淫花散華~後編~




 それからの数日間…
 昼間は、面影はひたすらに任務に集中していた。
 三日月の事は心配だったが、今は仕事を順調にこなして夜までそれを持ち越さない様にするのが最優先だ。
 それに、彼の身体については、専門的なところは薬研に任せるしかなかった。
 本丸の刀剣男士達を束ねる立場である三日月の状態は、無論、全員が気にしている事態でもあるため、朝礼の時にそれについて薬研の説明が行われる事になった。
 事件当日までは成り行きが不透明だった事から、一部、詳細を知らない刀剣男士達には仔細は伏せられたままだったが、翌日には彼等も含めて、改めて三日月の病状と経過について説明が行われていた。
『俺が予想していたよりかなり回復が早いみたいだ。昨日は意識も朦朧としていたんだが、今日の朝は意識も清明だったし、入浴出来るまでに改善していた』
 改善しているという言質を取れたので、面影は他の皆と同様に胸を撫で下ろしたのと同時に、入浴のところでは密かに動悸を抑えていた。
 実は自分が手伝って入浴させた……とは流石に言えなかったが、能面の様に表情を変えずに冷静に対応したので、そのまま薬研の話は続いていく。
『麻酔はかけたが…夜には切れるかもしれない。昨日よりは発作はましだろうが……もう少し、辛抱してもらう事になる』
 大体はこちらが予想していた事だったので、面影含めた全員は了承の意を示すようにこくんと頷いた。
『……食事は摂れているのか……?』
 長谷部の疑問に、当然の事だと頷きながら薬研は答えた。
『食べ易い様に、歌仙たちに握り飯を作ってもらって診察がてら差し入れたんだが…今は兎に角、眠りたいらしくてな…枕元に置いておいた。残される可能性もあるのにすまないが、夕食にも同じ様な感じで頼みたい』
 話を向けられた燭台切と歌仙はお安い御用だとばかりに笑みを浮かべて頷いた。
『ああ、任せて』
『食べないと抵抗力も出ないからね…人の身であれば尚更だよ。食べられないなら、それはその時だ』
 鋼の刀身とは違うのだから…と、二人が承諾したところで、その日の朝礼は終わった。


 二日目以降、昼間の面影に割り振られていたのは本丸の中での畑仕事だった。
 下手に遠征などを申し付けられたら三日月の部屋に行くことも叶わないかもしれないと、正直それが一番の懸念だったが、幸い逃れられたということで面影は心置きなく任務に集中する事が出来た。
(……今日は眠れているのだろうか…時折、食事が摂取出来ていない事は気になるが…)
 庭の隅の畑で鍬を振るう合間に、時々、三日月の部屋の方を眺め遣る機会が増えた気がする。
 鳥や虫の鳴き声が響く中、見慣れた三日月の私室の外観を見つめていると、ここ最近の夜の逢瀬が脳裏にまざまざと思い出された。
 闇の中で触れた三日月の身体は確かにいつもの彼のそれだったが、所作はまるで異なっていた。
 普段の彼を泰然とした大樹に例えるなら、花粉の影響下にある彼は風に吹かれてしなやかに踊る柳の様だ。
 下手に触れたらそのまま折れてしまいそうだと、有り得ない不安を抱きそうになる程に弱っていた男を…自分は、連日、あんなに激しく抱いている。
(激しく抱いてほしいと求められたのは事実だったが、それにしてもやり過ぎなのではないか……)
 かと言って、ではどうするのが正解だったのかと自問したところで答えは出ない。
 いや、答えが分かっていたところで、自分は同じ様に貪るように犯すしか出来なかったかもしれない。
 それ程にここ数日の夜の三日月は美しく…情欲を誘う姿を晒していた。
 闇の中でかろうじて浮かぶ白い肌。
 全身をくまなく見る事は叶わなかったけど、伸びてくる腕、絡みつく脚、塞ぐことをねだる唇は、ほんの少しの明り取りから注がれる宙からの光で妖しく浮かび上がり、この目が視線を逸らすことを許さなかった。
(……私を抱く時にも、今の様な事を考えていたのか? 三日月……)
 いつか、散々求められた翌日に問い質した事があった。
『毎日毎日あんな……少しは手加減出来ないのか?』
と……
 それに対しての相手の答えは…確か……
『やろうとは思う、毎度思っている……が、お前相手だから毎度諦めている』
 その時は、少しはやる気を出せ!と声を上げたのだが………
(………無理…かもしれない……)
 いざ、自分が三日月と同じ立場に立たされてみたら、彼の言い分に全面同意しそうになってしまっていた。
 事実、最近は相手が求めてくれていたのを幸いに、歯止めも効かず、効かせず、ひたすらに犯し続けていた。
 そして今宵も相手の望みに乗る形で、彼を男として愛する事が出来る…そう思うだけで、ざわざわと全身の産毛が総毛立つ程の興奮を覚えてしまうのだ。
 今宵はどう犯してやろうかと………己の奥底に潜む雄が舌なめずりをしている。
(私の中に、こんな欲望があるなど…まるで知らなかった、な……)
 ほんの数日前までは、逆に三日月に身が蕩けそうな程に抱かれ、愛されていたというのに…と考えたところで、は、と面影は我に返って首を横に振った。
(馬鹿な………自惚れるな、面影…)
 数日前に『男』になったばかりの自分が、相手をそこまで満足させられるなど、思い上がりも甚だしい。
(刀剣男士が顕現する様になってからはまだ数年しか経過していない以上、条件的には三日月もほぼ同じなのだろうが……私は政府による試験顕現だったから…な…)
 人の営みについては極めて無知だった自分は、初めは正に人の幼子と同程度の知識しかなかった。
 本丸に来て、他の刀剣男士達から様々な知識を与えてもらい、己の世界を広げていった。
 今は……この姿に相当する年齢の人間と遜色ない知識、知恵を得られたのではないかと自負しているが……
(閨の中での事は……三日月にだけしか教えてもらってない…から………)
 しかも抱かれる方で…なので、抱く側については素人も良いところで………
(…欲深いな、私も………)
 あの美しい男に抱かれるだけでも望外の悦びであるのに、更に彼を抱きたいという欲望さえも露にするとは………
 しかし、と改めて考える。
 花粉の影響から脱したら、恐らくは二人の関係は元に戻るだろう。
 彼が私を抱き、私が翻弄される、少し悔しいが認めざるを得ない関係だ。
 しかし…彼を一度でも抱いてしまってから、またこれからも三日月を抱きたいという欲も確実に心の中に存在している。
 花粉の影響から脱したところで、果たして三日月は…許してくれるだろうか……
(……不得手を理由に断られたら、当分立ち直れそうに無いが………)
 このまま聞かないほうが平和で良いのかもな…と、半ば諦念の気持ちにも似た感情を抱きつつ、面影は課された仕事に再び集中したのだった………




 任務に集中していたら、時間などあっという間に過ぎるもので…
 事件の騒動などまるで初めからなかったかの様に、本丸はその日も無事に平穏のまま夜を迎えようとしていた。
 薬研の夜の経過報告によると、三日月は本日も結局懇懇と眠り続け、差し入れられていた食事には一切手を出していなかったという。
 眠っていたからそれは仕方ない事だったが、夕刻、かろうじて薬研の前で茶は飲んだらしい。
 夕食となる握り飯を枕元に置かれた際、彼は朝の分に手を付けられなかった事を深く詫びたという。
『皆の様子はどうだ? 俺は問題ない、すぐに良くなるから、遠征組だった奴らにも気に病むなと伝えてくれ。なぁに、じじいは長生きの分、人生の苦難には慣れておる。若い者たちよりは軽くいなせるとも』
 それが、薬研から伝えられた伝言だった。
 確かに、面影だけではなく、本丸の刀剣男士全員が三日月の病状について懸念していたが、やはり同行していた遠征組の者達は、特にその傾向が強かった。
 そもそも三日月があの様な事になってしまったのは、自分達を庇ってしまったが故なのだ。
 気に病まずにいられる訳がない……
 それでも、その伝言だけで、彼らの心はかなり救われた筈だ。
「……敵いませんな」
 小さい声で苦笑混じりに蜻蛉切がそう言ったが、そこには三日月という男を筆頭に得られたという誇らし気な気持ちも見え隠れしている。
 そしてこの場にいる全員が同様の気持ちだっただろう。
 此処に居なくても、言葉一つで皆の動揺を抑えられ、信用に足ると思われている……それが三日月宗近という存在だ。
 以降は特に質問が飛ぶこともなく、そのまま散会となり、殆どの者は自室へと戻ってゆく。
 状況は改善しているとは言え、筆頭が伏せっており、見舞いも出来ない状態なのだ。
 流石にいつもの様に賑やかに騒いで夜を過ごすという様な能天気な思考には誰も至らない様で、おそらくは部屋で静かに三日月の回復を祈ってくれているのだろう。
 回復してほしいという願いは無論、面影も同じだが、彼だけは皆の様に籠るという訳にはいかなかった。
 呼ばれていたからだ…彼に。
『今宵も俺を抱いてくれぬか』
 あの風呂での願いは、結局それ以降も続けられていたのだ。
 夜の激しい営みの後、面影が三日月を湯船に運んで汗などを洗い流し…その都度、彼は面影に夜這いを願った。
(あんな姿で、声で請われて、聞けない筈が無いだろう……)
 恐らく彼は己の美しさを十分に理解しており、その使い方も分かっている。
 まんまと嵌まってしまっている自分に思うところはあるが……選ばれたのだと考えると、不謹慎だが喜びすら感じた。
 三日月の部屋へと赴く前に、いつもの様に入念に湯で身を清め、浴衣に袖を通すと、その儀式を覚えている肉体がじわりと軽く疼く。
 それを何でもない様な顔をして誤魔化し、面影は皆が寝静まった頃に、あの夜と同じく気配を消して想い人の元へと向かった。
  廊下を歩きながら天を仰ぐと、今日は雲一つない月夜…
 三日月の寝所の造りを思い出すと、これだけの月光が降り注いでいるのなら、行燈等を付けなくても視界は明るいかもしれない。
 初日は悪夢の影響もあって、こうして外の天気など気にする暇もなかったのだと、今になって思い知りつつ、面影は誰に気付かれる事もなく三日月の私室前に着いた。
 此処に来るまでは一切の気配を消していたが、障子の前に立った時点で面影は警戒を解き、そ、と障子に手を伸ばす。
 きん…
 事件の夜にも聞いた金属音と共に三日月の紋が浮かび、封印が間違いなく稼働している事を知る。
 相手がしっかりと自衛している事を確認して、寧ろ安堵した面影の前で、浮かんだばかりの紋が幻の如く消えてゆく。
 初日は自分から名乗らなければ解除されなかったそれだったが、今は面影の存在にだけは、封が解かれるのだ。
『………おいで』
「…っ」
 優しい優しい声に、蜘蛛の巣にかかる蝶の姿が脳裏に浮かぶ。
 蝶は自分、そして巣をかけた蜘蛛は……この部屋の向こうに居る美しい男だ。
 おそらくこれから自分は彼を抱くことになるのだろうが、心の内はまるで逆……いつもの様に抱かれるような錯覚を覚えつつ、ゆっくりと障子を開いた。
 廊下ほどではなくとも、やはりこれまでよりは確実に明るく、部屋の間取りがはっきりとわかる。
 先に進み、寝所の襖を遠慮がちに開けると、いつも通りの位置に敷かれていた布団の上で、丁度、三日月が身を起こそうとしているところだった。
「三日月……?」
 まだ横になっていた方が良いのでは…と心配しつつ彼の傍に歩み寄った面影は、ふと、相手の枕元に置かれていた小皿と、その上に乗せられていた二つのおにぎりに気が付いた。
「…食欲はまだ無いか? 少しでも口に入れた方が…」
「……ああ…そうだな…」
 するり………
「……っえ…」
 衽が捲られて、相手のしなやかな指先が、自らの右のくるぶしに触れ、つぅ…と脛とふくらはぎを下から上へと思わせぶりに撫でてゆく。
 思わず息を詰めて見守る面影の視界で、三日月がゆるゆると膝を立てた姿で伸びあがりながら、指先で更に面影の膝を撫で、太腿をなぞり……そのまま面影の楔に辿り着くと、まるで小鳥を指先に乗せる様にその茎を下から持ち上げ、指を数度往復させた。
「ふぁ…あっ」
 裏筋を微妙に刺激されて、面影が小さく喘ぐと同時に、まだ完全に勃っていなかった彼自身もぴくんと反応を返してきた。
「…では……馳走になるぞ?」
 見下ろす三日月の瞳は熱っぽく潤んでおり、その視線を目前の肉棒に固定させながら、彼は紅い舌先を覗かせてちろっと先端の窪みを優しく舐め上げた。
「あ……っ、ちがっ……『これ』じゃなくて……」
 ふるるっと首を横に振りながら、面影が焦りも露わに相手を止めようとするが、向こうは一向に応じる様子はない。
「食事……っを、ちゃんと……」
 快感の波で言葉が途切れながらも訴える面影に、珍しくも欲情を露わにした三日月はぬるぬるとした舌を茎に沿わせて蠢かせた。
「こちらの方が、『精』がつきそうだ……」
「ば、か……っ! あっああっ…!」
 非難しながらも、快感を絶えず送られて力が入らない状態で、面影は喘ぎながら前屈みになり、伸ばした指を三日月のさらさらの髪に差し入れた。
 そうしている間にも、肉棒は紅い軟体生物に絡めとられて煽られ、むくむくと大きさと固さを増してきていた。
 ちゅ……くちゅ…ぴちゃ……っと、舌を滑らかに動かし、まるで口淫を見せつける様に上目遣いで面影を見つめていた三日月の唇の両端がゆっくりと引き上げられると……
 ぐちゅ……ぬぷぷ…っ
「あ、あ、あ~~~っ!」
 口腔内に雁が含まれ、にゅるっと舌で先端を円を描くように舐められた後、そのまま茎まで含まれていった。
「やっ……あ、つい………やだ、それ、きもち、い…っ」
「んん………ふ、う…」
 おそらく、三日月の口の中ではもう限界近くまで勃起しているだろう己自身を必死に抑えながらも、面影は悦びの声を上げた。
 このままではすぐに果ててしまうだろう、が、若者はそれを必死に耐えながら相手に訴える。
「み、かづき…っ! 内に…、内に射精さないと……お前の身体が…っ」
 楽にならない……っ
「……案ずるな」
 ぬるりと
 口から一度離して自由にすると、逞しく育った肉刀は勢いよく跳ねて面影本人の腹を打ち、三日月はうっとりとした表情でその様子を見つめていた。
「ああ……こんなに逞しく育ったか…」
 つぅ、と白い指先で怒張したものを根元から先端に向かってなぞり上げると、びくっと過剰な程にそれが頭を振り、先走りを散らす。
「っくぅ…!」
「…こちらの口で受け入れても、効果はある様だ………これまで、この身体で十分に試したから、な……」
 一瞬、達してしまいそうになったところをかろうじて耐えつつも、思わず面影が呻き声を漏らすと、三日月が妖艶な笑みを浮かべてなぞった指先をぺろっと見せつける様に舐め上げた。
 その姿があまりにも蠱惑的で、扇情的で、達する事を耐えたばかりにも関わらず、再び背筋に走った衝動に面影は息を呑みながらも、相手から視線を逸らす事が出来なかった。
(やっぱり、そうだ……いつもの三日月じゃ…ない…っ)
 昼間の好々爺の顔を見せる彼でもなく、夜に自分を抱いてくる時の不敵な笑みを浮かべる彼でもない。
 これまで見せた事もない情欲に濡れた瞳は、明らかにこちらを誘っている。
 それはまるで男ではない、雄を求める女の様な妖しさをも漂わせていた。
 三日月宗近は紛れもなく男である。
 華奢に見えるがそれはあくまでも見た目の話だし、他の男士達がより逞しいから華奢に見えるだけなのだ。
 そんな身体だが、相手を抱く時の胸板の感触、腕の力強さは、確かに彼が男であると思い知らせてくれる。
 しかし、今の三日月は…身体こそ同じでも、見つめてくる瞳の熱、艶めく唇、紡ぐ言の葉…全てが……男を求める女のそれの様に見えてしまうのだ。
 ぐるぐると思考が混乱しながらも、目下、面影の直面している問題は別にあった。
「は、ぁ…っ……だめ、だっ……み、かづきっ、もうっ飲んで…っ!」
 幾度かの波をやり過ごしたが、もう限界がすぐ傍に迫っていた。
 このままだと、外に己の精を放ってしまう。
 いつもならそれでも構わないが、今日は二人が知っての通り話が違う。
 自分が三日月を抱くことで、精を与えることで、彼の衝動とそれに伴う苦痛を取り除くのだ、ならば無駄にするべきではないだろう。
 しかも今射精しようとしているのは、今日の初めてのもの…つまりは一番濃厚なそれ。
 三日月の苦痛を取り除く効果が一際期待出来るだろうそれを、そのまま宙に放つのはあまりにも惜しいと考えるのは、面影ではなくてもそうだったろう。
 逼迫した状況で、しかも思考はぐちゃぐちゃだった面影は、普段は決して言えないようなおねだりを口にしていた。
「はやく……吸って、ぇ…っ!」
「ん、ん…っ!」
 面影の手が三日月の頭にかかり、ぐいっと無理矢理楔を咥え込む様に腰へと押しつけ、三日月は一瞬驚いた顔をしたが、その後は喜々として自ら唇を開き、一気に喉奥まで含み入れた。
「は、ああぁぁ……っ! 腰…勝手に……っ」
「んっ……んっ……んふ、ぅ……!!」
 必死に動きを抑えようとしているのかもしれないが、理性の軛を砕いてしまった肉欲には抗えないのだろうか。
 固く瞳を閉じている面影の表情とはまるで異なり、彼の腰は嬉しそうに餌に食らいつく獣の様に激しく前後に振られていた。
 そして、喉の奥を幾度も突かれるという責苦を負わされている筈なのに、当の三日月は、まるで相手の欲望を悦ぶかの如く笑みさえ浮かべ、口の中をされるがままに犯されていた。
 質量を増した肉刀で口を閉じる事も阻まれた男の口の両端からは、溢れ出し、飲み込む事も出来ない唾液がだらだらと止めどもなく流れている。
 面影が幾度も三日月の口の中に出し入れされる度に、その体液でぐっちゅぐっちゅとはしたない水音が部屋の中に響き渡り、淫らな旋律は徐々に速まっていき……不意に、それが途切れた。
「…っ!」
 口の中の熱棒が一際大きく膨らみ、腰の抽送が止まったところで、次に何が起こるのかを察した三日月が促す様に口をすぼめて圧をかけ、同時に舌先でぐりっと相手の先端の窪みを優しく抉った。
「うっあああぁっ!! みか、づき…っ、射精るぅ…っ!!」
 どくっ、どくん……っ!!
 叫びと同時に面影の分身が一際激しく震え、三日月の口の中で爆ぜた。
 細く小さな零口から堰を切って放たれた白の生命源はいつものそれより粘りが強く、液体と固体の狭間の様な形で三日月の口中に広がってゆく。
 二度、三度と、繰り返し放たれる精の奔流を受け止めながら三日月の全身が小刻みに震え、彼は目を閉じながら静かに喉を動かし、相手の全てを飲み下した。
「あ……ぁ…っ…」
 快感の凄まじさを知らしめるように、射精を終えた面影の目は涙が零れ落ちそうな程に潤んでおり、視線は焦点が合っているのかさえ覚束なかったが、それがふと掛けられた声ではっきりと相手を捉える。
「今日は……随分と濃いのだな……」
 射精が済んだ後の分身に、尚もぺろぺろと舌を這わせて残渣を綺麗に舐め取りながら、三日月が面影を見上げて微笑んでいた。
「…俺の為に張り切ってくれるのは有り難いが……ふふ…少々元気が過ぎる様だな…ほら…」
 ぐりっと、その感触を確かめる様に肉棒を三日月に握り込まれた面影が息を詰める。
 その昂りは、射精を済ませた後も完全に勢いを失った訳ではなく、まだ支えられずともかろうじて自立出来そうな程の固さを保っていた。
「これなら、またすぐに勃ちそうだな……?」
 くす、と笑みを浮かべた男は、何を思ったかぐいと更に伸びあがり、同時に相手の腰を抱えて屈む様に促した。
「え……? あ…っ」
 ぐり…っ
 面影が為されるがままでいると、相手は握ったままだった彼の肉棒の先端を自らの胸の固い蕾に擦り付け始めた。
 雁の先端が当たると、三日月の紅い蕾は容易く、くりゅっと形を変えて圧し潰される。
 存在感の相違があまりに激しくて、蹂躙と言う言葉が似合い過ぎていた。
「ん、あ……ああ、好い…好いぞ…もっと…」
 乳首を擦られる快感にうっとりと酔い痴れながら、三日月が自らの楔を動かして己の胸を幾度も繰り返し刺激する姿を、面影は陶然と見つめていた。
(ああ……何て、淫らで美しい……これが…本当に私の知る三日月、なのか…?)
 これまではそんな事に思い至らなかったのは、自分に余裕がなかったからなのか、それとも三日月の身体が花粉に侵食されたばかりで、彼にこそゆとりがなかったからなのか…
 確かに三日月の体調は改善している…それは初日に抱いた時の彼の憔悴ぶりと、今日の様子を比較しても、違いは明らかだ。
 それについては勿論嬉しいと思うし、そうあって然るべきだと断言できる。
 それでも、やはり……この違和感は……
「………不思議、だ…」
「ん…?」
 つい口を出た言葉に、相手が手を止めて顔を上げる。
「今日の、三日月は……あの日…初めての夜のお前にも増して……いつもと…違う気が、する……」
「………くく…っ」
 密やかに笑みを浮かべると、三日月は答えだと言う様に、今度は別の乳首に相手の先端を擦り付けた。
「………お前が、変えたのだぞ」
「私……?…んっ……」
 くりくりっと円を描く様に先端で乳輪をなぞられ、三日月がはぁ、と熱い息を零し、面影は更に重ねられる快感に眉を顰めた。
「私が……何を………」
「俺を抱いただろう………お前が俺の初めての『雄』になった…」
「!!」
 はっきりと本人から言い切られるのは、流石に威力が強すぎた。
「そして同時に、俺はお前の初めての『雌』になったのだ。何の色も付いていなかった俺に、連日、お前が色を付けて染め上げた……」
 そこまで言うと、三日月は一旦相手の楔を胸から離すと、頭を楔の直上へ持って行き、舌を出してとろりとその先に唾液を溜め……それはゆっくりと楔の上へと落とされた。
「あぁ……」
 落ちた唾液の上に手を伸ばし、にゅるんとそれを塗りつけるように肉棒を擦る三日月は、再び元気に勃ち上がってきたそれに感慨深そうに溜息を漏らす。
 目の前で、こんな淫靡な悪戯をするなんて…と面影が目を見張っていると、彼を挑発的な視線で見上げながら、三日月はちゅ、と楔に口づけを落としながら尋ねてきた。
「どう、したい……?」
「え…?」
「今宵はどうやって俺を犯したい……? お前の好きなように抱いて良いぞ……?」
「…っ…」
 自分の好きな姿で…抱かれてくれるというのか……この美しい男が……
 思い出せば、初日から三日月は同じ事を言っていたではないか、好きな様にして良いと……
 しかし、あれから幾度も抱いているので今更ではあったが、正直昨夜までの自分はほぼ本能に突き動かされたままでの行動だったので、相手をどう抱こうなど考えるゆとりなどなかった。
 しかし今は、三日月の身体も一日目程に激しい発作は治まりつつあるためか、彼もこれまでよりは苦痛の色は薄く、それ故にこうして自分を煽る余裕も出てきたのだろう。
(私の……私の見たい…三日月の姿、は………)
 自惚れても良いならば、この本丸の中で…いや、この世の誰よりも、三日月の事を知っているのは自分だと自負している。
 そんな自分でもまだ見たことのない姿の彼……自分が見たい彼は……
 緊張でいつの間にか乾いていた唇を無意識に舐めながら、面影は相手に申し出た。
「あ、あの………本当に…良いの、なら…」
「ん……?」
「…私の……上に、跨がって…」
 私の身体の上で、快楽に狂うお前の姿を見てみたい……
「!……ふふ」
 一瞬、驚いた顔をした三日月だったが、すぐに愉しそうな笑みを浮かべると、徐に相手の右腕を取ると下へと引き寄せ、あっさりと面影の身体を布団の上へと横たえてしまった。
「あ……っ」
 上に乗りかかる形で身体を擦り寄せた三日月は、そっと面影の唇を指でとんとんと叩きながら、からかうように言った。
「す・け・べ、め……ふふ…」
「……っ」
 かっと赤面した面影だったが、咄嗟に反応出来ずに俯いてしまう。
 時々過去に自分が同じ言葉で相手を責めた事があるが、今回ばかりは弁解の仕様がない。
 もし三日月だったら、もっと堂々と相手に言い切れるのかもしれないが……少なくとも今の自分では無理だ、羞恥心が勝ってしまう。
 恥じらう若者の頬にちゅ、と唇で軽い音をたてると、三日月が上体を起こして面影の身体の上に座り込み、そろ、と後ろ手に彼の楔を掴んだ。
「お前の上に、な……俺にこんないやらしい格好をさせるとは……」
 そして、昨夜と同じく後蕾を慣らす事もなく、そのままずぷりと面影の先端を埋めていった。
「あ……っ」
「う……ん…ああ…あつい…な」
 面影が呑みこまれる感触に声を漏らし、三日月は怒張を受け入れる圧迫感とその灼熱感にゆうるりと首を振りながら言った。
 花粉の影響からはかなり脱したかと考えていたが、楔を呑みこんでいく三日月の肉鞘は解す前から既にとろとろに蕩けており、まだこの身体へ及ぼす影響は少なくないのだと知る、が、その快楽の大きさに、一瞬面影の理性が飛びそうになった。
 花粉の影響を失わせる為の行為だった筈なのに、もうそんな理由など関係ない。
「ああ……っ…三日月…すご、い…」
 ずっずっと勢いをつけながら全ての質量を呑みこもうと腰を落としていった三日月は、それが根元まで全て自らの内に納まると、深く息を吐き出した後に、ゆらりと腰を動かし始めた。
「ん、あ…はぁ、そう、そうだ…もっと、俺を貪れ…」
「ああ……ああっ…いいっ…!」
 面影が動かなくても三日月が激しく腰を動かし、彼の良いところを面影が攻めてくるように誘導してくる。
 ぐちゅりぐちゅりと接合部から淫らな音が響くのを聞きながら、面影は妖艶に踊る三日月の姿を一心に見つめていた。
 恥じらう事もなく、寧ろ犯されている姿を見せつける様に自らの岐立したものを揺らしながら、三日月は面影を内で激しく締め付ける。
 あまりにも美しく、淫らな神の姿に、目が離せない…
 そうして凝視している間にも向こうの動きは一向に落ち着く事はなく、絶え間なくこちらを追い詰めてきていた。
「ふ、ああ…っ…三日月の…なか…きもち…い……もっと…」
 脳が沸騰しそうな感覚を覚えながら、面影は無意識の内に相手の腰を掴み、ぐいっと引き下ろしつつ己の腰を突き上げる。
 昨夜幾度も抱いている内に、朧げに分かりつつあった三日月の男性の弱点を擦る様な角度で、ずちゅん!と一際激しく奥を突くと、びぐんっと魚が跳ねる様に三日月の背がこれまでにない程反り返った。
「ん、あああっ!!」
「…っ!?」
 ここまで激しい反応は見たことがなかった面影は、驚きながらも再度確認する様に、同じ角度で突き上げてみる。
「ああ~っ! は、ぁっ!」
 再び声を上げた三日月の分身も、彼に呼応する様に、突かれた瞬間にぶるんと震えていた。
 これは………ほぼ間違いないだろう。
「…ここ……なのか…?」
 雁の根元まで引き抜き、それから今度はゆっくりと内へと埋めていく過程で相手の好いところを擦り上げてゆくと、面白い程に、三日月の嬌声が響き渡った。
 それを幾度も繰り返していったところで、三日月が首を激しく振りながら面影に訴えた。
「おも、かげっ……だめだ……それでは物足りぬ……もっと俺を狂わせよ…! ああ…もっともっとほしい…!!」
 この反応には、覚えがあった。
 過去の自分と照らし合わせ、相手が今どういう状況なのかを察した面影が、確かめる様に尋ねた。
「今のは……いや、か…?」
 ゆっくりと、お前の内を余すところなく味わう様に犯すのは……
「ああ、いやだ……このままでは…達けぬ……激しく、もっとひどく抱いてくれ…!」
「三日月…!」
 渇望する相手に、理性の糸が切られた。
 腰を抱いたまま、面影は相手の弱点を攻めながらも最奥を激しく何度も突き始める。
 本当はもう少しゆっくりじっくりと攻めて相手の乱れる姿を愉しみたかったのだが、彼の懇願を聞いたら叶えない訳にはいかなくなった。
 それに、激しく攻めて身も世もなく乱れる彼の姿を見たいと思ったのも事実だったのだ。
(これが……雄としての本能…?)
 初日にはもっとおっかなびっくりで、抱く時もほぼ獣の様に本能に従うままでの行為だった…しかし今宵は…まだまだ不足しているところは大きいかもだが、相手の反応を伺い愉しむだけのゆとりを持てている様な気がする。
 もっと……肌を重ね、彼を抱き続けたら、もっと新たな面を見る事が出来るのだろうか……
 しかし、もし花粉の影響が無くなったら…もう、三日月を抱くことは出来なくなる…?
(嫌だ……!)
 まだ、まだ見たい…見るだけじゃなくて、抱いて、彼の乱れた雌の姿を側で見たい……!
「三日月……お願いだ、これで終わりに…したくない…っ」
「ふ……あ……?」
 変わらず面影の肉棒を貪り快感を求めていた三日月が、相手の真意を問う様に瞳で問いかけてくる。
 その視線を真っ直ぐに受け止めながら、面影は願う。
「お前が治れば、もう手は出さないと…決めていたのに……駄目なんだ…私はこれからも、お前を抱きたい……お前だけの雄になりたい…っ!」
 それを聞いた三日月は、は、と瞠目し…その表情がゆっくりと綻ぶ華のように笑みを浮かべると同時に、その上体が面影の方へと傾いでいった。
「…この馬鹿者め……」
 上から、ちゅ、と優しく唇を塞ぎながら、三日月が苦笑する。
「何度言わせたら気が済む? お前は俺にとって唯一の存在だ……雄としても雌としても……俺を自由に出来るのはお前だけで、お前を自由に出来るのは俺だけ…」
「う、ああ……っ」
 諭すように言葉を紡ぎながらも、三日月の腰は妖しくくねり、面影の楔を美味しそうに貪っている。
「抱きたければ抱け………お前がより俺をよがり狂わせるのが…楽しみだ」
「あ…ああっ……三日月っ!」
 相手の許諾を貰えた事で、面影の目尻に涙が滲んだ。
 胸に溢れる喜びと感謝の気持ちを示すように、面影は今度は自分から相手へと唇を重ね、くちゅ、と舌を絡め合うと同時に、腰の突き上げを速め、より奥まで抽送を始めた。
「三日月…ほし、い…っ、お前が…全部……!」
「ん、あああっ! はっ…はぁぁ…っ!!」
 ずんずんと最奥を幾度も突かれ、良いところも擦られ、三日月は身体を震わせながら甘い声を上げる。
「あ、ああっああっ! う、ばえ…っ…俺の全てを…お、まえだけに…!」
「く、うぅっ!!」
 共に絶頂が近づいてきて、互いの口からそれ以降言葉が紡がれることはなく、ただ快楽を求める吐息と喘ぎ声…そして接合部から響く淫らな音だけが部屋の空気を満たしていた。
 そして、いよいよその瞬間が容赦なく近づいてくる……
「は、ぁあうっ…! あっ、もうっ……射精るっ! なか、にっ…!!」
「あ、あ、はやく…っ…来い…来い…っ! ああああっ!!」
 びゅるっ! びゅくんっ!
 二人の雄からほぼ同時に白濁が勢いよく放出される。
 面影のものは三日月の内に根元まで納まっていたので、接合部の隙間からどろりと濃白色の精の残渣がこぼれ落ちるのを認めるのみだったが、三日月のは頭を振りながら何度も白い放物線を宙に描いていた。
 それを自身の胸にも浴びながら、面影は絶頂に達して恍惚の表情を浮かべる三日月の姿を視線を逸らす事なくじっと凝視していた。
「……綺麗、だ……三日月…」
 偽りない本心を言葉に乗せて囁きながら、くたりと身体を委ねてくる男を抱き締めながら面影が囁く。
 それに応えるように、顔を相手の胸元に埋めた三日月は、微かに唇に笑みを浮かべた。
「俺にとっては……お前こそ…」
 この世の何より美しい、俺だけの唯一の相手だ………
「!!」
 物凄い告白を聞いて、ざわっと面影の全身の産毛が粟立った。
 何という事を言ってくれるのだろう、この美しい神は……
 そんな事を言われて平常心を保てるほど、自分はまだ心は強くないのだ。
 心は強くない…が、自己嫌悪に陥るほど、彼に対する独占欲、情欲は強すぎて…彼の些細な言葉一つで抑えられなくなる。
「はぁ……三日月…どうしてそんなこと……」
「ん……っ」
 ぴくんと三日月の頤が反らされ、小さい呻きが漏れる。
 自分の内にあった面影の分身が、再び固さと質量を増してきて三日月の蜜壁を圧迫してきつつあった。
「お前の…今の、聞いて……あっ…また…」
 はぁはぁと荒い息を零しながらそう訴えると、楔を受け入れたままの三日月が唇を歪めながらひそりと言った。
「お前も、男だったということだな……さて、どうする…?」
 俺は続けても構わんぞ…とばかりに腰を押しつけてきた男に、身体中の血液が逆流しそうになる。
 どうする?と問われても、ここで退くなどありえない。
 まだ、まだ欲しい……彼が求めていても、そうでなくても…………
「私はまだ…お前が欲しい……」
「…そうか……同じだな」
 囁き合い、どちらからともなく唇を重ね合い、互いの腰同士を蠢かせ始める。
「ん…あっ……三日月、もっと……」
「そう……もっと…俺を呼べ…面影」
 そして二人は再び互いを求め、激しく絡み合い、溶け合っていった………




 夜明け前、ふと、面影は瞳をぱちりと開いた。
 仰向けで、かろうじて下半身こそ掛布団に覆われている格好で、遠くの天井を見上げている自分を認識してすぐに今の状況を理解する。
(ああ……またこれまでと同じ様に…交わるだけ交わって…寝てしまったのか…)
 己の考えに赤くなりながら、そっと手を挙げて自らの額にやり、瞳を閉じて嘆息する。
 昨夜は…結局、何度抱き合ったか……最後はもう意識などなく、半ば本能に導かれるままに相手を求めていた気がする……
(…そうだ、三日月は……今度こそ無理をさせてしまったのでは…!)
 また風呂に入れて…いや、今の時分はまだ早いか…夜もようやく明けるか否かという時…と、相手を思い遣り、隣に同じく横になっていた三日月へと首を巡らせる…と、
「…っ!?」
 思わず息が詰まってしまった。
 てっきり相手も寝ていると思っていたのだが、思い切り、その男の瞳と目が合ってしまった。
「…みか、づき…? 起きていたのか…?」
「ああ……まぁ、俺もほんの少し前にな」
「そうか……その、身体の方はどうだ…? 花粉の影響はまだ残っているだろうか…」
 残っているなら…今宵も…と思いかけたところで、いきなり面影は相手に組み敷かれ、両手首を抑えられてしまった。
「っ!?」
 はっと上から拘束してくる三日月を見ると、その目が愉悦の光を湛えてこちらを見据えている。
「三日月……?」
 何故か、ぞくりと背筋に戦慄が走る。
 何だろう…ほんの数刻前までの彼の雰囲気とはまるで違う様な……まるで、これは…そう……花粉を浴びる前の…本来の、彼が夜に見せていた顔……
「え……」
 まさか、と思った面影の困惑を見透かし、三日月が唇を歪めた。
「ああ………もう調子はすこぶる良くてな…」
 つぅ、と指先で面影の首筋を下から上へとなぞり、続いて三日月は相手の耳元に顔を寄せた。
「……お前が、あれだけ頑張ってくれたからな…」
「っ…!」
 ということは、雄を求める衝動は治まったということなのか…?
「…治った、のか?」
「ああ……その様だ」
「あ…」
 胸に湧き上がる喜びに押され、彼は躊躇いなく目の前の想い人に抱き着いた。
「三日月……本当に良かった!……嬉しい…」
 例え命には別条ないと言われていたとしても、それでも彼の者が苦しんでいるという事実は変わらない。
 確かに、今回の事を理由に自分も相手を抱くという行為に及んだのは間違いないし、そこに我欲が全くなかったとは言えない。
 いつもとは異なる形でも、彼を欲しいと願ったのも本心だ。
 それでも、一番根底にあったのは、彼の安息を取り戻したいという思いだった事に嘘偽りはなかった。
「!……面影…」
 一方、安堵に身体を震わせながら必死に縋りついてくる面影の健気さに、三日月は既に暴走寸前状態だった。
 彼よりほんの少し早く目覚めた時、久し振りに感じる肉体の爽快感に、すぐに花粉の影響力が失われた事に気付いた。
 そして続いて首を巡らせたところで視界に飛び込んできた面影の寝顔を見た瞬間、思った、『抱きたい』と。
 しかし流石に昨夜あれだけ交わったのだから、立場を変えたとしてもまた行為に及ぶのはどうなんだ…と一度は歯止めをかけたのだ。
 今宵までは身体を休ませると共に気持ちは抑えておこうと思っていたのに……起きたらすぐに相手からの嬉しい言葉と抱擁である。
(……俺のせいになるのか…? これは……)
 明らかに煽ってきたのは相手なのだが…………それは言い訳だろうか……?
 僅かの間、脳内で逡巡した三日月だったが、結局自分の欲望に忠実になるという答えを下した。
 今、面影を抱けるなら、自身への多少の誹謗など何でもない……
「良い子だったな………良い子にはご褒美をやらんといかんなぁ…」
 少しだけ茶化すようにそう言うと、三日月は深く深く面影の唇を塞いだ。
「う、ん……っ」
 昨日までの面影からの口吸いは、自分の仕掛けるそれより控えめで慎み深いものだったが、それはそれで初々しさが前面に出ていて悪くはなかった。
 対してこちらの仕掛けるそれはそんな可愛いものではなく、正に貪るという表現が相応しいと思うものだが、久し振りにそれを受けた面影は最初は驚いていた様子だったが、その後は珍しく彼の方からも激しく応えてきた。
「み、かづき……あぁ……んぅ…」
 滑らかな粘膜同士が絡まり合い、くちゅくちゅと互いの口から淫らな音と唾液が漏れる。
 顔を上気させながら、息苦しさに眉を顰めながらも必死に応えようとする面影が愛らしくて、自然と口元を綻ばせながら三日月が囁いた。
「どうした? いつになく積極的だな…?」
 久し振りに離された唇で、面影は瞳を潤ませながら熱っぽく願った。
「三日月………ご褒美…もっと……お願い…」
「ん? 口吸いか…?」
 尋ねる三日月に首を横に振ると、面影は更に真っ赤になりながらひそ、と小声でねだる。
「三日月に……抱かれたい…」
「…っ…お前は…」
 勿論、口吸いを仕掛けた時点でこちらも抱く気満々だったのだが、こういう形で迫られるのは、まずい、我慢が利かなくなる。
 らしくなく惑っている三日月の腕に手を掛けると、面影は少しだけ不安げな面持ちで相手の顔と、外の様子を交互に伺った。
「夜が…明けてしまう……」
 明けてしまうと薬研も診察に来るだろうし、抱いて貰えなくなると思っているのだろう。
 そんな相手に安心させるように頬に口づけを落としながら三日月は頷いた。
「…案ずるな、まだ時間はある………お前を満足させて達かせる程度には、な……」
「あ……」
 そのまま面影の細い首筋に唇を這わせ、ゆっくりとそれを下へと下ろしてていったところで、続いて鎖骨に沿って舌先で滑らかな肌を舐め上げる。
 そして更に下へと下りて行った唇は、胸に息づいていた小さな花蕾を捕らえると、ちゅっと音を立てて吸い立てた。
「ふ、ああぁっ…!」
「相変わらずすぐに固くしおって……ふふ、堪え性のない蕾だな」
 こりこりと確かな感触を返してくる桜色の玉を愛おしそうに口に含み、舌先でからかうようにくすぐると、面影の心地よい嬌声が耳に響く。
 耐えようとしているのだろうがどうしても抑えられないのか、面影は口元に手を当てて目尻に涙を浮かべ、腰を不自然に揺らしていた。
 おそらくは、胸へ与えている刺激が、身体の中心へも快感を運んでいるのだろう。
 そんな、必死に耐えている相手の様子には気が付かない振りをして、三日月は唇で弄っているのとは反対の乳首には、指先を伸ばし、爪先で弾いたり、指の腹で捏ね回したり、こちらも縦横無尽に動き回って蹂躙し始めた。
「んあああっ! あぁーーっ、きもちいいっ…あっあっ、いいっ、もっと…」
「ああ……ここだろう?」
 左は指先で形が変わる程に摘まみ上げ、右は尖った先端を歯列に引っ掛ける様にして繰り返しかりっかりっと刺激してみる。
「ひうぅんっ!! それ、すごっ…! ああ…あああ…!」
 首を激しく横に振り、面影は素直に快感を訴えながら、はぁーはぁーっと熱の籠った吐息を吐き出す。
「はぁぁ…っ…あ……わたし、は…やっぱり……」
「うん…?」
「…み、かづきに……さわられるの……すき…」
「!」
 思わず硬直してしまった三日月だったが、すぐに表面上では動揺を覆い隠したのは流石、年の功といったところだろうか。
 しかし、勿論内心はそれどころではなく、大いに荒れ狂っていた。
 許されるなら、これから一日中抱き潰したいくらいなのに、何故この男は無情な程にこちらを煽ってくるのか……!
 それが無自覚というところがまた恐ろしいのだが……
(…そちらがそれだけ煽るのなら、俺もやりたい様にやらせてもらうぞ…)
 久し振りに抱く側に回ったのだ、ちょっといつもより攻めてもみたい…と、三日月は少しだけ意地悪っぽい笑みを浮かべた。
「触られるのが好き、か……そうかそうか…では次は何処を触ってやろうか…?」
「っ…!」
 性感帯である胸の蕾を散々弄った後に触れられたい場所など少し考えるだけで分かりそうなものだが、それを伏せて敢えて尋ねてくる男の真意に気付いた面影は、顔を真っ赤にして俯いた。
「…教えてくれるか? 面影…」
 微笑みながら、三日月はすぅと右の人差し指を見せつけながら相手の下半身へと持って行き……
 つんっ…
 爪先で先端を軽くつついた。
「っは…!」
 ほんの軽い刺激だったが、敏感な器官の上に既に勃ちつつあったのでその反応は激しいもので、ぶるんと大きく頭を振って先走りを散らした。
 その刺激の後も、三日月は子供がささやかな悪戯をする様に指先のみを使って分身へ刺激を与え続けた。
 握ったり、しっかりとした愛撫を与える事はなく、あくまでも触れるだけの責苦。
 つぅと竿の上をなぞったり、下の裏筋をすりすりと擦ったり、雁の周囲をじっくりと嬲ったり……
 同じ男であるので何処が良いのかはよく分かっているので、敢えてそこを徹底的に責めた。
「あ、ああああっ…! やっ、いやぁ…っ! そんな、焦らさ、ないでっ…はぁぁん……!」
 強い刺激を与えられたらすぐに達せそうなのに、そう出来ない、至れないもどかしさに、面影は乱れに乱れてふしだらに腰を振り、それでも三日月の指先を求めた。
 そんな、快楽の責苦で思考が鈍りつつある若者に、誘うように三日月が尋ねる。
「なぁ……? 『なに』を触ればいい…?」
「いじわ、る……っ! あ、あああ…っ」
「ふむ……ではここかな?」
 くっと笑みを零しながら、三日月は分身に触れていた手を離して、そのまま両手で面影の胸への愛撫を再開させた。
 無論、そこも十分に快感をもたらす場所だったが、最早今の面影の欲求を満たすには足りないもの…いや、寧ろより飢えさせるものだった。
「いや……ちがう…! もっと、下……」
「ん…?」
「あああ、もうだめ…っ! オ○ン○ンッ! オ○ン○ン、いっぱいさわってぇ!!」
 遂に肉欲が理性を上回り、面影は淫らな言葉で三日月に慰めを請うた。
「……いい子だな」
 面影の痴態に満足した様子で、三日月はその大きく形の良い手で相手の分身をようやくしっかりと握り込んだ。
 それだけなのに、びくびくっと面影の腰が激しく幾度も痙攣すると同時に、先走りが先端から溢れてあっという間に三日月の手を濡らしていった。
「おや……もう我慢が効かぬか…?」
「だめ、もう、もう…っ! お願いっ三日月っ、気持ちよくしてっ、もう、射精したい…!!」
「ああ、良いとも……では、手伝ってやろうな…?」
 しかし、手伝いという手伝いをする間もなく…三日月がほんの少し力を込めた状態で数回それを扱いただけで、面影はあっさりと絶頂へと至った。
 その前に与えられていたささやかな悪戯達が、既に彼を臨界点まで引き上げてしまっていたらしい。
「ああ~~~~っ!! いっく、うぅぅっ!!」
 三日月の握っていた茎の先端から、びゅくんびゅくんと白い樹液が幾度にも渡って噴き上がった。
「あ~~ああぁ…っ! 射精ちゃ…う…っ、いっぱい…っ!!」
 射精は長い時間かけて行われ、それがようやく治まった後には面影の身体は完全に脱力した状態で、三日月にされるがままだった。
「ああ……好いな…淫らな顔をしている…」
 間近に顔を近付けてその恍惚とした表情を見つめながら、三日月は面影の後蕾に手を伸ばした。
「暫く可愛がる事はなかったが……まさかもう俺を忘れた訳ではあるまいな…?」
「ん、あ…っ」
 試しに指を二本揃えてぬぷりと蕾の奥へと刺し入れてみると、さして抵抗もなく柔らかい感触をもって奥へと受け入れられた。
 これなら、そんなに時間をかけずとも溶け合う事は可能だろう…
「…よしよし……では、昼間に浮気をしていなかったか、明るいところでしっかりと調べてやろう…」
 彼の言葉通り、部屋の中は既に宵闇の帳から解放され、うっすらと陽光が差し込みつつあった。
「あ…?」
 そのまま布団の上で抱かれるのかと想っていたが、徐に三日月は面影の身体を抱き上げ、布団から少し離れた場所まで運んでいった。
「み、かづき…?」
 何処へ…と問おうとしたところで相手は止まり、その場に胡座をかく形で座して、面影を背面坐位の形で抱くと彼の両脚を大きく開かせた。
「……っ!!」
 はっと顔を上げた面影の先に見えたのは…もう一人の自分の姿。
 恋人の上であられもなく両脚を開き、秘部を晒している自分自身がそこにいた。
 正しくは、今の姿を目の前の鏡台が鮮明に映してしたのだ。
「あ……っ」
 鏡の向こうで己を抱き支えている想い人が、昏い悦びを湛えた瞳でこちらを見ている……
 彼がこれからどういう形で自分を抱こうとしているのかを察した面影は、既に手遅れの状態だったが身体を捩ってせめてもの抵抗を試みた。
「い、いやっ…だ…! こんな、恥ずかしい……三日月、やめて…っ」
 足をばたつかせるも、これまでの行為で体力そのものがかなり削られていた上に、足が宙に浮いたままでは碌に力を入れることも適わず、寧ろ無謀に身体を動かす事で更に秘部を露に晒すことになってしまう。
「ほら、暴れるな……お前も、欲しいのだろう…? これが…」
「…っ!」
 鏡の向こうで、自分の身体の秘部の直下に三日月の雄が悠然とそそり勃っていた。
 それを視覚に捉えた瞬間、かぁっと身体の奥から一気に熱が湧き上がる。
(あぁ…っ…すごい…………)
 相手の大きさは前々から認識はしていたが、こうして鏡を介して自らが受け入れる場所と並んで見るのは初めてだ。
 本当にあんな大きなモノが入るのだろうか…と一瞬不安に思ったが、それこそ今更の話だろう。
 実際、自分はこれまで散々相手を受け入れ、よがらせられているのだから……
(あんなの、挿れられたら……きっと、すごく気持ち好い……)
 彼の腕に抱えられ、ゆっくりと秘部をその先端に近付けられているのを見つめながら、面影はばくばくと心臓が異常な程の音をたてて脈打っているのを感じた。
 あり得ないのに、心音が三日月に聞かれてしまっているのではないかと思ってしまう程…
(は、ずかしい…この格好もそうだけど……三日月のを見て…どうしてこんなにどきどきして、嬉しいって……いやらしい気持ちばかり…っ!)
 頭の中にぐるぐると巡るのは、犯される事に対しての期待と悦びばかり……
 そんな自分の姿を鏡越しにでも見られたら、三日月には全て見透かされてしまっているのではないか…?と焦燥を感じたところで、ぐ、と秘部の入り口に固いものの感触が触れた。
「あ、あっ!」
 初めて見る…自らの後孔で相手の肉棒を受け入れる様子…そして受け入れる時の自分の浅ましい表情……
 こんなものを見せられてしまうと、それでなくても快楽に嬲られている身体が一層貪欲になり、持ち主すらも狂わせてしまう。
「…挿れるぞ?」
 背後から秘やかに届けられる声にひくんと息を呑む。
 その次の瞬間、ずぷっと自らの秘蕾が相手の昂ぶりを吞み込むのを、面影はしっかりと鏡を通して見てしまっていた。
 小さな孔に見えたのに、あんなに大きな質量のものを美味しそうに吞み込んでいく様は、まるで自分の淫乱ぶりを見せつけている様にも見えた。
「う、ふうぅぅ…っ」
 ずぐぐ…と熱された楔が体内に埋められてゆく感覚に、ゆっくりと面影は息を吐き出した。
 圧迫感はどうしても避けられないが、その後には快楽が追いかけてくる……自分はそれを知っている……
「好い眺めだ……ほら」
「あ…」
 三日月が面影の右手首を掴み、それをそのまま二人の接合部へと導き、彼の指先に彼らが繋がっている場所を直接触れさせた。
「分かるか…俺達が繋がっているのが…」
「う、あぁ……」
 指先に触れる熱い粘膜の感覚が否応なく自分達の今の状態を知らしめ、それは更に面影を淫欲の坩堝へと突き落とした。
 圧迫感はもう殆ど慣れて過ぎ去り、いよいよ相手の剛直がもたらす快感がじわじわと身体の中央から己を侵食しようとしていた。
「あ……み、かづきの……あついの…脈打って、る……んあっ、どくどくって……すご、い…」
 さわりさわりと指先で飽くことなく互いの繋がっている部分を撫で上げながら、嬉しさを滲ませた声で面影が呟く。
「ほんとに、つながってる……みかづきが、こんなに固く…感じてくれて…うれし…いっ」
 その言葉と同時に、己のものがより強く面影の蜜壁に締め付けられるのを感じて三日月が笑う。
「繋がっているのを見て感じたか?……いやらしいな、お前は…!」
「ひう、んっ!」
 一際強く下から突き上げてやると、甲高い嬌声を上げると共に自らの昂りを揺らす愛しい男の艶姿に、三日月は陶然となった。
 ああ、これは好い……
 今までこの格好で彼を愛していた時は、背中越しにしか相手の反応を伺うしか出来なかったが、こうして鏡の前だと面影のあられもない姿を余すところなく愉しむ事が出来る。
 羞恥すら忘れて脚を開く姿。
 楔を打ち込まれた場所を晒し、そこに触れて悦ぶ声。
 最奥を突かれ、切な気な、しかし悦楽に酔い痴れる……雌の顔…
 これらを全て目にして、求めずにいられる者などいるのだろうか、いや、いたとしても……
(誰にも……何にも渡さぬ…!)
 この存在は、永劫に自分だけのものだ…!
「なぁ面影……もっと、欲しがっても良いか…? 少々辛いかもしれんが…」
 今より激しくするのだと暗に言われた面影は、しかし躊躇うこともなく首を回らせて三日月の鼻尖に口付けた。
「う、ん……私も……もっと、ごほうび…欲しい」
「〜〜!」
 いつか自分が折れる事があるのなら、その原因はこの者の悪意のない、純粋な煽り文句なのではなかろうかと本気で思う。
 無論、それが将来現実のものになったとしても悔いなどある筈も無いのだが。
「そうか、ならば、たっぷりとくれてやらねばなぁ」
 許しを受けたどころかあちらから求められたのだから、期待には応えねばならないだろう。
「ではいくぞ?」
 そして、三日月は求められた通りに…そして自らの欲望のままに、相手を下から激しく突いて攻め始めた。
「あっあっ! はげし…っ! あああ、すごく、いいっいいっ!! み、かづきの、いつもより、かたく、て…おおきっ…!」
 素直に快感を伝えてくる相手に、三日月も頷きながら攻める身体を止める事なく応える。
「数日、お預けだったからな……それに、お前があまりに好い声で啼くからだ」
 抱かれてはいたが、抱くのは数日振りであり、その分、雄としての欲求を満たすのは久し振りだった。
 その上、可愛い恋人は抱かれる側に戻った途端にこんなに素直に求めてくれる上、啼き声ですら昂らせてくるのだから堪らない。
「そぅら、いつもより大きいのでご褒美をくれてやるぞ?」
「んっあっあ〜〜っ! オ○ン○ンッ、オ○ン○ンもっと! おくっ! 奥、までいっぱい、ちょうだい…っ!」
 素面の時は絶対に淫語など口にしない若者だが、先程の様に三日月に抱かれ、快楽の罠に捕らえられている時に限ってはその仮面を脱ぐ。
 そして罠がより深く、より激しい程に、彼の淫靡な本性が表に這いずり出てくるのだ。
 その姿を見る事が出来るのは、無論、三日月のみ。
「はは……じじいのオ○ン○ンは美味いか?」
「ん…っ…おいしいっ……もっと、もっといじめて、ひどくしていいからぁ……みかづきのやらしいオ○ン○ンで、おくまで、ぐりぐりってして…!」
 またも、煽ったらそれ以上に煽り返されて、三日月は思わず唇を噛む。
 危なかった……このまま持っていかれるところだった……がしかし、絶頂へ大きく踏み出してしまったのは間違いない。
「ああもう…! どうなっても知らぬぞ!」
 どの道、夜明けを迎え、他の刀剣男士達が起き出すまでにはコトを済ませておかねばならなかったのは確かだが、ここまで理性を剥ぎ取られてしまっては、最早遠慮など出来ようもなかった。
「あ…っ!」
 ぐいっと腰を抱え上げられ、相手の雁が辛うじて内に残ってるところで、今度は一気に下へと突き降ろされる。
「ああああ〜っ!」
 面影の嬌声が、始まりの合図になった。
 それからは、容赦なく三日月の熱楔が、幾度も幾度も面影の淫肉を貫き、滑らかな粘膜を灼くかの如くに擦り上げた。
 その激しさは面影の瞳から涙が溢れる程であったが、彼の口から紡がれるのは苦痛ではなく快楽に鳴き咽ぶものであり、それは更に二人を獣の如くに昂らせた。
「ああ、面影……好いぞ…素晴らしい締め付けだ……」
「ふあ、あああっ! こんなっはげし、いの…だめ、だめっ! お、おかしく、なるっ!! オ○ン○ンが、なかであばれてっ!! ひああぁんっ! すぐ、すぐ達っちゃう!! もっとほしい、のに…っ!」
 朝が来る……もう愉悦の時は終わりを告げる…けれど、少しでも長くこの時を……!
 貫かれながら、応えるように腰を揺らして悦楽を求める面影の切な気な声に、三日月があやすように後ろから呼び掛けた。
「面影……今宵は、俺がお前の許に夜這いに行くぞ…」
「っ!?」
「夜までの辛抱だ……また可愛がってやる故、今はここまでだな」
 夜になればまた……二人の甘い逢瀬が過ごせる……
 相手がそう約束してくれた事で、面影の心が安寧を得られたのは確かだった。
「良い子だ……さぁ、心置きなく達け」
「あ、あああっ、んっ、うんっ…! み、かづきも……いっしょ、にっ!」
 ずちゅっずちゅっと激しく犯される音を聞きながら、面影は後ろ手に相手の頭を捉えると夢中でこちらへと引き寄せ、接吻をねだった。
 それに応えて深く口付けながら、三日月は一層激しく深く腰を揺らして、一気に相手を絶頂へと導く。
「ああ〜〜〜っ!! やっ、もうっ……いく、いく…っ! みかづきのオ○ン○ンでっ、達かされちゃうっ! あっあぁ〜〜〜っ!!」
「ふ……あっ! 射精すぞっ、内にっ…!」
 ぐぐっと、三日月の楔がより一層太ましくなったと同時に、反射的に自らの内の肉鞘がそれを受け止めようと締め付けるのを自覚した面影は、次の瞬間、熱い相手の質量が一気に爆ぜたのを感じた。
 熱く激しい奔流が瞬く間に己の内側を満たしながら、悦楽と共に灼いてゆく……
「ああぁーーー……っ!!」
 引き攣った悲鳴にも似た嬌声を上げ、自らの分身もまた激しく震えて樹液を噴き上げたのを感じながら、面影はそのまま悦楽と共に意識の深淵へと沈んでいった…………




「おや」
 三日月がようやく……それでも薬研の見立てよりは数日早く全快を果たした日の昼下がり……
 修練場から庭を通ってきた蜻蛉切は縁側にのんびりと腰掛けている三日月と、その傍らに寄り添っている男を見かけてそちらへと足を向けた。
「みかづ…」
 『三日月殿』と声を掛けようとしてそれを途中で止めたのは、彼の隣の若者……面影が、くたりと三日月の肩に身体を預けて安らかな寝息をたてていたからだ。
「ん……?」
 蜻蛉切の方へと視線を向けた三日月は、ゆっくりと笑みを浮かべながら人差し指を顔の前に立てて「しぃー」と相手に静かにする様に優しく念を入れた。
 こくりと首肯した蜻蛉切は、二人に近づいてひそりと三日月に囁くように呼び掛ける。
『…長谷部殿が三日月殿を探しておられましたが……私が説明しておいた方が良さそうですな』
『頼めるか? 有難い』
 今はこの通り、動ける状態ではないからな、と面影を見遣る三日月の目はとても優しい。
 一見したら過剰な程の溺愛振りにも思えたが、普段から面影が筆頭近侍の三日月を敬愛して切磋琢磨し、三日月もまた新しく来た仲間として相手を丁重に迎えていた事を知っていた蜻蛉切は、何の疑問も抱く事なく、微笑ましそうに二人を見守った。
『……三日月殿が伏せっていた間は随分と心痛していた様ですから……ようやく安心できたのでしょう』
『そうかそうか………俺のせいで気苦労をかけた様だな……蜻蛉切、お前達にも随分と心配をかけた、すまなかったな』
『何を仰います。三日月殿の働きで他の遠征組の安全が保たれたのです。感謝こそすれ、貴方を謗るものなど誰もおりません』
『はは、そう言ってもらえると、年寄りの冷や水の甲斐もあったというものだなぁ…』
 そう三日月が笑みを零したところで、微かに面影が身じろいだ。
「ん……」
 三日月達が見守る中で小さな声を漏らしたものの、面影は目を覚ます様子はなくそのまますやりと再び寝入ってしまう。
「……ふふ」
 起こさずに済んだと安堵して三日月と微笑み合うと、蜻蛉切は静かに一礼してその場を離れてゆく。
 長谷部に上手く説明しなければならなくなったし、この場に留まり三日月と言葉を交わせば、今度こそ面影を起こしてしまうかもしれないので、ここは退場が正解だろう。
 残された三日月は、面影に肩を貸したまま、ほうと息を軽く吐き出した。
(心痛、もそうだが……明らか、夜も頑張らせてしまったからなぁ………)
 そういう意味でも、面影がここまで疲弊してしまっているのは自分が原因である。
 朝から夕方までは本丸に所属する刀剣男士として任務をこなし、夜になれば今度は自分を寝る間もなく抱き続け……これで疲れない訳がない……
(……祝言を挙げたばかりの夫婦でもここまでは…)
 そう思ったところで、思わず手で口元を覆う。
 我ながら気恥ずかしい事を考えてしまったと思いながら、三日月は身体を預けている面影へと視線を向けた。
 睫毛を数えられる程に近しい相手の顔は、相変わらず美麗で目が離せない。
 そんな相手が、全幅の信頼をもって身を委ねてくれている……それだけでこんなに心が暖かくなる。
「……愛い奴だ…本当に」
 天下五剣…その中でも最も美しいと称される自分だが、実は狂気にも似た独占欲を持った難ありな性分なのだと、面影に出会って初めて知った。
 千年を超えて生きてきた魂を宿した身をあっさりと抱かせてしまう程に、どうやら自分は彼に執着している様だと改めて認識した。
 なんとも厄介な男を恋人にしてしまったものだと多少憐れむ気持ちは無いではないが、悪いがもう手放すつもりはない。
『……覚悟、しておれよ』
 これからお前はこの世に在る限り、俺と共に生きてもらう……
 それを阻むものは、神であろうと万象の摂理であろうと容赦はしない。
(………まぁ取り敢えずは、今宵に向けての覚悟が先だがな)
 黎明の中で交わした約束をどう果たしてやろうかと、蒼の衣の美神は悪戯を考える童の様に微笑みながら、面影を見つめていた……