「三日月さーーん、おはようございまーす」
「うむ、鯰尾か。朝から元気な事だな。結構結構……おや?」
一月二日 朝
三日月は、一振の刀剣男士の訪問を私室に受けていた。
脇差の鯰尾藤四郎である。
いつも元気溌剌なこの若者だが、今日も朝から例に漏れず、はきはきとした口調で三日月に挨拶を述べていた。
しかも、今はその血色の良い右頬に大きな丸が墨でしっかりと描かれているというおまけ付き。
これは、今日の朝から有志で行われていた羽根つき大会の名誉の負傷といったところか。
負傷が墨での悪戯書きで済むあたり、実に平和的で微笑ましい、普段の戦いもこの様にいかないものか…と内心であり得ない希望を考えつつ、三日月は破顔した。
「ははは、これはまた立派な丸を頂いたなぁ」
「いやぁ、鶴丸さんにやられちゃいました。あと少しってとこだったんですけどね」
てへ、と頭を照れ臭そうに掻く鯰尾は、そう言いながらも特に悔しさなどは感じていない様で、相変わらず朗らかだ。
「で、最終的な勝者は?」
「鶴丸さんです。俺も結構いいところまではいったんですけど……流石に年季には敵いませんね」
「おや、そういう言い方をするとあいつはヘソを曲げそうだな」
軽口を叩き合いながら三日月と鯰尾が楽し気に笑い合った後、ところで、と鯰尾が切り出した。
「いち兄から聞きましたけど、お風呂の件、面影さんに聞いてもらえました? 昨日、結局会えなくて…今もちょっと障子越しに声を掛けたんですけど返事がなくて……散歩かな?」
「ああ……」
首を傾げる鯰尾に、三日月はしたりと頷いて説明した。
「奴にとっては、この本丸に来て初めての正月…そして冬という季節だからな。この景色を楽しみたいと言っていたから、もう暫くは外だろう」
「そうですか…」
少し残念そうに鯰尾が眉を顰めたが、その空気を振り払うように三日月がにこやかに答えた。
「心配するな、約束通り面影には先に許可を貰っておいた。部屋は空けておく故、風呂は気にせずのんびり使ってほしいという事だったぞ」
「本当ですか? やったぁ!」
「うむ、俺も散歩に暫し場を外す。そろそろ書初めの準備をせねばならんので、ついでに若水を取りに行こう」
若水とは正月、元旦に初めて汲む水であり、ここの本丸では昨日、複数の男士によって井戸より汲み上げられた若水を大甕(おおがめ)に溜めていた。
神棚に備えるなどの用途には既に使用されており、後はお茶を淹れたり料理に使われたりしていたのだが、書初め用に使ってもまだまだゆとりがある量は残っていたと昨日に確認している。
ならば幸先良く書初めにも使わせてもらおうと三日月は考えていた様だ。
「え、三日月さんにそんなことさせる訳には…俺が行きますよ!」
慌てた様子でそう申し出る鯰尾に、いやいやと三日月は首を振った。
「いや、俺が行こう。若水を取りがてら福にもあやかりたいのでな、手桶程度の重さで済むのなら、この役は喜んで爺が頂くぞ」
そんな二人の会話を、実は陰から密かに耳にしていた者がいた。
二人がいる場所からは死角となる場所…露天風呂から、である。
(三日月……若水を取りに行くのか…)
遠く二人の声を聞きながら、面影はほぅと軽く息を吐き出しながら湯船の縁へ軽く頭を乗せた。
今、彼が居る場所は広めの湯船の中。
但し、彼本人の部屋に誂えられたものではなく、三日月の部屋に備えられた露天風呂になる。
(……昨日、聞かれた通りだったな。まさかこんなに早い時間に鯰尾達が来るのは予想外だったが…)
これは予想外ではあったが、自分が此処を使わせてもらっていたのは幸いだった、と安堵する。
実は、鯰尾達が自分の部屋を訪ねてくるだろうことは、三日月から昨日の時点で知らされていた。
昨日の夕刻、三日月が一時私室を出た折に、一期一振から声を掛けられたのだという。
昨日の夕刻
「三日月さん、面影さんを見かけませんでしたか?」
「おお、一期一振か。面影に何か用事があったか?」
彼なら今、自分の寝所の布団の中で休んでいる…とは言える筈もなく、三日月はいつもと変わらぬ穏やかな表情で相手と対峙した。
今自分が此処にいるのも、おせちの幾つかを部屋に持ち帰ろうと出てきただけの事だったが、どうやら向こうもそうであるらしい。
弟達の分も取りに来たのだろう面倒見の良い兄は、苦笑しながら三日月に実は、と打ち明けた。
「私達の部屋にも作って頂いていた露天風呂がどうも調子が悪い様で…霊石に神気を込めても上手く発動しないのです」
「なんと」
最近、希望した刀剣男士達の部屋に増設された露天風呂は、一部人間達の作るそれとは異なる機構で稼働する様になっている。
その長たる機能が、水を温水へと変えるものだ。
地熱などの元からあるエネルギーをそのまま流用出来たらそれが一番だが、無論、そんな都合の良いものがほいほいと本丸の地面の奥から見つかる訳もない。
水は近場の渓流から幾らでも引いて来れる。
問題は水に与える熱だ。
大浴場の様に最初からそれありきで造られた施設なら、稼働時間なども予め取り決められた上で作成されているので、専用の設備を導入されている。
しかし、今回の様に後で造られた施設、しかもそれらを使う時間は刀剣男士達により様々だ。
朝に好んで入る者もいれば夜に入る機会が多い者、男士によっては幾度も入る機会を持つ事もある。
清潔を保つという目的以外では、体臭を消すという意味で入浴する者もいた。
人の身で顕現した以上、血肉を纏った存在であれば、僅かなりともその匂いは存在する。
隠密行動や、狩りを行う上で敵に気取られぬ為に体臭を限りなく消すというのは、立派な作戦でもあるのだ。
兎にも角にも、そんな各部屋の風呂の稼働時間が異なるとなると、その熱源についてはどうするのが最も効率的且つ効果的なのか……
そこで、審神者に三日月が進言したことがあった。
「霊石を据えて、俺達の神気を込めるのはどうだ?」
つまり、各風呂に霊石を置いて、それに付喪神である彼らが神気を分け与え、熱を生み、湯を作り出すという機構を考えたのだ。
魔なるもの、邪なるものから身を遠ざけたり、身を守る為に使われる霊石は、相応に質が高いものを求められる為、その稀少性は当然高くなるし同じく値段も張ってくる。
しかし今回の目的に使用される霊石は、単なる発熱の為の触媒に過ぎないし、破魔の効果を求められている訳でもないので、意外な程に容易に入手する事が可能だった。
ある意味刀剣男士達にとっては自給自足とも呼べる機能だが、これで最低限の出資で抑えられるという事にもなり、風呂への出費に頭を少なからず悩ませていた長谷部も一発で許可を出し、そのまま導入と相なったのだった。
そして、この機構は図らずも別の形でも利点をもたらしていた。
それが、今回の一期一振達の抱えた問題である。
「最近、確かに熱の篭り方が弱くなった気はしていたのですが、つい師走の忙しさにかまけてしまいまして。昨日、遂に反応が認められなくなってしまいました。新年早々に弟達に水風呂を強いる訳にもいきませんし、かと言って穢れを纏ったままに明けたばかりの年を過ごすと言うのも……」
「うむ、元旦は風呂に入らず福を留めるという言い訳も立つが、流石に連日となるとなぁ」
「ええ……しかし、私達の部屋の不調だけに留まったのは不幸中の幸いでした。当初の案で全施設の熱源を一括で管理していたら、最悪皆が水風呂の憂き目を見る事になったでしょう。大浴場もこの期間は調整も含めて稼働を止められてしまっていますし……」
「ああ、それは御免被る。このじじいの老体に水風呂は、正に年寄りの冷や水だろうからな、ははは」
一月一日はこの国において殆どの民の休みではあるが、その休みというのは普段のそれとは大きく異なる。
分かりやすく言うと、やらない事ではなく、やれない事が非常に多いのだ。
火を使ってはいけない、働いてはいけない、風呂に入ってはいけない…………ないない尽くしである。
無論、そんな休日に直ぐに霊石を調達出来る訳もなく、それで一期一振は困っていたのだ。
しかし………
「……うん? それと面影と何か関わりがあるのか?」
どうにも話が結び付かない、と三日月が首を傾げると、一期一振はいやいやと両手を身体の前で振った。
「いえ、実は以前、彼と話していた時に偶々露天風呂の話になりまして、面影さんの部屋に誂えられた風呂が割と広めであったことを思い出した事が。その時に、「困った事があればいつでも使ってくれて構わない」と仰っていたのを思い出しまして、厚かましくはありますがご厚意に縋らせて頂けないかと」
「ああ、成程。そういう事か」
一期一振一人の話であれば、誰でも頼めた事だろうが、彼だけでなく弟達もとなると話は違ってくる。
一人ずつお邪魔するよりも、一気に全員が入れる場所を短時間借りる方がお互いに気も使わずに済むだろう。
そういう事もあって、彼は面影を探し、入浴の許可を貰おうとしていたのだ。
「……ふむ」
顎に手をやりながら、三日月は考えた。
確かに、面影の部屋に付属する露天風呂は広めに設定してある。
近侍である自分の部屋のも大きいが、それと遜色ない広さを誇っているのは、彼が今回の各部屋への露天風呂増設の表向きの立役者であり、その功績を讃える為のものだからである。
………それも表向き。
実は、彼の部屋の風呂が大きいのは、三日月含めた他の刀剣男士達の計らいなのである。
彼が初めてこの本丸に来た時、勿論、彼も他の刀剣男士達と同様に生活をする事になり、その過程には入浴も含まれていた。
他の男士達と共に初めて浴場に身を浸した時、この男は予想外の反応を示した。
それまでの共同作業の中では殆ど無表情のままだった彼が、はらはらと湯船の中で涙を零したのだ。
ぎょっとする周りの男達と同様、本人である彼も自分の涙に気づいてからは、動揺も露わに理由を探している様だった。
『すまない………何故だろう、分からないんだ』
困惑の中で、面影はゆっくりと言葉を探しながらそれを紡いでいく。
『……こうして温かな湯の中で身が清められていくのが……初めてで、嬉しいと思っているのかもしれない。今まで私は、蟲の遺骸の汚れを受け、時には人の血肉を浴び、身を隠す為に泥も被って生きてきた。刀剣男士として、戦いの中に消えるまでそうやって身を置くのは喜びであると思っていた…………けれど、今のこの汚れを落とし、清めた姿のままで消えていくのも悪くないと、思ってしまった………どちらが……私は……どちらが……一体……』
その時、皆は彼がどれだけ孤独に、己の身を顧みずに孤独に生きてきたのかを思い知ったのだ。
そして彼らは同時に願った。
この若者が少しでも長く…許されるならずっと、この場所で自分達と過ごしていければ良いと。
だが。
そんな本丸での仲間達との共同生活も長くはなく、面影は一度、自ら夢の檻へと入り扉を閉ざした。
彼らを守り、本丸へと送り届ける代償に、犠牲になったのだ。
しかしその後、幸いにも悪夢の時間は終わりを告げ、本丸に先ずは審神者、そして続く形で面影が戻ってきた。
面影が戻れたのは正直審神者の力技の功績が大きかったのだが、その審神者に面影の奪還を強く頼み込んだのが三日月だったらしいという話もあるが詳細は伏せられたまま。
結果としては彼が戻ってきたのだから良しとしよう、というのが全員の一致した見解だった。
それから暫く後、面影の発案で露天風呂が設置される際に、ふと燭台切が呟いた。
『そう言えば、彼が本丸に戻ってきて、全員から何か記念になる様なものをまだ贈ってなかったね』
盲点だった。
面影が戻ってきた時にはその立役者である審神者の帰還がどうしても前面に出てしまっており、面影の慎み深い性格も相まって、歓迎会の様な賑やかな宴は催されはしたものの、贈り物までは考えが至っていなかったのだ。
さて、では皆からの歓迎の証、何が良いかというところで丁度話が上がっていた露天風呂の増設、彼の部屋のそれを一段大きなものにしてあげてはどうかという話になったのだ。
これは正に妙案と言えた。
あまり物に執着しない面影には、記念となる品よりも、あの日心に温かく刻まれた一時を、美しい四季の景色を見つめながらゆったりと広い湯船で過ごしてもらおう。
その案は面影本人にも手放しで受け入れられ、今の形となったのだった。
(確かに、あれだけ広ければ三人程度の人数は難なく入れる筈)
瞬時にそう判断した三日月は、その後、実に自然に一期一振に提案を持ちかけた。
「面影は帰るまでにもう少し掛かるかもしれん。どの道湯に浸かるのが明日の話であれば、隣の部屋の俺が折を見て話を通しておいてやろう。なに、気の良い奴の事だ、嫌とは言うまい」
心優しいあの男が困っている仲間の願いを聞き入れない筈はない、それは嘘ではない。
しかし、彼が帰るまでに時間が掛かるだろうというのは、ある意味正しく、ある意味嘘である。
何故なら、面影は今も自分の布団の中で一時の眠りについており、これから自分が部屋に戻った後も彼を手放すつもりは無いからだ。
師走から暫く触れ合う機会を持てなかった愛しい男を、明日まで私室の中に捕えて可愛がる予定を変えるつもりは微塵もない。
だから……「帰るまでには時間は掛かる」だろう。
三日月の言葉の裏の意味には当然気付く筈もなく、一期一振は素直にその言葉通りに受け取って申し訳なさそうに眉を顰めた。
「しかし、三日月さんを使う様な事をする訳には…」
「構わんよ、隣の部屋の俺なら帰ってきた時にもすぐに気がつく。明日の面影の都合も不明なら俺が聞いておくのが適任だろう。面影に会えたら、お前たちが風呂にいつでも入れる様に取りなしておくので、入りたくなった時には俺か面影の部屋に来てくれ」
「……分かりました、ではお言葉に甘えまして」
そうして、三日月と一期一振はそこで別れ、三日月はそのまま自室に戻ったのであった。
そして面影は布団の中で三日月からその話を聞かされ、特に断る理由もなかった事から快く応じたのである。
その時、少し考えてから三日月は面影に優しく囁いた。
「…一期一振達がいつ来るか分からんのなら、お前は俺の部屋の風呂を使うと良い。此処なら彼らと顔を合わせる心配もないだろうし、お前が部屋に不在でも俺が如何様にも対応出来るからな」
そして現在に至る……
(結果として、此処を借りたのは正解だったな…)
もし三日月に散々可愛がられた後の疲労困憊の姿を彼らに見られでもしたら、上手く誤魔化せる自信など微塵もなかった。
確かに此処にいる限りは三日月が防波堤となってくれるだろうし、最悪自分が此処を使っていることを知られたとしても、一期一振達に場所を提供していたという事にしたら十分に言い訳も立つだろう。
『おお~~~、やっぱり広いや! 初めてお邪魔するけど、気持ち良い空間だなぁ』
「…っ」
聞こえてきたのは鯰尾の声…しかし、それは先程までの私室の入り口である方向からではなく、自分が今いる露天風呂のすぐ近くからだった。
面影の視線が向く先は、自分の部屋に増設された露天風呂の方向。
彼が浸かっている三日月の部屋の露天風呂と、面影の部屋のそれは実質隣同士であるが、流石にその狭間は解放されておらず、竹造りの間仕切りが誂えられていた。
間仕切りは動かないようにしっかりと固定されているが、その下部には子供の頭程度の高さで空間が空けられている意匠になっており、目隠しの役目を果たすと同時に、ある程度の開放感を保っていた。
空いているとは言っても双方には湯船を構成している岩も配置されているので、かなり意図的に場所を移動し、頭をその高さに合わせて見ようとしないと、向こうの様子は視界には入ってはこない。
互いが男性であるからこそ許された緩い仕切りであるが、開放感をある程度維持するにはこれ位が良いのかもしれないし、実際この設備で困ったり困らせられた事は一度もなかったので、今までも面影は気にも留めなかった。
(声が聞こえてくるのは已む無いが、あれだけ元気な声なら仕方ないな……)
そう呑気に考えている間に、次々と他の刀剣男士達の声も増えてくる。
『鯰尾、面影さんがご厚意で貸して下さっているのですから、大事に使わないといけませんよ』
『分かってる! 取り合えず霊石に気を込めるよ。準備している間にあったかくなると思う』
『水そのものはかけ流しだからな。あまり気合入れすぎて熱くしすぎないでくれよ、鯰尾』
既に羽根つき大会が終わった時点で此処に来るよう兄弟間でも話し合われていたのだろう、一期一振と薬研の声も聞こえてくるが、鯰尾のそれよりは声量も小さい。
寧ろ、大浴場の雰囲気を感じられてこれはこれで微笑ましさを感じる…と思いつつも、面影はたぷんと小さな水音を立てて顎まで湯船に浸かった。
(……しかし、私が今此処にいる事を知られてしまっては、寧ろ彼らに気を遣わせてしまうだろうな……彼らが出るまでは大人しくしておこう)
自分が隣の三日月の部屋の風呂にいる事を知ったら、どんな鈍感な者であっても、彼らの為に自身の風呂場を譲った可能性を考えるだろう。
この場合の最適解は、彼らに自分が此処に居ることを気付かれないまま、やり過ごす、だ。
意図的に騒がなければ、これは難なく実践出来るだろう。
鯰尾たちがもう入浴を始めようとしているのなら、三日月も先程の発言から、若水を取りに席を外している筈。
暫くは一人でゆっくりと入浴を楽しめそうだ。
のぼせたらいけない、と霊石に込めた力を少しだけ抜いて温度を下げるように調節した後、改めて面影は湯船に身を沈めて息をつく。
腰を下ろして少しだけ視線を上へと向けると、澄んだ空と向こうには青々とした山並みが見える。
少し視線を横に逸らすと、本丸の周囲に植えられていた様々な種類の樹木の緑も目を楽しませてくれた。
「……ふぅ」
こうして湯船に静かに浸かっていると、それだけで活力が満ちていく気がする。
刀剣を実体とする面影達にとっては、こうして血液以外の液体に身を晒すなど考えられなかった話だ。
しみじみとそんな事を考えていたところで、どうやら本格的に入浴を始めた隣の兄弟達の声が再び響いてくる。
向こうの湯船の湯も良い塩梅に温まってきた様だ
『でも本当に綺麗に使ってるんだね、面影さん。俺達の部屋の露天風呂も粗末に扱っている訳じゃないけど、此処よりもう年季を感じるところもあるのに』
『そうだな……使い方もそうだが、此処を使うのが面影さん一人だって事もあるのかもな』
鯰尾の素直な感想に薬研が答える声が聞こえてきたが、それを耳にした面影は。自分なりにその理由を考えて…誰にも見られないまま顔を赤くした。
(………三日月のせいだ…)
彼と恋仲になってから、二人が本丸に滞在している日には、夜毎三日月が面影を求める様になってしまっていた。
面影もまた彼を慕っているが故にその求愛を断れる筈もなく、誘いに応じて彼の部屋を訪れる様になり……そのまま朝まで滞在する事も多い。
そうなると、なし崩し的に使う湯船は三日月の部屋のものになってしまうのだ。
つまり、面影の部屋に増設された露天風呂が真新しさを残しているのは、使用した回数が単純に少なかったという事も大きな理由だった……誰にも言えないが。
(けれど…確かに湯船から見る景色は、隣の私のより此処から見る方が馴染み深くなってしまったな……)
折角、皆が厚意でつくってくれたものなのにあまり使わないでいるというのは申し訳ない気もしたが、今日の様に他の誰か為になったのなら甲斐もあったというものだ。
(朝は此処を借りる形になったが、今日の夜は私も隣の風呂を使おうか………)
三兄弟が今正に満喫している自室の露天風呂の広さを脳内で再確認しながらそんな事を考えている時だった。
『え……駄目です、此処は借りている場所なんですよ!? そんな…』
遠慮がちに潜められた…しかし、しっかりと聞き取れた言葉。
あれは、間違いなく一期一振の声だ。
「?」
いつも兄らしく弟達を指導している彼らしい台詞だったが、普段聞くそれより若干、戸惑いが籠っている気がする。
何か、風呂場の中で鯰尾達が悪戯なり遊びを始めようとして、それを嗜めているのだろうか?
確かに広さがある分には、湯船の中で泳いだりといった戯れ程度は出来ると思うし、別にその程度の事ならやってくれても全然構わないのだが…
自然に首を傾げてしまった面影の耳に、今度は同じく少しだけ声量を落とした鯰尾の声が聞こえてきた。
『大丈夫だよいち兄。どうせ入った後で掃除はするんだし、面影さんもすぐには帰ってこないって三日月さんも言ってた。露天風呂にずかずか入ってくる人なんていないだろうし、大丈夫だよ、ね?』
(…隣に居るんだが)
何故か申し訳なさを感じつつも、自分が今更隣の湯船に居る事を種明かしする訳にもいかず、面影はそんな会話を聞きながら沈黙を守る。
やはり、鯰尾は何かしらの遊びをしようと画策している様だ。
そんな向こうの様子をつい探っていた面影の耳に、今度は薬研の声も聞こえてきた。
てっきり、あのしっかり者の若者が鯰尾を一期一振と共に諌めるという流れになるのかと思いきや、事態は予想外の方向へと流れていく。
『いち兄、覚悟決めろって。俺達しかいない場所で、こういう格好になっちまったら……分かるだろうし、いち兄だってその気なんだろ…?』
まさかの、薬研も鯰尾側に回っての意見。
しかし……風呂の中で一体何をやるつもりなのか……
(???………何かの遊びか?)
どうしよう、とてもその内容が気になってしまう……
しかしそれを知るには、間仕切りの隙間と岩の間から向こうを覗かねばならない。
客観的に向こうを覗き見る自分の姿を想像して、やはり止めるべきなのではないかとも思ったが、この状況下、此処で知らなければ今後相手方に聞く事も出来なくなる。
(……只の遊びだろう。何をしているかだけ見て、それで終わりにしよう)
知ってしまえばこの好奇心も満足するだろうと考え、面影はゆっくりと湯船の中を水音を立てない様に移動し、向こうとこちらを仕切る間仕切りの前まで来ると、手前の岩の狭間を縫う形で、仕切りの下の空間を通して隣の様子を覗き見た。
そこで彼が見たものは………
(………っ!! え…?)
てっきり、一期一振が一緒に付いているのなら、悪戯なり遊びと言っても健全なものであると思っていた。
せいぜい湯船の中で泳いで競走とか、そういう無邪気なものであると考えていた……のに………
(何を………している、彼は……)
三人は、裸のままで全員、湯船から床へと上がっていた。
鯰尾と薬研は、床の上、立ち姿で前の一期一振に身体の前面を向けている。
そして一期一振…二人の兄は、彼らの前に膝を床に付く形で座り………その両手を伸ばして弟達の雄の証を握り込んでいた。
右手に鯰尾の…そして左手には薬研のを。
いや、単純に握っているだけではなく、よく見ると左右の手を動かして、しゅっしゅっと弟達の雄を扱き上げている。
遊び? あれが?
違う、遊びというものではない……だって、自分も知っているから、あの行為を。
あれはそんなものではなくて……
いやしかしその行為を何故、あの一期一振が……弟達に?
『あ…っ…やっぱり、いち兄に扱いてもらうの、気持ちい……ね、薬研?』
『ああ……いち兄の今の姿を見ているだけで、興奮しちまうな…』
『も、もう……仕方のない弟達です、ね…』
ぺろっと舌を覗かせながら、普段の快活な表情とはまた違う雄の艶を漂わせている鯰尾の呼びかけに、薬研も息を荒くしながら頷き、頭の位置が下になっている一期一振を見下ろしながら頷く。
対し二人の兄である一期一振は、弟達を窘める様な発言をしながらも両手の動きを止める様子はなく、徐々に傾きが急になっていく二本の楔の熱を感じながら瞳を潤ませていた。
頬が上気しているのは決して湯船から漂う熱気だけのせいではなく、おそらくは欲情から来るものだろう。
三人のそんな姿を目の当たりにした面影は、過去に一度だけ、自分が他の男士達のまぐわいを覗き見た事がある事を思い出していた。
その時の相手方は二人であり、彼ら三人の中のいずれの者でもなかった。
本丸の中の刀剣男士達も、自分が知らないだけで実は他の男士に恋慕の情を抱いている者達は結構いるのではないだろうか…という思いが浮かんだが、それでも面影は今の目の前の事態を冷静に受け止める事が出来なかった。
(え……さん、にん、で…? 二人ではなく…それ以上の人数で、そういう事を…?)
確かに自分はこういう行為については既に知っているし、経験してもいる。
しかし、身体を重ね合わせるのは最愛の者同士であると信じている彼にとっては、目の前の三人での行為は衝撃を受けるには十分過ぎた。
(兄弟……なら、ありうるのか……? 確かに彼らは同派で兄弟刀として強い絆で結ばれている……親しい間柄なのだとしたら、こういう行為も受容出来るものなのか……)
自分には兄弟刀というものは存在しないからよく分からない……と思いながら、面影は目の前の三人の立場に自分を置き換えてみる…が、彼はすぐに首を横に振った。
思い浮かぶのは、自分と、恋い慕う三日月の姿……だったが、それまでだ。
もう一人の誰かなど思い浮かぶ筈もない。
当たり前だ、この心が求めているのは三日月宗近だけであり、他の誰かになど身体を委ねるつもりはないのだから………
だから、三日月以外の何者かを加えての行為など考えられない。
(……大体、そういう事をあの三日月が許す筈がないしな………)
自惚れて良いのなら、面影は己が三日月に唯一愛されている刀剣男士であると思っているし、信じている。
そしてこれまでの彼との繋がりの中で、相手が見かけに依らず独占欲が強い男である事も知っている。
もし万一、あり得ない話ではあるが、面影が他の者とのまぐわいを匂わせるような事を仕出かしたら……
(…折られるだろうな………間違いなく)
静かで優しい顔の裏に苛烈な激情を隠し持っている彼の事だ、私が裏切ったと知れば何の躊躇いもなくそうするだろう。
そこまで想像しても、面影はそんな末路を怖いとは思えなかった、それどころか………
(裏切ることはない……が、もし私が折れるなら……ああ、最も愛しい男に折られるのは良いかもな…)
こんな事を考えてしまうあたり、自分ももうかなり三日月に毒されてしまっているのだろうな……と思いながらも、面影の視線は目の前の艶事から外されることはなかった。
彼らが何をしているのかは分かった、只の遊びではなく、睦み事に耽っているという事も。
それは理解できたが……彼らがこれからどういう行為に及ぶのか……見てみたい……決して褒められた行為ではない、が…
(いけない事だと分かっている、のに………)
目が逸らせない面影が自分達の行為を見ているとは知らないまま、三人の行為は更に熱を帯びたものへなっていく。
『いち兄……ね、手だけじゃなくて口でもしてよ』
『ああ、それいいな…?』
『あん…っ』
二人が誘う様に各々の楔の先端を一期一振の口元に優しく押し付けると、彼は甘い声を上げたが拒む様子も見せず、先ずは言い出した鯰尾の雄の先端を舌を伸ばしてぺろっと舐め上げる。
『ん…っ』
ぴくんと鯰尾の顎が上がる形で反応を示す中、一期一振の舌は何度も水音をたてながら鯰尾の雄の雁を舐めて大きく育てていった。
『ん…ん……っ…あぁ…きもちい…いち兄、上手…っ』
腰を揺らしながらうっとりと呟く鯰尾の言葉を受けて、薬研が唇を歪めながら一期一振の頭を押さえ、ぐいと己の楔の方へと向けさせる。
『ほら、鯰尾ばかりじゃずるいだろ? 俺にもしてくれよ』
『あ……薬研…熱い…』
唇に触れた薬研の楔は既に熱く、先走りの露が一期の唇を濡らす。
その味を認識したと同時に愛すべき相手がもう一人いたことを再確認した様に、一期は今度は薬研の男根へと舌での愛撫を開始した。
ぴちゃ…ぴちゃ……ちゃぷん……
湯船から上がる水音と、一期の唇と舌がたてる音が不規則に響いてくる。
それを何処か遠くで聞きながら、三人の様子を見ていた面影も徐々に自身の身体の奥から熱が湧き上がるのを感じていた。
既に温くなりつつある湯のせいではない……目の前で繰り広げられる男たちの艶めかしく淫らな行為が、肉欲に囚われてしまった己を昂らせてしまっているのだ。
止めようと思ったところで、もう、止められるものではない。
(…これは…卑しいこと………けど、もう、我慢できな……)
はぁ…っと熱っぽい息を零しながら苦し気に眉を顰める面影の身体の中心では、ずくずくと欲望が溶岩の様に蠢き、解放を望んでいた。
「ん………っ」
湯船の中で面影の右手がゆっくりと下へと下ろされ、そろりと彼の分身に触れる。
(ああ……熱い……私のは…何もされていないのに…)
熱の奥に疼きと切なさがないまぜになった様な不思議な感覚が増々強くなっていき、きゅっと掌で楔を握ると、湯の熱以上の熱さが伝わってきた。
「……っ……」
熱と同時にじわりと湧き上がる快感に声を必死に殺しながら、面影はきつく閉じていた目をゆるゆると開くと、その先では相変わらず三人の熱い睦み合いが展開されていた。
今の一期一振は舌を伸ばして愛撫していた行為から更に積極的になっており、口腔内に直接熱を含み入れ、粘膜を使って擦り上げるなどしていた。
ぐちゅりぐちゅりと粘っこい水音をたててひとしきり一人の弟の肉棒を舐めしゃぶって可愛がった後で、今度はもう一人の弟のそれを同じ様に愛している優しい兄は、今は目の前の欲棒に縋る、欲情した美しい獣に見える。
(…あんなに……美味しそうに……)
恍惚とした表情で雄を含む姿を見て、面影は無意識にぺろっと舌で唇を舐めていた。
思い出してしまう……三日月と肌を重ねる甘いひとときを。
今の自分も最早三日月によって身も心も開発されている……口淫も既に経験済みであり、寧ろどちらかというと好きな行為だった。
相手の興奮を確実に知る事が出来て、直接愛する事が出来て、その味を楽しむ……それに相手が快感を覚えてくれるのだから。
「はぁ………っ」
己の鼓動がやけに頭の中に激しく速く響いてくるのを聞いていた面影は、間仕切りの向こうから切羽詰まった弟達の声が聞こえてきたことでは、と閉じていた瞳を見開いた。
『あ、あ…っ、も、射精る…うっ!』
『く、ぅっ…! いち兄っ、かけるぜっ…!』
一期一振の口淫によって追い詰められた二人の楔はほぼ同時に限界を迎えたらしく、彼らの上擦った声と共に激しく爆ぜた。
びゅるるっ! びゅっ、びゅくんっ!
どくんっ! どぴゅっ、ぴゅぴっ…!
『あ、ああぁ…〜〜〜っ…!』
二人分の白い樹液が勢いよく噴き上がり、そのまま一期一振の整った顔面に叩き付けられる。
上気して火照った顔が、真っ白な欲望の証に彩られていく。
故意か、無意識か…その時には一期の唇は開かれており、顔だけに留まらず口の中にも精の飛沫は大量に注がれていった。
『はぁっ、はぁあっ…! おいし……あぁ、かけて…もっと……んんっ…』
顔面を白濁で濡らしながら、一期は更に甘露を求める様に交互に二人の楔を口に咥え、粘膜で扱きながら残っていた中身を吸い上げる。
(……私、も………ああなのだろうか……)
握る己自身は熱く固く反り返り、性的な興奮に打ち震えている。
目の前の淫靡な世界は、これまで自身が知らなかったそれであり、故に面影に与えた衝撃も小さくないものだった。
三日月としか肌を重ねた事がない面影は、だからこそそれと比較するのも自分達二人の行為のみであり、過去の己の姿を頭に浮かべた。
自分も、相手に奉仕している時はああいう姿で三日月に強請っている……それを彼はどう思っているだろう……
(……三日月は……嬉しそうに………可愛いと、言ってくれていた…)
卑しく縋るなど、嫌われやしないかと思い悩んだ事もあったが、三日月の反応はまるで真逆だった。
「もっと、もっと俺を欲しがってくれ……お前の瞳に俺だけを映して……俺の、俺だけの面影…」
そう甘く囁かれ、優しく激しく暴かれ、深く深く快感を刻まれ教え込まれてしまったこの身は、もう戻れる事はないだろう。
もし万一、三日月と出会っていない過去の自分が彼ら三人の行為を目にしていたら……当惑するか、嫌悪すら示していたかもしれないのに。
(…変わってしまった……いや、変えられてしまったというべきか……)
そう考えると、目の前の三人も互いが互いを変えたのかもしれない……元が同じ刀派だけに、気の合う兄弟刀達だったのだから……それは、人の目から見たらかなり歪な関係に見えるだろうけど。
その三人は、兄に「ご馳走」を振る舞った弟達が、今度は自分達がそのご相伴に預かろうと彼の身体を押し倒しているところだった。
『ふふっ、おしゃぶりだけですっかりその気だね』
『ああ、いち兄は俺達のを舐めるの大好きだもんな……舐められるのも』
『あっ…はやく、二人とも……』
ほんの少し前までは二人を諌めようとしていたのが信じられない程、一期一振は弟達に欲情し、彼らを求めていた。
押し倒されたところで既に彼らの意図するところを察した様に、自ら両脚を大きく広げ、勃ち上がっている己の楔を見せつけて急かしていた。
『鯰尾、今度は俺が飲む番だからな。昨日は俺が譲ってやってたろ?』
『分かってるよ、じゃあ俺は根元の方を可愛がるからさ』
どうやら三人共、自分達と同様に昨日から身体を重ねていたらしい。
確かに家事に関わる事を何もしないことが命題でもあった昨日なら、自分達の様に布団の住人になる時間など幾らでもあっただろう。
あっさりと意思疎通を済ませた弟達は、簡単なやり取りの時間も惜しいとばかりに、即座に兄の雄へと口を近付けた。
ぬぷりと薬研が雁を含んでそのまま喉奥まで茎を飲み込む一方では、鯰尾が根元に舌先を這わせ踊らせながら、掌には宝珠を捕えて優しく転がしていく。
雄の証に二人分の口淫を受ける快感が堪らないのか、途端に一期の口からは嬌声が上がり始めた。
『はあぁ、いいっ、いいぃっ! こんなの、好すぎてすぐ…っ!』
直ぐにでも達してしまいそうな程に好いのだろう。
乱れまくっている一期の痴態を目にしていた面影も、その快感の程を想像して思わず前のめりになってしまった。
「ん………っ」
漏れそうになる声を必死に抑えながら、面影は左手も湯の中に潜らせ、股間へと運んでいく。
右手もまだ己の分身から離れない……離したくない。
ずくんずくんと疼きと痛みが共存している昂ぶりは、もう長くは保たないだろう。
早く解放したいという気持ちと、少しでも耐えてその後の快感を高めたいという気持ちがぐるぐると脳内で渦を巻いていた。
「あ………」
少しでも手で刺激を与えれば、もう……というところにまで来たその瞬間。
ぐっ…
「っ!!」
浅い呼吸を繰り返し、偶に出る声を小さく抑えていた面影の形の良い口を、背後から伸ばされてきた白い腕、その掌で塞がれたのだ。
予想外の出来事に、面影の双眸が最大まで見開かれ、息を呑む音と共に喉が生々しく動いた。
そして同時に己の楔を握っていた両手が即座に離れ、所在無さ気に湯の中を彷徨う。
真っ白になった頭の中で何を考える事も出来ず、身体の動きを止めた若者は湯船の中にも関わらず冷水を浴びせられた様な悪寒を覚えた。
この腕の持ち主に自分の痴態を見られてしまった現実に肩を震わせた面影の耳元に、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ほう…覗き見か?」
「…っ!?!?」
くすくすと笑みを含んだ声を掛けてきたのは、この湯船のある部屋の持ち主、三日月宗近だった。
いつの間にか部屋に戻っていたのか、いつもの狩衣姿ではなく今は入浴に用いる湯帷子を纏っており、その真っ白な生地の向こうに、濡れて透けた肌が見える。
よく考えたら此処に断りなく入って来られるのは、自分の他には部屋の主人である三日月ぐらいだ。
近侍であり、本丸の全刀剣男士を束ねる立場でもある彼の部屋に断りなく入室して来る者など居ないだろう。
自分が本当に動揺していたのだと認識したものの、面影の心は全く穏やかになれなかった。
結局、隣の湯船を覗いていた事実はこの男に知られてしまったのだ。
(ど、うしよう……)
最早、軽蔑されるのは間違いない…と面影が湯船の中なのにも関わらず顔面蒼白になっているのを他所目に、肝心の三日月は暫く無言で相手の口を手で塞いだ姿のまま、間仕切りの隙間の向こうを眺めていた。
………が、徐に面影の口を押えていた腕の力が強まり、低い音で彼にぼそりと囁いた。
「…浮気か?」
軽蔑よりも怖い疑惑を囁かれ、反射的に面影が否定する。
「ちが、う…っ!」
大声ではなく小声で返せたのは、せめてもの理性が残っていたという証だろうか。
焦る若者とは対照的に、三日月はくっく、と余裕を窺わせる笑みを零しながら、かぷんと面影の右耳朶を甘噛みし、口を押えた方とは別の左手を伸ばして彼の楔を握り込んだ。
「…!!」
三日月に声を掛けられた時の衝撃で、昂ぶりは若干その勢いを削がれてしまってはいたが、それでも依然、熱が籠ったままである事には変わりなかった。
「や………」
「……」
面影の熱が燻っている様子に気が付いた三日月は、首をいやいやと振る彼を背後から暫く無言で観察し……唇を一際深く歪めると、口を押えていた手をそのまま彼の頤にずらし、くいっと顔を持ち上げさせ、隙間から強制的にあの三人を覗き見る様に促した。
再び覗き見た隣の風呂場の中は、丁度良く、と言うべきか、弟二人に攻められていた一期の昂ぶりが絶頂を迎える瞬間だった。
『あ、ああっ…!! だめっ、もう、もうっ…!!』
『ん…っ』
『あは…っ』
びくびくと痙攣する一期の肉棒を押えつつ、薬研は最初に発された精液を口の中で受け止めると、敢えて唇を離し、続いての射出された白濁を鯰尾と共に顔に浴びた。
『~~っ!!』
声も出せずに両下肢を細かく痙攣させている一期一振の反応を笑いながら見つめている二人は、茎まで流れ落ちる精の残渣を舌先で掬い上げて処理していた。
『いち兄って結構絶倫だよな…昨日も散々可愛がって搾り取ったのに…』
『ふふ、でも気持ちよくなれるならイイよね。俺達も嬉しいし』
くすくすと笑い声を零しながら嘯く二人の弟達の声を聞き、同時に兄の欲棒をしゃぶり合う彼らの姿を半ば強制的に面影に見せつけながら、三日月が握り込んでいた面影の分身への攻めを開始した。
湯の中で、優しく包んだ掌で上下に扱き上げながら、顎から離した手で胸の蕾を捕えてくりくりと弄り回すと、あっという間に彼の身体の熱が復活する。
「あ、あん………」
「あの三人を見てこうなったのか……妬けてしまうなぁ……だが」
扱き上げる速さを増しながら、念を押すように三日月が断言する。
「お前を達かせるのは、いつでも俺だ、そうだろう?」
「ん……あっ、う、ん……うんっ……!」
相手がそう言い切ってくれる事がとても嬉しい……執着してくれている事が……
何度も首を縦に振りながら、面影は後ろを振り仰いだ。
このまま達きたいのは事実、だけれど………
「み、かづき……だめ……お湯のなか……射精しちゃ……っ」
このまま湯の中で達してしまえば、自らの体液が湯船の中を汚してしまう…と懸念を示した相手だったが、三日月は全く気にする素振りも見せずに彼に解放を促した。
「構わん……そのまま達ってしまえ」
「そ…んな…! あ、ああぁっ……!!」
より扱く速さと握り込む掌の力が増し、更に乳首への刺激も相まって、面影はそこからあっさりと絶頂へと至らされてしまった。
「ん、んぁっ…いぃ…くっ…!」
びっくんと一際激しく面影の身体が戦慄くと同時に、湯船の中で彼の楔が見事に爆ぜる。
それから、抑えきれない痙攣が湯船の中で小さな細波を起こす度に、湯の中では細く白い快感の証が楔の先端から放たれていた。
(ああっ……こんな、ところで…気持ち良くなっちゃった……お湯のなかに…いっぱい……!)
身体を清める為の場所で端ない事をしてしまった事に今更罪悪感を覚えた若者が、そんな事を考えて脱力した身体を暫し水中の浮力に委ねていると、またも三日月の誘う様な声が聞こえてきた。
「ふむ……見てみよ面影……奴らもまだ、欲求不満の様だぞ?」
(え……?)
絶頂を迎えた事で意識が一時的にそちらへと持っていかれ、暫し目を離していたあの三兄弟だったが、改めてそちらを見遣るとまた新たな形で交わりを続けていた。
『ふふ、内がやらしくうねってオ○ン○引き込もうとしてるぜ。いち兄、おしゃぶりしてたら俄然、やる気出すよなぁ』
『それはそうだよ。上の口も下の口も、大好きな弟○ン○を咥えてるんだもん。俺のにも、さっきから食い付き凄くて……んんっ、あはっ、もうビンビン…』
『ん…っ…んふ、ん……っ!!』
(す、すご、い………あんな、こと……まで)
無論、これまで三日月との二人きりでの交わりしか知らなかった面影にとっては、肌を重ねるのは愛する一人の相手のみであったし、それが唯一の形だと信じて疑わなかった。
そんな純粋な若者にとっては、四つん這いの形を取り、後ろから後菊を楔で貫かれながら、口にはもう一人の男の雄を咥え込んでいる一期一振の姿は余りにも衝撃的であった。
しかし、複数人を相手にするのはそれだけを聞くと不実な印象を受けるが、目の前のあの男は決してそういう気持ちではない事は分かっている。
あの男にとって弟達は比較出来ない程に等しく深い愛情の対象なのだという事は、本丸での共同生活の中で十分に察する事が出来た。
つまり、不実に見られそうなあの三人の姿こそが、彼らにとっては何より正しい姿なのかもしれない。
(……私には…関係ない話……三日月しかいない……)
けれど……何故、一期一振の姿に胸の奥の熱が増してくるのか………まるで……
「…一期一振が羨ましいと思うか…?」
「!?」
彼の何を羨ましいと言っているのか一瞬理解出来なかった面影だったが、その問いにどくんと胸が一際強く早鐘を打ち出した。
羨ましい……彼が…?
弟達に慕われ、愛され、触れて貰える事が……?
いや、自分は三日月宗近を愛しいと思い、彼もまた自分の事をそう感じてくれているのなら羨ましいと思う必要性はない…筈。
それなのに何故、三日月の問いを肯定するかの様に自らの胸はこんなにも激しく騒ぎ出しているのか…?
答えを探しあぐねている面影に、続いて三日月は淫らな問いを重ねる。
「ああやって、複数の男達に犯され、より激しい快楽に身を浸したいと思うか?」
「!!」
男にそう言われて、一瞬面影の脳裏に浮かんだのは……決してあり得ない光景。
視線の先の一期が自分自身に…そして鯰尾と薬研が二人とも、『三日月』に置き換わっている姿だった。
二人の三日月に抱かれている自分……それを望んでいる……?
無論、あり得ない。
いや、他の本丸にも三日月宗近は存在している。
各々の本丸にそれぞれ別の個体で刀剣男士は存在するが、名前は同じだがその細かな性格や本丸顕現以降の記憶は異なっている……自分から言わせたら全くの別人と言っても良い。
此処に居る己が慕うのは、今傍にいる、憎らしい程に優しく淫らな悪戯を仕掛けてきている三日月宗近唯一人なのだ。
けれど……全く同じ三日月が二人居るのだとしたら……私は……?
そんな事を考えている間に身体の反応が鈍くなった事に気づき、三日月がおや?と楽しそうに首を傾げながら自らの腰を相手の臀部の奥へ近づけた。
「なんだ、意外と乗り気なのか? ん?」
己の湯帷子をはだけると、勃ち上がっていた己の楔の先端を後蕾に触れさせ、数回、揶揄うように突いてみると、湯船の中でも面影の蕾は密かにひくついた。
「ちが……あっ!」
否定しかけたが、それを言い終える前にずぐりと蕾への挿入を果たされ、面影の声が一瞬途絶える。
思わずこれまでより大きめの声を漏らしてしまったので一瞬肝が冷えたが、向こうの三人は行為に夢中になっていたので、水音でも誤魔化せる程度の声は何とか無いものとして済ませられた様だ。
「ん……っ…」
温水の中で楔を打ち込まれ、面影の淫穴もその熱と液体に浸されていくのを感じながら、若者の腰が淫らにくねり始める。
やっと……という気持ちが一瞬、彼の脳裏を掠めていた。
目の前で繰り広げられていた三人の媚態を目の当たりにし、その中の一人が犯され歓びの声を上げているのをただ見ているだけでは、奥の疼きを抑えられる筈もなく、寧ろ強まるばかり。
つい先度前を弄られ解放はされたものの、それでも一番欲しいものは与えられなかったままだったので、それがようやく来てくれた事に、面影の身体は勝手に悦びを表していた。
昨日からも既に何度達かされたのか分からないのに、まだ鎮まる様子のない己の肉欲に、恥ずかしいと思いながらもそれを止める事は出来なかった。
「あん………あ…っ…」
挿入ってくる……あんなに大きく固いものが……
ずぷずぷと最奥まで貫かれて快感が押し寄せてきつつある中で、面影はまだ間仕切りの向こうで二人に攻められている一期の姿を見つめ、己の姿を重ねた。
後蕾を同じ様に侵されて………けれど、口は………
「んん…っ!?」
不意に、背後から三日月の左手が顔に伸ばされ、その白く細い指達が半ば強引に面影の唇を割って入ってきた。
「物欲しそうな口だな……あれを見て欲しくなったか?」
「ん、ふ……」
しなやかに見えて、口腔内の粘膜よりは遥かにしっかりとした感触を誇る指達は、縦横無尽に蠢いて若者の口の中を思うままに犯していくが、やがてその感覚に恍惚として舌を絡ませ、這わせ始める。
「ふふ……やはり羨ましかったのか、いやらしい男だ…ほら、これも俺のモノだと思ってしっかりしゃぶれ」
「んんん〜……っ」
ちゅぷっじゅぷっと相手の手指が出し入れされる度に、濡れた摩擦音が漏れ聞こえ、面影の口の端から止めどなく零れ落ちる唾液が湯の中へと落ちる微かな雫音も時折響いてくる。
肉棒で思うまま相手を突きまくりながら、その愛らしい嬌声を漏らす口も指で犯し、三日月は浅い息を吐きながら蹂躙されている面影を見下ろしていた。
(まさか、あの三人が隣で行為に耽っているとは……)
元々三兄弟が夜毎睦み合っているのは、少なくとも自身は気付いていた。
しかし、刀剣男士としての本分を果たし、審神者への忠誠を誓っているのであれば、本丸に不利益が及ばない限りは別に私生活に口を挟むつもりはない。
刀とは言え今は人の身を請けて顕現している自分達だ、想う心の自由は奪われるべきものではないだろう…己も含めて。
(面影にとっては少々刺激が強過ぎたか……しかし俺にとっても…)
本人が気づいているか否かは不明だが、今の面影の身体の反応はいつになく熱が入ったものだったが、間違いなく、湯の熱だけではなく目の前の三人の姿に中てられ、更にはその行為を三日月に見られたせいでもあるだろう。
しかし、そんな反応を感じ取った三日月の心中は少々複雑だった。
本当は自分一人で面影をここまで昂らせてやりたかったという口惜しさと、他人の行為を見て昂る姿を見られた事で、追い詰められつつ感じてしまっている面影を見る事が出来た嬉しさで。
そんな揺れる心をやり過ごそうとする様に、立位だった三日月が腰を屈めて面影と繋がったまま、彼の背中に覆い被さる形を取ると、そのまま触れた肌を密着させる。
自らの背に乗る三日月の重さを易々と受け入れながら相手と触れ合えている事実を感じつつ、面影は内で激しく優しく暴いてくる相手の剛直に翻弄されていたが、一際強く奥を突かれた拍子に顔が反り返り、そのまま間仕切りの向こうへと久しぶりに視線を向けた。
これまでは快感に襲われ、瞳を閉じていたため暗闇の世界だったのが、一気に視界に光が広がる。
その中で、またあの三人の新たな姿が飛び込んできていた。
『…っ、だめ、次まで我慢出来ない……っ、このまま、ねぇ、いいでしょ?』
口で慰められていた鯰尾の声が上ずった状態で響き、同時に彼は自ら腰を引いて一期一振の口の中から分身を引き抜くと、相手の肩を掴んでぐいと押す。
『あ…っ』
『おっと……』
鯰尾の意図を二人ともがすぐに察した様子だったが、その反応は各々がまるで違うものだった。
『あ、だ、だめですっ……! 鯰尾、やめ……あぁっ、薬研、いけませんっ!』
『大丈夫だって、昨日も「した」だろ? ほら、俺が下になってやるから』
一期一振は激しく狼狽して四肢をばたつかせようとしたが、薬研と繋がったままの状態ではそれもままならず、そんな兄を笑いながら見つめていた薬研は四つん這いだった姿の一期一振を背後から抱えると、そのまま自らが下になり、仰向けで彼の上で横になった兄の両足を大きく開かせた。
『あ、あああっ…!!』
弟の肉棒をほぼ根元まで呑み込んだ蕾の様相があからさまになり、一期はこれ以上無い程に赤くなった顔を両手で覆う。
『ああ……なんて、こと…』
『すごい……いち兄のココ、美味しそう』
さわりと相手の白い内股を撫で上げながら、鯰尾はもう片方の手で兄の蕾と薬研の怒張の間に指を入れ、隙間を作り出したところに己の分身を押し当て……
『ん…っ』
ずぷ…っ
『ふっ……く、ぁっ!!』
ひくっと頤を限界まで反らした兄の反応に気遣いつつも、鯰尾の腰の進みは止まらない。
どうやらこの三人にとっては既に経験済みの行為だったらしいが、それを目の当たりにした面影は限界まで目を見開き、呼吸する事すら暫し忘れてしまう程だった。
(え……っ)
面影からの目線では、彼らの姿は横から眺めている状態だったので、その挿入部を直に見ている訳では無かったが、それぞれの身体の位置と一期の反応から鯰尾が何をしているのかは明らかだった。
(そん、な……っ、二人のを…同時に…!?)
一期一振の雄蕾に薬研の雄と鯰尾の雄が二本、同時に挿入されている…
そんな無茶をしてしまえば身を裂くのではないかと面影は当然とも思える懸念を抱いたのだが、それは意外にも背後から聞こえた声によって否定された。
「二輪挿し、と言ってな…」
「!?」
「二本挿しと、よりあからさまな呼び方もあるが、まぁそのままだ。そう案ずるな、身を裂く行為にも見えるが只の人の身でも営まれてきたコトだ、俺達刀剣男士のより頑丈な身なれば……」
最後までは言わず代わりに顎をしゃくり、前を見よ、と促してくる。
三日月の促しに反射的に従う形で三人に視線を戻すと、その全員が恍惚の表情を浮かべて重なり合った腰を各々蠢かせていた。
『ははっ……すっげキツ…鯰尾、固すぎ…っ』
いつもの余裕ある表情にも玉の汗を滲ませつつ、薬研がぐぐっと腰を浮かせて鯰尾の雄と擦れ合う快感に耐えながら一期の奥を突くと、それに負けじと鯰尾もまた、相手との接触で生まれる快感を追いつつ腰を進め、兄の奥を薬研と共に犯した。
『あ、これ、イイッ…薬研のと擦れ合って、いち兄にもこんなに締め付けられて…んああっ、腰、止まらない、よっ!』
野獣の様に夢中で腰を振り、二本の楔で内を激しく犯してくる弟達に、一期一振は蹂躙されるがままであったがその表情は微かに圧迫感を覚えつつ、えも言われぬ恍惚に囚われているそれだった。
『や……ら、めぇっ…… ひ、んっ! はぁ、はぁっ こわ、れるぅっ! 良すぎてっ、気持ちいくてっ、おかひく、なるぅっ!! ああぁ、もっとぉお!』
駄目と拒んだり、もっとと催促したり、明らかに支離滅裂な様子の一期だったが、その行動の全てが面影にとっては思い当たる節が有り過ぎた。
知っている、この反応の理由を……
(そ、んなに……好い、のか……?)
駄目というのは拒絶ではない、あれは恐怖なのだ、快楽が過ぎて己が壊されてしまうかもしれないと思う程の……しかし、それでも味わいたくて、溺れたくて求めてしまう……
自分も散々同じ事を仕出かした事があるからよく分かるのだ……三日月の胸の中で……
しかし
己を振り返ってみても、あれ程までに激しく錯乱する程の記憶は……
(あんな……身も世もなく乱れる程に…)
「ふ、興味津々だな……俺だけでは不服か?」
「!!……ちが…っ」
ぐりゅ…っ
「っあ…っ!」
腰を回して面影の肉壺を掻き回し、三日月が少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「俺一人だけで足りぬとは何とも欲深い身体だ……今もこんなに美味しそうに呑み込んでいながら……他に誰を与えれば満足する?」
何気ない問い掛けの言葉だったにも関わらず、瞬間、ざぁっと面影の顔が蒼白になったかと思うと、ざばりと湯の中で振り返った。
「お……っと?」
三日月の楔が蕾から抜けるのも構わず、振り返って面影は相手に縋り付く。
その身は、湯の中でも明らかに細波を立てていると分かる程に震えていた。
他の誰を与えれば…という事は、まさか彼はこんな卑しい自分を見限り、他の何者かに捨てる様に宛がうつもりなのか…?
美しい月の化身である彼と比べ、この身は只の試作体……
彼は確かに自分を愛してくれていると言葉で伝えてくれていたが、よく考えたら自分など相手と釣り合う存在なのではなかったのかもしれない。
でも、それでも…私は、この男を愛している事を誇りたいし、愛されていると信じたい……この手を彼から離すことは出来ない、耐えられない……
「だれ、も、いらない…っ」
「面影…?」
「嫌だ……誰にも触れさせないでくれ…! お前になら何をされてもいい! 身を裂かれても構わないから、他の誰かに私を遣ることは…!」
つい先程までは、目の前の男に折られる事に悦びすら感じていたのに、彼以外の誰かの許にその身を打ち捨てられる事には恐怖を感じてしまっていた。
「面影…!」
思わず張り上げそうになる声を必死に抑えながらも必死にそう訴える相手に、その心中を察した三日月は優しく両頬を手で挟み込み、暖かな接吻を与えた。
「ん…」
さざめく心の波を凪ぐ様に、優しく唇を塞いだ後は額へ、そして頬へ………
顔の至る所に小さな音を立てながら接吻を与え、最後にもう一度唇を塞ぎ………ゆっくりと顔を離して若者の顔を覗き込むと、彼は酒を注がれ酩酊したかの様な表情で見返してきた。
「みか……づき……」
「すまぬ、困り顔のお前が可愛くて意地悪が過ぎてしまった……言葉での仕置きは仕舞いだ。誰が望もうとも、お前の肌に触れることなど許すものか…」
湯船の内側の縁に面影の背が当たる様な形で追い詰めると、三日月は相手の腰を抱いてこちらへと引き寄せ、彼の両脚が己の腰を挟む様に仕向けた。
「あ…っ」
「だが、言葉での仕置きは終わりでも、他の男士達を見て欲情した件については面白くなかったからなぁ…しっかりと躾をしてやるぞ?……」
そう言いながら、問答無用で再び楔の先端を秘蕾に押し付け、そのまま埋めていく。
ずぷぷ……っ
抜いたばかりだったので、蕾は難なく熱棒を吞み込んでいった。
また、湯と共に侵入を果たされる感覚に喘ぎながら、面影は向き合った姿になった事で、迷いなく手を伸ばして相手の首へと抱き付いた。
「はぁあ…っん! あ、ん……いい…っ」
耳元で聞こえる、抑えられた小さな吐息に混じった艶声に、ぞくぞくと三日月の背中に戦慄が走る。
普段の交わりの時よりかなり控え目の声だが、そこに秘匿の色が交じるとまた格別の趣になるものだな、と月の化身が心で笑う。
「なぁ? さっきのお前の言葉だが……俺になら『身を裂かれても良い』のだったな?」
「!?」
身を裂くという言葉の奥に、そのままの意味ではない他の意図に気付き、面影が真っ赤になって相手を睨む。
「言葉の仕置きは仕舞いなのだろう……っ?」
「なぁに只の確認だ。確かにあの言葉…俺とならやぶさかではない、と聞こえたぞ?」
「〜〜〜〜!!」
悔しいがその通りだった。
全く突拍子のない話だが、もし、もし完全に同一の三日月宗近が二人存在したのなら、抗うことなくあの一期一振の様に身を任せ、溺れてしまうかもしれない……
しかし、何度考えたところで現実は変わらない、己が知る三日月は一人だけだ。
そんな夢物語の様な事が起こり得ることはないのだから、真面目に答える必要もない……筈……
「お前が二人いるなど…有り得ない話だが、な……しかし、私が知る『三日月宗近』相手であれば……私は……どんな行為でも…」
結局、嘘をつけない男の最後の一言は、それこそ蚊の鳴くような小さい声で……
「う…受け入れても、いい……」
「!!……ほう?」
面影の受容の言葉は、三日月の中にあった何かのスイッチを入れてしまったらしい。
「…二言は無いな?」
挑むような一言と同時に、三日月の熱棒を受け入れていた秘蕾に、何か別のものがぬちゅ…と割って挿れられてきて、びくんと若者の身体が戦慄いた。
「ひ、あ…っ、そ、れっ…」
それは指だった。
楔に加えて、三日月の片手の指が一本ずつ……親指を除いた四本分が、ゆっくりと肉棒に沿う形で内へと挿入されてきたのだ。
「あっ……はぁう…っ……だめぇ…拡げちゃ…あっ、お湯、入って…っ」
「四本程度では代わりにもなるまい……お前の内はまだまだ余裕だと言っているが?」
所詮指では既に挿入されていた雄の証程に奥への侵入は果たせないが、それでもより太さを増した形になった荒々しい楔「達」は、動きを合わせて抽送を再開させてきた。
「最後に達く時くらいは、奴らではなく俺に達き顔を見せてほしいからな…」
「あっあっあっ……! ゆび…うごかさな……んっ」
楔で最奥を突かれながら、くちくちと挿入した指の関節を動かされる度に秘蕾に湯が浸み込んでくる。
快感の種類の情報量が多過ぎて、脳が灼き切れそうになる中で、背後からあの三人の一際大きな嬌声が聞こえてきた様な気がしたが、最早そちらへ注意を向ける余裕すらなかった。
ああ、彼らは一足先に絶頂へと至ったのか…とうっすらと思う中、不意に三日月の声が聞こえた。
「………予行演習、だな」
「…?」
それは確かにそう言われたのかは分からない、朦朧とした頭でぼんやりとそう聞こえただけだったのかもしれない。
しかしそれを確認する手段もなく、面影は一層激しくなってきた三日月の攻めに唯翻弄されるしかなかった。
より熱く、より固くなった三日月の分身が、身体の奥の奥を幾度も激しく突いてくる。それに対しこの身体は拒むどころか悦びに打ち震え、淫肉を蠢かせながら相手を迎え入れて締め付けてくる。
あまりの激しさに、快感は加速度的に膨張していき、それに伴い呼吸すらおぼつかなくなっていた。
「ふ、うぅ…っ! う、んうっ!」
いよいよ追い詰められ、声の抑えが意識的には難しくなってきたところで、面影は目の前の男に接吻を強請る。
確かに唇を塞いでもらったら声も止めてもらえるだろう。
しかし面影はそういう打算以前に、目の前にいる愛しい男の口づけが欲しかったので、逆に声を止めてもらうというのが態の良い言い訳になっていた。
「みかづきぃ…っ…い、きたい…っ、いきた…っ…いかせて……いって、ぇ…! もうっ、もう…っ!」
「おお、よしよし、いつでも達って良いぞ? 俺も一緒に達くからな…」
指を挿入していない方の右手で面影の背中をしっかりと支えながら、三日月は優しい口づけの合間にそう促す。
しかしその優しさとは裏腹に、貫いてくる雄の力強さは激しくなるばかりで、面影はそこからあっという間に達してしまった。
『は、ああぁ……っ!いっ…~~~~!!』
湯の中で精を放つのは普段の時のそれとは若干感覚が異なり、僅かな抵抗の様なものを感じたが、実際そんなものは殆ど無いに等しかった。
「く…っ!」
幾度も繰り返し射精を続けながら、面影の奥に埋められていた三日月の楔が一際存在感を増すのを感じた直後に、湯よりも熱い奔流が奥に叩き付けられるのを感じ、面影は呼吸を止めた。
(あっ……達ってる…! 三日月の……跳ねて…暴れて…っ! びゅくびゅくって…)
一緒に達することが出来た悦びに、ぎゅうと腕に力を込めて相手にしがみ付くと、向こうも優しく抱き返してくれた。
それが、面影の安堵感をいや増してくれたのだろう。
気を許してしまったところで、快感の波が若者の意識を無意識の大海へと瞬く間に運び去る。
(あ………だめだ……意識、が……)
くらくらと視界が揺れてきたと同時に思考に強めの靄が掛かってきたのを自覚し、面影は意識を失う前に三日月にそれを告げた。
「…あぁ……みかづき……も……げん、かい…」
「…っ!」
くたり、と全身を相手に委ね、面影はそれから何も分からなくなってしまった………
「さて……まぁ暫くはここで休んでもらうとしようか…」
その後、面影は三日月により湯船から上げられ、彼の浴衣を着せられて寝室の布団に寝かされていたが、まだ目を覚ます様子はない。
「……ふふ」
もう少ししたら約束通り書初めのために他の刀剣男士達が私室を訪れるだろう。
そこにはあの三人も来る予定なのだが……あの盛り上がりの後を考えるともしかしたら遅れて来るかもしれないが。
どちらにしろ面影は疲れている…もとい自分が疲れさせてしまったので、このまま書初めが終わるまで此処で眠っていてもらおう。
そんな事を考えながら、三日月は優しく面影の滑らかな頬をそっと指先で撫でる。
(一期達のあの姿を見た後にすぐに会ってしまったら、素直なこの男では上手く誤魔化せないかもしれないからな……やはり外に出ているという事にしておくか……)
書初めの場ではなくても、いずれ会う事は避けられないのは事実だが、直後よりは多少時間をおいて心の準備をしておいた方が良いだろう。
「…………」
そんな事を考えていた三日月の唇が不意に歪み、彼はそぉっとそれを眠っている面影の耳元へと近づけた。
「……時には、あり得ない事が「現」となる事もあるのだ……二言はない、ぞ。面影……」
その言葉の真意……
ぐっすりと眠り込んでいる面影には分かりようもなかったのだが、それから一日も経たぬ内に、彼本人がそれを体感することになってしまったのである…………