外出から戻った翌日のこと……
面影は、昨日の万屋で買い物をした折に頼まれていたものを無事に購入し、その成果を歌仙に手渡していた。
「おやおや、有難う。助かったよ」
「いや、こちらこそいつも世話になっているから、この位の事は喜んで引き受けよう」
昼のひととき、ゆっくりと居間でお茶を飲んでいた歌仙は、面影から荷物を受け取ると丁寧に礼を述べ、荷物の中身を確認し始めた。
メモ書きも受け取り、それに倣って購入していたので、大きな間違いは無いはずだが……
「ああこれは…僕としたことが」
不意に声を上げ、歌仙は小さく首を振った。
「!……何か不備があっただろうか?」
間違ったものを購入してしまったのかと不安げな面持ちで相手を見遣った面影だったが、歌仙はいやと苦笑して大丈夫だと断る。
「面影は何も間違っていないよ、僕がちょっと手を抜いてしまった様だ」
「?」
手を抜いた…?
常に完璧に…その仕事ぶりの中でも常に雅さを忘れない男が…?
不思議そうに首を傾げてみせた面影に分かりやすく説明する為に、歌仙は自分が相手に渡していたメモ書きを改めて見せた。
「頼んでいた物の中に指サックがあったんだけど…ほらこれ、僕が五、と数を書いているだろう?」
「ああ…」
確かに…と面影が頷くと、歌仙は渡された紙袋の中から指サックが入った袋を複数取り出す。
一つ、二つ……全部で五袋。
五……合っていると思うが……と首を傾げた若者に、歌仙はそうなんだけど…答える。
「これは五個もあれば十分だと思ってその時はそのまま書いてしまったんだね。でも、買ってきてもらった袋には五個は入っているみたいなんだ」
「…という事は…買い過ぎてしまったのか…」
本来ならば一袋買えば事が足りる筈だったのが、余分に四袋買ってきてしまったことになる。
自分も何の疑問も持たずに単純に五袋買い上げてしまった責任を感じて、面影は丁寧に歌仙に詫びを述べた。
「すまなかった。私も一度よく見て確認するべきだった」
「ああいや、面影は気にしなくてもいいよ。別に無駄になる訳じゃないからね、食材の様に腐るものではないのだし……そうだ」
何かを思いついた様に歌仙がぽんと手を叩き、指サックの入った袋を二つ取り上げると、それらを面影へと差し出した。
「?」
「君も最近はよく事務作業を手伝っていたよね。もし良かったら、あげるから使ってみるといいよ。人間の発明したものは本当に面白いものが多いね」
言われるがままそれらを受け取った面影だったが、実は使ったことがないものだったので、透明なビニル袋の部分から覗く指サックを興味深そうに眺めてみる。
カラフルで半透明な、キャップタイプの指サックである。
手指の第一関節まですっぽり覆う程度のそれには、ほぼ全周性に小さな突起が施されており、紙を捲るのに都合の良い形状の様に見えるが、この道具の用途すら知らない面影にとっては奇妙なものという感想しか湧かなかった。
元々の存在理由が戦いに特化した存在なのだから、新参者の彼がこういう面で無知なのは仕方ないことなのかもしれない。
「?…これは何をするものなんだ?」
「事務の際に使う書類を扱うのに便利なんだよ。こうして…」
自前のものになった指サックの入った袋を開け、器用に自分の指に嵌めた歌仙が、メモ紙を使って使い方を相手に教える。
単純な使用方法だったので面影はさして苦労もなくその使い方を理解し、貰ったばかりの指サックの袋を二つ手にして歌仙に向き直った。
「有難う、次の事務作業の時にでも使わせてもらおう……あ、代金は」
「気にしないでいいよ。大した金額でもないし、おつかいのお駄賃という事にさせてくれ」
にこ、と笑ってそう言ってくれた歌仙に面影は改めて礼を述べ、そこで彼は貰った袋を二つ手にして自室へと戻っていった。
数日後、タイミング良く、と言うべきなのか…
「面影、すまないが手伝ってくれないか? 政府に提出する予算案なんだが…」
長谷部が困った様子で、内番姿でゆっくりと縁側に座してくつろいでいた面影に話しかけてきた。
今日の午前中は馬当番だったが、特に問題もなく終わり冷茶で喉を潤していたところだった彼は、律義に立ち上がり、長谷部へと向き直って話を聞く。
「ああ、先日も提出期限がどうのと言っていたな……勿論、私で出来ることなら」
頷いた若者に、長谷部は助かった、と安堵した表情で書類一式を渡してきた。
「これらの収支が合っているかどうかを確認して、問題なければそのまま、万一間違いがあればそこに付箋を貼って返してほしい」
「その程度で良いのか? 手伝いの内に入らないが…」
「それでも確認する目が二つ増えるだけでも掛かる時間は格段に少なくなるんだ。間違いがあった場合はどの道俺が保管している書類が必要になるからな、戻してもらえたら十分だ。面影、お前の仕事は丁寧だから信頼できる。暇な業務かもしれんが頼む」
長谷部からの意外な評価に面影は一瞬目を見開き、それから嬉しそうに微笑んで頷いた。
「分かった。期待に応えられる様にやってみよう」
そんなやり取りの後、面影は預かった書類を手にしたまま自室へと一旦戻ることにした。
今は昼過ぎ。
午後は非番の日だったので、同じ様に暇な誰かを誘って鍛錬にでも行こうかと考えていたのだが、頼まれものを引き受けた以上はそれを完遂する事を最優先にするべきだろう。
居間で出来る作業でもあるが、集中するにはやはり慣れた自室で一人落ち着いて向き合う方が良いと、彼は自室に到着すると障子を開けてそのまま書机へと歩いていった。
書机は部屋に入って左側の壁に沿う形で置かれており、そこから右を見た壁には棚が誂えられている。
机の前に座る前にその棚へと寄った面影は、必要な文具が入った筆箱を取り出す時に、傍に置いていた或る物品に目を留める。
「……ああ」
そう言えば、こういうものを貰っていたのだった。
もう一度棚に手を伸ばして取り上げたそれは、数日前に歌仙からお裾分けという形で貰っていたあの指サックの入った袋だった。
(…無くても出来ない業務ではないが、折角貰ったのなら使ってみるか)
こういう機会がないと、自分で使おうとは思わない類のものだからな…と思いながら、彼はそれらを手にしたまま机の方へと向かう。
そして筆箱と一緒にそれらを机の左脇に置き、書類を机の中央に乗せ、座椅子に身を落ち着けた。
(こういう仕事は久し振りだ……どうしても私の立場上は実戦に駆り出される事が多いからな)
華奢な外見をしている面影だったが、彼が考えている事は事実である。
華奢ではあっても、彼は現在この本丸に在籍する刀剣男士達の中で唯一の大太刀。
その攻撃範囲と威力は戦場に於いては大きな戦力として期待されており、機動力も悪くはない。
この本丸に合流する前は単身行動を行っていた事もあり、逐一変化する戦場の状況を把握し即座に決断を下せる彼は、いつの間にか自分でも気付かない内に周囲の刀剣男士達に大いに頼られる存在になりつつあった。
しかしそこまで評価を受けていても、面影は自分の価値についてはまるで自負する向きはなかった。
「今から取り掛かったら夜には終われるだろうか……もし早目に届けられたら、また別の手伝いも引き受けられるかもしれないな」
もし刀剣男士達に夏休みという概念が存在したら…面影は間違いなく初日と二日目で宿題を全て終わらせるタイプだろう。
先送りするという考えなど微塵も思い浮かべる事もなく、彼は真面目に掛かる時間などを考えながら筆箱を開き、使い慣れた道具を出して並べていく。
そして、分けてもらった指サックの袋を開いて、歌仙に教えてもらった通り自分の指の人差し指と親指に付けてみる。
赤や青、一つ一つ色が違うそれらはゴムの心地よい弾力を指先に返してくる。
表の指の腹の部分には小さな六角形の粒状の隆起が無数に散らされており、試しに貰った資料の紙の一枚を摘まんでみると、確かに素の指先よりしっかりと捕捉する事が出来た。
(成程……これだけ確実に摘まめると確かに心地良いな)
確かに過去に同じ様な事務作業に勤しんだ際、なかなか紙を上手く捲ることが出来ずに若干焦った記憶がある。
時間としては何秒といった些細なものだったのだろうが、思い通りにいかない時に感じる時間は長く感じてしまうものだ。
その負荷から解放されるというのは、ささやかではあっても嬉しいものだと思いながら、改めて面影は真面目に作業を開始した………
熱心に計算をしながら書類の不備の有無を確認している最中…
「面影」
「………」
「面影?」
「………」
「………」
つんっ
「っ!?」
不意に背後から頭頂部を指先で優しく小突かれ、びくっと面影が背筋を反らしながら久方振りに顔を上げた。
「え……?」
思わず振り返ると、そこにはいつの間に入室していたのか、三日月が困ったように微笑みながら座してこちらを見つめていた。
彼の傍には盆の上に乗せられた二つの湯飲みと、同じく二つの茶菓子が乗せられた小皿が置かれている。
どうやら、今日の分のおやつを持ってきてくれたらしい。
「三日月……?」
「随分と集中していたな」
相手の仕事ぶりを評価しながらも、三日月はしかし…と首をゆっくりと横に振る。
「あまり根を詰めすぎてもいかん、ここらで少し休憩にしないか?」
「あ………す、すまない」
手にしていた書類から手を離し、面影は身体を相手の方へと向ける。
「…全く気が付かなかった……声をかけてくれていたのなら、非礼を詫びる」
頭を下げて詫びる相手に、いやいやと三日月は朗らかな笑みを浮かべて顔の前で手を振った。
「返事がなかったので勝手に入ってしまった俺も悪い……まさかとは思ったが、体調でも崩していないかと不安になってしまってな。何事もなければそれで良い……頼まれものか?」
「ああ、長谷部から、収支の計算の確認をと」
説明しながら面影は身体を机の脇へと移動させ、書類を片付けた後に相手が持参してきた湯飲みなどを机の上に乗せる。
そして相手にも机の隣に座るように促し、二人は机を脇に向かい合う形で落ち着いた。
「わざわざ持ってきてくれて有難う…もうそんな時間だったのだな」
「時間に正確なお前がいつまでも来ないからどうしたかと思ったら、長谷部が仕事を頼んだからもしやと言っていたのでな…はは、当たりか」
「早目に済ませられたらそれに越した事はないと思ったから、つい……」
胸に手を当てて苦笑いする面影に、うんと三日月が頷いた。
「よいよい、お前の、そういう全てに対して真面目に取り組む姿勢は非常に好ましいと思うぞ。皆もお前には全幅の信頼を置いている様だ」
「それは…皆が私を支えてくれるからだ。それに……三日月に戦術など教えてもらっていることも大きいのだろう」
常に周囲の仲間に感謝の意を示す面影は、目の前の男にも惜しみない賛辞を贈る。
三日月宗近
千年を超える年月を生きてきた、刀剣男士達の中でも揺るぎない信頼を寄せられる男である。
齢千を超えるとは言え、刀剣男士である以上は前線で戦うこともあるという事実故なのか、顕現したその姿は実に若々しく、何も知らない人間が彼が自身を「爺」と評しているのを見ても、悪い冗談だとしか思えないだろう。
しかし、あくまでもそれは見た目の話。
話してみたら、「確かに爺だ」と納得出来る一面も見えてくるのだが……
そんな男は、実は面影にとっては様々な意味で重要な存在なのである。
周囲の刀剣男士達の視点では、筆頭近侍である三日月は新参者の面影の『保護者』且つ『指導者』であった。
戦い以外では何も知らない『幼子』の様だった彼に、本丸という場所で集団生活を送るにあたり様々な「常識」を教示したのもまた三日月だったのである。
他の男士達も決して面影を放置していた訳ではないのだが、本丸に一番長い時間待機していた三日月が最もその役に適していたという事と、三日月本人がいたく面影を気に入り、戦闘時以外はほぼ連れ回していたというのが主な理由だ。
そして……誰にも知られていないもう一つの関係性……
それは、三日月が面影をただの戦力としての存在としてだけでなく、その人格を含めた存在そのものを何よりも愛しており、面影も同じく三日月を心底慕っている……所謂、恋仲であるという事だった。
ただのモノであった自分達では抱くことのない、人と同じ『感情』を持つようになったからこそ、繋ぐことが出来た縁。
まさか自分がこの様な縁を、この美しい神と結ぶことが出来るとは……
「どうした?」
不意に呼びかけられ、面影ははっと我に返った。
つい三日月に見惚れていた男は慌てて顔を俯けたが、うっすらと顔に朱が差してゆく。
(しまった……つい、見惚れてしまった……)
明らかに自分を意識している様子に三日月は何処となく嬉しそうな表情を浮かべていたが、そんな相手の姿には敢えて触れずにお茶を飲むよう促した。
「ほら、冷めないうちに頂こう」
「あ、ああ…」
促され、湯飲みに手を伸ばそうとしたところで、面影は自分の指にまだ指サックが嵌められている事に気づき、器用にそれを外したが、その光景を見ていた三日月が首を傾げる。
「? それは何だ?」
「あ…これは、歌仙に譲ってもらったんだが…」
先程、三日月に見惚れてしまった照れ隠しもあったのか、つい面影は饒舌になって三日月にそのグッズについての説明を始めた。
「……ほぉ…歌仙に」
歌仙から譲ってもらったものだと知らされた時…ほんの一瞬、三日月が目を眇めたが、机の上の指サックを見ていた面影はそれに気づくことはなかった。
「私の不手際でもあったのだが、笑って許してもらった上に幾つかを譲られたんだ。今日初めて使ってみたのだが、使い勝手が良くて、これからも重宝しそうだ」
「…………ふむ?」
そんな事を話しながら面影は三日月と共にひとときの休憩時間を過ごしたが、珍しい事に、相手が時折、曖昧な返事を返すことに違和感を感じる時があった。
万屋で買い物をした時の…その品物についての話題の時だった気もするが、どうにもはっきりしない。
ほんの僅かな違和感でもあり、指摘する程にあからさまなものでもなかった上に、疑問を感じた次の瞬間にはもう相手はいつもの朗らかな笑顔を浮かべているので、追及するタイミングも完全に逸していた。
(…私の思い違いだったのか…? 見た感じは、全くいつもと同じ彼だが…)
そんなこんなで気分転換も出来たところで、面影は湯飲みと小皿を盆に乗せて厨へとそれを戻しに行った。
そして再び自室へと戻ると、三日月はまだその場に留まっており、先程説明を受けた指サックを自らの指に嵌めて様々な角度から眺めていた。
「? 気になるのか?」
「面白い触感だ…」
まるで新しいおもちゃを与えてもらった子供の様な顔で呟く三日月に苦笑しながら、面影はさて、と机の前に座りなおす。
彼が厨に向かっている間に、仕事を邪魔しない様にという配慮からか、三日月は相手の座椅子の後ろへと場所を移動していた。
「…?」
座って、さて作業を、と思ったところで、机上に置いていた筈の指サックが一つも見当たらない事に気づく。
袋に入っていた分も含めると、十個はあった筈だが……もしかして全部、三日月が手にしているのか?
「みか……」
それは全ての指に嵌めなくても良い、という事を伝えようと、振り向いて声を掛けようとした面影だったが………
するり……
座椅子の背後、両脇から伸ばされた相手の手が、ジャージの下のシャツの中に潜り込んできた。
「……っ!?」
突然の不意打ちで阻む事も出来ず、面影はあっさりと相手の侵入を許してしまった。
向こうの手は、硬直してしまった面影の隙を突いて彼の柔肌の上をまさぐり始めたが、いつもと明らかに違う触感に若者が動揺する。
いつもの滑らかな相手の指ではない…いや、明らかに肌の上を這いまわっているのは相手の指に違いはないのだが…いつもより抵抗が大きくて、ざらついている感覚がある……
「あ…」
思い当たるところに行きつき、面影は声を漏らした。
先程、自分が指摘しようとしていたあれだ……指サック…
全部無くなっていたのは、やはり彼が全ての指にそれらを嵌めていたからなのか。
しかし!
単にそれらを指に付けて感触や書類を弄って遊ぶ程度ならまだ良いが……明らかにこの指達の動きはそうではなく、いかがわしい目的を持っている様にしか見えない。
しかも……まだ太陽が昇っているこんな昼日中から……!?
「だっ……だめだ、三日月…っ」
明るい内からそういう事はすべきではないと必死に身体を捩った時、全くの偶然で相手のどれかの指先が、かりっと面影の右の淡い果実を掠った。
「…っ!!」
いつもとは違う、初めての感覚にびくっと激しく面影の全身が戦慄く。
(なに……っ…今の…)
滑らかな皮膚とは違う、無数の小さな突起が連続で敏感な皮膚を擦っていく衝撃は、若者にとっても小さくないものだった。
「………ふむ?」
笑みを含んだ後ろの男の声に、ざわっと全身の皮膚が粟立つ感覚が生じる。
今の相手の声……間違いなく、自分の反応を確認してからのものだ。
まるで、興味深い、面白そうな何かを見つけた時に零したような声だった……そうなると相手が次に取るだろう行動は……
「い…いやっ……」
想像した面影が首を振ってそれを拒否しようとしたものの、向こうは無論聞く筈もなく、明らかな目的を持って、彼の左右の指が両胸の小さな果実に押し当てられた。
こり……こり……っ
「んっ…あっ!」
二つの指が、正対称に渦を描くように蕾の上で緩やかに円を描き、それに伴ってサックの突起達が連続してその頂を擦り上げてゆく。
ある程度の弾力を備えた感触と、小さな疣(いぼ)が連続してもたらす感覚に、面影の身体が瞬く間に反応を示し始めた。
触られた蕾は二つとも固くぷくりと勃ち上がり、その頂から全身に快感が走ると共に、それは身体の中央へと集まっていく。
「だめ……このまま、じゃ……」
快感と共に熱が中央に集まっていく感覚を覚えて、面影はそれをやり過ごすように腰をくねらせ、ああ、と艶やかな吐息を吐き出す。
駄目だ、流されてしまう……いつもの様に……
まだ抵抗するべきか、それとももう流されてしまおうか……そんな葛藤が男の心の中で生じたその時…
『面影、いるかな』
不意に障子の向こう…廊下から聞こえてきた声に、今度こそ面影はびぐぅっと身体を硬直させた。
今の声は………歌仙!?
歌仙は、一度面影に外から呼びかけ……暫しの時間をおいて、すっとその障子を開いた。
「…おや」
そこで歌仙が見たのは、机の前に座っている面影と、その背後で手を掲げて自分の指に嵌めた指サックを眺めている三日月の姿だった。
「…歌仙? 何か?」
ふ、と顔を上げた面影はいつもより感情を打ち消した様な表情だったが、特段変わった様子も見受けられなかったので、歌仙は続けて三日月へと視線を移した。
「…何だい三日月、それ、全部の指に嵌めているのかい?」
「うむ、面影が使っているのを見てな、試させてもらっている。なかなかに面白い感触の物だなぁ」
手を握ったり開いたりを繰り返しながらそう言う男に、歌仙はやれやれと苦笑して、先程、面影が言おうとしていた台詞を言った。
「それは全ての指先に嵌めなくても良いんだよ。あんまりはしゃいで面影を困らせたらいけないよ?」
そして彼は改めて面影へと顔を向け、ここに来た目的を告げる。
「面影、すまないが力を貸してくれないだろうか。納屋で移動させたい道具があるんだが、僕だけではどうにもならなくてね。人手が欲しいんだ」
「あ、ああ…今から向かえば良いのか?」
「他の場所も片づけないといけないし、出来たら早めに済ませたいから頼むよ。先に行っている」
そう言い残して、歌仙はしゅっと障子を閉めて静かな足音と共に去っていく。
「…………」
頼まれた以上は行かなければならない……と面影が立ち上がる。
図らずも三日月の悪戯は阻止できたが……何となく相手の周囲の空気が沈んだ気がする。
「……三日月?」
「……少々…面白くないな」
「え?」
「お前の興味を俺から逸らすのは、誰であっても……」
言いながら、同じく立ち上がった三日月は自分の指から全ての指サックを外し…それらを面影の手に握らせると、ひそっと耳元で囁いた。
「今宵は、これを持って俺の寝所に……」
「…っ!!」
宵時に好き好んで人を呼んであれを使う様な事務作業を行う相手ではない。
彼が夜に自分を寝所に呼ぶのは……目的は常に一つだけ。
なのに、わざわざこれらを持って来いと言う……思わせぶりに、耳元で二人だけの秘密を囁く様に…
その真意は………
「……良いな?」
「~~~~!」
改めて囁かれた相手の甘い声に腰が砕けそうになるのを必死に支えながら、面影はこくこくと反射的に何度も頷いてしまっていた。
それが己も望んだ事だったのかどうか、最早分からない。
しかし、拒絶しなかったという事は……先程の三日月が仕掛けてきた悪戯は…嫌では、なかったのだろう。
認めるしかないのだが、羞恥で認めたくない…そんな若者の心を読んだのか、三日月がくす…と小さく笑みを零して囁いた。
「……それまでは、お預け、だな。良い子にしているのだぞ」
思わせぶりな言葉を残して、三日月は面影の部屋から去ってゆく。
「………」
その背中を見送り、何かを振り切る様に、面影もまた歌仙が待っているであろう納屋へと向かった。
その夜
全ての任務を終え、刀剣男士達が人と同じように眠りに就くべく自室に籠る時間帯…
浴衣に着替えた三日月は、手元の行燈の光を頼りに、書机の前で書に目を通しているところだった。
本丸には大きな書蔵庫が在り、そこに数多ある書物は正当な手続きを踏めば借りる事が可能である。
常日頃からその場所の愛用者である三日月は、この日も借りて来た書物の一つを広げて知見を拡げようとしていた。
千年を生きて来たとは言え、安穏と過ごすだけでは何も生まない。
知識を得るには行動を伴わなければならないのだ。
過去、まだモノとして殿上人に所持されていた時には、彼と仕える人々の会話などから世の流れを読んだものだった。
それとて、あくまで受動的に得られる知識に過ぎない。
しかし付喪神となった時から、自身の知見は一気に広がりを見せた。
知ると言うのは素晴らしい事だ。
知れば知る程に、己に関わる者達を救う手段も増えてゆくのだと……
そんな愚かしい、増長した思いを持っていたのは僅かな期間に過ぎなかった。
知れば知る程に、思い知らされたのは己の無力さ……
神となっても、手を伸ばし救えるものはほんの僅かに過ぎないのだと思い知らされた。
それでも…自分は手段を増やすためにこれからも学び続けるだろう。
救いたいものを救うため
そして最も救いたいあの者を……永劫に己の手の中に留める為に……
「………」
ふと、行燈の炎がちろりと揺らぎ、何者かの気配を感じた三日月が顔を上げる。
よく知る者の気配……己が最も執着している者の気配だ。
それを感じ取るだけで、心が高揚してくるのを抑えられない。
口元が緩むのをこらえつつ、三日月がすっと立ち上がって自室の障子の方へと向かっていくと、丁度そこに着いたところで向こうから遠慮がちに声が掛けられた。
『……三日月…いる、だろうか…?』
「…うむ」
察していた通りの人物の声に返事を返し、すっと滑りの良い障子を開ける。
行燈の灯りが届くか届かないかのその場にて、うっすらと幽玄な姿で浮かび上がっていたのは、自らと同じく浴衣に着替えていた面影だった。
やや恥ずかし気に俯けられた顔は、いつも此処をこの時間に訪れる彼の癖の様なものだ。
何度此処に来ても、何度甘い時を過ごそうと、その初々しさは決して失われる事は無い。
それが彼の振りでも何でもない本心である事を読めてしまうが故に、三日月は此処で彼を迎える度に、愛おしさが込み上げてくるのを止められなかった。
「来てくれたか…」
そっと相手の肩に手を置いて部屋に迎え入れようとした瞬間、ぴくっと面影の肩が細かく震えるのが伝わってきた。
「……」
いつになく過敏な反応を返してきた想い人に、三日月が首を傾げて相手を覗き込むと、そこには闇でも分かる程に上気した顔の相手が瞳を潤ませた姿があった。
「面影?」
「っ!……なんでも、ない…っ」
何でもない筈がないだろう、と突っ込みたい程にその声には熱が籠っている。
それを必死に取り繕おうとしている様子の相手に、暫し三日月は沈黙し……思い当たるところがあったのか、微かに口元を歪めて彼の耳元で尋ねた。
「お預けが少々長かったか…?」
「~~~!」
更に顔が赤くなった面影が何かに耐える様にぎゅっと瞳を固く閉じ、それを是と受け取った三日月は、相手の肩を抱いたまま部屋へと招き入れて障子を閉めた。
既に誰も周囲には居なかった筈だが、外の空間から隔離された事でようやく気が抜けたのか、面影がきっと相手の男をきつく見上げて責め始めた。
「お前が…っ…昼間からあんな事をするから……っ」
「はは、すまんすまん。まさかお前が部屋まで来て呼ばれるほど人気者だとは思わなかったのでな」
「そういう問題では…っ」
「だが…」
声のトーンを落として三日月が一言…
「……好かった、のだろう…?」
「っ!」
「……歌仙から譲ってもらった道具で、胸をまさぐられ、蕾を弄られ…罪悪感を覚えながらも感じたのだろう…この身体が…」
「あ……っ」
背後からぎゅうと抱きすくめられ、動けなくなったところで更に三日月の言葉が耳元で続く。
「……途中で止められて、さぞ辛かっただろうなぁ……火照る身体を持て余しながら、今日は何度俺の事を思い出してくれた…?」
問い掛けと言う形で、面影はその日の記憶を呼び起こされた。
そう、昼間に歌仙に呼ばれた後で、確かに自分はすぐに納屋に向かい相手を手伝った。
それからも何かとあった片付けなど雑用を手伝うなどして、本丸の役に立つべく動いていたのだ。
表向きは飄々と、何でもないという顔をしながら…
しかしそうやって取り繕いながら、その裏では誰にも知られてはならない苦痛に苛まれていたのだ。
苦痛とは言うが、痛みとかそういう類のものではない。
それが生まれたのは、三日月の悪戯が原因だった。
あの指サックで胸を弄られた時から、自らの身体の内に火が灯された…情欲という名の火が。
その火はおそらく、三日月の悪戯が最後まで達成されたところで鎮まる筈だったのだろうが、それが歌仙の来訪により阻まれてしまったのだ。
そのまま火は消えず体内に潜んだまま、面影は三日月の手から離れざるをえなかった。
仕事に集中していたらいずれ火は治まるかと思っていたが、一向にそういう気配はなく、弄られた箇所からずくずくと耐え難い疼きが絶え間なく湧き上がってきた。
触れたい…と思ったが、触れたが最後歯止めが利かなくなりそうで必死に耐えた。
耐える度に、この疼きを治めてくれただろう三日月の事を思い出し、それがまた新たな火種を生んでゆく。
正直、夕餉が終わって自室に一度戻った時には、これからようやく解放されると心は逸り、入浴後に着替える為に動く手は忙しなかった。
出来ることなら夕餉を食べ終えてすぐにでも三日月の部屋に向かいたかったのだが……それが出来なかったのは……
「…持ってきたか?」
尋ねられた言葉にびく、と身体を戦慄かせた面影は、無言のままにゆっくりゆっくり自らの袂の奥に手を入れ、そこから二つの袋を取り出した。
三日月の元に直行出来なかった理由。
あの指サックを入れていたそれらを三日月に渡すと、彼は中身を軽く見遣って頷いた。
「忘れずにちゃんと言う事をきけたな……良い子だ」
ぬるり……
「ひぅっ……」
後ろの首筋に滑らかな感触が走り、思わず声が上がる。
約束を忘れずにそれらを持参したことへの褒美だという様に、三日月の紅い舌がゆっくりと面影の首筋を下から上へ向かってなぞり上げていた。
「あ………あ……」
「…熱いな……」
舌に伝わる相手の肌の熱に、唇を離して三日月が呟き、ぐいと相手の腰を抱いて移動を促す。
「ちゃんと我慢した分、気持ち良くしてやろう…さぁ、おいで」
その元凶になったのも彼の筈だったのだが、既に思考が朦朧となりつつあった面影はそれを糾弾する余裕も意思も持てないまま、相手に促されるままに共に移動し、気が付いたら彼の寝所の布団の上に座らされていた。
「……こちらを向いて」
相手は己の背後に同じ様に座り、そっと顔に手を添えると横を向くように促してそのまま背後から唇を塞いできた。
「ん………」
柔らかい唇の感触を感じて、小さな火種が燻っていた身体にいよいよ鮮やかに炎が上がった。
いつもならば三日月が先導する事が多いのだが、これまで長く耐えてきた反動か、面影の方から珍しく積極的に唇を押し付けてゆく。
「あ………は、ぁっ……か、づき…」
「…ああ…此処にいる…」
呼ばれた男は薄く笑みを浮かべながら、相手の激しい口づけを受け止め、宥める様に答えた。
そして、相手の要求に応える形で面影の口中を激しく犯し始める。
ぬるぬるとした二つの舌が絡み合う度に大きな水音が響き、それが更に面影を煽っていき、行為に夢中にさせてゆく。
頭の中が真っ白の状態で、どれだけの時間、口吸いを続けていたのか…
久し振りに三日月が唇を離して相手を見ると、向こうは真っ赤になったまま唇をだらしなく開いて舌を覗かせ、端から唾液を流しながらこちらを潤んだ瞳で見つめていた。
明らかに欲情している様子の相手に、三日月がそ、と例の指サックを付けた己の指を見せつける。
どうやら口吸いの間に付けていたらしいそれらを見て、明らかに面影の瞳が大きく見開かれ、身体が強張るのが分かった。
「…どうした? 楽しみにしていたのだろう…?」
「あ……」
背後の三日月が、くいっと面影の頤を背後から上向かせ、上下反転した格好で上から唇を塞ぐ。
限界まで頤を上向かせられた姿で面影は相手の口吸いに応えていたが、その間に三日月が彼の共衿を掴んで大きく開いて前をはだけさせると、するりと両手を胸に這わせ始めた。
「ん…っ!……ふぅっん…!」
指サックを付けた十本の指先が、さわさわと白い肌をからかうように蠢く度に、びくびくと面影の肩が揺れるが、唇を奪われたままなので顔を下へと向ける事は叶わない。
視界を塞がれる形になり、相手の指がどういう動きをするのか全く読めない状態で愛撫を受ける事で、却って反応が過敏になっている様だった。
ちゅ、ちゅ…と軽い音が響く中、三日月は胸の二つの蕾をゆっくりと可愛がり始める。
昼間に受けた悪戯からまだ解放されていなかった蕾達は、触れる前から既に固く勃ち上がっており、まるでこちらを誘っている様に震えていた。
両方の蕾を同時にサック越しに摘まみ上げると、一際大きく面影の肢体が跳ねた。
「んん…っ!!」
ぎゅうっと三日月の両腕を己のそれぞれの腕で掴みながら、面影は瞳を固く閉じて塞がれた唇から艶めかしい声を漏らす。
(すごい……感触が違うせいだけじゃない…見えないから…いつもより感じてる…っ)
次はどんな感じで触れられてしまうのか……そう考えるだけでどきどきしてしまう。
「また感じ易くなったのではないか? お前のココは………ふふ、それともこのオモチャのお陰かな?」
摘んだ指先を擦り合わせる事で、幾つもの小さな疣がしゅり、しゅりと敏感な蕾を二つ、幾度も往復しては刺激していく度に、面影の身体が陸に揚げられた魚の様に跳ねる。
それからも、指サックを嵌めた三日月の細い指先は、自由自在に面影の胸を這い回り、疣の刺激を利用しながら面影の性的快感を確実に高めていった。
擦り、捏ね回し、引っ張り、圧し潰し、弾き、くすぐって……
「んあっ! あっ、はぁっ!」
胸の快感に意識を持っていかれたかと思えば、今度は口の中にたっぷりと唾液を注ぎ込まれてそれを飲み下し、そして身体の中心の昂りがもたらす快感に溺れて腰を振る。
しどけなく投げ出された形の面影の両脚は、重なり混ざり合う快感に悶え蠢いたせいで浴衣の衽を大いに乱し、本人が気付いていない内に隠していた股間を露わにしてしまっていた。
外気に晒されたらその影響で気付きそうなものだが、今の若者は視線を拘束され、三日月の唇と指先から絶え間なく熱を与え続けられていたため、自分の状況を全く把握できていなかった。
自らの雄が天を仰ぎ、解放を待ち望んでぴくぴくと揺れる様を三日月に見つめられているという事実すらも………
「ああ……可愛い…面影」
或る意味、男性に対しては侮辱的ともとられかねない称賛かもしれないが、その呟きが本心から出たものなのだと分かってしまうからこそ、負の感情など抱ける訳もなく……
「ん…っ…三日月…みかづきぃ…っ、あっ…好い…い、い……もっと…」
甘える様に唇を求めてくる面影に応えながら、更に三日月は赤く腫れた相手の乳首をくりくりと弄り回す。
今や、じんじんと痛い程に感じ切ってしまっている果実たちの周囲を囲む淡い色の園までもが、なだらかな膨らみを見せる程に反応を示していた。
そこを一層の刺激を与えて翻弄してくる三日月に、腕に縋りながら面影が訴える。
自分の身体の事なのに信じられない…けれど、この高揚感は…間違いない……!
「ああ、だめ……胸だけ…でっ、あっ…! 達、きそ……! あ、達く、いく、ぅっ!!」
直接触れられていないにも関わらず、己の雄が一気に限界に近づき、頭を激しく震わせるのを感じ、声を上げる。
胸の刺激が男根に向かい、そこに熱を注ぐような繋がりが身体の中で構築されたかの様だった。
「ふふ……ああ、良いぞ、さぁ、望むままに達ってしまえ…」
堕落へ誘う悪魔はきっとこういう声を、姿をしているのだろう。
人の警戒心をその美貌で溶かし、誘うこの手は間違いなど無いのだと優しく触れて……
そして……後戻りが出来ない、忘れる事が叶わない快楽を魂にまで刻み付けてくる…!
「あっあっ、ああああ~~~っ!!」
全身を小刻みに震わせながら、脚を指先までぴんと突っ張り、面影はその瞬間を迎えた。
落ちていきそうな感覚に抗う様に必死に三日月の腕を掴み、声を上げる若者の雄が、天に向かって白濁を迸らせる。
淫らでありながら美しいその姿は、いつもの如く三日月を大いに魅了した。
びゅくっ…びゅくっ…と断続的に精を吐き出した後で、くたりと脱力して凭れ掛かる若者の身体を受け止め、彼は苦笑しながら囁いた。
「胸だけで達ったのか……まだまだ、これからも好くしてやるぞ?」
ぐい……っ
「え……っ?」
力がまだ入らない状態の相手の身体を一度布団の上に寝かせると、三日月は彼の足側へと移動し、その間に身体を割り入れ、ぐいっとその両脚を大きく抱え上げた。
そしてそれらをそのまま面影の体幹側へと持ち上げて倒してゆき、丁度、子供がでんぐり返しをしている途中の様な格好を取らせると、膝を曲げさせ自分の肩へと掛けさせる。
見方によっては、首を支点にしてM字開脚を取らせた感じになるのだが、これは当然、面影にとっては到底受け入れられない姿であった。
「あっ! い、いや、いやぁ!! だめ、下ろして三日月ぃ!!」
彼がじたばたと必死に抗ってその姿から逃れようとするのも尤もだ。
単純にその格好が滑稽だからというだけではない、今の自分は浴衣の下には何も身に着けていない状態であり、その股間部分が相手の目前に晒されている態になっているのだ。
雄のシンボルも、二つの宝珠も、その後ろに隠されているべき秘密の蕾までもが…
これで平常心を保てる者はいないだろう…少なくとも羞恥心というものを持っている存在ならば。
しかも、見ているのがあの美しい蒼の月の化身とも言うべき男なのだ、面影は激しく狼狽し、いつになく必死の抵抗を試みた。
「お願いだ、見ないで、くれ…っ! 足…下ろして…っ!!」
「いつになく頑なだな…」
「あ、たり前だっ…! こんな格好…!」
「静かに……すぐ、好くなる」
ちゅく……っ
「ひぅっ……!!」
後蕾の表面を濡れた滑らかなものでなぞりあげられ、面影の喉の奥が鳴る。
初めての事ではなかったのでその正体はすぐに察する事は出来たが、こんな格好でそういう行為をされるという事実は、やはりすんなりと受け入れる事は出来なかった。
「だ、め……こんな格好でそんな…っ」
「…だめ、ではないだろう?」
面影の秘密の場所を舐め上げた三日月は、ぺろっと悪戯っぽく舌を覗かせつつ相手の発言を訂正する。
言葉では拒絶していても、身体は素直にこちらの行動に反応してくれる。
その何よりの証として、今も、舐められた場所は滑らかに濡れつつ、ひくひくと嬉しそうに痙攣を続けていた。
「お前のココは……好いと言っている」
尖らせた舌先をその秘密の窪みに捻じ込みながら、三日月は指サックを嵌めたままの人差し指を脇から穴の奥へとゆっくりと差し入れる。
「あ、ああああ……っ」
既に幾度となくそこへ相手を迎え入れた事のある身体が、素直に指も舌も受け入れる様にやわやわと蠢き始めるのを、本人の面影も敏感に感じ取って声を上げた。
(い、や…っ、あんなので内側擦られたら……)
思っている傍から、その悪戯を企む指の一本は男の舌の助けを借りて、あっという間に根元まで埋まってしまった。
そこまでは奥へ進む一方的な動きだったのでまだ良かったが、そこからいよいよ三日月が面影の身体の内を乱していこうと蠢き始めた。
いつもの細く滑らかな男の指の感触ではなく、爬虫類の皮膚の様に疣が目立つゴムのそれが敏感な粘膜を擦り始めた途端に、只でさえ不安定な姿勢を取っていた面影の身体が一層激しく揺れ始めた。
「ひああぁっ!! あっ、あっ! だめ、それっ! すごっ、すごすぎ…からぁっ!」
正直、ここまでとは思っていなかった。
身体の内側、己も触れた事もない秘された場所の粘膜を、あの性状の物に擦られるというのはここまで『好い』ものなのか……
「ああ……嬉しい反応だ、そうか、そんなに悦んでくれるか…」
面影の体動によるものだけではない、埋め込んだ指をきゅうきゅうといつにも増してきつく締め付けてくる内側からの反応に、三日月は唇を歪めて更に指を増やしてゆく。
「では、もっと好くしてやろうな…」
「あっ…!! そ、れは……っ、あああんっ!」
更なる快楽を求める欲望と、それを受け止め切れるか分からないという恐怖。
今ですらこんなにも翻弄されて声も抑えられていないというのに、指が増えて更に刺激が増していけば、自分はどうなってしまうのだろうか……?
そんな事を快楽で思考が鈍った頭でぼんやり考えている内に、相手の指が二本に増やされ、それぞれが思うままに内側を蹂躙し始めていた。
「い、ああっ! やぁっ! そ、んな、はげしくうごかさな…っ…!! ふぅぅんっ!」
指が単純に二倍になれば快楽も二倍に、という話ではなかった。
互いに干渉しない不規則な悪戯の中で、蒼の男は時折狙ったように面影の男性の弱点を擦って来る。
そしてそんな悪戯に踊らされる中で、三日月の舌と指が鳴らすぐちゃぐちゃとした蜜音が耳まで犯してきた。
自らの体内から滲み出た粘液がもたらす音が、己の浅ましさを顕している様で顔が熱く赤くなってしまう。
「う…っ…あ、ああ!……ん……や、ああ……っ、あっ、そこ…」
そして、紡ぐ声に艶が混じり始めたのを自覚しながら、面影はそれを止められなかった。
それどころか、ついさっきまで己のあられもない姿勢に抗議していたのに、今はもうそれ以上に相手から与えられる快感を貪欲に求めてしまっていた。
自分ではどうしようもない身体の奥が、熱くて疼いて切なくて、どうにかしてほしいと縋り付きたくなってしまう。
あの無数の疣が奥の粘膜を擦り上げ、その粘膜越しに男の弱点である器官を執拗に責めてくる度に、恥ずかしい程に強く淫らな動きで彼の指を呑み込み、奥へ引き込もうとする内を止められない。
「お預けがそれ程に辛かったか…? ふふ、ほら、ご褒美だ…」
ぐちゅり……
「っあ!」
三本目の指が秘孔に突き入れられるのを感じ、声を上げた直後…
ちゅくっちゅくっちゅくっ…!
「あ、ああああっ!」
指サック越しに己の雄を握られ、激しく擦られて嬌声を上げ…更に、
ぺちゃ…ぴちゃっ……
「〜〜〜っ!」
その下で揺れていた二つの宝珠に舌を這わせられ、ねっとりと舐め上げられ息を詰めてしまった。
(こんなっ…! こんなのだめっ! 好すぎて、狂う! 狂っちゃ……!)
衝撃を受けた一瞬だけ声を失ったが、その後も同じ愛撫を続けられ、面影は身も世もなく乱れ狂った。
「ああああんっ!! あっあっあっ! み、かづき、だめ、だめっ! ああ、そこぉっ! 好すぎて狂っちゃう! ひぅうんっ! ああ奥ぅ…オ○ン○ン、みんな溶けちゃ、うっ!」
「ああ……お前の声も身体も…こんなにも俺を狂わせる……ん…」
指を使っての悪戯は一向に止む気配はなく、寧ろ三日月は相手の宝珠をまるで捕らえた獲物を玩ぶかの如く、はむはむと優しく甘噛みまでしてきた。
「ああ〜〜っ! そ、んなこと、されたらぁ…っ!!」
溜め込まれていた精の集まりが一斉に上がって来るのを感じて、思わずそちらへと視線を遣った面影がはっと目を見開いた。
眼前に広がる光景。
口淫を行う男のそれでも憎らしい程に美麗な顔と、彼が握り込んで弄り回している自らの岐立…その先端は真っ直ぐに自分の方へと向けられている。
限界が近いという事を示す様に、その先端の窪みがぱくぱくと淫らな開閉を繰り返しているのを見て、これから起こる事を予測した面影がいやいやと頭を振った。
「い、いやっ! これじゃ…自分の顔に…っ、かけちゃうっ!! だめっ! 三日月、足、下ろし、てっ!」
まさかそんな淫猥な姿をこんな間近で見せる訳にはいかないと狼狽えた若者だったが、対する相手の答えは……
「…っ!!」
ぐいぃっと更に身体を押して屈曲させ、より男根とその端正な顔を近付ける事だった。
「み、かづき…!?」
そして自分の脚の間から顔を覗かせていたその男は、一時口での奉仕を中断し、明らかに欲情した瞳でこちらを見据えて言い切った。
「……見たい」
「そ、んな…っ!! だめ、お、ねがいっ!」
相手の男が見つめる前で、後孔と若竹への疣を使っての責苦がより一層激しくなり、抗いも虚しく面影はあっという間に絶頂に向かって追い詰められていった。
「あああ、こんなっ…! はぁぁっ! いや、射精るっ、射精ちゃうぅっ!! 見ないでっ、あぁ〜〜っ!」
どぴゅっ! びゅくっ、びゅくんっ! びゅるっ……!
開かれた小さな零口から、勢いよく、白い樹液が細い線を宙に描きながら面影の麗しい顔に注がれる。
その熱と勢い、濡れた感触を顔面で受けながら、射精の快感に若い身体は震え悶えた。
(ああっ、いやぁぁ! こんな、にっ、かけてるっ、自分の顔に…やらしいミルク…っ)
頬にも、鼻尖にも、嬌声を上げていた際に開かれていた口の中にさえも、樹液は長く降り注ぎ、その全てを白く彩っていく。
三日月の刺す様に鋭い視線の中、視られてしまっているという事実に面影の心に湧き上がったのは激しい羞恥と……それを上回る快感だった。
(どうして……こんなに恥ずかしい姿をみられてしまってるのに、身体がゾクゾクして…っ…うそ……悦んで、る…?)
死にたい程に恥ずかしいと思っている…のに…もっと、見られたいと願っている自分……これは……
「面影……」
「っ!?」
混乱している最中に呼びかけられ、はっと意識を戻すと、相手がこちらの脚を肩に乗せたまま膝立ちになり、ゆっくりと面影の背面上部を布団の上へと乗せる様に位置移動を始めていた。
その移動中、相手のはだけた衽の向こうに大きく成長し切った分身が天を仰いでいるのが見えた瞬間、どくんと面影の身体の奥から何かが湧き上がる。
(……っ……何度見ても…す、ごい……)
欲しい……欲しくて堪らない……
あの雄々しいもので……荒々しく内の内まで突き込まれて、激しく犯されたい……!
「はぁ………っ」
目を潤ませ、飢えた獣の様に舌を覗かせながら熱い吐息を漏らしたところで、面影は我に返って赤面した。
「そんな目で物欲し気に見つめられると、ぞくぞくしてしまうなぁ……」
取り繕う暇もなくそう指摘されてしまい、更に赤くなったところで、つんっと相手の先端でこちらの秘蕾を突かれる。
熱い…そして濡れている感触………
「…っ」
「そろそろ良いか? 昼間からお預けを食らったのは俺も同じでな………今宵は少々荒っぽくなってしまうかもしれんが…」
くす、と笑いながら自分の精が付着した指先をサックごと舐め、誘う様な視線を向けてくる相手に、面影は再び熱っぽい視線を向けて素直に頷いた。
「……わ、たしも……もう指だけじゃ………いや…」
「!」
「お預けの分だけ……三日月の、熱くて硬いので……いっぱい奥まで…ご褒美…ほしい…っ」
「…! 面影っ…!!」
ずんっ!!
「んっ、あぁーーーっ!!」
灼熱の肉棒を一気に根元まで突き入れられ、びぐんとしなやかな身体が跳ねる。
しかし、それに構わず三日月はがつがつと何度も激しく面影の奥まで肉棒を突き込んできた。
「忠告して煽られるとはな………今宵は本当に手加減が要らぬらしい…ならば相応に抱かせてもらうぞっ…!」
「いっ、あっあっ! みかづきっ、いいっ、いいっ! はげしいの、すきぃっ!!」
いつもなら、ここまで激しく求められると少なからず困惑と怯えを見せていた若者だったのだが、今日に限っては寧ろ積極的にそれを受け入れようとしている。
昼間から『お預け』という形で禁欲を強いられていた身体が、ようやく与えられたものを受け入れ、歓喜していた。
面影だけではなく、三日月もまた昼間の逢瀬が図らずも頓挫してから耐えていた分、反動は激しいものだった。
既に三本の指で十分に解し、慣らしているとは言え、今日の腰の律動は明らかに普段のそれよりも激しく、ぱんぱんと打ち付け合う腰同士から聞こえる音も大きい。
普段はゆっくりじっくりと相手の反応を愉しみながら高めていくのが常の男だったが、今の姿は野生の獣が獲物に食い付き、容赦無く貪る様に似ていた。
「内のうねりが凄いな……腰もそんなに激しく振って…全部、搾り取る気か?」
くっと唇を歪める三日月だったが、正直彼でないと、恐らくは挿入した時点ですぐに持って行かれていただろう。
それ程に、今日の、今の面影の身体の奥は貪欲に雄を締め上げ、求めていた。
その快楽を求めて淫らに踊っている若者は、相手の問いには応えず、夢中で喘ぎ腰を揺らしながら、三日月の手に自分のそれを伸ばしてぎゅ、と握る。
そしてそのまま、それを引いて己の再び勃ち上がりかけていた分身へと導き、握らせる。
「……っ!?」
「ここ、も……ご褒美、してっ…! いっぱい……イボ…で、強くっ…!」
遂にその道具に依ってもたらされる快感に陥落する形で、面影は相手に分身を握らせ、その上から自分の手を重ねて扱く様に促した。
「んんっ、いいっ、気持ちいいっ! あっ、イボ、もっと擦り付けてっ! あああ、激しくぅっ!」
ぐちゅぐちゅと二人の身体の合間から淫らな音を立てながら、三日月が嬉しそうに嗤う。
「後ろだけでは足りずこちらもとは、なかなかに食いしん坊だな……ふふ、どちらが気持ち良いのかな…?」
片手で相手の欲棒を擦り上げつつ、もう片方の腕で相手の腰を抱いて思うままに貫き、ゆすり上げながら問い掛けると、面影は快感で混乱しているのか激しく首を横に振って言葉を絞り出す。
「あっあっ、どっちも、好いっ! オ○ン○ンもっ、お尻もっ…! あああっ! 達くぅ、またっ達きそっ! み、かづきっ、一緒にっ!」
「ああ……お預けの分……溢れるぐらいに奥に、な」
三日月の言葉に素直な身体が反応して、きゅうっと彼自身を淫壁が締め付けてくるのに笑い、彼はいよいよ激しく腰を抽送させる。
そして同時に相手の分身もきつく掴み上げて、ぐっぐっと精を搾り取る様に扱き始めた。
抽送の度に、狙う様に淫壁越しに前立腺を潰す勢いで肉棒を突き刺すと、面影の嬌声と、分身の先端から先走りが迸った。
「はっ、あああああっ!! っく、来るっ! 来るぅっ! 凄いのがっ、大きいのが来ちゃうっ!! あっあっ! あぁ〜〜〜っ!!!」
「っ…奥に…っ、射精すぞっ!!」
ほぼ同時に二人の欲棒は爆ぜ、その先端から白い放物線が描かれたが、三日月のは相手の身体の内に納められていた為、淫肉の奥の奥へとその精を迸らせる。
「あっ…!? あつ、いっ! あああっ、まだっ、射精し終わらないなんて……すご、い……」
自らの精で胸と腹を汚し、どくどくと体内に注がれる相手の熱に身体を痙攣させながら、面影は絶頂の余韻に浸った。
確かに、いつもより射精の量も、それが終わるまでの時間も上回っていたのだろう。
二人の結合部からとぷりと三日月の精の残渣が溢れ出たが、今回はこれでそのまま終わりとはならなかった。
「…好かった……が、まだ、足りんな」
「えっ………あっ…!」
ふと身体を少しだけ動かしたところで、面影は体内の違和感を感じ取る。
(う、そ……確かに…達った筈……! あ、んなに、射精したのに…)
萎えて、ない……?
面影の表情から相手の言わんとした事を察して、三日月が笑う。
「お前の所為でもあるのだぞ? そんなに可愛いお前を前に半日近くお預けさせられたのだ…萎えている暇など無いだろう?」
「な……っ」
吃驚している隙に、三日月はぐいっと相手の足を双肩に抱えたまま再び彼の首を支点に持ち上げた。
「あ……っ」
「先程のあれは好かったな……お前の吐精でお前の美しい顔が穢される瞬間…今度は俺のも一緒に……」
「………っ!!」
相手が何をしようとしているのか分かってしまったところで、身体の自由をほぼ奪われてしまっている面影には成す術もない。
「あっ……や、め…っ」
ずちゅっ!
「あああっ!!」
問答無用で、三日月の楔が相手の最奥を容赦なく突くと、大きな水音が響いた。
「はは……たっぷり注いだから凄い音だな……このままお前の内に、俺のを染み込ませてやろう……」
お前が身体の内から全て俺のものであると示すために………
それから幾度も肉棒を突き込み、その度にぐちゃっぐちゃっと結合部から行為の音が響き、隙間から溢れた白い粘液が泡立つのを面影は間近で目にする事になった。
長い時間なのか、それともごく僅かな時間だったのか、それすらも曖昧になってくる。
「はっああぁ!! ああっ! ああっ! そんなはげしくした、らっ…! みかづきのが、あふれちゃ…っ! だめっ! すぐっすぐまた達っちゃうっ!! ああああっ!!」
三日月の雁に掻き出される様に、接合部から溢れる彼の放った精がとろりと流れ落ちるのを見つめながら、己に迫って来た絶頂の気配に、面影はひくんと頤を反らす。
達したばかりの秘部をああも激しく責め立てられたら、快感を知る身体はすぐに陥落してしまう。
「面影……素直に達って良いのだぞ」
「ああ…っ…達くっ…!! もっ、達ってるぅぅっ!!」
呼びかけられた直後に面影は達した事を嬌声に混じって知らせ、同じく彼の分身がぶるるっと震えて二度目の吐精に備えた。
「…っ…面影…口を、開けて…」
どうして、という事も思い浮かばず、ほぼ反射的に若者は相手の指示に従い、その形の良い唇を開いた。
直後、ずるんと三日月が秘奧から楔を引き抜きながら身体を移動させ、面影のそれと重ねてぎゅっと握り込み…
どくんっ…! どぴゅっ…! びゅくんっ!
びゅぴっ、びゅびゅっ…!!
二本がほぼ同時に精を放ち、二筋の白濁液が面影に向かって降り注がれていった。
熱い白濁は容赦なく面影の顔面を濡らし、とろりと粘った跡を引き、一部はそのまま彼の口の中へと注がれていく。
それは一度では済まず、二本ともが長く、幾度にも渡って面影を穢し続けた。
「あっ……あああっ…すご、い……私と…三日月の……熱い、ミルクが、こんなに…っ!……口の中、ぐちゅぐちゅ……」
頬の残渣を指で拭うと、面影はそのままぺちゃっとそれを舐め取りながら、こくんと喉を鳴らして口の中の精を飲み下す。
つい先日までは、三日月は面影がこうして精を飲み下す行為は忌避するだろうと考えており、その行為から敢えて遠ざけていた事があったのだが、面影自身が自ら望んで精飲をしてみせた事を受けてからは、その禁忌は解除されていた。
(あ……三日月の……味…が、する……)
愛しい人の体液であれば、それを口にするのを躊躇うことは無いと、面影が更に指に舌を這わせているところに、彼の足の拘束を肩から解いた三日月が、上から覆い被さりながら唇を塞いできた。
「ん…むっ…」
くちゅ……っと舌で口腔内をなぞり上げ、三日月が薄く笑う。
「ああ…こんな事をして……いやらしい子だ」
「…み、かづきが、飲ませたんだろう…?」
「そうだな、嬉しそうに、恍惚の表情でその唇を開いてくれていたな…」
「~~っ!!」
思い当たる節があるだけに反論できず、面影は赤くなった顔を俯けた。
久し振りにこうしてまともな会話を交わした気がする…と思ったのも束の間で、三日月は再び面影の柔らかな肌にあの道具を付けた指を這わせ始める。
「まっ…また、すぐ……か? 少し、休ませ…」
「駄目だ」
即答で拒否すると、三日月はちゅ、と相手に口づけてはっきりと言い切る。
「このオモチャを見たらすぐに俺を思い出す様に……お前の身体に今宵、教え込んでやる……覚悟せよ」
「あ……あっ…」
もしかして、三日月は……と一つの可能性を思い浮かべた面影だったが、それはすぐに再開された愛撫で霧散してしまう。
「お前をこんなに悦ばせる手段を得られたのは僥倖だな……」
「ん…っ…あああっ…! はぁっ…」
くくっとくぐもった相手の笑みを聞きながら、面影は再び快楽の坩堝へと沈められていった…………
翌日……
「…三日月」
「うん?」
ほぼ夜を通しての情事の後に少しの仮眠を経て目覚めた面影は、布団の中であの指サック達を手の中で弄びながら、隣で横たわっていた男に声を掛けた。
昨夜、頭の中に浮かんだ事を、確かめたかった。
「………昨日からお前がこれを使う事にやけに拘っていたのは……その、もしかして…やきもち、か?」
「…………」
無言という事は…図星か。
思えば、これが歌仙からの貰い物だと知った時から様子がおかしかった。
何となく面白くなさそうな顔をしていたし…昨日から何よりこの道具を歌仙とではなく、三日月自身と結び付けようとする行為に拘っていた。
それはまんまと成功しているのだが……
「…狭量と思われるかもしれんが……お前の興味を引く全てに嫉妬してしまいそうなのだ……大人気なさもここに極まれり、だな」
「!……ふ」
三日月の肯定に面影は小さく笑い、手にしていたサックを全て相手へと差し出す。
「あの時の、三日月の気持ちが理解出来た気がする」
「…俺の?」
「……神社で、私がやきもちを焼いた事を嬉しいと言っていただろう? 今の私も同じ気持ちだ……お前以外に身も心も許すつもりはないのに、不安に思ってくれているというのは……申し訳ないという気持ちもあるが、ああ、確かに嬉しいと、思う」
こういう嬉しい、という気持ちもあるのか、と胸元に手を当てて感じ入っている若者をじっと見つめていた三日月は、やがて柔らかい笑みを浮かべて渡された先程の道具を改めて相手へと返した。
「…これは、お前が持っていると良かろう」
「?…良いのか? 歌仙から貰ったのは事実だが…」
「今のお前の言葉を聞いて尚、持つのを許さなかったら、俺はどうしようもない程に愚鈍という事だ。それに昨夜からの一晩で、既にお前の中では歌仙よりも俺が与えた快楽の方がその物との繋がりは深くなった筈だ」
「っ!」
確かに…あれだけこれを使って抱かれてしまった今となっては、事務作業の時に使っても寧ろ淫靡なひと時を思い出してしまうだろう……使える訳がない。
言葉に詰まった相手の耳元で、三日月が誘う様に甘い声で囁く。
「またそれで可愛がりたくなった時には言うのでな、持って来てくれたら良い……ああ、それとな」
くす、と一際深い笑みを浮かべて、面影の耳朶を舐めつつ男は淫らな許可を与えた。
「遠征で俺が居ない時などは、寂しければこれらを使って己を慰めても良いのだぞ? お前も最期の方では随分と気に入っていた様だったからな……許そう」
「っっっ!!!」
思わず、それらを嵌めた自分が己の敏感な場所に触れて乱れている様子を連想してしまい、面影は真っ赤になる。
「こ、のっ……すけべじじいっ!!」
相手に対してもそうだが、淫らな姿を即座に連想してしまった自身も恥ずかしくなってしまい、男を、自分が思いつける精一杯の悪口で罵倒しながら面影は布団を深く被ってしまった。
「……お前がそうなるのも、最早様式美だなぁ…」
『ううう、うるさいっ!!』
それから機嫌を直した面影が布団から出て来るのには、多少の時間を要したのだった…………
三日月の言葉の通り、それからも例の道具が二人の逢瀬で大いに役立ったのか……面影の夜の無聊を慰める事があったのかは…………推して知るべし。