隙間本戯

 

 

 遠征組が無事に本丸へと帰還を果たし、主に結果報告を済ませたのは、到着日の昼頃の事だった。
「おお、おかえり。皆、怪我も無く息災だった様だな」
「おう、三日月も留守居ご苦労だったな。俺達が居なくて退屈だったんじゃないか?」
「ははは、そうだな。お前が居ない本丸はこんなに静かだったかと、少々驚いていたところだ」
 平安組である三日月と鶴丸が和やかに言葉を交わしている傍では、出征から戻ってきた兄を、弟達が元気に出迎えていた。
「おかえり! いち兄!」
「怪我は……無いみたいだな、うん。まぁ、いち兄なら当然か」
 無邪気に一期一振を迎える鯰尾と、『職業病』の様なものなのか、何よりも先ず兄の怪我や異常はないかと確認する薬研に、その兄はいつもと同じ優しい笑みを浮かべた。
「ふふふ、ただいま、二人とも。私が不在の間、皆さんに迷惑を掛けてはいませんでしたか?」
 何か粗相は無かったかと早速尋ねる辺りは心配性の兄らしい態度だったが、その口調にはしっかりとした信頼が伺える。
「勿論!」
「全て恙無く、だ。 三日月さん程じゃなくても、俺達もしっかり留守居役、果たしたぜ」
 胸を張って兄に誇る弟達に、三日月本人も援護に加わった。
「鯰尾も薬研もしっかりと本丸を支えてくれていたぞ。良い弟達を持ったな、一期一振」
「! これはこれは。三日月さんにそう言われては、認める他有りませんな」
 困った様に笑う一期一振だったが、とても喜んでいるのだというのは傍目から見ても明らかだった。
「兎にも角にもご苦労だった。遠征組は今日と明日は内番免除とする故、よく休んで英気を養ってくれ」
「ええ、有難うございます」
 三日月に礼を述べて、一期はその後、他の遠征組の男たちと共に浴場で汚れを洗い流し、自室に引っ込んで洗濯物の片づけや個別の報告書の作成など、まだ残っていた仕事を片付け始めた。
 帰還が夜であったのなら全てを次の日に回す事もあったのだが、昼だという事もあり、何もすることがない、となるとどうしても動きたくなる性らしい。
 とことん真面目な男である。
「……ふぅ。これで宜しいでしょうか………総括は鶴丸殿が書いて下さるそうですし…」
 普段は他人を驚かせる事に情熱を注ぐ鶴丸だが、それは任務を疎かにすることと同義ではない。
 寧ろ他の者達よりも能力は非常に高く、だからこそ三日月同様に主からの信頼も篤いのだ。
 そんな彼が総括を記すという話なので、それだけでも心情的には楽になる。
 かたりと筆を机の脇に置いて、彼は大きな伸びを一つして、後ろ手で畳の上で自分の身体を支えた。
「やはり遠征帰りは疲れますな……はぁ」
 少し行儀が悪いと思ってはいたが、此処は自分の部屋であり人目もない。
 入浴後、という状況も、身体に心地よい疲労感をもたらしているのだろう。
 夕方まで、このまま横になって仮眠を取ろうか、と考えていたところで、遠くからこちらの部屋に向かって遠慮がちな足音が聞こえてきて、思わず姿勢を正す。
 誰だろうかと思いながら暫し向こうの反応を待つと、障子の向こうから声が掛けられてきた。
『一期さん…?』
「!…ああ、日向、ですか?」
 応えてから少しして、障子が開いて向こうに見慣れた少年の姿が見えた。
 一瞬、遠征中の時の二人の秘密を思い出した一期が僅かに瞳孔を見開いたが、それはそのまますぐに平常時のものに戻った。
 夜であればまた別の形で二人の会話が繋がったのかもしれないが、今はまだ昼日中。
 淡々と応じると、日向も何事もない様子で用事のみを淡々と告げた。
「もしかしたら報告書、もう書けたかなと思って…もし良かったら僕のと一緒に持って行こうかと思って」
「ああ、それは有難うございます。もし良かったら一緒にお願いしても宜しいですか?」
「うん、じゃあ受け取っていくね」
 近づいてきた相手に書類を数枚手渡したところで、日向がこちらをじっと見つめてきているのに気づいて、こちらからも見上げてみる。
「……………」
 日向の見下ろしてくる瞳の奥に熱を感じて一期が息を呑んでいると、向こうの顔がゆっくりとこちらへと下りてくる。
「あ………」
 小さな声を漏らした一期の唇が、日向のそれで塞がれる。
 それだけではなく、ぬるりと日向の舌が一期の口腔内に入り込んできて、一期のそれに絡みついてきた。
「ん……ふ…っ」
 一期の鼻に抜ける声を聞き、日向は更に夢中になって強く唇を押し付けたが、それ以上の行為は一期一振自身が止めてきた。
「…だめですよ、今は」
「あ、ん……何で…? 今なら二人きりなのに…」
 唇を離し、そっと人差し指で日向のそれを優しく押さえて嗜めた彼に、少年は控え目な抗議を訴えたが、向こうはそれでも首を横に振った。
「報告書の提出までが遠征です……先にそれを主に届けに行かなければいけません」
「あ………」
 尤もな言い分に日向は相手の言葉に従わざるを得ない。
 しかし……そうなるとこの続きを出来るのは…?
 もし夜だとしたら、この欲望を身の内に抱えながらまだ悶々とする時間を過ごさねばならないのか…?
 酷く落胆した表情を隠せない少年に、一期はくす、と困った様に微笑むと、そっと耳元で囁いた。
「貴方がそれを主に届けに行っている間に、布団を敷いておきます……」
「!?」
「……終わったら、またこの寝所にいらっしゃい…ね?」
 どうやら、少年の落胆ぶりに情が湧いてしまったらしい。
 確かに昼間ではあるが、さぼるという訳ではなく公に休みを貰えたのだから、その時間をどう使うかは本人達に委ねられるのだ。
 寸止めをしておきながら、最後の同意を促す呼び掛けの後にはかぷりと耳朶を噛んできた若者に、日向の意識が一瞬遠くなる。
 この人は……欲情を煽ってくるのが凶悪的に上手い………!!
「わ、分かった………これも、約束、だよね?」
「ええ……待っていますよ?」
 それからその場を離れ、主の私室に向かうまでの彼の足取りがいつになく速いものになったのは、本人の焦りが表れた所為だったが、その理由については彼以外の誰もが預かり知らぬ事である。
「長谷部さん、お邪魔します」
 審神者の執務室を尋ねると、先ずはその日の近侍であった長谷部が日向を出迎える。
 主の傍に控えて事務作業を手伝っていた相手に書類を手渡すと、彼はぱらっとそれらを数枚捲りながら素早く中身を検分し、満足気に頷いた。
「ああ、報告書の提出か。ふむ………一期一振とお前のが一番手だ、ざっと目を通したがよく出来ている。迅速な行動は賞賛に値する」
 ここで彼のお眼鏡に適わなければ主の手を煩わせるだけだと突き返される事もあるのだが、流石に真面目且つ優秀な二人の成果は及第点を貰えたようだ。
 今回に限ってはその迅速な仕事の理由は、一刻も早くあの美しい男の肌に触れ、身体を重ねたかったからなのだが、無論それを誰にも語る必要は無い。
「ありがとう、長谷部さん。じゃあ、これで僕らの分の報告は完了という事で良いのかな」
「ああ、一期一振にもその様に伝えてくれ。万一仔細を聞きたくなった場合には、以降は主から直々に要請が来るだろう」
「了解。じゃあ、ついでだし僕がこのまま一期さんに伝えに行くね」
「頼んだぞ」
 長谷部から頼まれたと言う形で、再び一期の元へと向かう理由を手に入れた日向は、その大義名分を手に相手の元へと向かう。
 途中ですれ違った刀剣男士達に行き先を問われた時も、先程の長谷部とのやり取りを交えて説明すると全員が全員、成程と納得してくれた。
(ようやく……だ)
 遠征のあの夜から、ずっと脳裏で燻っていた欲望を果たすことが出来る、と、日向の歩みが一層速くなり、彼は寄り道もせずに一期たちの寝所へと向かった。
 遠征組の一期一振と自分達は休暇を貰っているが、同じ部屋で生活している鯰尾と薬研はまだ内番に勤しんでいる筈だ。
 暫くは、自分と一期一振二人きりであの寝所を独占する事が出来る……
 寝所まで到着すると、日向は一旦己を落ち着かせる様にゆっくりと二度深呼吸し、すぅと襖を横に引いて開く。
「いちご……さん?」
 声をかけた寝所の奥には、確かに一期一振が敷いたと思われる一床の布団が見え、その上には既に浴衣に着替えていた彼が、静かに正座を崩した姿で待っていた。
「ああ……提出は無事に終わりましたか? 日向」
「うん……暫定だけど、長谷部さんからは問題ないだろうって。流石だね、一期さん」
「ふふ、それは日向もでしょう?」
 取り留めのない会話を交わしながら、一期はそっと片手の掌を上に掲げながらそれを日向へと向け、自分の方へと誘った。
「待たせてすみませんでしたね、それにおつかいまでさせてしまって……さぁ、いらっしゃい」
「…………」
 ふらふらと覚束ない足取りで日向は一期へと近づき、間近でそっと両膝を着くとゆっくりと顔を相手のそれに近付ける。
 一期はそれを止める様子もなく、先程は拒んだ相手との口吸いを受け入れる。
 静かな部屋で、自分の動悸の音だけがやけに大きく聞こえてきて、己の漏らす声の大きさが分からなくなる。
「あ、ん………ふっ…」
 相手の鼻に抜けた声を聞き、日向は夢中で相手の唇を吸った。
 それだけではなくぬるりと舌を相手の口腔内へと滑り込ませ、舌を絡め取り吸い上げた。
 双頭の蛇が絡み合う様に互いの舌が踊る様子が二人の唇の隙間から覗き、そこからどちらのものか分からない唾液が彼らの肌に流れ落ちる。
「はぁ……っ…」
 久し振りに唇を離したところで、一期は艶然と微笑んで日向に囁いた。
「…まだ二度目なのにこんなに上手になって…いけない人ですね」
「…上手…? 本当に?」
「ええ………では、おさらいをしましょうか」
 手を伸ばして日向の上着を器用に脱がせると、今度は自らの袂をくつろげて肌を晒し、一期がゆっくりと布団の上に身を横たえた。
「私を犯す前に……気持ち好くしてください…」
 それはまるで、飢えた獣の目の前に新鮮な肉塊を投げ入れた様なものだった。
「っ…!!」
 襲い掛かるように日向は上から一期に覆い被さり、ぐいっと改めて袂を広げると、そのまま白く滑らかな肌に唇を触れさせた。
「あ……ん…っ」
「一期さん……っ…!」
 幾度かきつく吸い上げて一期のましろの肌に赤い痕を残していくと、やがてその唇は胸の突起に触れそのまま口中へと含み入れた。
 既に固さを誇っていたそれを口中で舌で転がすと、更に突起は大きさと固さを増し、一期一振の口から甘い吐息が漏れた。
「あぁ………きもちい…」
 素直に快感を伝えてくる相手の声に押されるように、日向はそれからも舌で愛らしい二つの蕾を相互に可愛がった。
「ん……」
 胸を愛撫している内に浴衣を留めている帯が邪魔になり、日向は手早くその結び目を解き前を完全にはだけた状態にすると、まだ一期の足に絡みついていた浴衣を退かして股間の奥に息づいていた雄に手を伸ばした。
 既に胸への愛撫に反応していたその部分は固さを保ち、半ば勃ち上がりかけていた。
 それを、胸への愛撫を続けながら日向がきゅむ、と優しく握り込んでゆっくりと、しかし力をやや込めて扱き出す。
「あ、あ……っ…」
 乳首と楔を同時に攻められ、一期の嬌声がやや大きくなった。
「ん、はぁっ…あ、いいっ……」
「…気持ち、好い…? 一期さん…っ」
「ええ……初めてとは思えません…」
 実質的には初めてではないのだが、いまだ身体を繋いでいないという事については間違いない。
「…遠征の時に…教えてくれたから……」
 照れながら呟く日向に微笑みを返しながら、一期は腰を動かして己の昂りを相手の手に押し付けていった。
 昂ぶりが一層熱と固さを持ち、解放を望んでいるのだろう。
「ね……達かせて……日向…」
「う、ん……」
 勿論、一期の望む通りに快感を与えて絶頂に導いてやるつもりだったが、手よりも更に気持ち好くしてあげたいと思ったのか、日向は相手の胸から口を離し、そのまま身体を下へと移動させた。
 顔前に男の分身を見る形になり、日向は今度は手でそれを支えると、舌先でその雁を優しくぺろりと舐め上げた。
「ひぅ…っ」
 既に興奮で先走りを垂らしていたその昂りに、日向は幾度も舌を這わせて唾液を塗り付けると共に滑らかな粘膜を擦り付け、快楽を与えて解放を誘ってゆく。
 裏筋や雁首、零口と、様々な場所に唇を触れさせ、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら愛撫をひとしきり行ってから、日向は紅い唇を開き、くぷりと先端を呑みこんだ。
「うあ…っ!」
 一期が声を上げたがそれに苦痛の色はなく、寧ろ悦びを訴えるそれだったので、日向は一瞬だけ動きを止めたもののそのまま行為を続けた。
 大丈夫…大丈夫……拒絶されていないし、何より溢れ出るこの甘露は感じてくれている証……
(一人でしてる時には、こんな事想像も出来なかったけど………オ○ン○咥えるの、気持ち好い……もっと、味わいたい……)
 くちゅ、くちゅと淫らな水音をたてながら舌で舐め回し、ぐっと喉の奥まで一期の分身を呑みこむと、柔らかな口腔内の粘膜で刺激を与え、解放を促す。
 そうしていると、限界まで育っていたらしい一期の肉棒が激しく震えた。
(あ……一期さんの、びくって…っ)
 その変化に驚いた日向が思わず口から相手を離してしまった瞬間、丁度限界を迎えた一期の熱棒が一気に爆ぜた。
「あ、あ、ああぁーーー…っ!!」
 引き攣った悲鳴に似た声を上げた一期が激しく腰を震わせる度に、その楔の先端からびゅくびゅくと勢いよく白い溶岩が噴き出し、日向の顔に打ち付けられた。
「ああ、あつい…っ! もっとかけて、もっとぉ!」
 相手の精を顔面に受ける事になってしまった少年だったが、嫌悪感は全く無かった。
 射精したという事は、自分の口淫に感じてくれたという事だ。
 寧ろ相手を絶頂へ導いたという妙な達成感すらも覚え、嬉々として彼は相手の欲望を受け止めていた。
「あ……す、みません、日向…」
「う、ううん…大丈夫……感じてくれて、うれし…」
 指で顔に付着した精の残渣を拭い取り、ぺろっとそれを舐めた日向の姿に、今度は一期一振がぞくりと甘い戦慄を感じ取ったらしく、瞳の奥に新たな情欲の炎が灯った。
「…ここ、からは……本当に初めてですよね……」
「う、ん……」
「……少々、恥ずかしいですけど……」
 お互いに妙な緊張感を抱きながら、互いの意思を確かめる様に言葉を交わした後、一期は日向に背を向けると同時に膝をつき、四つん這いの形をとった。
「あの日は必要ありませんでしたが……」
 遠征中、挿入には至らなかった時の事を言っているのだろう。
 そろりと右手を股間から回す形で自身の臀部の狭間に伸ばし、一期一振はその奥に息づいていた秘蕾を日向に晒すと、軽く表面を指の腹で擦ってみせた。
「此処は、自然には女性が男性を受け入れる時の様にはならないので………指や舌で…優しく、解してくださいね…」
 ほんのりとした紅色に彩られた秘蕾はとても小さく、男性を受け入れる事が出来るとは信じられなかったが、日向も全くの無知ではない。
 そういう行為をした事は無くても、知識としては可能だということを知っている。
 しかし先程一期一振にも言われた通り、人の身を得てから実際に自分の身体で体験するのは初めてなのだから、緊張するのは当然の事だった。
 ここで退くつもりはない、が、せめて相手の肉体を傷つけるような事は避けなければ……
「……い、いいの? 触っても…」
「ええ…」
 念の為に相手に確認を取ってから、日向は右の人差し指を蕾に押し当てる。
「……っ」
 攻めている側なのに寧ろ自分の方ががちがちに緊張しているのを感じつつも、指をゆっくりと遠慮がちに内へと埋めていった。
 強い抵抗が来ると思いきや、意外にもすんなりと指先は呑みこまれていき、淫肉が指を包んで締め付けてくる。
「あ、あ……っ…」
「すご、い……柔らかくて、奥に引き込もうとしてくる……」
 こんなのに自らの肉棒が包まれたらどんなに気持ち良いだろう……
 それにしてもこんなに抵抗なく受け入れられるとは、と思ったところで、一期一振が弟達とも逢瀬を重ねていたという事実を思い出し、納得する。
 おそらくは、女の身体ではなくとも、これまでの行為によりある程度は身体が男性を受け入れる様に馴染んでいたのだろう。
 しかし遠征に出ていたという事もあるし、やはり傷つけることがない様にと日向は埋めた指をゆっくりと蠢かし始め、内を解していった。
「ん……んあっあ…! 好い……い、いっ…もっと、奥…」
「はぁ…はぁ…っ……ああ、いやらし過ぎる……一期さんのココ…」
 ずぽずぽと人差し指を出し入れしていた蕾は赤みを増し、内側も確実に滑らかになり、より貪欲に指を引き込もうとしている。
 その淫靡な光景に誘われるように、少年は一旦指を肉壁から引き抜くと代わりに唇を蕾に寄せ、ぬちゅっと濡れた舌先を肉蕾の内へと捩じ込んだ。
「あ!? あ、あ…!」
 ひくっと顎を反らし、一期が一際高い声を上げる間にも、その感覚は失われる事なく寧ろ……
 ぬちゅうぅ……
と、より深く微妙にざらついた粘膜が奥へ奥へと差し入れられるのを感じ、彼はその正体を確信した。
「あああんっ! ひ、日向…初めてなのにもうそんな…っ」
 いやらしい事をするなんて…という言葉までは続ける事が出来ず、身体の奥から湧き上がる肉欲の波に男は喘いだ。
(ああ、だめ……遠征中に我慢してたから、その分抑えが利かなくなってる……)
 しかもその終わりの方で日向に触れられ、挿入はお預けという形を取らざるを得なかった事も、彼の身体を大いに煽らせる事になってしまったのだ。
 薪に直接火を焚べてもそう簡単に炎は上がらないが、藁を仲介したらその勢いは一気に速まるものだ。
 あの日向との触れ合いは、互いの性欲をある程度満たす事は出来たが、それと同時に燻る火種を仕込む事にもなってしまっていた。
 そして今、日向は正にその火種に炙られる様に、夢中で舌を淫肉の奥へと捩じ込み、襞を伸ばす様に舌先で蹂躙し、唾液を塗り込んでより柔らかく馴染ませる様に相手の身体を「躾けて」いた。
(梅の花の様に赤く綺麗なココ……最初に見た時は信じられなかったけど、確かに柔らかくなって、広がってる……今なら指一本だけじゃなくて…)
 ぼんやりとそんな事を考えていたところに、重なる様に一期一振の哀願が耳に届けられた。
「ひゅ、うが…っ……舌じゃなくて、指……いれっ……」
「っ! ゆび、欲しいの…?」
 反射的に唇を離して尋ねながら、再び人差し指を差し入れてみたが、向こうはいやいやと子供がむずかる様に首を横に振って更に強請ってきた。
「いや、いやっ……一本だけじゃなくて……もっといっぱい……奥まで、擦って…!」
「…! 一本じゃ足りないなんて……ほんとうに欲張りなんだね、一期さんの身体…」
 ずぷぷ…っ!
 煽りながらも、日向もそのおねだりに応えるべく、人差し指に加えて中指も一緒に肉穴の奥へと突き入れる。
「あっあっあぁ〜〜っ…!」
 舌でじっくりと愛した効果は確かにあったらしく、指二本は難なく呑み込まれていった。
「すごいよ……二本も余裕で……これなら……」
 ずぐっずぐっと指二本を根元から先端まで数度出し入れしてみて、まだ余裕があると見越した日向は、更に薬指も加えた三本を蕾の奥に挿入してみた。
 流石に二本よりは抵抗が大きくなり、そのために動きも緩徐になってしまったが、引き続き出し入れを繰り返しながら内側で各々の指の関節を曲げて肉壁を刺激したり、ぐぐっと蕾の入口を押し広げる様に弄り回していくと、嬉しそうに相手の腰が激しく揺れ、嬌声が聞こえてきた。
「あっあっ、日向…っ! 好いっ! 気持ちいっ! すごく、感じちゃ……!」
「一期、さんっ! ああっ、僕、もう……っ!!」
 もっともっと、指達を使って相手を啼かせたいと心が願う一方で、自分の身体はもう限界だ。
 肉穴を犯す指を増やし始めた辺りから、己の分身が服の布地を突き破らんとするかの如く、熱く固く成長し、はしたない染みを作り出していた。
 これ以上はもう我慢が出来ない…!
 一時的に相手への愛撫を中断すると、日向は荒々しく、生地が傷むのにも構わず下の服をその場で脱いでいった。
 どうして一期が上を脱がせてくれた時に一緒に脱いでおかなかったのか、それ程に逸っていたのかと過去の自分を詰りたい程だったが、思えば布団の上で待つ一期の姿を見た時の自分の興奮振りから考えたら、仕方なかったかもしれないと納得出来るところもある。
 もし次…があるのなら、その時は脱ぐタイミングは考えるべきだとは思う、が、勿論今はそんな事を呑気に振り返っている状況ではない。
「一期さん……っ、僕もうっ……一期さんの内に…」
 人の身を請けてこれまで、こんなに勝手が効かない時は無かったと断言出来る程に、今の身体は己の制御から外れつつあった。
 遠征中に一期と肌を重ねた時もかつてない昂ぶりを覚えていたのだが、今のはその時のものより勝っている。
 それを視覚的にも証明する様に日向の雄は大きく固く育ちきっており、その先端は頭が振れる度に鍛えられた腹筋を打っていた。
「ああっ……日向…大きい…」
 振り返った姿で、潤んだ瞳で日向の楔を見つめながら熱っぽく呟くと、一期はくい、と自らの指先を使って己の蕾を押し広げて相手に挿入を促す姿を晒した。
「辛い、ですよね……さぁ…此処へ……来て」
「…っ!! 一期、さんっ!」
 絞り出すような声で名を呼びながら、日向は相手の腰に己のそれを押しつけ、支えた楔の先端を赤く綻ぶ蕾へと当てると、そのままずずっと埋めていく。
「あああ~~っ!」
「く、ああっ! いち、ごさんっ! すごいっ!!」
 初めての肉の交わり…
 先端を吞み込まれた感覚…その凄まじい快感に、まるで身体と精神の結合に歪みが生じた様だった。
 自制しなければと思っているのに、その筈なのに、勝手に身体が動き相手を貪ろうと全力で繰り返し穿ち続けてしまう。
「あああっ!! どう、してっ…! 腰がっ、止まらなっ! ふあああっ、きつすぎ…っ!!」
「あ…あっ…! 日向……素敵…っ! はぁぁん、激しくって…なか、灼けそう…っ!」
 肌と肌がぶつかり合う高い音を何度も聞きながら、日向は一層きつく情熱的に自分の肉棒を締め付け絡みついてくる淫肉の誘惑に、抗う事も出来ないまま、あっという間に絶頂へと追い上げられていく。
「ああああっ!! ご、めんなさいっ一期さんっ! 僕っ、僕もう、イ…っちゃうっ! ああっ! 射精るっ射精るっ! ○ーえき、ナカにいっぱい射精しちゃうぅぅぅっ!!」
「あっ、ま…って! まだ達かな……っ! ひああぁんっ!」
 自分が達する前に少年が絶頂を迎える気配を悟り、必死にそれを耐える様に声を上げた一期だったが……
 どくんっ! どぴゅっ、びゅぷ…っ!!
「あ、あ……犯してる……一期さんの内……僕の○ーえきで…!」
「あん……まだ、足りな……」
 身体の最奥に勢いよく叩きつけられる若者の肉欲の証が、淫肉に滲みていくのを感じながらも、一期はふるりと名残惜しそうに腰を振った。
 下に息づく一期の肉棒はまだ絶頂へは至れず、ずくずくと飢えた熱を孕んだままだ。
(ああ、達きたい…! 日向のを、すぐに手か口で元気にしてあげてもう一度……)
 身体の求めに応じてそんな事を考えていた時、がしりと腰を両手で掴まれた事で一期一振は我に返った。
「え…?」
「ごめん、一期さん、僕だけ先に達っちゃって………でも、大丈夫だから」
 じゅぷ……っ
「え…あ?」
 既に射精し萎えている筈、と思っていたソレが、まだその硬さと質量を保ったまま内で蠢き出したのを感じて、思わず生唾を呑み込む。
「ひゅ、が…?」
「まだ、全然萎えてないからっ…! もっといっぱい突いて、擦って、今度こそ達かせるからっ!!」
 どちゅ…っ!!
「う、ふあぁぁっ!!」
「啼いて、一期さん! 一期さんのアノ声、僕、大好き…っ!」
 一度達して再び絶頂を迎えるまでゆとりが出たのか、日向の腰の動きは変わらず激しくはあったが、その中で心の焦りのようなものは薄れている様に見えた。
 大量の精液を内に注いだせいで、日向が腰を前後させる度に接合部からはぐちゅっぐちゅっと粘った水音が響き、少年の楔と秘蕾の隙間から精の滴が泡立って零れ、一期の内股を伝っていく。
「んっんっ…!! ああっ! すご、いっ!! 上手、ですよ日向……ああ、ああっ、今度は…ちゃんと達かせて…」
「ん…うん…っ!」
 相手からの懇願に対し頷きながら、日向は手を下へと伸ばして一期の楔を握り、勢いよく扱き始めた。
 既に限界近く勃起していたそれは先走りを滲ませており、扱く手を濡らして滑りを滑らかにしてくれる。
「ああーっ! そ、れ、好いっ! はああっ、い、く…っ うんっ! あああ、達くうぅぅっ!!」
 肉棒への愛撫で快感が一気に高まったのか、一期は激しく首を振りながら声を上げ、それに煽られるように日向の腰の動きがより一層速まった。
「いちごさんっ!! ま、たっ、内に射精しますっ! う、ああっ!!」
「んんっ!! あっ! やあぁっ…!! オ○ン○膨らんで、る…っ!! あ、あああ~~~~っ!!」
 日向の二度目の射精を受け入れると同時に、一期の分身の先端からも同じく樹液が勢いよく迸り、布団の上へ地図上の模様を描く。
 二度、三度……と幾度も精を放った後、一期はぐたりと上気した肌に汗を滲ませながら身体を布団の上に横たえ、その上に覆い被さるように日向が身体を重ねて手足を絡ませる。
 暫くの間は、両者の浅く荒い息遣いだけが部屋の中に響いていた。
 その呼吸も徐々に整えられてきた頃、そっと一期一振の指が、優しく日向の前髪を掻き上げる。
「ふふ……これであなたも大人の雄の仲間入りですね…日向」
「一期、さん……とても、好かった、です……あの、僕……」
 すり……
「!」
 脚に擦り付けられた少年の股間にある雄の器官は、いまだ激しい熱を孕み、固さを誇っていた。
 それを知らされた一期が、焦りを帯びた声を上げながら身を捩る。
 こんな状態のままで、相手が大人しく引き下がるとは当然思えなかった。
「あっ、そんなっ…二度ともあんなに沢山射精したのに…まだこんなっ…!」
「だめ、全然足りない…っ、僕、もっともっと一期さんを犯したい…っ」
 これまで一度も交わりを経験していなかった若者の性欲は、正に砂漠で泉を見つけた獣の様なもの。
「あ、あ………っ…!」
 犯されたばかりの身体は碌に力を込める事は出来ず、一期はそのまま再び日向に組み敷かれ、再び身体を暴かれていった。

 そんな二人の姿を、寝所の襖の隙間からひそりと覗いている存在が在った………
もし本気で拒むのならば一期一振ならば先ず間違いなく反撃は可能だった筈…しかしそれは実行されることはなかった、ということは推して知るべしである。



「う、そ………してる…?」
「ほーん…これはこれは…昼間からお盛んな事で」
 実は二人が寝所に引っ込んでからさして間をおかないタイミングで、薬研と鯰尾の二人が彼らの私室を訪れていた。
 帰還直後の簡単な視診では特に異常は認められなかったが、念の為に隠れた異常は無いかと内番の合間を縫って薬研が気を利かせて私室に向かい、鯰尾はその途中で偶然会って、同じく兄を気遣い同行したのだった。
 因みに鯰尾は何か面白い土産話でも聞けないかとこっそり考えてもいた。
 同行出来なかった遠征では、いつも帰ってきた兄がその地であった事を面白おかしく語ってくれたりもして、何気に弟達はそれ聞くのが楽しみでもあったのだ。
 ところが……
 今回ばかりは、二人の予想もしていなかった光景が兄のいる寝所で繰り広げられていた。
 まさか、兄と他の刀剣男士が、昼間からまぐわっているとは……
 寝所に通じる襖の隙間から覗いた鯰尾が、困惑も明らかに後ろに立つ薬研を振り返る。
「え、ええと……こっそり様子を見ようとしたのに、とんでもないとこに居合わせちゃったね…」
「まぁ、な……けどまぁ、何も知らないで踏み込んで邪魔するのも野暮ってもんだし…な」
 こっそり覗こうとしたのは別にそれが目的だった訳では無い。
 遠征から帰ったばかりで、もし既に一期一振が横になって眠っていた場合は、声をかけずにそのまま退散するつもりだったのだ。
 その気遣いのお陰で、まぐわいの最中に踏み込むという互いにとっての最悪の形は取らずに済んだ訳だが……
「でも、知らなかったな………いち兄ったらいつの間に日向くんと…」
「遠征に出る前は全くそんな素振りも気配もなかったから……多分、遠征中に、だな。ああいう環境だと溜まってしまうだろうし、精神的にも…な」
 客観的にそう分析している薬研達の視界の向こう…寝所の布団の奥では変わらずあの二人が睦み合っている。
 薬研達のいる場所からは、丁度一期達の頭が右になる形で、彼らを横から眺めることになっていた。
 少し遠目ではあるものの、彼らの声は意識すれば十分に拾えるし、その表情が表すものも知ることは可能だった。
『……まだ二度目なのにこんなに上手になって』
 小さく聞こえてきた一期一振の声に、薬研の推測がおおよそ当たっているのだという事が早くも明らかになる。
 今が二度目なら、確かに最初は遠征中に生じていた可能性が高いだろう。
「………妬けるか?」
 背中越しでも感じ取れたらしい鯰尾の微妙な心情を察した薬研が耳元で囁いてきた。
 それに対して、鯰尾はすぐには返事を返せなかった。
 確かに今までは兄弟三人で仲良く…睦まじく過ごしていた。
 そこに、一期一振が別の男士と身体を重ねている事実が明らかになったのだから、無論、違和感は感じてしまう。
 しかしそれが嫉妬かというと、それもまた違う気もするのだ。
 一期一振は、日向とああやって身体を重ねても、きっと弟である自分達にも今まで通りの愛情を注いでくれるに違いない…それは間違いない事実だと思う。
 それなら、自分がそれ以上を望む必要があるのか……?
 刀身である自分たちはあくまでも人の身を一時的に借り受けている様なものだ。
 第一にはこの身を使ってやるべきは遡行軍の殲滅であることは間違いないし、そこはしっかりと自覚している。
 それを弁えているならば、刀剣男士達が何を経験し、その知識や体験を積み重ねていくかは、基本自由意思に委ねられている。
 人の様に、誰かと添い遂げたいとかそういう思いを抱く刀剣男士も確かに存在はするのだろうが……今の自分にはそれが分からない。
「う……ん…」
 悩みながら、鯰尾が声を小さく漏らして唸る。
「びっくりはしたけど……いち兄って本当に綺麗だし、あの物腰だから日向君の気持ちも分かるかなぁって……嫉妬、とは違うかも……」
「ああ、まぁ俺達が刀なのは違いないからな……人の常識とは同じ様に測れない、か。しかしこういう時でもいち兄を褒めるとこは、やっぱり兄弟だな、俺ら」
 自分と似たような事を感じていたらしい薬研の言葉を聞きながら、鯰尾は襖の隙間の向こうで日向と愛し合う兄の姿を凝視していた。
 嫉妬は感じない…が、美しい兄の艶姿を見て興奮しないという訳ではないのだ。
 しかも今は自分達が彼を愛しているのではなく、第三者である日向が拙いながらも手を伸ばし、彼の快感を高めようとしている。
 そんな少年に、甘い吐息を漏らして身体を捩っている兄の姿に、異様な高揚感を覚えてしまった鯰尾は、自身も吐息を漏らしそうになって慌てて口を掌で塞いだ。
(あ……まずい…俺まで、ヘンな気分に…)
 向こうは行為が始まったばかりだし、これ以降は更に深く絡み合うだろうことは容易に予想出来る。
 今の内に離れないと、自分の身体の内に灯った炎ですら消す事が出来なくなりそうだ。
 分かっている、分かっている筈なのに……
(…もっと、見て、いたい…)
 留まっていたいと願ってしまう。
 これでは自分の意志で足を動かすのは困難の様だ。
 しかし、いつまでもこの場に留まったままでもいられないし、後ろに立つ薬研からもどんな指摘を受けてしまう事か分からない。
 いや、寧ろ後ろの男から一言、「行くぜ」と声を掛けられた方が離れる切っ掛けも思い切りも得られるのではないだろうか?
 ちょっとだけ不謹慎な事を考えた鯰尾だったが、しかしそれと同時にその相手がするりと両手を自分の脇の下から胸に伸ばしてきた事で、一瞬意識が真っ白になった。
「え……」
 戸惑っている相手の隙を突く形で、薬研は手早く相手のシャツを下からたくし上げ、素肌に己の指を這わせた。
「薬研…っ!?」
「しぃー……聞かれるぜ?」
「…っ!」
 最初にこの場に来た目的は決して覗きではなかったが、今、もし自分達の姿が知られてしまえば、その言い訳は先ず通じないだろう。
 先程までは動けなかった鯰尾が、薬研の唐突な行動に慌て、寧ろ相手にここからの退去を促そうと彼の腕に手を掛け囁いた。
「ま、まずいって……もう、行こ…」
 止めながら、自分の身体が相手の指先に色好い反応を示してしまう事を感じ取り、鯰尾の頬が赤く染まってゆく。
 そんな相手の狼狽をあっさりと見抜いた薬研は、くつくつと小さな笑みを漏らしながら、離れるどころか逆にきつく相手を後ろから抱き締めた。
「…お互い、兄の濡れ場で興奮する変態だっていうところも、兄弟…なのかもなぁ」
「ちが…っ」
「手も振り払えないぐらいにその気になってるのに、今更だろ?」
 くりくり…とシャツの下で両方の胸の突起を摘ままれ、弄られ、思わず声を上げそうになった鯰尾だったが、かろうじて掌で口を押えていた事によってそれを防ぐ事が出来た。
 不安も露わに一期一振達の様子を伺ったが、幸い、こちらの存在についてはまだ気づかれてはいない様だ。
 そもそもが、此処は自分達政府側の関係者しかいない筈の本丸。
 如何に刀剣男士とは言え、常日頃から意識を戦闘態勢の状態に維持する等は出来る訳もないし、味方の陣であるという安心感もあるのだろう。
 向こうの二人は彼らに覗かれているという事実には気づいていないまま、相変わらず肌を重ねて艶めかしく蠢いている。
 今は…日向が一期の胸の突起を舌で美味しく味わっている様だ。
 そんな少年の姿と、自分が薬研によって弄られている場所が脳内で重なり、一気に身体に籠る熱が増した。
「あ、あぁ……」
「ほぅら……いち兄が日向に悪戯されてるのを見て、お前も……な?」
 きゅうっ…
「あ、ふぅ…っ」
「ココ、弄ってほしかったんだろ? こんな尖らせて…」
 ひやりとした感触の薬研の指先に乳首を触れられ、ぴくんと鯰尾の肩が揺れる。
 その前から既に尖りつつあった乳首が更に固くなり、乳輪もふっくらと緩やかに盛り上がり始めていた。
「可愛いな……お前のここ、俺の指に吸い付いてくる」
 自分ではよく分からないが、触れられたら快感を覚えてしまうこの身体は確かに相手の愛撫に素直に応えてしまうので、そうなんだろうかとぼんやりと考える。
 それよりも今の鯰尾は、胸の突起を弄り回される快楽を追う事と目の前で繰り広げられる兄の艶姿を凝視するのに必死だった。
『あぁ………きもちい…』
(ああ……俺も、気持ち好いよ…いち兄……俺も同じ様に、乳首弄られて………)
 心の中で呼びかけ、荒い息遣いが漏れない様に手で口を押さえている鯰尾の前で、胸への愛撫を受けていた一期一振の着物をはだけた日向がその手を相手の身体の中央へと伸ばした。
(あ……っ…すご…)
 日向の手が、勃ち上がりつつあった一期の楔を優しく握りつつ持ち上げ、それからぐっと握り込んで上下に扱き出す様子が覗いている二振の兄弟刀達の眼に映る。
『ん、はぁっ…あ、いいっ……』
 身を悶えさせながら嬌声を上げる兄は、無意識なのか腰を日向へと押し付ける様に蠢かせ、その両手は胸への愛撫も続けている日向の頭を掻き抱くような形になっていた。
 日向の手に握られ扱かれている兄の分身は、既に先走りを溢れさせ、茎まで零していたのか、少年が手を動かす度にぬらぬらと滑った光を放っている。
(…気持ちよさそう……ああ、いいなぁ……俺も…)
 あんな風に……昂ぶりに触れられ、高められて……達したい
「……羨ましいのか?」
 見透かされた様に…
 そっと背後からそう囁かれ、思わず呼吸が止まる。
 この兄弟は自分の心を読めるのだろうかと訝しんでいると、そんな心の機微にも気付いたのか、薬研が苦笑いを含んだ声で付け加えてきた。
「お前の身体、本当に正直だよな…自分が腰振ってるのにも気づかなかったか?」
「っ!?」
 思わず自分の下半身を見下ろすと、流石に腰の動きは止まっていたものの、中央部はしっかりと下から持ち上がりテントを張っていた。
 成程、確かにこれでは弁解も出来ない。
「う……」
 自分の身体の反応を目の当たりにしたことで更に興奮が増したのか、顔を伏せて横に振ることで欲求を誤魔化そうとしているのか……
 鯰尾が小さく呻きながら身を捩っている姿に薬研も欲情したのか、少しだけ逸った手つきで後ろから相手のベルトを外しに掛かり、上手くバックルが外れると、その勢いのままに手を中へと差し入れた。
「あ……!」
 日向が一期一振にしていた様に、ぐ、と熱い塊を握られゆっくりと扱かれ始めると、びりびりと電撃の様な快感が中心から全身に向かって走り抜ける。
「は、あ……ああぁ…」
 微かに声を零しながらも、鯰尾達の視線は相変わらず襖向こうの二人に向けられたまま。
 こっそりと覗く濡れ場は、いけない事だと分かっているからこそ生まれる背徳感を更に煽り、彼らの視線を逸らせる事を許さなかった。
 今は日向の指は一期一振の胸からは離れ、代わりに彼の身体は移動してその顔が相手の肉棒の直前に位置していた。
 二人の見ている前で、あの少年は躊躇う事もなく舌を出し、一期の茎を根元から先端に向かってつつぅと舐め上げた。
 それを遠目に見つめていた鯰尾が、ぞくんと走る戦慄に身を震わせる。
 拙いながらもその行為には熱が籠っており、その熱に浮かされる様に一期の身体がしなっていた。
 日向の口淫はそれからも続き、その全てを鯰尾と薬研は見つめていた。
「………口でもしてほしいか?」
 不意に囁きかけられ、は、と鯰尾が振り返ると、何かを期待している様な笑みを浮かべている薬研がいた。
「…なぁ?」
 一瞬だけ逡巡したが、鯰尾の視線の先に再び日向たちの睦み合いが入り、欲望が彼の背中を大きく押す形になった。
「…………ん…」
 小さく頷いた鯰尾に笑みを深くすると、薬研はぬるりと一旦手を離して、ぐい、と相手の身体の向きを変えさせる。
 それまでは寝所に繋がる襖に向かっていた身体を、その脇にあった私室の壁に背中を付ける形にすると、薬研は手早く相手の下を下着ごとずり下ろし、再び彼の分身を手で支え持った。
「力抜けそうになったら、壁に寄りかかっとけよ?」
 下手に身体の姿勢を崩して、音をたててしまう訳にはいかないと薬研も考えていたのだろう。
 支えとして壁を使って寄りかかってさえいれば、後は声だけに意識を向けていれば何とか向こうの二人をやり過ごす事は出来る筈。
 まぁそもそもそういう行為を止めたら全てが片付く話なのだが、血気盛んな男たちの性欲はそんなにあっさりと治まるものではなかった。
「声、気をつけろよ……」
 俺としちゃ、好い声は聞きたいんだけどな…という言葉を呑みこんで、薬研はぺちゃ、と亀頭の部分に舌を這わせた。
「…っ!」
 既に数秒前まで手指によって刺激を与えられていたそれは十分に敏感になっており、軽く舐められただけでぞくんと鯰尾の背中に快感の波が走る。
 手で口を塞いでいなかったら、既にこの段階で声が漏れていたかもしれない。
「ん………」
 熱い肉棒を舌で慰める様に先端から茎、根元へと丹念に優しく慰撫していくと、その度にぴくぴくと熱棒が震え、連動する様に相手の太腿の筋肉も小刻みに痙攣するのが見えた。
(やばい……やばいっ!……声出せない分、追い詰められ…て…ああっ、そこ…!)
 ぐぐっと強く口を塞ぎつつ、天を仰ぐ形で鯰尾がきつく瞳を閉じる。
 つぷ……つぷり………
 男根だけではなく、後蕾にも指を差し入れられて何度も粘膜を擦り上げられてしまい、鯰尾は首を幾度も横に振った。
 その場所を直に見なくても分かる。
 きっと秘蕾の奥はひくつき、震えて、薬研の指を悦んで迎えているのだろう。
「……っ!……っ!」
 声を出すということは快感に追い詰められた身体の一種の逃げ道を作るという事でもあるのだが、それが塞がれたことで身体にはどんどんと悦楽が積み重なって来る。
 薬研は他の刀剣男士達と比較し、人間の身体について非常に知識が豊富である。
 その分男の性感帯についても詳しいのか、口腔内で唾液を溜め、その洪水の中で楔を泳がせるように躍らせながら、ぬるっぬるっと浮き出た血管をなぞる様に舌先を躍らせた。
 そして裏筋を散々攻め抜いた後、ぐっと根元近くまで呑みこみ、陰圧を掛けながら激しく前後に頭を動かすと、がくがくと身体を痙攣させた鯰尾が必死に両手で薬研の頭を掴んだ。
「……ッ!!……~~ッ!」
 手を離した代わりに、ぎりりっときつく歯を噛み締める事で声を堪え、鯰尾は顔を俯けながら腰を震わせる。
「……っ」
 どくっ どくん…っ
 薬研の口の中に幾度も白濁液が注ぎ込まれ、彼はそれを全て受け止めて飲み込んだ。
「は…ぁ……っ」
 欲望を全て吐き出した後、力が抜けてしまった鯰尾は、ずる…と壁を伝う形でそのままその場に蹲る様に腰を落とす。
「………」
 ぺろ…と舌で唇を舐め、薬研はそんな兄弟を上から眺めていたが、自身も腰を落として相手と視線を合わせた。
 と、不意にその視線が向こうから逸らされる。
「…?」
 思わず相手の視線を追いかけた先に見たものは……
(あ……っ……挿れてる…)
 そこには遂に一期の蕾に楔を突き立てているだろう日向の姿があった。
 横から見る形ではその挿入部を見ることは叶わないが、彼らの腰の位置や動きから、どういう状況にあるのかを伺うことは可能だ。
『あ…あっ…! 日向……素敵…っ! はぁぁん、激しくって…なか、灼けそう…っ!』
 ずっぷりと既に半分以上は相手の楔を呑み込んでいるだろう自分達の兄は、悦びに打ち震える声を上げながら自ら腰を蠢かせてより深く日向を迎えようとしている。
(ああ……あんなに二人とも激しい腰使いで……)
 今の自分にとっては、あまりにも刺激的な光景。
 雄としての欲望を吐き出したばかりではあるが、身体の最奥の疼きはいまだに満たされてはいないままなのだから……
(欲しい………)
 あんな風に自分も思い切り貫かれて、淫らな疼きを鎮めてほしい……と思っていたところで、ぐっと腕を前へと引かれてそちらへと顔と意識を向ける。
「薬研……?」
 正面からこちらを見据えている薬研の瞳には、一目見ても簡単に消えそうにない熱が篭っているのが分かった。
「悪い…………俺も、もう限界…」
「……!」
 その時ようやく鯰尾も理解が追いついたが、襖の隙間から一期達の秘事を覗き始めた時から、自分ばかりが愛撫を受けており、彼の方はほぼ放置状態だったのだった。
「ご、ごめん……俺ばっかり気持ち良くしてもらって…薬研だってきっと達きたいのに…」
「ああ、まぁそれはいいさ…けどもう流石に…」
 薬研は耳元にその唇を寄せてひそりと囁いた。
「…なぁ、お前の内で達かせろよ………欲しいだろ? お前も…」
「!…」
 誘われる様に……或いは誑かされる様に問われた鯰尾は、それを聞いた直後に思わず頷いてしまっていた。
 そして頷いてしまった後になって、自身の行為の浅ましさに頬を染めて俯いた。
 どうしよう…殆ど条件反射の様に頷いてしまった…けど、してほしいのは事実だし…………
(それに……薬研もきっと辛い、よね…)
 今、相手はどうなっているのだろう……?
 そんな純粋な興味に衝き動かされた様に鯰尾の手が自然に相手の下半身に伸び、そこにあった楔を握り込むと、その熱さと固さに彼は思わず生唾を飲み込んだ。
(凄い………いつもよりおっきくて…反り返ってる気が……)
 こんな状態なら、同じ男としてもどれだけ辛いかよく分かる。
 ここまで育ってしまったら、このままでは治まらないだろう…やはり、鎮めてあげなければ。
 そう思ったのは決して義務感によるものだけではなく、正直な話、相手の熱を手にして実感した途端に身体の奥が反応した様に疼いたのだ。
(駄目………俺も、我慢出来ない……欲しい…!)
「…鯰尾…?」
 そっと身を寄せてきた相手の名を呼んだ薬研に、向こうは切なげな声音で小さく囁いてきた。
「…声……我慢する、から………ここで、これで、して…」
「!……途中で止めるのは、もう、無しだからな?」
 そんな断りを入れると、薬研は腰を落としたままその場に蹲っていた相手を抱き抱えると、自分の上に乗せる形で両者が襖の向こうを覗く方向を向いた。
 そして、ゆっくりと鯰尾の身体を己の楔の上に落としてゆく。
(あ……っ)
 ずぐぐ…と自分の内にいきりたった熱が侵食を果たしてくるのを実感し、心の中だけで声を出しながら鯰尾を反応を示す。
 欲しかったモノ、待っていたモノが粘膜を擦り上げながら奥へ奥へと侵入ってくる……
 相手の腰が勢いをつけながら下から突き上げる度に、肉棒が根元まで呑み込まれていくのを感じながら、鯰尾は浅い呼吸を繰り返してその圧迫感をやり過ごしていく。
 相手に初めて犯されたのは数日前の出来事だったが、向こうの知識が豊富だった影響かそれとも自身の身体が『そう』だったのかは不明だが、鯰尾は既に雄に犯される快感を覚えつつあった。
 薬研も楔による攻めだけではなく、後ろから回した両手で胸の蕾を弄り回して更に快感を積み上げていき、鯰尾は浅い呼吸と共に溢れる涎を止められず、だらだらと唇の端から垂れ流していた。
「……気持ちイイだろ…?」
 耳朶を甘く噛んだり舌で舐め上げたりしながら、笑みを込めた声で薬研が囁いてくる。
「兄が犯されているところを眺めながら兄弟にこんな格好で犯されて腰を振って……なぁ、ばれてこんなところを見られたらどうしようか…?」
「…っ!!」
 はっと我に返った鯰尾の瞳に、一瞬、理性の光が宿る。
 薬研の言う通りだった。
 今は自分達は寝所に居る訳ではなく、その寝所の外から中を覗き見ている形。
 しかもただ見ているだけではなく、彼らのまぐわいを眺めながら両脚を男達に向けて繋がった場所を見せつける様に大きく開いているのだ。
 もし、もし二人がこちらの気配に気づいて視線を寄越すことになれば…今の自分達の恥ずかしい姿を晒してしまう事になる…
「~~~っ!!」
 そんな自分達の姿を想像した瞬間、背筋に戦慄が走るのと同時に、身体の奥の秘肉が無意識に収縮するのを感じた。
 そしてそれによって咥え込んでいた肉棒の存在をより強く感じる事になり、息を詰めた鯰尾の背後で、薬研もまた呼吸を止めた気配がする。
「…っ……見られる事を想像して興奮したのか…ほんと、やらしい身体だなお前は…!」
 ずぐんっ!!
 一際強く下から突き上げを食らい、鯰尾は反射的に口元を両手を押さえて声を堪えた。
(や……だっ…やばい……っ!…こんな、おく…っ)
 踵が床に擦れて音が立たない様、薬研が鯰尾の左右の膝裏を両手で抱えて身体の方へと寄せたので、鯰尾の全体重が掛かる形で薬研の楔が相手の身体をより深く奥まで貫いていた。
 ゆらゆらと揺れる自分の両脚を虚ろな瞳で視界の脇に捉えながら、自分達の体勢を一期達が居る場所からの視点から見た姿を脳裏に思い描く。
(だめ、だめ…ぜんぶ、まるみえ……! 俺の恥ずかしい穴に、薬研のオ〇ン〇挿入ってるのも! 俺のオ〇ン〇が悦んでるのもっ! 全部見られちゃう…!! だめだめ! 見ないでっ! こっち見ちゃやだぁぁっ!!)
 彼らはまだ見てはいないのに。
 今も変わらず互いの肉欲に溺れ、互いが与え合う快楽に夢中になり、行為に没頭しているのに、鯰尾の脳内にはまるで今正に彼らが自分達の姿を認め、侮蔑の視線を向けられているかのような錯覚の中にいた。
 それなのに、興奮してしまう。
 彼らの冷たい視線を想像するだけで、ぞくぞくといけない背徳感が背中を駆け上がり、それがより一層自身の欲望を燃え上がらせている。
(いち兄の見ちゃいけないとこを見ながら、自分が見られてるとこを想像して、薬研のオ〇ン〇突っ込まれて悦んでるなんて……俺…すっごくいけない子だ…)
『んんっ!! あっ! やあぁっ…!! オ○ン○膨らんで、る…っ!! あ、あああ~~~~っ!!』
 微かに隣の部屋から聞こえてくる兄の絶頂間際の声に、同じく犯されている者として激しい同意を抱いた。
(わかる、よ、いち兄…! 俺も、薬研に犯されて……なか…ずんずんってされて……もっ……達く…っ!!)
 自分達の接合部からのものなのに、何故か遠くに聞こえる淫らな水音までもがこの身体を煽ってくる。
 ずっちゅ、ずっちゅと粘った音の間隔が徐々に短くなってくると共に奥を突いてくる熱棒の激しさも増し、背後から聞こえる薬研の吐息も忙しなくなってくる。
「や、げん………もっ…う…」
 吐息に混じって微かに届けられる懇願に、額に汗を滲ませながら薬研が頷いて答えた。
「ああ………達こうぜ?」
 それを合図にした様に、薬研が今までより、より一層腰を高く勢いよく上へと突き上げ、鯰尾の最奥を激しく攻めた。
 二度、三度と連なる攻めに、鯰尾の目の奥に火花が散る。
「ふ………うっ…!! くぅぅ……っ!!」
 声にならない声を上げ、びくんと背を反らした鯰尾の目尻から涙が零れる。
 同時に、涙とは比べ物にならない激しい勢いで、鯰尾の欲棒の先端から乳白色の濁液が迸った。
 びゅるっ! びゅるるっ…! びゅくん……っ!!
 射精の快感に打ち震える少年の絶頂に呼応する様に、彼の秘肉がきゅううと締まり、薬研の肉棒により強く絡みつき、締め上げた。
「くっ………」
 きり、小さい歯軋りと共に、薬研もまた肉欲を解放して己の分身から劣情を放つ。
「ん……んっ…!!」
「ちゃあんと下の口で全部飲めよ…っ?」
 下手に床に零れる事が無いように、深く深く挿したままで精を注ぎ込みながら薬研は相手にそう命じた。
 声を殺すのに必死でそこまで聞こえていない様にも見える鯰尾だったが、その言葉に反応する様に尚もきつく薬研の雄を締め付けている。
 そして、そんな身体の反応は相手がそれを引き抜く時にも続いていた。
「……良い子だ……一緒に風呂に行って、洗い流そう、な………」
 取り敢えず、今は此処を早く離れなければいけない…向こうの二人が寝所を出る前に。
 幸い、と言うべきか自分達の兄はまだ日向に組み敷かれ、その欲望を受け止めている最中だ、その隙にこの場を退散するのは然程難しい事ではないだろう。
 ひそと囁き、ぐたりと脱力してしなだれかかってきている兄弟を優しく抱き止めながら、薬研は床に散った相手の精の残渣を見つめていた。
(後はこれを拭き取って風呂に入れば、証拠隠滅は出来るだろうが……今更、その意味はあるのかな…?)
 犯され、快感に溺れていた鯰尾は気付いていない様子だが……自分達が此処にいるという事実を一期一振は間違いなく気付いている。
 一瞬…いや、刹那と言っても良いだろう僅かな時、相手の視線が襖の隙間を通り、こちらの二人の姿を捉えていた時があったのだ。
 向こうはこちらを認識した瞬間、微かに驚きの彩を瞳に浮かべていた様だったが…特にその事実を日向に語るでもなく、その場で責めるでもなく、見て見ぬふりをする様に再び日向との行為に溺れていった。
 何となく、その口元には笑みが浮かんでいた様な気もするのだが……果たしてそれは自分の見間違いだったのかどうか……
(まぁ………どの道、いち兄達ともすぐに風呂で会えるだろうしな……多少のお説教は覚悟しとくか………それとも、もっと面白いことになるかもだが…)
 他の刀剣男士達が働いている昼日中からイケナイ事をしていたのはお互い様だし、そんなにきついお小言にはならないだろう…と薬研はこっそりと唇の端を歪めながら思った。
(面白いことになるのだとしたら…それは、夜、だな……)
 そして薬研の予想の通り……その夜には久しぶりに兄弟全員が揃い、更に日向が加わる事になり……
 秘められた淫靡な世界が幕を開けることになった………