『…………はぁ』
(………え、えーと…)
この日、面影は三日月の来訪を部屋で迎える事が出来なかった。
別に面影側に不手際があったとか、彼の体調に異変が生じたという訳ではなく、そもそもの原因は三日月側にあった。
その原因である三日月本人は、現在、電話を通して先程から何度目になるのか分からなくなった溜息を零している。
普段から自らの弱い部分を見せる事は滅多に無かった男の珍しい姿を通話の向こうに視ながら、入院患者の筈の面影の方が気を遣っておろおろと狼狽えていた。
「あ〜……その……理由は十分に分かった。三日月の仕事が立て込んでいるなら、無理に此処に来なくても大丈夫なんだから気にするな。今日の予定も昨日と殆ど変わらないし、リハビリぐらい一人で行けるし…」
普段なら既に三日月がこの病室を訪れている筈の時間になっても姿が見えない事を不思議に思い、念の為に連絡を取ろうかと悩んでいるところで、彼からの連絡がスマホに掛かってきたのが十分前。
まさか本当に何か事件でも!?と一瞬胸の中に緊張が走ったが、話を聞くと彼には何のトラブルも無かったので取り敢えずは一安心……したのだが、語ってくる向こうの声音がやけに沈んでいたので、今度はそちらが気になった。
そこでより詳しく聞いてみると、仕事上関係がある相手に不測のトラブルが生じたらしく、どうしても三日月の助力が必要になったのだという。
仕事の内容に関してはこちらが今まで詮索をしていなかった事もあって詳細は不明だが、そんな面影でも、彼がその要請に応じなければかなりの大事になってしまうのだろう事は察する事が出来た。
勿論、三日月を無理やり此処に呼びつける様な我儘を言う性格ではないので、面影は全てを相手から聞く前に仕事の方を優先する様に相手に話したのだが、そこに至るまでに彼が聞いた三日月の嘆息は裕に十は超えていた。
『……俺の責では無いのにお前に会えないとは……はぁ…』
はい、溜息十一回目。
「子供みたいな我儘を言わないでくれ…もし時間が空いたらこうして連絡を入れてくれたら良いだろう? 私もなるべく直ぐに反応出来る様にスマホは手元に置いておくから」
手元に置いておく、と言ったスマホの画面に名前が映っている恋人は、仕方がないと理解はしているのだろうが、声音からも口調からも明らかに落胆した様子を隠し切れていない。
『………他の誰にも、お前に触れる事を許してはならんぞ』
自分に対する独占欲を剥き出しにしながら不安気にそう念押しをしてくる男の言葉に、面影が顔を赤くする。
「っ…! また、そういう我儘を…」
もごもごとそう言い返したものの、相手の気持ちが嬉しくない訳でも無かったので彼を安心させるべく大きく頷いてはっきりと答えた。
「分かった。お前が来るまでは清拭も誰にも頼まない。約束するから信じてくれ」
頷きは見えなかっただろうが、声音から心意気は感じてくれた……筈。
面影の断言にようやく安心したのか、三日月は笑みを含んだ声で、『こちらの仕事が片付いて間に合えば、直ぐに病院に向かう』と約束して通話を切った。
「…………はぁ」
時々、三日月のこういうギャップに振り回される事がある。
人目がある場所では常に飄々として、頼り甲斐のある男なのは間違いないのだが、二人きりの空間になると途端に自分に対する甘やかし度が天元突破してしまうのだ。
因みに、衆目の中での行動を控え目にしているのは別に三日月が周りからの反応や評価を気にしているからではなく、面影が目立つ事を好まないからだ。
三日月の面影に対する愛情表現は、雇用主と雇われ人の立場の時でもそういう気配はあったのだが、恋人同士になった途端に今まで我慢していた反動が来てしまったらしい。
当初は面影も相手の寵愛に振り回されていたのだが、三日月に過剰な注目は集めたくないと懇願した成果もあり、最近はようやく慣れてきたといった感じだった。
(……あ、朝食…)
早速、三日月がいない事での日常との相違に気付く。
普段なら、三日月が廊下に出ている配膳車から面影の分の食事をトレーごと持ってきてくれるのだが、今日はその彼がいない。
(…看護士に頼むか?)
ベッドの枕元にあるナースコールを押して看護士に持ってきて貰おうかと思ったものの、少しだけ考えてそれを手放した。
(……あまり他人に頼るのもいけないな……み、三日月にも約束したし…リハビリにもなるし…)
三日月の目がある訳でもないのに、律儀に彼の言うことを聞こうとしている自分の行動をリハビリと言い訳している若者の頬は微かに赤かった。
それを袖で隠しながら、面影はゆっくりとドアへと向かい、自ら食事を受け取りに廊下へと出て行ったのであった。
時間は流れてその昼下がり…
「………暇だ」
ふと、口からそんな一言が漏れる。
何かを深く考えていた訳でもなく、無意識の内に漏れ出した面影の本音だった。
朝食を食べた後はそのままリハビリルームに向かい、積極的にリハビリに取り組んでいた。
何かに打ち込んでいる間は、普段は傍に居てくれる恋人の不在から目を逸らす事が出来る。
その所為もあってか、今日はいつにも増してリハビリに集中出来ていたのだが、ノルマが無事に終了し病室に戻った途端、面影は暇を持て余す事になってしまった。
昼食も既に済ませているが、あの時間も空腹を満たすより、時間を潰す為の作業の様に感じていた気がする。
(………一日って、こんなに長かったか…?)
はぁ、と溜息をついたところで、朝の通話で聞いた三日月の溜息を連想する。
(…そう言えば)
時間が出来たらこちらに連絡すると言っていたのに、あれから一度もスマホは鳴っていない。
常にスマホを手元に抱えている状態なので、自分がコールを聴き逃していたとも考えにくい。
念の為に履歴も見てみたが、やはり今日の受信は朝の三日月からの報告一度だけだ。
(………余程、忙しいんだろうな、三日月…)
あんなに電話すると意気込んでいた彼が一切の連絡を取ってこないと言う事は、本当に忙しくてそれ目的にスマホを手にする暇も持てないのだろう。
こちらから電話を掛ける事も考えたのだが、それは結局相手の邪魔をする事にしかならないのだと思い至り、断念した。
もし自分が怪我などしていなければ、働いている彼を何らかの形で手伝えただろうか……?
実務は無理だとしても、労いにお茶を淹れたり、美味しい食事を振る舞ったり……
(三日月、朝も昼もちゃんと食べているだろうか……何かに集中すると、すぐに食事を抜こうとするんだから、心配だ…)
そんな事を考えていると、腕が不自由な現実が一層重くのしかかってきた。
早く……この状況から脱却して、また三日月を支えていかないと。
「……リハビリでもやろう」
時間を無駄にするのは勿体無い。
既に午前中にリハビリルームでの作業は済んでいるのだが、痛みが悪化しなければリハビリに費やす時間の厳格な上限はない。
一人で作業するのは元々嫌いではなかったので、面影はベッドで上体を起こした姿勢で黙々とリハビリボールを握り締めるトレーニングを開始した。
初回の時と比較すると更に力が入る様になり、維持する時間も長くなってきた気がする……いや、気の所為ではなく、午前中にルームで計測された運動継続時間も確実に長くなっていた。
そう言えば、今日のリハビリ中に療法士から「そろそろ退院して通院でのフォローを考えてもいいかもしれませんね」と言われたのだった。
もしその場に三日月がいたらきっと彼も喜んでくれただろう。
(………三日月の事ばかり思い出してるな、私は…)
朝の彼には「しっかりしろ」と叱咤したい気持ちもあったのだが、これでは自分も彼の事を言えない。
いつの間にか、三日月が面影の心の中に占める場所は本人である若者が知らない内に大きくなっていたらしい。
(でもそうか……病院を出たら、三日月の部屋に戻ることになるのか…いや、でもまだ戦力にはならないだろうし、暫くは自分の部屋で療養継続かな)
怪我をする前は朝から晩までほぼずっと三日月の部屋で家政夫としての仕事に準じていたのだが、現在の状況を見ると退院しても直ぐに戦力にはなれいだろう。
役立たずが部屋にいても目障りになるだけかもしれない。
幸いこれまでも三日月からは十分過ぎる程の給金を支払ってもらっているので、暫く無職…いや、休職状態でも生きていけるだろう……
「……いや…」
いや、待て。
改めて考えてみると、入院期間中にも自分にべったりのあの男が、あっさり休職を理由に自室に篭ることを許してくれるだろうか?
(もしかしたら、私が部屋に篭ったら、今度は三日月がウチの部屋に押しかけて来るんじゃ……)
まさか…と思う一方で、有り得る…と別の自分が心の中で激しく首を縦に振っている。
『面影! 部屋に一人だとつまらんから来たぞ。完全にお前の腕が治るまでは俺が此処に通って世話をしてやろう』
嬉々として部屋に入って来る三日月の姿が恐ろしい程に想像出来てしまう……
もし自分の部屋に押し掛けると言われたら…相手の仕事の都合を考えたら、逆にこちらが彼の部屋にこれまで通り通わせてもらった方が都合が良いのでは……?
(……これは、明日にでも三日月に確認だな)
結果がどうなるとしても、一人で勝手に決める訳にはいかないし確認はした方が良いだろう。
そう思いながら、面影は再びリハビリを再開させた。
そして、熱心に…時々は休息も入れながら面影はほぼ半日をリハビリに費やしていたのだが、結局その間に三日月からの連絡は一度も来なかった。
(……まさか夜になっても連絡一つ来ないなんて………事故に遭ったとか、そういう話じゃない…よな?)
こんなに相手と連絡が取れなかった事なんてなかった…筈だ。
そわそわと落ち着かない様子で窓際を右往左往しながら、面影はすっかり陽が落ちてしまった外へと目を遣った。
病院の正面玄関に面している道路には、今も数多くの車が行き交っており、それらのヘッドライトが無数の光の帯の様に流れていく。
視線を手前に向けると、この時間なので流石に昼間ほどの人の往来は無いが、それでも急ぎ足で建物に向かう人々の姿が見える。
彼らは患者として向かっているのだろうか、それとも短い面会時間でも構わず見舞いに訪れているのだろうか……?
(……居ない…な、やっぱり…)
もしかしたら、自分を驚かせる為に連絡無しで彼が向かっていたりしないだろうか…と望みの薄い希望を抱きながら薄闇の中で動く人影の中から彼を探してみるが、当然、そんな都合の良い現実など存在している訳もなく……
『夕食の準備が出来ました。取りに来る事が可能な方は廊下の配膳者までお越し下さい。移動が難しい方は病室まで看護士がお持ちしますので、そのままお待ち下さい』
特徴的なピンポン音の後で、そんなアナウンスが天井のスピーカーから聞こえてきた。
そうか、もう夕食の時間なのか…
天井を振り仰ぎながら意識を外の景色からそちらへと戻したところで、無意識の内に溜息が漏れた。
(……食事、取りに行かないと)
普段は三日月がしてくれる行動だが、それは面影が出来ないからではなく彼はもうトレーを持ち運ぶ程度の動作は出来る。
それでも三日月がその役を負い続けていたのは若者の押し付けや我儘ではなく、彼を廊下に出して他者の目に触れさせる事を嫌ったが上での行動であった。
面影は三日月が前々から指摘していた通り非常に整った顔立ちの若者で、普段から周囲の人々の視線を集めていたのだが、本人にとっては三日月の方こそが眉目秀麗な存在だったので、相手が自分をどれだけ褒めても実感が湧かなかった。
『お前は私のことをやたらと褒めるが、寧ろ目立っているのはお前の方だと思うぞ』
と一度だけでなく繰り返し言ってもいるのだが、三日月はそれでもこちらを褒める事を止めようとはしなかった。
そんな三日月の賞賛は決して彼の贔屓目ではなく、確かに面影は今も周囲の患者や家族達の視線を集めていたのだが、今日のこの時の面影はいつにも増して周囲の人々の様子に対して無関心だった。
ぼうっとした様子で静かに配膳車に近寄ると、自分の名前のプレートが置かれていたトレーを持ち上げ、そのまま回れ右をして病室へと戻って行く。
無駄な動きが一切ない、まるで自動人形の様な動作だったが、本人はそれにすら気付いていないに違いない。
(本当に、遅いな………三日月)
最早、面影の頭の中にはそんな感想しか無かった。
いつもなら己の傍に居て当たり前だった存在が見えなくなると、こんなに心が落ち着かなくなるのだろうか…
そんな事を思いながら部屋の中に入ると、ベッドサイドテーブルにトレーを置き、自身もベッドの定位置に収まってさっさと夕食を摂り始める。
食事を摂ったら、少しは気分転換も出来るのではないか、と期待していたものの……
(……美味しくない)
一口食べた途端、彼のスプーンを持つ手の動きが明らかに遅くなる。
昨日までは薄味ではあるものの、特に問題なく食べる事が出来ていたのに……
分かっている、別に昨日の病院食から急に味が落ちた訳ではなく、こちらの気持ちの持ちようによるものだ。
(三日月と一緒なら、こんなに味気ない気持ちになる事もなかったのに……)
一人で生きていた時にはこれよりもっと粗末な食事の時も多かったのに、こんな贅沢な感想を抱く事は無かった。
『味に不満はないか? もし食が進まないなら、俺が外から食べたいものを調達して来るが…』
『大丈夫、薄味だけど十分に美味しい。あまり勝手をするとお前まで怒られてしまうぞ、三日月』
過去にそんな会話を交わして互いに笑い合っていた記憶が甦る。
あの時の自分の言葉には嘘はなかった……本当に、美味しいと感じていたからああ言ったのだが、今なら分かる。
何の苦も無く食事を楽しめていたのは、傍に三日月がいてくれて、心を砕いてくれていたからだ。
だから……今、三日月が此処にいてくれない事が、自分の食欲にまで影響を及ぼしているのだと。
(…でも食べなきゃ…)
どれだけ心中で思ったところで、それが三日月を此処に呼ぶ事にはならない。
味を楽しむのは二の次だと割り切り、面影は急いで食事を食べる事に集中した。
食べないと体が弱くなり、傷の治癒まで時間が掛かってしまうだろうが、それは自分にとっても三日月にとっても本意ではないことだ。
(…今日はもう早目に寝てしまうか……寝て、明日になったら……また三日月に会える)
夕食の後にはまだ自由に過ごせる時間はあるのだが、その短い時間に彼が来てくれる可能性は高くない。
明日ももしかしたら彼の多忙な時間は終わっていないのかもしれないが、こんな風にずっと悶々と心晴れない気分のままに過ごす位なら、明日の朝にまたいつもの様に三日月が訪れてくれる事を期待しながら眠った方が心も疲弊しなくて済むだろう。
一度そう決めたら、寧ろ目的を持った事で頭の中がスッキリした気がする。
「……うん、よし」
それからの面影の動きは早かった。
食事を早々に食べ終え、トレーを再び配膳車に戻し、それから部屋に入るとさっさとシャワーを浴びてベッドに潜り込んでしまったのだった。
「……………」
早々にベッドに潜り込んで消灯し、いざ眠ろうと思っていた面影だったが………
(………眠れない)
眠気が訪れてくれないのは、普段ならまだ起きている時間帯だったというのもあるだろう。
しかし、それだけではない。
いつもなら……シャワーを浴びる時、浴びた後に三日月の手を借りて『処理』を行っていたからだ。
勿論、一日二日、行わなくても肉体的にはさして支障は出ない。
面影もそう思って今日は何もしないで眠ろうと思っていたのに、彼の意識は兎も角として、肉体はそういう訳にはいかなかった。
(……寝ようと思ったのに……三日月の事が思い浮かんで……)
ころんころんとベッド上で身体の向きを変えながら何とか寝ようと努力したものの、焦れば焦る程に眠気どころかばっちりと目が冴えてきてしまう。
これは、典型的な悪い流れへのパターンだ。
(今日はいつもよりリハビリもこなしたし、直ぐに眠れると思ったのに……)
そう思ったところで、自身の脳内に響いた『リハビリ』という単語に連想する様に、脳裏にある光景が浮かぶ。
『いい子だ……しっかり握って……こちらのリハビリも頑張らなければ、な』
『あ、あ、やぁ、ん……そんな…』
面影の両手に本人の楔を握らせ、その上から三日月の両手が包む込む様に重ねられ、上下に扱く様に促された……
背後から抱き締められ、甘く熱い囁きを耳孔に注ぎ込まれると、それだけで脳髄が蕩けそうだったのを思い出してしまう。
「〜〜〜〜〜っ」
何もしていない…身体は全く動いていないのに、まるで全力疾走した様に心臓が早鐘を打ち出し、吐き出す吐息が荒くなる。
そしてそれに追い立てられるように身体の内側からじくじくと燻るような疼きが湧き上がってきた。
ちらっとサイドボードに内蔵されていたデジタル時計を見ると、分かっていたがとっくに見舞い客の訪問時間は過ぎてしまっている。
三日月はあれで結構強引な行動を取る事もある男だが、一般的な常識、良識は持ち合わせているので、訪問を許されていない時間帯に押し掛ける事はないだろう…と言うことはつまり、今日、彼に会う事は叶わなくなってしまった。
(今日はもう……触れてもらえないんだな…)
こっそりと心の中で落胆しながら、面影の脳内に再びあの男の声が響く。
『リハビリを頑張って、早く良くならなければ、な』
ぞくっと背中に戦慄が走る。
三日月の艶っぽい声そのものも面影を戦慄させた理由だったが、それより大きな要因になったのはその言葉の『裏の』意味。
一日も早い回復の為にも、リハビリを……
「…っ」
ごくっと喉を鳴らした面影が布団の中で僅かに身体を揺らす。
(…そう、だな……ちゃんと、リハビリしないと…)
それが態の良い言い訳だと言う事は分かっていても、面影は意識的に目を背けた。
そう、これはリハビリ……回復を早める為の行動なんだから…三日月がいなくても、ちゃんと…やらなきゃ……
此処には自分以外誰もいない……三日月も、いない……だから、自分が何をしても恥ずかしがる必要はないし、躊躇う必要もない。
「ん…」
布団の中、暗闇の中でもぞりとベッド上の小山が蠢き、くぐもった声が微かに漏れた。
「んあ……あ…」
面影は先ずは両手を左右の胸元に運び、病院着の上から二つの突起を弄り始めた。
この行為について教えてくれたのも、勿論あの男だ。
初めから身体の中心に手を伸ばすのではなく、段階を踏んで高めていった方が心地良いのだと……
彼の優秀な教え子でもある面影は、そんな相手の言葉を素直に受け取り今も忠実に実践していた。
尤も、忠実だったのは確かにその流れに従った方が快感が深かったという事実があったからでもあるだろう。
(はぁ……気持ちいい……どうしよう、どんどん、乳首が敏感になってる気がする…)
かりかりかり…っと布越しに爪先で突起の先端を引っ掻くだけで、じんじんとした痺れにも似た感覚が乳首を中心とした周りに生じ、それらは全身にも広がっていった。
初めて此処を弄られた時より、明らかに快感の度合いが大きくなっている……それが決して思い違いではない事を、肉体の持ち主である面影本人ははっきりと感じていた。
(…三日月が……いっぱい弄る、から…っ)
脳内に浮かぶ美丈夫に責任を負わせながらも、それでも自らの指の動きは止まらない。
正直、最近は自分も好んで乳首を弄る様になってしまっていたが、それも三日月の誘惑の所為だと言える。
彼が……いやらしい事を自分に教える様になって、どんどんこの身体は変わっていってしまった。
今はもう…こうやって誘惑に負け、リハビリを言い訳にして浅ましい行為に耽る程に……
「ん……あ、ふぅ…っ」
引っ掻く行為だけに留まらず、指の腹で圧し潰したり指先で摘んで引っ張ったりしていると、布地を通してもはっきりと分かる変化が顕れてきた。
(あ……大きく、膨らんでる…)
最初に触れていた時よりぷくりと大きく存在を主張してきた二つの蕾は、変化に比例して感度も上がり、面影の肉体をより昂らせ始めた。
(もう……いい、我慢…無理…)
自らの肉体の状態からそろそろ次の一歩に進んでも良いだろうと判断…いや、実は我慢が効かなくなり、面影は胸を弄っていた手を一旦腰へと移動させ、脇で結ばれていた紐を解いた。
纏っている病院着はボタンによる留めではなく、着物のように重ねて右脇腹のところで紐で結ぶ仕様だったので、それを解いたら容易に身体の前面を開く事が出来る。
そうして身体の前面を開き、面影はゆっくりと……何処か慎重な動きで再び指先を胸の蕾へと運んでいった。
どき…どき…と胸の鼓動が耳の奥で響いてくる。
布越しの刺激で感度が高まった敏感な場所が、直接触れられたらどうなるか…その期待と不安が胸の高鳴りをより速めてしまっている事を自覚しながら、いよいよ彼の細い指先が赤みを増した小さな果実に触れた。
さわ……っ
「あん…っ」
びりっと電流が走った様な感覚。
直後にじわりと広がる甘い快感に思わず声が漏れ、その大きさに慌てて息を呑んだ。
(び、びっくりした……こんな声…出るなんて…)
こんな恥ずかしい声、三日月に聞かれていなくて良かった……いや、もしかしたら無意識の内に彼が居ない事で気が緩んでいるのかもしれない。
逆に考えると、彼が居ないなら、少しばかり声を上げても誰にも聞かれないという事だ。
それに気付いた面影は、密かな開放感を感じながら行為を続行した。
「あ…ああ…ん……ちくび、きもちい……はぁあっ…!」
流石に遠慮なく声を上げてしまえば廊下に漏れてしまうとも限らないので、全く抑えない訳ではなかったが、それでもいつもより大きな声は自らの聴覚もより激しく刺激してしまう。
(や、やだ…誰もいないから、えっちな言葉が勝手に……恥ずかしいのに…こんなの、だめ、なのに…!)
自身の声に煽られて、心だけでなく身体までもが昂っていき、それに伴い動く指先達もより大胆さを増していく。
「あっあっ! いいっ…もっと、苛めて…あ、ん、あんっ…!」
着衣という邪魔が無くなったお陰で、胸の蕾への悪戯は容易の一言だった。
先端を軽く撫でるだけでは既に物足りなくなり、頭で考えるより先に指が勝手に動いて蕾達を責め抜いていく。
優しく乳輪を撫で回した後に中央の膨らみを摘み上げて擦り上げ、ぐりぐりと取れてしまいそうな程に強く捏ね回してやれば、勝手に身体が戦慄き、歓喜に打ち震えた。
そんな中、面影が新たな身体の反応に気付き、顔をより一層赤く染める。
(あ……触ってないのに……勃っちゃた…)
胸への刺激だけで、己の分身が布団の中でしっかりと勃ち上がってしまっていた。
数ヶ月前の自分なら、信じられない身体の反応。
いや、そもそもその頃の自分は、胸だけで此処まで感じるなんて夢にも思っていなかった。
それが今や、女の様に胸だけで性的興奮を覚え、あまつさえ勃起するまでに至るとは……
(全部…全部、三日月の所為……っ、私の身体をこんなにしておいて……)
それなのに、今此処に一緒に居てくれないなんて……
一瞬だけそんな恨み節が心に過ったが、直ぐに本人によって訂正される。
「違う…そんなこと」
違う、それはあまりにもお門違いな言い分だ……彼が此処に居ないのは彼の責任ではない。
自分がこんなになってしまったのも、決して三日月だけの責任ではない。
誘ってきた、好意を寄せてきたのは向こうの方からだったが、自分だってそれに応えたのだから……
(でも……三日月、流石に呆れてしまうかも…)
手を出した相手が、まさかこんなに短期間で此処まで淫らな身体になってしまったと知れば、どう思うだろうか……
人の欲には限りがないとは良く言われるが、流石に限度というものがあるのでは…?
そう思ってはみたものの、そんな感情であっさりと引き下がってくれる程に彼の肉体は従順にはなってくれず、相変わらず彼の分身は固く大きく自己主張を続けている。
「ああもう……っ」
分かっている、このまま放置しても辛いのは自分だけ。
そして、どうしたらこの身体を鎮める事が出来るのかも、自分は十分に知っている。
自らの肉体に僅かに罪悪感を抱えながらもその本能には抗う事は出来ず、面影はゆっくりと病院着の奥へと手を滑り込ませ、欲棒へと伸ばしていった。
「ん…」
ぎゅ、と下着の上から軽く握り込むとしっかりとした固さが返ってきて、同時に触れられた快感が生じてきた。
着衣の一部にはしっとりと濡れた感触があり、それに気付いた面影が内心慌てて身体を揺らす。
(やだ……もう、濡れて…)
何もしていないのに、もういやらしい涎を垂らしているなんて……
見てはいない、見えはしないが容易に状況が脳裏に浮かび、その淫靡さに頭の奥が熱くなってくる。
きっと先端の窪みからは今も淫らな雫がじわりと溢れて、その証左を布地に残しているに違いない。
止めないといけないのに、その時に面影が取った行動は、それとは真逆のものだった。
「ん、ん……っ」
すり、すり……と、指の腹で布地越しに先端を擦ると更に濡れた感触が広がっていくのが分かる。
(後で、着替えなきゃ…)
場違いな感想が浮かぶのも、今の自身の姿と快感からの逃避なのだろう。
しかし、逃避しながらも全ての快感から逃れられる訳もなく、それからも若者の口から甘い喘ぎが消える事はなかった。
「はぁ……ん…いい…」
かり、かり、と乳首の時と同様に爪先で先端の窪みを穿ると歓喜の涎が溢れ出し布地の上にその雫が盛り上がって見える程だった。
布団の中での秘め事だったのでその様は誰にも見られる事はなかったものの、指に伝わる感触と快楽の波が、如実に面影にその様子を知らしめる事になった。
(中、もう、ぐしょぐしょ……このままじゃ…)
今のままで行為を続けたら、下着から病院着まで液体が滲んでしまう事になってしまう。
そうなる前に対策をしなければ…と思った時には、既に面影の足は軽く布団を蹴り上げ、それを足元の空間へと寄せてしまっていた。
その重みから解放されたところで、続けて彼の手が下の着衣に下着ごと掛かり、一気に足先へと引き下ろされる。
肌に感じるひやりとした外気の感覚。
上半身には完全にはだけた着衣のみ、下半身に至っては一糸纏わぬあられもない姿………
こんな様子を他の誰かに見られたら……
思うだけで、ぞくりと悪寒が背中を走ったが、その中に微かに悪寒以外の何かが入り混じっていると感じたのは気の所為だったのか、若者には分からなかった。
(早く、しなきゃ……)
過去からの経験だと、快感を極めてしまえば、腹の奥に溜まっている欲情を吐き出してしまえば、心地良い倦怠感と共に睡魔が訪れてくれる筈。
そして明日を迎えたら、いつもの様に三日月が来てくれるだろう。
自分はその時までに何もなかった様に身支度を整えて、彼を笑顔で迎えたら良いのだと、そんな事を思いながら、面影は両手で自らの楔を握り込んだ。
ぬるりと濡れた感触が掌全体に伝わったが、それに構わず彼は両手をゆっくりと上下に動かし始める。
熱く溢れた体液は、都合良く潤滑油の役目を果たし、両手の動きを滑らかなものにしてくれる。
「はぁ…っ……はっ、はぁっ……」
手が動く度に聞こえるずちゅずちゅという濡れた音。
それが耳に届くのに合わせたタイミングで肉棒から確かに快感が広がっていく。
初めてではない、馴染みある感覚だった。
しかし、繰り返し両手を激しく動かし楔を扱き上げても、面影が望んでいた極上の『快感』はなかなか訪れようとしない。
「……?」
当初は三日月の手管ではないからかも、と思っていた面影だったが、どうやらそれだけが原因ではないという事が、時間が経過する内に分かってきた。
過去には自分だけでしていた時でも問題なく達していた筈なのに、どうして今になって……?
(おかしい………気持ちいい…気持ちいいんだけど…どうして…達けないんだろう…)
違和感を感じ、焦りを覚えれば覚える程、今感じている快感ですら乾いたものになっていく様な錯覚に陥りそうになる。
どうしよう…と困惑していると、ふと先日の記憶が甦った。
そう言えば、昨日、三日月がしてくれた……会陰部への刺激はとても強く、心地良いものだった。
あれなら…今の快感の停滞を解消してくれるかも知れない。
(……自分で触るのは初めてだから………す、少し、怖い、けど…)
それでも今の生殺しの状態が続くよりはマシかも知れない。
大丈夫……初めは、三日月がしていた時より力を弱めにしたら……
そんな事を考えながら、面影が手指をそろそろと分身の下に潜らせ、秘孔との間の場所に触れさせようとした直前…
RRRRR…
「ひっ…!?」
ほぼ無音だった空間に場違いすぎる電子音が響き渡り、反射的に悲鳴の様な声を上げてしまう。
「え……? あ」
何事が生じたのか直ぐには理解出来なかったが、改めて音を聞いたところでその正体を知る。
手持ちのスマホ…その着信音だった。
聞き馴染みのある筈の音だったのに、行為に耽っていた所為でそれすらも思い出せなかったのか……と気恥ずかしく思いながらも、面影は即座にそれを取った。
先程までの部屋の中を満たしていた甘ったるい空気が、スマホという現実的なアイテムを手にした事でやや薄くなった様な気がする。
そして同時に、行為で速まっていた胸の鼓動が、今は別の意味でまた激しく高鳴り始めたのを感じた。
こんな夜更けに自分に電話を掛けてくる様な人物は一人しかおらず、画面の発信者の名前を確認してそれが正解であると知り、ほぼ同時に通話をオンにする。
「もし…」
『面影か?』
「っ…!」
ぞくん……っ!!
向こうから聞こえてくる声を予測出来ていた筈なのに、それはまるで耳を通して稲妻の様に全身を走り抜け、面影は硬直してしまった。
(え……っ?)
明らかに動揺してしまっている若者だが、残念ながら向こうで話している者にその姿は見えておらず、相手は構わずに話し続けていた。
『すまぬな、すっかり連絡が遅くなってしまった………怒らせてしまっただろうか?』
相手の声は申し訳ない気持ちが溢れると共に、こちらを気遣う優しさという感情に満ちていたが、それを聞いていた面影は嬉しさよりも寧ろ激しく動揺し、心を乱してしまっていた。
「あ……う、ん…」
気の効かない生返事を返しながら、面影は身体の変化に震えるしかなかった。
(なに……これ……)
ほんの少し前まで手淫にすら反応が鈍くなっていた自らの分身が、相手の…三日月の声を聞いた瞬間に一気にその固さと大きさを増したのだ。
それどころか、感じていた快感と疼きが一気に肥大化し、肉棒の内で暴れ回り始めている。
(どうして……三日月、の声…聞いただけ、で…)
相手は此処にいないし、触れてもいないのに……!?
何故? どうして? と混乱している面影の異常な様子は向こうにもその片鱗が伝わったらしい。
『面影? 何か取り込み中だったか?』
取り込み中どころか夜のリハビリの真っ最中でした、とは流石に言えず、何とか取り繕おうと面影も必死に言葉を探す。
「いや、だいじょうぶ……ちょっと、びっくりして…」
こんな夜に電話が掛かってくるとは、という意味に素直に受け取ったのだろう、三日月は苦笑交じりに言葉を返してくる。
『本当にすまぬ……こんな時間に騒がせるべきではないかとも思ったのだが……どうしてもお前の声を聞きたくてなぁ』
ぞくぞくぞく…っ!!
甘える様な、焦がれる様な艶っぽい声で言われ、ぶるっと全身が震えるのが止められない。
(あっ……だめ、だめ…!)
己が見ている前で、瞬く間に分身が天を仰いで首を振り始めていた。
身体もまた、愛しい男の甘い声を聴いて悦んでいる。
ずく、ずく…と抑え切れない欲情が熱と共にその内側に宿り、渦巻き、解放を望んでいる。
「そう…か…」
ああ、また生返事しか返せない……
そう思いながら、面影は堪らずに電話を繋げたまま、片手で自らの楔を握り込んだ。
何という浅ましさの極みだろうか…
自分を想い、言葉を届けてくれた相手の愛情に触れながら、こちらは肉欲に溺れて彼の声に縋り、欲望の証に触れている。
いけない事だとは分かっていた、でも、
(今なら……三日月のこの声を聞きながらなら……達く事が出来る…かも…)
それも、きっと、とても気持ち良く……
そう思っていたのだが、続けて向こうから聞こえて来た言葉に、面影は背後から冷水を浴びせられた様に固まってしまった。
『面影? もしかして眠っていたところを起こしてしまったか? どうやら返事もままならぬ様だし、今日はお前の声を聞けただけで良しとしようか。名残惜しいが…』
「っ!! ま、待って…!!」
思わず、大声で相手を引き留めてしまっていた。
駄目、行かないで、まだ、まだ声を………!
『…? 面影?』
ここに来てようやく三日月も面影の様子に気が付いたらしく、やや怪訝な口調で尋ねてきた。
『…どうした? 様子がおかしい…』
「あの……三日月…っ…声、聞かせて…」
『…………』
面影の逼迫した口調に異変を感じ取った男が、沈黙で応える。
明らかに向こうの様子も変わったが、最早、それに気を向ける程の余裕も面影には残されていなかった。
『お願いだ……何でもいい、何でもいいから……何か、喋って………声、聞きたい…』
そういう面影の『声』にも隠せない程の艶が混じってしまっていたが、本人はその事実には気付いていないらしい。
そんな若者の懇願に相手が答えたのは、数秒後の事だった。
『……成程、眠いのかと思っていたが……どうやら逆だった様だな』
「え……」
『欲情していたのだろう? だから、自分で慰めていた……違うか?』
「っ!! え、と……」
咄嗟に、何かしらの言葉で取り繕おうとしたがその前に、
『正直に言えばお前の望み通りにしよう、しかし、誤魔化すのならば此処までだ』
と、先手を打たれてしまい、言葉に詰まる。
相手の家政夫として側に居る様になってから気付いた事があるが幾つかある。
その内の一つが、三日月は他人の嘘を嗅ぎ分けるのが異常に上手いという事だ。
広義では危険察知能力が異常に秀でているという事だが、正直、それなりに同能力に自信があった自分でも敵わない程だった。
そんな彼なのだから電話を通して顔が見えない状況でも、こちらの声音だけできっと嘘など見抜いてしまうだろう。
『……面影、返事は?』
正直に言わなければ、あっさりと通話を切られてしまうかも……沈黙で誤魔化す事も多分許して貰えない。
追い詰められ、逡巡しながらも、面影は事実を認めるしかなくなってしまった。
「…う、ん……し、して、た……」
端的な返答に一先ずは満足したのか、次の相手の口調は心なしか優しいものになっていた。
『…どうして?』
「………お前がいなくて、寂しくて……考えてたら我慢出来なくなって………」
『それで…?』
「…じ…自分で……触って……その、リハビリを…」
無論、この『リハビリ』は二人の間の中だけで通じる隠語である。
じわじわと追い詰めるような三日月の詰問に少しずつ事実を述べていく中で、羞恥に震えながらも面影は自らを相手に曝け出す行為に心の何処かで安堵していた。
ここで安堵感を感じるのはおかしいかもしれないが、暴かれる事が一種の快感となって面影の心を侵食しつつあった。
『それで、自分一人で勝手に盛り上がって達こうと?』
「それは……まだっ……」
『うん…?』
「いっ……達きたかったのに…どんなにしても…達けなくて…! でも、三日月の声を聞いたら、身体中ゾクゾクして、気持ち良くなって……だから、お前の声を聞きながらなら、達かせてもらえるかなって……」
『…………』
この時、面影には見えなかったが、三日月は相手の告白を聞いた瞬間に獣の目に変わっていた。
面影は普段は他人に対しては一際警戒感が強い性格なのだが、三日月に対してだけは時折隙を見せる事がある。
本人に向かって「貴方の声で達かせて欲しい」という意味の告白をしたら、向こうが果たしてどう思うか………そこに思い至らなかったのは完全に面影の隙だった。
『…そうかそうか……お前は俺の声で達きたいのか?』
声は優しいが、三日月の心中は勿論凄いことになっていた。
面影に直接手を出せない状況だったのは、二人にとっても良い事だったかもしれない。
もし面影が側にいたら、流石の三日月の忍耐も限界突破していただろうから。
「…う、ん……いきたい……もうっ…」
か細い声でようやくそれだけを答えた面影の様子を察し、三日月の口角が微かに上がった。
ああ、可愛くて、愛おしくて堪らない……そんな相手が自分の声で達きたいだなんて、何処までこちらの雄を煽ってきたら気が済むのだろう。
三日月も面影と同じく背筋にゾクゾクとした戦慄を覚えながら、すぅ…と小さく息を吸い……
『お前の身体、俺が預かる…』
と、静かに、しかし反論を許さない凛とした声で宣言した。
「っ!」
瞬間、びくんっと面影の全身が震え、彼の動きが完全に止まる。
まるで三日月の言葉がそのまま見えない鎖となって若者の肉体に絡みついて動きを封じてしまった様だった。
動けないのに、心臓の鼓動だけが耳の奥で激しく響いている。
そんな心音に混じり、三日月の囁きが聞こえた。
『お前の手も、今は俺のものだ……さぁ、握って』
「何を」とは言われなかったが、そんな言葉は必要なかった。
面影もそれを問う事はなく、寧ろ待ちかねていた様に身体の中心へと両手を伸ばして楔を握り締めた。
「んあ……」
手から離れた事でスマホが枕上に置かれ、面影の口から遠ざかった事が分かったのだろう、すぐに三日月から次の要求が届けられた。
『スピーカーにしてくれるか? お前の可愛い声を良く聞きたい』
「う、ん……」
ほんの一秒でも分身から手を離すのが惜しいとばかりに、面影は手早くスマホをスピーカーモードにすると、また直ぐに下半身へと手を伸ばした。
『どうだ……「俺」に握られて…気持ち好いか?』
「は、あ……うん…あぁ、気持ちいい……三日月…あぅ…」
ぐちゅ…くちゅ……と下半身から響く水音を聞きながら、面影の甘い声が響く。
自らの手が快感を求めて激しく雄を扱いている音を聞きながら、面影は、脳内では三日月に追い立てられていた。
手淫を施しているのは自分の両手なのに、面影の中ではそれを行なっているのは三日月になっている。
電話を通しての行為が此処まで己を欺き、心を昂らせるとは、本人も思っていなかったに違いない。
「あっあっ、三日月、三日月ぃ…っ! そこ、もっとぉ…」
『好い声だな……俺の手は今、どうやっておまえを可愛がっている?』
「ふ、ぁ……いつも、みたいに……強く握って…ぐちゃぐちゃに扱いて………さ、先っぽも、ぐりぐりして………あぁ~~…っ」
相手に教える為に自らが弄っている様子を凝視しながら自慰を続ける面影だが、目の当たりにしている光景は正しく伝えながらも、彼の脳内ではそれは完全に己の希望に塗り替えられていた。
自らを握って上下に扱いている手も、零口をしつこく弄り回している指先も、全ては己のものではなく、三日月のそれだった。
『はは……いやらしい音が此処まで聞こえるぞ…? 恥ずかしい涎を溢れさせながら、浅ましく腰を振っているのだろう…?』
「あ、あ……やだ…言わないで…ぇ……」
手を上下させる度に響く水音……物欲しげに腰が揺れる度に聞こえるベッドの軋む音……
それらを耳聡く聞き取りながら、三日月は的確に面影の状況を言い当て、更に煽る様な言葉を投げ掛けてくる。
それもまた面影の想像力を掻き立て、彼の中で三日月は自身を背後から優しく抱き締め、いやらしい意地悪な質問を投げ掛けながら、敏感な場所を優しく苛めてくれていた。
「ん、は……ぁ…っ……み、かづき……もう、もう…っ…!」
三日月からの電話を受ける前はあんなに達けない事に苦しんでいたのに、今の面影の分身は限界の半歩前まで至り、その時を待ち望んでいる。
切なげな声で三日月に訴えていた面影の耳に………
『達け』
唐突に赦しの言葉が届き、その不意打ちの音が面影の肉体の軛を解き放った。
まるで、条件反射の様にあっさりと。
「ああぁ~~~っ! い…っくぅ……っ! いくっいくっ、射精るうぅぅっ!!」
びゅるるるるっ!! びゅるるっ! びゅびゅっ!!
暗闇の中で、雄の白濁液が勢い良く天に向かって放たれた。
一度目に続いて、二度目、三度目も徐々に勢いを失いながらも宙を舞い、そしてシーツの上へと落ちていく傍ら、面影の身体はようやく訪れた解放の快感に悦び、戦慄いていた。
(ああ……達けた……きもちい………っ……!!)
快感を味わいながら身を震わせる面影だったが、直ぐに予想外の事実に気付き、困惑する。
「はぁ………はぁ……っ……ん…っ………え……?」
萎えて…ない………
闇の中ではあったが、体感的にはかなりの量を放出した事は間違いない…にも関わらず、分身はそんな事は知らないとばかりに相変わらず固さを保ち、臨戦態勢を維持していた。
『なかなかの達き声だったな………好かったか?』
三日月の満足げな声が響いたが、今の身体の状況ではそれに素直に答える事は出来ず、面影は相手に戸惑いながら応じる。
「………あ、の……三日月………その……」
『うん?』
「達ったのに………その……まだ……」
『…………ふむ?』
吃りながらの返答だったが、三日月はまたも的確に面影の事情を察したらしく、笑みを含みながら尋ねてきた。
『……まだ鎮まらぬのだな?』
「う、うん………あの……でも、一度でも気持ち良かったから…」
一度達したお陰か、面影は少しだけ冷静さを取り戻していた。
もしかしたら、これ以上相手を付き合わせるのは迷惑かもしれない、と考え、三日月との会話を打ち切る事を匂わせたのだが………
『おや、お前だけ好い思いをして終わりか?』
「え?」
軽く拗ねる様な物言いをしてきた恋人に、思わず聞き返してみると、彼の声が絶えた代わりに向こうから微かに衣擦れの様な音が聞こえて来る。
ほんの僅かな音だったが、何となく向こうで何が為されているのかは想像出来た。
(三日月……もしかして…服、脱いでる……?)
見えないが、相手が服を脱いであのしなやかな裸体を晒しているところを想像してしまい、思わず赤面してしまう。
そして、衣擦れが聞こえなくなると、その代わりに……
『面影……聞こえるか……?』
ずちゅ………くちゅ……っ……
「っ!?」
スマホから響いてきた水音………純水ではない、粘り気を含んだ、あの特徴的な音が面影の耳を犯してきた。
(え………この音…まさか………)
思わず連想したが、それを直ぐに打ち消し……消しきれずにまた脳裏に浮かんでくる中、三日月があっさりと答えを披露した。
『お前の淫らな声を聞き、はしたない姿を想像して……俺も「こんなに」なってしまったのだぞ』
「!!」
『大きくなって、固くなって……お前に慰めてほしいと涙を零しているのだ………あぁ…』
最後の溜息に混じってくちゅ…と響いた音は、きっと彼が訴えながら本人の楔を弄った時に立てたものだろう。
「あ…………」
頭の中で勝手に相手の様子が思い浮かび、面影の全身が熱くなる。
どうして脳内の想像に過ぎないのに、こんなに生々しい姿が浮かんでくるんだろう……
「ああ……三日月の……オ〇ン〇の音……頭、おかしくなる……っ」
聞こえて来る水音が頭の中で響く度に、頭の中に浮かぶ相手の雄の雄々しい姿……
同性なのに、どうしてそれを想像するだけでここまで身体が疼いてしまうのか……
『ああ……ならば共におかしくなろう……お前の身体も気持ち好くさせてやる』
そう言うと、囁く様に三日月が誘惑の言葉を紡いできた。
『お前は胸を弄られるのも好きだったな……今は、どうなっている?』
これまでの関わりの中で、胸が弱い事は当然向こうもお見通しなのだろう事は察していたが、こうして直接言及されるとやはり恥ずかしくなる。
しかしここまでくると、最早その返事をしないという選択肢は無かった。
自身の羞恥心よりも、互いに快楽を貪り合う事の方が今の面影にとって大事だったのだ。
「胸、は……その、乳首……固くなってる……」
『ああ……やはり。きっと愛らしく膨らんで、触ってほしいと赤くなって震えているのだろうな……直ぐにでも舐めて、お前が達くまで吸い上げ、捏ね回してやりたいが……』
「あ……そんな…恥ずかしい事、言わないで…」
そう言いながらも、今度は面影の頭の中で三日月が胸の蕾を優しく激しく愛撫している姿が思い浮かび、それに反応して既に膨らんでいた若者の蕾がより一層大きく固くなり、じんじんと痺れるような疼きを生み始める。
(も、もう……っ…三日月が、いやらしい事言うから……敏感になっちゃってる……!)
どうしよう、触りたい、でも……と逡巡していると、お見通しだとばかりに三日月が声を掛けてきた。
『触りたい…だろう?』
「っ!!」
『お前の手は今は俺のもの…好きな様に触る事を許そう……だが、声は殺すなよ…次はお前の可愛い声で、俺を達かせてくれ』
三日月の許可を受ける形で、面影は急いた動作で両手を胸元へと運び、固い突起を左右同時にさわりと撫で上げる。
「はあぁん…っ!」
びりびりびり…っ!と乳首から電流が走る様な快感が全身に流れ、面影の口から甘い悲鳴が響き、それは甘美な曲の様にスマホを通して三日月の耳へと届けられた。
「んっ……ああぁっ……きもちいい、みかづき……はぁあ…う、ん…っ!」
『ああ……素敵だ…』
面影の声を聞きながら三日月も自らのを慰めているのだろう、ぐちゅぐちゅとあの淫らな音が聞こえてきて、それが更に面影の心に炎を注いだ。
「はぁ…っ! みかづき……そんなに激しいの…聞かせないで…っ」
『ふふ……しかし、抑えられぬのだ……お前がもし俺の前にいたら、躊躇なくお前の可愛い口に頬張らせて中を犯し、大きく育って待ちわびている胸の蕾に擦り付けてやったものを………』
「ああ、だめ、だめぇ…っ、想像したら……」
素直な面影は、三日月の言葉の通り、彼の立派な剛刀を己の口の中に含ませられている様を想像してしまう。
あの大きなものを口中に突き入れられたら、きっと息をするのもままならないだろう……なのに、想像の中の自分は苦し気な中でもうっとりと恍惚の表情を浮かべていた。
(……羨ましい………私も……三日月の、を…)
存在しない架空の自分自身にすら羨望の感情を抱きながら、無意識の内に面影が口元に右手を持っていき、ちゅぷり…と手指中央の三本を一気に口内へと押し込んだ。
「ん……ふっ…んく……ちゅ…っ……」
三本が一気に口の中に収まったので相応の太さになり、それらに舌を這わせる姿はまるで男根を愛撫するそれ。
「は…ふぅっ……ふっくぅっ……!」
指に舌を絡ませていた動作はやがて指達を抜き差しする行為に変わっていき、はしたない乱れた音が激しく響き、三日月へと届けられる。
『はは………気持ちいいぞ、面影…お前の口も、舌も……』
互いが互いの疑似行為に浸り、それぞれの言葉で相手を煽り、昂らせていく………
「ん、ふ……」
指達を口から久し振りに出すと、見えなくてもそれらが唾液に塗れているのは明らかだった。
指達の集合体が外界の外気に触れ、ひんやりとした感覚を感じながら、面影は三日月の発言を思い返していた。
『大きく育って待ちわびている胸の蕾に擦り付けてやったものを………』
その様を想像し、面影は三日月の男根に見立てていた指達に視線を一瞬向け……そろそろとそれらを胸元へと移動させると、ぬるっと濡れた指先を乳首の先端に擦り付けた。
「はぁぁん…っ」
それからは夢中だった。
にゅるにゅると自らの唾液に塗れた指先で乳首を弄り、きゅうっときつく摘み上げたり捻り上げる度に身体が快感で戦慄き、その悦楽の奔流が肉棒へも注ぎ込まれ、固さと角度が増していく。
指先で乳首を思うままに嬲っているのに、三日月の楔の先端で擦られている様な錯覚にも翻弄され、面影は更に燃え上がる身体を持て余してベッドの上で悶えた。
「ああぁ……だめ、もうっ……胸だけ、じゃ……いや…」
欲情に押されて右手をするっと下半身へと伸ばし、いよいよ分身を握ろうとしたところで……
『面影……』
名を呼ばれて一瞬手の動きが止まった若者に、三日月は愉しそうにある提案を持ち掛けて来た。
『昨日、俺が可愛がった場所を覚えているな……? そこに触れてみよ』
「え……?」
『一人で内側に触れるのはまだ早かろうが、外から触れた場所なら問題なかろう? それに……お前も気に入っていたからな』
「う………」
否定出来ない……
昨日の夜のリハビリの際に、三日月は面影のまだ知らなかった二つの快楽の扉を開けたのだ。
一つは秘孔の奥…もう一つは、その秘孔と楔の狭間である会陰。
三日月が今、面影に触れる様に促しているのは、間違いなく会陰の方だった。
秘孔を避けたのは、自分が傍にいない時にこういう行為にまだ不慣れな面影が下手に手を出したら、その身を傷付けてしまうかもしれないという懸念があったからだろう。
何処までも面影に甘い男である。
『好きな様に触れてみて、お前の好い処を探してみよ。昨日の経験も頼りになるだろう』
「…………う、ん…」
面影としても、秘肛の奥に手を出すよりは会陰の方が敷居は低く感じられ、手を伸ばすのに躊躇いは少なかった。
しかし、いざ目的の場所に触れようとしたところで、面影の動きが少しの間止まる。
(あ………これ……)
目的の場所が身体の奥まった部位であったため、触れるには両脚を大きく広げる必要があったのだ。
(は、恥ずかしい……な……)
そう言えば、昨夜に三日月が触れて来た時はどんな状態だっただろうと思い返したところで、面影は真っ赤になって一人で動揺も露わに身を捩る。
そうだ、昨夜は足を拡げるだけでなく、両下肢を上半身に寄せる形で秘部をより露わに相手に晒してしまっていたのだった。
あんなに恥ずかしい格好をしていたのに今まで忘れてしまっていたのは、与えられていた快感があまりに大きくて、自分の格好を気にしている場合ではなかったからだろう。
折角忘れていられたのに、今回の事で思い出してしまった………せめてもの慰めは……
(み……三日月に見られてないから……まだまし、か……)
昨日の大胆な体勢程ではなくても、やはり秘部を晒す格好を見られるのは恥ずかしい。
此処に三日月が居なくて良かった…と安堵しながら、面影は改めて自らの下肢をゆっくりと左右に開いていった。
自分以外誰もいない、闇で全てが覆われた空間だという事実は、彼の行動を少しだけ積極的なものにしてくれた。
その勢いのままに、面影の指はいよいよ目的の場所に至り、ゆっくりと慎重にその部位の皮膚に触れる。
「ん………う………」
初めはあまり力を込めず、すり………すり……と、指の腹で撫で回すと、どうにもくすぐったい様なもどかしい感覚が生じた。
昨日、三日月が与えてくれた感覚よりかなり弱い刺激であり、気持ち良さを感じる以前の問題だ。
『…どうだ?』
具合を尋ねてきた相手に、面影は指を引き続き動かしながら素直に答える。
「あ………うん……ちょっと…くすぐったい……かも……」
『ふふ………物足りなさそうだな?』
「そ、そんな……こと、は…」
欲求不満を指摘した様な言葉に反論しようとするも、自身でも自覚していなかったそれに気付かされ、途中で尻すぼみになってしまう。
『良い良い……では、少しばかり俺も手を貸そうか』
「え…?」
手を貸す…って、どうやって…と戸惑っていた面影の耳に、先刻の優しい言葉から一転、一切の抵抗を許さない口調の三日月の命令が響いた。
『もっと俺がよく見える様、足を開け』
「っ!!?」
言葉を聞き、何かを考える前に面影の両下肢が勝手に限界まで大きく開かれる。
先程までも下肢は開かれていたのだが、そこでも見え隠れしていた遠慮が三日月の声で一切取り払われてしまった様な形だ。
信じられないのは、この行動が面影の意志ではなく身体が勝手に相手の声に反応してしまったという事実だった。
(え、そんな……足が、勝手に……?)
三日月は此処にはいない…この姿を見られる事は物理的にも不可能だ。
しかし、思わず相手の言葉に条件反射で従ってしまった。
今の面影の目と頭には、三日月が足元からこちらを愉悦の瞳で見つめてくる仮想の姿が映っている。
それは現実ではなく、面影の願望が作り出したもの。
そんな相手に見てもらいたいが為に、面影は欲望に肉体を操られる形で足を開いていた。
(いないの、分かっているのに………見られて嬉しいなんて……見てほしい、なんて……)
自らの行為に戸惑っている若者に、更に三日月の次の指示が下される。
目の前に見える男は幻…しかし、聞こえる声は紛れもない本人のものだ。
『さて、じっくりと悪戯して好いところを探そうか?』
「あ……っ」
『言っただろう? そら、俺の指と思って触れて……』
三日月の指……
三日月が……仮想の三日月が、昨日の様に指先を目的の場所に伸ばしている様を虚空に思いながら、面影は夢遊病者の様に指を再び会陰へと伸ばしていく。
ほんの少し前には、思い切りがつかず、物足りなささえ感じていた。
しかし、今回は先程とは違う……今のこの指は、『面影』ではなく、『三日月』が動かしているのだ……だから………
「ん、ふぁ…っ……」
昨夜の三日月の行為を思い出しながら、彼が自指を導いている様な錯覚を覚えつつ、面影はより強く強引な運指で会陰を弄り始めた。
くっ、くっ、と指の腹でその場所の皮膚を押え付けながら指の位置を少しずつ移動していくと、とある場所に至った時、若者の身体が激しく反応した。
「くあぁっ! あっ、あはぁっ……!」
腰から下が激しく痙攣し、開かれていた両下肢は同時に膝が屈曲しそれによって更に秘所が露わになる。
もしこの場に三日月が存在していたら、さぞや彼が歓喜する光景を見る事が出来ただろう。
面影本人はそんな事を考える余裕もなく、足の位置の変化にも気付かないままに指がもたらす快感に夢中になっていた。
「はぁっ! ああんっ……! あっ、そこ、いいぃっ!」
昨夜の三日月が押した場所を探り当てた面影は、得られた快楽を貪る様に幾度も幾度もその場所を強く押し続けた。
(どうして……? 押すだけで、ここの奥が凄く気持ち好くて……ああ、指が止められない…っ!)
ぐっぐっと繰り返し、会陰……その奥にある雄の弱点を刺激し続け、あられもない声を上げ続ける。
無論、その声もスマホに拾われ、三日月に届けられていた。
『ふふ……興が乗っている様だな』
「あっあっ……み、かづき……ここ…好過ぎて…指、止まらな……っ! あはぁん、もっと…強く、ぅ…!!」
最早、当初のおっかなびっくりな動きなどとは比較にならない大胆な行動を取りつつ、面影は指を蠢かせながらも仮想の三日月に訴えていた。
指を動かしているのは面影自身……しかし、その向こうで操り糸を操っているのは此処にはいないあの男……
『好い声だ……お前の今の姿、思うだけで滾ってしまう……っく…ぅ……』
『ずちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゃっ……!!』
「…っ」
スピーカーを通して、三日月の自慰の音がより激しさを増しているのが聞こえてくる。
その音を聞くだけで向こうが今どんな状態なのか嫌でも脳裏に浮かんできてしまい、その光景はより一層面影の本能を昂らせた。
スマホの向こうで…三日月の部屋で、彼はきっと自身の大きく固く成長した分身を握り込み、あの音が響く程に荒々しく扱いているのだろう……
それを思うだけで面影の身体は興奮に震え、思考も淫らな衝動に支配されていった。
(あぁ………三日月のオ〇ン〇、気持ち良さそう……っ、きっと、いやらしい液でぐちゅぐちゅに濡れて……凄く大きく、固くなって……びくびくって……)
脳内に浮かぶ雄々しい三日月の肉刀の様に触発された様に、面影のそれもまた同様に昂ぶり天を仰いで打ち震えた。
(もっと、気持ち良くなりたい………みかづき……の、オ〇ン〇みたいに……私のも……してほしい…っ)
三日月に望んでも、実物の彼は今は遠くの地……しかし………
「んあぁ……みかづきぃ……っ……私の…も……気持ち良く…して……っ」
ぐちゅ……っ…
「ふぁ…っ」
会陰を弄っているのとは別の手で、肉楔を握り込み圧を掛ける…と、ずくりと生じた快感に肩が小さく震えた。
握っているのは自分の手……しかし、今は三日月の手でもある。
自ら動かしながら、面影はその動作の向こうに愛しい男の姿を見ていた。
「あん…あっ……みかづき……もっと強く、握って……はあぁ……っ」
その独り言という形の懇願を聞いた三日月が、小さく笑う声が遠くに聞こえた。
向こうも自慰をしながら、しっかりとこちらの様子に耳を欹てている様で、その流れに乗る形で言葉を届けてくる。
自分がどういう言葉を掛ければ、面影がどういう動きをするのかを、既に十分に理解している様だ。
『おお、いいとも。お前が望む様に、きつく強く苛めてやるぞ………もう片方の方も、好きなだけ、な…?』
「う、あ……あっあっあっ! ひあぁぁんっ! みかづきぃ…っ!」
好きなだけ、苛めてもらえる………
三日月の言葉が面影の背中を押す形になり、面影の両手がより一層激しく動き始める。
右手では会陰を強く圧しながら擦り上げ、左手では見事に勃ち上がっている己の牡をきつく握り込み、絞り上げる様に上下に扱き上げると、その快楽に呼応する様にがくがくと若者の腰がはしたなく揺れた。
「ん、ふぅううっ…! だめ、だめ、腰が…止まらない…っ! 奥、きもちい、のに…勝手に揺れて……オ〇ン〇…もう、限界……っ」
『…達くのか? 俺の言葉に犯され、指を操られ、一人で浅ましい姿で達こうとしているのだな』
「あ、あ……許して…もう、我慢出来ない……っ! み、みかづき、みかづきもいっしょに、達ってほし……っ…私と、いっしょに、射精して……っ!!」
『…っ! いいぞ……俺と一緒に思い切り……射精せ…っ!』
三日月からの命令の如き一言が、面影の脳の奥を強く揺らし、彼の身体が喜悦に震える。
男の許しの言葉が、自らの欲望を解放してくれる……!
「くぅぅぅんっ!!~~~~~っ!!!」
『う、くっ…!』
三日月の呻きが示す彼の身体の異変を感じ取り、面影も同じ場所に至ろうと身体の中心を解放する。
びゅーーーーっ!! びゅるるるっ!! びゅるっ、びゅぴっ…!!!
「んぐぅぅぅっ!! い、ぐっ、いってるぅ!! きもちい…っ あ~~~……っ!!」
『……俺も……っ……っくぅ…』
握っていた分身が激しく揺れて、欲情の証を吐き出しているのを感じながら、面影はその行為が相手と同調しているだろう事実に恍惚とした表情を浮かべていた。
ああ、三日月も、今、達ってる……自分と同じ様に欲棒から激しく精を迸らせて………
自分だけではなく、相手もまた感じてくれていたのだと悦びと充足感を感じながらも、面影は身体に掛かった負担に、徐々に意識が薄れていく。
まるで夢の様なひとときだったが、その時間が終わった今、本物の夢に誘われようとしている様だ。
(あ………だめ……)
せめて身支度を……と心では思いながらも、身体が動いてくれない。
意識が遠くなり、それを手放す直前に面影が思ったのは、
(…明日には……汚れたシーツ、何とかしないと………)
という、或る意味この状況では的外れであり、且つ現実的なものだった………