「閉鎖されている上に、人目につかない場所だったのが良かったのだろうか」
「?」
夕食のおかずをスプーンで口元に運んでもらいながら、そんな台詞を投げ掛けられた面影は微かに首を傾げて相手を見遣った。
「…何の話だ…?」
素直な質問を返した若者だったのだが……
「ふむ……まぁ、それはお前が食べ終わってからだ」
(?………あ、口の中に物があるのに喋るな、ってことか…?)
それは確かに三日月の指摘が正しい……しかし、これまでそこまで細かい事を指摘した事は無かった筈だが、一体どういう事だろう?
やや疑問に感じながらも取り敢えずは三日月に指摘された通り、面影はむぐむぐむぐ…と口の中の食物を咀嚼し、こくんと嚥下した。
それを視認したところで三日月が続けた言葉は………
「昨日のお前の『性欲処理』についての話だが」
と、気遣いも身も蓋も無いど直球の返答だった。
「!!!!!」
何も食べていないのに思わずむせてしまい、面影の頬がこれ以上無い程に紅潮する。
「お、前…! 何をいきなり…っ!!」
彼の手がその変化を隠す様に顔を覆いつつ、口からは不躾な男の発言を非難する声が飛んだ。
まぁその内容を振り返って見れば、全面的に面影が正しいだろう。
しかし、激しく動揺する面影を眺めながら、三日月はそれでも一切狼狽える素振りは見せなかった。
「…だから言ったのだ。口に物が入っていたら悲惨な事になっていただろう?」
「そういう明後日どころか百年先の方向の気遣いをするなーっ!!」
面影の瞳が潤んでいるのは怒りの為かそれとも羞恥の為か……
兎に角、普段は穏やかに、三日月の言う事に素直に従う事が通常運転の面影がここまで感情を爆発させて男を責めるという事は、それだけ無粋な発言に立腹したという事だろう。
「あまり大声を出すと誰かが来てしまうぞ」
「誰の所為なのか言ってやろうか…? そもそも…」
けろっとした顔で返答する三日月に対して、表面上笑顔で返す面影だったがその眉間には隠しきれない青筋が浮いている。
その勢いに任せて言葉を紡いでいた若者だったが、何かを言い掛けたところでその声は程なく小さくなっていき、全てを発言する前に途切れてしまった。
彼の顔も依然赤いままだったが、何かが胸の中に去来しているのか、ゆっくりと右手の甲を口元に押し当て、表情を三日月から隠してしまう。
「~~~~…」
「お前は本当に素直だ…」
言葉を継げなくても、その表情…恥じらう乙女の様なそれを見たら何を言いたいのかは直ぐに分かる…
言えなくなった代わりとでも言う様に、三日月は面影の耳元に顔を寄せ、ひそっと囁いた。
「昨日の夜は愉しかったな……お前の愛らしい姿には俺ですら心が乱された」
「っ!!」
「お前の『性欲処理』だったのに、それを忘れて俺まで昂ってしまった……」
「あ、れは……」
三日月の台詞で連想したのは、昨夜の二人の姿。
身体こそ繋げてはいなかったが、まるで『疑似性交』の様な行為を行い……二人ほぼ同時に果てたのだ。
そう、自分一人ではなく二人で一緒に……
これまで経験していなかったその行為は、脳髄を焼き切る程に強く面影の記憶に刻まれてしまった。
今もそれを思い出すだけで、顔はより一層熱くなり、そわそわと身体も落ち着きなく揺れてしまう。
「お前も…そうだったのだろう?」
「………」
こちらに尋ねて来る三日月の表情は、『全て知っている』と言わんばかりに自信に満ちていた。
悔しいが、それを否定する事は出来ない。
昨日の自分の身体の反応を見られてしまっていたのなら、昨夜の自身の精の解放がかつてなかった程に激しく、大量だったのも知られてしまっている筈。
これまでも幾度も自分の絶頂を目の当たりにしている男なら、直ぐに分かるだろう。
偽るだけ、無駄と言うものなのだ。
「確かにベッドよりも秘密は保たれ易いし、あれだけ狭いとお前の可愛い声もよく響く……盲点だった」
「お前…っ、そういう事ばかり考えているのか?」
せめて毒づいてみたが、相手にとってはそれは言葉の刃どころか針ほどの効果も無かった。
「それはそうだ、もうそういう時間だろう?」
「~~~~!」
夕食が終わったらそのまま流れとしては昨日と同じくシャワー浴を行う予定だったので、三日月の言う通りである。
別に三日月がしなくても…と断る道もあるのかもだが、現在、両腕が使えない面影にとっては彼の助力が無いと、身を清める事そのものが不可能になってしまう。
人間、一日二日シャワーを浴びなくても死にはしない、が、昨日久し振りに身体の汚れを洗い流した清涼感を味わってしまうと、やはり諦めきれない。
元々、面影は三日月以上に綺麗好きである傾向でもあったから尚更だ。
となると、今日も面影と三日月は共にシャワー浴に臨む事になるのだろう。
これまではベッドという他人への漏洩というリスクを含んでいた場所での『処理』を、秘密裏に出来る浴室内へ移行して三日月が仕掛けてくるだろうと考えるのはあまりに自然な流れだった。
(余計な事はするな…と言えたら良いんだろうけど………)
実際に言った事はあった……ほんの数日前の話なのだから鮮明に覚えている。
結局、自分が我慢比べの敗北で終わってしまったのだが……
悔しいが、歴史は繰り返すという言葉もあるし、それに………
(……昨日のは…これまでで一番……気持ち好かった…し……)
改めて考えると、三日月の言う通り環境の変化に依るところは大きかったかもしれない。
シャワー浴という事で介助を担う三日月も脱衣して行為に及んだので、より密着して互いを近くに感じた所為で盛り上がってしまったのは間違いないだろう。
これがベッド上になると、誰かが入室してくる可能性を考えて、今迄の様に没頭出来なかった筈だ。
それにバスタブの中…シャワーカーテンで周囲から隔離された密閉空間だったからこそ、あれだけ心も解放的になれたのかもしれない。
あの閉鎖された空間の中…三日月の荒い息遣いを背後から感じ、艶っぽい誘いを囁かれたら……私はまた……
「なぁ面影や」
悶々と昨日の二人の戯れを思い出していたところで声を掛けられ、目に見えて面影は慌てながら返事を返した。
「っ……な、何だ?」
「うむ、今日のシャワーの話だが…」
面影の動揺はそのまま見逃す形で、三日月は淡々と目的を告げた。
「今日は、昨日の様に後ろからではなくお前の前に立ちたい」
「え……」
条件反射的に、三日月が前になっている状態の二人の姿を想像して、面影は忙しなく視線を左右に揺らしながら口籠った。
「……昨日もあれだけ乱れたのだから、今更だろう…?」
「それは……」
前に立たれるという事は、昨日よりこちらの肉体をしっかりと確認されてしまうという事だ。
同性であっても、流石に想像するだけで羞恥に震えてしまいそうだったが、そんな面影に先回りする様に三日月は「今更」だと言った。
それにも一理ある。
背後からだけ、と、或る程度制限を掛けていたとは言え、昨夜の自身の乱れっぷりを思い出すと、最早隠すだけ無駄なのではないかという気すらする。
あの『処理』が終わった後も、結局脱力して使い物にならなくなった自分を、三日月は丁寧にシャワーで汗や体液を丁寧に洗い流した後、身体をタオルで拭き上げ、服を着せ、ベッドに運んでくれたのである。
何とも情けない話ではあるが、その原因が三日月本人であるという事実を差し引いても、彼によって無事にシャワー浴を終える事が出来た…が、醜態も十分すぎる程に晒した。
そう考えると、確かに「今更」なのだ。
「…………」
俯いて沈黙する面影は改めて昨夜の事を思い出したのか、治まりつつあった赤面が再び出現してきていたが、そこで畳みかける様に三日月が相手に話し掛けてきた。
「前からの方がしっかりと身体を洗う事が出来るし…」
そこで一旦言葉を切り…ゆっくりと…
「昨日より、もっと良くしてやれるぞ…?」
「…っ!」
それは悪魔の誘惑であり、天使の慈悲でもあった。
頷けば、あの快楽以上のそれが与えられるのならば……誰がそれに抗える?
「う…………」
頷けばいい……
そう思っている自分だったが、一方でそれをする事によって自身の猥りがましさを露呈する事にもなるという事実が、首に理性という首輪を付けた様で、首肯を拒んでいる様に動けなかった。
面影のそんな葛藤を敏感に感じ取ったのか、少しの間彼が動かずに逡巡している間に、三日月が相手の肩に手を乗せた。
「…させて、くれるな?」
強制ではない、寧ろ謙譲して頼み込む手管は予想以上に効果抜群だったらしい。
「…っ! う……」
『うん』とも言えず途中で言葉を切らしながら、面影は先刻までの躊躇とは一転、勢い良くこくんっと首を縦に振った。
その勢いは、明らか三日月の肩に置かれた手等からの圧によるものだったのだが、行動を起こしてしまった以上はもう遅い。
「あ………」
頷いてしまった自身の行為に今更気が付いて顔色を赤から青へと変えていく面影に、既に勝者となったとばかりに三日月は満面の笑みで囁いた。
「では、行こうか…?」
(で、結局こうなっている…と……)
ベッドでの攻防(?)の後、面影は半ば諦念の表情で現時点の自身の状況を鑑みていた。
そんな面影に比して明らかに上機嫌の三日月は、手際良く昨日と同じく洗髪を済ませた後、ボディータオルに十分な湯を含ませた後、ボディーソープを複数回プッシュして揉み込み、もこもこと大量の泡をその生地に作り出していた。
今の二人はお互い、腰に巻かれたタオル以外は何も纏わぬ姿で昨日の様にバスタブの中に佇んでおり、面影の両腕にもしっかりと防水用にラップが幾重にも巻かれていた。
昨日と違うところと言えば、今日の三日月の申し出が受諾された形で彼らが向き合っているというところ。
「ほら…」
そんな軽い呼び掛けを皮切りに、三日月は面影の身体を洗い始めた。
「お前は動かなくても良いぞ、そのままでな」
「わ、わかった…」
そして、昨日のやり方を倣う様に、三日月はタオルを面影の首筋に当てて優しく擦り始めた。
(……他人に洗ってもらうって…こんなに気持ち良いものなのか……)
昨日は環境から何からほぼ全ての事が初めてで刺激があり過ぎたため、そこまで意識を向ける事が出来ていなかったのだが、二度目ともなると多少は思考にゆとりが出て来たらしい。
肌を洗われる間に、面影は現実逃避の意味もあるのかぼんやりとそんな事を考える。
確かに、身体じゃなくてヘアサロン等で洗髪してもらう時なども心地良かったな……と過去の記憶を掘り返していたところで、三日月が声を掛けてきた。
「…背中を洗いたいのだが、このままで良いか? それとも…」
「わ、私が後ろを向く!」
全てを言わせず、面影は即座に相手に背中を向ける様に行動する。
もし「このまま」だった場合、三日月は身体をより密着させて手を回してくるという事だろう。
流石に背中ではなく身体の前面同士の密着は気恥ずかし過ぎる!と、面影の判断が即時に下されたのも当然の事だった。
「…そうか」
少しだけ残念そうな三日月の声音だったが、敢えて聞こえてない振りをしながら、面影はいそいそとその場で回れ右をして背を向けた。
「洗っていくぞ?」
「ああ、頼む…」
そんな短い会話の後、背中にタオルが当てられた感触が伝わってくる。
昨日は最初からこういう状況だったんだな……と思い返しながら、面影は素直に大人しく佇んだまま、三日月が動かすタオルの軌跡を肌越しに追っていた。
首筋から左右の背部…そして、腰部へと……
流れる様に縦横無尽に動き回っていたボディータオルが昨日とほぼ同じ流れで汚れを取り去っていく。
昨日の流れから外れ始めたのはこの後からだった。
ほんの少しだけタオルの動きが止まり、肌から離れて行くのを感じたと同時に、面影は背後に立っていた三日月が何かの動作を行っている気配を感じ取った。
(あれ……?)
終わったからまた身体を反転させてくるのかと安易に考えていた面影だったが、再びタオルが腰に当てられたかと思ったら、そのまま右の臀部に移動して全体を円を描く様にして擦り始めた事に少なからず吃驚してしまう。
「え、ちょっ……三日月!?」
足は止める様に言っていたのに…!と振り向いたが、そこに三日月の姿を認める事は出来なかった。
その時には既に、男はその場にしゃがみ込む姿で臀部の清拭に取り掛かっていたのだった。
呼び掛けられた声に滲んだ焦りと、相手の体動によって向こうの心情を察した三日月は、その動揺を宥める為か敢えて淡々と応じてきた。
「昨日も洗っていなかったし、流石に放置するべきではないだろう? それに……俺が前に立った状態でやっても良いのか?」
「……っ」
正論を続けざまに放たれて、面影はぐっと口籠る。
汚れをいつまでも残したままでいるべきではないというのは尤もだし、彼が自分の前面で屈んでしまう状況はそれこそ避けたい……となれば、背面で屈む事で譲歩するべきなのか。
シャワー後に足だけベッド上で清拭してもらうという手もあるが、只でさえ迷惑を掛けているのだからそれ以上我儘を言う事は出来ないし………
そうして悩んでいる間にも向こうは粛々と行為を継続し、支障なく臀部から大腿、そして下腿へと満遍なく手を動かし続けている。
それは右から左へ移行しても変わる事無く、或る意味、昨夜の面影の懸念を考えたら拍子抜けの流れとも言えた。
(……思ったよりあっけない……)
そんな事を考えてすらいた面影だったが、彼は大事な事を幾つか忘れていた。
変事というものは本人が油断している時にこそ忍び寄ってくるものであり、目前に居る男は、自分に対して並ならぬ執着を抱いている存在であるという事、そして少し前に本人が『もっと良くしてやれるぞ…?』と語っていた事実を……
それが実行されるのが……今だった。
「さて……」
小声で言いながら三日月はゆっくりと立ち上がると、ぱさっとタオルを落とし、自由になった手でバスタブ傍に置いてあったボディーソープのボトルから何プッシュ分かを掌に取りながら、別の手で面影の肩を掴むとゆっくりとこちらへと向き直らせた。
声を掛けず、行動だけでこちらの動きを促す相手の様子に何かを感じ取ったのだろう。
無意識の内に、こくんと面影の喉が鳴る。
「…………」
そんな若者の目に見えない緊張を察している筈の三日月だったが、相手に覚悟を促す為か、見せつける様に手指を動かし、ソープがそれらに絡む様を見せつけた。
「あの………や、やっぱり、手でもやるのか…?」
もう答えは分かっている筈なのに、それでも尋ねてしまうのはせめてもの悪足掻きなのだろう。
結果を察してもいるのか、既に若者の頬は朱に染まっていた。
「勿論だ。お前も、期待していたのだろう?」
「それは……」
見透かされながらも返答に窮していた面影に、三日月はくすりと微笑み、相手が見ている前でソープが絡んだ両手の指先できゅっと左右の蕾を摘まみ上げた。
「あ……っ」
「…ほら…もう固い…」
「ん………っふぅ…」
ぬるぬるとした粘度の高いソープを塗り付けられながら優しく捏ね回される若者の蕾は、指摘の通り触れられた時には既にぷくりと膨らみ、固さを増していた。
くにっ…くにゅ………くり、くり……
「んあ…っ……はぁ……」
自らの敏感な蕾が恋人に嬲られている様を見せつけられながら、面影は抑えられない溜息を零す。
然程大きい音を出しているつもりはないのだが、やけに大きく聞こえるのはこの場所が半閉鎖的な空間だからだろうか?
(…やらしい、声……)
自分の声である筈なのに、何処か他人事の様に聞きながら面影は目を閉じた。
三日月に触れられる様になって、身体は快楽に弱くなったと思う。
しかし、それ以上に弱くなってしまったものがある……心だ。
一人で生きていた頃は、生きるのに必死で快楽を求める事など考えた事もなかった。
そんな自分が三日月に出会い、手を差し伸べられ、共に過ごす様になってから、相手に触れられる事が心地好いのだと知ってしまった。
そして今はこの様だ。
昔のストイックだった自分なら、今の様子を見たら声を上げて叱咤していたかもしれない。
しかし今の自分は……拒む姿を見せながらも、心の奥底では相手に触れてくれる事を望んでいる。
「ああ………可愛い声だ」
「…っ!」
ぞくん……っ
甘くも危険を孕んだ様な声を掛けられ、思わず肩が跳ねてしまった若者は、閉じていた瞳を見開く。
「その声……っ…やめろ…」
まだ心に余裕があるのか、やや強めの口調で反抗した面影だったが、三日月は全く怯む様子もなく寧ろ愉しそうに笑みを深めながら、ぎゅ…っとやや強めの力で蕾を捻り上げた。
「ひぅ…っ!」
「俺の声は嫌いか…?」
「そういう…意味、じゃ……」
「………ああ、そうだな」
何が「そう」なのか。
勝手に何かに納得した様子で相手の反論を封じると、男は右手を胸から離すとそのまま下へと下ろしていき…
「はぁ…っ!」
腰に巻かれていたタオルの奥へと手を差し込み、面影の分身を握り込んだ。
「大好きな俺の声を聞いて、こっちも元気になった様だしな…」
「あ……あ…っ」
くにゅくにゅとささやかな力を込めて肉茎を揉み込む度に茎が震えて反応を示す事に、一層三日月の笑みが深くなる。
タオルを被っている状態なので全容は隠されたままだが、完全に勃起している訳ではなく、所謂、半勃ちという状態なのだろう。
声を掛けた際、肩と同時に腰のタオルが揺れた様を見たので、中がこうなっているのは容易に想像出来た。
「此処も…綺麗にしてやらねばな」
ぱさり……
先に落ちていたボディータオルの傍に、面影の腰に巻かれていたタオルが落とされる。
落とした犯人は言うまでもないだろう。
「しっかり汚れを落とさねば……」
にゅくっ…にゅくっ…にゅくっ……!
少しの力を込めた状態のまま、ソープの滑りを借りて面影の楔が上下に扱き上げられると共に、辺りに粘った水音が響く。
「うっ……ふぅっ…! は、はぁ…っ…!」
「細かい処も…じっくりと…」
面影の喘ぎ声を聞き流しつつ自身に言い聞かせる様にそう独り言ち、三日月の細い指先は雁首に絡み付くと、きゅきゅっと辺縁を擦り出した。
「あ~~っ! そ、こ…はっ…!」
特に敏感な場所を責められ、堪え切れず声を上げた面影が身体を激しく揺らす。
しかし三日月は構わず、今度は左手を胸から離し、茎の下部に隠れていた双珠を包み込むと此処も優しく揉み転がした。
(ん、あぁっ! すご…い……昨日とは全然ちが、う……っ!)
こんなに弱い処ばかりを責められるなんて……! 昨日も、すごく好かったけど………
(あ……そうか…昨日は、三日月、後ろからしか……)
背後に立った状態だったから、手が届かなくて今の様な愛撫は困難だったのか……と事実を認識したのとほぼ同時に、何故か三日月の両手の動きがぴたりと止まった。
「…?」
正直、自分が絶頂に至るまで相手が愛撫を続けてくれると考えていた面影は、思わぬ肩透かしを食らった様子でぱち…と瞳を大きく見開いて相手を見詰めた。
向けられる視線に気付いたのだろう、三日月もその視線を真っ向から受け止めると優しく笑ってその理由を明かした。
「一旦、汚れを落とすぞ」
「あ……うん」
正直、それは達した後でも良かったのでは…と思ってしまう程度には与えられていた快感を気に入っていた面影だったが、その時には既に三日月がシャワーヘッドをフックから外して手にしていたので、それ以上言う事は憚られてしまった。
(一旦……という事は…洗った後に続きをしてくれる……ってこと…かな…)
まさかこのまま生殺しの状態だと、こちらが困ってしまうのだが……と思案している間にも、三日月はてきぱきとシャワーから温水を出してその温度を確認した上で、最初は遠慮がちに面影の肩に温水を当ててきた。
「…どうだ?」
『水温は?』という意味だろう。
「ああ……丁度良い」
頷きながら応えると、向こうも安心した様子で本格的に身体に付着していた泡を汚れごと洗い流していった。
心地良い熱気を浴びながら、面影はふぅ……と聞こえない程に小さく息を吐き出す。
泡に塗れた身体が熱に晒されると共に、肉体の内に籠っていた愛欲の熱が代わりに失われていく様な感覚を覚える。
熱が醒める…というのはこういう感覚の事を言うのかもしれないな……とぼんやりと考えている間にも、三日月の鮮やかなシャワー捌きによって見る見る内に面影の全身から全ての泡が洗い流され、艶やかな肌が水滴を光らせながら露わになった。
「……うむ」
目視でも満足の結果を確認したのか、三日月はシャワーの温水を止めると手早くヘッドをフックへと掛け直した。
そしてほんの少しの沈黙が流れる………
「あの………」
こういう場合の間というのはどう埋めたら良いのだろうか……
艶っぽい雰囲気が打ち消された今、そこから元に戻す様な玄人の手など自分は知らないのだが…?
「………ええ、と…」
情けないと思いながらも相手を見上げる事しか出来なかった面影だったが、男の取った行動は至極単純…且つ強引だった。
ぴちゃ……っ
「ん…っ!?」
三日月は徐に腰を少し屈めると、目の前に迫った面影の胸の突起を優しく舐め上げ始めた。
その突然の行動と敏感な部位に与えられた感覚に、面影は自分でも驚く程に大きな声を上げてしまい、慌てて三日月に声を掛けた。
「ちょ…っ……三日月…そこ、もう洗って…」
別に三日月の舌が汚れていると言いたかった訳ではないが、唾液を塗り付けられた事で頭が真っ白になってしまったのだ。
しかしそんな言葉にも三日月は全く気分を害した様子も見せず、ぺろ…と自らの紅い舌を覗かせて答えた。
「…清拭は此処まで……今からは、『処理』の時間だ」
ちゅ…っ
「んふ……っ」
「ソープが付いていたら、味わうには邪魔なのでな…」
途中で湯を使い出した理由はそれだったのか…!と今更気付いたが、糾弾する間もなくそれから始まった乳首への悪戯に、面影は瞬く間に夢中になってしまった。
「あ…あ、はぁ……っ…あっ…あっ…」
ちゅう……ちゅく…っ……ぴちゃ…っ
縦横無尽に走る三日月の指先も好きだった…が、今の三日月の這い回る舌はそれ以上に心地好い。
いや、舌だけではない。
柔らかく突起を捕えて締め付けてくる彼の唇も……唇と共に挟み込んできて、時折微かな痛みを与えながらこりこりと甘噛みしてくる並びの良い歯列も……滑らかな空間に乳輪ごと包み込み、強く弱く吸い上げてくる口腔も……全てが、脳髄を蕩けさせる程の心地好さだった。
「ん、んっ………みか、づき……」
「ふふ……やはり美味だ…お前の声も果実も」
愛しい若者の甘い声を聞きながら、三日月は更に相手を追い詰める様に蕾の頂の窪みに舌先を捻じ込んでいく。
「はああぁ…っ、そこ……だ、め…っ」
「おや、お前は食べられる方が好きなのだろう……?」
指の動きより、舌のそれに対する反応が好い事からそう察した三日月が、くく…とくぐもった笑みを零しながら、するんと右手を下ろす…と、
きゅ……
「ふぁ……っ」
「洗ったばかりなのにもうこんななのだから……なぁ?」
胸への刺激を受け、すっかり興奮してしまった面影の楔を包み込んだ掌が瞬く間に濡れていく……
その正体は、今も面影の分身の先端から溢れ出ている透明の雫だ。
止めようと思っても、それは意志ではどうにもならない……身体が快感に反応して悦び零す涙の様なものだ。
「だって……みかづき、が……きもちい…こと、するから…っ」
応える間にも容赦なく与えられ続ける快感の所為で、途切れがちになってしまう言葉をそれでも必死に紡ぎながら、面影は潤んだ瞳を男に向ける。
「……」
快感で浮かんだ涙が視界を歪ませている所為なのか、目の前の男の表情が微かに揺れた様な気がして、それと同時に、こくんと喉が鳴る音も聞こえてきた。
喉を鳴らしたのは自分では…ない。
「俺は、食べる方が好きでな……」
「!?」
突如、目の前から三日月が消えた。
何事かと刮目した面影だったが、同じ目線で見回しても相手の姿は見えず……
そこから無意識に視線を下に移したところで、若者は信じられない光景を目の当たりにする。
「み、かづき…っ!?」
そこに彼はいた。
変わらず自分の楔を手に持ちながら…屈んで己の顔をその楔の直前に寄せている形で……
「な……ちょっ…!」
これまでも見られた事はあるし、今の様に触れられた事もある、が、あそこまで至近距離で見つめられた事などない!
羞恥に追われる様に声を上げたが、両腕が不自由な面影が出来るのはそこまでだった。
「ずっと…食べたかった…」
ようやく…と、感慨深げな声音でそんな言葉が聞こえた直後、
ちろ…っ
「ひ…っ!」
濡れた感覚が、楔の先端に触れてきた……それだけではなく、面影は見ていた。
相手が伸ばした舌先で、己の肉棒の先端に滲み出ていた雫を舐め取った瞬間を。
(う……そ…っ! 三日月が……私の……を…!)
口でそういう事をする行為については、知識としては知っていた。
無論、三日月以外で他人とそういう行為をした事はないので、知識のみ、である。
だから、どういう『感覚』をもたらすのかを知ったのは今が初めてだった。
ぺちゃ…っ…ちゅっ……ぺろっ……
「ひっ! ひぁっ!! だめっ……汚い…からっ!!」
舌先から与えられる快楽よりも流石に羞恥心が勝り、面影は不自由な両腕をせめて三日月の頭に伸ばして押さえようとするが、元々がシーネで固定されている状態なので、殆ど役に立つ事はなかった。
「汚くなどない…洗ったばかりだろう」
「そういう…意味じゃなくて…っ」
洗浄の有無ではなく、一般的に不浄と看做されている器官に口を触れさせる行為そのものが問題なのだという意味で面影は尚も抗い続けたが、無論、今更その程度の抑制で三日月が行為を止める筈もなかった。
「お前の身体は美しい……それにこんなにも素直だ」
最初は舌先で楔の粘膜をくすぐる様に遠慮がちに触れてきた三日月だが、徐々にその侵食は進行していき、くぷり…と亀頭の部分を口腔内に含み入れる。
「ひぅ…っ!!」
生暖かく濡れた粘膜で敏感な場所を包まれ、思わず面影は前のめりになる。
(あぁ…っ……これ、すごい…っ!)
想像以上に生々しく激しい快感に、はくはくと面影の口が開閉されるが、言葉を発する余裕は無いのか激しい吐息だけが零れるだけだった。
そんな中でも、面影の視線は真下に屈んでいる三日月に注がれ、一向に逸らされる様子はない。
(本当に…三日月が私のを………)
面影の視線を感じているのかいないのか、彼は恍惚とした表情で目を閉じ、亀頭を含んだままにゆっくりと頭を面影の方向へと動かしていく。
それに伴い、面影の楔はより深く相手の口の中へと呑み込まれていった。
「う……あぅぅっ…だ、め……そんな…っ」
既に表面を覆っていた先走りを全て舐め取る様に口中で舌が踊り、面影の分身を翻弄していくにつれ、若者の腰はより前屈みに折られていき、その吐息は激しく忙しなくなっていく。
(きもちいい…っ……好すぎて、もっと大きくなるのばれちゃう……ああ、三日月、あんなに美味しそうな顔で……)
あんな場所を舌で舐めるなんて、嫌ではないのだろうか……と思いながら、面影はひたすらに三日月を凝視する。
そんな彼の疑問に対する答えだと言うかの様に、じゅぷ……じゅぷ……と敢えて音を立てながら三日月は頭を前後させ、面影の肉棒を根元から先端まで口腔内で擦り、溢れ出てくる透明な雫を飲み下し続けた。
(………三日月の…は……)
一体…どんな口触りで、どんな味がするんだろう………?
自らのを咥え込まれ、しゃぶられる快感に喘ぐ中で、ふとそんな事を考える。
今、自分のものを咥えている三日月の姿を自分のそれに置き換えた時、ぞくっと面影の背に戦慄が走り、一気に動悸が速まった。
何故……おかしい。
どうして……三日月のを咥える自分を想像した途端に…唾液が溢れて口寂しさを感じてしまうんだ……!?
これじゃあまるで…自分も彼のを………
「……っ!!」
はっと我に返った時、目が合った。
いつの間にか瞳を開いていた三日月がこちらを見上げている…その口には変わらず自分のを含んだままに…
「う、あ………」
吃る面影が動揺している間に、三日月は見せつける様にゆっくりと含んでいた肉棒を口から離し…勢い良くびくんと跳ねたそれを愛おしそうに見つめた。
「はは、随分元気になった」
確かに、言い訳の仕様もない程に限界まで成長していた分身は、今や痛みを覚える程に膨張していた。
心地良い滑らかな空間から離され、自らの分身から感じた不可思議な空虚感を覚えたものの、一方で面影は内心安堵していた。
限界まで成長してしまった欲棒は、最早そのまま治まる事は難しい………内側で滾る欲情を解き放たない限りは。
三日月がそれを含んだままだったら最悪……そういう事になってしまう、という事だ。
しかし安堵したのも束の間、そんな若者の前で三日月は唇をゆっくりと歪めていき、ちゅ、と先端にキスを落としてみせると、とんでもない台詞を言い放った。
「では、美味しく頂くぞ」
「は!?……ああぁっ!!」
思わず聞き返したが、その時には再び三日月は面影の昂ぶりを一気に喉の最奥まで呑み込んでしまい、これまでとは比較にならない程の速度と激しさで面影の雄を扱き上げ始めていた。
ぐちゅっ…! ぐぷっ! ずちゅっ、ぐちゃ…っ!!
美麗な男の口から出るには余りにも似つかわしくない水音が無遠慮に面影の耳に飛び込むと同時に、より一層強烈な刺激と快感が、淫らな視界と共に彼を襲った。
「や、やだ…っ!! それ、はげし……っ!!」
「ん………ふ…っ……」
これまでの緩慢な抽送とはまるで違う勢いに乗っての事なのか、面影の肉棒の先端がこつんこつんと三日月の喉の最奥に当てられ、それもまた新たな快楽をもたらしてくる。
それは三日月も同じく感じているのか、彼の口からもささやかながら呻きが漏れてきており、その声を聞いている内にどんどん面影の身体の内に劣情の炎が燃え広がり始めた。
声を聞く度に己の楔が相手の口の中を侵している事実を認識し、自家発電の様に自らを昂らせてしまう……
その甘い責め苦は確実に面影を苛み、恐れている事態に確実に彼を追い詰めようとしていた。
「う……あうっ……だめ、だめ…もっ、いき、そ……う……!」
言葉の通り、面影は限界が近く、もうすぐ絶頂を迎えようとしていた。
そうなると、今の状態のままだと自らの体液をよりによって三日月の口の中に放ってしまう事になる。
「み、みかづき……っ! だめ、だ…はなれて…っ、口に……あうぅっ…!」
もし両腕が動かせるのなら、もっと強く三日月の身体を制して止める事が出来たのかもしれない…効果があったかどうかは不明だが。
気を抜いてしまったら直ぐにでもくずおれてしまいそうな中、かろうじて前屈みになりながら、面影は必死に相手に離れる様に促した。
流石に他の男の体液を口にするなど不快に感じる筈だ。
しかもそれが自分のものならば、何としてでも阻止しなければ……!!
「み、か……っ! もう…っ、でちゃ……からっ……!」
名を最後まで呼ぶゆとりすら失ってしまった中、それでも何とか三日月を引き離そうと試みていたのだが、相手はまるでその声が聞こえていないかの様に相変わらずぐちゅぐちゅと唾液が溢れる口中で若者の楔を優しく苛め続けていた。
そんな男の動きが不意にぴたりと止まり、ゆっくりと口の中から面影の分身を引き出す。
最後に先端を自由にした瞬間、ぶるっと楔が激しく跳ね上がり、三日月の唾液なのか面影の先走りなのか分からない透明の雫を辺りに振り撒いた。
その様子からも、面影の限界はもうすぐなのは明らかだったのだが、取り敢えずは三日月が口を離してくれた事で若者は一安心する。
しかし、その安堵は長くは続かず……
「ああ……熟した様だな」
一度は離した肉棒を、三日月は再び手掌に捕らえ………
「っ!?」
「……射精して良いぞ」
「な……っ!!」
ぐちゅ……っ
聞き間違いかと疑った面影の隙を突く様に、三日月が再び喉の最奥まで相手の熱楔を咥え込み、きゅうぅ…っときつく陰圧を掛けた。
流れるような短時間での動作だったが、それが面影の限界を告げる引き金になり、ばちっと若者目の奥に火花が散った。
油断したところの一撃は、余りにも強烈だった。
「い…っ…!! くうぅ~~っ!!」
もう、耐えられない……っ!!
ぎゅうっと瞳を固く閉じ、面影は本能に逆らえずに更に前屈みになりながら、分身が爆ぜる快感に身を震わせた。
肉棒の内側を勢い良く奔り抜ける熱の奔流が外界へと向かい、快楽を伴いながら己を解放していく感覚……
これまでも三日月に慰められていた事はあったが、それより遥かに強い快楽を与えられながら、面影は男を只管に見下ろしていた。
(三日月………なんで……っ)
どうして今も、自分の…を、咥え込んだままでいる……!?
思っている間にも、相変わらず肉楔からは何度も何度も精が放出されており、それらは間違いなく深く咥え込んでいる三日月の口の中に注がれている筈だ。
「あ…っ! あぁ~~~っ……やだ、やだぁっ! 離して、みかづきぃ…っ!!」
美しい恋人の口の中に自らの欲情の証を注いでしまうなんて、何という事をしてしまっているのか…!
しかも、こんな時に限って射精時間がこれまでのとは比にならない程に長いなんて……っ
快感が走る中でもそんな罪悪感を胸に抱き、面影は必死に三日月に願っていたが、それでも彼は応じる素振りはなく面影の肉楔を咥え込んだままだった。
「…………ん」
ぬぷり………
はぁはぁと激しく息をつく面影の前でようやく三日月が面影の昂ぶりを解放する。
「あ……っ」
吐精は治まりつつあったものの、解放された際に口内の粘膜で表面を擦られたのがまた新たな刺激となったのか、茎の中に留まっていたらしい精の残渣が新たに勢い良く外へと吐き出された。
そしてその白の放物線は、狙った様に三日月の髪と顔…肩にまで注がれ、とろりと粘った輝きで彼の姿を彩った。
「あ………あ…」
唖然とする面影の目に映ったのは、白濁液に塗れながらも尚角度を失っていない己の楔と、身を穢されながら一筋の白色の筋を口元から滴らせ、こくんと喉を鳴らす、ぞっとする程に美しい男の姿だった。
ああ、穢してしまった…しかもこんなに美しい人に自分のを飲ませてしまったのだ…と、無性に罪悪感が湧き上がると同時に、胸を衝く様な衝動が心を支配していくのを面影は感じていた。
穢されたのに尚、美しい男………私が穢した、のに………何故こんなにも昂ってしまうのか………?
「ふふふ……こんなにたっぷりと…」
ぴちゃ…っと三日月が人差し指で自らの下唇を押しながら口を開くと、そこに覗いた紅い舌の上に淡雪の様な白濁液が乗せられていた。
何であるか直ぐに理解した面影は一気に顔の朱を鮮やかにし、口を開いた…が、掛ける言葉が見つからないのかぱくぱくと開閉させるのみ。
そんな中、三日月はちら、と相手の肉楔へ視線を遣ると、再びその茎を掌に握ってその感覚を確認する様に微かに力を込めた。
「何だ……全然治まっていないではないか…?」
「ん、あ……っ」
指摘された通り、若者の楔は今しがた精を放ったにも関わらずその固さと角度は保たれており、びくびくと掌の中で暴れていた。
どうやら一度の吐精だけでは治まらない程に、三日月の口淫によって面影が感じていた興奮は大きなものだったらしい。
「それは………っ」
どう言い訳しようかと考えあぐねていた面影の前で、ゆっくりと三日月が面影の分身を捕えたままに立ち上がる。
「……………」
真っ直ぐに見つめてくる三日月の瞳の奥に隠し切れない欲望を感じ取った面影は思わず一歩引こうとする…が、身体の一部を既に拘束されている状態だったので、不可能に終わった。
(あ………)
その場に引き留められ立ち尽くしたままの若者の耳に、何かが落ちた乾いた音が響く。
何だろうとバスタブの床に目を遣ると、そこには落とされたタオルが一枚……いや二枚だ。
一枚は自分の腰に巻かれていたものだが、もう一枚の出所も直ぐに知れる事になる。
床に向けた面影の視界に、目前に立つ三日月の下半身が入り込み……そこで彼は見てしまったのだ。
相手の腰に巻かれていた筈のタオルがいつの間にか外されており、全てが晒されている様を。
(う、うわ………)
声に出すところだった感嘆を何とか胸中でのそれに留めたものの、視線を他へと移す事は出来なかった。
タオルで隠されていた三日月の肉楔もまた明らかに興奮しており、大きく勃ち上がって面影に存在感を示していたのだ。
細身の男ではあるがその男性自身は同性の自分から見ても実に立派だった。
先日、偶然に相手の全裸を見た事はあったが、その時には今の様に勃起している状態ではなかったのでまるで印象は異なるものだった。
(す、すごい………三日月の…お腹につきそう……)
自らの腹を打ちそうな程、見事に岐立している三日月の楔の先端からも面影のそれと同様に雫が溢れている。
相手の生々しい姿を目にした面影は、無意識の内に自らが喉を鳴らしたのにも気づかない様子で、三日月はそんな若者に一気に距離を詰める様に近づいた。
「え、あ……」
身を後ろに引いたところで背中に無機質な固い感触が当たり、はっと振り返ると、バスタブに接している浴室の壁が背後に迫っていた。
此処に来た当初は二人とも中央付近に立っていた筈だが、いつの間にか此処まで後退してしまっていたらしい……そして、もうこれ以上逃げ場はない。
「………っ」
は…と少しだけ怯えた様子で三日月に向き直ったところで、男は逃がすつもりはない、と言うかの如くより身体を密着させながら耳元で囁いてきた。
「流石に俺も我慢が効かん……お前も一緒に…な…?」
「え?………はぁっ!」
何を言っているのか、と疑問を抱いた面影は、直後に下半身に走った初めての感覚に思わず声を上げてしまった。
(な……っ、なに…!?)
これまで経験した、手や舌などではない別の何かが己の分身に触れてきたのを感じ、再びそちらへと視線を落とす。
そこには、勃起した二本の楔が重なる様に触れ合い、共にこちらへと零口を向けており、それら二本を纏め持つ様に三日月が握り込んでいた。
「あ…そんなっ…そんなこと!」
互いの男性を擦り付け合うなんて、何という淫靡な光景だろう……いや、視覚的な話だけではない、それぞれの粘膜を擦り付け合う事でお互いの熱と浮き出た血管の感触までもが直接的に伝わってきて、面影は身体が燃え上がりそうな程の熱を感じた。
「…気持ち好い……」
ひそりと囁かれた三日月の素直な言葉には確かに快感が滲んでおり、その艶めかしさに面影の身体の動きが止まる。
こんな声も出せるんだ……いつもいつも彼は、飄々として、優しくても冷静沈着で、感情の揺らぎなんて滅多に見せない人、だったのに……
そんな男がどんな顔でこんな情欲に塗れた声を出しているのだろう、と純粋に知りたくなって、面影がゆっくりと相手の顔へと視線を向けると、向こうは既にずっとこちらを見つめていたのだろう、直ぐに視線が絡まり合う。
上気した顔、潤んだ瞳……しかし自分とは余りに異なるだろう表情がそこに在った。
目の奥に燃える炎……そこに映る自分を今にも食い尽くそうと狙っている獰猛な獣……そんな危なげな空気を纏いながら、三日月は余った腕で面影を強く抱き寄せ、身体を密着させてくる。
「……もっと」
「あっ………ん、むっ…」
何を『もっと』求めるのか、語る前に三日月は面影の唇を己のそれで塞いできて、更に舌を面影の口中に差し入れてきた。
「ん……んん~~…っ…!」
普段の優しい彼とはまるで似つかない激しくもねちっこいキス………
それだけでも面影を翻弄するには十分な破壊力を秘めていたのだが、それに加え、三日月は二人の雄を握り込んだ手をゆっくりと動かしつつ腰も蠢かせ、二本の楔を擦り合わせ始めた。
(あ、あっ! そんなっ…!! み、三日月のオ〇ン〇と、私のオ〇ン〇が擦れ合って……な、にこれ……すごすぎ……っ)
「……此処も、気持ち好いぞ…」
「んっ、ん…~~~っ!?」
更に、三日月が楔だけに留まらず自らの胸の突起も面影のそれに擦り付けてより快感を煽ると、面影の身体が激しく痙攣し、目には見えなかったが彼の舌も同様に三日月のそれに激しく絡み付いてきた。
見えなくても、三日月の胸の蕾も固くなっており、こりこりと自らの蕾と潰し合う様に転がっている。
握られた肉棒は相手の固く張った粘膜と血管で刺激され、達したばかりという事もあり、もう既に限界が近かった。
(あああ………すごい、すごいっ! こんなの、我慢出来るわけない……っ! すぐに、達っちゃ……!)
塞がれていた唇を自ら引き剥がし、面影が涙を零しながら三日月に訴える。
「う……ふあぁぁっ…あんっ、あ…あ…っ! みか………い、く……もっ、いくぅ…っ!」
「いいぞ……思い切り、達け」
「で、も…いったばかり、で……くぅぅんっ……は、はげしいの、きそうっ…」
命令と共に肉棒を強く扱かれ、胸の突起を潰され、そしてまたも唇を塞がれて………
既に一度絶頂に至っていた若者の身体は、あっけなく快楽に打ち負けた。
「あーーー……っ!!!」
「…っ」
嬌声の最後は引き攣った悲鳴に変わり、面影は二度目の絶頂へと引き摺り込まれた。
身体の奥で快感が渦を巻き、精神をも巻き込んで全てを崩していく……
「……っ!~~~っ!! か、ひっ……!」
三日月の手掌に抑えられたまま、自らの肉楔が激しく震え、新たな蜜液を放出するのを感じつつ、重ねられていた三日月の肉棒も同様にぶるっと武者震いの様に震えるのが分かった。
「ふぁ……っ」
脱力と同時に顔を俯けた面影がうっすらと目を開けた正にその時、二人の雄達の零口から同時に白濁が勢い良く噴き上がり、丁度先にあった面影の顔に降り掛かった。
(あ…っ……わたしの……と……みかづき、の…が………こんなに…っ)
温水とは違う感触……粘って特徴的な香りを放つそれを肌に付着させたまま、面影は恍惚とした表情を浮かべる。
「…一緒に達ったな……面影」
三日月の言葉に、改めて相手が同時に絶頂に至ったのだという事実を噛み締めると、頬が緩むのが分かった。
面影自身でも不思議だと思っていた。
自身のものであれ他人のものであれ、体液を浴びるなど忌避して当然の筈だ……なのに、自分のはともかく、三日月の精を浴びた瞬間……嫌悪どころか歓喜にも似た感情が湧き上がってきたのだ。
(もしかして………あの時の、三日月も…)
自分の分身を口に含み、嬉々として白濁液を飲み干していた彼も……笑っていた……
もし相手と同じ立場だったら……咥えていたのが三日月の…だったら………?
(あ………もう…)
続けざまの絶頂に加えて、三日月から受けた口淫など余りにも情報量が多過ぎたのか、面影はぐらりと身体を傾ぎ、三日月に凭れかかってしまった。
もう、何も考えられない…立つのも覚束ない………とても…疲れた……
「おっと……」
火照っている若者の身体をしっかりと受け止め、三日月は意識が半分飛んでしまっている面影に笑い掛けた。
「……また洗い直さねばなぁ」
明らかにその原因は自分自身にあるのだが、面影が最早糾弾する気力も失っているのを幸いに三日月はそれから再び丁寧に面影の身体を清め、器用に服を着せてベッドに運んでやった。
そして、優しく唇を塞ぐ。
病室を去る時の一時の別れの挨拶を済ませ、三日月が甘い声で囁いた。
「…………明日も…な…?」
「~~~っ」
何だか、徐々に『目的』が置き換わっている気がしてならない。
最初は確かに自分の為の『性欲処理』だったのに、最近…特に昨日や今日の三日月の行動を振り返ると、最早それだけには留まらず、疑似性行為にまで及んでいる様な。
止めるべきだろうか……諫めるべきだろうか………
(でも…………気持ち、好かった…)
三日月の甘い声…ふしだらな手、悪戯な舌…………全てが魅惑的で、抗えなかった……
それに、二人で同時に絶頂を迎えた時のあの充足感……
(もう……だめ、なのかもしれない)
逃げられない…三日月という男から………
明日もまた、彼はきっと自分に触れてくるのだろう。
それを不安に思っているのか、それとも期待しているのか、自分自身の気持ちもごちゃごちゃと纏まらないまま、面影は目を閉じ、眠りの中へと堕ちていった…………