「流される私にも非はあるかもしれないが……その…反省してほしい」
「うむ……」
浴場の脱衣所にて
朝から面影の寝所を訪れ、相手の体調についての相談を受け、それが朝立ちだった事からなし崩しに彼を達かせてしまった三日月に、面影本人が苦言を呈していた。
一度だけではなく二度も絶頂に追いやられてしまった彼の身体はぐっしょりと汗に濡れ、それは相手も同じことだったらしく、そのままでは朝餉にも立ち会えない状況となってしまったので、今彼らは二人で朝風呂に入りに来ているのであった。
三日月からの『風呂で汗を流そう』という提案に頷いたは良いものの、そもそも彼が自分に手を出しさえしなければ、こういう事態にもならずに済んでいた訳で……
「確かに俺も悪かったが……そもそもお前が可愛いというのも…」
「私を可愛いというのはお前ぐらいだ三日月……問題はそこじゃない」
はぁ、と溜息をつきながら浴衣を脱いだ面影は、そこで自身の胸や腹に刻まれた相手の残した跡を見て頬を染める。
強く吸われて紅く残った跡は、明らかに彼の所有欲の証だ。
急に無言になった相手の様子に、三日月が彼の沈黙の理由を察して小さく笑う。
「綺麗に残っているな……嬉しいぞ」
「お、前は嬉しいかもしれないが……」
「面影は嬉しくないか?」
「……っ!」
あからさまに問われてぐっと詰まる。
そもそも、もし心に入れていない相手からの跡だったなら真皮を剥いでも身体から取り去っていただろう。
この跡を付けたのが三日月だったからこそ…今もこうして残したままにしている。
そう考えると……自分は、嬉しいと思っている……のか…?
「……その…」
素直に嬉しいと言うのは癪だったので、ふいと顔を背けて尤もな理由をつける。
「その前に、これのお陰で皆と入浴出来なくなってしまった……」
見られる事を避ける為に、最近は人がいない隙を狙っての入浴になってしまっていた。
元々誰かと賑やかしい入浴をする性質でもなかったので、それは大して苦痛ではなかったが、ふとした事で誰かに見られるかもしれないという密やかな緊張感はどうにかしてほしいと思う時もある。
またも溜息をついた面影に対し、三日月はしかし心底嬉しそうな表情を浮かべた。
「それは良い…他の誰にもお前の身体を見られずに済む」
「ただの入浴に大袈裟な…」
そこまで言ったところで、面影はぐいと相手に腕を引かれ、ひそりと耳元で囁かれる。
「誰にも見せたくない…」
「っ!!」
入浴する前から真っ赤になってしまった大太刀の若者は、ふいと顔を背けて足早に浴場内へと歩き出した。
幸い、向こうの腕はあっさりと自分を解放してくれた。
「…先に入っておく」
「うむ」
相手より先に入った浴場は、いつもの様に心地よい湯気と檜の香りに包まれており、ほっと身体から余計な力が抜けた様な気がする。
浴槽も床も総檜造りの浴場は、自分も初めて見て、体験した時にはその快適さに圧倒された。
三日月がいつか言っていたように、この心地よさを知ってしまったらもう刀剣に戻る事は出来そうにない。
(今までの経験からこの時間に朝風呂に来る者は誰もいなかったが…早めに身体を洗って退散した方が良いな)
この跡を見られたら、その場所からも虫に刺されたなど下手な言い逃れは出来そうにない……
面影は早速、洗い場の風呂椅子の一つに座り、前の鏡を見ながら髪を解き、それを留めていた髪飾りを外すと前の置き場に置いていく。
編み込みが解けた髪は素直に下へ向けて流れ、癖の一つも残っている様子はない。
洗い場には備え付けの身体用と毛髪用の洗浄剤がボトルに入れられており、ポンプ式で押せば出てくるようになっている。
現世で人気のものを導入していると誰かが言っていたが、確かに泡立ちや香りが良くて自分も気に入っていた。
手早く髪を洗っている内に、隣に三日月が座るのが分かった。
「相変わらず綺麗な髪だな。編み込みの癖も残っていない」
「ああ……お前よりは髪質は固いのかもしれない。三日月のは柔らかそうだからな」
「俺の…? そうか…?」
「まぁ…刀剣男士が髪の固さなど気にする事もないだろうが」
「ははは、確かにな」
言いながら、三日月も髪を洗い、身体を洗っていく。
その様子を少しだけ覗き見て、面影はすぐに視線を逸らした。
彼の身体を目にする事で、先程までの、寝所での甘い戯れを思い出してしまう…
その時は彼は浴衣を脱いではいなかったのだが、その艶めかしい裸体を見て、想像してしまうのだ。
(やはり早く上がるに限るな…)
湯舟にはあまり長く浸からない様にしようと思っていたところで、面影は相手の視線が自身の背中に注がれている事に気付いた。
「…? 何だ? 三日月」
「その紋は…蝶なのか?」
どうやら彼が言っているのは、自身の背中に刻まれた紋のことらしい。
興味深そうに眺める相手に、面影は軽く頷いた。
「ああ、蝶の…後翅だな。私の分身が刀剣での攻撃時に放ったのを見たことがあるだろう?」
「あれか……攻撃力も凄まじいものがあったが、美しかったな。夢と蝶……胡蝶の夢…か」
ふむ…と頷き、三日月は尚も興味津々といった様子で面影の紋を見つめていたが、何かを思いついた様に申し出た。
「すまん、面影……少し、紋に触れても良いか?」
「紋に…?」
何を考えているのかと面影は訝し気に首を傾げた。
「触れたからといって何も起こらないが…」
「ああ…ちょっとした興味だ。触れて痛いのならば控えるが…」
「いや…そういう事は無いと…思うが…」
自分の背中にある紋をこれまで気にした事もなかった面影は、相手の願いに別に構わないと頷いた。
「そうか、では失礼するぞ」
三日月はそう言うと自分の風呂椅子を動かして面影の背後に回り、腰を落ち着け、そっと指先を優しく刻まれた紋の黒い筋に触れさせた。
「…っ」
ぴくんっと面影の身体が微かに震えた。
「…どうした?」
「っ……いや、何でも、ない…」
「そうか」
一度良いと許可を与えてしまった以上、すぐにそれを反故にするのは後ろめたくもあり、面影はその場ではやり過ごしたのだが……
すぅ……
「っ!!」
紋の筋に沿って、三日月の細い指先が優しくゆっくりと背中をなぞっていくと、ぞくぞくとした甘い衝撃が指を追いかける様に走って行った。
どうやら自分は背中が弱かったらしい……しかも紋の部分は更に感度が上がっている様だ。
何ということだ、三日月に今触れられるまでまるで気が付かなかった。
(まずい……あまり長く触られると……)
また身体が余計な熱を孕んでしまう……と危惧したところで、意外にも三日月がすっと指を離してくれた。
「ああ、すまんすまん。図に乗ってしまった。詫びに背中を洗ってやろう、俺も触れてしまったしな」
「あ、ああ」
相手の申し出に思わず頷いた面影は、彼が手にしたタオルにポンプから身体用の洗剤を何度か押し出し、泡立てる様子を眺めていた。
本当なら、この時に逃げていればまだ間に合ったのかもしれないが……
「では洗っていくぞ」
言いながら、三日月は柔らかなタオルで適度な力を込めて背中を上から下へと撫でていく。
自分の手ではついおざなりになりがちな場所なので、相手の好意は有難かったのだが、よく考えたら遥かに年上の男に背中を洗わせるというのはどうなのか……
「三日月、そんなに念入りでなくても良いが…その、申し訳ない」
「いやいや気にするな……さて?」
するっ………
「!?」
は、と面影が気付いた時、三日月が彼の脇から腕を潜らせ、胸へとそのタオルを届かせていた。
「ここも洗ってやろう」
「ちょ…三日月っ!?」
「遠慮するな…ほら、力を抜け」
「そんな事、出来る訳……」
しゅる…っ…しゅるっ……
「んっ…」
明らかに狙ったように、相手が持つタオルが自分の乳首を何度も擦り上げてくる。
右の膨らみを円を描くように何度か周回させると、今度は左側にも同じ様に……
「あ……だ、め…っ」
何度か頂を擦り上げられるだけで、見る見るうちに蕾が固く勃ち上がっていくのが分かってしまう。
しかも、泡に塗れたそれらの光景はいつにも増して淫靡なものに見えてしまい、面影の視覚を通して彼の熱を呼び起こしていった。
しかし…
(……あっ……これ…もしかして…)
避けている…?
気のせいかとも思ったが、相手の手の動かし方を見て確信する。
先程までは蕾を呑み込むようにタオルを動かしていた相手が、それが固く自己主張を始めると、今度は敢えて直接触れることはせず、周囲の淡い色の場所のみを責める様に動いていた。
「は…ぁ……はぁ、ん…」
直接的に触れてもらえないその場所は、その瞬間を待ち望むように、期待する様に、更に大きく固く成長し、周りの色付いた丘を一層高く盛り上げる程だった。
それでも触れてくれない相手に、面影は非難するような視線を向けたが、向こうは涼しい顔で薄い笑みを浮かべてこちらを肩越しに見下ろしていた。
「どうした? 面影…」
「い…じわる…するな…っ」
「…さてなぁ」
くすりと笑った三日月は、そのまま口を相手の右耳に寄せると、かぷりとその耳朶を優しく噛んだ。
「っ!」
息を止める面影に、誘う様に今度は舌を出して外耳を舐め回し、くちゅりと耳孔へと舌先を差し入れ、奥へ奥へと進めてゆく。
「はあぁっ…! や、ぁ…」
「意地悪だと言うのなら…お前がしてほしい事を言うがいい…」
熱い吐息と共に甘い声でそう囁かれ、面影の思考が乱れていき……抗う気持ちも瞬く間に溶かされていく……
「ああ……みか、づき…っ」
「ほら………何でもこのじじいに強請るがいい」
優しく妖しくそう諭され、面影は彷徨わせていた手を上げると三日月の左手を取り、そのまま己の膨らみきった左の蕾へと触れさせた。
もうその場所もじんじんと痺れて限界だった。
「こ、こ……さわって…」
熱に浮かされた様にそう囁いて、ぐいと胸に指を押し付ける相手に、三日月が僅かに瞳を見開いてゆっくりと唇の両端を引き上げる。
「あいわかった……泡立ちも悪くなってきたからな…これはもう要らぬだろう」
三日月はそう言って手にしていたタオルを手放すと、その手を今度は身体用洗剤のボトルに伸ばし、器用に数度押しながらその掌に液体洗剤を受け止めた。
本来ならば水分と混ぜて泡立てるそれだが、三日月はそれをそのままぬるり、と相手の右の蕾に塗り付け、続けて左の膨らみにも同じ様に掌に残った分を擦り付けた。
「あ、ん……あぁっ…」
「気持ち好いだろう…?」
粘度の高い液体に浸された二つの蕾が、背後から手を伸ばす男にそっと摘まみ上げられ、にゅくにゅくとそれらを塗り込められるように弄られる。
物足りなかった場所に一気に与えられた快感に、面影が顔を上げてはく、と声にならない声を上げて喘ぎ、その身体を後ろの男に預ける様に凭れ掛かった。
「んん…っ……はっ…三日月…っ」
「ふふ…こんなに固く腫らして…もっとしてほしいのか?」
くにくにと人差し指と中指で挟まれた桃色の蕾が、もっとと言う様に更に固さと大きさを増していき、その持ち主は喘ぎながら無意識に腰を揺らしていた。
胸に生まれた快感が確実に身体の奥底に注がれていき、それが雄の証に熱を与えてゆく。
朝、寝所で鎮められた筈のそれだったが、三日月から与えられた濃厚な愛撫によって再び頭をもたげていき、その場所を隠していた腰に巻かれていたタオルを押し上げつつあった。
しかし本人はまだそれに気付いていないのか、腰を揺らしながらも三日月の指の動きを追うのに夢中になっていた。
「あぁ……もっと…つよ、く…」
後ろを振り向きながらそう強請る相手に、三日月はくすりと笑いながら優しく唇を塞いだ。
「んっ……はぁ…ん」
「良い子だ…」
望まれるままにきつく二つの蕾を摘まみ上げて捏ね回すと、びくびくと面影の身体が跳ねて悦びを伝えてくる。
誘う様に舌を出してちろりと面影の唇を舐めると、応える様に彼もまた舌を差し出し、絡めてきた。
くちゅっ……ちゅっ…ちゅく……
「ん……はぁ、ふっ………んむ…っ」
「ふふ……口吸いも上手くなってきたな…」
まぁ、俺が教え込んでいるからだが…と心の中で付け加えたところで、三日月は向こうの身体の変化も限界に近い事を察し、そっと相手に囁いた。
「……そろそろ、別のところも触ってほしいのではないか…?」
「!」
ぴくんと反応した肩が、何より答えを教えてくれた。
「あっ……」
指摘され、面影はそこで自分がはしたなく腰を揺らしていた事実に気づき、更に、腰のタオルが己の怒張したもので押し上げられているのを見て狼狽する。
勃ちつつあるのは気付いていたが、ここまであからさまだとは………
「あ、や……っ」
見られたくなくて腰を捩ったが、背後の男に動きを阻まれてしまう。
相手は脇から回した両腕でしっかりとこちらを拘束しており、笑みを含んだ声で更に一層羞恥を煽る言葉を紡いできた。
「…捲って見せて」
「!!」
「触ってほしいのだろう…?」
「け、ど………は、ずかし…っ…」
明らかに上気した顔で、それでも何とか踏み留まっている理性が面影を支えているのか、彼は相手の誘いに従う事を渋る。
既に寝所でも全てを露わにされていたのだが、それでも恥じらう面影に三日月が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「…このままずっとここにいたら、いずれは誰かに見られるぞ?」
二人でこんな事をしているところをな…と続けられ、さぁっと面影が顔色を失った。
思わず脱衣所へ続く扉を見遣ったが、今のところは誰も来る様子はない。
「…………!!」
「…俺はどちらでも良い。このまま可愛いお前を自慢してやろうか…?」
「いや…だ! そんな……!」
「ならば…分かるな?」
くすくすと笑う相手が憎らしいが、このまま相手に拘束されたままだと確かに時間ばかりが過ぎてゆく…
そしてこの男は、願いを叶えるまでは絶対に自分を解放するつもりはないのだろう。
(…仕方…ない)
心の中で自分に何度も言い聞かせる。
これは仕方ない……こうしないと、相手が引き下がってくれないのだから……
別に、相手に見せたい訳じゃない…
早くここから出る為に…今だけ我慢したら良い……
「………っ」
覚悟を決めて、面影は自ら腰のタオルの結び目にそろそろと手を伸ばしゆっくりとそれを解くと、続いてこれもゆっくりと、身体の前面側を覆っていたタオルの端を持ち上げ…はらりとそれを退かした。
「~~~!!」
目に飛び込んでくる痴態に、思わず固く閉眼する。
(ああ……どうして……!)
寝所で二度も達かされた筈なのに……何故、あの時と同じ…いや、もしかしたらそれ以上に興奮したそれが岐立しているのか……
「……ほう」
感心した様な三日月の声に、恥ずかしさのあまりに顔を伏せてしまう。
しかしそんな本人の羞恥とは裏腹に、勃ち上がっているそれは三日月に見られたことが嬉しいとばかりに更に興奮し、ぴくんぴくんと頭を振っていた。
「ああ、よしよし…ちゃんとお前も可愛がってやるとも…」
笑みを零しながら、三日月は先程と同様にポンプへと手を伸ばし、再び洗剤を掌に取り上げる。
「あ……っ」
そんなものを使われては…と面影が思った時には既に、三日月はそれをぬるりと亀頭へと塗り付け、そのままにゅるんと茎から根本へと扱き下ろしていた。
程よい粘度を持つ液体を挟んでの愛撫は、何も使わないそれより遥かに大きな快感をもたらした。
「あっ…はぁぁぁっ!」
そこから全身に拡がる快楽に声を上げた面影に、先端の窪みを指先でくりくりと弄りながら三日月が笑いながら言った。
「こんなに熱く固くして………すぐに達ってしまいそうだな」
にゅちゃっ、にゅちゃっ、にゅちゃっ………
いやらしい水音に、耳までもが犯されてゆく。
「あ、あああっ! はぁっ…あ、くぅっ…! やっ…はげしっ……!」
液体洗剤を潤滑油代わりにした三日月の激しい扱きに、見る見るうちに面影が追い詰められ、追い上げられていった。
洗剤に加えて自分の先走りの雫も三日月の手を濡らし、泡立ちを生むと共に一層その滑りを良くしてゆく。
「はぁっ、はぁっ……あ、もっ…もうっ…! み、かづきぃっ!!」
「ああ、良いぞ……ほら、見ていてやるから達ってしまえ」
「あっあっあっ! い、いいっ…! みかづき…っ、いいっ…! もうっ、いっく…っ!!」
激しく扱き上げていた三日月の手が、少しだけ強く力を込め…きゅむっと雁の周囲を捻るように擦り上げた。
「はぁっ! あ――――っ!!」
どぴゅっ、びゅくんっ、びゅくっ……!!
腰を激しく痙攣させ、面影は何度も天井に向かって情欲の樹液を噴き上げた。
二度、三度……勢いは弱まってはくるが、尚も射精は続いている。
「面影…」
「っ…」
名を呼ばれ、面影は呼んだ男へと目を遣った。
(あ、あぁ………見られて、る……)
射るように見つめてくる三日月の瞳に、達したばかりの自分が映っていた。
口を開き涎を端から流しながら、潤んだ瞳で三日月を見つめる自身の姿は…果たして相手にはどの様に映っているのだろう。
きっと浅ましいのだろうと自己嫌悪に陥りそうになったところで、徐に相手が動き出した。
側に置かれていた湯桶に湯を張ると、それを優しく相手の肩から流し、付着していた洗剤を綺麗に洗い流してゆく。
「あ……すま、ない…」
本来なら当然自分がやらなければならない後始末を、先んじてやってくれた相手に詫びた面影だったが、向こうはそのまま桶を床へとぞんざいに投げ遣ると、強く面影の身体を抱き寄せてきた。
「え…?……あ…っ」
いつになく強引な相手の行動に戸惑っている内に、面影はずるりと風呂椅子から引きずり降ろされ、そのまま相手に風呂床の上に押し倒されていた。
床も木造りだったため石よりは随分とましな感触だったが、その固い感触に一気に面影の意識が現実へと引き戻されてゆく。
「……三日月……?」
どうした、と問いかけようとしたところで、向こうの瞳の奥に燃える情欲の炎を見て声を失った。
先程まではあんなに余裕を見せつけていた相手が、今はまるで自分を獲物の様に狙う獣の様に……
「あ……」
無意識に身体を引いた面影に対し、向こうは更にぐいとこちらに迫って来ると、その全身を密着させてきた。
ほぼ同じ背丈の二人が、肩から足までほぼ全ての身体の箇所が密着すると、そこから互いの熱が伝わり合う。
(……温かい…な…)
相手の豹変ぶりに驚いていた面影が、彼の肌に触れてほんの少しだけ気を緩めたものの、この体勢から何かが変わる兆しはまるで見えない。
果たして相手は何をしようと言うのか、と考えていた彼に、三日月が顔を寄せて熱っぽく囁いてきた。
「俺も……気持ち好くしてくれ…」
「え…っ」
「もっと……お前と一緒に…」
ぐい…っ…
「あ……?」
胸に圧迫感を感じてそちらを見ると、相手の胸が強く自分のそれに押し付けられていた。
圧迫感を感じるのも当然だ…と考えたところで、僅かに相手が身体を動かして位置を調節した様に見え、面影はすぐにそれが正解だった事を知る。
(み……三日月の…乳首、が…)
自分のそれに…重ねられて……
はっとした表情を浮かべた相手が自身の意図するところに気付いたと判断したのか、三日月は我が意を得たとばかりに微笑み、目を逸らす事無くそのまま身体を動かし始めた。
「あっ…はぁぁん…み、かづきぃ…」
「面影……」
くにゅくにゅと、二人の蕾が互いを擦り合い、捏ね繰り合い、圧し潰す。
それらがもたらす快感に加えて、触れ合う度に形を変える蕾たちを見ていると、まるで自身の蕾が相手のそれを犯し、同時に犯されている様な淫靡な気分になってくる。
一度三日月が身体を離し、改めて互いの膨らみの頂を軽く触れ合う程度に合わせ、ゆっくりと円を描くように胸を動かすと、擦れ合ったところから甘い痺れが全身に走っていった。
「好い、だろう…?」
「っ……いい……い、いっ…!」
何度も首を縦に振って肯定の頷きを返していた面影が快感に身じろいだ時、下腹部に固いものが触れて彼の身体がびくりと固まった。
(……! ………これ……み、かづきの………勃って、る……?)
ゆっくりと最低限の動きで下腹部を動かし向こうの形を確かめたが、間違いなく相手の張りつめたものだと知って全身が一気に熱くなる。
そう言えば、自分は此処に来て既に一度達しているが、向こうはこちらに手を出してきただけだった。
自惚れても良いのなら……もし自分に相手を欲情させるだけの魅力があったのなら……彼は随分と長くその状況に甘んじていた事になる。
(そう言えば、寝所でも結局私しか達っていなかった……)
実はその裏で自分も結構酷い事をされていたのだが、気を失っていた面影は当然知らないまま。
どうしよう、このままでは彼も辛いのでは…と考えた彼は、相手にひそりと遠慮がちに声を掛ける。
「その…っ…三日月……お前の、が…」
「……ああ」
相手の意図が分かったのか、三日月は艶然と微笑み、ぐいと身体を少しだけ下へとずらす。
そして……
「こちらも……一緒に、な…」
「え…?」
ぐい…と、三日月が自身のいきり立ったものを掴み、それを相手のものと重ねるとそれらを一緒に握り込んだ。
「そんな…っ……」
互いの雄の証を重ねるなど想像も出来なかった面影にとって、三日月の行動はあまりに受け入れ難く、慌てて腰を引こうとしたが、そのものを既に手に収められている以上は逃げる事は叶わない。
寧ろ動いた事で彼の手の中で二人の昂ぶりの裏筋同士が擦れ合い、二人に抗いがたい快感をもたらしてしまった。
「は、ああぁぁっ!」
「っく……」
悶える面影の上で、息を殺したまま、三日月はゆっくりと腰を動かし、手の中の互いの肉棒を強く擦り合わせ始める。
ずりゅっ、ずりゅっと互いの敏感な粘膜が擦れ合う度に、そこから相手の感触が伝わり、心までもが昂って来る。
そして、刺激を受けた雄が先端から悦びの蜜を零し、互いの全てを濡らしてゆく……
「あっあっ…! み、かづきの…っ…あつ、い…!」
熱く固く自己を主張している相手のものに、面影が慄きながらも快感に溺れるのを眺めつつ、三日月はまたも勃ち上がった相手のものを手で優しく揉み込みながら笑った。
「素敵だ……あんなに射精したというのに、まだ達き足りぬか…」
「そん、なこと…っ」
「こんなになっているのにか…? 元気過ぎて腹につきそうだぞ」
「言う、な…ぁ…っ、あっ…はぁぁっ…!」
ぐちゅぐちゅと二人の淫液を互いのものに塗り込めながら揶揄していた三日月が、一度手を止め、そちらへと視線を向ける。
自分のもかなり昂ってきたが、相手のもそろそろ限界を迎えそうだ。
蜜に塗れて勃ち上がっている面影の分身は、まるで誘う様に三日月の視線の向こうで光を反射し、きらきらと光っている。
「………」
寝所で味わったあの時の事を思い出し、三日月はぺろっと舌を覗かせて面影に囁いた。
「……もう一度……お前の果実を食べたい……」
「え……っ」
ぐっと身体を起こして自分から離れた相手の行動に、今度は何をするつもりなのかいち早く察せた面影が、勢いよく相手に縋り行為を引き留めた。
「いや…だ…っ」
「面影…?」
身を起こし、互いに向き合う姿になって面影が強く拒否する姿を見て、もしやそんなに生理的に嫌だったのかと不安を覚えた三日月だったが、相手は赤くなったまま、暫し沈黙し…ひそりと言った。
「……三日月、ばかり………いやだ…」
「……え?」
「私にも……食べさせてくれ……」
面と向かって言うのは恥ずかしかったのか、最後の一言は相手の耳元で顔を寄せ、微かに聞こえる程度の声だったが、それでも十分にそうと聞き取れた……からこそ、三日月は絶句し相手をまじまじと見つめる。
「おも…かげ?」
「………」
相手は顔を俯けて答えない。
「……無理をするな。やりたくもない事を、俺に合わせて無理にやることは無い…」
正直、嬉しさに身体が震えそうになったのは事実だった。
面影が、自分から望んでその愛らしい口で己の雄を愛してくれると言ってくれたのだから…
しかし、それが自分の独りよがりであってはいけない、とすぐに思い直した。
今も当の本人は顔を見せずに俯いたまま……それが本心であるのかを知ることが出来ない以上、無理強いをさせるのは本意ではないのだ。
「面影……俺はお前を大事にしたいのだ、だから…」
「無理……じゃない…」
必死に冷静さを保ちながら面影を諭した三日月に、相手はふるっと首を横に振って否定すると、僅かに顔を上げてこちらを見つめた。
その顔が更に赤くなっている。
「三日月が……あんなに…美味しそうな顔をする、から…っ」
「!?」
「私も……お前の味を、知りたいと思った……お前のなら……良い、と…」
その告白だけで思わず達きそうになり、三日月が必死に耐える。
ああ、今しがた大事にしたいと言ったばかりなのに……!
抑え込んでいた本能という獣が己の中で目を醒まし、三日月の中で荒ぶり始めた。
そこまでお前が言うのなら……最早、遠慮は出来ぬ……
「ああ……やはり誰にも見せたくない……お前の、その物欲しげな顔……堪らぬ」
「あ……」
ちゅ、と面影の唇に口づけを落とし、三日月は妖艶な笑みを浮かべて相手を誘う様に言った。
「では…互いにしゃぶり合おうか……気持ち好いぞ…きっとな…」
「!……」
直接的な物言いに、面影がぴくっと恥じらう様に身体を引いたが、覚悟を決めた様にこくんと頷いた。
それを受けて、三日月がその場で身体を床に預け、ぐいと相手の腕を引いて同じく横になる様に促す。
「ほら…俺に跨れ」
「……っ」
相手が横になり、それに対して自分がどの様な体位を取れば良いのか…察したところで面影が直面した現実に真っ赤になった。
確かにそうすると言ったのは自分自身だが……相手の顔上を跨ぐ体勢を取らなければいけないとは……
「…今更、嫌とは言わぬだろう?」
「っ!……分かって、いる…」
怖気づいたのか、と言う様な口振りの相手に反射的にそう答え、ゆるゆると面影は動き出し、相手に言われた通りにその顔を跨ぎ、彼の下半身へと顔を寄せた。
恥ずかしさを忘れる為に、敢えて目の前の相手の分身に意識を集中する。
(…やっぱり……大きい…)
過去に手に触れた事はあるが、ここまで間近で見た事はなかった。
相手の雄は十分な質量を持ち、重力に逆らって堂々と天を仰いでいる。
それが現実のものであることを確かめる様に、そろそろと手を伸ばして茎を握ると、熱い感触が掌の皮膚を通して伝わってきた。
(熱い……こんなに、固くなるものなのか……)
しげしげと見つめてしまったところで、自分のものも正に今、相手に見られているのだという事実に気付いた瞬間、その分身が滑らかで温かいものに包まれる感覚が襲ってきて身体が跳ねてしまう。
「は…っ…」
身体を潜った先を覗き見ると、三日月が一足先に自分のを既に半分程咥え込んでいた。
直接含まれているのを見て、視覚と触覚が脳内で統合され、より現実味が増してくる。
それまでの事も間違いなく現実であった筈なのに、まるでそうではなかった様な気がしてしまう。
(ああ……本当に……私のが、三日月に…っ)
面影が見ている事に勘付いたのか、ふ、と向こうが笑った気がした。
そして、含んでいた相手をぬるりと解放すると、まるで見せつける様に舌を伸ばして様々な角度から舐め回してきた。
「ふぁっ……あっ…ああっ…!」
彼の舌が攻める度に、相対する場所から快感が追ってきて腰が揺れる。
「…ほら…お前も……」
促され、自分はまだ何もしていなかった事に気付いて、面影は慌てて正面の彼に向き合った。
男のものを口に含むなど当然初めての経験だったが、先ずは相手に倣ってやれば良いだろうと判断し、いよいよ口元を相手の先端へと寄せていく。
「ん…っ」
微かに雄の匂いが鼻腔をくすぐったが不快なものではなく、面影はゆっくりと確かめる様に相手を口の中へと含み入れた。
熱が口腔内の粘膜を焼いてしまいそうな錯覚を覚える一方で、相手を含んだ刺激を受けて瞬く間に唾液が溢れてきた。
(これが……三日月の、味……)
人間のものと自分達刀剣男士のそれに違いはあるのだろうか…と漠然と考えながら、面影はじわりと舌に拡がる味に意識を向ける。
まだ射精していないことから感じているのは先走りのそれなのだろうが、全く不快だとは思わなかった。
不快ではないと理解したら、構えていた意識が徐々に緩み始め、恐る恐るだった行為も徐々に熱を帯び始める。
初めて、というのはどんな行為であっても構えてしまうものなのだが、枷が外れてしまえば勢いがつくまでは長くない。
「んんっ……は…っ、はぁ……んっ」
相手のものを含んだまま、頭を上下にゆっくりと動かして粘膜で擦り上げていた動作が徐々に慣れ始め、そこに舌の動きも加わってゆく。
(ああ……三日月のが、もっと大きく…っ…すご、い……口に…入りきれな…)
舌を絡ませ、唾液を塗り付けると、相手が更に大きく成長し顎が痛くなってきた。
「ふぁ…っ」
耐えきれず、一度口から離したものの、休む暇も持たずに再び面影はそれに唇を寄せる。
(今の私はどうかしている……もっと…舐めたい……止められない…っ)
きっとそんな自分を追い立てているのは、今も絶えずに快楽を与え続けている相手の行為もあるのだろう。
時折、向こうから微かに聞こえる舌を鳴らす音が響く度に、中心から強い快感が生じて息が詰まりそうになる。
その度に一瞬愛撫が止まり、そしてそれを埋める様に再び夢中で唇と舌を這わせてしまう。
拙いながらも初めての行為に夢中になる面影に、しかし三日月は大いに悦び、雄を震わせていた。
(ああ……何と健気で愛らしい……)
あんなに必死になって奉仕してくれているのを見て、男として興奮しないなどあり得ない。
そして、こうして口で含んでくちゅくちゅと中で弄ぶ度に、自分の腰が淫らに揺れている事を本人は知っているのだろうか……
(………それに…)
つと視線を上に向けると、そこには固く閉じた淡い桃色の秘蕾がひそりと息づいていた。
本来であれば、排泄の為のみに存在する器官だが……男性同士、身体を繋ぐために使える場所でもある。
許されるのなら今すぐにでも彼を押し倒し、あの密やかな蕾に己の肉刀を突き立て、犯し抜いてしまいたい……
(…だが、まだ……早い…)
自分もまだそこまでの行為を相手には教えていないし、今教えるにしても、時間と場所が悪すぎる……
耐えるしかないか、と自嘲したところで、目の前の蕾は否応なく三日月を誘ってくる。
求めるものが此処にあるのに、触らないのか…?と……
「…………」
少し……少しだけ…………
相手の岐立を舐めしゃぶりながら、三日月はそろりと人差し指を相手の後ろの蕾へと伸ばし、さわさわとその周囲を撫で回した。
「う、あっ!?」
いきなりその部分に触れられた面影が、思わず膝を深く立てて腰を持ち上げ逃げようとしたが。三日月が相手の腰をしっかりと支えており、それが浮くのを許さない。
「…心配は要らぬ…すぐ、好くなる……」
一時、口淫を止めてそう優しくあやす様に言うと、三日月は人差し指をつぷりと蕾の奥へと差し入れた。
「なっ…! どうして、そこっ…! 嫌だ、やめて…っ!」
初めて身体の内部に侵入される感覚に恐怖し、面影は身体を震わせながら懇願したが、三日月は再び相手を口に含んで吸い上げ、緊張を少しでも解そうと試みる。
「あ、あぁっ……なん…っ……あ、ふぅ…っ」
快感と異物感で身体の感覚がないまぜになり、面影が何度も首を横に振る向こうで、三日月はゆっくりと、しかし確実な目的をもって指を奥へと進めていく。
敏感で繊細な粘膜を傷つけないように……僅かな感触の相違を見過ごすことも無いように……
「いや……もう、やめっ……三日月…」
「ああ…すまぬ面影…だが、もう少し……」
震える声で訴える相手に、三日月が詫びながらも指を動かし……もう少し先へとそれを進ませたところで、指の腹程度に小さい盛り上がった箇所を探り当てた。
「ああ…ここ、か?」
触れた箇所をゆるゆると指を回して優しく撫でると、先程まで怯えていた若者がひくっと息を呑んで天を仰いだ。
「あ……っ?」
一体、何が起こったのか分からないという反応に、三日月は確信した。
「そうか……ここがお前の好いところ、か…」
「あ、あああ…っ…だめ……なに…これ…んあっ…!」
すりすりと指でその場所を撫で続けると徐々にそこが盛り上がりを増してゆき、それに比例して面影の吐息と声に明らかに艶が混じりだす。
「好くなってきたか……ふふ、こちらも洪水だな…」
「あ、ああ、ん…っ…や、ぁ……そこ……いいっ…!」
上を向いて喘ぐ面影の表情からは怯えの色が完全に消え失せており、悦楽に酔いしれながら、涎で濡れた口からは素直にそれを悦ぶ言葉が零れ落ちる。
まるで快感のスイッチを押された様に、面影の零口から流れる甘露が一気に量を増し、三日月の喉を潤し始めた。
「ん……はぁ……」
その熱と固さ…滴る蜜で、相手の絶頂の訪れを察した三日月が、くちゅっと口をそれから離して面影に呼びかけた。
「そろそろ、だろう? さぁ、どうしたい、面影…」
「あ……え…?」
どうしたい、とは…?
同じく相手から口を離して振り返った面影に、三日月が誘う様に妖しく微笑んだ。
「達きたいのだろう……俺にどうしてほしい…また全部飲ませるか、それとも……」
すぅ、と己の顔を手でなぞり、挑発する様な表情で三日月が尋ねる。
「俺の顔に…かけてみるか…?」
「!!」
背筋に、激しい雷にも似た戦慄が走った。
あの美しい男の顔に……?
今正に見ている美麗な男の顔に己の劣情の証が注がれている瞬間を想像し、それだけで達ってしまいそうになり、必死に面影は暴発を耐えた。
「そんな……そん、な、こと……」
そんな背徳的な事は出来ない…と悪魔の誘惑に抗う様に若者は首を振って否定したが、悪魔は尚も美しく笑いながら、ちゅ、と先端に口づけて誘う。
「…お前の好きにして良いのだぞ……好きな様に…俺を、穢せ」
「ああ……っ」
否定しても否定しても……脳内で幾度も彼に情欲の証を注ぐ光景が浮かんで消えてくれない。
どんなに穢されても…きっと彼はその美しさを一片たりとも失う事はないだろう……寧ろその穢れさえも彼にとっては別の魅力となってしまうに違いない……
(ああ、見たい……! 私の…私の、で顔を濡らし、穢された三日月……を……!)
見たい見たいと心が素直に叫ぶ度に、どんどん絶頂は近づいて来る。
本当に良いのだろうかと思い悩む若者に、月の化身が促す様に零口をひと舐めした。
「…どう、したい…?」
最早、理性は只の飾りに成り果ててしまい、面影は心が望むままに願った。
「かけ、たいっ…! 三日月の…顔にっ…! 射精したいっ!!」
「…ああ、かけてくれ……お前が望むだけ…たっぷりと、な…」
そして、三日月はきつく相手の茎を握り締めて先端へと向けて扱き下ろし、同時に指に触れていた相手の快楽のスイッチをくっと強めに押した。
それだけで、あっさりと絶頂は面影の全身を呑み込んでしまった。
「あっ…! あ―――――っ!!」
これまでの中でも、最も激しい射精感だった。
浅ましく腰を振りたてながら、面影は何度も精を吐き出し、それを遠慮なく相手の顔面へと注いでゆく。
「三日月…っ! 三日月ぃ…っ!!」
注がれてゆく様を跨った足の間から直に見て、相手の顔に己の白濁がとろりと流れるのを目撃した瞬間、何かが完全に自分の中で焼き切れた気がした。
何度も相手の名を呼び、快感と罪悪感に包まれていた男が、目の前にある相手の分身に目を留めると追い立てられる様に夢中で唇を寄せていく。
「ああ……三日月…っ…射精して、くれ…お前も…私の顔に…」
「面影…」
「お前が、射精すところが…見たいっ……かけて……いっぱい……」
「…ふ」
熱に浮かされ、絶頂に至った夢現の中で、最早理性は殆ど残っていないのだろう。
獣の様に欲望だけに支配され、欲望だけを口にする男は、今は三日月だけを貪欲に求めている。
それで良いと三日月は笑った。
そうやって淫らに求める相手は、俺だけで良い……俺だけが、お前の望むものを与えてやる。
「では、注いでやるぞ…?」
耐えていた射精を相手の望みに応える形で解放しようと、三日月がぐっと腰を大きく上へと持ち上げ、面影の口に含まれていた自身の分身を相手の粘膜に擦り付けて刺激を与える。
「…っ!」
瞬間、三日月のそれが口の中で一気に体積を増し、驚いた面影は思わず口を離してしまった。
「く、うっ……!」
三日月のくぐもった呻き声が聞こえると同時に、面影の目の前で相手の零口から白濁液が自身に向けて迸ってきて、思わず彼は目を閉じた。
ぴしゃっ…! ぱちゃっ……!
熱い粘った液体が顔にかかる感覚を感じながら、それが相手の欲望の証であると悟った面影はぶるっと身体を震わせた。
穢されたのに、それが何故か悦びとなって己を包んでいく。
自分に欲情してくれたからこそ、こんなに熱い精を注いでくれた……それが嬉しい……
「……面影」
「あっ……」
ぐいと腕を引かれて面影が三日月の胸の中に抱かれる。
「…はは、お互いにドロドロだな……」
そう言いながらも嬉しそうな表情で、三日月が面影の顔を濡らしている己の精をぴちゃりと舐め取り、それを場所を変えながら何度も繰り返した。
「………」
達した直後であまりにも身体に刻まれた情報量が多すぎて処理しきれていないのか、面影は荒く呼吸を繰り返すしかなかったが、やがて相手と同じく彼の顔に唇を寄せ、ぴちゃっと精を舐める。
「……っ…」
暫く、二人の間に言葉は無く、ただ、互いの舌が互いの顔を清める音だけが響いていた。
「………面影…」
三日月の真似をする様に、何度も三日月の顔に舌を触れさせる若者を、彼は愛おしそうに抱き締め、微かな声で呟いた。
『………挿れたい』
「……?」
面影が何の事だろうと首を傾げた時には、向こうはすぐに気を取り直したように、いつもの笑みを浮かべるだけだった。
「……流石にこれ以上はのぼせそうだ……いい加減、出掛ける準備もしなければ、な…」
「………お前は」
普段の調子に戻った相手に、面影はやや不満げな面持ちで尋ねる。
「……本当に『じじい』なのか…?」
「ん…?」
問われ、相手の意図するところを察した三日月は、ははと憎らしい程に余裕のある笑みで返した。
「千年も生きているとな…色々と『達者』になるのだ。疑うなら、場所を移して試してみる…」
「いい! いい、からっ!……早く朝餉を済ませて万屋へ行くぞ…」
これ以上下手な事を喋らせたら更にドツボに嵌っていきそうな気がして、面影は慌てて相手の言葉を遮った。
兎に角ここから出て、万屋に出掛けよう…
最後に三日月が囁いたあの一言は気になるが、聞いたらどうなるか……正直恐怖を覚える。
十分すぎる程に温まった身体を改めて湯で流して清めた後、脱衣所に向かって歩き出した面影だったが、あれらの快感の代償としてやはり重怠い感覚が残っており、少しだけだがふらついてしまった。
「ああ、危ないぞ」
ひょいと脇から手を貸し、支えてくれる三日月はまるで何事もなかったかの様にしっかりとした足取りで、それがまた微妙に癪に障る。
別に刀の大きさで全てが決まる訳ではないだろうが、自分は大太刀で、彼は太刀なのに………
「………どうした?」
「いや………体力をつけなければと思っただけだ」
「………ほぉ」
「お前が今想像している事とは絶対に違う意味だ…!」
誤解を受けたらまた面倒な事になると必死に面影は否定したが、それもまた相手にのらくらと躱されてしまった。
「早く身支度を整えて行くぞ。とても楽しみにしていたのだからな」
「~~~~っ」
朝から散々恥ずかしい事をさせておいて、まだ楽しむつもりなのか…と思いはしたが、実際自分もそれを受け入れていた事もあって文句も言えない。
凄く…気持ち好かったのも事実ではあるし………
それに、相手が心から喜んでいる笑顔を間近で見せられてしまっては……
(……断れる訳がない…な……)
結局、自分の負けか…と内心で認めながら、面影は三日月と共に出掛ける支度を整えると、二人で万屋に出掛けて行ったのだが、その表情はまんざらでもない様子だった。
三日月が囁いた一言についてはもうこの時には既に面影の記憶からほぼ抜け落ちていたのだが、その真意を彼が知ることになるのは、この日から暫く後になっての事である………