入院四日目






「い、や、だっ!!」
「面影………」
 四日目の夕刻…
 珍しく面影は三日月に対して徹底的抗戦の構えを見せていた。
 入院四日目…
 その日も面影は三日月の助けも借りつつ、午前中や昼間は病院内をゆっくりと歩き回るなどしてリハビリを堅実に行っていた。
 昨日の失神から、結局彼は一度も覚醒することなく今日の朝を迎えたらしい。
 あれからしっかりと三日月によって入院着を着せられ、布団を掛けられていたので、風邪を引いたりなどの不都合は何も起こらなかった。
 しかし、やはり昨夜の強烈な快感はそうそう記憶からは消えなかったらしく、病室を訪れた三日月と顔を合わせた際には、赤面を隠す事は出来なかったのだった。
『き……昨日の……アレって……』
 アレ、と言われた事象について、三日月は直ぐに昨夜の『潮吹き』だと思い当たった。
 女性でも男性でも潮吹きは存在するが、通常の…只の自慰程度ではそこに至る事は滅多にない。
 これまでの面影は恋人も持ったことがないし、性的な事についても非常に淡白な性格だったので、昨夜の反応を思い返してみてもこれまで潮吹きを経験した可能性はほぼゼロだろう。
 両腕が不自由であるため、スマホなどを使っての検索も難しい彼にとっては、知りたくてもなかなかそれが叶わず、已む無く当事者でもある三日月に直接聞くという結論に至った様だ。
『ああ、アレ、な………別にお前の身体が異常な訳ではない。あれも強い快感に身体が応じる『生理現象』だ……さぞや好かった、のだろう?』
『~~~~っ』
 色々と思うところはあったのだろうが、取り敢えず、性的刺激が強い時に生じる身体反応だという事を理解出来てからは、面影も少しは落ち着いた様だった。
 まぁ、昨夜の自身の激しい反応を三日月に見られてしまったという事実は、目隠しをされていたとしても明らかであり暫くは照れた様子だったが、それも三日月にとっては『ご褒美』以外の何物でもなかった。
 さて、そんな面影の様子が変わったのがその日の夕刻。
 見られるのが恥ずかしいという面影の訴えに従った(?)形で彼に目隠しをした昨夜だったが、今日、夕食後に例のタオル達が運ばれてきた時、昨日の訴えに倣って、今回も目隠しをしようと三日月が相手に近づいた時、面影はそれを断固拒否する姿勢を示したのだった。
「いやしかし…恥ずかしい、のだろう?」
「う……そ、れは……そうだけど」
「なら…」
「でっ、でもそれは駄目っ!!」
 びしっとシーネに固定された腕を使い、不自由なりに両手を前に突き出して掌を三日月の方へ向けて絶対に受け入れないという意志を示す面影は、その表情からもかなりの本気度が窺えた。
「ふむ…何故?…」
「う……」
 当然とも言える質問に、少しだけどもる様子を見せた若者だったが、理由を言わないままというのも理不尽だと思ったのか、声音を落として答えた。
「…ま、また……昨日みたいに……なったら……やだ、から…」
「……」
 つまり、昨日三日月に見られた様な恥ずかしい姿をまた晒してしまうかもしれない、と思っている訳だ。
 目を塞がれ、その分、感覚が敏感になってしまったから、昨夜の様な反応になったと考えているのだろう。
 それは確かに外れてはいないが……
「…気持ち良くなるのは好きだろう?」
「いっ、言い方!!」
 即座に言い返した面影の顔が真っ赤になって、彼はむきになって言い返す…が……
(『嫌いだ』と言い返さないところが素直と言うか………)
 三日月はそんな相手の様子を静かに見つめていたが、続けてその視線を手にしているネクタイへと向ける。
「……ならば」
「?」
 しゅる………
「え……三日月?」
「うむ、これならどうだ?」
 面影の目前で、三日月が自身の目をネクタイで覆ってみせる。
 昨日とは異なるデザインのものだが、相変わらず上質な生地のものだというのは一目瞭然だ。
 こんな高級品を、本来の用途とは別の事で使うのはどうなんだろう…と思いつつ、面影は相手の提案について考えた。
 昨日とは真逆の、向こうがこちらを見る事が出来ないパターンか…
 確かにこれなら、視界が不自由になる事で相手の手技も少しは拙いものになるだろうし、昨日の様な醜態を晒す様な事もない…と思いたい。
(……そもそも、断れば良いって話でもあるんだけど…)
 短い付き合いだが、三日月の為人については分かってきている事もある。
 少しだけ自惚れが許されるのなら、自分は三日月にかなり気に入られている……紛いなりにも恋人になっているのだから当然と言えば当然なのだが、それでも、彼の自分に対する執着はかなりのものだと感じているのだ。
 そんな自分が願えば、余程の無理でなければ彼は聞き入れてくれるだろう。
 性欲処理を拒めば、それは彼にとっては望まない事だろうが、それでも強く頼めば受諾してくれるだろう…が……
(それは、それで………)
 三日月には口に出して言えない本音を抱え、面影は視線を下へと向ける。
(こ、困る…と言うか……物足りない、と言うか……)
 昨日と一昨日…ほんの二日間だが三日月から触れられた経験は、思ったより遥かに大きな影響を自分に与えている事を自覚していた。
 先程、三日月が発言した言葉が核心を突いたものだったので、正直、どきりとしたのだ。
『…気持ち良くなるのは好きだろう?』
 そうなのだ。
 たった二日間…触れられただけなのに、もうあの快楽が忘れられなくなってしまった。
 正直、自分の身体がここまで快楽に弱いとは知らなかった。
 初日に拒んでしまえていたら、知らないままでいられたのかもしれない。
 しかしもう、何も知らずにいられた過去には戻れないのだ。
(恥ずかしいのは、正直な感想だけど………気持ち良く、も、してもらいたい……)
 本音と言い訳の匙加減が今一つ分からなくなってしまっているが……相手が目隠しをしているのなら、或る程度の誘導は自分の口で出来るし、手技もそこまで過激なものにはならないだろう、と最終的に面影は判断した。
 昨日の強烈な体験を再度経験したいという欲求も無いと言えば嘘になる…が、あれを再び味わってしまう事で自分が更に変わってしまう気もして、今は一線を引く事にしたのだ。
「…わ、かった……それで、いい…」
「うむ」
 す…っ
「う………?」
 さわさわさわ………
 目隠しをした三日月がゆっくりと両手を面影の方へと差し出すと、緩慢な動きで相手の両頬を優しく挟んで軽く撫で回してくる。
「な、何を……?」
「うむ、これではお前の可愛い顔が見えないからなぁ……迂闊に動いてお前を傷つける訳にもいかんだろう? あまり動くなよ?」
「………」
 相手の動きを多少なりとも封じたつもりだった…それに成功したと思っていたのだが、もしかしたら下手を打ってしまったのだろうか?
 さぁ…と顔から血の気が引いたが、無論、三日月にはその様子は見えておらず、それを良い事に、彼は引き続き両手を動かして優しい手つきで顔面の様々な場所に触れてきた。
「ふむ……ここが鼻…で、ここが…唇…だな?」
「あう…」
 触れるか触れないかという程度に軽い接触なのに、それだけなのに、じわりと胸に温かい何かが湧き上がってくる。
(どうしたんだろう……私は……)
 あまりに軽い接触に、もう物足りなくなってきているなんて……正直、自己嫌悪に陥りそうになる。
(今は…もっと強く触ってくれても……いいのに)
 ちゅ……っ
「!」
 密かな希望を心で呟いている間に、あっさりと唇を奪われる。
 しっかりと指先で顔のパーツの位置を確認していたお陰か、初めからぴったりと正しい位置で面影のキスを奪った三日月は、それからも相手の唇の感触を味わう様にゆっくりじっくりと互いのそれを重ね合わせてきた。
(あ……近い………当たり前、だけど……)
 向こうが目を塞がれているので、面影はこっそりと薄目を開けて彼の様子を盗み見る。
(うわ…! やっぱり美形…!! 目のとこは見えないのに整ってるの分かるし、肌は滑らかだし……)
 それは世間一般の人々の目線からしたら自分自身にも言える事の筈だが、面影には全く自覚が無いらしい。
(…目隠しさせたの……ちょっと、勿体なかった、かも…)
 どきどきと激しく騒ぎ出した胸のざわめきを必死に無視しながら、面影は滅多に見られない相手の顔のアップを堪能しようとしたが……
 ぬるん……
「んふ……っ」
 啄むような優しいキスのターンは終了したとばかりに、三日月の舌が口腔内に潜り込んできて、反射的に面影は瞳を閉じた。
「あ、うん……ぁ…っ」
 ちゅく、ちゅく……と二人の重なった唇の隙間から水音が漏れ出て耳を犯してくる……
 その時にも目を開くことは出来たのだが、面影はそうしなかった。
 少しだけ惜しい気もしたが、それよりキスの感触をより深く感じていたかった。
「………嗚呼、惜しいな」
 一度唇を離して、三日月が心底そう思っているという口調で呟いてくる。
「今の愛らしいお前の顔を見られないのは……惜しい…」
 その男の言葉の通り、甘い口付けを受けた面影の表情はうっとりと夢を見ているかの様に蕩けていた。
 上気した肌に潤んだ瞳………微かに漏れる吐息だけが、三日月に相手の今を教えてくれる。
「あ、あの……みかづき……」
「ん…?」
「これって………その…『処理』じゃないんじゃ……?」
 確かに、只、吐精を促すだけなら、直接分身に触れて刺激を与えたら良いだけの話。
 今更気付いた疑問に触れ、面影は目が見えない相手の様子を窺ったが、向こうは全く動じる様子もなく変わらず唇は微かに弧を描いたままだ。
「…これは気持ち良くないか?」
「い、いや…っ!……あ、その…」
 思わず否定したところに自らの本心が透けて見えてしまい、口籠る。
 その無音を埋める様に三日月が言葉を継いだ。
「見えないままに無暗に身体を探ればどこで傷つけてしまうか分からぬだろう?……此処から手探りで、お前を気持ち良くしながらしっかり責任もって処理してやるぞ…?」
「そ、それはちょっ……!」
 かぷり……
「……っ!?」
 全てを言い終える前に、それを阻む様に三日月の口が面影の白く細い喉に食い付く。
「そうか……ここが、お前の喉笛…」
 無論本気で噛み付いた訳ではなく、歯は立てているものの、力は殆ど込められていない甘噛み状態だ。
 その上で、ぬる…ぬるっと舌先で喉を上下に舐め上げてくる相手の悪戯に、面影はひくんと背中を反らせて息を止める。
「あ……っ……やぁ…」
「ん………甘い、な」
「そんなはず……んあ…っ…」
 抗いたくても、舌が徐々に下へと下りつつ、甘噛みも何度も繰り返され、その度に自らの行動が阻まれてしまう。
 そしてその刺激を受ける度に、身体の中に甘い疼きが重なっていく様な錯覚に囚われてしまい、面影は腕が動かせないまま体幹を捩った。
「ああ、そう動くな……今の俺は何も見えぬのだぞ? そら、少し我慢して…」
 喉から身体をなぞる様に三日月の両手が動き、肩から下へと降りて行くと、その掌達は両方の胸板へと移動していった。
(あ……くすぐったい……)
 身体に下手に傷を付けない様に、という大義名分の元、三日月の手は変わらずゆっくりと緩慢な動きで、確かめる様に面影の肌の上をなぞり、滑っていく。
 左右対称の動きで、細くしなやかな指先が面影の胸元を這い回ると、それだけで身体全体が痺れる様な感覚に包まれてしまい、知らず熱い吐息が漏れてしまった。
「は……っ」
「ああ、ここが胸か……成程……」
 流石にそれ位は見えなくても大体の位置は察せるのでは…?と疑ってしまったが、その懐疑の念は次の三日月の行動によって一気に吹き飛んでしまった。
 さわり……
「ひぁん…っ」
 胸に二つ、控えめに実っていた淡い色の蕾の上を指先が軽く掠っていき、同時に面影が喘ぐ。
「ん……あ……っ」
 昨日とは異なり、今はしっかりと自らの双眸で三日月の指先を追えてしまえる面影は、じっと彼の両手を見つめて視線を一切逸らさない、いや、逸らせないのだ。
(あ…あ………三日月の指…が…)
 自分の胸の上を縦横無尽に這い回っていたかと思うと、指先に固い蕾が触れた途端、意志を持つようにそこへと移動していく様を見て、面影は胸の高鳴りと、或る予感を感じた。
 そして、その予感がやはり外れなかったと思い知るのはそれからすぐ後の事だった。
「ああ………これは、良い目印だな」
 くりくりくり……っ
「んあ…あ……っ や、やだ……そこばかり……さわっちゃ……」
 明らかに胸全体に触れるのではなく、蕾を弄る方へと切り替えた三日月の指達が、その頂から周囲の乳輪にかけてを撫で上げ、擦り始めると、ぴくっぴくっと面影の身体が小さく痙攣を繰り返す。
 そして悪戯を受けている蕾も、受ける前は密やかに胸の上に鎮座していた姿だったのが、刺激を受けた今は明らかにより赤みと大きさを増し、ぷくりと半円状に固く勃ち上がっていた。
「んん………大きくなってきたな………好いか?」
「う………ひぅ…っ…」
 相手が目隠しをしているので、しっかりと言葉で答えなければ伝わらない、が、今の面影は胸から伝わる快感の波をやり過ごすのに手一杯という状態で、とても声を出して返答するゆとりは無い。
 それでも必死に快楽に耐え、取り繕う事もせずにがくがくと首だけを上下に振って応えようとする姿は実にいじらしかったが、残念ながらそれは三日月の目に触れる事はなかった。
 それでもその気配…心情は伝わったのだろう、艶やかな黒髪を持つ男の口元には薄く笑みが浮かんでいた。
「うん……好いのだな……そうだ、それでなければ…」
 お前が心地好くなければ、何も意味がない………
「だが、俺もここを弄るのは好きだ……触る度にこんなにいやらしく固く膨らんで、強請ってくる…ふふ、可愛いぞ」
「そ…っ…そんな、こと…っ」
 きゅうぅぅっ…
「ん…っ!」
「ほら……悦んでいるだろう?」
 三日月の悪戯好きな指達が、二つの蕾を同様に摘み上げ、山の形を為す様に上へと引っ張っていた。
 張った感覚と痛みの感覚の狭間に放り込まれながら、自らの両胸の乳首が引っ張られている様を見てぞくっと何とも言えない刺激を感じ、面影は思わず身体を固くしたが、その直後に更に吃驚する事態が生じた。
「…まるで熟れた果実の様な手触りだな…」
「え…?」
 ちゅうぅ…っ
「あ、ああっ!」
 目の前で、目隠しをしたままの男が己の右の蕾を口に含み出したのだ。
「やめっ……そんな、こと…っ」
 勿論、これまで恋人を持った事が無かった面影にとっては初めての経験。
 初めて施された悪戯は視覚的にも刺激が強かったが、生々しい光景に目を惹かれて視線を外せない。
 自らのすっかり興奮して勃ち上がってしまった乳首が、ねっとりと三日月の舌で嬲られ、口の中に含まれると同時にきつく吸い上げられる度に、甘い雷が全身を走り抜ける。
 その衝撃の余韻が真っ直ぐに身体の中心に幾筋も向かっていくイメージが脳裏に勝手に湧き上がると共に、面影は己の意志でも逆らえない身体の変化を自覚し始めた。
(あっ……うそ…っ……まだ、一度も…触られてないのに…っ)
 嬲られている胸の果実から視線を外し、面影は恐る恐るそれを自らの下半身の方へと移した。
 まだ今日は服などを脱がされている状態ではなかったが、着衣のままでもそこがどういう状態になっているのかは一目瞭然だった。
 下着と入院着をしっかりと押し上げ、立派なテントを張っている様は、まるで自分のものではない様にも思えたが、そこから伝わるずくずくとした疼きは誤魔化せない。
 昨日と同じ事になってしまった………いや、昨日より状況は悪化しているかもしれない。
 昨日は中断されたとは言え、一度は局部に触れられていた。
 しかし今日は、まだ一度も触れられていないのに、胸への愛撫だけでここまで興奮させられてしまったなんて………
(そんな………私の、身体……どうし、て…っ)
 肉体が完全に意志でコントロール出来るとは思っていない、本能、生理的に動いてしまう事はあるだろう。
 しかしまさか、肉楔に少しも触れられないまま、完全に勃ち上がる程になるとは……
 言い換えたら、胸への愛撫がそれだけ面影の身体が歓喜する程に甘美なものだったという事だ。
「う、うぅう……っ…」
 面影が必死に小さい声で呻いている間にも、三日月の胸への悪戯は止まらない。
「そんな声を出して…感じているのだな…? 俺も嬉しいぞ…」
「んうっ…!」
 右の胸から唇を離すとそのまま左へと移し、同じ様に小粒の膨らみを咥え、舌を擦り付ける。
 そして、膨らみの根元を並びの良い歯列でかりっと甘く噛むと、小さく面影の身体が跳ねるのが分かった。
(き、きもちい………っ……だめっ、もう完全に、勃っちゃっ……! ああ、もう…あんなに…)
 下半身のテントの頂の部分の布地がじんわりと色を変えていくのを目の当たりにして、面影はこくんと喉を鳴らす。
 勃ってしまった肉棒の先端から、快楽に耐えられず涙を零してしまっているのが明らかだった。
 不幸中の幸いと言えるのは、三日月の目隠しで彼にはその様子が分からない状態だというところだろうか……しかし……
「うっ………あ、ん……っ」
 身体の中央で渦巻く疼きのうねりを抑えきれず、面影の両下肢がベッドの上で右へ左へと蠢き、腰が喘ぐように上下に動く度に、ぎしぎしとベッドが悲鳴を上げた。
 その音に反応する様に、ふっと三日月が面影の胸から顔を離してすぅと体幹から足の方へと顔を向ける。
「こら、腕に障るだろう、あまり激しく動いてはならんぞ?」
「む……む、り……無理ぃっ!」
 無理に全身を不自然に動かせば、その余波を両腕が受けてしまう。
 理解しているが、どうしても肉体の悲鳴を受けてしまう若者は三日月にそれは不可能だと訴えた。
「だめっ………我慢…できな…っ」
「………ふむ?」
 三日月の手が胸から離れると、そのままするりと下の腹部へと滑り下り、それを追う様に男の唇が腹部の中心の窪んだ線をなぞる様に触れていく。
 時折覗く舌が、滑らかな肌に濡れた跡を残しながら下降していく先で、三日月の手が入院着の隙間に潜り込み、更に下着の奥にも侵入を果たした。
「あぁ……」
「……ふふ……触れてもいないのに、もうこんなに、か…?」
 ぬるん…と濡れた肉竿を握り込んだ三日月の掌が淫液の力を借りて表面を優しく撫でていく。
「んくぅ…っ あっ、それ……いい…」
「…素直な身体だ……」
 掌で肉楔を撫で上げ続けながら、三日月は身体を面影へと寄せてひそりと囁く。
「この身体なら、いずれは乳首だけでイケるやもしれんな?」
「そ、んなの……できな…っ」
 イケるのなら今すぐにでも楽になりたいが、どうしても身体はその最後の一歩を踏み出す事が出来ないらしい。
 精を放てば快感と共にこの苦痛から解放される……なのに…!
 射精に至れない哀れな雄が、幾度も頭を振って先端から雫を垂らす様を手でしっかりと感じ取り、相手がどういう状態なのかを悟った三日月が小さく頷く。
「……ふふ、まぁ、今は無理強いは止めておこうか…辛そうだ」
 『今は』という言葉には不安しかなかったが、それより兎に角この状況から脱したいと願っていた若者は、その不安から目を背けて男に願った。
「三日月……はやく、『処理』、して…っ」
「!……やれやれ、恋人相手に無粋なおねだりだ」
 しかし、昨日の頑なな態度からは多少は歩み寄りの姿勢も見られるので、向こうもおそらく甘え方がよく分からないのだろう。
 根は素直で優しい性格だが、これまで誰にも縋らず一人で生きてきた若者だ。
 誰にも頼れない人生を送る内に、どうしても無意識の内に構えてしまう癖が出来てしまっただろう事は想像に難くない。
 自分の家政夫として側に置き、少しずつ心の距離を詰めていき、ようやく恋人という立場に立てた。
 これからは今迄の様に他人行儀な態度は徐々に改めてもらわねば………
(だが困った事に、こういう態度のこいつをぐずぐずに蕩けさせるのも、大好きだったのだよなぁ…)
 前世でも繰り返し身体を重ね、その悦びを一から教えていった。
 無論、今世でも同じ事をする気は満々なのだが………
(まぁ、この場所を考えれば俺達こそ無粋、か……)
 病や傷を癒すべき場所で、この様な不埒な事をするのは誉められたものではないのだろう。
 そういう事もあるので、無論此処で最後まで事に至るつもりはない。
 しかし、性欲処理を手伝う、という行動に全く情を入れないというのも違う気がするのだ。
 折角その身に触れられるのなら、出来うる限り可愛がり、自分がどれ程彼を想っているのかを知らしめてやりたいと思うのは当然だろう。
「今日の『処理』は、気に入ったか?」
「う、あ……?」
 面影の楔を優しく握った右手はそのままに。
 さわさわさわ……と残った左手が、再び面影の引き締まった腹筋の上をなぞりながら胸へと向かっていった。
「え………あ、あっ…!」
 下へと向けていた時と同様に、優しく触れてくる指はもどかしい程に控え目な動きで、それが却って面影を追い詰め狂わせる。
(もっと…もっと強く……激しく…っ)
 願いつつ、そのもどかしい快感を与えてくれている男の方を見遣ると、相変わらず目隠しをされたままの彼の姿が見えた。
 ふと、思う。
 今の彼のやたら控え目な愛撫の理由は、あの目隠しの所為なのだ。
 当初彼がその案を申し出た時は、自らの痴態を見られずに済む事と、相手の行為があまり過剰にならない様にという牽制の意味も込めて許可を出した。
 それは確かにその通りになった、思惑通りにこの姿を見られずに済んでいし、あの手が思いのままにこちらを蹂躙する事からは防げている。
 しかし………自分の考えは甘かった。
 その計画の中で、他でもない自分自身の身体の変化については一切の考慮をしていなかったのだ。
 だから今更になって、『控え目な』三日月の悪戯に物足りなさを覚え、悶々としてしまっている。
 昨日の激しい快楽に怯えてしまった所為で、逆に自身を追い込む事になってしまうなんて、考えてもいなかった……!
(……あれを…外してくれたら……)
 今は忌々しさすら覚える彼の目隠しを外し、その視界を自由にしてしまえば、このもどかしさから解放されるのだろうか……
 言い出したのは三日月本人とは言え、一度は自分も賛同した事を今更覆すのもどうかと思ったが、その躊躇いは今の身体の甘い苦痛に勝る重さは最早持っていなかった。
「み…みかづき…っ」
「ん…? どうした?」
 こちらの疼きに気付いているのかいないのか、返事を返す彼の様子は全く変わらず憎らしい程に穏やかだった。
「もう……いい…っ」
「…………」
 ぴたりと一瞬男の動きが止まり、その頭だけが動いて面影へと顔を向ける。
「面影…?」
 いけない、この言い方だと行為そのものを拒絶してしまっている様に受け取られかねない。
 しかしその懸念が却って面影の躊躇いを払拭する機会になり、彼は自分でも驚く程に続きを述べる事が出来た。
「もう……それ、外しても、いいから…っ」
「……ほう?」
 面影の申し出が彼の思惑通りだったのかは定かではないが、相手はさして驚く風でもなく、言葉を受けて自らの目を封じていたネクタイに手をやった。
「……俺に見られても良いのか?」
 それを防ぐ為に申し出た案を面影本人が反故にしようとしている事を知らしめるような質問に、はっと面影は顔を上げて三日月の顔を見た。
 無粋な布切れはまだ彼の双眸を覆ったままだったが、その様子を見た時、面影はほんの少し前の自分とは真逆の感情を覚えた自分自身に驚いた。
(あ、れ?…)
 当初は見られずに済む事に安堵していたのに、今、彼と自分の視線の交わりを遮断しているあの布が、堪らなく邪魔なものに感じてしまう。
 あれさえ無ければ、あの美しい男の澄んだ瞳は自分を捉えてくれる、此処に居るのだと認めてくれる。
 しかしそれは同時に今の乱れた自分を見られてしまう事にもなるのだが、そこに思い至った時に面影の胸に過ったのは、羞恥よりも奇妙な悦びの感情だった。
 こんなのは変だ……おかしいのに……
「いい……みかづきになら…見て、ほしい…っ」
「!?」
 ああ、やっぱり自分も大概おかしくなってしまっている……変な事を口走った所為で、彼まで身じろぐ程に驚いてしまっている……
 でも、こちらももう良い加減限界なんだろうか、頭がぼんやりしてしまって……取り繕うという意識すら失われてしまって……あれ?
 なら、今の言葉は……自分の本音…?
「え…?」
 面影が己の行為すら理解出来ず困惑している隙に、三日月はあっさりと目隠しを外すとそれを無造作にベッドの脇へと放り投げた。
「ああ、俺も…」
 何処か嬉しさを滲ませた声音で囁きながら、はっきりとした視界の中で身を晒している若者に改め手を伸ばす。
「……可愛く、素直なお前を見たかったぞ…」
「あ、あぁん…」
「そうだ……その甘い啼き声ももっと聞きたかった…ああ、だがあまりに大きいとそれも困るのだったか…」
 くすりと笑い、煽る様に囁く。
「それは、俺だけのもの……俺だけに聞く権利があるのだから」
 台詞の中に『お前は俺だけのもの』と明らかな所有権と執着心を示され、びくりと小さく震えた獲物に相手は一気に攻勢を掛けてきた。
 ぴちゃ……ぴちゃっ……
 ちゅくっ ちゅくっ じゅくっ ぐちゃっ!
「は、あ、ああぁぁ〜〜〜…っ」
「ああ、分かるぞ…お前も飢えていたのだろう?」
 上げたのは苦悶の悲鳴ではない、快感が飽和し耐えられなくなった身体の歓喜の声だ。
 全てを見通しているのだとばかりに、三日月は構わず胸と楔に悪戯を続ける。
 舌で唾液を塗り付ける様に擦る程、既に大きく実っていた胸の蕾は悦びを示す様に小さく震え、それを間近で見つめて三日月が笑う。
「こんなに美しく色づいていたのだな…」
 確かに、これまでずっと忠実に視界を塞いでいた彼にとっては初めて見る光景。
 舌で触れただけでは知りえなかった蕾の鮮やかな彩に誘われるように、三日月は唇をそこへと寄せると固い突起を柔らかな唇が啄む様に挟み込み、ちゅっときつく吸い上げた。
 一度ではなく、幾度も吸い上げては時折舌先で先端をくすぐってくる。
 そしてその動きに併せ楔を扱いていた手の動きも強く激しくなっていき、一気に加速度を増した様な男の愛撫に面影はあっという間に限界に追い詰められた。
「あっ…あっ……!」
 追い詰められる焦燥より、しかし今の面影の心に去来するのは悦びだった。
 ずっとずっと、見えない男のもどかしい愛撫で焦らされた熟れた身体がようやく得られる絶頂……それがもうすぐ訪れる。
 それはきっと、熟れた果実が地面へと落ち、弾ける様に……
「んく……ぅ……っ…あっ、もっ……」
「ああ、いつでも達って良いぞ……ほら、俺が見ている前で達ってみるがいい」
「っ! あ、あ…っ!!」
 三日月に見つめられながら、彼の目前で快感が極まり、あられもない姿を晒そうとしている己を自認した瞬間、面影の雄の果実が激しく弾け、白い果汁を迸らせた。
 身体の中心から射精の開放感と快感が全身に広がり、筋肉が硬直する。
(みかづき…が……見て、る……っ)
 びゅくびゅくと果実を断続的に放つ度に揺れる腰を感じながら、面影の視線が三日月のそれと交わる。
(こんないやらしい姿を見られてしまっている………でも…恥ずかしい、のに……嬉しい……)
 全身を汗と淫らな体液で濡らし、全てを晒している姿は相手にどの様に映っているのだろうか…?
 恥じるのが当然の反応だろうと分かっているのに、今の自分を見られている事実が何故か心を浮き立たせ、恍惚すら覚えてしまう。
「好い顔だ………ふむ?」
 白い果汁が放たれたばかりの果実を優しく握り込みながらその固さを確かめると、三日月はゆっくりと手をそれから離すとそのまま唇を付けているのとは別の乳首へと伸ばす。
「あ……?」
 処理が終わったと思っていた面影は、予想外の流れに思わず声を漏らしたが、三日月はそれを聞いても一切動きを止める事無く改めて胸への愛撫を再開させた。
「や、やだ…っ、またそんな……あんっ…」
 舌と指先で蕾をからかい遊んでいる男は今度こそ一切楔への愛撫を止めてしまったが、それでも胸からの快感は絶え間なくそこへと流れ込んでいく。
 一度は萎えた筈の雄は見る見るうちに回復し、再びそそり勃ち、ぴくんぴくんと頭を振っている。
 自分でも驚く程に回復が早い事に驚きながらも、新たな快楽の波が寄せてきて面影は頤を反らして吐息を漏らした。
(ああ、きもちいい……触られてないのに、また…っ)
 触れられていないのに、まるで降りていた柵が上げられて、塞がれていた濁流が一気に流れ出した様な感覚が下半身に襲って来る。
 不意に、昨夜の事を思い出す。
 昨夜もこうして散々焦らされ、楔への愛撫を止められ、達したくてもそれが叶わず苦しんだ。
 それが再び…?と怯えた相手の心境を察したのか、三日月は一度外した手を再び雄へと戻したかと思うと、更に下部に潜んでいた二つの宝珠へそれを伸ばし、掌に包み込んで優しく揉み込んだ。
 肉の二珠はしっかりとした感触を返してきて、三日月に若者の身体の状態を明らかにする。
「まだこんなに腫らして……胸を弄られたのが余程気に入ったのだな?」
「あっ、やだ…っ…そんな揉んじゃ…っ」
「痛いか?」
「ちが……っ! がまん、できな…っ!」
「今は我慢は不要だ……何度でも俺に可愛い顔を見せてくれ」
 三日月の言葉の直後、彼は変わらず雄に触れながら尚一層、胸の蕾を苛め始めた。
 片方は唇で、もう片方は指先で……
「ほら…何度でも達け…」
「う、あっ! あ〜〜…っ!!」
 三日月の甘く促してくる声は、激しく追い詰めてくる手や舌とはまるで真逆な優しさに彩られている。
 正に悪魔の様な狡猾さだが、その悪魔の企みに気付いていないのか、追い詰められながら面影はその追い詰めてくる悪魔本人に縋るように必死に声を上げた。
「お、おね…がい…っ! み、かづきっ…!」
「うん…?」
「……っ…キ…キス…してっ……こえ……でちゃ……から…っ」
 快楽に追われ、嬌声が止められない。
 しかし、このままでは己の浅ましい声が外に漏れ聞こえてしまうかもしれないから……
「みかづき、が……ふさいで…っ!」
「ああ……」
 三日月の口から漏れたのは受諾の言葉か、それとも感嘆の溜息か……
 湯気が見えそうな程に熱が籠った荒い吐息を溢す若者の唇は紅く、その奥から僅かに差し出されていた濡れた舌は更に扇情的な赤に彩られ、男の口付けを知らず誘っていた。
「……喜んで」
 優しいキスを与えられ、変わらず乳首と楔への愛撫も継続される中で、確実に面影の身体はその快楽に浸食されていった。
「ん、う、ん………んん~~…っ!」
 男性でも乳首を弄られるのがこんなに心地良いものだとは思わなかった面影は、塞がれた唇から声を漏らしつつ、快感に押されてあっさりと楔から欲情の証を再び放った。
 熱く熱された精が三日月の手にも降りかかり、淫らな色と光を放ちながらとろりと垂れ落ちる。
「………まだ、だな…」
「ひぁ……っ……も、やぁ…っ」
 吐精の快感に浸る間もなく三日月が再び楔を扱き出し、面影はその意図を察して身を捩る……が、両腕が動かせない分自由が利かず、ほぼされるがままになってしまった。
 そしてその後も散々雄の証を優しく嬲られ、面影が解放されたのは彼が快楽の許容量を超過し、逃避する様に気を失ってからだった。





 後日……
 面影の性欲を十分に発散し、三日月も途中からは存分に相手の艶姿を堪能出来、或る意味充実したひと時…だった筈なのだが……
 前日からの刺激が強すぎた三日月の行為により、流石に翌日、面影は性欲処理を拒否したのだった。
 反省の意志があったのか、それともそれすらも三日月の思惑通りだったのか、三日月は素直に面影の申し出を受け入れたのだが、さて……?