙を浮かべながら首を横に振って抗おうとした。
「みかづきっ…!! お、ねがい…っ…」
「……本当に…お前の鳴き声は可愛いな…」
ぺちゃぺちゃと猫の様に舌を這わせて面影を味わっていた残酷な男が、妖艶な笑みを浮かべながら身体を久し振りに起こし、自らの衽をはだけると己の昂ったものを晒す。
「お陰で、俺のもこんなになってしまった……」
「……!」
そこに見えた立派に岐立したものを見て、面影は思わず羨ましいと思ってしまった。
己の拘束された雄とは異なり、彼のそれはいつでも好きな時に達することが出来るのだから……
「…さて……」
その笑みを深め、何を思いついたのか、彼はぐいと面影の上体へと近づくと、その雄の先端を相手の胸元へと近づけていった。
「あ……」
面影が見ているその目前で、相手の熱い先端がぬるっと己の蕾の先端を擦り上げる。
「はぁぁっ…! いや、ぁっ…!」
犯されてしまう……あの逞しいもので…激しく擦られて……!
「ああ…好いぞ……」
「だめ、みかづき、やめっ…あ、ああっ、あつ、い…っ」
こりっこりっと固くなった乳首が、相手の先端で擦られ形を変えながら更に固くなってゆく……
その熱と感触と淫靡な光景に、また面影は興奮する自分を抑えられなくなってしまう。
興奮すればする程に、今の自分は苦しみもまた深くなってゆくのに……どうしても、この光景に見入ってしまう……
(ああ…三日月のが……あんなに固くなったものが…私の…乳首を犯して……っ)
苦しいのに……何故だろう、征服されるのが嬉しいと感じてしまう……
もっと……強く擦りつけてほしいと……そして…熱い劣情を……放って……
「このまま……お前の愛らしい蕾を穢そうか…?」
「!!」
正に今、己が望んでいた事を口に出されて我に返ると、相手が己の肉棒に手を添え、蕾に向けて息を詰めていた。
「あっ……」
「…っ」
くっと三日月が顎を引いて呼吸を止めた直後、猛ったそれの先端から白の樹液が迸り、勢いよく面影の右の蕾に注がれた。
一度、二度目の射精は右の胸に…そして三度目以降は左の胸に……
「あっあああーーーっ!! いや…だ…もうっ……もうっ…」
直接弄られていないのに、胸へ精を注がれただけでまた頂点へと駆け上り…やはり放つことを許されず、面影は激しく身悶えた。
このままだと、狂ってしまう……快楽に、脳髄が破壊されてしまう………
「…はは…まるでお前の胸から乳が出たようだな……」
ぬるぬると先端で白濁液を乳首に塗り込めながら三日月は嗤い…何度目かの問いを面影に投げかける。
「……まだ言う気にならないのか……?」
「…だめ……だ……わたし、が…あんな場所に…行ったから……」
「?……面影?」
「行かなければ…彼らを見ることもなかった……覗きさえしなければ…知る、ことも…」
「……お前、もしや……誰か、個人に教えられた訳ではないのか…?」
はっとした表情で問う相手に、面影は拘束された手で、それでも顔を覆って言った。
「言えない…彼らの…秘密だけは、誰にも言う訳には……分かって、くれ……」
「…………」
つまり…誰かに教えてもらった訳ではなく……偶発的に何者か達のそういう行為を見て、知ったという事か…?
ようやく面影の真意を汲む事が出来た三日月が言葉を無くしている前で、限界を超えてしまった面影が必死に相手に許しを乞う。
「三日月……っ…もうっ、達かせて、くれ…っ…あっ…おね、がい…っ」
ひくひくと白い太股が戦慄き、救いを訴えている中枢では、怒張した彼の昂りが組紐をぐっしょりと濡らしながら解放を待ち望んでいた。
想像していたものとは異なっていたが、己の求めていた答えを得られた三日月は、最早面影を追い詰める理由を失っており、その望みにすぐに応えるべく組紐を解くべく指を伸ばした。
「ああ……すまん……すぐに楽にしてやる…」
「…あぁ……」
ようやく…と言うように、面影の唇から甘い安堵の溜息が漏れた。
しゅっと組紐を解いた三日月の指が、そのまま相手の熱棒に絡められ、優しく解放を促す。
「さぁ…達け」
「ふ…あ…?」
ようやく解放されると思った面影が、一気に襲いかかってくる快楽の荒波の訪れを感じ、思わず戦く。
違う…いつもと全然違う…堰き止められていた快感が……快感に呑まれる…!
「あ、ああ! これっ…なに…くるっ…!! すごいの、が…あ、あああああああっ!!」
肉棒の中を通り抜けた精の迸りの熱で、内側から焼けてしまうのではと思ってしまった程に、熟成された快楽の素が一気に解放された。
びゅるっと迸った、いつもより粘り気の強い精が宙に躍り、面影を絶頂に導く。
しかも、それは一度では済まなかった。
「ああっああっ!! ま、だ、射精るっ! 止まらなっ……く、達くっ、また達くぅっ!」
びゅるっ、びゅるっと放たれる度に、面影は絶頂に達して声を上げた。
何度も阻まれていた射精が一気に解放された分、溜められていたそれらが大量に迸り、宙に放物線を描いていく様を見ながら、面影は与えられた快感を本能のままに貪る。
欲しかった、求めていた解放の悦びが全身を走り抜けていく……
「はぁ…っ……はぁっ……ん……」
淫らに腰を振り、ようやく幾重もの波を乗り越えて…ぐたりと面影が布団の上で身を投げ出す中で、三日月は相手の腕を拘束していた帯を呪いごと解いて自由にしてやった。
その瞳には、先程まで輝いていた危険な色の光は既に消えており、いつもの理知的な彼の色に戻っていた。
「…………面影…?」
「……っ!」
ばちんっ!
「………」
「…取り敢えず…お返しだ…っ」
疲労もあり、全力でとはいかなかったものの…
面影の右の掌が、勢いよく三日月の整った顔面に張られたが、敢えて相手はそれを避けようとはしなかった。
自分は、それを受けるだけの無体をしてしまったという自覚があったからこそ、三日月は甘んじてそれを受け止め…張られたままの相手の掌の隙間から彼を見下ろしていた。
先程までの高圧的なそれとは程遠い…切なさとやるせなさが混じった瞳で……
「よくも……私の…あんな…恥ずかしい…浅ましい姿を覗いたな…っ」
おそらくは真っ赤になっているだろう顔を俯けたまま、面影は三日月の先日の罪を断罪した。
どんな理由であろうとも、個人の私生活を覗き見するなど良い趣味とは言えない。
「…お前じゃなければ、首を切り飛ばすだけでは済まないところだ……!」
「…………すまん」
素直に謝った三日月は、相手の掌をどけようともせず、そのままに自嘲めいた言葉を呟いた。
「……俺は…お前に関してだけは……いつもの理性が、働かん……自分で自分が…止められぬ」
「………」
「昨日の夜も……お前が俺を求めてくれるのが嬉しかった、のに、お前にそういう知識を与えた者がいるのではないかと思った瞬間…嫉妬で狂いそうになった……」
「…私のあんな姿を見ておきながら……まだ嫉妬するのか」
「…………ああ、そうだな」
醜いだろう、と自己嫌悪に陥っているのだろう相手の台詞に、面影は毒気を抜かれて溜息をついた。
本当に…この男の愛は重すぎる、が……それでも共に居たいと思う自分も大概だ。
そうだ、そもそも彼は最初に忠告してくれていた。
『子供でいてくれなければ、じじいはもっとひどい事をする』と……
それでも近づき、寄り添ったのは自分の意志だ。
(……そうだな……こんな事をされても、まだこの男を嫌えないのだから…)
掌を外して、まだ沈んだ面持ちの三日月を見上げ……覚悟を決めた。
元々そうなるのだろうという予想はしていたし、寝所に受け入れた以上、今更拒むつもりもなかった。
「…分かった………分かったから……もう、そんな顔をするな、三日月」
そう言うと、面影はまだ羽織っていた浴衣をするりと脱ぎ、完全な裸体を相手に晒して言った。
「……そんなに不安なら、全部お前のものにしろ………お前の好きに…して、いい」
「!」
瞠目する相手に照れ隠しのように身を寄せ、面影が同じく相手が羽織っていた浴衣の袂に手を掛け、脱ぐように促す。
「………三日月も……脱いで…」
いつもは受け身の若者が珍しく煽ってくる姿に、三日月がぞくんと背筋を震わせる。
ああ……駄目だ…酷いことをしたと思った傍から、またこの者に激しく欲情してしまっている……
「……脱いだら……もう、止められんぞ…」
「止める自信があるのか?」
「…………いや…」
痛いところを突かれて思わず苦笑した男に、面影が今更ながらに赤い顔をして迫った。
「言っておく…が…」
「…? うん…?」
「…好きにしろとは言ったが………その……私は…初めて、だからな……ひどくは、するな……」
(…ああ………可愛い…)
初めてだから当然恐怖もあるだろうに、顔を赤くしながらも全てを委ねてくれる想い人に、三日月は優しく微笑んで頷いた。
「勿論だ…」
そして、するっと自身の浴衣を脱ぎ、布団の片隅へと投げやると、そのまま面影の身体を抱き寄せてとさりと押し倒した。
「初めてでも、ちゃんと達かせてやる……」
「あ……」
ぐっと肩を掴まれたかと思うと思い切りよく身体を反転させられ、そのまま布団の上にうつ伏せる形になる。
「あっ…!」
続けてぐいっと腰を持ち上げられ、面影は上体は布団にうつ伏せたままで、臀部を三日月の方へと突き出すあられもない姿を取ることになってしまった。
「や…だっ…こんな格好…」
ぺちゃ…っ
秘蕾に、何か濡れた柔らかなものが押し当てられ、それが相手の舌であるとすぐに知れた面影が真っ赤になる。
「う、あっ!!」
そんな…そんな場所を舐めるなんて……っ!
「あっ、だめ、そんなこと……っ」
「よく解しておかねばならないからな……ああ、桜の花びらの様に愛らしいな…お前のここは……」
「そ、んな恥ずかしいこと…言う、なっ……あ、はぁぁん…っ!」
ぺちゃ…ぺちゃ…っ
両手で蕾を隠していた双丘を優しく押し広げてその場所を露わにして、三日月は何度も舌先でその桜色に色づいた表面を円を描くように舐め回した。
「ん……あ、ああ、んっ……はぁぁっ……や……きたな…いっ」
「お前の身体で汚いところなどない……ふふ、ここも好くなってきたか…?」
唾液を染みこませつつ、優しく愛撫を繰り返して徐々にその場所を解していったところで、三日月の指がくい、と秘密の場所を押し広げ、ぬるっと舌先を深く挿し入れる。
途端、びくっと面影の全身が戦慄いた。
「やぁっ…! し、た……挿れな…っ! あっあっあぁ~~っ!」
表には出ない箇所の粘膜を、舌がゆっくりと擦り上げながら奥へと押し進む感覚に、首を振りながら面影が声を上げた。
当然、初めての経験……身体の内部に舌が潜り込み、その場所の粘膜を蹂躙していくなど……
最初はただ直線的に奥へ進んでは戻りを繰り返していた舌の動きだったが…内部が徐々に解れてふっくらと息づいてきたら、今度は遊ぶように舌先が様々な角度に曲がり、擦って刺激を与えてくる。
「あっ……はぁぁん…っ…だ、め……どうして…っ…」
恥ずかしい場所…性的な場所ではなく、排泄機能のみの場所である筈なのに、どうして…相手の悪戯に応えるように、己のが勃起してくるのか……
「ふふ……よしよし…」
それに気付いた三日月が一度唇を離してうっそりと微笑み、するっと面影の股下から手を伸ばして、その勃起した肉棒の裏筋側を優しく撫で上げた。
「ひ、あぁっ!!」
感じすぎる場所を敢えて強く刺激された間に、向こうは再び舌を肉孔へと差し入れぬぷぬぷと蹂躙を再開した。
そして、裏筋を主にした愛撫も舌のそれと同時に続けられ、面影を大いに乱し始めた。
「んっ…! あっ、だめっ…! こんな、のっ…!! また…い、くっ…!」
「ああ、こんなに張り詰めていては辛かろう……良いぞ、達け」
ぬぷぷっと一際深く舌を奥に突き入れると同時に、きゅっと亀頭を撫で回して三日月が絶頂を促し、面影はあっけなく男の止めに陥落した。
「はあぁぁっ!! 三日月っ、達くっ、あ、ああぁぁぁっ!!」
びゅくびゅくと亀頭を覆っていた三日月の手に熱い精液を注ぎながら、その肉壁はきゅうときつく彼の舌を締め付けていた。
「ん……ふふ、そんなにがっつかなくとも分かっておるよ……そら…」
ちゅ…と、唇を肉孔から離し、放たれた相手の精液をぬちゅぬちゅと己の指先に絡めると、三日月はそれを潤滑油代わりにして、先ずは人差し指をゆっくりと根元まで差し入れた。
「は、ああぁん……ゆび…奥、まで…来てるっ」
「少しは解れてきたが……まだ、だな…」
己の肉棒を受け入れるにはまだ狭すぎる…
面影を傷付ける事だけは避けたい男は、そこから更に相手の秘密の場所を解して拡げていくべく動き出す。
「すぐに好くしてやるぞ…」
優しい声でそうあやすように言いながら、三日月の指が的確に相手の媚肉の奥…腹側に位置する箇所へと蠢き、肉壁が隔てた場所にある男性の急所を刺激し始めた。
他の場所より僅かに盛り上がった、弾力が異なるもの…だ。
「あああっ! そこ…っ、そこぉっ…!」
「好いだろう…? ああ、そんなに腰を振らずとも、可愛がってやる…」
「っ!?」
相手に言われて初めて、自分が腰を振って感じる場所を相手の指に押しつけていたと知り、はっと我に返る。
しかし、それを恥じる前に三日月がぬぷりと二本目の指を挿し入れてきた。
二本の指が節操なく内で蠢きつつ、くにくにと入り口もより大きく拡げていく。
「二本目も、美味しそうに呑み込んでいくな…こんなに絡みついて…」
「いや……言うな…あっあっ…! だめ、二本でそこは、あっ…!」
「良いぞ………好い具合になってきたな…」
ずぷ………
「うあ……っ、また……あっ!」
三本目が挿入され、更に刺激が上乗せされてゆく……
ぐにぐにとそれぞれの指が縦横無尽に蠢いているのを内で感じると、その根元がどれだけ孔の入り口を押し広げているかという事も想像できる。
きっと、自分すらも見た事の無い程に恥ずかしく広がったそこと奥の様子を、この男は見ているのだろう。
その様子を脳内で思い浮かべ羞恥に悶えながらも、面影はそれらによってもたらされる快感を感じつつもあった。
そして三本分の指先が、踊るように前立腺を刺激し始めたところで、彼の身体は激しく揺れて声も一層大きなものになった。
「あああっ! はぁ…っ! それだめ…っ 感じすぎ…ちゃ…!」
訴えても当然三日月は愛撫を止める事は無く、寧ろ一層強く相手の弱点を確実に攻めていき、応じて面影は甘い鳴き声を絶え間なく漏らしていたのだが、それが徐々に大きくなっていくと共に、その中に戸惑いの色が混じり始めていた。
(な、んだ……身体の奥から…へんな…感じ……ああっ、止められ、ない…っ)
いつもの愛撫を受けてからの感覚では無い……それより深い身体の奥から湧き上がる快感は、面影が初めて感じるものだった。
その正体は分からなくとも、容赦なくその快楽は男を翻弄し、彼は三日月の指が踊る度に艶やかな声を上げるしかなかった。
「はぁっ……は……っ、やぁ………これ…うああっ…」
断片的な嬌声を上げていた面影が、三日月がくんっと一際強く指で秘所を押した瞬間、びくんっと全身を震わせ、絶頂の悲鳴を上げた。
「ふ、ああああぁぁぁっ!!」
びくびくと魚の様に身体を痙攣させながら達した面影だったが、その雄からは射精の気配は無かった。
しかし寧ろ射精時よりも快感は強く、面影はせめて両腕で支えていた上体すら、ぺたりと布団の上に投げ出す形を取ってしまう。
ひんやりとした布団の感触が心地よく、自然と大きく息を吐き出したところで、後孔から指が引き抜かれるのが分かった。
「もう射精さずに達けるとは……素質があるな…」
小さい笑みを含みながら三日月が囁き…ぐっと面影の腰を支えてその中央に熱く息づく蕾に己の怒張の先端を触れさせた。
「…っ!!」
何であるのかを見ずとも察した面影が、遂にその時が来たのだと悟る。
(熱い……本当に…あんな大きなものが挿入る、のか…?)
どきどきと動悸が激しくなる中、身体を倒して面影の耳元に口を近づけた三日月がひそりと囁いた。
「挿れる…ぞ?」
「………」
緊張のあまり声が出なかったので、代わりに面影はこくんと頷いた。
緊張はしていたが、先程までの身体への愛撫のお陰で余計な力は入っていない…と言うよりも入れる事が出来なかったのは幸いだった。
おそらく、それも三日月の思惑だったのだろう。
「……っあ…!」
ぐぐっと後孔を押し広げながら、熱く固い質量を持つものが侵入を果たしてきた。
三本の指で予め解されていたとは言え、それでも相手のものはすぐに受け入れる事は出来ないほどの大きさを備えているので、そう簡単にとはいかない。
(あ、ああっ……すごっ…おおき、いのが……挿入って…くるっ…!)
ずくずくと熱い鉄の様な塊が挿入ってくる感触を感じながら、面影は枕に顔を押しつけながらその圧迫感にひたすら耐えた。
幸いというべきか痛みというものは殆どなかったが、侵入するそれの存在感は息を詰めてしまう程のものであり、面影は息の仕方はどうするものだったか、と混乱すら覚えてしまう。
「痛い……か?」
心配そうに尋ねてくる相手に首を横に振って否定しながら、面影は眉を顰めつつも笑う。
そういう行為をしているのは紛れもなく相手なのに、そんな声をしているのも可笑しな話だ。
「いや……痛くても、お前のなら……我慢する…」
何ともいじらしい想い人の言葉に、いけないと思いながらもぞくりと本能が奮い立つのを感じ、三日月はせめて相手が余計な力を入れずに済むようにと腰の下から手を回し、その男根を握り込んで扱き始めた。
「ふ、あっ……ああ、ん…っ」
「もう少し……だから、な…」
加えて、ぐっぐっと少しずつ、少しずつ推し進められる度にその力に押されて面影の身体が揺れ、それにつれて布団の布地に乳首が擦れて予想外の快感が彼を襲う。
「あ、ん…っ…はぁぁっ……ああ、ああっ…」
ほんの少しの間だったが、二重の快楽に圧迫感を忘れる事が出来た面影の肉壁が持ち主に反応する様に僅かに緊張を解き、それを敏感に察した三日月が腰を進めていく。
そして一番きつい雁の部分が全て肉孔に収まったところで、一気にぐぐっと残りを埋めて遂に全ての挿入を果たした。
「くあ………は、あ…っ……」
まるで腹部の全てが彼に占領されてしまった様な感覚に、面影が息を吐き出してからも浅い呼吸を繰り返す。
対し、三日月は全周囲からきつく締め付けてくる面影の肉壁に困った様に微笑んだ。
「きつい、な……食いちぎられそうだ……」
このまま無理矢理動いてしまったら、きっと面影の内側を傷付けてしまう……
そう判断した三日月は、腰は暫し動きを止めて面影の欲棒への愛撫に集中する。
「ん…んっ……」
「すぐに好くなる……素直に感じていたら良い」
ちゅくっ…ちゅくっ……
扱き下ろす岐立は雫を滴らせ、三日月の手を濡らして淫らな音をたて、面影の耳を犯した。
そして面影はそれに加えて擦られる乳首からもたらされる快感に身を委ねて、徐々に艶めいた声を枕越しに漏らし始めた。
肉孔の中の質量にも徐々に徐々に身体が慣れてきたのか、呼吸をするのも然程辛くなくなってきた気がする。
(………そろそろ…か……)
きつい締め付けがやや和らいだことを認識した三日月が、ゆっくりと腰を動かし始めた。
最初は本当に微かに…少しずつ動いていたが、相手が苦痛を訴えない事を確認してから徐々にその動きが大きなものへとなっていく。
「ん…あ…っ…」
ずっずっと粘膜を擦られ、その固いもので敏感な部分も刺激され、面影の身体が徐々に快感を感じ始める。
「ああ、ん……三日月…っ…」
「……好くなってきたか…?」
腰の動きが更に大きく激しくなり、先端が奥を突くようになってから明らかに面影の声が大きく激しくなってきた。
「ふああっ! あっあっ…! そ、んな…強く…来る、なっ!」
枕から顔を上げて激しく喘ぐ面影の口は開かれたままで、その端からは欲望が形になった様に涎が零れ続けている。
ずんずんと激しく奥を突かれる度に脳天まで響くような快感が走り、これまで感じる事のなかった感覚が身体の奥から湧き上がってくる。
勢い良く突かれるとそれだけで達ってしまいそうになり、必死に耐えながらも、更に快感を求め始めた身体に、面影は大いに翻弄された。
胸と、岐立した己と、秘蕾の最奥の三つの快楽を一身に受け、あまりに強烈な刺激に気が狂いそうになる。
それなのに、身体は尚も快楽を求めて、浅ましく腰が揺れるのを止められない…!
「う、あ…! もっ、おかしく、なるっ…! 狂って…しまっ……」
止めてほしいのか、それとももっとしてほしいのかも分からず悶えていた面影だったが、彼の身体への甘い責苦は突然に中断されてしまう。
「…っ!……あ…?」
まだ達していないのに、三日月がその昂りを秘所から引き抜いてしまったのだ。
一瞬…引き抜かれる間際、離すまいと孔の入り口がきつく締まったが引き留める事は叶わなかった。
自らの身体の反応に気づき、思わず恥じてしまった面影だったが、そんな思いはすぐに別の感情に押し流されてしまっていた。
(あ…こんな……こんなことっ……あり得ない……!)
信じられなかった……引き抜かれた途端に、己の身体がまたそれを欲し始めた事が。
己の内を埋め、揺さぶり、犯していた逞しいものが無くなった途端、身体の奥が切ないと訴え、惜しむように疼き出したのだ。
羞恥などあっという間に消え去り、面影の頭の中が欲望のみに塗り替えられていく。
(ああっ…疼く…! 奥が…熱くなって…! 欲しくて…堪らないっ…!)
また埋めて欲しい…あの熱いもので身体の奥の奥まで貫いて…蹂躙してほしい…!
早く、早く、早く……っ!!
「ああっ……三日月…っ」
切なげな瞳を向けてきた若者に三日月は微笑みながら手を伸ばし、相手の身体をぐいっと反転させ、仰向けの状態にすると、自身をその上に覆い被せてきた。
「…お前の達く時の顔が見たいのでな………」
そして彼の腰を両脇から抱えて浮かせ、秘蕾に己の熱く昂ったものの先端を押し当てる。
求めていたものが来る、と密かに喜んでいた面影だったが、何故かそこから動こうとしない相手に訝しげな目を向ける。
一体…何故動かないのか………
「三日月……?」
「…そう言えば…お強請りの仕方も教わっていたのだったな…その者達に…」
「…っ!!」
まさか……この男………
息を呑んだ面影に、三日月が微笑みながら促す。
「折角だ……俺にも強請ってみせてくれるか…?」
「そんな…ことっ…」
あの日…一人で自分を慰めていた時に口走った様なお強請りを、この男本人の前でやれと言うのか……
「むり…だっ……はずかし、い…っ」
「無理なものか……」
すっと顔を相手の目前まで寄せて、三日月が誘うように微笑む。
「此処にはお前と俺しかおらぬ……他の誰も聞いてはいない…俺達だけの秘密だ……」
「……っ」
秘密、という言葉にぐらぐらと頭が揺らいだ。
秘密…であれば、誰にも聞かれる事は無い……この目の前の男以外には………
いや、彼にこそ聞かれたくなかった筈だ…という抗いの声は、心の内の別の自分にあっさりと否定された。
今更そんな事を言って何になる…あの夜の淫らな姿も声も、彼には既に見られて、聞かれてしまっているのに…?
「あ……」
強請ればいい……欲しいものをそのまま言葉に乗せて……どの道お前が欲しいものを持つのは、彼しかいない……そうだろう……?
心の中の自分が促す言葉の向こうで、三日月がぐいと己の熱い楔をこれ見よがしに孔に押しつけてきた。
ひくっと蕾が震えて、受け入れようと息づくのを感じる。
「面影……何が…欲しい?」
これ以上は無理だった……目の前に欲しいものを見せつけられながら、身体の渇望を抑える事は……
「ああっ……ほし、いっ…! 三日月の………がっ…」
「聞こえぬな……ほら、もっと大きく…な?」
そう言いながらも、少しはこちらの羞恥を汲んでくれたのか、そっと顔を寄せて耳元を近づけてくれた相手に面影は遂に陥落した。
「…挿れ、て…っ! 三日月のオ○ン○ン…ッ!! 私の内に、早くっ!!」
「……いい子だ…では、褒美をやろう、な…」
ずぷり、と再び身体の内を埋めてきた相手の熱に、面影の身体が歓喜に震える。
「あ、ああ……いい…もっと…っ…」
「ふ……ここ、か?」
ずぐっと一気に突き込まれ、悲鳴のような面影の声が響くと共に、彼の昂りがびくんと跳ねる。
しかし、尚もそれでは足りないというかの如く、面影の両足が三日月の腰に絡んで引き寄せる。
「もっと…もっと奥に…っ、来て…っ」
「っ…! 凄い、な……俺のに絡みついて、離そうとせぬ…」
三日月の分身を包む面影の媚肉が蠢き、彼を締め付ける様は、まるでその精を搾り取ろうというかの様だった。
「好いぞ……望み通りに犯してやろう…」
そして三日月が改めて相手の腰を持ち上げ、ぐぐっと最奥へと己のそれを進めると、面影の喉が反り返って艶めいた声が上がった。
「んんああっ……ああっ、これ…」
彼の視線が二人の下腹部の狭間に向けられ、三日月もその視線を追って得心を得たと笑った。
「…どうだ? 俺の腹の感触は…」
勃起していた面影の分身が、相手が腰を動かす度ににゅるっにゅるっとその逞しい下腹部に擦れていた。
擦れる度に濡れた先端が相手の腹を穢してゆくが、向こうは寧ろそれを促すようにより二人の身体を密着させていった。
「気持ち良いか…? ん…?」
「はぁ……ん…いいっ……オ○ン○ン、擦れてっ…気持ち、いいっ……!」
最早理性は完全に蕩けてしまっているのか、面影の目は潤み、口元は艶やかに色づき唾液で濡れている。
素直に快楽に身を委ね、自ら腰を振って分身を相手に擦りつけながら喘ぐ姿に、三日月の奥の雄が完全に目を覚ました。
「いやらしい子だ……じじいをここまで煽るとは」
膝立ちになり、相手の足を己の両肩に抱え上げると、三日月はその右の太股をぺちゃりと舐め上げてうっそりと笑った。
「もっといやらしく鳴いてみせよ…」
このじじいを悦ばせる程にな………
そして、それまではまだ緩やかに相手の身体を犯していた男が、本気になった。
「ゆくぞ?」
どちゅん…っ!
「っ! あああっ!!」
根元まで一気に突き入れ、最奥を熱い楔で深く抉るように腰を回すと、激しく面影の身体が反応し嬌声が上がる。
そんな相手に構わず、三日月は腰を勢いよく引き雁の部分までを抜くと、再びそこから勢いよく突き入れ、腰を回した。
何度も何度も激しく相手の内を犯す度に、二人の腰が激しくぶつかり合う音が部屋に響いた。
「ああっ!あ、あ……みかづき、の…すごいっ!」
ばちゅん、ばちゅんと己を犯している音を聞きながら、面影が目の前に迫ってくる相手の顔に自分のそれを寄せて深く口づける。
「んっ…んふ…うっ……あ…」
ぐちゅぐちゅに舌を絡め合いながら、面影は上下の口を犯される快感に、熱に浮かされるように淫らに強請った。
「ああ、三日月……もっと突いて…激しく、奥まで……」
「よかろう……俺も、もう腰が止められぬ……」
ここまで淫らに乱れるとは…と内心驚きながらも、三日月は求められるままに相手を何度も激しく貫いた。
その度に少しずつ角度を変え、相手が反応する場所を確実に捉えていきながら……
そして一際大きな嬌声が上がる箇所を見つけ、そこを何度も繰り返し抉ると、面影は激しく身体を震わせて絶頂の訪れを告げる。
そして三日月もまた、貪欲な相手にきつく淫らに内側から絡みつかれ、限界が近かった。
「面影…っ……いいな?…内にっ…」
「んっ……射精してっ……いっぱい…三日月の熱いの…ほし…っ」
「っ…! お前は……」
何処まで煽るつもりだという言葉を呑み込んで、代わりに激しく腰を抽送させ、一気に互いを絶頂へと追い込んだ。
「く、ぅっ……面影…っ!」
「あっ、あ、ああああぁぁぁ!!」
一瞬、三日月の肉棒が大きく膨らみ、それを感じた面影の媚肉がきゅうぅっと相手を締め付け、射精を誘った。
「射精すぞっ…!!」
ぐぐっと腰を押しつけて最奥まで突き入れた形で、びゅるるるっとその先端から白い溶岩が迸り、面影の秘肉を灼きながら浸してゆく……
「あ、あ…射精てるっ…! あつ、いのが…ああ…っ、三日月の、跳ねて…るっ!」
びくびくと肉壺の中で頭を振る三日月の分身に壁が叩かれるのを感じながら、大量の精液が体内に注がれ、犯されていく………
「んあああ!! 達く…っ、私も…一緒に、達って、るっ!!」
尚も注がれる相手の樹液を受け入れながら、同時に自分も精の果汁を互いの腹に放ちながら、面影は相手が宣言した通り絶頂を迎えていた。
相手と繋がりながら、同時に絶頂に達する快感……
これが……男性に抱かれ、交わるということ……
(……こんな、の……初めて……)
今まで手や口で達かされた事はあったが、ここまでの快感はなかった……
こんな快楽を知ってしまったら……もう、戻れなくなってしまう……
通常の人間は、初めてでここまで気持ちよくなれるものなのか……?
(……そう、か……これが、私の…初めてになるのか……)
何となく気恥ずかしいな…と考えていたところで、ふと気付く。
(あ……まだ、三日月のが…内に…)
お互いに達して身体の熱が治まった二人だったが、三日月の雄はいまだに面影の内に収まっていた。
「三日月……その、そろそろ……」
「ん?……そうだな…では」
ぐりっと、萎えた筈のそれを相手は抜くどころか、面影の媚肉に擦りつけ始めた。
「そろそろ、二戦目にいくか…?」
「……え?」
二戦目とはどういうことだ…と戸惑う面影に、三日月がくすくす笑いながら彼の身体を抱きしめる。
「…今までどれだけ俺が『お預け』を食らっていたと思っている? ようやく本懐を果たせたが、まだまだ足りぬ……今宵は眠れるとは思わぬ事だ、面影…」
「な……っ!!」
思わず身体を引いた若者だったが、既に挿入された状態では逃げることも出来ない。
まさかと脳内で現実逃避をしている間に、更に事態は彼を追い詰める方向へと向かっていく。
「あ…? お、お前……っ」
萎えていた筈の相手の雄が、再び自身の身体の内で質量が増していったのだった。
「うそ……また、大きく……っ!」
何もしていないのに…どんどん大きくなり、再び面影を内側から攻めてくる。
「んっ…はぁっ…あっ、そんな…っ、達ったばかり、なのに…っ」
そんなに激しくまた攻められたら……と戦慄く相手に、しかし三日月は容赦するつもりはなかった。
ようやく自分のものにした、自分だけのものにした…
「お前の身体に……俺を刻み込む……俺無しではいられぬ様に……」
「ちょっ…!」
末は淫乱刀剣男士か…!!と、断固拒否したい面影だったが、捕らえられ、挿入されていてはどうしても逃げられない。
それにまずいことに彼の言う通り、自分の肉体は早くも相手に懐柔されつつあるらしく、触れられ、愛撫されただけで簡単に応えてしまう……今も……
(この……絶倫じじい…っ)
せめてもの悪態を心でついたのを最後に、面影はそのまま三日月に抱かれ、意識を飛ばしてしまった。
初めての交わりそのものが、経験値として大きすぎたのだろう。
それから何度犯され、達かされたのか、最早数えることも出来ず……暁を覚えながら、面影は気を失うまで三日月に抱かれ続けていた………
翌朝…もかなり過ぎた頃……
「……腰が重い……お前の、せいだ」
昼も近いと言うのに面影はいまだに布団から抜け出せずもそもそと潜ったままで、隣で肘をつきながら楽しそうにこちらを見下ろす三日月を糾弾していた。
こうして部屋から出て行かなくても、二人が怪しまれる事は無い。
三日月は昨日遠征から戻ってきた事を鑑みられ、今日は一日自由時間を与えられていたし、面影は更にそれ以前の予定から、休日として今日を当てられていたからだ。
しかも朝餉の時間には、ちゃっかりと三日月だけが皆の前に姿を現し、『面影は今日はそのまま寝ていたいそうだ。すまんが、おにぎりを差し入れたいから作ってもらえるか?』と取りなしていた。
燭台切などは『体調が悪いのかい?』と心配していた様子だったが、『読書でつい夜更かしをしてしまったそうだ。念の為に今日は俺も部屋にいるので気に掛けておこう』と上手く取り繕って、皆の意識を上手く躱してしまっていた。
その場に面影がいたら、『誰のせいだと思っている!』と鮮やかな突っ込みが入った事だろう……
面影の言葉に、しかし向こうは何ら悪びれることもなく応じる。
「…鳴いてよがって達きまくっていた男の言葉とは思えぬな」
「っ!……だ、から…それも、お前のせいだろうっ……」
そうなのだ、抱いてきたのは相手だが、結局拒むこともなく応じ、快感に身を委ねたのは自分に他ならない……相手だけを責める訳にはいかない………
(本当に……この男の執着を舐めてた………そ、れに…あんなに絶倫だったなんて…)
じじいと自称しているのが信じられない……彼より若い筈の自分が先に根を上げてしまったというのに……受ける側の負担など立場の相違はあるのだろうが、それでも……
抱かれていた時の事を思い出し、面影が布団の中でうっすらと頬を染める。
(…あんなに………愛されていた……)
朦朧とした意識の中で見たのは、真っ直ぐに見つめてくる相手の真剣過ぎる程の双眸。
まるで戦に赴くように…命をそこに賭けるように…自分だけを真っ直ぐに見つめてきていた。
好々爺としての表情からは程遠い、あの男の別の一面を見せられ、面影は彼の本気を嫌でも思い知らされてしまった。
「………面影?」
静かになった相手を不思議に思い呼びかけた男に、背を向けたまま面影はぽそっと小さく応えた。
「……その…確かに……よ、好かった…」
「!」
照れながらの評価に一瞬瞳を大きく見開いた後…三日月は嬉しそうに微笑んで、まだ布団の岩戸に隠る相手に優しく囁いた。
「…お前も、最高だった……望むのならまたすぐにでも」
「調子に乗るな…!!」
即決で断る相手の焦った一言に三日月は楽しそうに笑い、それは明るくなった部屋の中でも朗らかに響いていた………