「此度の戦闘結果については以上だ、主に伝えてもらいたい」
「承りました」
その日の夕刻に近い頃
とある本丸の一室で、三日月宗近が跪坐の姿勢で此処の担当であるこんのすけと相対していた。
行われていたのは、先刻まで彼を含む刀剣男士達が就いていた任務の結果の報告である。
普段であれば直接審神者と相対して報告を行うのだが、今日は審神者は別の問題に対処中で手が離せないらしい。
前日、時間遡行軍の出現を告知され、六振りの刀剣男士達がその征伐へと向かった。
特に珍しくもない通常の任務だったのだが、事前に推測されていた敵方の勢力を鑑み、今回の隊長は久し振りに三日月宗近が請け負う事になったのである。
『じじいの出る幕ではない』
普段はそう嘯きながら縁側でゆっくりとお茶を啜るのが日常である彼だが、その態は半分は真実でもう半分は偽りだ。
彼は千年の時を生きている付喪神であり、刀剣男士達の中でも超が付くほどの年長者である。
故に、『じじい』と自称するのはその通りだろう。
しかし、『じじい』だからと言って、人間の常識の通りにその肉体が衰えているかと言うとそうではない。
天下五剣の中でも最も美しいと評されており、一際人々の寵愛を受けてきた彼は付喪神としての神格もかなり高い。
人の想いは強い力を持つ。
それ故に人の想いを受けるだけ、刀剣男士は強くなっていくらしい。
そう考えると、三日月宗近が顕現している刀剣男士達の中でもかなりの実力を持っているのは当然の流れと言えるだろう。
つまり彼が今回出陣したという事は、あちらの戦力を高く看做したが故に、十分に対抗出来るようにと審神者が勘案した結果だったのだ。
その結果は……危なげなく勝利を収めたものの、やはり無傷とまではいかなかった様で、軽傷を負った者が複数。
「負傷した隊員達は…」
「全員、既に手入れ部屋に向かわせている。全室空いていて助かった」
「空けたのは審神者の采配です………しかし三日月宗近、『被害』を過小評価して報告されると困るのですが」
「ははは、誤魔化せなかったか」
鷹揚に笑う三日月の人を食った様な態度にも、こんのすけは一切動じない。
狐の姿を持つ『こんのすけ』はそもそもこの一体だけではない。
各本丸に一匹ずつ手配され、審神者や刀剣男士達を多方面に渡ってサポートする立ち位置である存在であるが、人ではなく動物でもなく刀剣男士でもない。
『管狐』と呼ばれている通り、見た目は特殊な紋様を刻まれた狐であるが、彼らが生き物なのか、怪異なのか、それとも精巧なからくりなのかは不明である。
政府側の意向に沿って動きながらも自らの意思を持ち、状況によっては自らの判断で行動している姿を見る限りでは、ただの木偶ではなさそうである。
この本丸に配属されたこんのすけは、他の本丸の審神者達や政府筋の役員に言わせると、良くも悪くもこの本丸の審神者に似て「情には弱いが食えない性格」らしい。
「三日月宗近……そしてもう一振り、面影……貴方たち二人も、無傷ではありませんね」
「取るに足らぬ程度だ。俺達は他の者が回復した後でゆるりと利用させてもらおう」
「……それなのですが」
こんのすけの首が下へ傾き、視線が外される。
「申し訳ありません。それが、少々困った事がありまして…」
「ふむ…?」
出陣前にはそれらしいトラブルについては全く聞かされていなかった三日月が、興味深そうに首を傾げて短く返し、続きを促す。
「皆様が出陣中に、手入れ部屋に異変を知らせる警告音が鳴り響きまして……誰もいない筈の部屋でしたので一時は何事かと騒然としましたが、同時に政府からの入電が入りました」
こんのすけの話では、どうやら警告音は政府から放たれたものだった様だ。
刀剣男士達にとって、手入れ部屋は本丸の中でも馴染み深い空間である事は誰もが否定しない事実だろう。
彼らは平穏な人生(刃生)を送る為に顕現したのではない、歴史修正主義者と戦う為にこの世に人の形をした生身を請けたのだ。
故に、彼らの日々の生活の中には常に命の危険が付き纏う。
比較的安全とされる本丸に在って尚、敵方の急襲に依って滅ぼされた処もあるのだ……数え切れない程に。
それは此処の本丸にとっても他人事ではなく、事実、過去に一度この本丸はほぼ壊滅状態にまで追いやられたのだ。
狙われたのは審神者の歌。
時間遡行軍が無慈悲な大隊を組んで襲い掛かって来た記憶は、此処の刀剣男士達の記憶にいまだに生々しく刻まれている……一振りを除いて。
その襲撃を受けた際に、一度此処の施設はほぼその機能を失ってしまった。
かろうじて生きていたのは一般人が人らしい生活を営む為の最低限の機能のみ。
つまり……刀剣男士達の為の手入れ部屋も使用出来なくなってしまった過去があるのだ。
戦いの中で審神者を失い、仲間達も喪い、その身を治療する術を失い、彼らは時空を漂流しながらひたすらに審神者を探し続けていたのだが、そんな彼らの漂流生活に終わりを告げた事件があった…そして刀剣男士が居た。
彼が訪れ、共に戦い、己が身を挺して三日月達を敵方の罠から救い出してくれた……
苦い思い出ではあるが、あの事件を契機として彼らの運命が上向いたのも事実だった。
「強襲調査」に貢献した事実が政府に認められ、そこからの流れは漂流していた時間と比べたら正に瞬きの如し。
政府と彼らの尽力もあって審神者が何とか元の本丸に戻され、施設は再び再構築を果たされた。
喪われた刀剣男士達は……時を戻せない様に帰還する事は叶わなかったけれど、その代わりだとでもいう様に、一振りの刀が遣わされた。
夢の世界に贄として自らを捧げた……彼の剣士が。
「三日月、こんのすけ」
二人が居る部屋に彼らを呼びながら一人の若者が入室してきた。
襖も開け放たれていた部屋での話だったので断りなしの入室だったが、既に気配を感じていたのか三日月もこんのすけも彼を咎める事はない。
「他四人の手入れ部屋への入室を確認した。今日中には手入れは無事に完遂されるだろう」
美しく艶やかな髪は、その先端が揺れる様は風に踊る藤の花を思わせる。
瞳は鮮やかな若草色で、その奥に黄金の輝きが入り混じっており、その様はいつの日か、彼が嬉しそうに歩いた野原の様を彷彿とさせた。
黎明の空を閉じ込めた様な薄紫の戦装束、その裾をひらりとひらめかせながら歩み入ってきた若者に三日月が首を巡らせて優しく問うた。
「そうか。丁度、その手入れ部屋についてこんのすけから何やら通達がある様だ。お前も聞いていくか? 面影」
「通達、が……?」
そこに何かのトラブルの気配を感じたのか、少しだけ表情を固くしながら面影が会話の輪に入るべく更に歩を進める。
彼こそがこの本丸の大きな転機をもたらした件の刀剣男士であるのだが、本人はそれを全く鼻にかける事無く、寧ろ目立つことを嫌っている。
そんな控え目な性格の若者はこの本丸の古参の刀剣男士達にも好意的に受け入れられ、昔からの戦友の様に彼らとの絆を築いていた。
特に、彼の後見人という立場になっていた三日月宗近は彼の事をいたく気に入り、何かにつけて世話を焼いて労わっていた。
その源の感情は友情ではなく恋慕であり、その愛情を受けた面影も三日月を誰より慕っているのだが、それは此処では秘められた関係である。
「私達の居ない間に何かあったのか?」
面影の来訪により中断されていた話を再開させるべく、こんのすけが改めて口を開く。
「当本丸の手入れ部屋の不具合が政府側の後衛機関により検知されたのです。精査の結果、歴史修正主義者等、外敵からの攻撃によるものではなく自然発生的に生じた故障の様で、既に大まかな場所も特定済みです」
「………」
「直ぐに何か問題が生じる訳ではありません。このまま放置したら深刻な障害が生じる可能性があるという意味です。ですから、現在入室された四名の刀剣男士の皆様には支障はございませんのでご安心を」
「…手入れ部屋は私達刀剣男士の命綱とも呼べる場所。政府がその稼働状況を秘密裏に確認、管理しているという話は聞いた事がある」
面影の言葉は確かに間違いはないが、政府が目を光らせているのには別の理由もある。
刀剣男士達を顕現させる審神者は貴重な存在であり、政府にとっても重要な立ち位置にあるのは疑い様もないのだが、決して皆が善性に満ちた者だという保証もない。
偶に…稀に……認めたくはないが居るのだ。
刀剣男士を使い捨ての道具の様に手荒に扱い、折れてしまう事を躊躇わない人種が。
だから政府は手入れ部屋が使用されている頻度を確認し、常軌を逸した使用状況が確認された場合、即座に介入し該当の審神者を拘束する事もあるのだ。
幸い、此処の審神者は刀剣男士達をとても大事にしてくれているので、政府から目を付けられているという事は無いだろう。
「現時点での当本丸に在籍する刀剣男士の皆様の中で傷を負われているのは、今、手入れ部屋に入られています四振りの方々の他には、貴方がた……三日月宗近、面影、お二方のみ」
「…『軽傷』という判断も付かない程度の掠り傷だ。このまま次の出陣に出ても良いぐらいだ、問題は……」
ない、と断じようとしたところでこんのすけの声が割って入った。
「審神者は懸念しておられます。僅かな怪我でもそれが蟻の一穴となり、刀剣男士を折る引き金になる可能性を」
「!……」
面影は口を閉じ、それ以上の発言を控える。
自分はこの本丸に参入して日が浅い方だが、それでも此処の審神者が自分達の為に心を砕いてくれている事は十分に理解している。
これ以上の自らの怪我を軽視する発言は、審神者の心遣いに対する暴言、失言に成り得ると判断したからだ。
「故に、部屋の不具合については早々に改善しなければなりません。審神者の計らいにより、明日にも政府から修理班が手配される事になりました。そのため、明日一日は手入れ部屋が使用出来ません」
「……ふむ」
頷き、続きを促してきた三日月に頷きを返し、こんのすけは淡々と審神者の考えを代行して二人に伝えた。
「部屋が使えない以上、緊急事態が生じない限り皆さんを悪戯に戦に向かわせる意志はないとの事ですので、明日は当本丸の全ての刀剣男士は基本、本丸にて内番作業、或いは待機。そしてお二人には追加で審神者からお達しを受けております。明後日、手入れ部屋が直り次第お二人も必ず手入れを受ける様に、との事です」
「あいわかった」
全て自分達を大事にしてくれるが故の心遣いであり、三日月は快くその申し出を受け入れた。
彼に続いて、面影も勿論深く頷いて受諾の意志を示す。
「私も否やはない。主の心遣い、有難く受け取ろう」
「それでは…」
「ああ、こんのすけ、一つだけ」
「はい?」
こんのすけが場を切り上げようとしたところで三日月が手を上げながら相手を引き止める。
「…本丸に待機という事だが、出来れば明日少しだけ外出をしたいのだが…買い物にな」
「買い物、ですか…」
少しだけ思案する様子を見せた後、向こうはゆっくりと首を縦に振った。
「戦場に赴く訳ではありませんし、その程度の自由は許されると思います。しかし、その旨、しっかりと審神者からも直接許可を受けて下さい。私はあくまでも伝言係に過ぎません」
「心得た」
そして今度こそその場での話し合いは終了し、こんのすけは身軽に部屋を出て行ってしまった。
おそらく向かう先は審神者の執務室。
三日月の外出の要望についていち早く報告しに行くのだろう。
「……三日月、何処かに出掛けるのか?」
こういう状況なら、審神者に余計な心配を掛けるまいと三日月の方から本丸に留まる選択をしそうなものだと思っていた面影が、少しだけ興味深そうに尋ねてきた。
「うむ…ちょっと思いついたことがあってな…丁度良い機会だと思ったのだ」
「?」
「そこで、面影、お前にも頼みがあるのだが」
「何か私に出来る事が?」
何をするつもりかは分からないが、出来る事があるのなら…と前向きな返答を返すと、相手はにこ、と笑って頷いた。
「お前も共に来てほしいのだ…買い物に」
翌日……
「万屋に行くのではないのか?」
「うむ、此度の買い物は少々趣向が異なるのでな……俺も行くのは初めてなのだ」
いつも万屋に行く道程とは異なる道を選んだ三日月に、不思議そうに尋ねた面影だったが、向こうはあっさりとそれに答えた。
万屋は一般の人間では行く事が出来ない。
特殊な時空に存在する刀剣男士達だけが赴く事が出来る政府側の補給戦線であるが、人にも馴染みある店という形態を取っている。
それは刀剣男士達が少しでも余計な違和感や緊張を抱くことがない様にと精神的安定を図る為でもあり、その一環で万屋の周囲には通常の街並みが構築されており、他にも食事処や様々な種類の店舗が並んでいた。
つまり、万屋を中心として、一つの疑似街が形成されているのだ。
そこを訪れるのは三日月達の所属する本丸の刀剣男士だけではなく、他の本丸の関係者達も含まれるので、今二人が歩いている通りにも結構な数の通行人がいた。
自分達の本丸にも所属している刀剣男士の顔もちらほら見かけるが、彼らは別の審神者に顕現させられた個体であるのでこちらの知る彼らではない。
顔は全く寸分違わないのに中身は別人……初めて此処を訪れた時は面影も落ち着きなく辺りを幾度も見回していたが、今はもう慣れたもので、気にする事無く同行者の三日月と歩調を合わせている。
戦闘目的の外出ではないので、今日の二人の出で立ちは戦闘服ではなく現代の人間が纏う『洋装』らしいそれだ。
「お前も初めて行く店、か……どうして私も同行する事に? 趣向が異なると言うが…」
三日月の普段の生活振りを回想し、あ、と何かを思いついた様に若者が目を軽く見開く。
「何か大きな物でも買うのか? だから人手が欲しくて私を…」
それならお安い御用だ、と拳を握ってみせた面影に、いやいやと三日月は苦笑しながらそれを否定すると共に、ぽんと相手の肩に優しく手を置いた。
「そう、ではない……力仕事であれば誰でも良いが…その…お前でなければ駄目なのだ」
「?」
彼が何をしようとしているのか、そして自分に何をさせようとしているのか。
想像出来ずに首を傾げる若者の手をさり気なく取ると、三日月はさぁと先へ歩く様に促す。
「まぁ詳しい事は着いてから話そう。その方が早そうだ」
「?………そう、か?」
その時に三日月から差し出された手……
それは立ち止まっていた面影の歩みの一歩を促す為だけのものではなく、若者を逃さない為の拘束という意味もあったという裏の事実に本人が気が付いたのは、問題の店に着いてからの事だった…………
「あ、お帰りですか」
「うむ」
本丸に二人が帰還したのは、昼の太陽がまだ西へ僅かに傾きかけたばかりの頃だった。
今日は三日月達以外の男士達は本丸に在籍している事になっているが、賑やかなのは修理班が業務を行っている手入れ部屋辺りで、他の場所は比較的静かだ。
何故手入れ部屋が賑やかなのかと言うと、部屋の修理など滅多に見られない光景を皆が見ようと集まっているかららしい。
所謂、野次馬というやつだ。
その結果か、三日月達が本丸に帰還した時に彼らを出迎えたのは昨日に引き続きこんのすけだけだった。
「予想よりお早いお戻りでしたね」
「うむ、主の厚意に甘えての急な外出だったのでな。あまり遅くなるのも申し訳ない。それに…」
そこまで言ったところで、三日月がちらりと背後に佇む同行者に視線を遣り、こんのすけも条件反射的にそれに続いた。
そこには、本丸を出た時と変わらぬ姿で面影が佇んでいたのだが……何やら様子がおかしい。
「………………」
何処となく目は虚ろで、何の言葉も発そうともせず、異様なまでに大人しい。
元々お喋りな性格ではないのだが、今は不自然な程に沈黙を守っている。
注意深く見るとその顔はうっすらと上気し、熱を宿している様にも見えた。
「…面影?」
様子がおかしい相手にこんのすけが呼びかけたが、それに対して返答を返したのは本人ではなく三日月だった。
「少々外の熱に当てられてしまった様でな……人で言うところの熱中症になってしまったのかもしれん。故に早目に帰還したのだ。これよりは元の指示に従い俺も面影も本丸にて待機するが、こういう訳なので面影の私室には人払いを頼みたい」
「それは勿論です…が、大丈夫ですか?」
こんのすけの心配は尤もな事ではあるが、周知の通り、今現在手入れ部屋は修繕中のため使えない状態なので、自力で何とかするしかない。
「………大丈夫だ、水を摂り、少しだけ休めば元に戻る」
面影が発した言葉の調子が思っていたよりもしっかりとしていたので、こんのすけは少しだけ安堵する。
面影の後見人でもある三日月が大事ないと言っているのなら、おそらくはそうなのだろう。
万一不調が酷くなる様であれば、先ず真っ先にこの蒼の美神が手を打つ筈だ。
こんのすけがそこまで考えを巡らせたところで、三日月が心の中を読んだ様に畳みかけてきた。
「では、その様に皆に執り成しを頼むぞ。ああ、せめてもの礼に皆に土産を買ってきたのでこれらも届けてほしい。こんのすけは油揚げに目がなかったな、一緒に中に入っているぞ」
「これはこれは、ご配慮、痛み入ります」
丁寧に礼を述べた管狐の瞳がキラキラと輝いている様を見て、三日月もはははと楽しそうに笑いながら、そっと面影の肩に手を置いた。
瞬間、ぴくんと彼の肩が僅かに揺れたが、お土産が入った紙袋を見つめていた管狐にその様子を見られる事は無かった。
「さぁ、面影。部屋に戻るぞ。暫し、お前も身体を休めると良い」
「…………」
そのまま肩を押され、私室への移動を促された面影は、変わらず無言を守ったまま三日月に連れられて、目的の場所へと続く廊下を静かに歩いて行った…………
「刺激が強すぎたか…?…もう待てぬか…」
「ん、ん……っ」
面影を彼の自室へと連れて行った後……
そこで別れる事無く三日月も相手の部屋へと踏み入り、寝所に行くまで待てなかったのか私室の奥まで歩み入ったところで互いに唇を貪り合っていた。
「ん…ん……っ…」
開いた唇の隙間から舌を捻じ込まれ、くちゅくちゅと濡れた音をたてながらこちらの舌を絡め捕られ吸い上げられる………
今までも幾度となくこうして口中を犯されてきた面影だったが、今日の彼の反応はいつにも増して激しい様に見えた。
「……ふ……好い反応だ」
一度唇を離してそんな事を囁いてきた三日月に対し、面影は何故か責める様な上目遣いで相手を睨みつけた。
「誰の……所為で……っ」
「おや……受諾したのはお前もだろう……?」
「……それ、は……」
「…痛みは完全に取り払われている筈………なのに、そんなに顔を赤くしているのは………」
不思議な事を言いながら、三日月が細い人差し指で面影の右胸…その中央部をつんっと軽く突くと、びくんっと面影の全身が激しく戦慄き、声さえも封じられてしまった。
「…感じているからだろう………?」
三日月の言葉の通り、服越しでも軽く突かれただけで激しい快感の波が全身を走り抜けていた。
その余韻を感じながら、面影は三日月と訪れたとある店での出来事を思い出していた………
数刻前の外出先にて…
「…此処は?」
「此処も俺達刀剣男士だけが使用できる店なのだが……万屋とはまた別の意味での『特殊』な店でな」
万屋があった通りをそのまま素通りし、入り組んだ路地裏をまた更に奥深く進み……面影だけなら絶対に踏み入れる事は無いだろうという程に深く進んだ場所の一画にその店は存在していた。
店と言うものは客が来ないと成り立たない筈だが、その店は寧ろ客の来訪を阻む様に、細道の壁に目立たない昏い色の扉を構えていた。
周囲の壁に施された模様が擬態の役を買い、何も考えずに歩いていたら見逃してしまう程に自然に溶け込んでいる。
「……その……危ない店ではないのか?」
こういう怪しい店は外界の街でも見た事はあるが、大体は反社会的な人間達が集う様な場所だった……と思い出しつつ、三日月に確認を取ってみるが、向こうは彼の不安に対し何でもないとばかりに首を横に振った。
「……見掛けはこうだがその様に警戒する場所ではない…が………そうだな…政府筋の者達にとってはあまり歓迎されない場所でもある………しかし、こういう場所も一部の刀剣男士達には必要とされているのだ」
「……お前も必要としているのか?」
だから、此処に来たのか?
問い掛ける若者に対し、三日月は苦笑しながらもはっきりと答えた。
「お前に会わなければ、来ることは無かっただろう………とは言え、軽蔑されても仕方ない誘いである事は理解している」
「…?」
「…長々と説明するより、見てもらった方が早かろう。行くぞ」
尤もな事を言って、三日月は扉の取っ手に手を伸ばしてそれをゆっくりと開け放った。
その先にあるのは下へと続く階段……灯らしきものは設置されておらず、先は完全な暗闇だ。
気を付ける様に声を掛けた後、先に進んで階段を下りていく三日月に続いて面影もゆっくりとドアの向こうへと進んだ。
後ろ手にドアを閉めると、そこでようやく階段を少し降りた先の壁際に火が点った蠟燭が一定の距離を置いて据え付けられていたのに気づく。
その僅かな光源を頼りに降りていくと、やがて通常の床がある空間へと辿り着き、意外と広い店だった事が分かった。
降りた先のすぐ左側にカウンターらしき設備が設置されており、店員と思われる人物が奥に控えている。
男か女かは分からない……その顔には翁を模した面が付けられている。
カウンターを横にその先を見ると、広いサロンの様な空間に複数の刀剣男士達が居た。
彼らは各々、静かに、時々笑い声も交えて会話を楽しんでいる風だったが、空間が暗く、人目を憚る様な環境である他には、三日月が言っていた様に危険な雰囲気は感じられなかった。
(…一体、何の店………?)
『いらっしゃい。ようやく来たのか』
面影の疑問を遮る様に、カウンターの何者かが声を掛けてきた。
対象は三日月だった様だが、その声も男のそれと女のそれが重なった様に聞こえ、やはり相手の性別は分からないままだ。
只、何となくまだ若い年齢だろうという事は察せたが、そんな若い人物が三日月に気安い言葉を投げかける様子には多少なりとも違和感を覚えたものの、それについては面影は沈黙を守った。
「うむ…一日だけの戯れにな。丁度良い機会を得られたのだ」
『一日? それはまた半端が過ぎる…いや、こちらが干渉する事ではないか』
「…確かに半端かもしれんな、しかし」
言いながら、三日月はぐいと面影の腕を掴んで自らの方へと引き寄せると……
「…この者を大切に……大事にしたい……傷を付けるなど考えたくもないが、一日だけなら、とな」
「!?!?」
きつく抱き締めてそう言い放った。
それを聞いた面影は一気に顔を赤らめて彼の腕の中で身を揺らした。
カウンター内のスタッフだけでなく、奥のサロンで三日月の発言を聞いたのであろう他の男士達も興味深そうにこちらの様子を伺っているのが分かった。
(………あ、あれ…?)
そこで、初めて面影はサロンの中にいた先客達の特徴に気が付く。
彼らは各々、他の男士とは距離を保っているのだが……一人で立っている者は殆どおらず、ほぼ全員が二人ずつ……対になっていたのだ。
組み合わせは各々異なるが、二人で対になっている彼らは互いに心を許し合う恋人の様に寄り添っている。
それを見て、面影はようやくこの店がどういう場所なのかをぼんやりと理解し始めた。
『…凄いね、随分とご執着らしい。まぁウチは客の希望を只忠実に叶えるだけ、だ。そちらの事情に踏み込む野暮はしないさ』
「助かる」
『けど……お相手はまだよく理解していない様だね。じゃあ、簡単に説明しておこうか』
三日月と話していた人物が、ちらりと面影へと仮面の奥に光る瞳を向ける。
その視線を真っ向から受け止めながら、面影は素直に頷いた。
「………お願い、する」
『多少は察していると思うけど、此処は恋仲の刀剣男士達が集い、ひと時を過ごす場所を提供している。刀剣男士同士の色恋は政府としては表立って認める訳にはいかないけど、その絆が男士の力を強め、精神を安定させるというのもまた事実。だからこそ、非正規ではあるけど目立たない事を条件に、此処は政府のお偉方から目溢ししてもらっているのさ。あと、場所を提供するだけでなくちょっとしたサービスも行っているんだけど、大体の客はこちらがお目当てだね』
言いながら、翁の面の者はカウンターの下に常備していたらしい一冊のファイルを取り出すと、それを捲ってとある頁を広げながら面影に見せた。
「っ!!」
その頁に掲載されていたのは一枚の写真。
首から腰までを写した男性の裸体…を模したマネキンだったのだが、その両の乳首に銀に輝く装飾具……ピアスが装着されていた。
『刀剣男士は結婚を許されていない…それは勿論知っているだろう? けど、それでも互いの所有の証として、相手の身にこういう物を付ける事を望む奴らがいる。此処は、それを叶える場所』
「………」
無言で、面影はサロンの奥の刀剣男士達を見つめる。
では、彼らも見えていない身体の何処かに、そういうものを………?
『一度付けたらずっと装着するのが常なんだが、あんたの恋人はどうやらあんたを傷つけたままでいたくないらしい。ウチの装飾具は特殊仕様で、身に着けている限りは手入れを受けても消える事はないが、外して手入れを受けたら、その跡は傷口と認識されて消えてしまう。だから、今日、あんたを此処に連れて来たんだろう』
その言葉を受けて三日月を見ると、相手はこちらを見つめながら伺う様に言葉を紡いだ。
「…手入れ部屋が修復され次第、俺達も手入れを受ける……傷を受けたら直ぐに部屋に送り込まれるのが常だが、俺達には今日という猶予が与えられた……今日一日だけ……お前に所有の証を付けても構わないだろうか…?」
つまり、彼は前々からこの様な装飾具を自分に付けたいと考えてはいたが、長期間に渡って傷を付ける様な真似は出来ないと見送っていた。
手入れ部屋に入室して傷を修復する事は出来るとは言え、いつ入る事になるのか、などと事前に分かる訳もない。
しかし今回、例外的に手入れ部屋に入室する日を予め指定される機会を得られた……つまり、その日まで猶予を得られたという事だ。
そうか、だから彼は、三日月は今日、此処に連れて来たのか………
「………っ」
自分が三日月のものだと示す、所有の証………
そんな物など無くても、もう自分は彼のものなのだが、付けてみたいという気持ちはある。
しかし、付ける場所が場所だけに、羞恥で直ぐに返事を返す事は躊躇われてしまった。
「そ、れは……構わない、けど………こ、こんな場所、に…?」
衣類で隠れるとは言え、此処も大胆と言えば大胆な場所なのだが………
戸惑っている面影に、スタッフがカウンターから上体を乗り出すと、ひそりと小声で補足を付け加えた。
『独自の特殊施術で人間がやる時の様な痛みは一切無いよ。それと、これは下世話な話だけど…………アノ時に《とっても気持ち好くなる》』
「……!!!」
そんな事を言って…言われて……私にどうしろと……どうしたら……?
「あ………そんな…その……」
『まぁ、色々とお勧めのモノはあるんで、これからは場所を移動して詰めていくかい? あんたは、もう決めていたよな』
「そうだな」
(やる事前提になってる!!?? しかも…三日月も…!?!?)
そして、哀れ囚われた美しい恋人は、そのまま個別対応の為の奥の個室へと連れられて行ってしまったのだった…………
そして思考は現実に戻る。
(あれから……三日月が気に入ったピアスを選ばれて……た、確かに痛くはなかったけど……)
そう言えば、自分が施術を受けている間に三日月も別室に行って不在だった時間があった。
もしかして三日月も、自分と同じ様に装飾具を付けているのだろうか…?
しかしそれなら、私の時と同じように自分にも選ばせてくれても……
「お前に似合う……美しい飾りだったな」
「ひぁ……っ」
かぷりと耳朶を甘噛みされながら甘い声を吐息と共に奥へと吹きかけられると、それだけで快感が身体を走り抜ける。
それに加えて快感の波が胸にも伝わり、普段ではあり得ない程の強烈な刺激がそこに生まれた。
(あ…っ……見えなくても、分かる……すごく、固くなって……乳首、勃っちゃってる…)
触れなくても、今は敏感な場所に異物が貫通する形で存在しているのだ。
それが常時、刺激を与えている形になり、胸の蕾がより大きく育ってしまっているのかもしれない……
「隠していても分かるぞ………此処と……此処、だな?」
「ひゃうぅっ!!」
服の上からでもうっすらと認められる小さな膨らみを、両手の指先でぴんっぴんっと弾く様に刺激してやると、しっかりとした感触が返って来たと同時に面影の甘い悲鳴が響いた。
「あっあっ……だめ…みかづきぃ…っ、そこ…感じすぎちゃ…」
「ふふ……いつにも増して愛らしい声だ……そんなに気に入ったのか…」
口吸いと服越しの愛撫だけで、早くも面影の瞳には歓喜の涙が滲んでいた。
いつもより確実に敏感になっている原因は、間違いなくあのピアスの所為だろう。
面影の反応に三日月もぞくぞくしながら相手に声を掛けた。
「面影……さぁ、俺に見せてくれ……俺だけのもの…その証を」
「う……ん……」
胸元を開けた半袖シャツの下には、黒のTシャツ。
裾をジーンズの奥へと入れずに遊ばせたままだったので胸と生地の間には結構なゆとりがあったのだが、それでもよく見ると下に何かしらの異物があるという輪郭が見える。
帰る途中、誰にもその違和感に勘付かれなかったのは、上に羽織っていた半袖シャツが上手い具合にその部分を隠してくれていたからだ。
面影はその半袖シャツごと、Tシャツをゆっくりと下からたくし上げていく………
奥から現れたのは、白い肌に映える赤い蕾が二つ…それらを貫通する白金のシャフトの輝きとそれぞれを覆う様に羽を広げた小さな二匹の白金の蝶だった。
蝶は輪郭のみを白金で象られている仕様でその内側は奥が見通せる様になっており、枠内には赤く熟れた果実がより強調される様に存在していた。
そんな二匹の蝶と蝶の間には彼らを繋ぐ様にこれまた白金の細い鎖がゆとりを持って下へ向けて弧を描いている。
「美しい………素晴らしい眺めだ……」
「やぁ………そんな…見ないで……っ」
Tシャツの生地の張力で、二枚のシャツが纏めて面影の胸の上部で固定され、ピアスとそれが付けられた蕾の全容が露わになる。
「ふふ、いつもより鮮やかに咲いているな……蝶達も喜んでいる様だ。さぞや、美味い蜜が吸えるのだろう…」
ぴちゃ…っ…ぴちゃ………
「んくぅ…っ! あっ、みかづきぃ……つよい…っ……好いぃっ!!」
三日月の舌がピアスに貫かれた面影の赤い蕾を慰める様に触れ、優しくくすぐる。
いつも…閨でしてくれるのと殆ど変わらない動作だったにも関わらず、今の三日月が施す愛撫は明らかに刺激が強い…そう感じた。
何故…と思った時、脳裏にあの店で言われた言葉が浮かんだ。
『ピアスで貫く事で常時刺激を受ける事になるからね。いつもより敏感に、感じやすくなる。自発的につける傷は人のより扱い易いのは、刀剣男士の利点と言えるのかもなぁ』
後の発言については、敵襲によって傷つけられた身体は手入れ部屋で癒すしかないが、この様に意図的に作成するそれについては、人が負うそれよりも治すことは容易…という事を、あの店の住人は言いたかったのかもしれない。
人が肉体に穴を開ける場合、暫くは安静を保持して様子を見なければいけないらしいのだが、自分達刀剣男士の場合は受ける特殊処置によって開けたその日からこんな行為をするのも可能に出来るのだから………
それを考えると、確かに自分達は人の様な形をしているが、人ではない、のだ。
人ではないのに……こうして人の様に浅ましく乱れてしまっている…………
それが正しい事なのか、そうではないのかは分からないけれど……三日月が相手であれば、自分の心には拒む理由が見つからない………
「好い、か…?」
「ん……うん……っ」
こちらの問いに、素直に頷きながら応える面影を愛おしそうに見つめながら、三日月はそっと相手の胸元に己の手を伸ばし……
くんっ…!
「ひうっ!! そ、それ、だめ…っ!!」
面影の両の蕾を連結している白金の鎖を指で引っ掛け、自分の方へと引っ張った。
それを受けた面影の赤い蕾達は成す術もなく形を変え、ピアスを頂とした円錐状になり、先端を摘ままれ引っ張られた時の様なささやかな痛みをもたらしてきた。
「だめか……? 大きく膨らんで、今にも大輪の花を悦んで咲かせてくれそうなのに……」
くんっ…くんっ………
「あっあっあぁ~~~っ!」
揶揄う様に幾度も繰り返し鎖を引っ張る度に、面影の口から訴える様な悲鳴が放たれる…が、痛みに悶える声の奥に微かに悦びを潜ませていた。
耐えられない程の痛みではないが、確かなそれを感じさせられる度に何故か身体が高揚する感覚までもが生じてくる……それが無意識の内に声に滲んでしまうのだ。
(痛いのに……気持ちいい……っ……もっと……強く…)
この程度の力で済ませているのは、間違いなく三日月の優しさだ。
あまりに強い痛みを与えて苦しませたくはない……きっとそう考えて力を加減してくれているのだろう。
しかし正直今は……もっと強く力を込めて引いてくれても………
「あ……あの……みかづき…」
「うん…?」
これから相手に願う内容を思うとやはり恥ずかしさが勝ったのか、面影が手甲を口元に当てて顔を半ば隠しつつ、小さな声で言った。
「も……もう少し……強く…して、も…」
「!……ほう」
相手の意図するところを即座に察し、三日月の瞳が愉しそうに嗤う。
「ふふ……自ら悪戯をおねだりするとは、悪い子だな。では、悪い子には相応しいお仕置きを与えねば…」
くんっ……!
「あはぁ…っ」
再び強く鎖を引かれて声を上げた面影が、反射的にその引っ張られている鎖に視線を向けると、三日月の指によって引っ掛けられたそれが、何かを意図する様にこちらの顔面近くまで寄せられているのが分かった。
「……?」
何が起こっているのかまだ理解出来ていない様子の若者に、尚も三日月は引っ張った鎖の支点になっている指先を近づけて笑った。
「咥えて…」
「っ!?」
「ほら…自分で好きな様に引っ張るといい…放してはならぬぞ」
「……!…」
ようやく相手の思惑に気付いた面影は、僅かに瞳を大きく見開き身体を硬直させたが、僅かな沈黙の時間の後に素直に首をゆっくりと下へと傾け、言われるままに三日月の指から鎖を引き受ける。
「ん……」
きり、と硬い感触を自らの歯で噛み締め、ゆっくりと頭を上へと向けていくと、ある場所でその戒めの鎖が張り詰める。
それから更に頭を動かしていくと二つの紅い蕾が再び円錐状へ変形し、それらが貫かれている箇所から痛みと快感が生じて面影の身体を翻弄し始めた。
「ん…んん…っ」
嗚呼……ダメだ…この痛みは覚えてしまうには危険すぎる……痛いのに、気持ち好くて、繰り返し貪りたくなってしまう……!
先程までは三日月が与えていた責苦を今は自分自身で享受することが出来る様になり、面影は三日月に見られている事すら忘れてしまっている様に、幾度も首を振って蕾達を責め苛み続ける。
「おやおや……お仕置きで悦ぶとは、躾のなっていない子だ」
ぺろ……っ
「〜〜っ!!」
鎖を咥え込んでいたので声を上げる事は叶わなかったが、面影が激しく全身を揺らして与えられた刺激に反応した。
蝶を模った白金の枠に囲まれていた蕾を、三日月の舌が再び舐め上げ始めたのだ。
「ん、んっ…! ふぅ……んくぅ……っ!!」
鎖を放したら声を上げる事も出来るのだろうが、それを押し留めているのは三日月のあの言葉。
『放してはならぬぞ』
彼の言葉は、面影にとっては決して破ってはならない戒律に等しいものだったのだろう。
また一方で、鎖を離す事で味わっていた苦痛と快感を手放す事も、面影の身体が拒んでいたのかもしれない。
ぺちゃ……ぺちゃっ……ちゅく…っ
(だめ……みかづき…そんなに激しく…っ)
口を塞がれていたので心の中で訴えながら、面影は快楽に追われる様に繰り返し首を左右に振る…が、その動きで鎖はより強く引っ張られる事になり、繰り返し紅い蕾がきりきりと鋭峰の様に尖った形へと変じた。
伸展した皮膚はより鋭敏となり、三日月の舌に嬲られる感覚がいや増し、彼の舌が蠢く度にびくびくと面影の全身が激しく戦慄いたが、そんな若者に対して三日月が更に新たな指示を出してきた。
「気持ち好いのか?…ほら、お前も……」
「んく……っ」
三日月の両手が面影のそれらを優しく掴むと、そのまま自分が愛撫していた二つの蕾へと導き、そのまま触れさせる。
「ふぅ…っ!」
「そうか、嬉しいか…ふふ」
三日月の誘導によって触れさせられた指達だったが、面影はそれらを離す事なく促されたまま牽引されて形を変えた二つの乳首を弄り始めた。
両眼は明らかに二つの性感帯へと向けられているものの、あまりの快感の大きさに脳の処理が追いついていないのか、何処かぼんやりと夢現の中を彷徨っている様な危うさを宿していた。
それは彼の悪戯に踊る指も同様で、まるで夢遊病者の様にひたすらに愛撫を繰り返し続けており、見つめていた三日月もやがて相手の動きに合わせるように舌を踊らせ始めた。
(あっあっ…! いっぱい、いじられて…いじって、しびれちゃ……あっ、だめ、だめぇ…っ! それ以上、されちゃ…!!)
繰り返し悪戯を受けた影響で、蕾達は更に鋭敏になって快感を伝えてくると共に、溢れたそれらが身体の別の場所……更に奥へ、中心へと向かっていくのが分かった。
その流れがどの様な変化をもたらすのか…既に面影は経験として理解している。
(もう……限界……っ)
既に変化が顕れている事を実感しながら、面影は久し振りに胸から両手を離すと、ゆっくりと腰下へと移動させていった。
外出から帰って着替えをしていないので、今の面影はカジュアルなスリムGパンを纏っていたが、その厚手の布地越しでも分かる程に彼の股間の部分が突出している。
その理由は言うまでもないだろう。
面影は躊躇う素振りもなく両手をその頂へと手を向かわせたのだが……
「ああ、いかんな…」
ぐい…っ!
「ふぅ…っ!?」
もう直ぐに触れられるという既のところで、三日月がその両手を押さえてしまった。
潤んだ瞳で訴える様に三日月を見つめた面影だったが、その様子に動じる素振りもなく飄々と笑みを返してくる。
「仕置きなのだから勝手をしてはならぬ……良いな?」
「!……ふ、くうぅぅぅっ!」
三日月の宣言に一瞬、絶望的な表情で相手を見返す面影だったが、相手が再び胸への悪戯を再開させた事で、それは直ぐに快楽の喘ぎへと変わっていった。
(いやだ……だって、もう……熱くて、疼いて……!)
身体の中心……雄の証が燃える様に熱く、内側で溶岩が沸りながら渦巻いている様だ。
その激しい流れは、最早肉の器に収まり切れないとばかりに内側で暴れ狂い、外への解放を待ち望んでいる……!
「ふ……ぐぅ…う…っ!!」
だらしなく、ぽたぽたと口元から涎が垂れ流され、一部は顎を一部は鎖を伝って畳の上に落ちていく…が、本人はそれにすら気がついていない様子で、がくがくと腰を激しく震わせていた。
いつの間にか、押し上げられている股間の布地は周囲のそれより色味を増しており、何かで濡れているのがはっきりと分かる程になっている。
「〜〜〜っ!!……っ! っんん〜〜っ!!」
面影の腰が、がくがくがくっと激しい痙攣を起こし、その振戦が上半身にも伝わっていく。
それを感じ取った三日月が、いよいよ止めを刺すかの如く舌の動きを速めながら強目に吸い上げると、若者の身体は素直にそれらの刺激を受け取り遂に限界に達した。
(だ、め……っ!! い、くっ、達くっ達くっ達くうぅぅぅ〜〜〜っ!!!)
びゅくくっ!! どくっ、どくっ!!
激しい動きが治まった代わりに腰の揺れ幅は大きくなり、何度も前へと突き出される。
下肢の中心部、変色部分が更にじわじわと広がっていったところで、三日月がさわりとそこを上から触れてくすりと笑った。
「触らずに、胸だけで達ったのだな……気に入ったか?」
布地の向こう、勃ち上がっていただろう雄の証が絶頂を迎え、内側で吐精してしまったのだろう。
先刻まで雄々しく迫り上がっていた峰は、内側の熱を吐き出した後でありながら尚も鎮まっていない事が衣類越しでも分かった。
「〜〜〜〜〜……っ」
返事を返す余裕もないのか、チェーンを咥えたまま面影はぼんやりと焦点が合っていない虚な目を向けてきたが、その表情は依然、抑え切れない欲情の熱に浮かされている様に見えた。
「治まらぬのだろう……さぁ」
彼の欲求を見抜いた三日月は、ついっと指先で彼が咥えていたチェーンを口から外してやると、そのまま流れる様に相手の身体をひょいっと軽々と横抱きに抱え上げてしまった。
「あ……」
「行こうか?」
尋ねつつ三日月が身体を向けた先は、私室奥の寝所。
そこに向かうという行動が示す意味を直ぐに察した面影は、顔を下に俯け、無言を守りつつ小さく頷いた。
何も言わないが、微かに覗く彼の耳朶まで赤く染まった肌の色を見ると、その心中を察するのは容易だ。
恥ずかしくはあるが、このまま終わり、というのは面影も望むところではなかったらしい。
絶頂は迎えたが、身体の奥の疼きはまだ治らないし消えない…寧ろ、絶頂は切っ掛けに過ぎず、肉体の熱は更に高まり鎮められる時を待っている。
それが可能なのは己ではなく、目の前の、自分を抱き上げてくれている彼だけ……
面影の物言わぬ返事を受け取ったところで三日月は僅かに口角を上げると、足を寝所へと向けて軽々と若者を運んで行った。
寝所の中はまだ昼という事もあって、私室程ではないが薄明るい。
こんな時分からこれから二人がやる事を考えるとどうしても後ろ暗い気持ちに囚われてしまう。
それから逃れるように面影は身を縮こまらせ、三日月の方へと身を寄せると、彼の胸元からチャラ…と小さな音が鳴った。
例の三日月からの贈り物が立てたもので、それを聞いた贈り主は満足そうに鎖を見つめながら足を進め続け、布団の前に到着すると優しく面影を横たわらせた。
「もう、この様な無粋な物も不要だろう?」
「あっ…!」
無粋な物と呼ばれた面影が纏っていた衣類を器用に剥ぎ取ると、それらを布団脇に投げ捨て、三日月は面影の身体をうつ伏せの状態にした。
「え……あ…っ」
「ほら…腰を上げて…」
続けて若者の腰を両脇から抱えてぐいと持ち上げると、白い双丘の奥に息づいていた秘孔が露になり、代わりに彼の胸元が布団に密着して隠される。
「そのまま……」
くちゅ……っ
「ひゃう…っ!?」
肛穴に柔らかな熱源が押し当てられ、それは濡れた感触を持って周りをじっくりと撫で回してきた。
「やっ……そこ…舐めちゃ…」
「ああ、動くな……よく解さねばお前が辛くなるぞ…」
「そんな……しなくても……っ」
二人は任務に支障が出ない程度には身体を重ねているので、面影の菊座は然程念入りに解す必要性はないという事は本人も三日月も理解していたが、だからと言って相手の負担を軽視して良いという事にはならない。
普段から面影を溺愛している三日月が彼を粗雑に扱う筈もなく、相手の制止も物ともせず舌を蠢かせ続けていたが、その行動の裏には、自身の愛撫で若者がとろとろに蕩けていく様を見たいという欲望も潜んでいた。
くちゅ……ぴちゃ…っ…
「ああう……ん…あはぁ…ううっ」
男の舌がじわじわと菊座の周囲を這い回り、周囲の襞も含めて孔を優しく念入りに解していく。
その一方で、彼の手が面影の身体の下側に回り、濡れた楔をぬるりと優しく握り締めると、びくっと面影の全身に緊張が走った。
同時に面影の身体が戦慄き、彼の口から引き攣った声が漏れた。
「んふあぁぁっ!! くぅんっ…!」
三日月の手が前後に蠢く度に、面影の下半身からぬちゅぬちゅと粘った水音が響いてくる。
その音と併せて与えられる刺激に反応した身体の影響を受け、上半身がずりずりと敷布団に擦り付けられ、その刺激でも若者の耐えられない嬌声が上がった。
(これ……まずい…っ…只でさえ、敏感なのに…っ!!)
あまりにも激しい刺激の所為で、思考さえもがぐちゃぐちゃに乱され、意味のない声だけが大きくなっていく。
元々敏感だった面影の乳首は三日月のこれまでの「調教」によってより感じ易くなってしまったのは本人も認識していたが、今日に限っては、ピアスの所為でその感度は更に上がってしまっていた。
僅かに布地に擦り付けられるだけで胸から全身に濁流の様な快感が押し寄せてくるのを、拒む事も出来ずに只受け止めるしかない。
しかも刺激は胸からだけに留まらず、三日月が舌を這わせている柔肛からももたらされているので、双方の快感を感じる度に身体は激しく戦慄き、くねり、その動きがまた新たな刺激と快感を連れて来るという皮肉な回路が構築されていた。
「あ、ひぃ……っくぅ! はっ、はぁっ…ひあぁんっ!」
「ああ……好い声だ…お前の身体が悦んでいるのが分かる……もっと…」
もっと、もっと……よがらせてやりたい……!
ちゅぷ…と透明の糸を引かせながら舌を離し、楔を握っているのとは逆の手で手指を肛穴にゆっくりと挿し入れると、面白い様にあっさりと呑み込まれていく。
柔らかな肉の歓迎ぶりに思わず小さく笑ってしまった三日月は、そのまま指の根元までを埋め込ませ円を描く様に穴の縁を擦り上げた。
「んああぁぁぁ〜〜〜っ!」
舌ではない感覚に何が行われているのか早々に察した面影が、甘い悲鳴を上げながら首をこちらに巡らせ、三日月と視線を絡ませる。
切なげな表情を浮かべて見つめてくる若者は、何も知らない者が見れば止めて欲しいと懇願している様に見えたかもしれない……が、三日月の瞳に写ったのはそれとは異なる…寧ろ真逆の感情だった。
濡れた瞳……苦しげな表情の向こうに見え隠れするのは、「もっと」という貪欲な願い……
「…うむ、分かっている………そら、此処だろう?」
ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……!!
一本だった指を一気に三本に増やして肉穴に突き立てたが、それですらも難無く呑み込まれ、三日月は再び指達の抽送運動を再開させた。
「く、あぁぁっ! んっ、あっ、い、いいっいいっ!! そ、そこぉ…! あっあっあぁ〜っ!」
「まだそんなに物欲しげに腰を揺らして……いやらしいおねだりばかり覚えて、困った子だ…」
「だって……ああっ…ああんっ! みかづき、ゆび……よわいとこ、ばっかり…っ」
繰り返し出し入れされる細い指達は考えなしに孔を抉っている訳ではなく、的確に面影の感じる場所を責めてきている。
指の腹で肉壁越しに雄の泣き所を繰り返し擦られ、時折こりこりと強く押されると激しく若者の腰が戦慄き、ぴゅっと透明な液体が楔の先端から噴き出した。
「おっと……気をやりかけたか…?」
目敏く面影の身体の反応に気付いた三日月が、ふむ、と微笑みながら納得した様に小さく頷く。
(確かにいつもより感じている様だ………看板に偽り無し、といったところか…)
あの店員が面影に対しても言っていた、「とっても気持ち好くなる」というのは誇張でも何でもなく、純然たる事実だった。
勿論、三日月本人もその効果を期待しての施術だったのだからそうでないと話にならないのだが、どうやら良い意味で期待を裏切られた様だ。
「よしよし……気持ち好いのだな…」
ではもっと激しく指遊びに興じてやろう…と三日月が指に改めて力を込めた時……
「み……みか、づき……」
「うん…?」
呼び掛けられ、顔を上げると、こちらに顔を向けたままだった面影がはーっはーっと息も荒く、舌先を覗かせ、快感に耐えながら訴えてきた。
「もっ……ゆび、じゃなくて……みかづ…の、オ◯ン◯ン……いれて、ほし…っ」
「っ!」
「お、ねがい……はや、くぅ…っ」
わざとなのか無意識なのか、訴えている間にも面影の腰はくねくねと滑らかに揺れ、三日月を誘惑している。
「……全く…」
安易に誘惑に乗ってしまうのは癪だが、この可愛さが相手では仕方がない、か………
(それに、今日は俺も早目に「試したい」と思っていたし、乗るのも一興か)
それからの三日月の動きは早かった。
自らはまだ纏っていた衣服を手早く脱ぎ去ると、うつ伏せ状態の面影の双丘をがっしりと掴んで左右へと押し広げる。
更に露わになった肛穴がひくひくと痙攣しているのを眺め、三日月は既に十分に勃起していた己の肉棒の先端を押し当てたが、その時、肉の切先に何かが光ったのを面影は見る事は叶わなかった。
ずぷぷぷ……っ
「う、く……っ」
挿入ってくる……熱く、固い、私を狂わせ、悦ばせてくれるモノ…が…!
求めていたモノが十分に解れていた肉壁をより一層広げつつ奥へと侵入してくる感覚を覚えながら、面影は前を向きながら顎を反らす。
三日月のはとても大きいので、挿入時にはいつも強い圧迫感が下腹部にもたらされるのだが、それもひと時のこと。
ここをやり過ごせば……とぼんやりとした脳内で考えていた時……
どちゅんっ!!!
「くひっ!!?」
半分まで挿入った、と体感的に考えていたところで、そこから一気に最奥まで貫かれた。
それだけではない。
貫かれ、最奥を抉られた時、いつもとは異なる感覚がそこから生じたのだ。
それが何からもたらされたのかを考えたくても、真っ白になった頭の中と、全身をまだ走り抜けている快楽でそれどころではなかった。
「か…はっ……は…っ……な、に……これ…」
「く……っ」
気が遠くなりかけていた面影の耳に三日月の微かな呻きが届き、彼を現実へとかろうじて引き戻す。
「あ……っ」
そこでようやく、面影は自らが射精してしまっていた事実に気が付いた。
数刻前の男の強烈な一挿しで絶頂に至ってしまったのだろう、その肉刀の先端からはまだ勢いを残した白濁が繰り返し放出されているところだった。
(そんな……挿れられただけで……)
「挿れただけで達ったのか……?」
心中で思っていた事を三日月から指摘され、びくんと面影の肩が震えた。
「見た目も美しくなるだけでなく、こんなに淫乱になるとは……ふふ、一日だけで済ますのが惜しくなってくる」
明日になれば外され、開けられた傷跡も完全に修復されるだろう装飾具の事を言っているのだろう。
三日月のそんな感想を聞いていた若者の胸が密かに強く高鳴った。
惜しくなってくる……その言葉に思わず自分も同調しそうになってしまったのだ。
あの店で、装着したままの男士も居ると聞いた時には耳を疑ったが、今こうして付けた効果を感じてしまうと外して無かった事にするのが惜しいと感じてしまった。
(まずい………このまま…流されちゃ…)
快楽に流されるまいと、面影がぎゅっと敷布を握り締めたのと同時に、三日月がゆっくりと腰を動かし始めた。
「…下らぬ事を考えるな………今宵は趣向を変えて愉しむ…それで良い」
ずちゅっ、ぐちゅっと粘膜を擦り上げる音を繋がった部分から響かせながら、三日月が繰り返し面影の奥を突き、抉る。
その動作が数回繰り返される中で、面影は明らかにいつもとは異なる違和感に気付いた。
「え…? な、に…っ? あっ、これ……お、くがっ!」
違う……内に埋められているのが、三日月のモノなのに三日月のモノじゃない……っ!?
自分でも辻褄が合わない事を言っている事は分かっていたが、それでもそういう言い方しか出来ない。
背後から貫いてくるのは間違いなく三日月本人……なのに、挿入ってきて奥を突いてくるのがいつもの彼の昂りとは違うのだ。
そんな面影の困惑に気付いている筈の男だったが、彼の疑問には答えずにそのまま腰の律動を続けて相手の蹂躙される様子を思うままに愉しんだ。
「あ、ひっ…! 何か、固いの……当たって…っ!! そっ、そこだめっ! そんな、ごりごりしないでぇ…っ!!」
三日月の楔が突き入れられる度に、面影の奥に潜んでいた急所が何か固い物を強く押し付けられ、そのまま擦り上げられている。
決して大きくはないが、その『異物』は明らかに肉とは異なる硬さを持ち、的確に若者の弱点を突いてきた。
「そんな事を言って…本当は好きなのだろう、ココを責められるのが…」
首を激しく振って快感をやり過ごそうとしている面影を見つめながら、三日月は更に腰を蠢かして相手の弱点を責めていく。
これまで幾度も優しく激しく抱いてきた身体なのだ、弱い場所など既に熟知している。
故に、面影の今の腰の動きが三日月の責めから逃れる為のそれではなく、自らの望む場所へと導く為のものである事もお見通しだった。
「こっそりとイイところに当てようとするとは……ふふ、淫乱め」
「そ、んな……そんなこと…ひゃうううっ!?」
否定しようとしたところで一際強く、ぐりっと前立腺を強く抉られ、言葉を封じられてしまう。
「は……ひっ…! ら、め……らめぇ…っ! また、また……いきそうっ!」
「遠慮するな、幾度でも達けば良い」
その手助けをするとばかりに三日月の腰の動きが速まっていき、いよいよ面影は言葉さえ紡げずあられもない啼き声を上げるばかりとなってしまった。
肉棒が突いてくる激しさもそうだが、そこに付随しての『異物』の正体も分からないまま、それがもたらす刺激に、ただただ翻弄される……
(だめっだめっ! きもちいいの、とまらないっ! あっ、オ◯ン◯ン、ヘン…!!)
三日月が激しく腰を抽送させていく程に快感を増していくのを感じながら、面影がその時の訪れを予感すると、背後から相手の熱っぽい声が掛けられた。
「……射精す、ぞ…っ!」
「…っ!!」
下手な愛撫よりも余程欲情を掻き立てさせる声に、己の肉体の奥で何かが点火された音を聞く。
「ん…っ…射精して…射精してぇっ!」
自らの肉の最奥が待ち望んでいる……逃すまいと相手の熱棒をこれでもかと締め上げている……
ああ、早く、早く、この切ない時間に止めを刺して…!!
「…う、くっ!!」
三日月の押し殺した声を聞いたと思った瞬間、身体の奥で激しい熱が生まれた。
びゅるるるるるっ!!!
「かは…っ!!!」
目には見えないけれど、肉壁が確と受け止めた熱の奔流が身体の内側から灼いていく……
(あっ、すごい……すごいの、くるっ!!)
「いっ、いいっ!! あ、はあぁぁ〜〜〜〜っ!!」
ぴしゃあぁあぁぁぁっ!!
面影の楔の先端から透明な液体が迸り、がくがくと腰が激しく痙攣する。
肉壁はより一層強く相手の楔を締め付け、尚も射精を促す様に淫らにうねった。
「ん…っ」
その誘いに敢えて乗る様に、三日月が繰り返し胴震いをしてまだ体内に残っていた精を吐き出すと、ゆっくりと分身を相手の体内から引き抜いた。
とぷ…っ
赤く染まり大きく開かれた菊座から、とろりと白濁が溢れ出して若者の太腿を流れ落ちた。
愉悦の表情でそれを見ていた三日月が、ころんと面影のうつ伏せていた身体を仰向けに転がす。
脱力している若者の身体を容易に反転させた後、三日月が相手の下半身の様子を見てくすりと笑った。
「潮まで吹いたか……これは予想以上の成果だが、素直に喜んで良いものかどうか……」
「…?」
何の話をしているのだろう……成果…とは…?
不思議に思っていた面影の瞳に、三日月の裸体が映る。
相手は自分の身体を動かした後も膝立ちの姿を保っており、今もその状態のままだった。
いつもと何ら変わらない…と思っていた彼の視界に不意に輝く何かが飛び込んできた。
その輝きは、三日月の楔…の切先からだ。
「……?」
達した疲労感で視界もややぼんやりとしていたが、よくよく目を凝らすとその焦点がしっかりと合ってきた…ところで、面影の瞳が極限まで大きく見開かれた。
「え……っ」
あれは……彼の身体に小さく輝くあの光…は……
「み、かづき………それ、は…」
相手がその正体を認識したのを見て、三日月の口角がより一層愉しそうに上がる。
まるで、悪戯を仕掛けた子供がそれが上手く発動した時に浮かべるような、そんな笑みだった。
「……好かった、だろう?」
くいっと腰を前へと突き出し、見せつけるように己の楔に手を添えて先端を若者の方へと向ける。
零口近辺には金属的な輝き……小豆大の球体が四つ、十字を模る様に装着されていた。
あの抽送でも全く外れる事なくその場所にあるということは、単純に表面に接着された物ではなく、肉体に傷を付ける形で……?
挿入の際、面影が感じた違和感の正体は明らかにそれらだったのだろう…が、それをそうと認識する前に、若者はがばりと勢いよく身体を跳ね起こした。
まだまぐわいの余韻も残っていただろうが、そんな事など全く忘れた様に三日月の下肢に縋り付き、眉を顰めながら相手の顔を見上げてくる。
「みかづき…っ! お前、これ……痛く、ないのか…!?」
「は……?」
予想外の反応に、思わず男の口から間抜けな声が出てしまったが、それにも構わず面影は遠慮がちにそっと手を伸ばして雄の証に触れてきた。
「大丈夫…なのか? こんな物を付けて…もし痛みを我慢しているなら……」
「……くっ」
先程までの蕩けた表情は何処へやら…
完全に三日月の身体を気遣ういつもの姿に戻ってしまった相手に、三日月は思わず声を漏らして笑ってしまった。
もっと艶っぽい雰囲気になるかと思ったし、自分としてもそうするつもりだったのに、まさかこんな形で予想を裏切られてしまうとは………だが、これはこれで悪くない…
(あんなに色欲に囚われていたのに、俺が傷付いていると思った途端にこれか……何処まで俺を夢中にさせるつもりなのだか…)
己の快感よりもこちらの苦痛を優先して考えてくれた若者にどうしようもない愛しさを感じながら、男はさわ…と相手の頭に優しく手を置いた。
「大丈夫……お前と同じ施術を施されたのだから問題はない。逆に、お前はそれを付けてから痛みを感じたか?」
「……いや……それは、ない…」
尋ねられた事について少し考えた後、面影はふるっと首を左右に振りながら否定した。
先程までの行為を思い直しても、傷がもたらす痛みは確かに無かった。
装着していた鎖を使って牽引した時の痛みは傷によるものとは異なるので、この話とは関係ないだろう。
(…あの店の人も、『創部の疼痛管理は完璧だから』って強調していたな………そう言えば)
今思い返すと、例の不可思議な店員は、『どやぁ』という文字が背後に見えそうな位に堂々と無痛処置について語っていた。
痛みについては多少なりとも耐性のある刀剣男士が相手の商売では、そういうところは軽視されがちな場所もあると聞いていたが、どうやらあの店はその類では無かったらしい。
尤も、生死に関わらない商売だからこそ、それ相応のサービスを行わないとやっていけないという面もあるかもしれないが。
「…じゃあ……本当に…痛くは、ないんだな…?」
念を押す様に尋ねた面影に、三日月はしっかりと首を縦に振り……思いついた様に付け加えた。
「痛みは無いが……これを付けたお陰で感度は良くなった。それに、お前も随分と悦んでくれていた様だな?」
「っ!」
同意を求められた面影が、直ぐに相手の言わんとしている事に思い至り頬を紅潮させる。
少し前までの自分がいつもより激しく乱れてしまっていた事で、相手の発言をしっかりと肯定してしまったという事実に思い至ったのだ。
気恥ずかしさに顔を俯けながら、ようやく彼はあの時の快感の理由を知る。
(アレが……あったから…)
あの四つの球体状の金属……小さく見えるそれらが、自分の身体の中でその硬さを以て肉洞を蹂躙したのだ。
三日月のモノの筈なのに感じた違和感は、あれらが装着されていたからだったのだと思い知る。
(あんな場所に……付けるなんて…)
三日月が自分の胸を飾るピアスを選んでくれた時の様にこちらも三日月のものを選びたいと思っていたが、成程、そうさせてくれなかった訳だ。
万一あの店でそういう話を切り出されたりしていたら、自分なら激しく取り乱してしまっていただろう…いや、その見た目の衝撃から、相手に付ける事を止めるように進言していたかもしれない。
(……それでも、きっと彼は止めたりはしなかっただろうけど)
柔和で穏やかな顔をしているが、こう見えてこの男はこうと決めた事については決して曲げる事なくやり遂げる芯の強さを持っている。
そして今回、あの装飾具を彼が付けた理由は………きっと、自分をより悦ばせる為…なのだ………
ほんの少し前まで、自分の身体の奥にそれを埋められ、激しく犯されながら啼いていた事実を思い出し、面影の身体がぶるっと震えた。
(……気持ち…好かった…)
あの時の快感を思い出すと同時に、面影は己の内の欲望に気付いてしまった。
(……もっと、欲しい)
続けて達かされたものの、この肉体はまだ満足していない……いや、これまでより激しい快感に狂喜乱舞し、より貪欲になってしまっている。
この飢えを満たす為には……目の前の男に縋るしかない。
三日月のあの際どい場所の装身具に喫驚して場の空気を思い切り変えてしまったが、よく考えたら今の自分達はまだ『そういう』場に居るのだ。
興を削いでしまった事を詫びれば…許してくれるだろうか…?
「あ………」
空気を読まない行動をしてしまった事に今更ながらに思い至り、ちらっと視線を上に上げると、先ずは頭を下に向けた状態の彼の雄が目に入り、続いてこちらを見つめてくる相手の顔を捉えた。
「…痛みは無いが、このまま放置されるのもなかなか辛いな……」
困ったとばかりに苦笑して、三日月が誘う様に手をこちらへと差し伸べてくる。
「良ければ、今度はお前が俺を慰めてくれぬか…?」
相手からの懇願……という形だったが、それは明らかに面影に対する慈悲だった。
きっと彼は、心の奥の後ろめたさにも、瞳の奥に隠していた欲情にも気がついていたに違いない。
それを知った上で…彼が願う形を取ることで、こちらが動きやすくなる様にしてくれたのだろう。
「………う、ん…」
そんな相手の誘いに素直に応え、面影はそろりと身体を相手の方へと寄せていくと、そっと手を伸ばして彼の楔へと触れた。
「…さ、触っても、大丈夫……なんだな?」
「うむ……お前の好きな様に、な」
改めて許可を受けた事で、面影は今度こそしっかりと相手の楔の茎を握り込むと、そのまま顔を寄せてまじまじとピアスが付けられている場所を凝視する。
(うわ……ち、近くで見ると、やっぱり…すごい…)
肉の楔に金属球が埋め込まれている様は、小さくても視覚的にかなり衝撃的だ。
今日付けられたばかりなのに痛くないとは驚きでもあり、幸いでもあると言えるだろう。
(付けた場所…貫く事で刺激を受け続けて感じやすくなるって……それなら…)
胸の装飾具について店で言われていた事だが、それはこの目の前のピアスにも言える事ではないだろうか…?
無論、最初は細心の注意を払いつつ触れていかなければ……と思いつつ、ぬる…ぬる…と楔の茎の部分をゆっくりと擦り上げる。
濡れているのは、先程自分の内で精を放ったばかりなので、その残渣を纏っているからだ。
続いて、そっと金属球の一つに指を触れさせ、円を描く様に少しだけ力を込めながら撫で回すと、早速肉棒が反応を示した。
(あ……オ◯ン◯ン、ぴくってなった…)
最初はおっかなびっくりだったが、少しずつ勝手が分かってきたのか、それから面影は続けて他の三つのピアスにも指を這わせて頭を撫でる様に可愛がり始めた。
(すごい……当たり前だけど、凄く硬くて……三日月も、気持ち良さそう…)
遠慮がちだった指の動きにも徐々により強い力が込められていくと、それに応える様に三日月の分身も育っていき、むくむくと首を持ち上げていくと共に大きさも増していく。
「三日月……どんどん大きくなってる…」
「ああ……確かに、いつもより感じやすい様だ…」
そんな相手の声を聞きながら、じっくりと手掌で彼の分身を愛撫している内に、じわり…とその先端から新たな液体が滲み出してきた。
透明な先走りは尽きせぬ泉の様に零口から溢れ出し、とろりと肉刀の鋒に垂れ下がる。
間近でそれを見ていた面影の背筋に、ぞくりと戦慄が走ると共に新たな欲望が湧き上がり、何かを思うより先に身体が動き出していた。
「ん……」
ちゅ……っ
「っ!」
零口から響く刺激にびくんと分身が震えると共に、三日月の肩も小さく揺れる。
三日月の視界の中で、面影が指だけでの愛撫に留まらず、その唇を寄せて肉棒の先端に口づけてきたのだ。
触れた瞬間に小さく音を立てて今にも溢れ落ちそうだった雫を吸い取ると、場所を変えて様々な場所へと接吻を繰り返し、新たに雫が溢れてくると同じ様に吸い付いてくる………
「…ここ……好い…?」
そう言いながら面影が唇を付けてきたのは、あの装飾具だ。
不釣り合いな場所でキラキラと輝く小さな球状の飾りに、まるで真珠に口付けを落とす神の様に唇を寄せてくる若者の姿は、淫靡でありながらも美しく、それだけでも性的興奮が激しく掻き立てられる。
しかも彼が唇で触れてくる度、ピアスからの振動が直接伝わる事で過大な快感が三日月を襲っており、普段は平静を装う事に長けている彼でもその興奮を隠す事は困難だった。
「ね……みかづき…?」
全身に汗をうっすらと滲ませながら、僅かに肩で息をしている相手の様子を見れば、感じている事は明らかだ。
それでも彼の口からはっきりと答えを聞きたいのか、面影は肉棒に唇を寄せつつ尚も尋ね掛けた。
「……お前の可愛い姿も、俺が感じる快感も、言葉では表せぬ程だ…」
そう言いながら頭を撫でてくる優しい恋人に、面影は安堵した様に小さく笑い……ぺろ、と小さく舌を出した。
「もっと……気持ち好くなって…」
ぺちゃ……っ
「…っく…」
唇で触れてきただけの動きだったのが、覗かせた舌先で肉楔を舐め上げる行動へと、面影がより大胆になっていく。
それは確かに三日月に更なる快感を与えたいという望みから来るものだったのだろう…が、それだけではないだろう事を三日月は既に見抜いていた。
(はは……視覚的な刺激で堪らなくなったか…)
そんな事を考えている男の視界の中では、面影が相手の思惑に気付く様子もなく、夢中で目の前の肉棒に舌を這わせている。
ぺちゃっ……ぺちゃっ……ちゅく……
幾度も幾度も、繰り返し伸ばした舌で肉楔の先端を舐め上げる度に小さな飛沫が飛び散る。
「ん……はふ…っ」
熱の籠った吐息を吐き出しながら三日月の楔を味わっていた面影が、やがてその標的を例のピアスへと定めたらしく、四つの球体へと濡れた舌先を伸ばしていった。
「んん………あ、ん…」
熱と肉の感触を感じながら、その傍ら金属の感触もまた舌に触れてくる。
熱を与えられても直ぐに冷えていく硬い感触に触れる度に、脳の何処かが現実に引き戻される様な不思議な感覚を覚えながらも、面影の舌は止まる事はなかった。
(何だか、不思議な気分……いつもと違う感触があるから…?)
滑らかでも硬く冷たいピアスを舐めている内に、面影の身体の内側から欲情の炎が燃え上がり始め、肉棒の表面を舌で舐めるだけでは足りなくなってきたらしい。
「んく………っ」
くぷぷ……っ
「ふ……っ」
いつもより熱が籠った面影の滑らかな口腔内に三日月の分身がゆっくりと呑み込まれていき、その甘い衝撃に三日月の息が詰まる。
(あ……みかづきの……熱ぅ…っ)
自らの口腔内も熱を孕んでいたが、三日月の分身はそれ以上だった。
含んで感じた熱と圧迫感は相手の興奮そのものを直接伝えてきて、面影もまたその事実を認識し、密かに昂ってしまった。
(すごい……がちがちに固くなって…それにピアスが口の中を擦ってき…)
そんな事をぼんやりと考えていた面影の頭に、徐に三日月の手が乗せられたかと思った次の瞬間、
「んぐっ!!」
じゅぽっと激しい水音が立つと共に、面影の頭が勢い良く前へと動いた。
三日月が自分の頭を相手の方へと引き寄せ、それによって口腔内に男の分身が奥まで突き入れられたのだと認識した時には、肉棒が口中を満たした事に身体が先に反応し、大量の唾液が溢れ出していた。
「ん゛ん〜っ…! むぅ……っ!!」
「ふ……くぅ…っ」
じゅぽっ! じゅぽっ! じゅぽっ!!
(はあぁ……みかづきのオ◯ン◯ンで、口の中いっぱい…!! 喉の奥まで突かれて、犯されて、る……っ!!)
いつもなら頭を掴むなどせずに自由にさせてくれる相手が、今はこちらの頭から手を外す事なく前後へと激しく動かして繰り返し肉楔で口腔内を擦り上げてくる。
そのあまり経験しなかった行為に翻弄されながらも、面影は夢中になって相手を受け入れようとした。
顎が外れそうな程に大きく成長したそれが、喉の最奥をごつごつと突いてくる度にえづきそうなる。
その上、亀頭に装着された四つの金属球も面影の舌や周囲の粘膜を強く刺激してきて、犯されている事実をまざまざと感じさせてくる。
(奥……喉の奥…ピアスでごつごつされて……っ…苦しいのに、気持ちい……オ◯ン◯ン、もっと……!)
苦しい筈なのに、三日月の手に抗おうとは何故か思わなかった。
寧ろ相手のその激しい手の動きのお陰で、喉の奥が犯される快感に悦び、呼応する様に全身が打ち震えている…
「ん〜〜〜っ! ん゛ん゛っ!! かはっ…んぶぅ…っ!」
「はは…っ、乱暴にされるのも好みか……そんなに美味そうにしゃぶりつくとは…」
今はもう、三日月の手の動きを読めるまでになったのか、自発的に頭を動かして彼の肉楔に口で愛撫を与えている若者は男の呼びかけも耳に届かない様子で奉仕に夢中になっていた。
(ああっ……先っぽから、いっぱい溢れてきてる……おいし……やらしい、音、響いて……)
じゅぽじゅぽと肉棒が出入りする度に口から生じる音が頭の中にも反響して響き、それもまた面影の興奮を高めていく。
昂っているのは面影だけではない様で、先走りが大量に溢れ出している三日月もまた、自身の限界が近い事を感じていた。
(無理強いをしてしまう様な事になってしまったが………こればかりはな…)
心の中で、三日月が誰にともなく懺悔する。
面影の頭を掴んでほぼ強制的に口淫をさせるというのは自分らしくない事は分かっていたが…どうにも我慢出来なかったのだ。
自らが選んだピアスを着けた愛しい恋人が、その所有の証を揺らしながら自らの劣情に愛おしそうに唇を寄せてくる姿……そして、自らの雄の証に付けられたピアスからもたらされる快感が、どうしようもなく己を雄の衝動へと追い立ててしまった。
気が付けば、面影の頭に手を伸ばし、肉棒を無理矢理口の中へと押し込む様な暴挙を犯してしまっていたのだ。
相手を苦しめてしまう事になると分かっていても止められなかったのだが、存外、面影本人も苦しみながらも受け入れてくれたのは不幸中の幸いか……
(…苦しげな顔をしているのを見て喜んでしまうとは……俺も大概いかれている…)
眉を顰めてこちらを涙目で見上げながらも、肉棒を手放す事なく舌を蠢かせてくる姿のいじらしさ、可愛らしさは、自分だけが見る事が出来る特権……
(誰にも見せない…誰にも、譲らない、渡さない…!!)
見えぬ他者への対抗心が闘争心と交差したのか、三日月の男性はより激しく昂り、熱が増していく。
「……飲みたいか?」
「んふぅぅっ…!」
三日月の問いに、面影が呻きながら首を縦に振って応じた直後、びくっと男の腰が激しく揺れた。
どぴゅっ!! びゅるるるるっ!!
「〜〜〜っ!!」
固く目を閉じ、息を止めた面影の口の中にどぷっと大量の粘液が溢れる。
特徴的な匂いと味が口中に広がり、空間が満たされていくのと同時に、中を犯していた肉棒がびくびくと激しく暴れ回る。
(あっ…三日月、達ってる…! オ◯ン◯ン、嬉しそうに跳ねて…っ!!)
相手の絶頂を口中で感じながら、溢れた精液を必死に飲み下していると、ずるっとそれが勢い良く引き抜かれるのを感じ………
びゅっ…! びゅるるるっ……!
「あぁっ……ん、あつい…っ」
いまだに勢い良く放たれていた白濁が、その勢いのままに面影の顔面へと激しく打ち付けられ、注がれていた。
精の通り道をピアスのシャフトが貫通している影響か、放たれた精は四方へと散る形で面影の顔や上半身を濡らしていく……
そんな今の自身の姿を認識した瞬間、ぞくっと全身が震え、身体の中心に快楽が生じたかと思うと一気に弾けた。
「あ、あ、あ〜〜〜〜っ!!!」
全身に抑えられない震えが走り、中心から迸る歓喜の波を受け止め、面影は自身も絶頂に至った事実を知った。
しかも、雄の証は激しく戦慄いていたものの、その先端からは精の奔流は出ている様子はなかった。
(う、そ………三日月のを、浴びただけで……達っちゃった………)
自らの身体を包み込むように広がる匂いと、所有を示すマーキングの様に白濁で穢された身体……
(はあぁ……三日月の精液で……どろどろ……)
びくっびくっと痙攣が続いている若者と、勃起して頭を振る彼の楔を見下ろしながら、三日月がうっそりと笑う。
「雄をしゃぶってメスイキするとは……なかなかの淫乱振りだな」
「んん………は、ふ…っ」
相手の言葉も理解出来ない程に快感に陶酔してしまっているのか、恥じらう様子もなく面影は指先で己の顔や胸に付着した三日月の精の残渣を掬い取ると、口に運んでぺちゃりと舐め上げた。
「おいし……もったいない……」
そんな若者の様子を改めて見つめた三日月は、彼の身体の或る場所の反応に愉しそうに目を細めた。
「ほう……もっと苛めてほしそうだな?」
「え……っ?」
何を言っているのか…と疑問を抱いている間に、面影はあっさりと相手に仰向けに組み敷かれる。
その後は三日月が両下肢の間に面影の胴体を挟み、見下ろす様に膝立ちになっていた。
「ほら……」
ぐりっ………
「んあ……っ!」
吐精したばかりの己の分身を手で支え持つと、三日月はその先端を面影の着飾った右の乳首に強く押し付け、そのままずりっと擦り上げた。
「あ、あ…やだぁ……オ〇ン〇ンで、乳首、擦っちゃ……あっあっあっ…!」
ずりっ……ずちっ……ずちゅっ……!
面影の制止も聞かず、三日月が続いて繰り返し肉楔を乳首に擦り付けると、それぞれの亀頭のピアスと乳首のそれがぶつかり合ってかちかちと硬質な音を響かせる。
その中で穴を開けられた敏感な部位も互いに刺激し合い、二人共が極上の快楽を享受して熱い吐息を零し合った。
「んんっあ、あはぁ…っ、やぁ…っ、三日月の……元気過ぎ…っ」
先程達したばかりだというのに、早くも復活の兆しを見せている男の雄を見て面影が上擦った声で言うと、それに呼応するように三日月がより強く先端で若者の尖った蕾を責めながら返す。
「お前の方こそ、もう此処がガチガチに固くなって、まるで勃起している様だぞ?」
「んあああ〜〜〜っ! やぁ…っ、乳首コリコリ、気持ちい…っ!」
目の前で、ピアスに貫かれてぷっくりと腫れた乳首を、肉楔の先端がぐりぐりと蹂躙しながら金属球を押し付けてくる様を見せられて、面影は脳が沸騰してしまいそうな感覚に陥った。
勿論、物理的に熱を持つという意味ではないが、脳髄が熱病に侵された様に朦朧として理性は溶かされ、代わりに本能は熱の助けを借りた様に荒ぶってしまう。
だから……普段は言わないような言葉も口をついて出てしまっていた。
「みかづき…もっといっぱい、擦って……オ◯ン◯ンで、乳首、孕ませて…っ!」
「〜〜っ!」
潤んだ瞳は正気を失いかけ、覗かせた舌先から唾液を垂れ流し、この上ない媚態を晒しながらおねだりする恋人の姿に、三日月ですらも総毛立つ程の衝動に襲われる。
(ああ……期待以上だ)
自らの感度が普段より上がっているのは施術効果もあるだろが、恋人のこんな姿を目の当たりにしているのも理由だろう。
二人でお互いにより強い快感を貪り合えている……それを思うだけでも自らの昂りを抑えられない。
「そんなに可愛い事を言われたら……此処も穢してしまいたくなる」
「いい…っ、穢していいからっ……はやく、みかづきの熱いの…っ」
細かく痙攣する身体を晒し、見せつけるように大きく胸を開いてみせた若者の姿に、どうしようもなく本能が刺激される。
(らしくない……な…まさかこんなに…)
先刻射精したばかりにも関わらず、面影に指摘された通り、もうはち切れんばかりに興奮してしまって抑えようがない。
明らかにいつもより回復が早い上に、抑制が効いていない。
それが面影の刺激的な艶姿によるものなのかピアスによる副産物によるものかは分からないが……
(だが…その分、面影を可愛がれると思えば好都合、か)
自分も、面影と同様に彼の身体を更に白く彩りたいと望んでいるのは紛れもない事実なのだから。
「ならば、望みの通りに…」
ずりゅっ、ずちっ、ずちゅっ………!!
「あっ、あーっ! 気持ち…っ、きもちいっ! もっと、強く、ぅっ!!」
押され、擦られ、更に一層大きく膨らんだ蕾は楔から塗り付けられた白濁が混じった粘液に塗れている。
ねっとりと糸が引く程に濃厚な液体に覆われた蕾は、三日月の楔の様に弾ける直前の様に固く張り詰め、相手の肉棒を刺激しつつ己の限界へと近づいていた。
三日月の激しい楔の擦り付けがより速度を増していき、粘った水音が断続的なものから連続したものへと変わっていく、そして……
「うっあぁ〜っ! あっ、い、くっ! いくっいくぅっ!! あ゛ぁ〜〜〜っ!!」
がくがくと腰を痙攣させながら悲鳴を上げ、面影の肉体は限界を迎えた。
しかし固く大きく岐立していた若者の分身はまたも吐精する様子は見せないまま、達してしまった様だった。
「っ!!」
びゅるるるるっ!! びゅくっびゅくっ!!
面影の絶頂と同時に三日月の肉楔も限界を迎え、今度は顔ではなく相手の蕾へと精を放つ。
勢いが激し過ぎて、柔肌に当たって跳ね返る小さな飛沫が周囲に散り、まるで胸に花火が咲いた様にも見える。
(あぁ……あつい……それに、いつもよりいっぱい射精してる…)
三度目なのに、量も勢いも衰える様子のない相手の欲情を目の当たりにして、面影の身体の奥から新たな疼きが湧き上がってきた。
(……私の奥も…あつい……)
直ぐにでも身体の奥を満たしてほしい、と望んでいる面影の心底の願いを読み取ったのか、三日月が自らの身体の位置を移動させた。
「今度はこっち、だな…」
「ひ、あぁっ!」
並んで横になると同時に、三日月が二人の楔を手掌の中へ捕えてぐりっと強く押し付け合わせる。
「あ、あ゛ぁっ…!」
「ああ……好いな…」
喉を反らせる面影に甘い声で囁く。
ぐり……ぐりっ……
「お前も、一度射精しておいた方が良かろう」
「ひゃぁっ! だ、め…達ったばかり…だからっ……すぐっ、また……! ああんっ、ピアス…いいぃっ!」
先端に付けているピアスなので、押し付ける先もまた敏感な亀頭部分となり、そこを責められた面影の楔は見る見る内に成長し、先走りを溢れさせ始めた。
「よいよい………ほら達け、達け」
「ああ、あぁ~~~っ!」
ぐり、ぐり……ずりゅっ、ずりゅっ!
(やだ……三日月のピアス……根元から先っぽまでごりごりして…っ!)
優しく降伏を勧めながら自らの腰を大きく上下に動かし、先端だけでなく下の茎にもピアスを擦り付けてやると、面影が激しく頭を振って悲鳴を上げた。
「ん゛うぅ~~~っ! いぐうぅっ! オ〇ン〇ンッ、はじけるぅっ!! あぁ~~っ、だめぇ、もういくいくいくいくぅ~っ!!!」
既に繰り返し達かされており、しかも二度は射精を伴わず、快感により敏感になってしまっている状態の若者にとっては、ピアスによる刺激も含めた愛撫は激し過ぎたのだろう。
「もっ……射精るぅっ!!」
びゅくんっ!! びゅるるるっ!! びゅっ、びゅくっ!!
「はは……溜まっていたのだなぁ……ほらほら、もっと射精せるだろう?」
面影の放った精を自らの肉刀にも浴びながら、三日月は尚も手掌を上下に動かして茎を扱き上げ、奥に残っていた精を搾り出す。
「んん……は、はふっ……あぐぅっ……射精、止まらな……っ」
はしたない事だと分かっているのに、腰が揺れる度に精を噴き出してしまう。
欲情を放つ快感に身が震えているその一方で、深奥から生じていた疼きがいよいよ止まらなくなっている。
疼きが、欲求が、どんどん肥大化して、思考も肉体も吞まれていく……!
「面影………」
「ふぁ…」
口を優しく塞がれ、甘く名前を呼ばれる。
それは激しい嵐の間に訪れた短い凪のひと時の様だったが、面影の身体の奥の炎を消すには至らなかった。
「三日月………三日月…っ」
「おっと…?」
珍しく面影の方から唇を離すと、彼はそのまま三日月の肩を押して布団の上に押し倒し、自分が上へと乗り上がった。
「はぁ…はぁっ…はーっ…」
「………」
ぺろっと上唇を舐めながら見下ろしてくる恋人は、上位に立った様に見えながら、その表情はあまりにも切なげで救いを求めている様に見えた。
いや、事実、求めていた。
「……挿れて、いい?」
何を、と言う代わりに若者の手が、自らの股間の下で雄々しく勃ち上がっている三日月の分身を捕え、強請る様にさわりと先端をピアスごと撫でる。
挿れてもらえたら、きっとまたこの装飾具達が内側を掻き乱してくれる……
そう思うだけで、僅かに残っていた忍耐力すら消え失せてしまい、面影は首を振りながら訴えた。
「もう……限界…っ」
幾度も達かされたが、それは面影の男性のみの話。
後穴は一度だけ三日月を味わったものの以降は殆ど触れられておらず前だけの刺激に留まり、内側を埋めてくれる圧倒的な存在感を与えられずに我慢の限界が来たらしい。
だから、三日月を押し倒すという彼らしくもない暴挙に出てしまったのだが、もう引き返す事など出来ないしするつもりもなかった。
「…ふむ……俺もお前を貪るのはやぶさかではない、が……」
面影の望みを叶える形で三日月は頷いたが、その後の台詞はいつになく不穏だった。
「……今の俺を煽った事……後悔はするなよ?」
そして返事を待たずに三日月の両手が相手の腰を左右から掴み、ゆっくりと降りるように促していき、面影も素直に従った。
「あ…っ」
三日月の熱楔の先端が菊座に触れ、一瞬、面影の腰の動きが怯えた様に止まったが、三日月が口角を上げたままゆっくりと腰を回して相手の孔をくすぐってやると、淫肉の窪みが小さく震えた。
「いやらしい身体だ……ひくついているのが分かるぞ?」
ずぐぐ……っ
「ん、はあぁぁう……っ」
面影の吐き出した精に塗れていた事もあり、十分に濡れた肉楔はすんなりと孔を押し広げて奥へと侵入を果たしていく。
「っく……いつもよりきついな」
強い締め付けに三日月が息を吐きながら評したが、動きを止める事はなく確実に茎が肉壺に呑み込まれ、その度に面影の口から甘い嬌声が上がる。
「あんっ……はぁ、くふっ…! あっあっあっ…!」
ずぐっ、ぐちゅっ、ずちゅっ……っ!!
水音が立つ中で若者の白く細い腰が徐々に下に沈んでいき、遂に相手の根元までを挿入すると、両手を三日月の胸に置いてそこを支点にしながら腰を蠢かし始めた。
(三日月の、ピアスが……好いとこに当たってる!……あ、はぁっ……もっと強く…っ)
見えなくても、頭の中で相手の亀頭部分のピアスが自らの淫肉を押し広げ、奥の壁を繰り返し刺激する様が浮かんでくる。
少し腰を浮かせて再度沈めれば、今度はその過程にある雄の弱点も擦られている様子も脳裏に浮かび、面影の情欲をより強く昂らせた。
「んあ…あっ、いいっ……そこっ、そこっ、気持ちい…っ!」
目を閉じてうっとりと快楽を貪り腰を振る恋人を満足そうに眺めながらも、それだけでは済まさないとばかりに三日月がついと手を伸ばす。
その先にあるのは、先程から誘う様に彼の目前で揺れていた、面影の二つの蕾を繋ぐ細い鎖だった。
くんっ…!
「ひゃあうぅっ!?」
鎖を指に引っ掛けて引っ張ると、蕾の先端が大きく変形し、そこを頂点とした艶っぽい円錐が二つ出来上がる。
「おや……引っ張るとお前の内がきつく締まったな……嬉しいのか?」
身体の奥の快感と敏感な乳首からもたらされる甘い痛み……どちらもが面影を悦ばせ、そして追い詰めていく。
「そうだな……こちらも面影に頑張ってもらって、俺を好くしてもらおうか」
一人納得したように頷き、三日月は少しだけ上体を起こして鎖が引っ掛かっていた指先を面影の口元へと近付け、その冷たい感触を触れさせると、向こうは条件反射の様に自ら口を開いて再び鎖を咥えて見せた。
「んふ……」
「…では、動くぞ?」
どちゅんっ!!
「〜〜〜っ!!!」
下から強い突き上げを受け、ビクンッと面影が限界まで喉を反らすと、それに引っ張られた鎖が乳首をより激しく苛んだ。
「ん、ん゛ん〜〜〜っ!!」
鎖を放せるのにそうしない面影が、言葉を封じられくぐもった声だけを放っている間にも、三日月の責めは終わらず寧ろ始まりとばかりにどちゅどちゅと繰り返し下から面影の最奥を抉り、弱点を擦り続ける。
(こ、れ……だめっ!! 突かれる度に、達って、あぁっ、また、また達くっ!!)
びゅくっ、びゅくっ、ぴゅぴっ……!!
「奥を突く度に射精しているのか……おや、潮まで吹いて…」
白濁を吐き出す中で透明な液体を零す面影の肉楔を優しく三日月が握り込み、ゆっくりと上下に扱き出す。
「よしよし……こんなに熱く震えて…」
「んぐうぅぅ〜〜〜っ!!」
慰めている様に見えるが、一方で確実に追い詰めている三日月の手管に面影は激しく翻弄されるがまま、一気に頂まで追い上げられていく。
突かれているのか、それとも己が腰を打ちつけているのか、それすらも最早分からないまま面影は夢中で肉壁を繰り返し擦り上げる熱い肉棒の感覚を追い掛けた。
もっと、もっと、自らの内側を蕩かす程に犯してほしい…!!
(あっ、来る…来る…! 大きい…すごいの…っ!!)
腰の揺れを抑えられない面影が涙を零しながら限界を感じている間にも、三日月はぐちゅぐちゅとわざと音を大きく立てながら相手の楔を苛め抜く。
若者の肉壺の内で荒々しく敏感な粘膜を擦り上げる三日月の雄も、ピアスが確実にその感度を高めて絶頂に至ろうとしており、男の吐息をより激しいものにしていた。
「面影……受け止めろ…っ」
「ふっ、ふぅーっ! うっ、く…っ!!」
ちゃりちゃりと若者の口の中で金属が擦れた音が鳴るのは、口寂しいのか、彼の舌が戯れに鎖に絡まっていたからだ。
そんな舌を覗かせ、唾液を零しながら、面影は必死に首を繰り返し縦に振った。
それと同時に、無意識なのかきゅうっと胎内で男の怒張を締め上げ吐精を促してきたところで、三日月は皮肉の笑みを浮かべながらその誘いに乗った。
「ほら…全部、飲め…っ」
逃げられない様にきつく腰を抱きながら奥の奥まで肉刀を挿入し、ぐっと下腹に力を込めて欲望を解放する。
「ふ…ぅっ!」
遠くで艶っぽい三日月の呻き声が聞こえた直後、面影の腹の中で何かが蠢き、灼熱が生まれた。
蠢きは一層大きく激しさを増し、それに倣って熱も一気に広がっていき、肉を灼いていく様だ。
ああ、射精された……奥が満たされ、彼に全身が内側から侵食されていく快感で、自分もまた……
「ん゛んっ、ん゛〜〜〜〜っ!!!」
どうして口から鎖を離さないのか…本人すらその理由が分からないまま、最後まで若者は鎖を咥え続けながら達していた。
びゅるるるっと先端から吹き出す白濁は、繰り返し吐き出されていても尚白く、勢いも衰えている様子はない。
(ああ気持ち好いっ!! 乳首も、オ◯ン◯ンも、気持ち好すぎておかしくなりそうっ!!!)
気持ち好い、気持ち好い…と心の中で幾度も睦言の如く繰り返しながら、幾度も幾度も雄を振り立て、体液を撒き散らす。
射精だけではなく、また乳首でも達してしまった……と自身の痴態を晒してしまった事を思いながら、面影が前のめりになってそのまま相手の胸板の上に身を委ねる。
久し振りに肌で感じる相手の肉体は、いつもの様にしっかりと自分を抱き留め、心地良い熱が伝わってきた。
(……三日月の…身体)
手を当てると濡れた感触……まぐわいの中で彼も相応に汗をかいていた。
「ん…」
ようやく鎖を口から離した面影は、今度はその唇を相手の胸元に付け、渇いた喉を潤す様にその肌を潤す汗を吸い、舐め取る。
その動きの中で、己を貫いていた男の劣情がぬぷりと抜け、ひやりと外気が孔の入り口を冷やしたが、それは若者の欲情を鎮める事は出来なかった。
(……足りない…もっと…)
先刻まで満たされていたというのに、もう身体の内から疼きが湧き上がり、彼はそれに追われる様に動き出した。
「あの……三日月…」
まだ息が上がっている状態の若者は、ゆっくりとした動きで三日月の身体の上に乗った状態のまま、自らの身を仰向けに倒しながら両足をそろそろと開いていく。
「っ!!」
自らの身体の上で愛しい若者が下肢を大きく開き、白濁が零れ落ちる秘孔を見せつけている様を凝視した三日月が密かに息を呑む。
あまりに淫らな姿に、達したばかりの筈の己の分身に再び精が漲り始めた。
「…すまない……足りないんだ……もっと」
自らがどれだけ貪欲な姿を晒しているのか面影も理解しており、それ故に謝罪を述べているのだろうが、三日月に言わせてみれば謝罪を受けるどころか歓喜したい気分だ。
そもそも相手に「後悔するな」、とまで言い切っていたのだから、三日月もここで終わらせるつもりはなかった。
「気が合うな……折角お前をより美しく飾り立てたのだ、俺もまだまだお前を解放するつもりはない」
今日一日だけの戯れの時間を無駄にしたくないとばかりに、三日月は上に乗っていた面影の身体を布団の上にそのまま移すと、上から覆い被さる。
既に愛撫などを受けずとも三日月の肉刀は隆々と勃ち上がっており、再び勢い良く面影の奥を貫くと、濡れた肉壺は嬉々として包み込んで甘やかに締め付けてきた。
「あ、はぁ…っ、ん、ふぁ…っ」
「好い締め付けだ……このまま俺の全てをたっぷりと味わってもらうぞ?」
宣言後、三日月の腰使いは一気に激しく強いものへと変わり、繰り返し繰り返し奥を突きながら腰を回してピアスを肉壁に押し付けた。
ぐちゅっぐちゅっと肉壺の奥に残っていた精液ごと掻き回される音が響く中で、面影の嬌声と三日月の荒い息遣いが交じり合う。
「ひぐぅ…っ! か、はっ…!」
「余裕のない声だな……お楽しみはまだまだこれからだというのに」
そう言うと、面影の片足をぐいっと上に抱え上げ、そのまま相手の身体を回転させて横臥位にする。
所謂『松葉崩し』に近い態勢だが、態勢を変換した際に三日月の楔がぐりりっ!と内側で淫肉を抉り、ピアスがより強くその刺激を与える事になった。
「ひゃああぁっ!!? ひっ! それやめっ…!! はっ、はぁっ!!」
あまりの快感にそこから逃げようと藻掻くも、三日月に足を掴まれているから無駄な足掻きに終わるどころか、余計な体動が更に内側への刺激を促す結果になってしまった。
(な、なか、ピアスでぐりぐりされてっ…いくの、とまらない…っ!!)
勝手に腰が揺れる度に己の分身が精液か潮かも分からない体液を吹き上げ、そこから甘やかな快感が全身に広がっていく。
今、自分がどんな嬌声を上げているのかも分からない。
おそらくとても他人に聞かせられない汚い声で啼いているのだろうが、最早抑制が効く状態ではなかった。
「ん、くぅっ…! あ、あ〜っ!! み、かづき、つよ…いっ……はげし…っ!!」
そんな面影の甘い悲鳴を間近で耳にしながら、三日月は妖艶な笑みを浮かべ、顔の側まで抱え上げていた恋人の脚に優しく口付けながら舌を這わせていた。
面影は本人の嬌声を聞き苦しいものだと恥じていたが、三日月にしてみればとんでもない。
こちらの責めに素直に感じながらよがり狂う若者の濡れた歌声は、迦陵頻伽の妙なる声より遥かに男の心を揺さぶり奮い立たせていた。
「ははは、そんなに悦んでくれるとは、俺も嬉しいぞ……どれ…」
横臥位でひとしきり責め立てた後、三日月は面影と繋がったまま再び彼の体勢を変えるべく腰に手を回し、ぐりんと相手をうつ伏せにする。
「か、はっ、ああぁ〜〜…っ!!」
当然、それに伴い三日月の楔と装着されたピアスがまたも面影の内側を強く抉り、彼の荒かった呼吸が更に逼迫したが、三日月は構わずどちゅっどちゅっと激しく楔を突き入れた。
「やっ…!! もっ、やぁっ! い、くっ、いくっ、いきしぬっ!! オ◯ン◯ンで、しんじゃ…っ!!」
追い詰められた獲物の断末魔の様に聞こえるが、その傍で三日月が挿入した肉棒はきつく肉壁に締め上げられたまま。
まるで『離したくない』と声無き声を上げているかの様だ。
「嫌なら離せば良かろうに……嘘を言うのはこの可愛い口か?」
「あぐぅ…っ……ん、ふっ…!」
背後から手を回して指先を若者の口の中へと差し入れると、面影の舌が自ずから絡みつき、ぐちゅぐちゅと音が立つ。
「ほら……身体は正直だな?……っく、また締め付けて…どれだけ欲しがりなのだか…」
きゅうきゅうと強く締め付けてくる肉襞が三日月の興奮を煽りに煽り、煽られて更に大きく成長した彼の楔はより力強く先端まで引き抜かれては最奥へと勢い良く突き入れられた。
ここまでの流れでピアスの位置と相手の雄の弱点のそれを完全に把握していた事で、確実にそちらへの責めも忘れない三日月は、今の面影にとっては身体の限界を超える快楽をもたらす残酷な恋人だった。
快楽の波が次から次へと体内から生れ、押し寄せ、己の全てが肉欲に塗れて溺れていってしまう感覚………それを自らに与えながら、溺れてしまう恐怖よりも溺れてしまいたいと希求させてしまう彼には、自分は未来永劫敵わないのかもしれない。
「もっ、おく、響いて…ああん、だめぇっ!! み、かづきっ、いって…はやく、いってぇ!!」
この快楽地獄が終焉を迎えるには、彼の熱い昂ぶりが鎮まるしかない。
そしてその証を身体の奥で受け止める事で、己の欲望も抑える事が出来ると信じ、面影は背後から休む間もなく責めてくる男に切なげに願った。
「……可愛い」
耳元でそう囁けば、快感の渦中にある筈の若者の身体がひくんと戦慄き、反応を返してくれているのがあまりにも愛しくて、三日月は優しく笑う。
「お前の一番奥に、全部注ぐぞ…?」
「んふ…っ…くぅぅ!」
三日月の指を眉を寄せながらも美味しそうにしゃぶっている面影は、三日月の宣言に幾度も首を縦に振った。
直後、激しい水音がより速度を増して背後から聞こえるのと合わせ、快楽の雷が全身を走り抜けていく。
(だめっだめっ!……脳髄まで、犯されてるっ!! 三日月、の…オ〇ン〇ンピアスで、奥の奥まで征服される……っ!!)
「よしよし……待たせたなぁ」
何を待っていたというのだろう…とぼんやりと思った面影の肉洞が、勝手にきゅうっと窄まる。
(あ……っ)
今の今まで三日月の『解放』を待ち望む様に彼自身にうねって絡みつき、促す様に搾り上げていた事実に彼自身がようやく気付いた直後、その瞬間はあっけなく訪れた。
びゅるるるるっ!!! びゅるるっ、びゅくくっ!!
「あぁ〜〜〜〜っ!!!」
体内に灼ける程の熱が生じ、じわりと広がっていく。
それは一度ではなく、その後も繰り返し体内を灼かれているのを感じながら、面影も己の雄を解放していた。
自らの吐精がまるで彼のそれと同調する様に続き、面影は掠れた声を上げながら三日月の放った精の奔流を感じて震えていた。
(三日月……射精、長い…っ!)
普段より明らかに射精時間が長く、その間に幾度も肉壁を精が叩いてくるのが生々しく感じられる。
(奥……気持ちいっ!……三日月のが、いっぱい…)
どれだけ三日月の欲望を注ぎ込まれたのか……
「ふ……ぅ」
三日月の熱い吐息を聞くと同時に、ぬるりと身体の奥から彼の分身が引き抜かれていく。
そして全てを抜いた直後に、
「あ…」
とぷん…と秘穴から白濁液が大量に溢れ出て、敷布団の上へと流れ落ちていった。
「あ、ん……三日月の…溢れちゃ…」
胎内から溢れ出した相手の体液を惜しむように淫穴を閉めつつ、面影は無意識の内に流れる液体を受け止めるようと手を股間に伸ばす。
その姿を真後ろの特等席から眺めていた三日月がぞく、と背筋に走る衝動に全身の毛を粟立てた。
「面影…」
「あ、あ…っ!」
再び自らの背に乗り上がってくる三日月の意図を察した面影が声を上げながら身を捩り、そこから抜け出そうとするものの、既に抑え付けられている様な状態の上に疲労も少なくないので、逃れる事は叶わなかった。
「や、だ…っ! 少し、やすませ…っ!」
「お前が煽るのがいけない」
「そんなこと…してな…っ!」
必死に相手を押し留めようとするも、体力的には相手に軍配が上がっている様で、面影は碌に抵抗も出来ずに身体を弄られてしまっていた。
そうしている内にまた胸の膨らみや雄の証を散々に嬲られ、あれ程に疲弊していた筈の身体がまたも三日月に従順に応え始めていく。
(力…入らない…っ…これ以上は、まずいのに…っ)
休ませて欲しいと懇願したのは、単に肉体が疲弊しているからだけではない。
達したばかりの身体が異常に敏感になっており、些細な刺激にも過剰な間での快楽を感じてしまうからだ。
その反応を恐れた面影だったが、無論それは三日月も既にお見通しであり、だからこそ若者の懇願を聞く訳にはいかなかった。
「言った筈だ……俺を煽った事、後悔はするな、と」
ああ、もう死んだ…
心の中で、面影の絶望的な声が響いた。
無論、実際に息の根を止められるという意味合いではないが、今の彼にとっては似た様なものだ。
後悔してもしなくても、これから自分はこの男に抱き潰される……
そんな未来が見えているのに、何処かそれを期待している自分がいる。
「限られた今日だけの戯れ……たっぷり愉しもう、な…」
今日だけ……その今日の内に何度達かされ、啼く事になるのだろう……
そんな事が意識の隅を掠めたが、それはすぐに快感の中に埋もれていき、肉体も三日月によって乱されていった…………
そして次の日
何の妨げも起きる事なく、二人は淡々と修繕が終わった手入れ部屋に入室し、僅かに負っていた傷を修復した。
戦で負った傷と……密かに身体を飾る為に付けた傷を。
彼らの身体に付けられていた装飾具は、今は彼らの各々の部屋の何処かに仕舞われている。
二人以外、誰にも見られる事のないそれらは、以降、大事に封印されるのみ……だった筈なのだが……
『やぁ、久方振りだね。一日だけの遊戯は愉しかったかな? まぁ此処にまた二人で来たという事は、満足して貰えたという事だろうけど、今度もまた一日限定のお楽しみをご希望って事かな?…………ふむ、次はお互いが付けていた装飾をそれぞれにも加えて『お揃い』にしたいと。いいね、きっと前回よりずっとずっと気持ち良くなれる事請け合いだ。さぁ、詰めた話は中でやろうじゃないか』
いつかの何処か……隠れ家の様な店の中で、そんな店員の声が響いていたが、それを知るのはその場にいる彼らのみ………