「ん………」
ふと、前触れもなく。
面影はその瞼を開いて眠りの世界から現世へと意識を戻した。
「……?」
夜の暗闇に徐々に目が慣れてくる。
刀剣男士と言う特殊な存在であるせいか、それとも戦いの中に身を置く存在としての慣れなのか、彼は常人よりも遥かに速い適応力で、自分が置かれた状況を理解した。
(ああ、そうか……ここは)
見慣れている天井の筈なのに、何処となく感じた違和感の正体に、面影は今居るのが自身の寝所ではない事を思い出した。
そう、今自分が居るのは三日月宗近の寝所であり、その布団の中に身を委ねている。
それを理解したところで、面影は自身の横から腕を伸ばし、自分の上体を軽く抱く形で拘束している男の存在にも気づいた。
ゆっくりと…眠っているだろう相手を起こさぬようにそちらへと顔を向けると、思っていたよりも間近に相手の顔があった。
「っ……!」
密かに驚き、面影はすぐに視線を天井へと戻す。
自分は上を向いた状態で寝ていたが、向こうは完全にこちらへと身体を向け、その左腕で胸を抱き包むような姿勢のまま寝入っていた。
(ああ……部屋に戻るつもりが、そのまま……)
眠ってしまったらしい、と過去の己の行動を思い出し、今更ながらに布団に入っている自分が全裸のままであることに気付いて暗闇の中で赤面する。
(…事が済めばそのまま暇を告げるつもりだったのに……あ、あんなに激しくされるものだから…)
心の中で言い訳をしながら、数刻前の自分達の行為を思い出して面影は更に頬が熱くなるのを自覚した。
自分と三日月宗近は、恋仲である。
面影がこの本丸に迎え入れらえて暫くは、三日月は彼にとって保護者というか、後見人の様な存在だった。
それがいつの間にか相手の存在が自身の心の中で徐々に大きくなっていき…只の指導者としての立場ではなく、それ以上の存在として目で追う様になっていった。
向こうも実はこちらの事を憎からず思っていたらしいが、何分、自分は顕現したばかりの刀剣男士。
精神的にもまだ幼く、到底、色恋については教えるのは早すぎると一時は判断し、こちらを子供扱いする形で意図的に遠ざけるなどしていた。
色々あって。
自分が三日月への気持ちに気が付き、それに追随する形でこの身体も大人のそれへと成長した事を受け……先日、遂に三日月と身体を繋いだ。
正直……口吸いを経験してからの関係は完全に三日月が主導であり、それもかなりの積極性だったのだが、万一こちらに主導権を委ねられていたとしてもおそらく一向に進まなかっただろう事は容易に想像出来るので、それはまぁ良いとして……
(………ちょっと、多すぎる気もする)
一度身体を繋いだ事で、どうやら三日月のそれまで遠慮していた反動が一気にきてしまったらしく、それ以降、彼はほぼ連夜自分を求めてくる。
それが向こうの独りよがりの行動であれば理由をつけて避ける事もあるのだろうが、困ったことには、相手は面影本人よりも面影の身体を熟知している様であり、触れてくる場所全てから愛しいと思う気持ちが伝わる程だった。
自分だけではなく、寧ろ面影が心地よいと思わなければ意味がない、とばかりに甘やかに、激しく、身体を芯から蕩けさせるような手練手管で抱いてくる三日月に、当の恋人はすっかり絆されてしまっている。
今日も、部屋に呼ばれそのまま身体を重ねるまでは、終わったら自室に戻る心づもりだったのに、何度も貪られ、自分も快楽の波に呑まれ、いつの間にか寝入ってしまっていた。
今更ここで起きだして部屋に戻るとしても、隣の男を間違いなく起こしてしまうだろう。
仕方ない、朝まではこのまま布団を借りて………
「ん………」
何となく感じる身体の違和感に気付き、面影はその正体が何だろうかと考えた。
何だろう…先程、不意に目が覚めたのも、この身体の違和感に起こされた様な気がする……
「………?」
その違和感が何処から来るのか…という元凶を、徐々に覚醒しつつある頭で考え、探っていったところで、面影は思わず硬直した。
(……え…)
嘘だ…と否定したかったが、自分の身体はそれを許さなかった。
(そんな………まだ…?)
欲情…している……?
再度身体に意識を向けたが、間違いなかった。
違和感の正体は…『疼き』だ。
数刻前にも三日月を受け入れていた身体の奥が、またずくずくと疼きを訴えている。
もっと欲しい…まだ、満ち足りてはいない、と……
あんなに抱かれたのに、まだ身体は物足りずに、覚醒してしまったと……!?
「……っ」
その欲望が伝播した様に、今度は自分の分身までもが目を覚ました様な感覚が生まれてしまう。
まだ勃ちあがってはいないが、このままでは間違いなく……と思ったところで、ざわ…と胸に不安にも似たざわめきが起こった。
(……どうしよう)
状況が最悪過ぎる…!
面影は脳内で思わず頭を抱えてしまった。
これが、予定通り事を済ませて自室に戻って来た後での話ならまだ良かった。
自分で自分を慰めるなどして、朝まででも持たせたらどうとでもなったのに…今いるのは相手の布団の中。
しかも、腕が触れる形で相手は接触までしており、下手に動く訳にもいかない。
つまり……自分で鎮める事も出来ない………
(……無理にでも部屋に戻っていたら良かった…)
そうは思ってみても、最早後の祭りである。
仕方ない、兎に角朝になるまで欲求を抑えつつ、寝るなり何なりして誤魔化すしかない…
自分にそう言い聞かせながら一度は目を閉じて身体の奥から生れる渇望をやり過ごそうとはしてみたものの……それが到底無理な話だと認めるのにそう長い時間は掛からなかった。
(ああ、もう……!)
人間の身体というものは、どうしてこう厄介なものなのか……!
刀身の身であった頃には、こんな感覚、感情などまるで無縁のものだった。
人間達が様々な感情に突き動かされているのを刀である自分は淡々と見つめ…何故あれ程に動揺するのか不思議に思っていた時期もあったが……同じ立場に立たされてみて初めて分かる。
刀である自分が闘争本能を手放せない様に…人間は自分の持つ肉体の軛から切り離される事は出来ないのか……
理性という箍が封じる事も出来るのだろうが、今の自分が抱える欲求はそれで封じようとしても、寧ろそれに抗う様に一層の渇きを訴えてきてしまうのだ。
(……此処にいるのも原因だな)
隣で眠る男の存在…それを認識する事で、身体が求めてくるのだ。
欲しいものを与えてくれる存在がすぐ隣にいると言う事実が、自分の奥に潜む本能を昂らせてしまっている。
見ない様にしようと布団で顔を隠そうとしても、今度はそこに微かに漂う男の匂いが欲望を惹起してきた。
悶々としている内に、欲望が確実に身体の熱を呼び起こし、変化を生じさせてくる。
(…まずい………何とか…抑えないと…)
奥の疼きについては仕方ない、が、いよいよ固くなってきているだろう分身の方は、自分で始末しないとこのまま辛くなるばかりだ。
寧ろ射精することで、別の疼きも少しは抑えられるかもしれない。
「………」
面影は再度、ちら、と三日月の方を見た。
こちらを向く形で横になり、寝入っている相手だが、端正な顔は変わる事無く静かな寝息をたてている。
元はと言えばこの男にも責任の一端はあるのだが…とほんの少しだけ不満を感じたものの、自分の欲を抑えられないのは自分の責任だと言う事も分かっている。
それに……相手が起きているのならばともかくとして、既に夜も更けており熟睡している相手を起こしてまでこちらの要求を通すのはあまりに我儘すぎるだろう。
(何とか……身体の向きを変えたら…)
布団から出る事は叶わなくても、相手に背中を向ける形でなら、声を殺せば気付かれないまま済むだろう……
そう企んで、面影はそれを実行に移すべく、ゆっくりと身体の向きを変えていく。
急に動けばそれも相手を起こしてしまいかねないので、少しずつ…丁度、眠っている人間が自然寝返りを打つように………
そろそろと身体を動かし、何とか三日月へ背中を向ける形で横向きに収まった面影は、ほぅ…と安堵の息を吐いた。
向こうは起きた様子はなく、微かに寝息を感じるのみ……
(良かった……後は音さえ立てなければ……)
寧ろこれからが大変なのだという事は分かっている。
面影は息を詰めて、そろそろと自らの下半身に手を伸ばした。
「……っ」
予想通り、既にそこに息づく分身は熱く固くなりつつあった。
暫く触れずに我慢していた反動でか、いつもより感じ易く、触れた手指からもたらされた快感に早速声を上げそうになり、面影は必死にそれを耐えた。
(あ……だめ…声…出しちゃ…っ)
自分でも引いてしまうぐらい甘い声が出そうになり、それは耐えたものの、代わりに熱い吐息が漏れる。
「は……」
今度はその吐息に声が混じるかもしれないと、面影は右の掌で己の口を覆った。
元々は三日月に背を向ける様に右を下にして横になっていたので、左腕が動かしやすい体勢を考えると、右で口を塞ぐのが都合が良かったのだ。
(どうしよう……声を出してはいけない、のに…)
駄目だと思うものほどやりたくなる、という心理が働いているのか、いつもより声を抑えるのが難しく思える。
このままだと息も荒くなり、いずれ声が漏れる可能性が高くなってしまうので、一度落ち着いて呼吸を整えた方が良い……筈なのに……
(手……止まらな…っ)
肉棒に指を絡め、茎を扱く掌がもたらす快感に脳髄が痺れ、行為を止める命令を拒否している。
理性がかろうじて働いているのは、最大の禁忌『声を出すことを禁じる』という行為だけ。
しかし……
(おか……し、い…こんな……)
隣に眠っている男にばれない様にと、必死に声を殺す行為にすら興奮を感じるなどあり得ないのに、明らかに今の自分は敢えて己を快感の渦の中に落とし込み、声を耐える行為を楽しんでいる様にすら感じる。
そんな行為を止めなければという自分と、そのまま続けたいと欲に忠実な自分。
二人の自分がせめぎ合いながらも、分身を弄る手の動きは一向に止まる様子はなかった。
「…っ………っ……!」
声は何とか抑えられていたが、どうしても呼吸は不自然に乱れてしまう。
湧き上がる快感の波に押されては息を詰め、やり過ごすと同時に吐き出す…それは手の動きによっても、下半身の奥から生じる疼きによっても大いに乱れ、乱された。
(あ……もう、すぐ………)
絶頂を迎えそうな気配を感じ、ぐ、と唇を固く引き結び、最後まで声を耐えようと面影が構えたその時…
「面影…?」
「っえ……!」
不意に呼びかけられ、思わず息を呑みながら声を上げてしまった若者は、背後から先程まで寝息をたてていた筈の男から抱きすくめられていた。
「み…かづき…っ!?」
いつの間にか起きていたらしい男に呼びかけられ、腕の中に囚われ、面影があからさまに動揺するのを、相手はうっすらと笑みを浮かべながら見つめていた。
「どうした……?」
「あ………い、や……何でもない……」
驚かされたお陰と言うべきか、一瞬、疼きも何もかもを忘れる事が出来た面影だったが、当然、本当の事を相手に話す訳にはいかなかった。
当たり障りのない言葉を返しつつどう誤魔化そうか考えていたが、向こうはくすりと笑みを深め、お見通しとばかりにその左手を伸ばして面影のまだ熱を孕んだままの肉棒に触れてきた。
「あ…あっ……!」
「嘘をつくな……何でもなくてこんなになるか…?」
さわり、さわり、と指を滑らせ、その熱と固さを確認した相手にそう揶揄されながらも、面影はまともに反論できず、ただ、身体の中心から伝わる快感に声を上げ、身体をふるっと震わせた。
もう、相手が起きてしまい、自分の行為すら知られてしまった以上、声を殺す必要性は無い。
恥ずかしい筈なのに、今だけは、もう声を出しても良い事の方が嬉しくすらあった。
「ああ…これは辛そうだな……」
面影の分身をゆっくりと扱きながら、それがびくびくと元気に震えているのを直に感じ、もう爆ぜる直前だったのだろう事を察した三日月が誘う様に面影の耳元で囁いた。
「…達かせてほしいか?」
「っ……!!」
低く、腰に響くような美声でそう誘われ、面影はびくっと身体を戦慄かせるとこくんと深く頷いた。
このまま自分の手で行為を行っても達することは出来る。
しかし……今までの経験から、自分でやるよりも彼が導いた方が遥かに快感は強かったことを、もう知ってしまっていた…からこそ、拒めなかった。
既に分身は限界に近く、身体の奥から湧き出る『疼き』も一向に治まる気配もなく……
それらに背中を押されるように、面影は自らを握り込んでいる三日月の左腕に手をかけ、ぐいと促す様に引っ張って懇願した。
「三日月……早く……っ」
「…!」
いつになく積極的な相手の懇願に、ほんの少しだけ驚いた様に瞳を見開いた三日月だったが、それはすぐに満足げな笑みに変わり、優しく頷いた。
三日月はこれまでにも何度も面影に対して性の手解きをしているが、基本、彼が面影に対して理不尽な『お預け』をする事はない。
面影が望むことは、彼がちゃんとそういう意志表示をしたら、三日月は喜んでそれを叶えてやる…寧ろその希望の何倍もの形にする事すらある。
愛しているから天邪鬼な行動を取る者も世の中には少なからずいるが、少なくとも三日月はそういう部類には入らないらしい。
時々は、恥じらいのあまりに可愛い拒否を見せる事も有る面影だが、そういう時にはこちらもささやかにやり返す事も有る。
大体は三日月が年の功のお陰か勝ってしまうのだが、その後の三日月の『手厚い』フォローのお陰か、それで二人の間にわだかまりが生じる事は無かった。
愛する者が…面影が望むままに愛するのが三日月のやり方だった。
最近はそんな三日月の『教育』の影響か、面影も素直に相手に対して自分の快感を伝えてくれるようになり、求める様になってくれていた。
「よしよし……すぐに、な…」
優しい言葉と同時に、背後から面影の首筋をぬるりと舐め上げながら、三日月の細い指先が相手の肉棒に悪戯を再開する。
「はぁ……ああ、ん…っ!」
夏用の薄地の掛布団越しに、くちゅ、くちゅ、と濡れた音が聞こえてくる。
既に自身による愛撫で先走りが滴っていた面影の分身の先端に三日月の指先が触れ、見えない所でぱくぱくと口を開閉させる窪みの様子を探って三日月が微笑んだ。
「ほら……」
とんとんと促す様に窪みを指の腹で優しく数回叩いた後、じっくりと窪みの周囲の粘膜をなぞり回して射精を促され、面影はあっさりと陥落した。
「んっあぁ!! い、くぅ…っ!!」
ひくんと喉を反らし、引き攣った声を上げ、全身を震わせながら面影は三日月の掌の中へと精を放った。
数刻前にも散々抱かれていたのに、それにも飽き足らずにまだこんなに派手に達してしまう姿を相手に見られてしまい、今更ながらに羞恥が面影を襲う。
しかも、更に悪い事には…射精をしても、まだ面影の肉体の飢えは満たされてはいなかった。
(ああ……やっぱり、まだ……)
疼いている……身体の奥……手指では届かない場所…
吐精する事で多少は熱を鎮められるかと期待していたが、その望みは既に叶えられないものと知れてしまった。
この疼きを止められるのは……やはり目の前の男しかいない……しかし……
(私のせいで起こしてしまった上に……これ以上のおねだりなんて……)
頼りたい、縋りたい気持ちがある一方で、早く寝かせてあげなければ、という気持ちも消えた訳ではなく、面影の心は千々に乱れた。
(どうしよう……三日月の側にいることでこんな事になっているなら、いっそ部屋に戻ったら…)
部屋に戻ってすぐに解決と言う訳ではないが、此処を出て浴場なりで水浴びでもしたらおそらく一気に身体の熱など冷めるだろう。
三日月に縋りたい気持ちを何とか抑えようとしたところで、その決意を口出す前に、面影はまたも先手を打たれた。
ぬちゅり……
「ふあ…っ!?」
掌で受け止めた相手の精を指に絡めた三日月が、それを潤滑油代わりにして面影の秘蕾に人差し指を優しく差し入れてきたのだ。
「ん…っ…あぁ…」
漏れる面影の声に苦痛の色は無く、寧ろ微かに悦びの色が混じっており、指に伝わってきた相手の身体の反応に三日月が笑みを深くする。
「流石に…先程まで俺を呑み込んでいたから、慣らしは不要か…?」
その言葉に面影は顔を朱に染めたが、三日月の言葉に嘘は無い。
今宵、一度眠りに就く少し前までは、三日月が言う様に面影は彼と身体を重ね、身体の奥までをじっくりと愛されていた。
一度ではなく、何度もその逞しい楔に貫かれ、熱い迸りを受け止めた。
なのに…あれだけ貫かれ、擦り上げられ、注ぎ込まれたのに、まだ相手を欲するとは……
「すま、ない……」
まるで己の強欲さを示された様で、今更ながらに相手を起こしてしまった申し訳なさが若者を苛んだ。
「その……疲れているのなら、無理に付き合う事は…」
ぐり…っ
「……っ!!」
言いかけた面影の後背部に、熱く固いものが押し当てられた。
それは、場所と感触、大きさから考えて間違いなく……
「ああ、だめ…っ」
切ない声で、面影は必死に相手に懇願した。
だめだ……我慢出来なくなる……折角、必死の思いで断ろうと述べた言葉を、撤回して縋ってしまいそうになる……!
しかしそれに構わず、三日月は尚も熱く昂った『それ』を、ぐいぐいと面影の肌に押し付けて存在を知らしめた。
「……つれない事を言うな…」
「え……あっ、ああ、ん…!」
左の指は後蕾の悪戯に残しつつ、右腕も面影の身体の下から前に回すと、三日月はくりくりと相手の胸に咲く蕾を摘まんで弄り始めた。
「必死に声を殺して淫らに悶えるお前を見せつけられておきながら、今更『お預け』か…?」
ふぅっと煽る様に吐息を耳の奥に吹きかけられ、ぞくんと背筋が粟立った面影が思わず肩を竦める。
「ふ、あぁ…っ」
三日月の言葉に、期待で胸が高鳴る。
もしかして……求めても、いいのか…?
求めたら…応えてくれる…と?
「………いい、のか?」
遠慮がちに小さく尋ねられ、三日月は少しだけ呆れた様に笑うと、答えだとばかりに一気に指を三本に増やして相手の後蕾に突き入れ、ぐちゅぐちゅと肉壁を蹂躙した。
「駄目ならば、こんな悪戯をしたりはせんよ…」
待っていたとばかりにその熱いうねりは三日月の指を呑み込み、誘う様に絡みつきながら奥へと誘おうとする。
「あ、あ、ああ~~~っ…!!」
嬌声を上げる面影に、熱い吐息を含ませながら三日月が尋ね返す。
「…欲しい、のだろう?」
「あ、あ…っ!」
最早、その誘いに抗う理性は残されておらず、面影は一も二もなく幾度も首を縦に振った。
「ほし、い…っ! 三日月…っ!」
「あいわかった。好きなだけくれてやるぞ」
ようやく求めていたものが与えられると心が歓喜で戦慄いているところで、面影はぐいと両方の腕を掴まれると、軽々と上体を起こされた。
「…?」
きょとんとする面影を尻目に、三日月は邪魔だとばかりに二人の身体を覆っていた掛布団をばさりと横へと退かせた。
外気に二人の身体が晒されたが、夏の時期なので寒さは感じない…寧ろ熱を孕んだ身体には心地よい程だ。
「折角俺の身体を気遣ってくれたのなら、それに甘えるとしようか。面影、今度はお前が自分で挿れてみるといい」
「え…っ?」
「俺は横になっているから、自分で挿れて、好きなように動いてみよ」
言われて、自分がどういう格好でそうするべきなのか察したところで、一気に面影の顔が真っ赤になる。
宵闇の中とは言え、すっかり夜目が利いてしまっているだろう相手の前で、その身体を跨いで挿入するという行為が恥ずかしくない筈がない。
ほんの少しだけ理性を取り戻した面影が躊躇っていると、三日月は相手の右腕を取り、それを、天を仰いでいる己の分身に導き、触れさせた。
「…っ…!」
知らず、ごくりと喉が鳴っていた。
熱く、固い…求めていたモノ……
それを確認したところで、僅かに戻っていた理性が再び溶かされていく。
がんがんと頭の奥で本能がいつまで待たせるのだと叫び、面影の背中を蹴る様な錯覚を覚えながら、彼はのろのろと動き出し、先ずは三日月に向かって相手の身体に跨る姿勢を取った。
それだけでも、自身の秘部を相手に晒す形になるので、面影は闇の中で頬を紅潮させながら相手に願った。
「あ…あまり、見ないで、くれ…」
対し、三日月はそんな初々しい反応を見せる恋しい男を優しく見つめつつも、見ないでほしいという願いはあっさりと拒否した。
「ちゃんと出来るか確認しないといけないだろう…? さぁ…」
確かに、三日月の身体も関わる行為なのだから見ていない訳にもいかないだろう。
理解はしつつも尚も羞恥を忘れられないまま、面影はそっと右手を後ろ手に回し、再度三日月の熱い楔を持つと、その直上にあった自分の身体をそろそろと下ろしていった。
つちゅ…と相手の先端が己の蕾に触れた瞬間、伝わる熱と感触に面影の全身が微かに震え、彼はそこから恐る恐るという感じで更に腰を落としてゆく。
「ん……っ」
相手の分身はかなりの太さと質量を誇るため、いつも挿入の際には三日月が細心の注意を払って面影の身体を慣らすべく愛撫してくれるのだが、今回は既に幾度か挿入を果たした後だったので、然程苦労なく先端が呑み込まれてゆく。
一番太い箇所である雁の部分が収まったところで、浅い呼吸を繰り返して凌いでいた面影が、改めて息を整えて少し速度を速めて腰を沈めていったが、残り僅かという辺りで三日月が相手の腰を掴むと一気に下へと引き落としつつ、自身も腰をぐんと上に突き上げた。
ばちゅんっ!と水音が混じった、肌がぶつかり合う音が響くと同時に嬌声が上がる。
「ひ、ああああっ!!」
一気に突き入れられ、目の奥に火花が散った。
今まで取った事がない体勢だったので、刺激される場所もいつもとは異なるせいもあって、思考が混乱する。
「……根元まで挿入ったな……どうだ?」
「は……っ……は、ぁ…っ……あ…っ」
三日月が問いかけても、面影は頤を反らし、はくはくと口を何度も金魚の様に開閉させ、端から唾液を流して喘ぐのみだった。
「はは……刺激が強すぎたか?」
苦痛ではなく、快楽で悶え喘ぐなら構わぬと、三日月は薄く笑って相手に動く様に促した。
「さぁ、お前が好きな様に動いてみろ。」
「あ……ん…」
ようやく挿入時の衝撃をやり過ごした面影は、ゆっくりと腰を回す様に動かし始める。
そうする事で、肉壁に楔が擦り付けられじわじわと快感が広がっていき、更にそれを求めて面影が腰を揺らす。
「はぁ…ん…あっ…あっ……」
初めての経験で、最初こそおっかなびっくりの態で遠慮がちな動きだったが、もたらされる快感に導かれて徐々にその動きが激しく、大胆なものになってゆく。
「あ、ああっ…い、いっ……奥ま、で…届いて、る…っ」
自重で身体が深く沈んでいる分、相手の先端がより奥深くまで挿入され、秘部を抉り突いてくる快感に、頭の中が真っ白になる。
「んっ…はぁっん…! も…っと…」
左右の動きだけでは物足りなくなってきたのか、徐々に上下の腰の動きも加わってきた。
ずちゅっずちゅっと響く水音を遠く聞きながら、面影は朦朧とした意識の中でより一層の快感を求めてゆらゆらと身体を揺らし、一番好いところを探していたが、やがて上体を反らした姿勢で擦られるのが気に入ったのか、三日月の太腿に手を置きその体勢を維持しながら上下にも激しく動き始めた。
既に己の分身も昂ぶり、その頭を天に向けてそそり立っていたが、面影が腰を動かす度にそれも揺れている。
「ああっ…! 気持ち、いい…っ! んあっ…み、かづきぃ…っ」
「……良い眺めだな…」
下から見上げる様に自分の痴態を見つめてくる男に、最早恥じらいも忘れて面影が懇願する。
「んっ……三日月…もっ……うごい…て……!」
「!………ああ、本当に可愛い奴だ…」
強請ってくる若者に満足そうに微笑み、三日月は求められるままに相手の腰を掴んで彼の動きに合わせて腰を突き上げ始めた。
更に深く強く貫かれ、奥を抉られ、面影が瞳を潤ませながら涎を零しつつ悦楽に悦ぶ。
「……美味いか?」
「ん……おい、し……」
相手の言葉を最早そのまま受け取るしか出来なくなる程に、今の面影は快感に全ての思考を支配されてしまっているらしい。
しかも、いつもなら決して安易には口にしない淫らな言葉すら自ら口の端に乗せるまでした。
「おい、しい……みかづきの、オ〇ン〇ン…ッ! だから…もっと、もっとぉ…っ!」
「…っ!!」
相手からの直接的な欲求に、三日月も大いに雄としての本能が刺激され、より荒々しく腰を掴むと、幾度も上へと激しく突き上げ始める。
「ひっ、あ、あああんっ!! い、好いっ!! あっ、いっ…そこ…っ、もっと突いて…っ!!」
「面影……っ」
獣の様に涎を流しながら首を振り悦楽を貪る恋人を攻め立てながら、面影の腰を支えていた両手の内の右側を離すと、すっかり勃ち上がっていた相手の肉棒を握り込み、擦り上げる。
「あっ、はああぁぁっ! やぁ…っ! そんな強く擦らな、でっ!」
快感が大きくなりすぎて怖くなったのか、それとももっと長く快感を引き延ばしたいのか、三日月の手を抑えながら懇願する面影に、相手はくっと唇を歪めて、ひそりと耳元で囁いた。
「…お前のオ〇ン〇ンも…とても熱いな…」
「あ…っ…やぁ……っ」
淫らな言葉を耳元で囁かれながら、ぐちゅぐちゅとわざと音を立てながら扱かれ、下からも突き上げられ、面影はあっという間に絶頂へと追い詰められる。
「ああっああっ…! だ、め…っ、もう達くっ! あっ、三日月っ! 達くうぅっ!!」
「良いぞ…達け」
「は…っ、あ、あああ~~~っ!!」
許しの言葉が引き金になった様に、びくんと面影の腰が痙攣したと同時に嬌声と共に雄の果実が爆ぜた。
そして、それとほぼ同時に、三日月も彼の身体の奥に己の欲望の証を解き放った。
「……っく…」
「ああ…みかづき、のが……いっぱい、射精てる…っ」
ぶるりと身体を震わせ、奥まで流れ込む雄の証の熱に面影が熱っぽく囁く。
びゅくびゅくと、数度に渡って放物線を宙に描いた精の飛沫が、横たわっていた三日月の上体に降り注ぎ、その熱を感じた男がうっそりと笑う。
その身を穢されたという怒りなど微塵もなく、相手の全てを己の身で受け止め、感じる事が出来た事を悦んでいる様な表情で、三日月はゆっくりと前に倒れてくる愛しい相手の身体を受け止めた。
二人の上体が重なり、三日月のそこに散っていた面影の精がぬるりと双方の身体に塗り付けられるのを感じながら、二人はどちらからともなく唇を重ねる。
「ん……三日月……」
「ふふ…」
くちゅくちゅと互いの舌が絡まり合い、淫らが音が暫し響いていたが、やがてぬるりとそれを離した面影が熱っぽい瞳で相手を見つめる。
熱っぽい……渇きがまだ満たされていない瞳で…真っ直ぐに……
「面影……?」
「もっと……欲しい…」
「…!」
意外なまでの相手の積極性に目を見張っている三日月の唇を再び塞ぎ…離したところで切なげに願う。
「三日月の…オ〇ン〇ン……もっと…食べさせて…」
「っ!!」
まだ相手の身体の内に収まっていた己の分身が、一気に固さを取り戻しむくりと頭をもたげるのを感じた三日月は、ぞくぞくと背筋を走る衝撃を感じながら二人の身体をぐるりと反転させ、相手を下へと組み敷いた。
そうされても面影は殆ど動じる事もなく、寧ろ両足を掲げて三日月の腰に絡めてぐいと引き寄せ、再び彼の肉棒を肉壺の中で包み込んで蠢き始める。
「んん…っ…あ…三日月ぃ…」
「…小悪魔め…」
不敵に微笑み、三日月が面影に宣言する。
「良いだろう、想い人の望みを叶えるのも甲斐性だ……こうなっては、今宵は眠れると思うなよ」
抱き潰してくれる…と、三日月は相手の腰を抱え、勢いよく突き込み始めた。
寝る前に繋がり放たれた分と、先程の射精の分の精の名残が、繋がった部分が擦れる度に大きな水音を立てる。
「んあああっ! あっ、あっ! すご、いっ! オ、〇ン〇……ッ、もう、こんなに大きく…っ!!」
ぐんぐんと大きくなり、自らの身体の奥を圧迫する存在に、面影が動揺しながらも腰を揺らして悦んでそれを迎え入れる。
「あ、あああっ…! そ、こぉっ! んっ、ふあぁぁ!」
「ここが好かったのだろう…? 何度も擦り付けていたからな……」
騎乗位の際の相手の行為を見抜いていた三日月が、ぐりぐりとその箇所を先端で捏ね回す度に、面白い程に面影の甘い悲鳴が響いた。
「は、あぁっ! 三日月…っ…み、かづきぃ…っ! 好いっ……い、いっ…!!」
「…良い子だ…」
素直に快感を伝えてくる恋人に優しく呼びかけると、三日月は三度、相手の身体を抱き起こし、対面座位の形を取ると、改めて下から相手の身体を突き、揺すり上げた。
「ああっん…!」
甘い声を零す相手の唇を塞ぎ、その胸に色付く蕾を胸板で擦り上げる。
更に相手の勃ち上がりつつあった肉棒も己の腹筋で擦りつつ、手も加えてじっくりと愛してやった。
あらゆる性感帯を一気に攻められ、面影は快感の余りに潤んだ瞳から涙を零しつつよがり啼いた。
「あああ~~~っ!! 達っちゃ…う!! こんなっ、すご、すぎっ…! またすぐに…達っちゃう…っ!!」
「良いぞ…何度でも達くがいい……」
そう嘯いて、三日月はひそりと相手に囁いた。
「朝まで……たっぷりと可愛がってやる」
「…っ!」
朝まで、果たしてあとどれぐらいあるのだろう…と考えつつ、その思考を打ち消す様に下半身から大きな波が押し寄せてくるのを感じる。
「だめ…っ…もうっ…!」
引き攣るような声を上げた面影に、処断を下す様に三日月がずんっと一際激しく下から突き上げると同時に、相手の肉棒を先端に向かって扱き上げた。
「ひっ…あああぁぁ~~~~~っ!!」
限界まで背中を仰け反らせ、面影があっさりと絶頂へと達する。
今宵何度目になるか分からない射精だったが、それでもその勢いは激しく、何度も吐き出された精がまたも三日月の身体をより白く淫らに彩った。
そして同じく、絶頂できつく三日月の分身を絞り上げた肉壁の奥に、彼の精がびゅるるっと打ち付けられた。
「ん、んんっ!……は、ぁ…っ」
内から灼かれる程の熱を感じながら身体を戦慄かせていた面影が、どさりと布団の上に押し倒され、は、と目を見開くと、直前に三日月の顔があった。
笑っている相手の瞳の奥に何処か隠しようのない情欲の炎の彩を見て、面影はぞくんと背中の産毛を逆立てながら、覚悟を決めざるを得ないと悟る。
望んだのは自分で…応えたのは彼だ……
その言葉に一言の嘘偽りもなく…彼はこれから朝まで自分を抱き尽くすのだろう……
しかし、背筋に走る戦慄は恐怖によるものではなく……期待だ。
(ああ………また、溺れていく…)
相手の行為の回数が多いのではないかと疑っていた自分だったが……もしかしたらそんな自分も似たようなものなの、か………?
相手が己の身体をまさぐり始める感触を感じながら、面影はまた程なく甘い吐息を漏らしながら快楽の海の中へと沈んでいった………