一月二日 夕刻
「やぁ、面影。何だか久し振りに会う気がするね」
「ああ、燭台切。確かに、元旦の朝に会ったきりだった、か?」
一月二日夕方の本丸は、相変わらずまったりとした空気に包まれていた。
三が日、と言う様に、一月三日までは内番なども馬や畑の世話を除いたものはお休みである。
ぼちぼち身体が鈍るのを恐れた刀剣男士達の何人かは自主的な手合わせに勤しんでいるが、本丸全体は今だけ戦とは無縁の空気に包まれている。
久し振りに顔を見た燭台切は、休日でも相変わらずぴしっと整った身なりで、居間で面影と挨拶を交わしていた。
彼も自身と同じく今日は軽装の出立ちなのに、何処にも隙が見えないのは流石、伊達男と言うべきか。
「初めての本丸での正月はどうだい? 三日月さんの話だとちらほら散歩したり、入浴を楽しんだり、満喫しているみたいだけど」
「ああ……」
三日月が周りに上手く誤魔化したり取りなしたりしてくれているが、自分は散歩どころか本丸からは一歩も外には出ていない。
更に言えば、碌に部屋からも出ず、ずっと寝室に篭っている様な状態。
しかもそれは自分の部屋でもない、隣の三日月の寝室なのだ。
そう、元旦からずっと、面影は三日月の部屋の布団の中で、彼から滅茶苦茶に可愛がられているのだった。
流石に誰にも知られる訳にもいかないので、他の男士達には自分が時々散歩に外に出ている事にしようと、三日月と示し合わせていた。
入浴…は嘘では無いのだが、湯船の中でもいたしていた事を考えていると、殆ど二日間通して自分がした事は、三日月との甘く濃厚なまぐわいだけ。
(……流されてしまったこちらにも非があるのは認めるが…自分をじじいだと言いながら、何故奴はあんなに絶倫なんだ…)
この二日間、何度彼の手の中で翻弄され、達かされたか最早覚えていない。
恐ろしいのは、その二日間の経過の中で一度でも本気で拒絶した記憶が無いという事だ。
少し疲れたくらいでは解放してくれないのだが、その手管がまた上手いというか賢しいと言うか……
疲労した身体に優しく触れてきて、労る中で確実にこちらの性感を高めてきて…いけないと思った時には既に消せない火を灯されてしまい、結局ずるずると…最後まで……
しかもその火に煽られ、欲望を止められなくなり、自ら相手を求めてしまう事も数知れず……
コトが終わって相手を非難しても、『お前もおねだりする程に悦んでいたではないか』という一言であえなく完敗。
(と、歳を取って老獪になっているのは分かるし……比較出来る相手もいないが、う、上手いのも認める………が、じじいなのにあんなに性欲が強いのは普通なのか!?)
そう思ったところで、はた、と気づく。
あの男が性欲が強いとしたら、それに応じられる自分も性欲が強いという事で………
「〜〜〜〜〜」
考えれば考える程にこの二日間の甘い逢瀬を思い出してしまい、面影はこっそりと頬を染めつつ俯いた。
「大丈夫かい? 何だか頬が赤い様だけど…」
「! ああ、いや……」
思い出した秘密の光景に顔を赤くしていた面影に、何も知らない燭台切が親切に声を掛けたが、無論真実を語る訳にもいかず面影は首を横に振った。
「何でもない。外に出ていた時の冷気を少し思い出してしまった様だ」
「ああ、確かにまだまだ冷えるからね。でも、あのきんとした空気は嫌いじゃないよ。知らず緩んでいた身を引き締めてくれる」
「燭台切らしいな」
すっと流れる様な動きで居間の卓前に座した面影と入れ替わる様に、燭台切が立ち上がる。
「食事に来たんだろう? 待っててくれ、雑煮を温めてきてあげよう。お餅は幾つ?」
「あ……有難う。一個で大丈夫だ」
「オーケー」
ついいつもの癖で自分で賄おうと言いかけた面影だったが、それは未遂のままに再び腰を下ろす。
此処に来て他の男士達と生活する様になって自分もそれなりに馴染んできた、と思う。
最初に来た時には全てを自分一人でこなそうとしていた。
当たり前だ、単独行動に就いていた自分にとって、頼れる者は常に自分一人だけだったのだから。
一人で全てをこなして当然、それに疑問を抱く事など無かったのだが、この本丸に来てからその不文律は見事に崩された。
最初は遠慮という形でそれを固辞していたのだが、そんな彼を優しく諭したのは本丸の刀剣男士達を当時束ねていた三日月宗近だった。
因みに現在彼らを束ねているのは、言うまでもなくかつて彼らが焦がれる程に待ち望んでいた審神者である。
『人に得手不得手がある様に、刀剣男士もまた然り、だ。何でも己が手で抱えようとすると、いずれはその重みで潰されるぞ、面影よ』
優しく、心にするりと入り込んでくる様な声でそう言いながら……彼は躊躇いなく歩み寄りそっとこちらの頭を撫でてくれた。
天下五剣、その中に於いて最も美しいとされている男。
刀剣男士の中でも雲の上の様な存在だった彼が、いきなり転がり込んできた不審者である自分にここまで歩み寄ってくれるとは、正直考えていなかった。
「お前……何を考えている」
驚きでこちらが半歩退きながらそう意見した時も、向こうは機嫌を損ねるでもなく笑ったままだった。
「もし私が向こうの間者だったらどうするつもりだ。お前は此処の大将なのだろう、そんなに警戒心なく私に近付いて……」
寧ろ新参者のこちらの方が切迫した様子でそう進言していた気がする。
「ははは」
そんなこちらの様子を見ていた男は呵呵と声をあげて笑い出した。
「はは……良い、良い。改めて今、お前が此処に無害な者と分かったぞ。これから宜しくな、面影」
「は………え…?」
「間者がわざわざ警戒を促す様な事を言うものか……こら、何という顔をしている?」
「うあ」
自分を無害と断じてつらつら話す相手のペースについていけず呆けていた面影の頬を、面白そうに三日月が優しく摘む。
まるで大人と子供のやり取りだったが、相手の生きてきた…存在してきた年月を考えたらそれも当然か……釈然とはしないが。
「………」
「これまで長い事、この本丸には大太刀が不在だった。お前が来てくれたお陰で今後の戦術にも幅が広がる。期待しているぞ」
「あ………ああ」
本丸の広い庭。
縁側に近い場所で行われていたそんな短いやり取りを少なくない人数の刀剣男士達が呑気に傍観していたが、皆が何かを感じたのか、察したのか、誰も何も言わず、手を出そうともしなかった。
にこにこと上機嫌の三日月がその場を去った代わりに、今度は純白の衣が眩しい白髪の美丈夫が面影に近づく。
「ようよう、三日月からのお墨付きも無事に貰えたみたいだな。これでもうお前を疑う奴は本丸にはいないだろうぜ……長谷部はまぁ、つまらん意地を張っているだけだ、気にするな」
「……三日月は…少し無防備過ぎるのではないか? あれではいつ寝首を掻かれるか…」
「…………ははっ」
面白いものを見たとばかりに鶴丸もまた三日月と同様に笑い……その笑みがすぅっと皮肉のそれに変じていった。
「雛鳥が鳳凰の心配する様なもんだぜ、そりゃ」
「え……?」
「不用心に、お前があいつに近付くのを許したと思うか? 心配無用だ、お前が悪意ある奴だったら、あいつの間合いに入った時点で只の肉の塊になってたさ。真っ赤な、血のおべべを着せてもらってな」
「…っ!」
思わずその光景を連想して、面影の背中がひやりと嫌な冷感を感じて緊張する。
目の前の白の男がハッタリを言っている様には到底思えない。
「同じ平安生まれの俺が言うのも何だが、あいつああ見えてかなりの食わせものだからな。とても優しいが、この上なく怖い奴さ」
「………」
では、自分はあの笑顔にまんまと騙されていた…?
あの笑顔は、心からのものでは無かった……?
しかし、そういう事なら、あの男の新参者に対する態度は正しかったということでもあり………
「………それにしても」
色々と思考が忙しい面影の前で、今までの皮肉の笑みを消した鶴丸が改めてまじまじと相手を見つめる。
「? 何か…?」
「いや、随分と三日月に気に入られたもんだなぁってさ。確かにお前の千変万化の妙技、戦場でも撹乱に大いに役立つだろうが…」
ふむ、と手を顎に当てて少しだけ思案した後、いや、と彼は首を横に振った。
「そういうのは関係ない気がする……何にしろ、あいつがあんなに嬉しそうな顔をするのは久し振りだ」
「???」
まだ、上手く理解ができない。
三日月は自分を試す為に、敢えて無防備を装ってこちらの出方を伺っていた筈だ。
だから笑顔を繕い、この新参者の本心を引き出そうとしたのだと、そう取れる。
それなのに目の前の男は、あの笑顔が偽りのものではなかったという。
敵かも分からない輩を誘いつつ、本心から笑うなど…何の緊張もなくそういう事が出来るなど………
(………………ああ、そういう事か……彼は、本当に…)
そういう存在なのか、と、面影は己の心に強く戒めを刻んだ。
甘噛みしか出来ない雛鳥を恐れて、鳳凰が機嫌を取るなどあり得ない。
只一度のこちらの羽ばたきで身を刻める程度の存在であれば、笑みを浮かべるなど実に容易な事だろう。
三日月宗近、天下五剣の一振り……
(全く………あの時の自分は、無知の極みにあったな…)
過去に思いを馳せていた面影の頭上から、不意に燭台切の言葉が降ってきた。
「お待たせ……おや、何を思い詰めてるんだい?」
「あ……」
振り仰ぐと、お盆に自分の分のお雑煮を乗せた燭台切が、人懐こそうな笑顔を浮かべてこちらを見下ろしてきていた。
湯気が立っている椀を見て、自分が随分長く思考に耽っていた事に気づき、面影が内心慌てつつ頭を下げる。
「すまない、ちょっと……此処に来た時の事を思い出していた……」
「そうか………まぁ、新たな区切り、その始まるとなるこの時期だからこそ思い出す事もあるだろうね。何を思い出してたんだい?」
「些細な事だ。一人で何でも抱え込むものではないと三日月に………些細な事だが、私にとっては大きな事だった」
「ああ……成程」
得心がいったとばかりに頷きながら、燭台切は雑煮の入った椀を面影に手渡し、相対する卓の前に座った。
「僕も覚えている。来たばかりの君は、確かに料理でも何でも全ての事をこなそうと必死だったよね。今だから言えるけど、結構僕と歌仙は気を揉んでいたんだよ」
「? 二人が?」
「ああ、もしかしたら僕達の味付けが気に入らないんじゃないかってね。ほら、君は今もそうだけどやたらと遠慮深いところがあるだろう? 不満があっても言えないんじゃないかって心配していたんだ」
「そんな事は…! そういう心配をさせていたとは思っていなかった、許してほしい」
座しながらも真摯に頭を下げてくる面影に、いやと燭台切は首を横に振った。
「勿論、今はもうそういう事は思っていないさ、僕達の料理にも喜んで手をつけてくれる様になったしね。けどまぁ当時はそういう懸念もあって、三日月さんに相談したりもして……君が早い時期から此処に馴染める様になった事も、あの人のお陰じゃないのかな?」
「!?……」
三日月が自分に声を掛けてきたのは、彼一人の意見ではなく他の男士達の気遣いもあったのか……しかし、早々に自身から動いて働き掛けてくれたのは、自分と彼らとの間におかしな溝が出来ない内に、と慮ってくれたからなのかもしれない。
「………」
「君と三日月さんは、とても仲が良いみたいだからね」
この時、もし雑煮を含んでいたら間違いなく噴き出していただろう。
そういうタイミングでは無かった事を心から感謝しつつ、面影は思い切り目を泳がせながら聞き返した。
「なっ、仲が良いって……私などが、天下五剣の彼と……」
「君、自分のことになると凄く鈍感だよね」
僕は分かってるよ、と言わんばかりの相手の視線に、一気に動悸が激しくなる。
まさか、まさか二人の秘密の関係にも気づかれてしまっているのか……と内心構えてしまっている面影の前で、うんうんと相手はしたり顔で頷く。
「まぁ、三日月さんの気持ちも分かる。君ほどに純真な新参者だと、新しく、素直で利発な子供か孫が出来た様なものだからね。可愛がりたくもなるよそれは」
「…………」
これは……どう返すのが正解なんだ…………
三日月の名誉の為には訂正しておくべきなのかもしれないが、このまま勘違いさせておいた方が後々平和かも……と悩んでいる間にも燭台切の言葉は止まらない。
「そうそう、仲が良い面影さんから一つ三日月さんに言ってくれないかな。今年のお雑煮、僕と歌仙で話し合って三日月さんへ出すお雑煮の餅を賽の目斬りにしたんだけど、どうにも受け入れて貰えなくて……僕達だけじゃなくて他の皆の心臓の為にも、君からも言って貰えたらもしかしたら………」
(何やら御老体の介護相談の様相に………)
しかしこれなら自身が懸念していた余計な詮索はされなくて済みそうだな……と、安堵して良いのか良いのか分からないまでも、心拍数を落ち着けつつあった面影だったが………
「仲が良いことだ」
ぞわぁ…っ
優しさの奥に得体の知れない何かの感情を込めた言葉が上から降ってきて、思わず面影が肩を竦めた。
背後を振り返り、聞き間違う筈もない声の主の姿を再確認する。
「み…かづき…?」
「随分と楽しげに話をしているな……じじいも仲間に入れてくれるか?」
見下ろしてくる相手の目がすぅと眇められ、それを直視した面影の呼吸が止まる。
分かってしまう……今の相手の機嫌がすこぶる悪くなってしまっていると。
その原因も大体察しはついてしまっているが、それについては大いに異議を申し立てたい気分だった。
「三日月、彼は……」
自分と燭台切はお前が懸念している様な間柄ではない、と、相手を前にしてどう説明するべきか悩んでいたが、そんな若者の代わりに燭台切本人が声を上げてくれた。
「面影さんに頼んでるところだったんだよ。三日月さんのお餅の件で」
「餅……?」
一瞬、怪訝な表情を浮かべた三日月だったがすぐに思い当たる事があったのか、すっと明後日の方向へと視線を逸らす。
しかし、直前まで感じられていた不機嫌の気配は霧散した様で、ようやく面影はまともに呼吸する事を許された。
餅という単語からも、二人が艶っぽい会話をしているとは到底思えなかったらしい。
「面影よ、まさかお前まで無粋な事を言うのではあるまいな。賽の目斬りの餅など御免だぞ」
「いや、私は……」
ぶっちゃけその是非に至るまで、まだ思考が纏まってないのだが………
「好き嫌いの問題じゃないよ三日月さん。これは貴方の健康を考えての事であって…」
「流石に俺はまだそこまでじじいではないぞ」
「いつもの口癖はどこ行ったの!?」
普段じじいじじいと自分を連呼している癖に、と返す燭台切に三日月も負けじと言い返している……が、最早面影はどうでも良くなったのか、一人我関せずで雑煮の中の餅をみょーんと伸ばしつつ食べ始めていた。
(……触らぬ神に祟りなし……ということなのかな、これは……)
今はそういう事にしておこう…と、無理やり自分を納得させながら、面影は変わらず舌戦を繰り広げている二人の様子を遠巻きに眺めていた………
それから数刻後
面影は一人、三日月の部屋の前に立っていた。
「…………」
この部屋を訪れるのは、相手との約束の通りだった。
食事を摂る為に居間に向かうよりも前の刻……実は二人は褥で約束を交わしていたのだ。
ひとしきり三日月に可愛がられた後、ぐったりと布団の中で身体を横たえていた面影の手に、するりと三日月が自分のそれを重ねて指を絡めてきた。
「なぁ…今宵も、此処に来てくれるだろう?」
「!…ま、まだ……足りない、のか…?」
相手の誘いに面影は動揺しながら、赤くなった顔を下に俯ける。
互いに布団の中で横臥位で向き合いながら、三日月はそっと絡めた相手の手を持ち上げて、ちゅ、と優しく指先に口付けた。
「うむ、お前に関しては、俺の欲はそう簡単には満たされんらしい………三が日が過ぎればまた戦いの日々だ、それまでは只管にお前を感じていたいのだ。お前は同じ様に思ってはくれないのか?」
「う………」
疑問に疑問で返すのはずるい……と心で訴えつつ、面影は顔を赤くしたまま手に力を入れて握り返して答えとした。
「……わ、分かった……後で、向かう……」
その返答に嬉しそうに微笑み、三日月は頷いた。
「先に俺が戻るのでな。お前は少し遅れて来ると良い………ああ、部屋に入ったら少し驚くかもしれんがまぁ気にするな。害はないのでそのまま入って来ると良い」
「…? 何かあるのか?」
当然疑問に思い尋ねたのだが、結局はっきりとした返答は得られなかった……
その時の事を思い出し、部屋の前で面影は躊躇う様に暫し佇んでいたが、やがて意を決した様にすぅと障子に手を伸ばしてそれを無音で開く。
その視界の先に広がるのは、見慣れた三日月の私室の光景…だった筈なのだが…
「…えっ…?」
見えたのは、真っ白な世界。
霧なのか霞なのか分からない…靄が自分の視界を妨げていた。
(面妖な……!)
思わず自身の本体である大太刀を手元に喚ぼうとしたところで、はっと思い出す。
『部屋に入ったら少し驚くかもしれんがまぁ気にするな。害はないのでそのまま入って来ると良い』
(……この事を言っていたのか……?)
確かに驚くべき事態だが…と思いつつ念の為に先の気配を窺ったが、敵意らしいものは感じられない。
となると、部屋の中がこうなっているのは三日月の仕業か…?
(何のために…?)
向こうの意図が分からないままだが…これが彼の仕業だとしても、自分を傷つけるつもりはない筈だ。
それは間違いないことだと信じ、面影はすっと一歩を踏み出し、三日月の私室であった空間へと入った。
「…ん」
障子の奥に入った瞬間、面影は自分が何か見えない膜に触れ、あっさりとそれを通り抜けた感覚を覚えた。
実際に感じた事はなかったが、本能でその正体を知った面影は少なからず吃驚した。
(神域か…!?)
人の世界と一線を画した世界を構築するという高位術。
刀剣男士も付喪神という神なのだが、神域を展開するにはかなりの神力を必要とする筈だ。
私室という狭まった空間に限るのであれば然程神力は必要ないのかもしれないが、それでもこれだけ安定した世界を構築するには相応の力が必須だ。
(…三日月にとっては、神域の展開など児戯に等しいのかもしれない……)
取り敢えず、彼を探さないとな…だが部屋の広さ程度ならすぐに会えるだろう、と歩を進めた面影はその考えがすぐに浅はかなものだと悟った。
「…………これは…」
てっきり部屋の広さ程度の神域展開だと考えていたのだが、単純に自分が進んでいる距離を考えても、明らかにそれより遥かに広い。
相変わらず霞で周囲の全容は分からないが、時折遠くに花を咲かせた立派な樹木の列が垣間見える。
まるで朝霞に隠された、自然溢れた山野を往く様だ……それを思わせる様に、空気も清涼そのもの。
もしかしたら、本丸全体の広さは悠にあるかもしれない…という事は、此処は時空そのものが三日月の意思によって故意に歪められているのだ。
何という強大な力か……
(……清涼な山野……此処が、あの男の心象風景………?)
きっと美しい世界なのだろうが、霞でその殆どが明らかにされていないというのは、如何にも彼という存在を象徴的に顕していると思う。
足元に目を向けてみても、そこすらもちゃんと地面が広がっているのか分からない。
踏みしめる度に足底に伝わる感覚は、土なのかそれとも雲の上なのかも分からない、実に奇妙なものだった。
そして今度は視線を上へ向けてみると、そこにはやはり天井ではなく、天と呼ぶべき広大な空間が拡がっている。
辺りはまだ夜明け前なのかそれとも黄昏時なのか分からない、薄闇が混じった明るさだったが、その光源が何処から来ているのかも分からない。
太陽も、月も、見上げた何処にも見える事はなかった。
(……三日月に忠告を受けていなければ、もっと混乱していただろうな…)
そう考えながら更に歩を進めようとしていた若者の鼻腔に、ふと、芳しい香りが飛び込んできた。
花の香りだろうか、それは更に先の方から流れてきている気がする…
立ち止まり、先の様子を窺おうとしたところで、今度は微かな音が向こうから聞こえてきた。
(………鳥の啼く音……いや、笛か…?)
最初は鳥が囀っているのかと思ったが、どうやら聞こえてくるのは何者かが吹いている笛の音の様だ。
細く小さい音だったが、それは非常に美しい調べであり、己を夢の世界に誘っているのではないかとすら錯覚する程だ。
(…誰が……いや、此処が三日月の神域であるなら、彼が吹いているのだろうが……)
あの男が楽器を嗜んでいるところは見たことはないが、あれだけ万能な男なのだから何ら不思議には思わない。
足利の宝剣として奉られていた事もある彼だ、きっと平安の世に打たれてから以降、数多くの貴族が集った管弦の場に居合わせていた事もあったのかもしれない。
当時の主が美しい音色に耳を傾けている傍らで、彼もまた同じように人々の戯れを微笑ましそうに見つめている…そんな光景を想像して、思わず面影は口元を綻ばせる。
その時も、彼は同じ様な姿だったのだろうか、それとも人と同じように幼いそれだったのだろうか…?
千里万里礼拝 奉勅安置鴻臚
「…!」
笛に重なり、誰かの唄が聞こえてくる。
遠くからのもので微かなそれだったが、間違いなく、三日月の声だった。
低く高く、滑らかに空気を渡って届けられる声は、笛の音と同じく面影の耳を魅了してくる。
(三日月……やはりこの先に居るのか…?)
元々部屋を訪れたのは三日月との逢瀬を過ごす為だったのに、おかしなことになった…が、今の状況を間違いなく楽しんでいる自分がいる。
声を出して相手を呼ぶ事も出来たが、聞こえてくる笛と彼の唄声を止めてしまうのが惜しく思えてしまい、面影は足早に彼がいる場所に急いだ。
(…? そう言えば、三日月が唄っているのなら、あの笛の音は誰が奏でているのだろう? 三日月が下位神でも召喚しているのか…?)
気に入っている下位の楽器神と共に歌を愉しんでいるのだろうか、と思っていたところで突然、彼の目の前の霞が晴れて一気に視界が開けた。
「あ………」
思わず声を漏らして立ち止まった面影の先には、艶やかな朱色の、『高欄』と呼ばれる装飾がなされた手すり、それらに囲まれた緑色の舞台が存在していた。
所謂、『舞楽台』と呼ばれる、舞楽が披露される舞台だ。
見事な装飾を施された絢爛豪華な舞楽台の周囲には、荘厳な姿の桜の木々が囲むように立ち並んでおり、笛の音に呼応する様に薄桃色の美しい花弁の雨を降らせている。
その舞楽台の中央に……あの男が居た。
燕山裏食喰 莫賀塩声平廻
雅な模様を施された扇を手に、彼は舞台の中央に立ち、優雅に舞っていた。
いつも身に纏っていた青の狩衣がいつにも増して鮮やかに見えるのは、周囲の桜達によって映えるからだろうか。
紡ぐ声は遠く近く不思議な感覚を伴いながら耳に響いてくる。
「…………」
一歩…一歩…と誘われるように舞楽台へと歩みを進めていった面影だったが、舞を舞っている三日月の斜め後ろ…楽舎に控え、笛を奏でている者に気付いた瞬間、限界までその瞳を大きく見開いた。
「え……っ?」
三日月が……二人……!?
全く同じ衣装を纏った二人の男…そしてその容貌も合わせ鏡に映った存在の様に同じ……
桂阿殿迎初歳 来々巳来々巳
あれは何者だ………異なる本丸から来た三日月宗近……?
混乱している面影の心中を知ってか知らずか、舞を舞う三日月の動きは相変わらず淀みなく、その口元には薄く笑みが浮かんでいる。
そして瞳を閉じたまま『龍笛』と呼ばれる黒塗りの笛を吹き鳴らしているもう一人の三日月は、変わらず楽舎に座している。
(………違う…別人ではない…彼は…信じられないが、全く同じ三日月宗近本人…)
どうしてこんな事が起こっている…悩んでいる間に、三日月の舞は終わりを告げた。
折阿花樹梅下 来々巳来々巳
その終わりのタイミングと同時に、面影は彼が舞う舞楽台の直前に到着していた。
「………」
目の前の舞台には、台に上るための木造りの階段が備え付けられている。
無言のままに見上げると、舞っていた三日月が笑みを浮かべたままこちらを見下ろし、すぅと扇を持っているのとは逆の手を差し伸べてきた。
「来てくれたか…面影」
「…三日月…?」
果たしてそう呼んでも良いのだろうか…?
後ろでゆっくりと立ち上がり、もう一人の彼に近づいてくる様子を眺めつつ、面影はぼそりと小さな声で尋ねた。
「…三日月と…呼んでもいいのか……?」
二人の三日月宗近は、面影の問いに一瞬互いに目を見合わせ…どちらもが優しい眼差しを彼へと向けた。
「勿論だ。俺達はお前の知る三日月宗近と全くの同一存在となる」
と、舞手であった方の三日月が言えば、
「言い換えれば、お前の知る三日月宗近が、俺と彼、二神に分たれたのだ」
と笛の奏者であった三日月が続いた。
「二人の……三日月……」
混乱の極みにある面影の様子を見て、二人の三日月は先に断りを入れる。
「ああ、無論、現世でまでこの理を持ち込む事は出来ぬぞ。これはあくまでも俺の神域の中でこそ可能な業……此処は俺の世界…俺の望むままの世界だからこそ、成しえる事だ」
「!……では、現世に戻ったら、また一人の三日月に戻るのか?」
面影の問いに、笛を手にしていた男が首肯した。
「そうだ、あくまでも此処に今在る俺達は、神域の中での形を変えたという事だ」
そこまで言うと、ふむ、と笛を袂に差し入れながら、彼はもう一人の自分に視線を向けた。
「しかし確かに俺達はどちらも三日月宗近……同じ名のままでは混乱するな」
そう言われた相手は、同じく扇を畳みつつ視線を返し、では、と応じた。
「……俺は此処では若月と名乗ろう」
その案に、向こうは成程と頷きながら笑う。
「ならば、俺は眉月と名乗るとするか………うん、後は少々見た目を変えれば良かろう」
そして、自らが付けていた金糸の房の髪飾りをするりと外してみせた。
扇を持つ方が若月で、笛を持ち、飾りを外した方が眉月……まるで異なる名だが、実はどちらも三日月の別名なのだ。
「若月……眉月……二人共が、同じ、三日月宗近……」
二人を交互に見つめた面影は、改めて相手の神力に驚かされながらも、きょろりと周りを見回した。
「美しい世界だ……しかし、何故神域を……? そもそも、何故三日月が二人に分かたれて……」
思わず漏れた呟きにも似た問い掛けに、二人の三日月…若月と眉月は互いに顔を見合わせると、微かに苦笑を浮かべながら若者の方へと踏み出した。
その距離はあっという間に詰められ、単に会話を交わす為の様な自然なものではなく明らかに密着する程に近くなり、面影は目の前に立った二人の美丈夫から見えない圧を受けて思わずたじろいだ。
「…えっ…?」
「…ではお前は、何故、俺の部屋に来たのだ?」
三日月…若月の問に、面影は素直にその理由を思い出し……たところで瞬く間に顔を朱に染めた。
そうだ、神域に踏み込み、彷徨っていたせいで完全に失念していたが、自分はそもそも此処には、三日月と………
「〜〜〜〜!」
「おお、つれないな、もしや忘れてしまっていたか…?」
「あまり意地悪を言うな眉月…いきなり神域に招かれたのだ、確かに戸惑う気持ちも分かる。なに、忘れていたのなら、改めて思い出させれば良いだけの話」
若月の言葉が終わると同時に、面影は両腕をそれぞれの男達に優しく捕まれ、はっと顔を上げる。
「あ………」
駄目だ、と本能で思った。
それは、狩りで追われる獲物のそれにも似ていた。
逃げなければいけない……しかし最早、それは無理だという事も同じく本能で悟った。
もう、逃げられない。
自分は此処に望んで足を踏み入れ、二人に会い、此処まで近付くのを許したのだ。
仕留められ、喰われる獲物になる選択を下したのは……この私。
「嗚呼、本当に愛おしい男だ……」
「うむ…神域から出すのが躊躇われる程にな…」
「あ…っ」
熱の篭った声で二人から左右の耳元で囁かれ、それを言葉として認識した時には、面影は二人から優しく両頬に接吻を受けていた。
若月は左の頬に、眉月は右の頬に…優しくありながら、決して逃さないという意志が込められた行為に、ぶるっと面影の身体が自然と震えた。
(ふ、二人から同時に………でも、どちらもが三日月なら……う、浮気、じゃない、筈…)
彼等が認めている行為なら、罪悪感などは持たなくても良い筈…だが、面影の脳内はまだ整理が追い付かない状況の様だった。
まぁ、こういう経験は現世でもあり得ない話なので、面影の混乱は当然とも言えた。
そんな相手の隙を突いて、徐に若月が面影の唇を奪ってきた。
「ん…っ、ふ…」
幾度も三日月と唇を重ねてきた面影は、思わずいつもの様に唇を薄く開き、相手の侵入を許してしまう。
ぐっと頤を強めに手で固定されると同時に、にゅるんと舌が入り込んできて自らのそれに絡みつき、表面を擦り上げた。
「はぁ、ん……」
激しく口内を犯されながら、面影が薄らと瞳を開いた。
いつもなら、目を閉じて思うままに相手を感じていたのだが、今は……もう一人の彼の動向が気になったのだ。
自分達が口吸いをしている間、残されたもう一人、眉月は何をしているのか……と疑問に思っていた面影が視線を横にずらすと、すぐに彼と視線が合った。
(あ……っ)
見られて、いる……
責めるでもなく、寧ろ楽しそうに、自分達の行為をじっと見つめている眉月の存在を認識した途端、かぁっと身体が熱くなってくる。
(ああ……恥ずかしい、のに…どうして?)
もっと見てほしくて、見せつけたくて、知らず舌の動きが激しく、立つ音も大きくなっていく。
「ん、ん…っ」
どちらのものか最早分からない程に混ざり合った唾液を互いに飲ませ合い、互いの舌で犯し合っていると、遂に我慢出来なくなったのか、眉月が割り込んできて彼らを優しく引き離してきた。
行動そのものは優しい仕草だったが、その瞳には明らかに欲情の焔が激しく燃え盛っており、有無を言わせない確固たる意志を思わせた。
「あまり焦らすな…さ、今度は俺の番だぞ?」
「あっ…!」
ぬちゅ……
若月と同様に頤を支え持った眉月が舌を滑り込ませてきた、が、今度は彼はゆっくりと口腔内の粘膜を擦り上げてきた。
その舌も、先程まで触れていた若月のそれよりややひんやりと冷めており、少しだけ面影の意識から熱を取り去った。
それにより再び面影は辺りに意識を向ける事が出来たのだが、やはり今度は若月がこちらの二人の様子を凝視している。
穴が開く程に見つめられながら、別の男に口腔を犯される。
それがこれ程までに背徳感を生み、更に欲望を燃え立たせるものだとは知らなかった……
(あ……見られるの、気持ちい……や、だ、ヘンになる…)
意識が口の中から下半身へと向かい、面影は僅かに前のめりになる。
着衣のまま、しかも口以外は何処もまだ触れられていないのに、もう身体の中心には劣情がぐつぐつと滾り始めていた。
口吸いだけで、ここまで昂らせられるとは……
これ以上になると自分では抑えられない、どうしたら…と考えていたところで、またも若月が割り込んできて二人の唇を引き離してきた、が、今度はすぐに主導権を奪う様な真似はせず、ちらりと眉月へと視線を遣り、首を傾げてみせる。
それだけの仕草でも相通じる何かを感じたのか、眉月が唇を歪めてこくんと頷いた。
「ああ、そうだな」
「では……」
相手の返事を受けて若月が頷く。
そして、今度は二人が同時に面影の唇へと自分達のそれを寄せてきた。
「あ……っ!」
一つしかない自分の唇を二人のそれらが塞ぎ、一つしかない口腔に、二人の舌が二枚、入り込んで来る。
「あはぁ……っ! ん…んむ……っ!」
ぐちゅ……くちゅっ…ぬちゅっ……
(いや……こ、んなの、知らない…っ……ああ、そんなに激しく…っ!)
一枚しかない己の舌では、二人のそれらの求めに十分に応じるのは難しい。
せめて口の中ででも、一人ずつ交互に絡み合う事を許してほしいのに、二人共が聞き分けの無い幼子の様にこちらを激しく求めてくる。
息も出来ない程に蹂躙され、翻弄される面影の身体ががくがくと激しく震えて更に前のめりになった。
(だめ……っ、もう…っ)
自らの昂りがずきずきと痛い程に張り詰めてしまっていた。
それはもう服でも隠し切れない程勢いを増し、しっかりと布地を押し上げてしまっている。
そんな相手の様子を察した二人の三日月は、同時にふっと笑うと、各々の手で面影の肩に触れた。
瞬間…
「え……っ!?」
しゅるしゅるしゅる……と、乾いた小さな音と共にその異変は生じた。
「あ……っ」
服が……消えてゆく……
纏っていた着衣が、糸が解けていく様な音と共に無数の繊維が分解される形で宙へと溶けていく様を、面影は成す術もなく見詰める事しか出来なかった。
これも神域でこそ出来る技なのか……と驚いている面影の前で、同時に若月と眉月の着衣も同様に消え去っていくのが見えた。
三人ともがほぼ同時に一糸纏わぬ姿になったところで、ずいと若月が一気に距離を詰めてくる。
「一枚ずつ脱がせてゆくのも一興だが…今のお前にはそのゆとりも無さそうだからな」
「っ!?」
指摘された事ではっと気が付く。
驚きで忘れていた下半身の疼きを思い出すと同時に、ずくずくと拍動する熱棒の震えが、服から解放された事で露わになっていた。
「あ……これは…」
慌てて取り繕おうとした面影だったが……
ぐり…っ
「!?」
「ふふ……よきかな、よきかな」
向こうが歩み寄った距離のため、若月と面影の腰は触れ合える程に近まっており、それを良い事に相手は自らの男根をこちらのそれに押し付けて来た。
既に反り返る程に怒張していた面影の裏筋を強く擦り上げる様に、若月も同じく腹側を密着させると上に向かって動かしてくる。
「あ、はぁ……っ」
若月から仕掛けられた『兜合わせ』に声を漏らしていると…
にゅく…っ
「口吸いだけでこんなになるか……いや、嬉しいことだ」
眉月もまた、同じ様に肉楔を押し付けてきながら、頬に優しく口づけを落としてくる。
若月が茎同士を擦り付けているのに対し、眉月は己の肉棒を支え持ち、零口同士を合わせて捏ね回す様に動いてきた。
「あっ……やっ、それ……っ」
凄く、気持ちいい……!
零口と茎の裏筋…どちらもが男性の性感帯であるが、その二箇所を同時に男根で嬲られるというのは、面影にとっては当然ながら初めての経験。
相手が三日月一人だけだったこれまでの経験では得られなかった実体験に、面影の脳内は大いに搔き乱されてしまっていた。
それは触れられる感覚だけではなく、視覚的な面に於いても同様だった。
熱に浮かされたような潤んだ瞳で下を覗けば、勃ち上がった分身が、二本の逞しい雄に蹂躙されている生々しい様子が視界に飛び込んでくる。
にゅく…にゅく…っと荒ぶる肉槍達に襲われ、先端から先走りを零しながら激しく震えている分身は、正に今の自分そのものを表している様に見える。
誰のものなのか分からなくなってしまった体液に塗れながら蠢く三本の肉棒を見つめているだけで、すぐにでも達ってしまいそうで、面影はそれを必死に堪えていた……が、
「ああ、堪らぬな、その顔…」
「ああ、もっと乱してしまいたくなる」
悪戯を企むような二人の笑みが深まったかと思うと、彼らの手が同時に面影の昂りに掛かり、より楔達を強く密着させた。
「あ、あぁ…っ!」
続けて、二人のモノが激しく面影の竿を擦り上げる一方で、彼等の人差し指達が、くりくりと競り合う様に面影の零口を穿る様に弄り回してきた。
「は……っ!!」
無情なまでの快感が面影の全身に走り、彼は口を開いて息を止めながら両目を見開く。
チカチカと目の奥に光の粒が舞うのを見届けながら、面影はあっけなく達してしまっていた。
「はぁ、あっ! い、く…っ、達くっ!達くぅっ!」
ぐぐっと面影の背中が弓形に反り返り…
びゅるるるっ! びゅくんっ、びゅぷっ…!
零口を指の腹で押さえていた若月や眉月の見ている前で、激しい射精を行った面影は腰の震えを抑える事が出来ずに幾度も精を吐き出す。
若月達の指に遮られたものの、精液は定められた放物線から外れる形で勢い良く射出されていき、彼等の指をとろりと濡らした。
「〜〜っ………あ……」
立っていられない程に脱力してしまった面影が、その場でかくんと膝を折って崩折れたが、身体を二人の腕に優しく支えられていたのでそのまま垂直に座り込む形になった。
はぁはぁと乱れた息を漏らしている面影の頭を若月と眉月の二人の掌が優しく撫でていたが、ふと彼等の手に力が込められ、くいと少しだけ彼の顔を上に向けさせた。
「……っ」
先程まで己の分身を攻め立てていた二人の肉棒が二本、視界の斜め上に並んでそそり立っていた。
面影は達したが、二人はまだそこまでには至っておらず依然立派に昂ぶりを保っている。
それらの持ち主である二人の三日月は、肉食獣の様な瞳の輝きを称えながら微笑み、こちらを見下ろしている。
「…」
何を期待しているのか、何をさせようとしているのか、察するのに然程時間は掛からなかった。
「……粟田口達の事も見ていただろう? 羨ましそうに……」
「どうしたら良いか…分かっているな?」
あの時の、湯舟から覗いた先での三兄弟の睦み合いを丁度思い出していた面影の心の中を見透かした様に、若月が言い、眉月がその台詞の次を継いだ。
「早く、食べてくれるか? お前のお陰で、もう十分に食べ頃だ…」
二人の言葉を遠く聞きながら、面影は思い出す。
そう、丁度こんな光景だった。
あの兄弟達の長兄が、目の前の弟達の前に傅く様に膝を付いて……
「…………」
こうして厳かに両手を伸ばして、二人の分身を握って……
きゅっ……
握った肉棒から伝わる熱が、面影を現実に引き戻し、彼は交互に二人を見上げておずおずと尋ねた。
「その…本当に二本とも…一緒に、舐める、のか?」
今更否定はして来ないだろうという事は分かっていたが、やはりそれでも恥ずかしくて訊いてしまった。
「うむ、そうだな、食べ比べてみるが良い」
「俺と眉月のどちらのがお前の口に合うのか………興味ある」
「あ…む…っ」
先ずは眉月が先端を面影の口元へと運び、優しく押し付けた。
一瞬、零口の柔らかな粘膜に固い歯の感触が当たったが、反射的に面影が歯列の門を開き、素直に昂りを口内へと迎え入れていく。
これまで幾度も行われてきた行為だからこそ、その一連の動きに躊躇いは無かった。
「んん……っ」
鼻に抜ける声を出しながら、面影は口の奥へ奥へと相手を迎えつつ、その茎へ舌を伸ばし絡ませる。
熱い…しっかりとした存在感が口の中を満たしていくと同時に、その独特な味が拡がっていき、それを感じれば感じる程に、面影の思考は真っ白になっていった。
(本当に……同じ…大きさも…浮き上がった筋の形も……三日月の…)
見て確かめなくても、舌で触れるだけでその形状を自分が記憶しているのだと思い知ったところで堪らない程の羞恥を感じたが、そんな主の思いとは裏腹に、口も舌も相手を逃す事など全く考えていないとばかりに貪り続けている。
(だめ……止まらない…もっと…欲しい……)
ぐちゅぐちゅと淫らな水音を響かせ、それで耳まで犯されながら尚興奮が高まっている面影の額にふと掌が置かれ、ぐっと押し込まれた。
「あ…っ…」
頭を後ろに引く形になった面影の口からぬるりと濡れそぼった若月の楔が引き出され、それはぶるっと激しく頭を振りながら、唾液と先走りが混じったものを周囲に散らした。
「物事に集中するのは良い事だ…が、そろそろ俺も仲間に入れてくれんか?」
掌を当てたのは、二人の睦み合いを見つめていた眉月だった。
黙って傍観していたが、その艶やかな光景に自身の欲を大いに刺激されてしまったらしい。
面影にそう促した後、彼はちらりともう一人の己である若月にも視線を遣り、苦言を呈す。
「お前もあまり面影を独り占めするな……俺にとっても唯一無二の愛しい男だぞ…?」
「はは、すまんすまん……得も言われぬ快感に我を忘れてしまった…分かっているとも、俺もお前と同じ『三日月宗近』だからな」
「……!」
他愛無いやり取りの中でさらりと『唯一無二の愛しい男』と惚気られ、面影の胸の奥が熱くなる。
それは、彼等だけではない……自分だって、あの一個体の三日月宗近を愛しているのだから、その分身である二人も等しく愛している……
「わ、たしも…………」
そう言いながら、面影は今度は自ら若月の熱楔をくちゅりと呑み込んだ。
「愛している」と続けるのは容易いが、こうしている中で冗長に語るのは寧ろ野暮だと思った。
今、向こうが望んでいるのはそれではなく、より直接的に与えられる自分からの快楽……ならば、
「ん……ふっ……う、んっ」
じゅっ……じゅぷっ……じゅる……っ
もっともっと、相手の望みに応えてあげたい…そして、満足させてあげたい……
その一心でより強く激しく若月の雄を吸い立て、頭の前後の動きを激しくしていくと、ぴくっぴくっと責められている相手の肩が微かに反応して震えるのを、上目遣いで見上げていた面影が視界に捉える。
(三日月が………いや、若月が……感じて、くれてる…?)
嬉しい、と素直に感動したところではっとする。
そうだ、今の彼は三日月ではなく若月という分身……彼だけではなくもう一人いるのだから、ちゃんと今度こそ忘れずに……
「ん……眉月、も……」
つい先程の様に片方から急かされる事が無いように、と、今度は面影自ら唇を若月から離し、再び眉月のものへと寄せていった。
あまり長く愛撫してしまえば、また片方だけへの奉仕に集中してしまいそうだとぼんやりと察していたのかもしれない。
面影はそれからは枝葉の間を忙しなく飛び回る小鳥の様に、幾度か口の中で楔を擦り上げては別の楔へと口を移動させていったが、その動きは徐々により激しく大胆なものになっていく。
それは明らかに、相手への奉仕の意思の他にも彼自身の欲望が現れてのそれだったが、本人は自身のそういう気持ちが表に出ているとは思ってもいない様だった。
(もっと……二人の…を、一緒に…味わいたい…)
更に面影の本能はより貪欲に二人を求め始め、彼等の間を渡る事すらもどかしいと感じ始めていた。
そして…………
「……っ! ふふ…」
「おぉ……」
瞠目する若月と眉月の見下ろす中で、面影は握り込んでいた二つの楔の先端達を、互いが触れ合える程に近くに寄せ……
「ん…ん…っ…」
ぴちゃ………ぴちゅっ…
二人の零口を同時に舌で舐め上げ、混ざり合う先走りを味わい始めた。
こちらで指示するまでもなくそういう大胆な痴態を晒してくれた若者に、無論、二人はあからさまにする事は無かったが内心は大喜びだった。
「これは……絶景だ」
「うむ…常日頃の教育の賜物だな」
自分達の根幹である三日月宗近が、夜毎…時には人目を忍んで昼日中から面影をひたすらに可愛がり、抱き潰している中、面影もまたされるがままでなく、相手に快楽を返す事を望み、自分なりに努力していた事を知っている。
控え目な性格であるが故に葛藤も大きかった事は想像に難く無いが、それすらも三日月により徐々にぐずぐずに溶かされ続け、そのたゆまぬ努力の甲斐あってか今は閨の中に於いては面影も素直に快楽に従順になっていた。
とは言え、閨へと連れ込むまでは未だに照れと羞恥を隠せない面も残されているのだが、そういうところもまた三日月にとっては堪らない程に心を揺さぶられるらしい。
確かに、始まりには羞恥に赤く染められていた頬が、今はこうして自分達の雄を貪欲に求めて上気で赤く染まっているのを見ると、男としての昏い悦びが背を伝っていく。
その悦びは肉体の興奮に直結し、二人の肉棒を握り込んでいた面影にも知れるところとなった。
(あ……二人の……また、大きくなって…)
手で触れる中で感じた違和感と共に、舌で触れていた相手方の零口がより大きく開かれてきた事を感じて、面影は『その時』が近い事を悟った。
それを促す様に更に夢中になって行為に耽っていた面影の耳に、ぼんやりと二人の声が聞こえて来た。
『最初は飲ませたい』とか『ならば俺は顔に…』とか……最早、音としては聞いてはいるが、その意味についてまでは朦朧として意識が及ばなかった彼の頤が、不意に誰かによって優しく下から掴まれた。
これは若月の手か、それとも眉月の手だろうか…?
混乱している面影の耳に心地よい低音が響く。
「口を開けよ」
自らも付喪神だが、きっと神の声を聞いた人の子は今の様な心情になるのだろう。
逆らう事も戸惑う事すらも思いつかない、唯々、その言葉に従うだけ……
「ん……っ!」
素直に口を開くと同時に、面影の滑らかな口の中に灼熱の昂りが一気に押し込まれ、左の頬には熱く濡れた怒張したものが優しく触れて来た。
久しぶりに口中に異物が侵入してきた事で驚いた面影が瞳を見開き上を見ると、髪飾りを外した姿の三日月がこちらを見下ろしていた。
ああ、では自分の口の中に含まれているものは眉月の……では、頬に当てられているのは………
そこまで考えていたところで、見つめていた三日月…眉月の顔が微かに歪んだのを認めたのとほぼ同時に、口の中に感じていた質量と熱が一気に増し……
「んくっ……!」
びゅくんっ!! どくっどくんっ!
びゅるるっ! ぶぴゅっ、びゅくっ…!
口の中で肉楔が爆ぜ、先端から勢い良く白濁した精が喉奥に叩き付けられるのと同時に、顔にも熱い奔流が注がれてきた。
(ああっ…! 凄いっ、こんな、こんないっぱい……!!)
三日月との逢瀬の時には無論一人分の精を受け止めていたが、今は若月と眉月の二人を相手しているのだから、当然それも二人分になる。
一人が二人に分たれたのだからと半量にはならないのだな…と見当外れな事をぼんやりと思いながら、面影は口に溢れた熱い精をこくんと飲み下していたが、徐に口を満たしていた熱が失われた……かと思うと、間髪入れずに今度は若月のものが割り入ってくる。
「くふ…っ…」
「俺のも…飲んで…」
陶然とした口調の若月の声が降って来ると共に、彼の楔からも迸りが注がれ、顔にも新たな熱液が降って来る。
嗚呼、犯されている………彼等の精でこの身を穢されて……………
なのに、全身が震える程に嬉しいと応えている。
「あ…」
二人への奉仕に夢中になっている間に自身の変化についても気が付いていなかったのか、不意にずくんと鈍い違和感を感じた面影が己の下半身を見遣ると、そこには再び頭をもたげた分身が息づいていた。
まだ完全に勃ち上がっている訳ではないが、相手の明らかになった変化を認めた若月と眉月が同じ笑みを浮かべて彼に迫って行った。
「達ったばかりなのにもうこんなに、か…?」
「まだ足りぬのだろう、俺は大歓迎だが」
「あ…っ」
二人に同時に両肩をとんと押されて、面影の脱力した身体は素直に後ろへと倒れ込んだ。
とさり……
軽い乾いた音と共に、ふんわりと柔らかな白い生地が彼の身を受け止めた。
ふかふかとした柔らかな弾力を持つそれは非常に触り心地が良く、生地の下には相応の厚みの緩衝材があると思われたのだが………
「……?」
ふと違和感に面影は首を傾げ、身を横たえた場所をまじまじと見つめた。
おかしい、先程まで自分達が居た場所は、舞を舞っていた木造りの舞台だった筈…あの場から数歩も動いていない筈なのに、いつの間にこんな寝具が敷かれていたのか…
しかも、この敷具の端はあの不思議な霧の様なものに阻まれて果てを見遣る事が叶わない。
霧の帷に包まれた寝所というのが最も的確にその場を表す言葉なのかもしれない。
「え…………」
彼が困惑している隙に、若月が右、眉月が左、とちゃっかりと彼の両隣に陣取る様に横たわり、悪戯好きの手を伸ばしながら耳元で囁いた。
「あの様な冷たく固い板の上に、お前を寝かせられるものか…」
「俺達の…三日月宗近の唯一の者…些末に扱う訳がなかろう…?」
だから、大事に大事に……抱き狂わせてやろう……
「あ、ああっ……それっ、だめぇ……」
横たわった面影の身体を、まな板の上の鯉宜く二人がかりで乱していく。
二人の唇が同時に面影の胸に実る小さな果実を捕えて思い思いに吸い立て、下へと伸ばされた二人の手は、半勃ちの状態だった面影の分身を優しく撫で上げたり、指先で茎を摘み、くすぐったりと、縦横無尽にからかい始めた。
「ふ、あ、ああ〜〜っ! あっ、やっ、やぁんっ! あ、ん、あああっ!」
夜毎の三日月との睦事においてさえ与えられる快楽はこの上ないものだったのに、今は相手の分身二人が惜しみ無くいつも通り…いや、もしかしたらそれ以上に熱の籠った愛撫を与えてくる。
しかも二人から絶え間なく送られる快楽の波は二人だから単純に二倍という訳ではなく、互いに相乗効果を生み出すのかその何倍も大きく激しいものに感じられ、面影もまたいつもより淫らに乱れ狂った。
「いつ聞いても、お前の啼き声は愛らしいな…」
「止めてほしいのか続けてほしいのか、分からぬのは困ったところではあるがな……なぁ? 面影」
若月の言葉に続けて、揶揄い、何かを促す様にそう言った眉月の方へと振り返り、面影が意外な訴えを声に乗せた。
「む、胸だけじゃ、いや……二人で、オ、オ○ン○ン、一緒に舐めて……しゃぶってほし…っ…」
欲望に囚われ抗えなくなっても僅かに羞恥は残っていたのか、端ない願いを紡ぐ口を手甲で押し隠しながらそう願った面影だったが、そんな彼の姿に相手の二人が昂らない筈が無かった。
「これは、嬉しい煽りだ」
「一期達を見て羨ましくなったのか? では、俺達も負けてはおれぬなぁ」
あの湯船から隣の兄弟達の痴態を覗いていた時、面影の瞳の奥に宿っていた仄暗い情欲の炎を三日月は確かに見抜いていた。
だからこそ、こうやって神域を展開し彼の欲望に乗る形で自分も二人となり、同じ快感を共有しようと画策したのだが、こちらの目的はそれだけではない。
二人の弟達に攻められ乱れていた一期一振を見て、自身も知らぬ心の奥底で彼を羨んでいた面影の姿は決して認められるものではなかった。
他の男を見て、彼が受ける愛情を羨む事など許さない……お前に最上の愛を与え、それを囁くのは俺だけだと。
鯰尾や薬研、彼等そのものを面影が求めた訳ではない事は理解している。
しかし、下らない矜持かもしれないが、諦める事など出来なかった。
彼が求める快楽の形があるのなら、それは自分だけが与えてやろうと……
そして今、面影は自分達に、過去に見た快楽の再現を求めているのだ、我が意を得たりと二人が喜ぶのも当然だった。
後は、そう、あの兄弟以上に面影を満足させてやるだけ………
僅かな間に若月と眉月が視線を交わし、互いの意志が一致している事を改めて確認すると同じ様に唇の端を吊り上げ、ゆっくりと身体を起こすと面影の下半身の方へと移動を果たす。
つい先刻まで二人の指先から悪戯を受け続けていた面影の分身は、素直過ぎる程に反応して天を仰いで先端からは透明な蜜を溢していた。
「ああ、勿体無い」
ちゅ……
山路に惑った旅人が湧き出る岩清水を見つけた様に、眉月が数滴の雫すら逃さぬとばかりに舌を伸ばしてぷくりと半球を作っていた露を掬い取ると、そのままねるっと茎へとそれを滑らせた。
「あ、ああ……っ」
「こら眉月、俺を差し置いて摘み食いか?」
ひくんと腰を揺らして喘ぐ面影の艶声と共に、同じ分身を咎める声が聞こえたが、咎められた眉月は飄々とした表情を崩さない。
こういうところはやはり、元人格の三日月宗近に似ている様だ。
「すまんすまん、余りにも美味に見えたのでな。そら、お前も相伴に与れば良かろう」
確かに今は軽口を叩き合うよりも目の前の『ご馳走』を味わうのが先だ、と判断した若月は、眉月に続いて自らも濡れた舌を覗かせて熱く固く勃ち上がりつつあった面影の楔を舐め始めた。
「ふむ、熱いな………」
より味を鋭敏に味わいたいとばかりに瞳を細めながら、ぴちゃぴちゃと甘露に濡れた茎を舐め回す若月の反対側には、眉月が同じく舌を触れさせつつも、より積極的に面影の茎へと吸い付き、かりっ…こりっ…と優しく甘噛みを始めている。
「ふぁ…っ! あ、あああっ! やぁっ、そ、れ、みかづきっ…!!」
二人の舌と歯で攻められ、そのもたらす快楽に腰を揺らしながら悶え、思わず面影はあの男の名を呼んだが、今のこの場には『彼』は居ない。
「ふふ、俺は眉月だぞ? 叶えて欲しい事があるなら正しく呼んでもらわねば」
尤もな事を言っているとばかりに眉月は相手の悶える声を完全に無視し、逆に更に彼を追い詰める様に、嬲っている肉棒の下の奥まった場所…其処に隠されていた秘蕾へと片手を伸ばしてそのまま人差し指を挿入した。
「ひぁっ…!?」
「俺の名も忘れてもらっては困る……分身とは言え『若月』としての自我はあるのでな」
そう言いながら、続く形で若月も己の指をぬぷりと面影の肉蕾に呑み込ませる。
流石にこの二日間、幾度となく三日月に抱かれ、犯され、貫かれ続けてきた面影の肉体はすっかり肉欲に従順になり、既に解す過程も不要とばかりに二人の指を二本とも受け入れ歓迎する様に絡み付いてきた。
くちっ…くちっ……ぬちゅ…っ
ぺちゃっ……じゅるっ………
「あ、あ、ああぁ〜っ! いいっ! いいっ! こんなっ…こんな、に、やらしいことされたら、ぁっ……だ、めっ…オ、オ○ン○ン、はじけちゃうっ!」
淫肉を指で掻き分け、雄の弱点を肉壁越しに擦り上げる音と、舌で粘膜をからかい遊び、射精を促す様にちろちろと零口を穿る音が同時に聞こえてくる度に、初めて体感する快楽が面影の全身を呑み込んだ。
堪らず、ぎゅうと身を預けていた柔らかな生地を握り締めながら悶える若者の嬌声に、二人の男は嬉しげに微笑んだ。
「おお、そろそろ爆ぜるか……よいよい、遠慮なく最後の一滴まで吐き出すが良い」
「お前の達く時の声も、姿も、しかと見届けてやろう…そら」
面影が漏らした言葉の通り、早く爆ぜよとばかりに二人の口は肉棒をより激しくしゃぶり上げ、いつの間にか四本に増やされていた彼等の指もまた、泣き所である小さな器官を押し潰す様に刺激した。
(ああっ、見られてる…! 私が、恥ずかしい姿で達かされるところも、全部、全部、見られて……っ)
肉棒を舐める二人の視線と自分のそれが絡み合うと同時に、くちっと誰かの指が関節を折り曲げ前立腺を圧し潰した。
その瞬間、びくっと全身が戦慄き、面影に限界を伝える。
「あ、あっ!! イッ、イクイクイクッ!! イクうぅぅぅっ!!」
ぐっと本能で腰が高く突き出され震えると同時にぶるんっと面影の雄の頭が揺れ、先端から白濁した精が天に向かって迸った。
一度だけではなく、二度、三度と………
しかしそれらはそのまま放物線を放つ事は無く、宙を舞う途中で若月と眉月の顔に打ち付けられ、とろり…と二人の美肌を白く粘った輝きで彩った。
「ああ……まだこんなに射精せるのか…」
「ふ、お互いに凄い顔だな。ドロドロだ…」
二人共が面影の体液に穢された顔を見合わせて笑い合い……示し合わせた様に互いの顔を寄せ合う…と、
くちゅ……ぺちゃ…っ
「……!!」
目を剥いた面影の目前で、互いの顔に付着していた精の名残りを舐め合い出した。
一見したら、三日月が三日月の顔に舌を這わせ、もう一人の三日月も同じ様に舌を伸ばして相手の頬に触れさせているという、もしや脳が誤作動を起こしているのかと訝しんでしまう光景。
既に二人と睦み合っているのに何を今更と言われるかもしれないが、それでも美々しい月の麗人が二人、淫らに戯れ合っている光景は目眩を起こしてしまいそうな程に煽情的だった。
それは同じ付喪神である面影にとっても例外では無かったらしく、先程絶頂を迎えたばかりだと言うのにその余韻に浸る間もなく、目の前の男達の艶姿に目を奪われ、息を呑んでいた。
これは果たして現実のことなのか…?
嗚呼、あんなに淫らに戯れているのに……それなのに何故彼等はそれでいて尚、美しいのだろうか……
叶うならば、ずっと、ずっと彼等を見つめていたい……いや、見ているだけでは満たされない、願わくば彼等の瞳に互いの姿だけではなく、私も……
心の片隅に不意に浮かんだ願いが瞬く間に肥大していくと、それはすぐに本人でも抑えきれなくなり、面影は殆ど無意識のままに身を起こして這う様に彼等へと近付いて行った。
「若月…眉月……」
今度は誤る事なく二人の名を呼びながら遠慮がちに彼等の間に割って入る様に身を寄せていく。
「………お、願いだ…」
二人のそれぞれの肩に手を置いて、顔を伏せながら照れを隠しつつ小声で願う。
「わ、私を、一人にしないでくれ……二人と、一緒に、私も……」
願いながらも、あんなに熱っぽく二人で愉しんでいたところに邪魔をする様な形になってしまっただろうか…少しは大人しく引いておくのが正解だっただろうか…と今更不安になってしまった若者だったが……
「う、わ…っ!」
艶めいたこの場にはそぐわない声を上げながら、面影はとさりと勢いよく敷布の上に組み敷かれた。
「え…っ?」
瞬きを繰り返しつつ改めて上を見遣ると、二人がゆっくりと覆い被さって来る。
邪魔をしたから怒っているのかと危惧したが、彼等の笑みは失われておらず、どうやらそうではないらしい…が、明らかに瞳の奥には危険を感じる程の欲望の炎が燃え盛っていた。
「ああ、すまない事をした…そんな顔をさせるつもりはなかったのだ……これはたっぷりと詫びをせねばな…」
「そろそろ良かろう? なぁ面影よ…俺達のどちらに、挿れてほしい…?」
若月に続いての直接的な眉月の台詞に、既に赤かった面影の顔により一層朱が差した。
確かに、もう自分の身体の渇きも限界に近かった。
吐精を促され絶頂には至らされたが、弄られていた肉穴の奥の奥…其処は未だに求めていたものを与えられずに疼いたままだ。
欲しい…欲しい、けど、それを自分が選ぶなんて………だって、そもそも彼等は…………
(………違う)
ふと、自身の真意に気付いた面影が、心の中で浮かんだ迷いを否定する。
違う………選びたいんじゃない……彼等が二人共三日月宗近である事を知っている自分は、どちらかを選びたい訳ではない……
二人共……どちらも欲しいのだ………
「どっちでも……いい…っ」
欲深いと詰られても、止められなかった。
二人に縋りつき、面影は己の限界を訴える様に震える身体を彼等に押し付けた。
「ふ、二人で、私に触れてくれるなら……どちらもが、私の知る三日月宗近なら……それで、いい…からっ!」
面影の告白を受けた二人は、その身を受け止めたまま互いに顔を見合わせる。
勿論、相手に言われるまでもなくこれから二人で彼を抱き潰すつもりだったのだが、選んでもらえないとなると、さて………?
「…では、一番口はお前に譲ろうか、眉月」
「! 良いのか?」
無論、自分としては嬉しいが?と問う眉月に、若月は軽く肩を竦めながら首を横に振る。
「俺とて欲はあるが、俺もお前も同じ三日月宗近だ。なに、俺は俺で別の形で愛してもらおう」
二人の間で交わされた会話は極短いもので、それから彼等は改めて面影を貪る為に各々動き出した。
「あ…っ」
「さて、啼いてもらうぞ…?」
面影の両脚を割り、間に身を滑り込ませながら彼の膝を曲げさせ、眉月は軽々とそれら下肢を自らの肩へと掛けさせた。
そして眉月本人は膝立ちに近い姿勢を取り、相手の腰を両脇から支え持つと、ぴとりと楔の先端を面影の秘蕾に押し当て、じっくりとその熱と固さを知らしめる様に腰を回してみせた。
「あ、あっ……眉月の……すごく、あつい…っ! はや、くっ!」
「…欲しいか?」
こちらの身体の状態についてはもう分かっている筈なのに敢えて問いかけてくる眉月に、その意地悪を咎める余裕も最早無かった。
こくこくと激しく幾度も首を縦に振り、面影は手を伸ばして相手が秘蕾に触れさせていた熱い肉棒を握ると自らの内へと挿れる様な仕草をした。
「お願い……もう、もうっ…!」
「ああ……本当に可愛い奴だ…」
素直に欲求を伝えてくる面影に応えるべく、眉月は楔を入り口に当てたまま、ぐっと腰を前へと押し進めた。
その勢いは非常に強いものだったが、二人の男達の指遊びですっかり解れてしまっていた秘所は拒むどころか嬉々としてその侵入者を受け入れ、包み込もうと蠢き始める。
「ん、んんっ……! あ、あ…」
眉月と同じく面影の腰も滑らかにうねり、肉の悦びをこの上なく如実に表しており、甘い声を上げる彼の口からはそれだけでなくはっはっと激しい息遣いも漏れていた。
「いつ抱いても最高の身体だ……おぉ、根元まで頬張っているのにまだ足りぬか? ふふ……」
ぐぐ、と肉棒を奥へ奥へと引き込まれながらも眉月は額に汗を滲ませつつ笑みを含んだ言葉を投げかけたが、面影は快楽を追い掛け、それを享受するのに夢中だった。
眉月の楔が雁まで引き抜かれたかと思うと間髪入れずに根元まで突き入れられ、その度に二人の接合部からぐちゅっぐちゅっと生々しい水音が響いてくる。
「はあっ、あっあっ! い、いっ…眉月っ、もっと、もっと来て…ぇっ!」
「ああ、俺もとても好いぞ…」
強請る面影に優しく返しながらも、眉月の腰使いはとても激しく、正に蹂躙という言葉が合っている。
肌と肌がぶつかり合う高い音と、互いの激しく熱い吐息が絡み合う濃密な空間の中、面影はようやく得られた充実感を体内に感じながら悦びに悶えていたが、不意にその右頬に手が添えられた。
「え………?」
その手が伸ばされた方向へと顔を向けると、自分の頭の側に座していた若月がこちらを覗き込む様に身体を傾けていた。
「そんなに熱い二人を見せつけられると、妬けてしまうな……俺の事も、好くしてくれ…」
妖しい笑みを浮かべると、若月は股間で疼いていた己の肉刀を手で支え持ち、その先端を面影の口に向けながらゆっくりと座していた場所を移動しつつ迫ってきた。
「んん……は、ふっ…」
変わらず下半身は最奥を眉月に突かれながら、それに合わせて身体をゆらゆらと揺らされつつ、面影は唇を割って侵入してくる熱の塊を喉奥まで受け入れた。
口の中で広がる雄の味は、これまでも幾度も味わってきたものと何ら変わらない。
(本当に、同じ……ああ、三日月、の……)
愛しい男と同じ、と思うともう手放せなかった。
「ん…ん………はぁっ……おい、し……」
まだ粘膜に付着していた精と新たに先端から滲んでいた体液が口の中で混ざり合う……
そこに更に自分の唾液も絡み合った熱い液体を味わいながら、同時に口腔内の薄い粘膜を硬い楔で擦り上げられ、犯される………
上の口も下の口も『三日月宗近』に同時に犯されているという事実に、面影の中の理性が瞬く間に溶かされていった。
「若月のを咥えた途端にこちらも締め付けがきつくなったぞ?…ふふ、本当にいやらしい身体をしているなぁ」
揶揄しながら、眉月の腰がぐりっと大きく円を描く様に回されると、好いところに当たったのか、びくっと面影の全身が激しく戦慄いた。
「ん、んん〜〜っ…!!」
声を上げようにも、口を塞がれているのでくぐもったそれしか上げられず、面影は反射的に快感から自らの気を逸らす様により激しく肉楔に吸い付いた。
「…っ! ああ、これは好い……どれ、お返しをせねばな…」
自らの分身を咥えさせたまま、若月はつと両腕を伸ばし……
きゅ……きゅむ…っ
「ん…っ!!」
両の胸の膨らみを同時に摘まれ、くりくりと指間で擦り上げられ、そこからまた新たな快感が生まれ出て面影を襲う。
「〜〜〜〜っ!!」
背を限界まで退け反らせたために却って若月に向かって胸を突き出す形になってしまい、更に蹂躙される事になってしまった面影だったが、今度はその乱れる姿を見た眉月によってより激しく秘肉の最奥を抉られることになってしまった。
「俺のことを無視してもらっては困るなぁ…お前の内に今在るのは俺だと言うのに。それとも、コレだけではまだ足りぬか?」
加えて、犯される中で勃ち上がっていた面影の楔にも手を伸ばすと、滴る露の力を借りて、ちゅくっちゅくっとリズミカルに扱き始めた。
「っ! ふ、あぁっ! ああ〜〜〜〜っ!!」
思わず若月の熱棒から口を離し、久し振りに声を上げて快楽を訴える。
口腔、乳首、男根、秘奥……初めて経験する四点責めに、若者の身体は拷問に苛まれる罪人の様に悶えまくった。
「だ、だめっ!! あっ、これダメェ! やめっ、あああっ!」
「好くないのか?」
「ちがっ…逆…っ! よ、すぎて、ヘンになっちゃ…ああっ! こんなの、はじめて…っ、すぐ、いっちゃ…!!」
若月の問に息絶え絶えになりながらもそう答えた面影だったが、言葉とは裏腹にその腰はまだ貪欲に求める様に、彼が達する直前まで耐えず揺れていた。
「あ、あっ! もっもうっ、もうっ、いくうぅぅっ!!」
「ん……っ!」
絶頂を迎えた面影の淫肉が、眉月の解放も促す様にきゅうぅっと彼の肉棒を締め付ける……が、それに応える事はなく、射精の直前に眉月は自身の分身をずるりと淫穴から引き抜いてしまった。
「ひぁっ…!」
抜かれた感覚に声を上げ、同時に思い切り吐精した若者と共に、秘穴から引き抜いた眉月の分身の先端からも激しい勢いで白濁液が放出される。
二人の絶頂の証は途中で混じり合い、ぱたたっと面影の白い肌に落ちて散っていった。
「ああっ……ん……いや……ど、して……」
確かに絶頂に導かれた筈の面影が、それでも切なげに何かを訴える様に眉月を見遣る中、代わりに若月が相手に問うた。
「おや、内に射精さなかったのか?」
てっきり注ぎ込むものだと思っていたが、と言う片割れに、眉月が小さく肩を竦めて笑った。
「お前が抱く時に内が濡れているのは嫌だろうと思ってな……面影も一度だけでは足りぬだろうし、それに……」
そこまで言うと、何を企んでいるのか眉月は若月の耳元へと口を寄せ、ひそっと一言二言囁いた。
それを聞いていた若月は一瞬瞠目し…それから合点がいったとばかりに唇の端を吊り上げて頷いた。
「ああ…それは良いな」
「そうだろう?」
分身で分たれたとは言え同じ男が元となっているだけに、彼等の思考は近く、同意を得やすいものでもあるのだろう。
先に面影を抱く順番を決めるに当たっても歪み合う事もなく、譲られた眉月に至っては後に続くであろう若月に気配りまで見せている……抱かれる面影にとっては幸か不幸か微妙なところではあるが、与えられるのは苦痛ではなく溢れ返る程の愛情なので、まぁ不幸ではないのだろう。
「よしよし、飲ませて貰えなかったのがそんなに不満だったか?」
「……っ」
確かに、若月が言う通りだった。
身の内の肉鞘を眉月の肉刀で散々擦られ、頂に向かって追い立てられたにも関わらず、最後になって注がれる筈だった熱い精の奔流が得られなかったのだ。
いつもなら奥の奥まで激しい勢いで叩き付けられる熱、それが染み込んでいく感覚を感じながら悦楽に身を委ねていたのに…それが無い。
故に思わず眉月に咎める様な声を上げてしまったのだが、こうして改めて若月に言及されてしまったところで、面影は自分がどれだけ端ない願いをしたのか気付いてしまった。
「う、あ……っ…」
取り繕うのは違う……が、素直に認めるには心の抵抗も強く、汗や体液で濡れ光る身体を晒しながらも大いに狼狽えてしまった面影を楽しそうに眺めながら、若月はその場に座すと軽々と若者の腕を引いて抱き寄せ背面座位の形を取った。
「んあっ…!」
彼の太腿の上に跨った面影の秘蕾に熱い塊が押し当てられ、声が漏れる。
「ふふ、何を驚く? つい今しがたまで、お前が育ててくれていたではないか」
先程、面影と眉月は同時に達したが、若月だけはまだそこには至らず、分身はその固さと熱を保ったままだった。
それが今、待っていたとばかりに面影の秘扉を押し開け、先ずはずぬりと雁が呑み込まれていく。
「んあ……あっ、わか、つき…っ、すご……あつ、いっ!」
「お前の内もとても熱いな……火傷してしまいそうだ…ああ、好い…物欲しげにこんなに情熱的に絡みついてきて……ほぅら、もっともっと奥に行くぞ?」
面影の自重の助けも借りながら若月が腰を上へ突き上げる度に、ずっずっと怒張した茎までもが根元まで呑まれていった。
「あっ! はあぁ、んっ! やっ、あっ、ああ〜っ!」
閉じられなくなった唇の端からだらだらと涎を溢し、目尻には涙すら浮かべながら甘い悲鳴を上げていた面影だったが、不意にその声が途切れる。
「んむっ…!」
「ああ…やはりこちらの口も具合が好い……これならばすぐに…」
若月と面影の身体を跨ぐ形で前に立った眉月が、一度は萎えた己の分身を面影の口へと突き入れ、抽送を始めていた。
「んっ! んふぅっ! くぅっううん…っ!」
じゅぽっ! ぐちゅっ。ぐちゅんっ! じゅぷぷ…っ!
今度は、面影が自ら頭や舌を動かして優しく慰める形ではなく、眉月が半ば強引に彼の口腔内を雄の凶器で犯す形。
閉じられない口の中で粘膜を犯され、更に唾液を溢れさせている若者の口から引き抜かれる度にぬらぬらと濡れ光る雄々しい眉月の楔が見え、それは徐々に大きく角度を得て反り返っていった。
(どう、しよう……気持ちいい……こんな恥ずかしいことさせられてるのに、身体、ぞくぞくして…)
喉の奥から呻きを漏らし、秘蕾から淫音を漏らし、それでも足りないとばかりに若者の身体はゆさゆさと若月の身の上で踊っていたが、やがて眉月が自ら楔を面影の口から引き抜いた。
「あ……っ」
抜かれた雄はこれ以上ないという程に天を仰ぎ、獲物を求めている様に頭を揺らしていた。
それを見て面影が思わず喉を鳴らしてしまっている傍で、若月と眉月が視線を交わし合い、笑みを深める。
若月が背後から面影の耳元に唇を寄せて、密やかに告げる。
「お前が欲しがっていたもの…たっぷりと飲ませてやろう……俺のも眉月のも、な……」
「え……?」
それを頭で理解する前に、若月は相手の身体を後ろから抱きしめたまま自らの身を後ろに倒した。
そして間髪入れずに上から眉月が覆い被さると共に、ぐいっと面影の両脚を膝を曲げさせる事で大きく開脚させてきた。
既に三人共が認識しているが、面影の秘所には既に若月の雄が根元まで挿入され、今もゆっくりと淫肉を擦られている最中だったが、眉月は構う事なく己の先端を若月の肉茎に沿う様に肉穴に押し付ける。
「ひあ…っ!!」
愛しい男の分身二人に挟まれ、肌を重ねられ逃れられないまま、楔を咥え込んでいる卑しい下の口にまた別の昂りを押し付けられている………
それが何を示しているのか、嫌でも面影には予想がついてしまっていた。
思い出す、あの時覗き込んでいた三兄弟の痴態……兄の身体の奥を二人の弟達が同時に貫き犯していた……
あれが今、自分の身に起ころうとしているのだ……
(ほ…ほんとうに挿入るのか……? 一人のだけでも、お、大きい、のに…)
実際出来ているところを目にしてはいるが、それが果たして自身にも当て嵌まるのか……そう思うと、仕方ない事だったが面影の身が不安と恐れで明らかに固くなってしまい、それはすぐに二人の分身達にも伝わった。
「おお、可哀想に、こんなに不安に怯えてしまって……」
「力を抜け……大丈夫だ、決して無理はさせぬ…ゆっくりと、な?」
若月の言葉に続いて眉月が優しく諭してくる。
その言葉の通り、急いて無理やり挿入してくる様子はなく、繰り返し先端で入り口をなぞるなどして緊張を解そうとしている様だ。
本当なら……本能のままに無理やりこじ開けてでも犯したいだろうに……
「……ふ、二人に…お願いが、ある……」
今更逃げるつもりも拒むつもりもなかったが、これだけは、と面影が決死の思いで声を上げた。
「そのっ…こういうのは、は、初めてだからっ……うまく、できないかも、しれない……頑張るけど、もし、駄目だったとしても………私を、嫌いにならないで、くれ……」
真摯な気持ちのみが込められた願いをどう聞いたのか……
それからすぐに若月と眉月は、面影の身を前後からきつく抱き締めてきた。
「お前は本当に……俺には、俺達には過ぎる程に良い男だな…俺達こそ、大概酷いことをお前にやろうとしているのに、そんなことを言ってくれるか…」
「より愛しく思いこそすれ、嫌いになどなる訳がない………案ずるな、必ず悦ばせてやるぞ、極楽も斯くや、という程にな」
若月と眉月はそれから再び行動を再開させたが、眉月はすぐに面影と繋がろうとはせず、彼の雄へと手を伸ばしてそれを握り込み、擦り上げて緊張を解すところから始めた。
「んあ…あ、ああ、ん…まゆ、つきぃ…っ、いいっ……きもち、い…っ」
「若月も…頼む」
「ああ…」
愛撫の手は緩めないまま眉月が若月に促すと、相手は心得たとばかりに頷き、再び腰を蠢かし抽送を再開させると同時に、脇の下から手を回す形で面影の胸を弄り始め、実っていた淡い果実を捉えてゆっくりと揉みしだいた。
「お前はここも弱いのだったなぁ……こんなに尖らせて……」
「あ、若月、も……やぁ……そこ、だめ……あっ、爪、立てちゃ…っ」
優しく触れ、捏ね回してきたかと思えば、固い爪で責められ、面影の胸の突起が見る見る内に更に主張を増してくる。
そしてそれに比例して、面影の声もより大きく、艶めいてきた。
若月の悪戯は無論胸だけには留まらず、面影の蜜壺への蹂躙も続いていたのだが、今のそれは絶頂へと導く様な激しく速いものではなく実にゆっくりと、まるで肉壁の襞を一つ一つ確かめる様な緩やかなものだった。
「う…ふぁっ……あ、ああ…いいっ………も…っと……」
二人に挟まれ、一時は緊張で身を固くしていた若者だったが、彼らからの甘くももどかしい悪戯に夢中になり、その熱く火照った身体もよりぐずぐずに蕩けていく。
そして、そんな相手を見てもう良い頃合いと見做したのだろう。
「………」
眉月が、若月を受け入れていた面影の蕾の隙間にぐいと指を挿入し、押し広げて空いた空間に己の雄の先端を当てて腰を推し進めてきた。
「ふっ!…くぅ……っ!」
ああ………来た………!
これまで経験した事のない圧迫感に喉を反らせながら、面影が息を詰まらせる。
十分に肉扉は解れていたのでかろうじて痛みからは逃れられたものの、二人分の楔の圧迫感からは逃れようがない。
(やっぱり……大きいっ…!)
あまりにも強い力で推し拡げられる感覚に、裂ける……!?と一瞬、恐怖を覚え肩を震わせた面影に、眉月が優しく耳元で告げる。
「力を抜け……もう一番辛いところは過ぎたぞ」
既に雁の部分は秘肉の奥へと呑み込まれており、後はゆっくりと全ての茎を埋めていくだけ……
「う…っ……はぁ…」
ずっずっと勢いを付けながら更に侵入を果たしてくる眉月が腰を突き出す度に、それに押される形で面影の身体も揺れる。
同時に、既に肉壺を埋めていた若月の楔にも内側を擦られる事になり、徐々に圧迫感だけではなく一度は姿を隠していた悦楽が顔を覗かせてきた。
「あ…っあっ、挿入ってくる…っ! ま、ゆつきの、おおきっ…! あああ…まだ、奥まで来るぅ…っ」
はぁっはぁっと荒く口で呼吸しながら、覗いた舌先から涎を溢し訴える若者に、尚も腰を進めつつ眉月は当然とばかりに頷き笑う。
「当たり前だ、今のお前の姿を見て昂らぬなど有り得ぬ。さぁ、そろそろ馴染んできた様だし、根元まで食べさせてやるぞ?」
直後…
ずぐんっ!
「ひっ…! あっあっ〜〜〜っ!!」
「ん…っ」
一気に最奥まで突く勢いで突き込まれ、面影が高い嬌声を上げると同時に、眉月が眉を顰めて小さく呻く。
「っく……はは、本当に喰われてしまった様な締め付けだ…」
元から挿入していた若月も僅かに息を乱した素振りを見せるも、直ぐに気を取り直して面影の内を犯すべく身体を揺らし始める。
やはり同一の刀剣男士の分身であるためか、互いがどう動くのかを察せるらしい二人は絶妙な腰使いで面影の内の肉壁を押し広げつつ、熱い粘膜を慰める様に擦り上げてきた。
「く、あぁ…っ! あつ、い……! わたしの…なか……も、もうっ、二人のオ○ン○ンで、いっぱ、い……はぁぁっ!」
ぎちぎちと肉孔が二本の楔で軋みを上げている一方で、奥の淫肉は固いそれらを包み込みながら、きゅぅっと強請る様に締め付けてくる。
「あああ……あうっ、だ、だめ、だめぇ…っ、ふ、ふたりとも、そんなに、うごかない、でぇっ!」
口ではそう訴えながら、当人の身体の奥は雄を悦ばせる様に淫らにうねり、二人の性欲を嫌が応にも高めてしまう。
当然、若月も眉月も面影の身体の反応の方を信じ、一層楔の動きを速めて相手の期待に応えた。
ずりゅっずりゅっと二本の肉棒が各々好きな様に突いたり引いたりする度に、面影の淫穴の壁もまた不規則に拡げられたり擦られたりと、大いに乱されてゆく。
徐々に面影が紡ぐ言葉も、相手方の動きを留めるものではなく、純粋に快感を伝える歓喜のそれへと変わっていった。
「んは…あっ…はぁうんっ! ひぁぁっ! はげ、し…っ、あはああぁ、感じ、る…っ、奥まで、奥まで届いてる…っ、二人とも…すごいっ!」
自ら艶かしく腰をくねらせ、雄達を共に絶頂へと誘ってくる美しい獲物に、狩人達もまた嬉々として幾度も肉の楔を突き込み続けた。
「嗚呼、なんと男好きのする身体か…生娘の様に怯えていたかと思えば、こんなに美味そうに二本も呑み込んで……」
「うむ、しかし流石に俺も限界だ……そろそろ、ご褒美を、な?」
内をぐちゃぐちゃに掻き回され、肉欲の虜になってしまっていた面影は、そんな若月と眉月の会話を朧げに聞きながら望んでいた解放の瞬間が近いという事を悟り声を上げた。
「あああっ……いっ、達かせて…っ、もっと突いて、激しく突いて! こ、今度はちゃんと、二人とも、奥に…射精してぇっ!」
思えば、今宵は確かに幾度も達かされていたが、彼らのその証を身の内に注がれてはいない。
肌や口には存分に受けたが……それでもこの貪欲な身体は満足していなかった。
欲しい……熱い男の欲棒にどろどろになるまで蕩けさせられた秘所、その奥の奥まで彼らの精を注ぎ込んでほしい!
「もうっ……ごほうび、ちょうだい…っ!」
熱く赤くなった顔…その双眸から涙を溢して切なげに訴えてくる面影の姿を見た瞬間、彼の体内で暴れていた二本の楔がより一層太さを増した。
「面影……っ!!」
「ああ……射精す、ぞっ!」
「いっ…いいぃっ! 来て! 来て! あ、ああああ〜〜っ!!」
限界まで拡がり肉棒達を受け止めていた秘肉がぐぐっと収縮した瞬間、まるで搾乳された様に二本の先端から『ご褒美』が勢い良く噴き上がった。
「ああっ…!!」
それらは濃い粘りを持った奔流となり、面影の身体の奥へ奥へと注がれていく。
「んああぁ〜〜〜っ!! ひっ、ひあぁっ! あついっ! おくっ、いっぱい、叩かれてっ……」
二本の雄が思い思いのタイミングで幾度も射精を繰り返し、その度に、その読めない刺激とかつてない大量の精液に浸され、なす術なく面影の意識は限界を超えて焼き切れた。
「い、達く、達くぅ…っ!! わ、たしも、射精しちゃ……っ!!」
注がれながら、自らもびゅくびゅくと勢い良く精を放った記憶を最後に、面影はそのまま気を失う。
もう……意識を保っていられない………
思考を放棄する間際、
「ああ、限界だったか………神域もそろそろ閉じる刻……暫しの別れだな、面影よ」
「愉しかった……お前が求めるならまたいずれ、な……」
そんな二人の声が朧げに聞こえた気がした…………
「っ!!」
は…っと面影が前触れなく瞳を見開いた時、目にしたのは天井だった。
外から射し込む日光から、そして照らされている部屋の様子から、どうやら時分は朝なのだと知れる。
場所は、見慣れた三日月の寝所だった。
「え………」
自身が横になっているのが布団の中である事にも気付き、少なからず彼は狼狽した。
確か……私は、三日月の神域に誘われ、あの地で若月と眉月に………
夢と呼ぶには余りにも鮮烈に記憶に残っているあの夜の営みは……一体……
「ん…」
「!?」
不意に隣から聞こえてきた声に視線を動かすと、同じく布団の中には自分と並んで三日月も身体を横たえ、小さな寝息を立てていた。
(三日月………)
ああ、そう、この景色……『いつも』と同じ、朝の風景………
(やはり、昨日の……夜の事は…夢…?)
それにしては何という生々しい夢を見てしまったものだろう……いや、生々しいだけではなく………
(あ……あんな……恥ずかしい夢を見てしまうなど…それ程に私は欲求不満だったのか…?)
自己嫌悪に陥りそうになり思わず小さく身体を捩ったところで、不意に隣の男が前触れもなくこちらへと身体を向けると同時に上側になった左手を大きく伸ばし、面影の首筋に回して己の方へと抱き寄せてきた。
「…っ!?」
喫驚してぱちくりと瞳を見開く若者の目前で、閉じられていた三日月の瞼が開かれ、優しい視線がこちらへと向けられた。
その仕草からは、彼がたった今起きたのか、もともと意識があったのか、察する事は出来なかった。
「み、三日月……?」
夢だったのか現だったのか分からない、唯ひたすらに甘く激しい二人の男との交わりを思い出して、面影が狼狽えながら視線を逸らして頬を染める。
どうしよう………あれは果たして現実だったのか、知りたい…けど、あんな事を尋ねるなんて………
面影が大いに迷っている様子を暫く眺めていた三日月は、やがてくすりと楽しげに笑みを深めながら、ひそっと相手の耳元で答え合わせをした。
「…若月と眉月はすぐにでもまたお前と会いたいと言っていたぞ……?」
「!!」
「とても、美味かったとな…」
これ以上ないはっきりとした答え合わせの解答で昨夜の行為がまざまざと思い出され、面影が一気に羞恥に顔を赤くしたが、そんな反応は予想通りとばかりに驚く素振りも見せず、三日月は更に自分の方へと抱き寄せ、しかし、と続ける。
「当分、奴らにお前を委ねるつもりはない……暫くはこれまで通り、俺一人だけを相手にしてもらうぞ?」
「…………」
断言した三日月の顔をは、と見上げた面影は、暫しそのままの姿勢を保っていたが、おず、と遠慮がちに右手を上げてそぉっと相手の頬に触れた。
「……神域をあんなに長い時間、維持するから……しかも、ふ、二人に分身までしてあんな………無理を、したのだろう? 顔色が悪い」
「………」
「……私に気を遣わずとも、神域などそう何度も展開する必要などない。その………」
それまでは流れる様に言葉を紡いでいたが、ふと、面影は口を噤んで下を向き……小さい声でかろうじて続けた。
「…ふ、二人のお前に抱かれるのは、とても気持ち良かった、が………私は、お前が健やかでいてくれさえしたらそれで良いんだ……私の為に無理などさせたくない…」
「………はぁ」
面影の気遣ってくれる言葉を聞いていた三日月だったが、何故か彼の吐き出した溜息には僅かに落胆の色が混じっていた。
「少しは理解してもらっていると思っていたが……お前は俺の事をまだ分かっていない様だな」
「え……っ」
「良く聞け、面影。俺が神域を展開しないというのは、別に疲れているからとかそういう下らない理由だからではない」
「下らないって……」
お前が疲れるなど、本丸にとっても大事だろう、と反論しようとする相手の発言を許さず、三日月はびしりと言い切る。
「展開しないのは、あの二人にお前を好きにさせたくないからだ。俺の分身であるし浮気ではない事も分かっている……が、やはり落ち着かん、苛々する」
常に飄々とした態度を崩さない男の珍しい負の感情の吐露に面影はどきりと胸が強く脈打つのを感じる。
(…え……それは……)
何度も頭の中で思考を繰り返したが…導かれる答えは一つしかない。
(まさか………分身……三日月自身に嫉妬…してるのか…?)
動揺する面影の身体をぎゅうと抱き締めながら、言うべきことは言ったとばかりに開き直った様な三日月の声が降ってくる。
「だから………これからもお前は俺だけのものだ…良いな?」
「~~~~」
自身にすら嫉妬してしまう程に己に執着されていると知らされた面影に、果たして他に応えられる言葉があっただろうか……
「……なら、これまでと変わらないということ、だろう? 私の知るお前と同じという事だな」
『分かっていない』訳ではない、と微笑む面影に、刹那、虚を突かれた様な顔をして、男はそれから優しく笑って頷いた。
「そうだな」
互いが微笑み合ったところで、ふぅと面影の唇から小さな吐息が漏れ、彼はゆっくりと瞳を閉じた。
「……けど、流石に少し疲れた気がする……明日からはまたいつも通りの日常に戻るのだろう? 三日月も、今日ぐらいはゆっくりしよう」
「…ふむ?」
自分はまだまだ何回戦でもいけるのだが?と内心恐ろしい事を考えていた三日月だったが、目の前ですぅ…と安らかな寝息を立て始めてしまった若者の様子を見て苦笑する。
確かに、この二日間は随分と相手に無理をさせてしまった……
平和なひと時ばかりではない、自分達の日常には戦いが共に在る事も理解している以上、過剰に疲弊させる訳にはいかない。
二度寝など滅多にしない面影の今の状況を鑑みても、無理に起こす様な真似は出来ない。
「…俺も、もうひと眠りするか…」
起きたら……さて、どうしよう?
ずっと共にしていた布団をいよいよ抜け出して、二人で本丸の外を軽く散策するのも良いかもしれない……
そんな事を考えながら、三日月もまた愛しい男と同じくとろとろと微睡み、ゆっくりと瞳を閉じていった…………