大人への一歩
「では、次回の遠征の部隊内訳は以上の通りということで、異存ないか?」
よく通る三日月の声が本殿に響き、彼は上段から皆の顔をゆっくりと見回した。
此処の本丸の刀剣男士全員が揃った場に於いて、決定に異を唱える者はいない。
「…異議なしということであれば、本日の軍議は以上となる。主には俺から上奏しておこう。では、解散」
ざ…っと皆が畳の上を移動する音が響く。
今は朝。
主は此処には居ないが、刀剣男士達が集う場に於いて軍議が開かれ、今終わった。
筆頭近侍である三日月宗近が、いつもの様に滞りなく全ての議題を終えて、主へと仔細を報告する為立ち上がる。
主である審神者はこの本丸の最高責任者ではあるが、当然、身は一つしかない。
全ての物事をこなす事は不可能なので、重要度が比較的低い、緊急性を求められないものに関しては、三日月宗近に権を移譲し、この様に任せる事も多々あった。
「……うむ」
ばさっと手にした書類の全てに何度目かの軽い見直しを行い、三日月はそれを胸に抱えて立ち上がる。
そして、ふいと身体の向きを変え、その先に佇んでいた一人の男士に声を掛けた。
「面影。今日の午後の見回りは定刻通りになりそうか?」
「ああ、問題ない」
午後は本丸周辺の警戒を任されていた面影が、正しくその予定を判断し頷く。
特に問題がなければ…いや、多少の変更があったとしても時間内に本丸に帰還する事は容易だろう。
「そうか……」
そう答え、ほんの少しだけ逡巡する素振りを見せ…三日月は相手を見つめて尋ねた。
「…疲れてなかったら、夕餉の後にでもじじいの話し相手をしてくれんか?」
「!……分かった」
僅かに目を見開いた面影が、しかし淡々と頷き、その場はそこで全員が散開した。
「面影、警戒地の最遠方に到着したら、念の為に結界の確認をしておいてくれ。もし歪が出ている様なら、主にも知らせておかねばならん」
「了解した。忘れずに行おう」
長谷部の要請にも迷いなく頷き、面影はいつもと変りなく任務を完遂するべく動き出す……が、その心中はほんの少しだけゆらぎを生じていた。
(夜……か)
ぽつりと思い、胸に軽く手を当てる。
今日の夜は、彼とひと時を過ごすという約束………それが今、交わされた。
実はほんの少し前より、三日月と自分は『恋仲』という関係になった。
その前より漠然と好意は寄せ合っていたのだが、とある夜に彼と甘い口吸いを交わし、その関係が定まったのだ。
それ以降、こうして二人は時々、人知れずに逢瀬を重ねている。
内密にしているのは、周りに余計な気を遣わせないという意味も大きかったが、面影の微妙な立場も関係していた。
原型試作である彼が、固定の刀剣男士に対して特別な感情を抱いていると知れば、政府や周りがどう動くか分からない、という懸念もあったからだ。
とは言え、下手にお互いの部屋を行き来したり、合言葉を用いての逢引きは、寧ろ誰かに勘付かれてしまう可能性もあるため、二人が会う約定はいつもの会話の中に自然と秘められていた。
三日月宗近が元々長話が好きで、付き合う相手はかなりの忍耐を必要とするという事実は既に本丸では周知されている。
故に、皆が敬遠しがちなその役を、最近は新入りの面影が担っているというのもよく知られた事実。
昼にも、二人でお茶を手にのんびりとしたひと時を過ごしている姿はよく見られており、周りの刀剣男士にとっては、既に面影は三日月の茶飲み友達、且つ話し相手という認識になっていた。
彼の性格が、顕現仕立てという事もあって非常に素直であり、『じじい』の話にも飽きることなく付き合うという姿勢も、皆には既にいつもの光景として映っている。
逆に彼が三日月の相手をしている間は、自分達が犠牲者になる心配はない、という事でもあり…
なので、時々そんな二人が夜にも頭を突き合わせて話し合っているのを見たとしても、皆から見たら『ああ、またか』という感じなのである。
他の刀剣男士達が寝所に引きこもり、本丸が静寂に満たされた後、二人は縁側で短い時間だが甘いひと時を過ごす。
それは、ただ、語らいの時間で終わる時もあれば、口吸いで互いに酔うこともあった。
三日月の立場から言えば、勿論、本当はそれ以上の関係に進みたいらしいのだが、肝心の面影が精神年齢が幼過ぎて、手を出すに出せないらしい。
初めての口吸いをした時も、許容量がパンクしてしまったのか、面影が三日月に凭れたまま寝入ってしまった過去がある。
相手を自分の寝所に連れ込まないのも、もし連れ込んだら何も知らない相手を欲に負けて襲ってしまうのではないかという不安があるからだ。
大事に想う相手だからこそ、無理はさせたくない……
千年生きてきたのだ、ここから数年など大して待つ内にも入らない。
それは本心なのかやせ我慢なのかは不明だが、兎にも角にも、三日月が面影を大切にしているのは間違いない。
そして、そんな相手の気持ちを面影もまた十分に感じていた。
だから三日月から逢いたいと乞われたら、遠征などの避けられない理由などがない限り、断るという選択肢は無い。
(…何だろう…最近、三日月の事を考えると…)
胸がざわざわするのはいつもの通りだが…それとはまた別に、身体の奥がざわめくような感覚が生じる事がある。
それが生じると少なからず注意力が散漫になってしまうのだが、抑える方法もなく、ひたすらそれが過ぎるのを待つしかない。
(こういう場所なら問題ないが、戦闘中に見舞われたら危険だ。今は何も考えず、任務に集中することにしよう)
刀剣男士としての責務は決して忘れず、任務は確実に達成する。
自分に期待されている事は必ず実行する事を信条としている大太刀の刀剣男士は、軽く首を振って、それからの任務に集中するべく、自らの刀の柄を軽く握った………
その夜……
「三日月?」
「おお、来たか」
夕餉が終わった後……約束通り、面影が三日月がいる縁側に向かうと、相手は何やら碁盤の様なものを持ち出してその場に開いていた。
「……これは?」
「うむ、本丸の西側の地形を模型にして表してみた。俺達がこの青い駒、遡行軍が赤い駒として…向こうがこの人数で攻めてきた時、俺達はどう動くべきだと思う?」
見ると、碁盤と思ったそれは、簡易的にこの本丸の周囲を描いた地図だった。
等高線で大体の地形を示しており、その何カ所かに木片を小さく削りだした駒が色を塗られて置かれている。
こちらが守り…遡行軍が攻め、という状況か。
「そうだな……」
刀種にも依るが…と悩みつつ、どう駒を動かそうかと悩んでいると、そこに他の男士達もわらわらと集まって来る。
「何だ? 面白い事をやってるじゃねぇか」
「わ、これ見やすいですね。ええと、こっちが敵?」
「これだと守りの陣が薄いな…こっちから偵察で短刀を…」
賑やかに、しかし朝の軍議よりは砕けた様子で皆の戦略談議に花が咲く。
「いつも二人は昔話ばかりしているのかと思ったら、こういう話もしていたのか」
「じじいだからと言ってそればかりではないぞ、勿論。うちの本丸には面影しか大太刀がいないからな、広範囲の攻撃となるとどうしても頼りにしてしまう。それに、こうした方が面影もより早く地形を覚えられると思ってな」
「成程」
予想以上に良い刺激となったのか、皆はそれからもひとしきり戦略について喧々囂々とやり合い、やがて満足して解散していった。
「三日月さん達はまだ話し合うんですか?」
「ああ、途中で止まった案もあるからな。それを一段落させて俺達も休む」
「じゃあ、お先に失礼します。おやすみなさい」
「うむ、おやすみ」
皆が縁側から離れるのを挨拶を交えながら見送り、そこに残ったのは二人だけとなった。
いつもと……いつもの逢瀬の時と同じだ。
「皆、かなり盛り上がっていたな」
「ああ、他の者達もたまにはこうして少人数で集まって談議するのも良いと言っていた。……面影、お前の今日行った場所、こうして上から眺めたらまた別の発見があるだろう?」
「……確かにそうだ。だが、わざわざこんな物を作るとは…」
「…お前が少しでも傷つかず、帰れるように……な」
「!」
そ、と盤に手を置き、三日月が祈るように囁いた。
「どんな任務でも、お前が傍にいないと不安で堪らない。だから常に考える、お前を無事に本丸に帰す作戦を……」
何があっても、どんな間違いが起こったとしても、それでもお前を此処に帰す方法を……
「…そこまで……?」
自分の為にそこまで考えてくれていた…?と面影の胸が熱くなる。
「ああ、今日も無事に帰ったお前を見る事が出来て良かった…」
そして、盤を縁側から隅の方へと押しやると、黒髪の麗人が自分の空いた隣に面影を招く。
「来てくれ、面影…俺の側に」
「………」
呼ばれ、面影はそれに応える様に素直に彼の人の隣に立ち、縁側に足を下ろす形で腰かけると、すぅと相手の顔を見上げる。
ああ、相変わらずその美しさは月の女神ですら嫉妬するだろう程だ……
こうして間近で見る事が出来る事そのものが、奇跡であるかの様に……
「三日月……」
「しぃー…」
声を止めながら、三日月が面影の右頬に手を添える。
それは、合図だ。
これまでも何度も、交わし合ってきた合図。
寄せられる顔を見つめながら、面影はゆっくりと目を閉じた。
それもまた合図。
互いの合図で、二人はそっと唇を重ねる。
「……ん…っ」
歯列をぬるりと舌で撫で上げられ、面影はその門を素直に開き、彼の侵入を迎え入れた。
最初の頃はその感触に慄いていた。いや、それは今もか…
歯列を開かされ、奥の薄い粘膜を強く弱く舌で擦られる感覚…
どちらのものか分からない唾液が溢れ、それを口の端から滴らせながら、自らの舌に塗り付けられ、相手の舌へと塗り付ける秘めやかな愛撫…
「あ……ん…っ」
時には舌を口の外に出すように促され、従ったところで舌先を食むように捕らえられ、相手の口腔内へと導かれると、その奥でまた蹂躙される……
口の中の小さな嵐に翻弄されていると、不意に相手の唇が離れ、自分の舌が外気に触れたまま取り残された。
「ふ……っ」
絡まっていた相手が離れて切ないと思った直後に、ぺちゃりと彼の舌が直接触れてきた。
「ん………ん…っ」
ぺちゃっ……ぺちゃっ………
互いの口から覗いた二枚の舌が、淫らに絡み合って淫靡な音を立てる…
(………あ……っ?)
ざわり……と身体の奥がざわめき……疼いた。
これまでも何度か感じていたが、それよりもっと強く…激しい流れをもって……
(な……んだ…これは…)
三日月の愛撫に身を委ねていた面影が、ぶるりと肩を震わせ、くんっと顔を離してそれを俯ける。
「? 面影…?」
どうした?という三日月の声にも答えず、面影はぶるぶると身体を震わせたまま、顔を下に向けて上げようとしない。
只、何かを恐れる様に、両の腕で三日月のそれをきつく握りしめている。
「…おも…」
「あぁ……いや…っ…これ…な…に…っ」
いやいやと頭を振るようにしながら苦し気に呻く面影に、いよいよ心配になった三日月が、相手に顔を寄せ、表情を覗き込もうとした時……
「…っ!」
目に入ってきた光景に息を呑む。
(…あれは)
視線の先…面影の下半身…
その腰の中央部の浴衣の布地が、屋根を張るように持ち上がっていた。
布の下にあるのは男性として当然所持しているあの器官だ、しかし、これまでのこういう行為の中で、彼がこんな反応を示した事は一度もなかった。
だから、まだ精神的にも子供であり、肉体も追いついていないのだろうと思っていたが……
「………」
見つめる三日月の視線の先で、面影は身体を震わせる一方で腰を所在無さげに揺らしている。
その中央に生まれた熱を持て余しているかのように……
「面影、お前……」
呼びかける自身の声も上ずった様なものになりながら、三日月は、そっと自らの右手を伸ばして相手のそれに布越しに軽く触れた。
しっかりと、固い感触が返ってくる。
「…っあ!!」
それだけで、面影はびくんと激しく肩を揺らして苦し気に呻き、三日月の肩口に顔を押し付けてきた。
「みか、づき…っ! これっ……何だ…っ、いやだ、さわらな…っ」
「大丈夫だ、落ち着け…」
無駄に興奮させないように静かに囁きながら、三日月はそろりとその固い感触を確かめる様に、屋根の頂からその麓までを指先で撫でる。
ああ、やはり……勃っている………
「…もしや、『こう』なるのを見たのは、初めて、なのか?…」
「~~~!!」
最早、言葉も出せないのか、面影はがくがくと何度も首を縦に振りながら、尚も三日月の肩に顔を押し付ける。
初めての経験に恐怖してもいるのだろうが、それ以上に恥ずかしいのだろう。
いつもは色白の項までもが真っ赤に朱に染まっていた。
「……そうか」
頷きながら、三日月はぞくぞくとした高揚感に声が震えるのを止められなかった。
……自分の口吸いで、感じてくれた……
そして今、彼は顕現し、その肉体を得てから初めて男性としての行為、『射精』を行おうとしている。
しかも、自分の目の前で……!
(俺が……導いてやれる…?)
愛しい者が大人になるという大事な儀式『精通』を、自分の手で誘い、果たさせる事が出来るという事実に、三日月はくらくらと眩暈すら覚えた。
「み、かづき…?」
相手の心の動揺を感じ取ったのか、面影が不安げにこちらへと顔を少しだけ上げたが、その男はいつもの様に優しい笑みを浮かべて静かに頷いた。
「大丈夫だ……俺に任せよ」
ちゅ…っ
いつにも増して優しく面影の頬に唇を落とし、諭すように囁く。
「恐れることはない……これは、お前の身体が正しく整ったという事……俺が手伝って、最後まで導いてやる」
「ととの、う…? みちびく…?」
訳が分からない…と朦朧とした様子の若者に再度優しく笑いかけ、三日月は手早い動きで相手の着物の裾を暴き、彼の分身を露わにした。
「あ…っ!!」
外気に触れ、それが晒されたと分かった面影が咄嗟に身じろいで隠そうとしたが、相手の動きを見抜いた三日月はあっさりとその前に彼の分身を右手に優しく握りこんだ。
熱い……命の脈動が、粘膜を通して直に伝わってくる……
「ああ…っ!! い、や…っ! みな……いで…っ!」
人に見られるなど…ましてや触れられるなど考えにも及ばなかったそれに、寄りにも依ってこの男に触れられてしまった…!
羞恥で焼け死んでしまいそうだ…いっそそうなってくれたら…と願う若者に、ゆるゆると右手を動かしながら三日月が囁く。
「恥じることはない……立派な大きさだ…形も良い…」
ゆっくり……ゆっくりと……その昂りを優しく扱きながら、唇を相手の喉へと寄せ、ねるっと舌で舐め上げる。
「ふ、あっ…! あ、あ……っ」
「そうだ、恐れず……俺だけを感じよ…」
びくびくと戦慄く若い昂りを宥める様に、すっと手をその先端へと移動させ、じっくりと亀頭の根元を細く滑らかな指先で撫で回すと、びくんと反応する様に面影の腰が揺れる。
「あ、あああっ! だ、め…それっ…!!」
「痛いか…?」
「ち、が…っ!」
痛くはない……寧ろ……
「では、好いのか…?」
「っ…わ…からな…っ!」
そう、物凄い快感だった…身体の中央に集まった熱が固く張った怒張の中に渦巻いて、ぐつぐつと溶岩が内で煮え滾っている様だ。
暴れ回っているその流れが三日月の触れてくる指に促され、扱かれて、一方向へと向かっていく……
「は、ぁ…っ……はっ…はぁっ……」
息が出来ない……口を閉じる事も出来ない……犬の様に口を開き、荒い息を吐き出しながら、面影は相手の右腕をぎゅうときつく掴んだ。
彼の手は、まだ自分の昂りを握りこみ、確実に追い詰めてくる。
「…濡れてきたな」
そんな呟きと共に三日月の人差し指が先端を擦り上げると、その零口から滲んできていた先走りの雫で指が濡れる。
「あぁ…っ!」
先端から一気に走り抜けた快感に声を上げた面影の前で、三日月が濡れた人差し指を自分の顔の前に掲げ……
「…っ!!」
ぺろ…っ
恍惚の表情で舌で露を舐め取った。
「…旨しき甘露だ…」
「な…にを…っ」
倒錯的な光景に絶句する面影にも構わず指先を何度も舐め、そして再び相手の熱棒を握りこむと、子供をあやすようにとんとんと零口を何度も指先で叩く。
「…っ!!」
微かな刺激にも関わらず、それだけで腰が何度も戦慄き、熱が更に内で上がった。
「あ…っ……っ!」
身体の全ての神経が下半身に集まっている様に感じる……
快感は相変わらず自分を呑み込んでいるのに、もう、声を出す気力も奪われ、喉が痙攣するだけだ。
(ああ……私は、どうなってしまう…?)
中心の熱が自身の身体を溶かしてしまいそうな錯覚を覚え、面影は寄る辺を求めて三日月に縋り付いた。
自分の身体がどうなるか分からない……唯、今はこの男に縋るしかない…!
「み、か…づき…っ! たす、け…っ」
「ああ、そろそろ限界か…」
頷いて、三日月は大丈夫だと再度相手に囁いた。
「良いぞ……好きな時に達け」
「? い…? っ!! あ、ああああっ!!」
相手の言葉の意味を理解出来ない内に……
先程までのゆっくりとした動きではなく、男の手が激しく自身の分身を扱き始めた。
「はっ……あっ、あっ! やっ、これ…っ!」
相手の手に合わせて、まるで強請るように腰が勝手に揺れてしまう。
もっと好いところに触れてほしいと、浅ましく相手の掌へと向けて…
零口から更に液体が溢れだし、それが三日月の手へと伝い、潤滑油の役目を果たして扱く動きが更に激しくなる。
ちゅくっ……ちゅくっ…ちゅくっ……!
「いや…だっ! 音……やめっ…!」
聞こえてくる淫らな水音に耳までもが犯される……
それを誤魔化すように声を上げたが、それはすぐに三日月の唇で塞がれた。
『…誰かが起きだしてくるやもしれんぞ…?』
「!!」
それでも構わないという様な笑みを含んだ男の声を呪わしく思いながら、面影はぐっと掌で自分の口を塞いだ。
「~~~~っ!」
ぎゅうっと瞼を固く閉じて耐える想い人の姿をうっそりとした笑みで見つめ、三日月はいよいよ絶頂を迎えようと頭を振っている肉棒を扱きながら、くちっとその爪先で零口を優しく抉った。
「っ!!」
面影の目の奥に、火花が飛んだ。
今までの経験の中でも一度も味わった事のない感覚…快感が、中心に集まり、一気に爆ぜる。
「あ、ああああっ……~~~~~っ!!!」
唇から手が離れ、声を堪える事にも意識がいかず、嬌声を上げた面影だったが、それは半ばにて三日月の口づけにて防がれた。
そして三日月は面影の声を塞ぎながら、彼の絶頂の表情をしかと見つめ……それから相手の肉棒が放つ白濁した精に見入っていた。
びゅくっ…びゅくん…っ!
若い肉棒は何度も何度も、初めての射精を悦ぶ様に頭を打ち震わせ、精を放っている。
(嗚呼……美しい……)
己の奥に潜む欲望を耐えて耐えて…そして羞恥に打ち震えながらも快感を求め、絶頂の中で果てる姿の何と淫らで美しいことか……
それを自分が見ている、自分だけが見ている……何物にも代えがたい優越感……
誰にも見せるものか………!
「面影………」
快感に意識が焼き切れ、気を失ってしまった想い人を抱き締めながら、三日月が微かに身体を震わせる。
これだけ艶やかな相手の姿を見せつけられたのだ、己のものもとっくに荒ぶってしまっていた。
(ああ、やれやれ……難儀なものだ)
相手を起こす気にもなれない以上、後で自身で処理するしかない。
「…さて、今日はここまで、か」
聞こえていない相手に柔らかに呼びかけながら、三日月がその頬に口づけを落とす。
「今は…よくおやすみ…」
これからも自分達には時間がある……折れない限りは……
愛しいお前に、これからも己の全てを刻んでいきたい……
心の内にそんな望みを抱きながら、三日月は愛おしそうに面影の身体を抱き締め続けていた………