「ねぇ〜、いち兄、どうして寝所を分けちゃったの?」
「大した理由は有りませんが…強いて上げればそろそろ二人も自立が必要かと思ったのです。二人も自分の時間が欲しいと思うこともあるのでは?」
「そりゃ…そうかもだけどさぁ…」
ある日、鯰尾藤四郎は自分達の兄という立場にある一期一振に不満を述べていた。
その不満の原因はと言うと、先日、一期がほぼ独断で自分の寝所を弟分である鯰尾と薬研のそれから分けてしまったのだ。
一期達は普段から非常に仲が良い。
彼らが現在住んでいる本丸は、刀剣男士達が過ごし易い様に彼らの希望も最大限尊重する形で居住空間を定められている。
大体の刀剣男士達は個人で過ごす形態を好むのだが、一期一振達は同じ刀工によって打たれた兄弟刀という縁もあり、三人で一緒の寝所を共有しているという形を取っていた。
それなのに、である。
何故か今回については他の二人の兄弟達に相談することもなく、ほぼ一期一振の一存で処遇を決めてしまった。
一人だけの空間というものはある意味非常に贅沢なものでもあるし、もしかしたら一期は二人が反対するとは夢にも思わず良かれと思ってやったことなのかもしれない。
それでも自分達は兄弟なのだから、実行に移す前に一言くらい相談があっても良かったのではないか、というのが鯰尾の主張だった。
どちらの言い分も分かる、ちょっとした不幸な意見のすれ違いという奴だ。
「ねー、薬研も思うでしょ?」
「んーーー……まあ鯰尾の言い分も分かるけど、べつに喧嘩別れして部屋を分けた訳でもないし、そんなに目くじら立てて怒ることでもないんじゃないか?」
「薬研まで〜」
「よく考えたら、俺達くらいの見た目の年齢の人間はとっくに同衾なんかしてないしなぁ。それに…いち兄もいつまでも俺達の世話ばかりしている訳にはいかないだろ。俺達もちっとは自立出来るように頑張らないと………鯰尾、お前、今日も脱ぎ捨てた寝間着、いち兄に片付けさせてたぜ」
「うぐっ…」
びしっと手厳しい指摘を受け、思わず吃ってしまった鯰尾に一期一振は優しく笑った。
「寝間着の片付けくらいは何ということは有りませんが…鯰尾、今、薬研が言った通りです。闇を恐れて眠れぬ稚児の年でも無いのですから…ね?」
「む〜……そりゃ…困るわけでは無いけど…うーん、まぁ仕方ないかぁ」
その場では、取り敢えず一期一振の言い分が通った形になったのだった。
それから数日後…
「薬研……ちょっと相談に乗ってほしい事があるんだけど」
「? 何だ? いつになく深刻そうな顔して」
「うん…ちょっと、薬研にしか相談出来ない事でさ…」
「分かった。俺の私室で聞くってことでいいか?」
「うん」
また別のある日、今度は鯰尾は薬研個人への相談を持ち掛け、相手の私室に案内されていた。
薬研はその名の通り、人を殺める事もできる刀剣としては珍しく、真逆の人を助ける術である医術にも精通しており、その部屋には常に様々な薬効を示す生薬が置かれている。
物によってはそれは刺激が強いものもあるので、彼の私室は敢えて屋敷の割と隅の方に誂えられていた。
直射日光が薬効を失わせる事もあるので、彼の私室は他の男士のそれより薄暗く、独特の香りがその空間を満たしていた。
「で、相談って?」
「うん…」
密室に案内されたものの、それでも暫くは言い出し難い話なのか、もごもごと口籠もっていた鯰尾が、ひそりと小さな声で尋ねた。
「その……兄弟に欲情するって…おかしな事、なのかな?」
「は?」
突拍子もない質問に思わず薬研は聞き返したが、向こうは神妙な面持ちで…しかも顔を真っ赤にして押し黙ったままだ。
単純に冷やかしとか冗談で、という訳でもなさそうで、薬研はどう答えたものかと手を顎に当てて唸った。
「欲情…ねぇ…つまり、親愛の情を超えて、所謂男と女が互いを求める感情に近い事を言ってるなら……人間同士なら倫理とかいうもんに触れるかもしれないが、俺達刀剣男士にとっては話が違ってくるかもな。女の胎から産まれた訳でもないし、そもそも付喪神の俺達に人間界の常識を当て嵌めるのも不自然だ。神話でも民話でも、同じ同胞同士で子孫を作りってのはよく見る話だし」
「男同士でも?」
「俺達の生まれた時代じゃ、衆道なんて普通の事だっただろうがよ」
「…………」
そうだった…と今更ながらに思い出したらしい鯰尾が、はっと目を見張る。
つまり、今言われてようやく思い出すほどに、鯰尾の投げかけた質問は彼にとって衝撃的なものだったらしいが……果たしてどうして彼はそもそもそんな疑問を抱くに至ったのか…?
「…何かあったのか?」
「う…ん…」
再度口籠った後、鯰尾が顔を更に赤くして理由を述べる。
「一昨日の夜…俺、見ちゃって……いち兄が…その…自分で、してるとこ」
「………ああ」
同じく動揺するかと思ったが、意外にも薬研は鯰尾の告白を聞いてもさして感情を動かす様子もなく頷くのみだった。
「で、それを見たお前が興奮して、欲情したって事か? 性的なものを見て興奮するのは別に相手に特別な感情が無くても起こり得る生理現象だぞ」
「ちょっ…落ち着き過ぎてない!? あのいち兄だよ!? あの清廉潔白を絵に描いたようないち兄が…」
「いや、寝所分けられた時に気付けよ……聖人君子でもないし、いち兄だって健全な男性の肉体を持って顕現したんだ、人並みの性欲なんてあって然るべきだろうが。なのに寝る場所まで弟達と一緒だと、そりゃ、処理したくても出来ないだろ」
「そ…そうなの?」
「そうなのって……お前はどうなんだよ。流石に精通はしてるだろ?」
「俺は別に……夜にしなくても厠とかで済ませられたし…正直、そこまで性欲なんて…」
どうやら今までの鯰尾は性欲に対する意識が希薄だったらしい。
だから、一期一振の裏の事情までは察せなかったという訳か……
「で、も……あれを見てしまってから…俺、おかしくて……いつでもいち兄のアノ時の姿を思い出してしまって、その度に興奮しちゃって抑えるのが大変で……どうしたら良いのか…」
はぁ、と息をつく鯰尾のその吐息に熱が潜んでいるのが分かり、薬研は相手が見た兄の姿に興味を抱いた。
「……どんな感じだったんだ? いち兄は…」
「え………それは……」
問われ、鯰尾は言葉を探して、その時の事を回想し始めた。
「凄く、綺麗で……でも、メチャクチャにいやらしかったよ……」
そう、一昨日の深夜…
「…?」
何者かの声を聞いた気がして、鯰尾は目を覚ました。
本当に微かな音だったので、自分達の様に偵察能力が高くなければ気付かなかっただろう…実際、隣で寝ている薬研はまだ静かな吐息を立てている。
恐らく、ほんの少し前まで私室に篭って薬剤の調合を行なっていた疲労もあるのだろう。
それに、音には気付いたが、そこには敵意や悪意は感じられなかったというのもあるだろう。
(何だろう、いち兄の寝所の方から聞こえたぞ……)
敏感な聴力でそこまで察した鯰尾は、ふと純粋に好奇心を抱いた。
もしかして、いち兄が寝所を分けた理由が今の声に隠されているのではないか?
何であるかはまるで見当がつかないが、だからこそその興味は強く鯰尾の背中を押した。
(ちょっとだけ、覗いてみよう)
理由が分かればそれで良いし、そのまま布団に戻れば良い、と安易に考えた鯰尾はゆっくりと布団を捲って起き出し、一期一振の寝所へと続く廊下に出た。
廊下と言っても殆ど隣同士とも言える近さの場所なので、然程歩を進めなくても彼は目的の場所へと続く襖前に辿り着いた。
到着して、ゆっくりとその場に座り、静かに襖をほんの少しだけ開ける。
(いち兄の事だから単純に読書とかしてるのかもなぁ……面白くて声が出ちゃったとか?)
呑気にそんな予想をしていた鯰尾だったが、奥の布団に寝ていた一期一振の姿を確認した途端に硬直する。
(……え?)
それは、余りにも予想外な光景だった。
枕元の行灯に灯されていた光が、ぼんやりと部屋の中を照らしている。
薄暗い世界だったが、刀剣男士の鯰尾にとってそこの様子を確認するには十分な光源だった。
(え…っ……いち、兄…?)
弟が襖の隙間から覗いているその向こうで、兄である男は布団の上、不自然な動きで身体を捩らせていた。
「ん……っ、あ…」
漏れる声……先程自分が気付いたのは確かに彼の喘ぎ声だ。
必死に堪えているのだろうが、耐えきれず、時折漏れるそれは明らかに艶めいていた。
夢にうなされている訳でもない事はすぐに察せた。
相手の男は確かに覚醒しており、明らかな意識を持ってある行為に勤しんでいたからだ。
(ウソ………いち兄……あんなあられもない格好で…)
一期一振が寝ている布団は、鯰尾の方に足を向ける形で敷かれている。
つまり、頭側が一番襖から遠く死角になっていた事もあり、故に鯰尾が覗いている事実には相手は全く気づいていない様子だった。
一期一振は掛け布団は既に捲った状態で、纏う浴衣も殆どその役目を果たせていない程にはだけてしまっていた。
鯰尾が覗く前からの行為ですっかり着崩れてしまったのだろう、ただの布と化してしまったそれを申し訳程度に身体に纏わり付かせ、一期一振は夢中で行為に没頭している。
「あ……ああ…」
はだけた布から覗く細く白い脚が大きく開かれ、奥の秘所が鯰尾の目に飛び込む。
ある意味、覗き場所としては特等席でもあるその場で、少年は目を大きく見開きながら兄の痴態を一心に見つめていた。
(うわ……いち兄……なんていやらしいコト…丸見えだよ…!)
何をしているのか分かれば布団に戻る…そう思っていた事は最早記憶の外で、鯰尾はその場に留まり続けて兄の行為を凝視し続ける。
「んっ…ああ、好い……い、い…」
鯰尾の目の前で、相手の両脚の間にあった雄の証が天井に向けて雄々しく勃ち上がっており、彼は両手でそれを包む様に支え持つと、激しく上下に扱き上げていた。
耳を澄ますと、微かにくちゃっくちゃっと濡れた音がして、改めて注目すると手と肉棒が妖しく光り、濡れている様子が分かる。
(先走りだ……あんなに濡らして、腰も激しく振っちゃって…もしかしていち兄って、実はすっごくエッチ…?)
思いつつ、そんな男の様子を見つめていた鯰尾の呼吸も徐々に荒くなってきていた。
今まで、ここまで強烈な性的な光景を見たことがなかったせいか、こんなに興奮するのは初めてだった。
しかもその対象が自分の兄ともなれば尚更だ。
(ああっ……堪んなくなってきちゃった……いち兄の、せいなんだからっ…!)
まさか自分が、兄をオカズにこんな真似をする事になるとは……
せめて心の中で責任転嫁をしながら、鯰尾は衽をはだけて奥の自身に手を伸ばした。
(ああっ、うそ……こんなに大きく…!)
いつも事務的に行う時とは比べものにならない程に成長した自分自身に本人が驚き、触れた箇所から生まれる快感に更に驚いた。
(なにこれっ……いつもと全然違う……! き、気持ちいい…っ)
はぁはぁと息は荒くなり、目は興奮で潤み、口元は閉ざす事なく舌が覗き、涎が零れ落ちそうになる。
まるで獣になってしまったみたいだ…とぼんやりと考えていた鯰尾の目に、更に信じられない光景が広がった。
(え………あれって……待って、あれって…!)
息が絶え絶えになりながらも快感を希求していた一期一振が、不意に枕元に手を伸ばして何かを掴んで自分の口元に引き寄せた。
あれは布…いや、何かの服………ああ、見たことがある、と言うか知っている、あれは……!
(俺と……薬研の、寝間着…)
ぼんやりと、先日、自分の寝間着をいち兄が片付けてくれたと薬研が言っていたのを思い出す。
ならどうして今、あれらが彼の手元に…?
疑問に思っていた鯰尾の視界で、一期一振は彼らの寝間着を口元に持って行くと、顔の下半分をそれらで覆い、深く息を吸った。
右手はそれらを手に、左手はまだ自分の分身を慰撫しながら……
「ああ………鯰尾……薬研…っ」
(え…っ!?)
今……俺達の名前を呼んだ?
当惑する鯰尾が見ている前で、彼は何度も繰り返し、寝間着に篭っていた二人の匂いをうっとりと吸い込んでいた。
「二人とも……いい匂い…ああ、堪らない……っ」
(ちょっ………声、いやらし過ぎ…っ!!)
て言うか、俺達の匂いで欲情してるの!?と思った瞬間、背筋を走る衝撃で鯰尾は危うく達きそうになり、かろうじて堪えた。
ああ、だから、自分達と寝所を分けようとしたのか…と納得する。
弟達の匂いに反応する様であれば、それは同衾は辛かっただろう。
「鯰尾……薬研も……ああ、好い……と、ても、好いです、よ…あん…」
今、一期一振の脳内では、自分と薬研が彼の身体を愛撫し、犯しているのだろう……
見ると、先程までは分身だけを弄っていた相手の指が、その下に息づく後蕾に埋められ、繰り返し抽送されていた。
(あそこに…挿れるんだ………ああ、挿れたい…!)
あれが、昼間は毅然とした姿のあの兄の本性なのだろうか……いや、本性が何であれ最早どうでも良い。
(水くさいよ、いち兄……! 言ってくれたら…俺、俺、いち兄のこと…!)
望まれるだけ、犯してあげるのに…っ!
もし、ここで兄を襲ったら相手は受け入れてくれるだろうか…
受け入れてくれるかもしれないという期待はあったが、鯰尾はどうしてもその一歩が踏み出せない。
拒否された時の事もあったが、既に足腰に力が入らなかったのだ。
「んっ…」
自らを扱き上げる手の動きは、既に自制を離れて本能の赴くままに激しさを増してきており、おそらくもう数度でも扱けば果ててしまうだろう。
その時を、自らの動悸を遠く聞きながら鯰尾が待ち受けていたところに、向こうも絶頂が訪れそうになったのか、一期一振の掠れた声が抑えられながらも一際大きく聞こえてきた。
「あ、あ〜っ!! 鯰尾、薬研…っ、い、かせてっ! この兄を達かせて、ぇっ!!」
(いち兄……っ!?)
耳を疑ったが、それに意識を向ける前に身体が限界に達してしまった鯰尾は、声を必死に殺しながら背中を激しく震わせ、射精した。
これまでの中で最も快感が深く、大きく、それは容赦なく彼の脳髄に刻まれていく……
(あ、あ……こんなの…無理…忘れられなく、なる…っ)
これまでは淡々と処理するだけだったのに、欲情の対象が出来ただけでこんなにも身体は反応するものなのか、と思っていたところで、鯰尾の耳に兄の艶声が届けられる。
「あああっ! 達く、イクイクイクぅっ!! 二人とも、私と一緒に……っ! ああ〜〜〜っ!!」
「…っ!」
恍惚とした、口を開き舌を覗かせ、涎を溢す兄の達き顔と、相手の肉棒から勢いよく噴き上がる白濁した樹液が網膜に焼き付き、鯰尾に一瞬、自分が彼を犯している姿を錯覚させた。
強く相手の腰を抱き、雄々しく反り返った己の昂りをその最奥に突き立て、揺り上げ、思い切り哭かせている姿を……
(いち兄……ああ、抱きたい)
そしてその夜から、鯰尾は昼も夜も一期一振を犯す光景を見るようになってしまっていた……
「………」
「つまりそういう事……で……」
やはり多少は驚いたのか、薬研は唖然とした様子で鯰尾を凝視していた。
「いち兄が、俺達に……?」
犯されたがっている…?
呟き、その事実を改めて自身の心の中で認識したことで微かに頬が朱に染まる相手を見て、鯰尾がねぇ、と呼びかける。
「…どうしよ…俺、あれから身体までおかしくなって……自分で射精しても射精しても…治まらなくなってきて…」
「ああ、うん、まぁ……そうもなるだろうな…」
頭を押さえて、薬研が困惑の表情で呻いた。
自分達は人間よりも性別についての拘りは無いのかもしれない。
刀剣の付喪神は他のモノに宿る彼らよりも遥かに実力主義だ、力ある者に敬意を払い、その力を競い合い、眼鏡に適えば認め合う事には躊躇いはない。
それが例え敵であったとしても……
況や、一期一振は自分達が心から兄と慕う者であり、容姿は端麗、実力も折り紙付き。
兄として敬愛していた対象に情欲を抱いたという事は、つまり人で言うところの『性の目覚め』。
特に男性は、それを迎えた直後の時期は、その欲望に日常が振り回される程になるという。
今の鯰尾がそういう状態になっているのだろう事は、人の身体に精通している薬研には手にとる様に分かった。
そして困った事には、自分が求められていると聞かされた事で、己にもその欲求が発露してしまった様である。
「薬研……俺、今日の夜、いち兄の寝所に行こうと思うんだ。どの道、自分の身体がこんなじゃ碌に戦えないし…いつまでも悩むのは俺の性に合わないからさ」
「ああ、お前はそういう奴だよな…」
過去に拘らず、前を向いて突っ走る性格は今回の件についても引っ込む事は無いらしい。
しかし………
「で、何でそれをわざわざ俺に言いに来たんだ?」
自分で決めた事なら勝手にそう動けば良いものを、相談という形で自分に聞かせに来た意図は?
「う……」
鋭く指摘され、一瞬吃った鯰尾だったが、ここに来て隠し立ては無意味だと心を決めたのか、答えはしっかりとした口調だった。
「俺の名前だけ呼ばれてたなら何も言わずに一人で行ったよ。でも、薬研も呼ばれてた以上、隠しておくのは違うと思ったんだ……本当は独り占めしたい気持ちもあるにはあったけど、兄弟で隠し事っていうのはなんか嫌だったから」
「そりゃあ、義理堅いことで……」
「茶化さないでよ…! 夜の事、今考えるだけでも滅茶苦茶緊張してるのに…!」
まぁ戦では無いし、命を取った取られたという事にはならないが、結果によっては死にたくなるだろう事案に発展してしまうのは確かだ…
しかし、それでも…自分も興味がないと言えば噓になる。
同意なく襲うのは言語道断の所業だが、本人が求めているというのなら、それに乗ってみるのも悪くない。
いつもは冷静に行動する様に務めている自分だが、欲が全くない訳ではないのだ。
「……いいぜ、乗った」
少しだけ考える素振りをしてから、薬研はそう決断して頷いた。
「二人で…行くか」
「いち兄、今日は俺達がマッサージするよ」
「庭仕事してただろ? 少しは明日の身体が楽になるんじゃないのか?」
「おや」
その夜、いきなり寝所に特攻をかけるような真似は避けて、二人は一期一振にそれらしい理由をつけて訪問していた。
もうほぼ全ての刀剣男士が寝所に引っ込んだところで、一期一振もその流れで浴衣に着替えて寝所に向かうところで、鯰尾と薬研にそう声を掛けられたのだ。
こういう申し出は実は初めてではなく、今までも何度か一期一振に対して身体を解すためにマッサージを施したりする事はあった。
勿論、過去には今のような邪な下心を抱いて行ったことはなかったが……
なので、弟達の心優しい申し出を断る理由もなく、彼は何の疑念も持たずに二人を寝所に迎えた。
「二人からマッサージを受けるのは久しぶりですね」
「まぁね、気合入れてやるから力抜いてて」
「鯰尾は肩を頼むな。俺は足をやる」
二人は上半身と下半身とで分担し、一期に脚を伸ばして上体を起こす体勢を取る様に言うと、何も疑わずに従う兄にマッサージを開始した。
鯰尾は相手の両肩を適度な力を込めて揉み込み、薬研も一期の両脚のふくらはぎを揉み解していった。
剣士として鍛え上げられた身体はしなやかながらも強靭な筋肉を纏い、マッサージを施す手指にもしっかりとした感触を返してくるので、こちらも相応の力を要する。
「はぁ……凝りが解れますね…鯰尾も上手になってますよ」
「へへ、ちょっと薬研からコツを教えてもらったからね、気持ち良い? いち兄」
「ええ、余計な力が抜けて、良い気分ですよ。薬研も有難う、今日は少々足をよく動かしたのでいつもより張った感じが強かったのですよ」
「だろうと思った、確かに筋が張ってたからな。けど、結構解れてきたみたいだ」
そんな事を話しながら暫くはマッサージに集中していた二人だったが、最初に動いたのは鯰尾だった。
「ねぇいち兄、肩よりもっとリラックス出来るツボ、試してみない?」
「おや、そんなものも勉強したのですか? そうですね、では肩は随分と楽になりましたから、お願いしましょうか」
「うん………了解…」
こく、と無意識の内に喉を鳴らした鯰尾が、すぅと小さく息を吸ってから意を決して行動に移る。
相手の肩を後ろから抱くような恰好だった少年が、するりと右手を一期の肩口から下ろし、袂から中へと差し入れて胸をまさぐると、すぐに指先に触れた固い突起を捉えた。
「…っ!?」
びくんっと明らかに動揺した一期一振の肩が震え、その瞳が大きく見開かれた、が、その奥には怒りや嫌悪ではなく困惑の一色だけがあった。
常識的に考えて、その場所をツボとして解すなどあり得ない話ではあるが、自分の弟がまさかこんな行為を取るとは思えなかったのだろう、もしかしたら万が一にも本当の事なのかも、と信じようとしたのかもしれない。
「え……」
向こうの真意を探ろうと一期一振が振り返ってみると、そこには明らかに普段とは違う…『弟』の顔ではない、『雄』の顔をした鯰尾がいた。
瞳の奥に明らかな目的を宿した相手の気迫に、一瞬圧された一期一振の隙を突いて鯰尾は捉えていた兄の左側の固い蕾を親指と人差し指で摘んでじっくりと捏ね回す。
触れたばかりのそれはまだ多少の柔らかさを保っていたが、捏ね回し始めると途端に固くなり、心地よい弾力を返してきた。
「あ………っ」
思わずといった態で一期の口から微かに喘ぎ声が漏れる。
あまりに艶めいたそれが鯰尾の奥に潜んでいた雄の本能を刺激し、彼は更に大胆な行動に出た。
「…っ」
何かを耐える様に唇を噛みしめながら、鯰尾がぐいと兄の袂を無理やり力ずくではだけ、その上半身を露わにする。
男性とは思えない程に白い肌だったそれは今はうっすらと上気し、その左右に紅い蕾が膨らんで存在を主張していた。
「鯰尾っ! 悪戯が過ぎますっ…!」
そこでようやく一期一振が抵抗を試みようと身体を捻りつつ手を上げようとしたが、その両腕は引き下ろされた着物の袂に邪魔され、動けない。
「でも、気持ちいい、でしょ?」
ぞくん…っ
耳元で熱っぽい声で囁かれ、一期は背筋の震えを止められなかった。
それを無理やり振り払う様に、手が無理なら足を動かして何とか今の体勢から逃れようとした若者は、その動きを拘束され、犯人を見て絶望する。
「薬研…っ」
先程まで脚へのマッサージを行っていた薬研が、この時を予測していた様に既に兄の両足首を抑えつけていた。
「や、げん…っ、あなたまで…っ」
常人ならばともかく、自分と同じ刀剣男士からの拘束、しかも上から抑えられているとなったら、流石の彼でも振り解くのは困難だった。
その隙に薬研は相手の両脚を持ち上げ、更に行動を抑制すると、ぐっと相手の足甲を捕らえて先端部を己の口元へと運び……
くちゅ…
足の親趾を口に含み、舌でゆっくりと舐め上げていた。
「ふ、う…っ!!」
趾から走るぞくぞくとした衝撃に、思わず声を上げそうになった一期は、必死に手を口元に当てて堪えた。
人の身体は末端にいくほど神経が細かく分布しており、感度も相応に高くなる。
人の身を模して顕現した刀剣男士も、無論、その例外ではなかった。
脱力した兄の反応を確認しながら、薬研は親趾だけでなく他の趾も同じ様に口の中に含んで唾液を塗り付け、時折舌を覗かせて趾間に差し入れ、狭間の皮膚にも刺激を与えていった。
「や、めなさい二人とも…っ! 怒りますよ…っ!」
必死に言葉で二人を退かせようと試みる一期一振だったが、その声には既に力がなく、寧ろ喘ぎの方が目立って聞こえた。
両目を固く閉じ、二人が与える甘い刺激に必死に抗っているのだろうが、鯰尾から弄られ続けている二つの蕾はより一層紅く熟れ、ぷくりと膨らんで如実に身体が快感を感じている事を伝えていた。
「もう誤魔化さなくていいよ、いち兄……俺、知ってるんだ」
「…っ!?」
そっと耳元で囁いた鯰尾は、熱い吐息と共に相手の秘密を暴露する。
「一人でしてる時に…呼んでたよね、俺達のこと……『達かせて』って…」
「~~!!」
これ以上ないという程に一期一振の顔面が紅潮し、ぱくぱくと口が開閉されたが、そこから言葉が発されることはなかった。
見られていた……よりによって当人の弟達に……!?
愕然とした兄に、薬研が足趾から口を離すと、ずるりと自分の身体を相手の両足の上に乗せる形で詰め寄り、その股間に手を伸ばす。
衽を割るように手を差し入れ、そこに息づく相手の分身を握ったのだろう瞬間、一期がびくっと首を仰け反らせて掠れた悲鳴を上げた。
「ひ、ああぁぁっ!」
「……ほら、ちゃんと感じてる…弟に触られて気持ちいい?」
「い、いやぁぁ……だめ、こんなこといけない…!」
衽の奥で己の欲棒を掴まれ、布に隠れたまま掌で擦り上げられながらも、一期一振はかろうじて兄としての立場を固持しようと試みていたが、既に声音は陥落寸前のそれだった。
「腰、自分から動かしてるのに…?」
「だめ……もう、もう許して…こんな姿を弟達に見られるなんて…」
ひくん、ひくんと揺れる腰を止める事が出来ず、弟達に淫らな姿を次々暴かれた一期が震える声で懇願した。
「こんな姿って…いち兄とっても素敵だよ、俺、いやらしいいち兄も大好き…だから…」
乳首への悪戯を止めると、鯰尾が立ち上がって兄の前にその身体を挟み込む様な姿で立ち、自らの衽を広げて既に岐立していた欲棒を彼の目前で晒す。
「あっ……」
座っている相手の目前ではなくやや頭上辺りにはなったが、一期一振は猛々しい弟のそれを見上げた瞬間、頬を染めて瞳を潤ませた。
質量もさる事ながら、長さもあり、興奮している今は先端が本人の腹に付くほどに固く、雄々しかった。
(なん、て……立派な…ああ、こんなの見せられたら…私…)
「今のいち兄を見るだけでこんなになって…それだけじゃなくて、あの日から何度自分でしても治まらなくなっちゃって辛いんだ…! ねぇいち兄、責任取ってよ…」
「せき…にん…」
はぁ、と熱い吐息と共に相手の言葉を反芻しながら、一期はそろりと手を伸ばし、相手の茎を優しく握った。
熱い……命の脈動がどくどくと激しく伝わってくる。
「私のせいで……こんなに…?」
「そうだよ……だからお願い、鎮めて…」
相手の懇願は、寧ろ兄には酷く魅力的に聞こえた。
そう…自分のせいで弟がこんなになってしまっているなら、自分が責任を取って鎮めてあげたらいいのだ……
これは仕方のない事……兄が弟の面倒を見るのは、当然のことだ……
「わ、かり…ました…」
逸る気持ちを押さえながら…あくまでも兄として責任を取る素振りをしつつ、一期一振は上体で伸び上がり、相手の裏筋にそっと舌を這わせると、そのままゆっくりと先端までを舐め上げていった。
そして先端にぷくりと半球を描いていた先走りの露を舐め取り、零口の敏感な粘膜を滑らかな舌で優しく擦った……途端、
「あっ!? あぁ〜〜〜っ!! うそっ、うそぉお!! こんなっ!…っあ!」
「っ!?」
狼狽も露わな鯰尾の悲鳴にも似た声が響き、ぐっと前のめりになった彼はそのまま一期一振の目前で、射精していた。
鯰尾が一期一振の前に立った辺りから、一旦兄への愛撫の手を止めて様子を眺めていた薬研が微笑みながら見守る中で、一期は避ける事もせず寧ろ洗礼を浴びる巡礼者の如くその白い祝福を顔面で受け止めていた。
「ああっ、すごい、すごいっ! 鯰尾の熱い精液っ、こんな、たくさん…っ!!」
「なんで、止まらなっ……! いち兄の顔に、いっぱい、かけちゃ…っ!」
目の前で、自分が兄の顔に思い切り射精するのを見つめながら、その視覚的刺激に更に興奮して精が吐き出される。
ぶぴゅっぶぴゅっと粘った命の素が幾度も繰り返し放出された後、鯰尾は快感から一時解放され、途端に狼狽えだした。
「ごめん…っ! こんなにすぐに射精るなんて……俺、俺…っ」
自分でもまさかこんなに直ぐに果てるとは思っていなかったのだろう、男性としての機能を自分で調節出来なかったという事実は、少年にとってかなりの衝撃だったらしい。
「鯰尾、大丈夫、落ち着いて…」
「いち…兄…」
そこで一期一振が優しく諭す様に相手に声を掛け、再び彼の分身を優しく握ると、ゆっくり擦り上げながら語り掛ける。
「……はじめて、だったのでしょう…? 誰かにこうされることも……口で、してもらうことも…」
「…う、ん……」
「ならば、身体が驚いて当然です……私に粗相をしても気に病む必要はありません。私は貴方達の兄……弟達を導くのは兄の役目なのですから…」
「いち兄……あっ……」
諭され、落ち着きを取り戻した鯰尾が、与えられる快感に徐々に反応を示してくると共に、分身も再びその頭を早くも持ち上げつつあった。
「ああ、あんなに射精したばかりなのに、もうこんなに元気に……」
物欲しそうに眺めていた兄の喉が小さくこくんと鳴り、彼はまた口を開きつつそれを弟の肉棒へと寄せていった。
「今度はもう少し我慢しなさい……んっ…」
ぬちゅり…と、濡れて滑らかな粘膜で分身の全周を包まれる感覚に、鯰尾の全身が震えた。
何をされているのかを、視線を下へと落として確認すると……
(あっあっ…! いち兄が…俺のをおしゃぶりしてる……っ! 口の中、熱くてヌルヌルしてて、気持ちいいっ!)
一期一振の艶やかな口が開かれ、己の雄が茎半ばまで含まれており、時折くちゅくちゅと立つ水音が彼の舌が施す悪戯を知らせてくれた。
「んっああ…! いち兄の舌、いやらし過ぎ…っ」
悶えながらも無意識下で嬉しそうに腰を振り出した鯰尾に応える様に、更に一期は深く深く彼を呑み込んでゆく。
そんな淫らに絡み合う二人を眺めていた薬研が、くすっと笑って止めていた兄の雄への悪戯を再開し始めた。
「妬けるね、二人でばかり楽しまないで、俺も仲間に入れてくれよ?」
「あっ…薬研…!」
自分の両脚の間に身を横たえた弟が、手指で弄っていた肉棒を一気に喉奥まで呑み込むと、そのままゆっくりと頭を上下に動かして根本から先端までを擦り上げてきた。
「んっ、あああ〜!」
思わず一瞬鯰尾のものから唇を離し嬌声を上げる兄に、薬研はちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて相手のに接吻し笑って誘う。
「いい味だぜ、いち兄……後ろも可愛がってやるから、ちっと腰を上げてくれよ」
「あ、でも…そこは…」
躊躇う兄に、薬研はつんっと敷布団と、相手の臀部の中央の接触面を指で突く。
「今のうちに解しておかないと後が辛いぜ…? おしゃぶりだけで済ませるつもりじゃないんだろ?」
その先の行為を暗喩した薬研に軽く目を見開いた一期は、それからほんの少し顔の朱を強くしながら背中側の敷布団に両手を付くと、両足に力を入れて下半身を軽く持ち上げ、軽いブリッジの様な姿勢を取った。
「そうそう…直ぐに良くしてやるな…?」
言いながらするりと空いた隙間の空間に手を滑り込ませ、一期一振の後蕾に指を伸ばした薬研は、は、と何かに気付いた様に相手の瞳を見つめ……相手は潤んだ熱っぽいそれで、恥じらう様に見返してきた。
「……ふぅん」
にやりと笑い、薬研は再び相手に口淫を再開しながら、ぬぷりと人差し指を兄の後蕾に優しく突き入れ、そのまま根元まで呑み込ませていく。
「はぁ…ああ〜!」
侵入される感覚に声を上げた一期のその口元に、鯰尾が怒張した己を突きつけて懇願した。
「ねぇっ、ねぇっ! こっちも、続き…!」
口淫を薬研の乱入で中断されたのが辛くなってきたらしく、珍しく強制的に迫ってきた弟に、一期が優しく行為を再開させた。
「ええ、すぐにしてあげますよ鯰尾……んっ…」
そして暫くの間、三人の間には言葉は交わされず、ただその空間には淫らな水音と粘膜が擦れ合う音が響いていた。
(私は……何という淫らな姿を弟達の前で……これが本当に、兄として行う正しい行為なのでしょうか…?)
兄の責任という名目上、今の行為に至った一期一振が微かに残っていた理性で考える。
最初はこうではなかった、本当に健全で仲が良い兄弟達だった……しかし……
あの日だ、遡行軍に強襲されて全てが蹂躙され尽くしたあの日。
薬研や鯰尾の他にも沢山いた粟田口の弟達は無惨に折られ、目の前で刀解されていってしまった。
どんなに叫んでも、手を伸ばしても、届かなかった………
きっとあの日に、自分の心は何処かが壊れてしまったのだろう。
それからは、残った薬研と鯰尾により強い庇護欲が生じたのは当然の事だった。
もう二度と失われる事がない様に、もっと近くもっと強く自分の側に………
それがいつの間に、庇護欲から愛欲へと変わっていってしまったのか……
共に入浴した時は、二人の立派な男性を見て身と心がざわめく様になり、彼らに挟まれて眠りに就く時には、二人に激しく求められ愛される己を想像しては、気づかれずに治めるのに苦労する様になってしまった。
ずっと耐えるのも肉体的には難しく、何とか一人で慰めてきたのだが………
その暗い欲望を当の二人に指摘されて…今はどうだろう。
一人の弟の男根を浅ましく舐めしゃぶりながら、もう一人の弟には自分のそれを同じく口で淫らに乱されている。
そして自分はそれを咎めるでもなく、寧ろ腰を上げて後ろまで悪戯される事を許し、指で奥まで突かれる快感に悦び、腰をくねらせ応えている……
心の何処かで駄目だと叫ぶ自分がいるのに、この快楽に逆らえない……私は……
悶々と考えていたところに、薬研からくぐもった笑いと共に声が掛けられる。
「いち兄……これ、後ろ……自分でもしてたろ?」
「っ!」
つい今しがた考えていた事を言い当てられた様に、一期が目を見開く。
「解す必要も殆ど無いくらい、もう出来上がってる……分かってるかい? もう三本呑み込んでるんだぜ、それでもまだ足りないって絡みついてきてる…」
そこまで暴かれてしまったら、最早隠し立ても出来ない……
心を読まれた様なタイミングでの指摘に、一期一振はこくりと素直に頷いた。
「ええ…してました……ふ、二人に…抱かれる事を想像して……そう、この…」
目の前の鯰尾のいきり勃つ男性の裏筋をねっとりと舐め上げて懺悔する。
「二人の立派なオ○ン○を浴場で見る度に……犯されたいと思って……後で……一人で……弄って…」
「いち兄が……俺達のを想像、して……?……って、オ○ン○なんていやらしい言葉、いち兄が言うなんて…っ」
そんないやらしい事を…と、その光景を想像した鯰尾が一気に怒張をより大きく固くさせた。
「ああっ、いち兄っ! 俺、もう我慢出来ないよ…っ」
「鯰尾………わ、私も…もう…っ」
薬研に既に三本呑み込まれているという指摘を受けたことで、自分の奥の疼きを認識した一期一振が、ひくっひくっと腰を前後に震わせるのを受けて、やれやれと薬研が苦笑して相手の雄から口を離した。
「…一度達かせようかと思ったんだけど…このままの方が辛そうだな……鯰尾、お前まだ経験無かったんだろ? いち兄に筆下ろしさせてもらえよ」
「え…っ…いい、の? 薬研は?」
「俺は次で良い。この機会の切っ掛けをくれたのは鯰尾だしな」
自らの身体を退かせると、薬研は一期一振の身体を反転させて四つん這いにさせる。
「いち兄……」
獲物を狙う肉食獣の瞳で自分を後ろから見つめている鯰尾に、一期もまた獣の欲に溺れた様に相手を誘い………
「鯰尾……さぁ、来て」
自ら、人差し指と中指で、己のふっくらと息づいた後蕾を押し広げて挿入を促した。
「今度はこちらの口で……あなたを食べさせて」
「〜〜〜!!」
堪らず、鯰尾は夢中で相手の腰の左右を鷲掴むと、己の怒張を奥まで一息に突き入れた。
この瞬間だけは、本能だけが彼を衝き動かしていた。
「あああ〜〜〜〜っ!!!」
求めていたモノ……それがようやく挿入ってきた悦びと、もたらされた熱と感覚に一期一振は声を上げると同時に絶頂を迎えた。
びゅくびゅくと精を放っている兄の腰を強く抱きながら、早くも自身の腰を振り出した鯰尾がうっとりと声を漏らす。
「ああ、すごい……俺のオ○ン○、食べられちゃったみたい……!」
「はは、おめでとう鯰尾、これでお前も立派なオトコの仲間入りだな」
薬研がそう言いながら一期の目の前に回り込み、膝を付いて相手と直近で目線を合わせる。
彼の兄は、もう一人の弟に貫かれた快感で視界がぼやけている様で、その瞳の焦点は定かではなく、唇も半開きでだらしなく涎を零していた。
「イイ顔してるぜ、いち兄……最初の一突きで達かされるなんて、そんなに良かった?」
優しく問われた一期が、こくこくと首を縦に振って朦朧とした中で素直に答える。
「こんな、こと…本当はいけない事なのかもしれない……でも、私はずっと…二人とこうなる事を願っていました……」
「いち兄………それは俺達もさ」
愛おしさに押されて、薬研が一期と唇を重ねてその歯列を割り、舌を絡め合うと、一期の後ろから鯰尾の抗議の声が響いた。
「あーっ! 何勝手に抜け駆けしていち兄と口吸いなんかしてるの? 俺だってまだなのに〜!」
抗議はするが、身体を兄と繋げたままなので実力行使は出来ない鯰尾の前で、薬研は構わずぐちゅぐちゅと一期と互いの唾液を味わう様に口吸いを続け…やがて唾液の糸を引きながら唇を離して挑発的に微笑んだ。
「そっちを譲ったんだからいいだろこれくらい」
「むぅ…じゃあ、俺も後でしてもらうからね!」
「ああ………けど」
唇を離された後の一期は、後ろを犯される快感に喘ぎながらも、その表情は何処か切なげだった。
「あっ……はぁ、はぁ、んっ…い……そ、こ…」
「まだ物欲しそうな顔だな……なら今度は、俺のを食べさせてやるよ、いち兄」
そう言って立ち上がった薬研が、十分に怒張した己を支え持ち、相手の口元に突き出す。
太さは鯰尾のそれより一歩及ばないかもしれないが、長さで言えばこちらが上かもしれない。
雁が張り、ぐんっと固く反り返ったそれは、目の前で己を凝視している兄を犯すと宣戦布告しているようにも見てとれた。
「ほら、好きなんだろ、コレ…いち兄」
「薬研……ああ、薬研のも…素敵…」
拒む事もなく、くちゅっと弟のものを雁まで含んだ一期は、その秘められた熱に浮かされた様に更に深く激しく相手のを貪り始め、それと同時に鯰尾が喉を反らして声を上げた。
「ああっ! いち兄の内が、もっとキツくなって…オ○ン○きゅんきゅん締め付けてきて…る…っ すごい…っ!」
「はは、俺のを咥えて感じたのか、いち兄………本当にいやらしいな」
自分達の声も聞こえない程に快感を追うのに夢中なのか、一期一振はくぐもった呻きを時折漏らすのみで、後は上下の口から淫らな水音を響かせるだけだった。
「…鯰尾、いち兄の内はどうだ…?」
「すっごくイイよ……熱くてキツくて、いやらしく搾り上げてきて……薬研も、いち兄のお口の中、凄くイイでしょ?」
「ああ、吸い付きと舌の絡め方が最高だ…流石に同じ男だからな、イイところはわかってる…」
そして、二人はお互いにお互いの瞳を見つめ合いながら、腰を振って兄の身体を共に犯し続ける。
聞こえる兄の甘い声、呻き、粘膜が擦れ合う音に耳が犯されながら、弟二人はその淫靡な空気に酔いしれつつ、どちらからともなく上半身を寄せ合い、唇を重ねていた。
「ん……」
「はぁ、ん……」
何という爛れた光景………
二人の弟が兄の上下の口を各々の男根で犯しつつ、その彼の背の上で、互いに熱い接吻を交わし舌を絡め合う。
それは少年達の身体の肉欲のみが成せる業なのか、それとも共に刻まれた同胞の魂が互いを呼び合い、溶け合おうと求めているのか……三人にも分からない。
今は、この欲求に抗える者は誰もいない、それだけが真実だった。
「ねぇ……俺、もうそろそろ…」
「ああ、俺も…ヤバい…」
やがて二人の唇が離れ、共に最後の瞬間を察して兄の様子を伺うと、彼も同じく限界を求めているのか口と腰の動きがより一層激しくなっていこうとしていた。
「んんっ! くぅっん…! あっ、きて……きて……」
「鯰尾、いち兄のも一緒に擦ってやれよ……一緒に達こうぜ」
「う、うん………いち兄、もっと良くしてあげるね……達こ…?」
更に奥まで何度も貫きながら、鯰尾が相手の下半身の前へと手を回し、再び岐立していたそれを握って扱き上げ始めると、一気に一期一振の絶頂へのアクセルが踏み込まれた。
「んあああ〜〜っ!! ああっ、薬研…っ、鯰尾ぉ! あああ、だめっ、達くっ! 達、きますぅぅっ!!」
「俺も…射精るっ……いち兄、飲んで…っ!」
「ああ、射精すよっ! いち兄の内っ、一番奥にいっぱい射精してあげるっ!!」
そして三人ともがほぼ同時に息を詰め…同時に達していた。
(あああっ、二人の熱い精液をこんなに注がれて……! 弟達に犯されて、達かされて…………)
身体の最奥まで幾度も精を注いでくる弟の昂りの痙攣を肉壁で感じながら、一期は上の口にも溢れそうな程に吐き出されたもう一人の弟の精を残らずこくこくと飲み下した。
精の味はその者が食しているものによって変わるというが、では、微かに感じる薬草の様な特徴的な香りと苦味は、彼がよく行う調合の折の薬味の影響なのだろうか……
弟のものならば、どんな味のそれでも喜んで飲み下しただろう、とぼんやりと考えながら、絶頂の余韻に酔って背中にしなだれかかってくる鯰尾と共に、暫し布団の上に横になる一期一振に、薬研がくすくすと笑いながら囁いてきた。
「美味しかった? 俺の…」
「や……げん……」
「……今度は、俺の番だぜ?」
「え…」
「俺も鯰尾と同じでさ……一度達ったぐらいじゃ治まらない」
「あ…っ」
ぐいと腕を引かれ、隣に胡座をかいた薬研の胸に抱かれた一期が耳元で囁かれながら、先程まで鯰尾を飲み込んでいた蕾に再び指を挿入される。
上体を引かれた煽りを受けて、一期から少し身体を離した鯰尾がゆっくりと上体を起こして眺める前で、ぐちゅぐちゅとそこから淫らな音が響いてきた。
「あっ、ああん、薬研…そんなに…激しく…まだ、鯰尾のが内に残って…」
「今度は、俺のをココで食べてもらうぜ…鯰尾にも、気持ち良くなる手伝いをしてもらおうな…?」
薬研の言葉通り、彼の雄は一期の口の中で果てたばかりだというのに全く萎える気配を見せず、寧ろより大きく興奮している様子すら見せていた。
「え……っ、あっ…」
達したばかり…しかも二人を相手にしていたのですぐには身体に力が戻らない兄が無抵抗である隙を突き、薬研は軽々と相手の身体を背中を見る形で抱き上げると、その両足をしどけなく開かせたまま自らの座した上へと下ろしていった。
「あ、あ、あああっ!」
ずぷぷぷ…と、一期一振の秘蕾に、下から貫く形で薬研の昂ぶりが呑み込まれていく…
既に鯰尾に貫かれ、まだ時間もそう経過していなかったので、蕾は十分な柔らかさを保ち、薬研を素直に受け入れていた。
所謂、『背面座位』で繋がり、薬研は相手の両脚の膝裏に手を掛けると、更にそれらを大きく開かせる。
「い、いやぁ…っ! こんな…全部、見えちゃ…っ!」
「その方が感じるだろう…? いち兄、いやらしいの大好きだもんなぁ…」
お見通しとばかりに笑みを含ませながらそう言うと、薬研がぐんっと軽く腰を上へと突き上げる。
「ひっ…!」
引き攣った声を一期が上げると同時に、彼の雄がびくんと跳ねた。
「ほら…身体は嬉しいって言ってる……もっと見てほしいって……折角だから、鯰尾にも繋がってるところ、見てもらおうぜ」
「いやっ! い、いけない鯰尾…! お願い、見ないで…っ」
懇願する一期の声に被さる様に、薬研は鯰尾に呼びかけた。
「鯰尾、来いよ。お前も一緒に、いち兄を気持ちよくしてやるんだ。ほら、お待ちかねだろう?」
「……いち兄…」
目の前で大きく足を拡げ、その奥の秘蕾で根元まで薬研を呑み込んでいる兄の姿は、余りにも淫らで、鯰尾は兄に拒まれてもその視線を外す事など出来ない。
しかも、本人も薬研から暗喩されて委縮するどころか、まるで相手の言葉に更に興奮している様に、雄の頭がより天へと向けられている。
「……大丈夫だよ、いち兄……俺達『しか』、見てないから…」
「な、まずお……?」
するっと一期達の脚の間に入り込む様に身体を滑らせて、鯰尾は横になって相手の雄と接合部に目線を合わせながら、彼の雄をそっと握り込む。
「とろとろの汁を零しているコレも、薬研を根元まで咥え込んでいる欲張りな口も…俺達弟しか見てないから……他の誰かになんか絶対に見せてなんかやらない……今のいち兄の姿を見れるのは、俺達だけ…俺達だけの……秘密…」
(秘密………)
その単語が、一期一振の頭の中で魅惑的に響く。
秘密……それを知るのは自分が愛する弟達だけ……ならば、恥じらう必要も最早ないのでは…?
愛しい弟達に抱かれる身を、彼らに見られること……それは一期一振にとっては恥ではなく悦びである様にすら感じられた。
ああ……赤の他人などではなく、彼らが、私がどれだけ感じているのかを知りたいと望むのならば……見て、ほしい……
「ん、あ……見て…見て、ください……私の…はしたない姿を…二人に抱かれて悦んでいる、淫らな姿を……ああ…」
熱に浮かされた様に囁く兄に応え、鯰尾がずいっと顔を一期一振達が繋がっている秘所の目前まで近づけてくすりと笑う。
「凄いよ…いち兄……俺が射精した精液でいち兄のココ、突かれる度にぐちゅぐちゅに泡立ってる…凄くいやらしくて…美味しそう…」
ぺちゃ…っ
「ふあぁ…! あ、あ…そんなとこ…舐めちゃ…あはぁっ! んっ! い、好いっ!」
鯰尾の伸ばされた舌が二人の接合部に触れ、じっくりと一周して自分が遺した精液も舐め取っていく。
そしてその舌はそのまま上へと移動し、二つの宝珠をそれぞれ口に含んで舌でからかい遊び始めた。
「ひぃん…っ! そ、そこ、は…っ! はぁぁんっ!」
ぐちゅっぐちゅっと秘蕾を何度も薬研に突かれる音を聞きながら、内の秘肉をうねらせ、一方では鯰尾に宝珠を嬲られ、精が今にも上がっていきそうなのを感じながら、一期一振は激しく悶えた。
そして、更に鯰尾が舌を上へと移動させ、兄の雄の裏筋を往復する形で舐め始めたところで、遂に我慢の限界近くへと達した。
「あっあっあ! だめ、だめっ! いっ…達きそ…っ!」
「あんっ! まだ駄目っ、いち兄…!」
達くのを止める様にその動きを中断すると、鯰尾がぐいっとその場から身を起こし、兄の身体と薬研のそれを挟む形で自身も大きく足を開いて、兄に身体を密着させる形で上へと乗った。
そして、一期の雄と自身の雄の裏筋同士を重ね合わせ、ずりっずりっと擦り合わせ始めつつ、彼の唇を塞ぎ、口吸いを始めた。
「んっ…達く、なら……俺も、気持ち好くして……いっしょに…達かせ、て…」
「ああ……二人とも…凄く、気持ち好いです…! 達かせてっ…! 二人のオ〇ン〇で、思いっきり!! あああっ!」
「俺も、気持ち好いぜ…いち兄、内に射精すからな…っ!! っく、うっ!!」
そして三人はより一層激しく腰を押し付け合い、淫らに振り立て……
「んあああああっ!! 射精る、よぉっ!! いち兄~っ!」
「はああんっ!! 射精してっ! 達ってぇ! 私の内にも、外にも…いっぱい射精してぇぇっ!! あああんっ、達くぅぅっ!!」
「くそっ…! 食い千切られそう…っだ…っ、うあぁぁっ!!」
ほぼ同時に三人は絶頂に達し、各々の雄からその証を勢いよく放つと、ぐったりと共に布団の上に沈んでいった………
「なに? 寝所を元に戻したい?」
「ええ……こちらの要望で変えておきながら、大変申し訳ないのですが…」
翌日、一期一振は朝礼が終わった後の廊下にて、筆頭近侍である三日月宗近に寝所の配置換えの件を申し出ていた。
自身の希望で変えておきながら、早々にそれを元に戻したいという勝手を伝えた事で男は非常に恐縮していたのだが、対した三日月は何でもないという様に柔らかに微笑むだけだった。
「あいわかった。では今夜にでもその旨、周知しておくとしよう。なに、元々の場所にお前が戻るだけだ、変更と言う程の変更でもあるまい。寝具の移動だけは個人の責任で行ってほしいが…」
「それは勿論です。我儘を通しまして、申し訳ありません」
「なんのなんの………やはり弟達に止められたか?」
「はぁ…」
そんな会話をしていると、廊下の向こうから鯰尾の元気の良い声が響いてきた。
「いち兄ーーー!! お布団、俺達で運んでおくね!」
廊下の後ろを振り返ると、一期一振の寝具一式を抱えた鯰尾がいた。
「…ええ、お願いします」
にこりと微笑む兄の返事を受けて、向こうはまたどたどたと賑やかに廊下を歩いていった。
「すみません、相変わらず不調法者で……どうも私がいないと落ち着けない様で…」
弟の行動を詫びた兄に、三日月は優しく微笑んで理解を示す。
「いやいや、兄弟、仲が良い事は良い事だ。兄離れさせたいという事で寝所を分けるという話だったが…無理にそれを急ぐ事もあるまい。共に居られる内はその時間を楽しむ事も大事だぞ?」
「……はい」
そんな会話を交わして三日月と別れた後、一期一振はそのままそこで佇みながら昨夜の弟達との逢瀬を思い返していた。
『ねぇいち兄……俺達の寝所に戻って来てよ……』
『分ける理由が無くなったなら、一緒に寝ても問題ないだろ?』
『しかし……三日月殿に手配して頂いたばかりなのに、すぐに戻すというのは………あっ、あん…』
あの激しい情事の後、三人で布団の中には収まったものの、それで鎮まる弟達ではなかった。
あれからも布団の中で身体を弄られ、焦らされながら、彼は弟達から寝所を戻す様に懇願された。
直ぐに戻すのは三日月や主への非礼になると一度は拒んだ一期だったのだが……
『大丈夫だよ、主も三日月さんも優しいし、これぐらいの変更なら許してくれるよ……ね? 早く戻して、夜は三人で……』
含みのある言葉を途中で止め、鯰尾が一期の胸の突起を舌で弄りながら吸い立てる一方で、薬研も相手の意見に賛同した。
『ああ、何なら俺からも上奏したっていい……夜の時間、無駄にはしたくないだろ?』
他人に気づかれない様に深夜になって部屋を渡るとか、寝所が一緒ならそういう気遣いも無用で、すぐに………
『ああ…二人とも、兄を困らせないで……はぁ、ん、薬研、オ○ン○擦りつけないで……また、欲しく…』
『ねぇいち兄…戻ってきてくれたら、毎晩、俺達がとろとろに蕩けさせてあげる……だから、ね?』
『大好きなコレも好きなだけ食べさせてやるから……いいだろ?』
それから………またどれだけの時間、自分は二人に犯され続けていたのか、最早記憶がない。
覚えているのは、彼らの言うがままに三日月に寝所を戻したいと伝える事を約束させられた事……そのご褒美に……二人の熱い精を同時に顔に注がれたこと……
どうやら自分の弟達は、二人揃って絶倫と称される程に精力が強い個体らしかった。
そしてその兄である自分も……そんな二人の性欲を受け止められる程に、淫乱だった様だ。
(これから……毎夜……?)
三人で、淫らな夜の宴を楽しむことが出来る………
「ええ………本当に……」
早速、熱くなってきた己の身体を抱きしめて、一期一振は、ぺろっと赤い舌を覗かせながら一人呟いていた。
「…………楽しみ、ですな……」