ふたりあそび 後編





 三日月達が本来帰還する予定日より多少早く戻れる事になりそうだと、確かに昨日面影達は聞いていた。
 そしてそれが間違いではない事は、今日の昼には証明された。
 長谷部が審神者より報告されていた通り、遡行軍の反撃を受ける事もなく、皆が帰還してきたのだ。
 ただ一振り、三日月宗近だけを除いて……

『三日月さんから、主へと』

 布陣に加わっていた刀剣男士が差し出した古風な書状を書斎で審神者が受け取り、その後また長谷部によって全員に事の詳細が語られた。
『向こうの本丸の結界が、昨日の乱戦で一部に綻びが生じてしまったそうだ。負傷した刀剣男士達の手入れでもかなりの霊力を酷使した審神者殿だけでは堅固な結界は結べないと判断されたが、政府筋からの援助も間に合わない事態だったため、現場にいたうちの三日月が手を貸す事になったらしい』
 それを聞いて殆どの男士達は納得した様子だったが、そこで挙手しながら日向が尤もな疑問を述べた。
『あの…三日月さんだけで良かったんですか? 他の誰かも一緒に手を貸した方が時間も短縮出来るかもだし、三日月さんも早く戻れたんじゃ…』
 誰もが同様の感想を抱いていたかもしれないが、そこで口を挟んだのは鶴丸だった。
『いや、無理だろ』
 びしっと右手を上げながら完全に否定した後で、そのままその手を顎に運んで付け加える。
『同じ本丸に顕現した刀剣男士なら可能だったろうけどな、今回はその類の話じゃない。俺達は各々別個の刀でも同じ主によって顕現させられたから、その根幹には同じ霊気が通ってる。だから神力を扱う時にも協力するのは割と容易いのさ、なんせ根っこが同じなんだからな。対しあちらの本丸の審神者は、俺達を顕現させた訳じゃない……言わば紛うことなき赤の他人なんだよ。その霊気は当然俺達にとってはかなり異質なものなんだ。その審神者の霊気に合わせる形で複数の刀剣男士が神気を放出するってのは……難しいのは分かるよな?』
 鶴丸の説明には皆も納得するしかなく、同じくそれを識っていたのだろう長谷部が満足げに頷いて続けた。
『…だから三日月が残ったんだ……あいつなら、例え相手が異なる審神者でも神気を操って同調させる事は朝飯前だろうしな………全く、つくづく恐ろしい力だ…』
 認めたくはないが認めざるを得ない、といった態の男だったが、その唇の端が僅かに持ち上がっているところを見ると、同じ本丸の刀剣男士が優秀である事に対しては素直に嬉しいとも感じている様だ。
『……いつ頃、帰ってこれるのだろうか?』
 不意に小さく呟かれた言葉は、静かに会話を聞いていた面影の口から漏れたものだった。
 直後に思わず漏らした本心に気付き、はた、と若者が手を口元に当てたが、その疑問は尤もなものでもあったので特に誰からも気に掛けられることはなかった。
『残念ながら、帰還については詳細は書かれていなかった。流石にあちらの審神者殿との同調については未知数だし、本丸の結界の綻びについても手探りで行う様なものだからな。しかしそう長くは掛からないだろうとの見通しだ。今日の夜までには…との見立てらしいが、それでも確実な事は言えない…どの道俺達に出来るのは待つ事だけだな』
 三日月に気を取られすぎて此処の本丸の守りが疎かになっては本末転倒だ、と皆の意見は一致する。
 無論、それは面影も同様だった。
 そうか、今日には戻って来るのか…ならばこちらもやるべき任をこなして待てば良いだろう……
 そう思いながら、他の刀剣男士達と共に、自らに課せられた内番の仕事へと向かって行ったのである………



(……遅い…)
 今日中には戻って来る筈…と思いながら昼の仕事をいつも通り真面目にこなした面影だったが、三日月がいつまで経っても帰って来る様子がなく、またその後の連絡もなく、気付けば深夜になってしまっていた。
 この時間になっても特に緊急の通告などが審神者より為されていないということは、事態そのものは恙無く流れているということだ。
 人の世にあっては、全ての事象が全て予定通りに流れることの方が少ないものだ。
(三日月の負った大任を考えたら、連絡など二の次三の次なのかもしれない……無事なら、それで良い……けど)
 遅い入浴も済ませ浴衣を纏い、後は寝るだけという状態になっていた面影は、今は寝所に引き籠り、明り取りの窓越しに見える月を眺めていた。
 既に部屋の光源は枕元の行灯だけであり、周囲をぼんやりと浮かび上がらせているだけだったので、より一層月の光を瞳に留める事が出来る。
「…雲が」
 ゆっくりと薄雲が流れ、月へと掛かり、降り注ぐ光が淡くなる。
(…月が翳る………)
 只の自然現象にすら、寂しさを覚えていた自分の心境を暴かれてしまっている様で、思わず面影は窓から視線を逸らした。
 その視線の先には先に敷かれていた一組の布団。
「…………」
 座っていた書机の前からゆるりと動き、面影はのろのろと布団の方へと移動していくと、そのままその上に座して視線を落とす。
 まだ人肌に触れていない布地はひんやりと冷たかったが、ふんわりと柔らかい感触が膝に伝わってくる。
 正直、この時間まで一人でいるつもりではなかった…
 都合の良い予定と言われたらそれまでだが、今この時にはもう自分は三日月の帰還を迎えており、いつもと変わらぬ雑談などをしながらどちらかの部屋に籠っている筈だった。
 そして……
「……っ」
 ぐ、ときつく袂を握り締め、瞳を閉じ、身体を微かに震わせる面影の頬に朱が差してゆく。
(…今日中に帰ると………)
 時計の針は二本とももうすぐ頂点を指し示すところ。
 相手が遊びではなく、他の本丸の存続にも関わる重要な任務に関わっているのは十分に理解しているので、不満を口に出すつもりは毛頭ない。
 しかし、心の中でほんの少しだけ我儘を言いたくなってしまったのもまた真実だった。
(…約束したのに)
 あんなに恥ずかしい姿を晒させておいて、恥ずかしいおねだりまでさせておいて……
 そんな自分に対して、今夜は直に触れてくれると約束してくれていたのに………
 心の話なら既に相手の行為については理解しているし、信じて待つことに何ら揺らぎはない。
 しかし……この身体は……不埒な身体は………
(……三日月の、せいだ…)
 一昨日まで長期の禁欲生活を送っていたところで、昨夜、その燻った熱を一気に燃え上がらせるような悪戯を三日月に施されてしまった。
 それが、身体と身体の繋がりに至っていたのであればまだ良かったかもしれない、直接的に欲求を鎮めてもらう事が可能だっただろうから。
 しかし残念ながら三日月の実体がその場に無かったため、その場は結局自慰で一時的に身体を鎮めるだけに留めたのである。
 無論、それで肉欲の炎が治まる訳もなかったが、それでも半ば強引に鎮静させられたのは三日月との約束があったからだ。
 今日、本丸に戻った暁には、面影を存分に悦ばせてやると……
 それなのに、今の時分になっても肝心の彼はこの本丸には戻っておらず、自分は一人、布団の上で悶々としているばかり。
 いっそ不貞寝でも何でも良いから眠って全てを忘れた方が良いのかもしれないが………それもどうやら難しいらしい。
 心とは関係なく、あの約束を果たして貰おうと面影の身体は夜が更けるにつれて疼きを増していたのである。
(……もうこんな夜更けだ……帰って、来ない…だろうな……)
 こんな時間になったのだから、流石に今日にはもう帰っては来ない可能性が高い。
 そうなると、今宵もまた自分は一人で眠らなければいけないのか……この火照った身体を抱えたまま……
「………………」
 暫く布団の上で静止していた面影が、不意に寝所の奥の押入れの方へと視線を向けた。
 そしてそこに何かがあるのか、少しだけ考える素振りを見せた後、ゆっくりと腰を上げてそちらへと歩いて行った。
 閉じられていた戸をすっと開けると、上下二段に分けられた空間が現れた。
 上段は布団を入れている空間だったのだろう、今は空虚な空間のみが広がっている。
 下段は幾つかの物品を入れている幾つかの様々な大きさの箱が整然と並べられていたが、その内の一つの小行李を面影は持ち出し、再び布団の上へと戻ってくる。
 そろりと行李を布団の上に置くと、一呼吸おいて面影はゆっくりと、傍目からは何故か躊躇いがちにその蓋を持ち上げた。
 中に収納されていたのは、およそこの和風で古風な部屋にはそぐわない、鮮やかな色遣いのこれまた箱が幾つか…
 それらには中に入っている品物の概要が印刷されていたのだが、奇抜な形をしている物もある中で、或る箱には明らかに男性の象徴と分かる模型が表されていた。
 久し振りに見る事になった品々を、赤くなった顔のままで見つめながら若者が箱ごと幾つかを行李から取り出して布団の上に置いていく。
 実は、小行李の中身の全ては面影本人が入手したものではない。
 その正体は、先日三日月が言及していた彼が現世で購入した『大人の玩具』であった。
 三日月の購入したそれらが何故面影の押入れの中にあるのかと言うと、当然だが三日月がそれらを使う対象が面影だけであったという事と……こういう事態になった場合の為、だ。
 いつか…遠征に出掛ける前に三日月が言っていた言葉を思い出す。
『いつぞやの玩具は使わないのか』
 それに対して自分は
『使ったらどうなってしまうのか怖い』
と言った。
 あれは紛れもない本心であった筈だし、今も尚一抹の不安…恐れがあるのも事実。
 しかし……
「…っ」
 三日月の言葉…いや、あの声を思い出したためにまた身体の奥から疼きが湧き上がり、震える手で一つの箱に手を掛けた。
(み、三日月がいけないんだ……私は…ずっと我慢していたのに、昨日あんなに私を煽って…い、いやらしいことをあんなにさせたのに……今日だって、こんなに私を待たせて……)
 三日月が今ここにいないのは彼の責任ではない事は重々理解しているが、それでも少しだけ不満を述べたくもなる程度には身体が熱くなってきてしまっているのだろう。
 こうなっては相手が居ない以上、自分自身で何とか収拾をつけるしかない。
 しかし、昨夜の内に欲求を煽られながら十分に満たされる事は無かったままの今の身体は、並の刺激では抑えきれないかもしれない。
 それならば……より強い刺激をもたらすもので………
(き、今日、だけ………三日月が戻るまで……だから……)
 ゆっくりと蓋を開けるだけの動作だけでもやたら緊張してしまい、どっどっど…と激しく脈打つ動悸を自覚してしまう。
 耳の奥でその鼓動を聞きながら蓋を開け、その奥からごそりと複数の器具を取り出した。
 丸みを帯びたかなり浅めの円錐ドームの形をした透明物だが、ガラスの様な硬質さは感じられない、おそらく材質は現世で多用されている軟質プラスチックだろう。
 一つではなく同じものが二つとも若者の手に握られているが、掌からはみ出るか否か程度の大きさだ。
 そしてそれらの内側の円錐頂部には、白い花の花弁に似た形質の物が付属している。
(確かこれは……)
 これまで使用した事は無かったが、実は説明書は三日月に品物を受け取った際に既読していた。
 使うか使わないかは別の話として、手元に読むものがあれば読みたくなるのは当然の話……だろう。
 こくんと小さく息を呑んでから、面影はおずおずとその浅い椀状の物体の一つを自身の右胸の突起を覆う様に被せ、陰圧をかけて固着させた。
 そして続けて左側の胸にも同じ様に器具を装着すると、右の器具の土台近くの小さなスイッチに手を伸ばし、かちりと「ON」側へと切り替えると………

 ヴヴヴヴヴヴ…………!

「んあ……あ…っ!!」
 二つの器具は連動式だったらしく、直後から聞こえてきたモーター音は左右のどちらからも聞こえてきて、それに被せる様に面影の喘ぎ声が響いた。
(なに………これっ…まるで本物の舌で舐められてるみたい…っ!! しかも両方同時なんて、刺激が強すぎ……っ!)
 花弁の形をしていた部品が回転し、それが絶妙な力加減で面影の乳首を擦り上げ、まるで人の舌に舐められているような感覚をもたらしているらしい。
 それが片方だけではなく、両胸の蕾に同時に悪戯を仕掛けられる形になっていたので、まるで二人の人物に同時に責められている様な錯覚が生じてしまった。
「んん…あ、ああぁ……!」
 久し振りに受ける強い刺激に一気に脳髄が灼けた様に意識が胡乱になる中で、面影の視界にあり得ない景色が浮かぶ。
 二人の男……二人の三日月が自分の胸元に顔を寄せ、淫らな愛撫を仕掛けながら蠱惑的な笑みを浮かべてこちらを見つめている様子が……
 そもそも三日月は今、外に出たまま戻っていない、これは自分が都合よく見ている幻の筈……しかし……
「あ……だめ……ふ、たりとも……そんな強くしちゃ……ひぁっ!」
 まるでそこに彼らが実際に居るかの様に、面影が見えない彼らに向かって訴える。
 本来であれば一人の筈の人物が二人に増えているなどあり得ない話ではあったが、面影にとってそれが当てはまらない事象が一つだけあった。
 そう……かつて彼は二人の三日月によって抱かれた経験があった。
 正月三が日を彼と共に過ごした中で、悪戯心を起こした三日月が神域を自室に展開し、そこで我が身を二つに分けたのだ。
 三日月の自我を持つ、分身とも呼べる二人の「彼」は、元の身と同じく面影を溺愛していた。
 彼らは各々の名を持ち、同じ様に若者を慈しむように抱いてくれたのだ………一夜の夢の如く。
(あ………うれ、しい………また、ふたりに……)
 彼らとの甘い時を思い出して、蜃気楼の様に二人の姿を虚空に見ていた時、前触れなく背後から昏い色を含んだ声が聞こえてきた。
『これはこれは………躾のなっていない僕だなぁ』
「ひ……っ!!」
 一切の気配も感じさせず突然降ってきた声に、身が一瞬で竦んで息が止まる。
 馴染みの深い聞き覚えが有りすぎる声だったが、今の姿が姿だけに、その声に冷静に応じる事は出来なかったのは、別に面影の修行不足という訳ではないだろう。
 この今の姿を『誰か』に見られてしまった…その事実で彼は激しく狼狽した。
 つい数瞬前までは心地良く感じていた胸への悪戯の感覚も意識の外に飛んでしまい、反射的に玩具をつけたままの身体の前面を隠そうと前のめりになったところで、再び面影は背後から囁かれた声を聞く。
『ご主人様が良い子で待っておれと言ったのに、こんな夜更けに玩具遊びとは……これは少々きつい罰を与えなければなぁ…? 面影よ』
「…!?」
 ここに来てようやく面影の思考はその声の持ち主の正体に行き着いた。
 艶っぽい声音とその語りの内容に、振り返るまでもなく確信する。
「み……ご主人…さま…?」
 名前を呼ぼうと思ったのに、口から出たのは相手に命じられていた呼称……やはりまだ呪縛は生きている様だ。
 脳内で彼を呼ぶ際には難なくその名が出て来るのに、声に出す時に限ってはそれが出来ない。
 呼びかけに明らかな返答は無かったが、相手の瞳が大きく見開かれた後、微かに聞こえてきたくぐもった笑い声が何より雄弁に答えを表していた。
 その確証を得てから改めてゆっくりと背後を振り向くと、そこには昨夜と同じく実態ではない虚像の三日月が佇んでいた。
 実体ではない、という事は、彼はまだ向こうの本丸に留め置かれているという事だろうか…?
 ということは。
 予定の作業が思いの外手間取り、帰路にもつけていなかったという事なのだろうか。
 相手がそこまで実務に集中していたというのに、自分は……欲に流されてこうして快楽に耽っていたと……
 ざあぁっと滝のように血の気が引くのを感じた面影が小さく口を開きかけたところで、先手を打つ形で三日月が囁いてきた。
『罰を……受けるな?』
「……っ」
 罪悪感に頭のてっぺんまでどっぷりと突き落とされたばかりの若者には、その言葉は死刑宣告にも等しい重みで響く。
 それに抗う権利は自身にはない、と、面影は素直にこくりと頷いた。
 頷くしかなかった。
 微かに震える身体を抑える事が出来ないまま、面影は三日月から下される審判を待つ。
『ふむ………』
 少し思い悩む素振りを見せていた三日月だったが、既に罰を何にするかは決めていたのか、決断まで然程時間は掛からなかった。
 彼はちら、と視線をあの玩具達が入っていた小行李に向けると、ゆっくりとそちらへと顎をしゃくった。
『そうだな……では、その中を見るといい』
「………?」
 促されるままに小行李の中を覗き込むと、己の肩口から三日月が同じく覗き込む気配がした。
 勿論、実体の彼ではなく虚像だが。
『藍の蓋のものを開けよ』
 これらを購入したのは彼なのだ、一つ一つの箱の中に何が入っているのかは既に認知済みなのだろう。
 面影は促されるままに該当している箱の蓋を取り上げ、中身を見た瞬間に動きを止めた。
「え………これ……?」
 真っ先に視界に入ってきたのは、もふもふとした柔らかな毛並みを備えた犬の尻尾の様な物体。
 しかしその尻尾らしき物体はそれ単独で納められていた訳ではなく、根元に当たる部分からは明らかに人工物と分かるモノが点けられていた。
 一見、黒い数珠の様な球体が幾つも連ねられているが数珠の様に小さくはなく、一粒の葡萄程の大きさだ。
 更に注意して見ると、尻尾から遠ざかる程にその粒が徐々に小さくなっているのが分かった。
 どの様に使用する物なのか……最初は全く分からなかったらしい面影が小さく首を傾げたところで、三日月が実に端的に説明した。
『可愛い僕の我儘が過ぎるのなら、犬猫の様にしっかりと躾直しておかねばな……尻尾でも付ければ少しは立場も弁えるだろう……付け方については……説明が必要かな?』
「っ!?」
 流石にそこまで言われたら、この物体をどの様に身体に『接続』するのか想像出来たらしい。
 尻尾は基本、動物の腰から臀部にかけてのラインから派生している、つまり、この柔毛をそこに固定させるには、数珠状の物体を………
「………」
 恐々とした手つきでその物品を取り上げた面影は、尻尾部分よりも接続部分になるだろう黒光りしている大きな球体の連なりの方へと意識を向けていた。
 入らない事はないと思う…けれど、結構な長さも太さもある…挿入したら違和感は拭えないだろうし与えられる刺激がどういうものになるのかも分からない。
『直接では少々辛かろう、行李の中に潤滑油代わりのものがあった筈だ』
 罰は与えるが、面影を実際に傷つけるつもりは全くない三日月がその様に助言する。
 従った面影が行李の中から出す様に示されたのは、油差しの様な形状のプラボトルだった。
 中には粘り気のある無色透明の液体が充填されていたが、この状態のそれに面影は見覚えがあった。
 あの日…二人でラブホテルに入った時にも散々三日月に使用されたもの…に酷似している。
 催淫剤が混入されているかは不明だが、あの時の使用感は悪いものではなかった…
 手にしている物体の材質を考えると、粘膜を保護する為にも使用した方が良いだろう。
 どの道、ここまで来たら三日月に反抗など意味のない事の様にも思えて、面影は素直にそのチューブタイプの容器からローションを圧し出し、数珠全体に渡って降りかけ手で馴染ませた。
 ぬるりとした触感の液体が固いプラスチック素材の表面を濡らしていき、ぬらぬらと淫靡な光を反射する。
「…っ」
 ごくりと喉を鳴らした面影が、ゆっくりゆっくりとそれを持った手を後ろ手に回して臀部の中央へと寄せていく。
 元の姿勢が屈んだ状態であった事と行為のやり易い体勢を考え、面影は徐々に前のめりになっていき、最終的には四つん這いの姿で作業に臨む事になった…図らずも、三日月の言葉通り犬猫と同じような姿勢で。
 その己の姿に加え、自身の手で異物を体内に挿入している様を虚像の相手に見られている事実を思い、面影は顔から火が出そうな程の羞恥に苛まれていたが、それでも彼への後ろめたさ、罪悪感を思うと手を止める事は出来なかった。
「ん……っ…」
 つぷり………つぷり………
 黒い人工の葡萄の粒を一つ一つ臀部の奥に隠れた秘穴に呑み込ませていく中、面影の唇から小さな呻きが漏れる。
 ローションの効能もあり苦痛はないが、やはり違和感は無い事には出来ないのだろう。
 しかし、感じていたのはどうやら違和感だけではなかった様である。
(あ……っ……こんなので…感じて、る……?)
 柔らかいものの、それでもある程度の抵抗を持つ物体が、繊細な粘膜を押し広げ奥へ奥へと侵入していく……その過程の中、敏感な部分を刺激され、図らずも面影は快感を感じ始めていた。
「ふ………っく………」

 つぷり……つぷ………

 数えてなどいなかったが、結構な数の粒を体内に納めたところで、ようやく面影の指先は柔毛の根元に触れ、全ての果実を挿れ終わった事を悟った。
 しかし、挿れ終わったところで今度は何をしたら良いのか分からず、彼は思わず顔を上げ、こちらを見下ろしていた三日月と久し振りに視線を合わせた。
「あ……?」
『おお……尻尾が生えて、更に愛らしくなったなぁ』
 満足気に微笑む三日月の様子から、一瞬若者は都合良く考えてしまった。
 これでもう罰は終わりなのだろうかと。
 しかし………次に続けられた言葉で、彼は今度こそ慄くことになる。
『では、これより共に散歩に赴くとするか……お前のその姿、さぞや美しい月明りの中、映えるであろうなぁ』
「!?!?」
 散歩……こんな、一糸纏わぬどころか、こんなモノを付けたままで……!?
 確かに今は深夜とも呼べる時間帯、他の皆は既に寝静まっているし、誰かに見られる可能性は限りなく低い……が、それでも絶対とは言い切れないのだ。
 もし起き出してきた何者かにこんな恥辱的な姿を見られでもしたら………!!
「それは………っ」
『昨夜も口答えは許さぬと言っただろう…? 『ご主人様』の命令は絶対だぞ?』
「……!!」
 既に三日月の瞳にはあの妖艶な光は宿ってはいない、しかし、彼の呪縛は未だに自分を縛っている。
 解放されていない以上、その言霊から逃れることは出来ないのだ……
「……せ、めて、服を……」
『獣は服など着ないものだ、しかし首輪と紐は許してやろう。さぁ、行くぞ?』
 有無を言わさぬ強引さで、三日月は面影を促し、寝室の襖を開かせ、続いて廊下へと繋がる障子を開放させた。
(早く……こうなったら、せめて早く、誰の目にも触れない場所まで避難を……!)
 ここでうだうだと躊躇っている間にも、誰かが厠などに起き出してきてしまうかもしれない。
 それでなくても、たまに空腹で眠れないと厨に足を運ぶ者がいるのも知っている。
 自分と三日月の私室はこの本丸の本殿、その奥側に位置している。
 審神者の部屋の近くに在る事でその存在を守るというのが理由だが、つまりそれは、此処から審神者の私室以外の何処かに向かう道程は、必然的に他の者の部屋より長くなってしまうということだ。
 今の面影にとっては、禍の道標でしかなかった。
『さぁ、共に来るがいい………ああ、這いつくばる事は無い、並んで歩いてくれれば良いぞ』
 一人ではなく三日月が同行してくれるというのは、罰を受け、羞恥に震えながら歩を進める面影の姿を見つめ愉しみたいという理由があったからなのか、それとも、面影が懸念する様に他の何者かの目に触れる事があった場合に何らかの措置を取るべく側に控えていたのか………
 自分にこれだけの責苦を負わせた張本人が傍にいることで少なからず安堵しているというのは、皮肉以外の何物でもないだろう。
 心中複雑なまま、面影は三日月の歩に促されて同じく足を前に踏み出した。
 廊下には幽玄な月明かりが注がれており、日光程ではなくても面影の今の姿を明らかにすることは出来そうだ。
 しかし完全に雲一つない状況という訳でもなく、ほんの僅かな時間だけ、微かに掛かった雲の影響で月が翳ってくれる。
 まるで、時折気紛れを起こす目の前の虚の男そのものの様だ。
 そんな事を考え、今の自分の姿を思い出さないよう、必死に現実逃避を実践していた面影だったが……
「ん………っふ……」
 一歩一歩踏み出す度に、人工の尻尾の柔毛が揺れて太腿や膝裏を擦り、そして秘肉を固い果実が抉っていく。
『どうした? あんまりのんびり歩いていると、本当に誰かに見つかるかもしれんぞ?』
「そ、んな…事……分かって…」
 分かってはいるが、これ以上速く歩いてしまうとより強く激しい刺激が淫肉を擦り上げ、奥を犯してくるのだ。
 しかしそれを口に出して説明するのも憚られてしまうので、結局は出来る限りで足を動かすことで答えとするしかなかった。
 まぁわざわざ答えずとも、相手方は全てお見通しだっただろうが。
 ぺた、ぺた…と面影は無言のまま裸足で板張りの廊下を歩いて行き、三日月は虚像のため無音で彼に付く影の様にゆうるりと流れる様に動いてゆく。
 他の刀剣男士達の私室が連なる棟を抜け、厠や厨に繋がる渡り廊下も抜け、いよいよ何処に三日月が面影を連れて行こうとしているのか分からなくなったところで、向こうは意外にも玄関を過ぎて外へと向かおうとする。
「そ、とに……?」
『うむ、まだそう寒い季節でもなかろう? さぁ行くぞ、流石に本丸から出る気はないので心配するな』
 そう言われても、外にまで裸体のままで行くのかと思うと流石に二の足を踏んでしまう。
『……このまま此処で留まるよりは、人の目からは逃れられるのではないか?……保証はしないがな』
 この時間、外に出ている刀剣男士がいる可能性は無に近い、三日月の指摘は間違っていない。
 それでも絶対ではない………屋外に裸体を晒したまま歩を進めるというのは無人であってもなかなかの羞恥プレイだろう。
「…わかった……」
 極力動揺を悟られまいと平静を装って返事を返し、足を上がり框から三和土へと下ろしたが、それでも本人でも抑えられない微かな震えが認められた。
 いよいよ外に出ると、屋内より鮮やかな月光に身が包まれるのを感じる。
 ほんの一歩外へと足を踏み出すだけで、屋内と屋外での相違をこんなにも感じるとは……服の有無がここまで人の心に影響を与えるとは……
 この心情の変化は、刀に例えたら鞘の中に納められているか否かの違いなのか……?
 足裏に乾いた、しかし板より柔らかな土の感覚を感じながら、面影は三日月の後を追って進んで行く。
(早く……はやく…もう、何処でもいいから……っ)
 歩けば歩く程に体内の異物は苛む様に蠢き、その蠢きは共に快感をも連れてくる。
 しかも…自覚はしつつあったが面影には認めたくない或る事実もあった。
(認めたく、ない………こんな、格好でいるのに……感じてるなんて……!)
 外で、誰に見られるかも知れない場所でこんな姿でいる事は、恥ずかしいと思いこそすれ喜びの感情など持てない筈だ、なのに。
 廊下に出た時から感じていた動悸は、最初は見つかるかもしれないという危機感と、裸体を晒してるという事実が齎す不安感、羞恥によるものだと疑わなかったのに、今は何故か言い表せない高揚感がうっすらと混じってきているのだ。
(違う……こんなのは…勘違い、だ)
 そうだ、きっと動悸を生じるに伴う感情について、この身に齟齬が生じているだけなのだ。
 見られるかもしれないことで、興奮して、あまつさえ悦びを感じるなど、あり得ない話で……!
「んん……っ!」
 そこまで考えたところで、ずくっと腰の奥から届けられた快波に声が漏れそうになり思わず口を塞ぐ。
 もう本丸の玄関から離れつつあるが、それでも無暗に声を出すのは憚られてしまう。
 歩く度に粘膜に走る快感が徐々に徐々に積もっていき、それは身体の中心にも影響を及ぼしつつあった。
 しかも黒い葡萄の内の一粒が、男性の弱点とも言えるあの器官に微妙に当たる位置にあった為に、今やその快楽は意識的に無視したくても出来ない程に膨張してしまっている。
(いや…っ……このままじゃ…完全に……勃っちゃ……)
 こんな場所で勃起してしまっては、治めるためにどうしたらいいのか……と途方に暮れかけたところで、面影の双眸がぱち…と数度大きな瞬きを繰り返す。
「…え…?」
 危うい散歩の道案内をしていた筈のあの男の姿がいつの間にか消えてしまっていた。
 元々が実体ではなかったのだ、あちらが意図的に虚像を消してしまえば当然こうなるだろう…が、まさかこんな事態の最中に消えるというのは予想もしていなかったので、当然面影は大いに慌てる。
「どこ……何処に……!?」
 歩を止めて辺りを見回しても、やはりあの蒼の衣の麗人はその姿を消してしまっていた。
 虚像を結ぶ向こうの環境が乱れてしまったのかと訝しんだが、それにしては前触れもなかった。
 消さざるを得ない理由があったのなら、端的にでもこちらにそれを伝えてくれた筈………
(どうしよう……!)
 いなくなったということならそのまま寝室へと戻っても良いのではないか、と一瞬考えたが、それは彼の許可あってのものではない……
 いなくなったとは言えまだ数秒の話、少しだけでも此処で待って、それからも三日月が姿を現してくれなければ正当な理由として看做される筈だ。
 かと言って、ずっとこんな開放された場所で立ち竦んでいる訳にはいかないと、身を隠す場所を探そうとした若者の目の前に、一つの建物があるのに気が付いた。
(……厩舎にまで来ていたのか……)
 正直行き先よりも三日月の視線の先と自身の身体にばかり意識が向いていたので、何も考えずに後を付いて行くだけだったのだと今更我に返る。
 しかし、目の前に周囲から身を隠す事が出来る厩があるというのは今の自分にとってはまたとない幸運だ。
 再度三日月と合流した際にも、此処ならかろうじて許してもらえるだろう、本殿に帰ったという訳ではないのだから。
(と、取り敢えず、少しだけ中で様子を見よう……)
 眠っているだろう軍馬達には申し訳ないが、と思いつつ、彼は足音を顰めながら極力足早に中へと入って行った。
 屋根に月光を遮られ一気に視野が暗くなるが、それでも明り取りの窓で完全な暗闇ではない。
 それに何より今までも馬当番で幾度も訪れた場所、大体の位置感覚も掴めているので慌てる理由は特にないのだ。
 やはり周囲の環境の変化に敏感な馬達には、珍しい来客の存在はすぐに気取られてしまったらしく、両脇の馬房前の仕切りの向こうから、小さな嘶きと鼻息が聞こえてくる。
「みんな……すまない。大丈夫、戦ではないのだ……少しだけ邪魔をするぞ…」
 優しくそう呼びかけながら、面影は闇に身を隠す様に厩舎の奥へ奥へと進んでいく。
 馬達も最初は興奮気味に首をこちらに伸ばしつつ振るなどしていたが、どうやら出陣ではなく無害な闖入者が来ただけと理解した様で、徐々に動作が鎮まっていく。
 取り敢えず一番奥に移動して、そこでこれからの行動について考えよう……と思いながら、この先には何があったかと思い出してみる。
 確か一番奥の左右の馬房は常時開放されており、馬ではなく両脇とも新鮮な藁が積まれていたか……万が一、億が一誰かが夜の散歩に近くを通り掛かったとしても、その目を逸らすのには使えそうだ……
(後の問題は……いつまで此処にいるべきか、だけど…)
 もうそろそろいい加減罰から解放してほしい…と思っていたその時……
「面影」
「っ!!!」
 背後から聞こえる三日月の声…しかもやけに近い。
 先程、消失するまでの虚像から聞こえていた声は、実体が放つそれよりぼんやりとしたものだったのに、今耳元に聞こえたのは吐息すら錯覚として感じられる程に生々しいもので……
「ふふふ……」
 優しさの中に危うさを秘めた笑みが耳をくすぐる中、面影は背後から何者かが自分を抱き包んでくるのを自覚した。
 いや、何者か、という事は既に火を見るよりも明らかだ、この声の持ち主は彼しかいない。
 しかし、その当人はつい先程までは本丸に到着していないということで虚像でしか存在していなかったのだ、実体は依然、あの遠隔地にある別本丸に在る筈………
 なのに、何故、聞き間違いようもない彼の声が、こんなにすぐ側で…そして、焦がれて止まなかった彼の抱き締めてくる癖そのままのこの腕が、どうして……?
「え……っ?」
「今、帰ったぞ…愛しき僕よ…」
 その言葉通り、面影を背後から抱擁した三日月はしっかりと実体を保持しており、その衣の滑らかな生地の肌触りと肌の温もりを以て、面影に現実であり夢ではないと知らしめる。
「う、そ……だって、まだ向こうの本丸に……?」
 諸々の感情や感想をすっ飛ばしで先ず口に出た疑問に、向こうの美丈夫は首を傾げながら応じる。
「まだあそこにいると俺は一言も言ってはいなかったが?」
「…………」
 そう言われてみれば…そうだった様な……?
 いや、でも、あんな報告のされ方をしたら、普通は向こうで足止めを食らっていると考えないだろうか……?
 弁解ともとられそうな感想を抱いたものの、今一つ反論するには弱い意見だと思い口には出来なかった。
「な、なら、一体、何処からあの姿を……」
「ああ、ここから少し離れた場所に転送された時、ふとお前の今の状況を知りたくなってなぁ……ちょっと覗くつもりで術を使ったら、先に一人で愉しんでいたので罰を与えようと思っただけよ。しかしお陰で、早くお前の艶姿を堪能したくて歩みは速まったがな、はは」
「~~~! なら、せめて部屋で……!」
「愛しい僕よ…俺はお前に罰を与えると言ったぞ? そんなに飢えているのなら、獣の様に扱ってやろうと思ったのだ…今此処にいる馬達(彼ら)と同様にな」
 そう言うが早いか、三日月はいつになく強引に面影の形の良い唇を己のそれで奪うと、遠慮なく舌を向こうの口腔内へと捻じ込んだ。
「んん…っ!」
 吃驚で声が漏れたのはその一瞬のみ。
 三日月が口吸いを仕掛けたのだと悟り、同時に舌で蹂躙が始まるのを感じた面影は、それだけで一気に思考が吹き飛んだ。
(三日月………本物の…三日月…っ)
 相手が本丸を離れて早数日。
 帰還予定が早まったり遅くなったり、色々と予定がごちゃついている間に、自分の心も少なからず翻弄されてしまっていた様だ。
 常時冷静を求められる刀剣男士としては未熟の極みなのかもしれないが、それでも今だけはそんな建前は忘れていたい。
 今だけは…此処に存在している男に触れてそれを確かめていたかった。
「ふぅ………んっ…ん…」
 ぐちゃっぐちゃっと粘った水音が響いているのは己の脳内での話か、それとも外にも漏れ出ているのか、それすらも分からなくなる程に、面影は夢中で相手の口吸いに応えた。
 口腔内を滑らかに舐め回している三日月の舌を捕える様に自身の舌を絡みつかせて吸い上げ、甘噛みしながらこちらへと引き寄せようとする強引さは、普段の若者にはあまり見られないものだったので、それに対して三日月も少しだけ驚いた様子だった。
「…! ああ、熱烈な歓迎だな……そんなに主人の帰りが待ち遠しかったか?」
 しかしその驚きはすぐに喜びへと変換されたのか、三日月もまたぐっと面影の後頭部を抑えてより強く唇を押し付けながら彼の口内のあらゆる器官を犯していった。
(うあ……すごい……いつもよりずっとはげし……でも、きもちよくて……何も、考えられな…っ)
 思考が鈍ったことで本能的に何かに縋りたくなったのか、それとも相手への恋慕の発露か、面影の両腕が三日月の脇下から背中に回され、ぎゅうときつく抱き締めてくる。
「…ご、しゅじん…さま……」
「うん……よしよし…」
 三日月もまた柔らかく力を込めて相手を抱き返した際、図らずも面影の胸が三日月の狩衣に押し付けられると同時に擦り上げられ、そこから走った電流に思わず面影が声を上げて悶えた。
 苦痛による痛ましい悶えではなく、明らかに快楽を愉しんでいる愉悦の声だ。
「ああぁ…っん!」
 唾液で口周りを濡らしながら喉を反らせ、久しぶりに唇を解放させた面影の反応に、三日月は直ぐにその理由に思い至り笑みを深めて揶揄った。
「おお、そうだったな……ここはもうお前が自分で苛めていたのだったなぁ?」
「そ、れは…っ……ひあぁっ!!」
 『ここ』と指摘された右胸の淡色の蕾を摘み上げられ、一際大きな声が上がってしまった面影は一瞬周囲に視線を走らせたが、此処が厩舎の奥である事を思い出して安堵する。
 極めて人目につきにくい場所に隠れているという認識がまだ追いついておらず、誰かに声を聴かれてしまうという危機感に煽られてしまったらしい若者の様子に、くっと三日月が喉を鳴らした。
「案ずるな……見ているのはあの馬達だけだ。だが……今のお前にはやや刺激が足りないかな?」
 まるで『誰かに見てほしいのだろう?』とでも言いたげな台詞に、勿論面影は否と強く答えるべく顔を向ける。
「そんな、ことは…っ!!」

 きゅうぅ…っ

「~~っ!!」
 完全に否定する前に、三日月から両の乳首を同時に摘まみ上げられて息が止まり、次の瞬間にそこから広がった強烈な快感にびくんと全身が戦慄いた。
「ああぁっ! や、ぁ…っ、そこ……っ!」
「俺が可愛がる前からこんなに大きく腫らして……あの玩具がそんなに好かったか?」
 三日月の言葉通り、彼が指で摘んでそのままくにくにと揉みしだいている小さな果実達は、普段のそれらよりより一層紅く色付き、ぷくりと大きく実を結んでいた。
 理由は言うまでもない、三日月が指摘した通り、面影が部屋の中で興じていた一人遊びの際に使用していたあの玩具の影響だったのだが、それに対して反応するゆとりなど今の面影には皆無だった。
 大きく成長したのに比例し、感受性も凄まじく敏感になってしまっていたのか、数度捏ね回されただけで面影は密かに気すらやってしまいそうだった。
(だめ、だめ…っ…!! あんなことしちゃった後だから、すごく敏感になって……っ!! あ、まずい…っ)
 快感を受けた肉体が、熱をその中心へと集めていくのが分かる……
 秘密の散歩に連れ出された時からも感じていた淫らな反応がより明らかになっていく………
(やだ……これ以上…気持ち良くされちゃったら……隠せない…)
 男性の証が徐々に頭をもたげているのを自覚し、面影は必死にそれを抑えようとするが、本能で強く支配されている領域には理性が介入するには限界がある。
 これ以上愛撫を受け続ければ間違いなく己の分身が完全に覚醒し、勃ち上がってしまうだろう事は容易に想像出来るのだが、こういう時に限って現実は懸念した道筋へと進んで行ってしまうもの。
「そんなに玩具が気に入ったのであれば、散歩にだけ使うのは勿体ないかもなぁ…?」
 そんな言葉を宣いながら、三日月は悪戯を仕掛けていた指先を相手の胸から離すと、そのままその手を面影の背…いや、臀部へと伸ばしていった。
 何をするのかと一瞬身構えた若者を尻目に、蒼の男があっさりと手にして見せたのは、面影が装着していた人工の尻尾………
 元々が非常に長いものだったので、三日月がそれの末端部分を面影の前面に持ってきても、多少のゆとりは残されている。
「え………」
 さわさわ…っ
 尻尾をどうするのかと思考を巡らす間もなく、相手がその端を胸の突起へと押し当てくすぐり始めた。
 それだけでも刺激としては十分すぎる程なのに、加えてもう片方の突起には、三日月自らが唇を寄せて舌を這わせつつ、ちゅうと吸い上げてきた。
 それぞれ左右の蕾に異なる刺激を与えられ、途端により激しく面影は悶え始める。
「はあぁぁんっ! あっあっ…!! それ、やぁ…っ!」
 つい今しがた、これ以上の刺激を得るのは危険だと察知したばかりだと言うのに、まるでその思考を読んだ上で弱点を突いてきた様なタイミングだった。
「ゆ、ゆるして…っ! そんな…あっ…! あ、あんっ!…ご主人、さまぁっ!!」
 今の面影にとっては、最早目の前の男は完全に名前ではなく主人として呼ぶ相手だと認識されている様だ。
 それはやはり男から受けた呪縛なのか、それとも面影の心が跪いた故なのか……
「少しは弁えてきた様だな……しかしまだだ。この程度で終わっては罰にならぬだろう?」
 そら…と煽る様により激しく毛先を遊ばせて敏感な突起を繰り返し慰撫しながら、一方では濡れた唇で色付いた宝珠を啄み、覗く舌先で舐め、白く光る歯列で甘く噛む。
 ゆっくりと焦らしているかと思えば、次には激しく繰り返し触れてきて、しかも左右交互に刺激の元が入れ替わってくる行為に、面影の身体は否応なく一気に絶頂へと高められていった。
 このままでは…もう、すぐ、胸しか弄られていないのに………!
(いっ……達く…!! もっ、胸だけで、達っちゃ、う…っ!!)

 ちゅうぅっ…! かりっ……

 ぎりぎりまで踏み留まっていた若者の身体は、最後は三日月の一際強い吸い上げと、ぎりぎり痛みを伴う甘噛みによって、あっさりと限界に突き落とされた。
「っ…!!ああぁ~~~~っ!!」
 身体の抑制が叶わず、面影は限界まで背を反らしながら幾度か痙攣し、溢れる快楽が涙の雫となって目尻から流れ落ちる。
 それに伴い三日月の顔に向かって彼の胸が小さく押し付けられたが、仕掛け人は避ける事もなくそれを利用し、尚も口内で蕾を思うままに蹂躙した。
「……どうした、随分と早いな……やはり、玩具との相性が良かったか…?」
 達した身体から力が抜け、頽れるところで前の男に身を預ける事でかろうじて起立を保った面影は、相手の問いにぴくんと肩を震わせた。
「!……それは…」
 相手の言う事は何も間違っていないし、誇張している訳でもない。
 三日月によって開発された身体は、もう胸だけでも達する事が出来る程に敏感になってしまっているし、過去にもそうなった経験はある。
 しかし、正直こんなに早く絶頂に至ったのは初めての様な気がする……毎回律儀に掛かった時間を計測するなどしていないから確証は無いが。
 ではどうして今回そうなったのか……思い至るのは、あの部屋、寝所に籠っていた時に興じていた、道具を用いた一人遊び。
 確かにあれのせいで、両方の果実が腫脹し、より敏感になってしまっていた、その自覚はある。
 しかし、可能性として浮かんだのはそれだけではない……もう一つ、隠れた理由が………
「…………」
 それを自ら告白するにはあまりにも気恥ずかしく、面影は顔を伏せて相手の肩口にそれを埋めてやり過ごす。
 しかし、普段から洞察力が高い…特に面影にはより一層それが働いてしまう三日月には全てがお見通しだった様だ。
 くい、と面影の頭の方へと顔を向け、その耳元でゆっくりと…しかしはっきりと聞こえる様に囁いた。
「………その身を晒す事にすら快感を感じるとはな……いやらしい獣め……」
「!! ちがっ……ちがう……っ あ、れは…罰、だったから…!」
「その罰をお前も甘んじて受けていたではないか……そら、今もこんなに悦んで…」
 するん……
「ひ…っ!」
 既に何も纏ってない姿の若者の分身を手中に納めるのは容易いとばかりに、三日月があっさりとそれを果たすと、相手が明らかな動揺と共に小さな悲鳴を上げる。
 何気ない所作で面影の弱点を掌で包み、美しい付喪神の白い指達がねっとりとした動きでその熱い塊に絡み付くと、ぴくぴくと別の生き物の様に反応を示してきた。
「ん、あ…あっ…はぁ、ん…そ、の触り方…だめ…ぇ」
「そんな可愛い声で啼いて……感じているのだろう?」
 この男は、確認のために訊いているのだろうか……それとも、昂らせる為に煽っているのだろうか……?
 どちらとも取れる挑発的な台詞だったが、そんな彼の声にも熱っぽい吐息が微かに混じっている事に面影は気付いただろうか?
 その答えは、震えながら三日月に必死にしがみつき、目を閉じ喘いでいる彼の姿からは察する事は出来なかった。
「あ……ああぁ……い、い……」
 胸への刺激で一度は達したが、面影の雄の部分はまだ奥に孕んだ熱を解放出来ていないままだ。
 不発に終わった欲情の解放を求めていたところで、三日月からの淫らな愛撫を受けて見る見るうちに大きく固く成長を遂げていった。
 それと共に本能がそうさせるのか、より男性の岐立が際立つにつれて腰の動きも露骨になっていき、媚びる様に自ら三日月に向けて擦り付ける様な仕草をする。
「そうかそうか……こうしてほしいのか…? ん?」
 若者の肉体の物言わぬ懇願に応える様に、三日月の悪戯な指達はより一層思わせぶりな動きで若い楔の表面を擦り、撫で上げ、突いた。
「んっ…あんっ! はぁ…はぁっ……! あっ、そこ……!」
 つい先程まで、本意ではなかったかもしれないが拒むような言葉を紡いでいたのが、いつの間にかより強い愛撫を求める様に身体を寄せ、甘い吐息と嬌声を男の耳元で漏らしている。
 普段なら二人きりの寝所で誰にも知られぬまま、見られぬままに逢瀬を重ねる夜のひと時……
 しかし今は人目にこそつかないまでも、開放された外の空間であり、それ故に濡れた淫らな声と喘ぎは空気を震わせながら周りの空間へと広く拡散していった。
「面影よ…心地よさに我を忘れるのは構わぬが、あまり彼らを煽るな…」
「……?」
 脈絡のない言葉に眉を僅かに顰めた相手に、三日月は背後を振り返り、そこに居ながらにしてこれまで無視され続けていた『観客』達の存在を示唆する。
「気づかなかったか…? 先程からのお前の端ない声で、すっかり奴等も興奮してしまった様だぞ?」
 男の声に被せる様に幾つもの馬の嘶きと荒々しい鼻息が聞こえてくる。
 内、数頭はがっがっと前脚の蹄を勢いよく踏み鳴らすまでしていた。
「…あ……っ」
「どうやらお前の美しさと淫らさは、種すら超えて通じるものらしい。彼奴等もお前を犯したくて仕方ない様だ…」
 これまでは存在している事は認識してはいたが、異なる種であるためほぼ意識の外へと追いやっていた馬達の存在だったが、こうして改めて彼らの視線に気付かされ、その上自分の痴態が彼らの本能を揺さぶり、欲情させてしまっている事実を突きつけられると、流石に平静を保つ事は難しかった。
 獣とはいえ明らかな意志を持っており、それをこちらに向けられると意識しない訳にはいかず、面影は今更ながら彼らに己を見られているという事実に激しく狼狽え始めた。
 多数の馬達が、自分を犯したがって暴れている……
 明らかにされたその劣情がこの身に向けられている……しかもそれが人の形をしている者たちではない、獣達。
「折角だ。もっとお前のあられもない姿を見てもらい、獣同士で親睦を深めると良い…さぁ、俺も手伝うぞ」
「あっ…!」
 三日月は面影の腕を掴むと厩舎一番奥の壁に両手を付かせ、臀部を馬達に見せ付ける様に突き出す姿勢を取らせた。
 無論、まだ尻尾の玩具は外していないので彼の白く鍛え上げられた両下肢の付け根からふさふさとしたそれが垂れ下がっており、腰が揺れる度にそれも連動してゆらゆらと揺れていた。
「あっ、やだ……!」
「ほら………もっと気持ち良くしてやろう……」
 動揺しながら背後を振り仰ぎ、必死に訴えていた面影に三日月が応えとして与えたのは別の形の新たな罰だった。
 ぐい、と尻尾の根元のアタッチメントを摘み、ぬぷり…と黒い葡萄を引き抜き始めると、背後を振り返っていた若者は正面に向き直る形で喉を限界まで反らし、掠れた悲鳴を上げた。
「ひ、あぁぁぁっ!! はっ……くぅっん…! ひっ……」

 ぬぷ……ぬぷり………

 てらてらと濡れ光る球体が繋がっている物体を三日月がゆっくりと一粒ずつ引き抜く毎に、びくっと面影の下半身が激しく戦慄く。
 それは下肢のみに関わらず、彼の分身も同じく激しく首を振りながら先端から先走りを飛び散らせていた。
「はあぁぁ………んん……」
 敏感な粘膜を玩具に擦られる快感に声を上げて首をゆるゆると左右に振る面影は、更に一層艶っぽさが増しており、流れる汗が光る肢体は月光に浮き上がり、この世のものではない様な妖艶さを醸し出している。
 そんな恋人の姿を満足げに眺めていた三日月が、先端近くまで引き抜き終えていた玩具を再び勢い良く淫肉にずぐりと埋め込んだ。
 勢いはあったものの、玩具の表面には例のローションに加えて面影自身の淫液も塗れていたので、然程抵抗はなくあっさりと咥え込まれていった。
「ん゛んっ〜〜〜〜っ!!!」
 一際激しく背中を震わせ、面影がその衝撃に眩暈を起こしたが、三日月の淫らな責めはより激しさを増して止まらない。
 ずるる………ずぷっ…………ずるっ………
 ゆっくりと球体達の形を粘膜に知らしめる様に引き抜いては、一気に奥まで突き込む動作を繰り返す。
 その度に玩具が粘膜を蹂躙するだけではなく、先端が男性の急所をぐりぐりと押し潰す事になり、同時にその快感は面影の理性をも押し潰していった。
「あ、あぁあああ…っ〜〜〜!! い、ひっ! 好いっ、いいぃ〜〜っ!!」
 それまでは多少はおねだりの気配は見せていたものの、基本受け身だった面影の様子が変わっていく。
「あっ、あんっ…! ふぁっ、そこ、もっと…! ん、あ、もっと強く…っ!」
「はは、随分と大胆になったなぁ……見られているのに、いいのか?」
「ん…い、い……もうっ、見られててもいい…っ…ご、しゅじん、さまの…罰、なら…っ!」
「!……面影」
 身も世もなく悶える若者の唇から紡がれる告白に、微かに三日月が驚きの色を瞳に宿したが、それはすぐに喜色のそれへと変じていく。
「お願い……もっと、奥……前、も…いっぱい…いやらしい、罰を……」
「……悪い僕だ」
 そう言いながら、我が意を得たという様にぺろりと舌で上唇を舐めると、三日月は愛する僕が望む淫らな罰を更に与え始めた。
「卑しい口だけではなく、我が儘坊やまで躾けなければならぬとはなぁ……そら、これでどうだ?」
 摘まんでいた尻尾の根元、アタッチメントの部分をわざと捩ることで、奥の淫肉が全周性に刺激される。
 それと同時に、別の手で面影の勃起した男性を握ると激しく上下に扱きだし、時折、先端の窪みも指先でぐりぐりと抉った。
「あ、あ、あああああぁ~~~! こ、れ、すごいっ! すご、いぃ……っ!! きもち、い…!」
「こんなに浅ましく腰を振って……本当に淫乱な獣だな…」
 蔑む様な言葉を言いながらその声音は何処か優しく、忙しなく動かしている様に見えている手にも、明らかに相手の身体を悪戯に傷つける事が無いようにとの気遣いに溢れている。
 三日月にとっての面影は、言葉で僕と呼んでも実質は誰にも代わりが出来ない唯一の存在であり、罰という言葉の裏にも、実は相手が悦ぶ快楽をこれでもかと詰め込んでいる事が如実に分かる。
 そう、三日月は、どんなに面影が取り繕っても、どうしたら彼が悦ぶかという事を一番に良く知る男なのだ。
 それはどんな場合でも、どんな時でも例外はなく………
「そら…」
「あ…っ?」
 つと木造りの壁に手を付いていた面影の腕を掴んでその場から引き離すと、三日月は厩舎の入口側へと共に向き直らせつつ、相手とその場に座した。
 自らが胡座をかく姿を取りながらその上に背面座位になる様に面影を乗せると、後ろから両手を回して彼の膝頭を掴み、一気に開かせながらこちら側へと引き寄せる。
 それら一連の動作の勢いで、面影の下半身がより前へと押し出され、若者はかなりの傾きをもって三日月に凭れ掛かる姿となり、結果、尻尾を生やした秘蕾が馬房側に露呈する形になってしまった。
「あ、ああぁっ! この、格好……全部見られてる…っ!!」
 此処を訪れた時より一層深く闇の帳が下ろされ、明り取りから降り注ぐのはささやかな月の輝き……
 通常の人間であれば、厩舎の中では碌に周囲の様子を確認する事は出来ないだろうが、それは人の目に限った話。
 そう、馬は昼行性の生き物であるが、野生の名残で夜でも目が見えるのだ。
 しかもここの厩舎に配された彼らは、夜戦でも十分に対応出来るように特に身体能力が高い個体達が揃えられていた筈。
 完全な暗闇ではなく月光という助けもあるのだから、彼らが今見ている自分達がどういう姿で映っているのか、想像するのは容易だった。
(そんな……みんな見てる……! オ◯ン◯ンも……おもちゃ…を食べちゃってる、いやらしいトコロ、も……! あんなに興奮して……ああ、恥ずかしいのに……どうして…奥、うずいちゃって…っ…)
 『ご主人様』からの罰であれば見られても良いと豪語しながらも、完全に羞恥が消えた訳ではない面影は、己の心情の動揺についていけずに混乱の極みに陥った。
 見られてもいいと思った筈…なのに、どうしても心は割り切れない……今も間違いなく身体は恥じらって震えているのに最も見られたくない場所の筈の肉蕾は、獣達の視線を受けて、淫らな果実を咥え込みながら悦びにひくついているのが分かる………
 そう、悦んでいるのだ……見られるという行為そのものが刺激となってこの身を昂らせていく……
「ああ……恥ずかしい…っ………み、ないで…見ないで……あっ…もっと……」
 見て………
 隠された欲求を心の中で吐露し、腰をくねらせる様はその秘所を隠す様にも見え、逆に視線を誘っている様にも見えた。
「……もっと…お前が乱れた姿を見たいものだ…」
 そんな恋人の姿に中てられたのか、背後から熱っぽい吐息を交えながらそう囁かれる。
「ん、ふああぁっ! ああん、それ…っ…ふかいぃっ…!!」
 再び尻尾の根元を掴まれ、ぐちゅぐちゅと中に出し入れされながら、もう片方の手で楔を嬲られ始める。
 馬達の夜目の利く瞳に見つめられながら、彼らのもどかしさが込められた嘶きを聞きながら、面影は三日月の手だけではない見えない何かに全身を犯され、ひたすら蹂躙されている感覚を味わいながら嬌声を上げ続けた。
 自らの淫らな声と猛り狂う馬達の声がこの狭い空間の中で響き渡るのを聞いていると、最早この世界は獣達の快楽のみによって支配されている様な錯覚に陥ってしまいそうになる。
 これは……危険すぎる……倒錯が過ぎる世界だ………
 獣達には毛ほどにも触れられていないにも関わらず、彼らにすら嬲られてしまっている様な……
 混濁した意識の中、不意に面影は背後からの乱れた息遣いを感じ、ぴくんと首を巡らせた。
「……ご、しゅじん…さま……」
 快楽の真っただ中にあって尚、自らが求めて止まない存在がすぐ背後にいる。
 それを認めた時、新たな欲望が面影の奥底から湧き上がってきた。
 今の与えられている快感も心地良いけれど……もっと…気持ち良いことを…感じられることを、自分は知っている………
「ん……ご主人…さまぁ…」
 そして、きっと相手も…自分がそれを欲している事に、気付いている………
 心の何処かでそう確信していた若者は、たどたどしい動きで片手を背側に回し…相手の身体の中心に当たる部分を袴の上から探り出した。
「っ……面影…?」
「……あぁ……すごい…」
 夢見る様にうっとりと微笑み呟きながら、面影はそろりと袴越しにも分かる怒張したそれを掌で包み込んだ。
「おねがい………おもちゃ…じゃ、なくて…ごしゅじんさまの……ほんもの、で…あぁ……おねがい…っ!」
 しゅ、しゅっと衣擦れの音を響かせ、面影が強請る様に袴の生地を奥の肉棒に擦り付ける様に手を上下させると、微かに肩を震わせて反応を示した男が一時、愛撫の手を止める。
 と同時に、背後から覗き込む瞳と、背後へ振り返る瞳が互いの熱を伝え合う………
 先に動いたのは、困った様に苦笑した主導権を握っていた筈の麗神だった。
「狡い奴だ、お前は………本当はこのまま達かせてやるつもりだったのに、そんな顔で強請られてしまってはそうもいかなくなってしまったではないか…」
 嘯く一方で、彼はしゅるっと乾いた音を立てながら自らの纏っていた佩緒と帯を手早く解き、無造作にそこに投げ落とす。
 そして解放された袴の帯もしゅるっと高い音を立てながら解き、ぐっと笹ひだの部分に手を掛けて前を寛げると、奥から完全に勃ち上がった楔を露わにした。
 元々から面影の媚態を見せられ雄として昂っていたのだろうが、今の面影からの悪戯でより一層大きく育ったそれは、先端の窪みから先走りを零しつつびくびくと激しく頭を振っている。
 布越しでもその様子を察してはいたが、直にその猛りを目の当たりにした面影は、無意識の内にごくりと喉を鳴らしていた。
 これまでも幾度も目にしてきたし、体内に受け入れてきたものなので今更初心な反応を示すことはないのだが、いつもとは異なる『刺激』を与えられ、肉体の渇望が極限まで高められてしまっているという事実が、面影の内面も獣にしてしまったらしい。
「あ……はやく…はやく……きてっ、挿れてぇっ!!」
「ん……欲しいのか?」
「う、ん……ほし……い…! ね……もう…なか、きてぇ…!」
 実はもう少しだけ意地悪をしてやろうと思っていた三日月だったが、相手の涙が零れそうな瞳に見つめられ、その上気した肌に汗を滲ませながら濡れた声で強請られると、これはいけないと思い直した。
 向こうもそろそろ我慢の限界だろうし……正直、自分自身も同じく限界が近かったのだ。
「ああ……よしよし…」
 優しくあやす言葉にも熱が籠っていたが、最早そんな些事には心を向けるゆとりも持てず、面影は相手になされるままに両脚をより大きく開いた。
 続いて肉蕾の奥まで埋もれていた玩具をゆっくりと引き抜き、全てを抜き取った後で代わり三日月の剛直の先端を押し当てる。
「うん……これだけ解れていたら……」
 先端から感じるその蕾の柔らかな触感に、挿入しても支障はないだろう事を確認すると、三日月が相手に腰を落とす事を促す前に面影自らが進んで楔を受け入れるべく身体を沈ませ始めた。
「ん…ああぁ……っ」
 ずぷぷ…と肉楔が難なく蕾へと呑み込まれていくと共に面影の口から声が漏れ、ゆっくりと左右に首が振られる。
 初めにほんの少しだけ眉が顰められていたが、それはすぐに解かれ、悦びを表す様に口角がゆるゆると上がっていった。
「ああっ……きてる………ほんものの…ごしゅじんさまの、オ◯ン◯ン…! あつくて、お…っきくて……はあぁ…いいぃ〜っ!」

 ぶるるるっ!! ぶるっ……! ひぃぃんっ!!

 面影の淫らな嬌声に混じり、野太くも高い嗎が幾つも厩舎内に響き渡り、同時に地面を踏み鳴らす荒々しい蹄の音がこれでもかと鳴らされる。
 そんな野生味に溢れた獣達の自己主張が急に強まったのは、間違いなく男達二人の本気の『交尾』を見せつけられた所為だろう。
 限界まで突き出された秘部に、同じく限界まで開かれた滑らかな曲線を誇る下肢………
 その中心に息づく蕾に根元まで咥え込まれた肉棒が、ずぷりずぷりと緩やかな調律で抜かれ挿される度、犯されている個体の雄もまた大きく成長した己を晒して激しく首を揺らしているのだ。
 生々しい接合部だけでなく、種こそ違えど双方が恍惚とした表情で交わっている様子を見せつけられてしまえば、それはもう野生にとっては興奮するなという方が無理な話だった。
「はぁっ……! んっ…あ、はっ…っ! ひぅぅっ…! ん、お……いい…っ」
 馬達の不満の嘶きと、恍惚に満ちた恋人の喘ぎ声を楽しみながら、三日月は薄く微笑み面影を繰り返し貫き続ける。
「皆、見ているぞ……そら、繋がっているところも、今のお前の顔も全て丸見えだ…」
「ああ……いや、いやぁっ…だめ、見ないで…っ」
「そんな事を言いながら、足を閉じようともしないではないか……知っているぞ、本当は嬉しいのだろう? 見られるのが……」
「そんなこ…」

 ずぐんっ!

 抗う言葉を紡ぐ前に一際強く貫かれ、若者は大きな嬌声を上げる。
「あああぁぁ〜〜っ!」
 そんな声に倣うように馬達の荒々しい合唱が続く。
 きっと今のこの時、この世の中で最も淫らな場所はこの厩舎だっただろう。
 それからも三日月は繰り返し繰り返し面影の深奥を肉刀で貫き抉り続け、その度に積み重ねられる快楽に襲われ面影の口は最早閉じる事も叶わず、滑らかな舌先が突き出されている。
「っは……うぁっ…やぁ……ああっ、おおき…っ……も、い、きそう…っ!」
「ん?…達くのか? この姿のまま達きたいのか…?」
 この悪戯っぽい声音での問い掛け…もし彼の問に答えなければ、またその罰として与えられている『ご馳走』を取り上げられてしまうかもしれない……
 それが頭に浮かんだ時、殆ど反射的に面影は息も絶え絶えの中で答えていた。
「いっ、いく…っ! み、んなに見られながら…いき、たい……」
 恥ずかしい姿を晒すという羞恥より、最愛の男に抱かれているという事実を見せつけたいとでも言うかの様に、その時の面影は大胆だった。
 最早、この世界には己と三日月しかいないと錯覚している様に見える……それ以外の事象など砂の一粒程度の価値もないという様に……
「…ああっ! もうっ、ごしゅじんさまの、オ◯ン◯ンでっ…いっぱい、いかせてぇっ!!」
 涙を流しながら懇願する従順な僕に、主は残酷な程に美麗な笑みで答えた。
「良かろう……達かせてやるぞ?」
 望み通り…『いっぱい』な………
 最後の言葉は音には乗せずに心の中にだけ留め……しかし約束は果たすべく、そこから一気に三日月の責めは勢いと激しさを増して面影を蹂躙した。
 幾度も幾度も繰り返し、徐々に速度も上げて面影の最奥を突き上げると、面白い程に面影の悲鳴が上がる。
「ひ…っ! ひあぁぁっ!! あっあっあぁんっ!! い、いっ、すごいっ! ああぁっ、ご、しゅじんさまのこれっ、ずっと…ほ、しかった……!!」
「………………」
 愛しい男が妙なる声で自らを求め、応えてくれていたのだが、ふと何を感じたのかぴたりと腰の動きを止めてしまった。
「え………」
 快感を貪っていた男が急にそれが失われた事で、慌ててそれを与えてくれていた相手へと振り返ると、三日月が目を細めてある事を願った。
「………やはり、最後ぐらいは名前を呼んでほしいものだな」
「え…?」
「呼んでくれ、俺の名を…」
「……………っ」
 三日月に請われるままに口を開こうとしたした面影だったが、何か思い当たる節があったのか少しだけ不満げな表情を浮かべて訴えた。
「なら…………呪縛を、解いてくれ」
「うん?」
「私の…呪縛が解かれないと……呼べないんだ…」
 昨夜のやり取りで、確かに三日月が望めば自分の呪いは一時的には解かれるだろう事は分かっている。
 しかし元を断たなければ、これからもこの呪縛はこの身を縛り続ける………己の意志で彼の名を呼べる事は出来なくなってしまう。
「…………………」
 ぱち……と数回瞬きをしながら面影を凝視するという珍しい反応を見せた三日月は、何かに思い至ったのか一人で納得した様に軽く頷いた。
「……うん………そうか、そうだな……」
 そんな事を小さくぶつぶつと呟くと、三日月は改めて己の瞳を青く輝かせた。
「さぁ………俺を見よ…」
 その瞳………昨日から己の心を縛り相手の名を呼ぶ事を禁じた瞳が再び輝き、自分の瞳を射止め、逸らす事を許さない。
 美しい瞳の光を浴びながら、面影は心の中に縦横無尽に仕掛けられていた見えない鎖が解かれていくのを感じ、ゆっくりと改めて唇を開いた。
「……み、かづき…」
 素直に相手の名を久し振りに呼べたのが、いやに新鮮に感じられたが、嬉しいと感じたのも事実だった。
 相手が呼ばれたいと思う呼称で呼ぶのはやぶさかではないが、やはり自分の正直な気持ちとしては相手の本名を呼びたいと思うのが自然と言うものだろう。
「うむ………良い子だ………」
 解呪を済ませたと言う様に、三日月の瞳はまたいつの間にか輝きを失い普段のそれに戻っており、名を呼ばれて満足した男は再び腰を動かし始める。
「本当に………お前は良い子だなぁ」
「ん………あっ…あ、あ……」
 粘った水音と肌と肌が勢い良くぶつかり合う高い音が混じり合いながら空間に響き渡り、その中で面影の吐息と嬌声が上がる。
「あああ、みかづき…三日月ぃっ! は、ぁんっ…ん、あっ、すごく、いいっ、いい……!!」
「ふふ……搾り取る様に締め上げてくるなぁ……余程、待ち遠しかったのか…」
「う、ん……っ! まって、た……はぁっ…ずっと、ずっと……ぉ」
 目には見えない濡れた蜜壺は、猛る肉棒を悦びながら受け入れながらきゅうきゅうと締め付けてくる。
 その反応は普段のそれよりずっと激しく情熱的なもので、面影の事を誰よりも知り尽くしている三日月は、相手がどれだけ飢えていたのかを改めて知った。
(まぁ、俺の帰還を待てずに玩具を用いてまで疼きを治めようとしていたのだから、淡白な反応にはなるまいと考えていたが……これも『教育』の成果か………それに…)
 他にも何か思うところはあったらしい男だったが、そこで一際大きな相手の声が聞こえてきたので、先ずは彼を悦ばせる事に集中を再開した。
 そこからは意味を成す声は一切聞こえる、聞かれる事はなく、獣達の宴が繰り広げられた。
 そして、幾度も幾度も繰り返される肉刀の抽送が限界までその勢いが速まっていき……故意か偶然か、最も深く強く三日月が先端を奥の奥まで突き入れ、更に腰をぐんっと荒々しく突き上げた瞬間、それを渇望していた様に、面影の肉鞘がぎゅうっと吐精を促す様に強く強く締め付けた。
「んんっ!! あ゛あ、ぁ…~~~っ!!」
「…っく!」
 掠れた悲鳴を上げて絶頂の訪れを告げた若者を背後からきつく抱き締めながら、ぐっと三日月が呼吸を止め、一気に精を放つ。

 どく、どく……っ!! びゅるるるっ!!

「うっあぁ………」
 脳が灼ける様な錯覚と、身体が奈落に落ちていく様な感覚……それを同時に味わいながら、面影もまた楔の欲情を暴発させた。
(あ………射精る…っ!!)
 本能の塊であるその肉棒の奥の細い管の中を、熱い熱い奔流が、その管を押し広げる程の勢いで一気に駆け抜ける感覚。
(あああ……っ……おくっ、奥が、精子で焼けて…っ! こんなの……良すぎる…!!)

 ぶっぴゅ!! びゅるるっ!!

「~~~~~っっ!!!」
 声すら出せない、気を失いそうになる程の快楽が面影の全身を貫く。
 そんな彼の視界に、自らが吹き上げた白い欲望液がぼんやりと映った。
 それも一度ではなく繰り返し勢いよく宙を舞い、それに同調して身体に電流の様に歓喜の波が襲ってきて、その度に荒波が岸壁を削るように面影の意識を失わせていく。
「う………ん…………」
 意識を完全に手放す直前、若者は耳元で囁く美しい神の声を聞いた。

『さぁ…………続きは寝所で楽しもうか…? 面影……」




「……………あんな意地悪は、程々にしてくれ……」
「うん……?」
 翌日、一つの布団の中で、三日月は面影を抱き包む様に横になりつつ彼からの少しだけ不満げな訴えを聞いていた。
 どうやら多少なりとも物申したい様子の恋人の機嫌を取る様に、片手で優しく彼の髪を梳きながら先を促すと、面影は少し照れた様子で三日月を上目遣いで見上げてきた。
「………夜の内に呪いを解除してくれなかった所為で、ずっとお前の事を…ご、『ご主人様』呼びしないといけなくて………昼間はいつバレるかと冷や冷やしていたんだ……その…私も、楽しんでいたのは……否定、しないが……」
「………………うん」
 暫しの沈黙の後、三日月は素直にこくんと頷いた。
「…………分かった、以後は控えよう」
「…ならそれはもう、いい………あ、あと……」
「まだ何かあるか?」
「……昨夜みたいな、あんな……ずっと、激しいの、は……今後は控えて……」
「ああ、却下」
 全く聞き入れるつもりはない、という意思表示をする様に、三日月はぐるっと相手に背中を向けた。
 本当に受諾したくないのだろう、普段は柔軟な思考を持つ彼にしては珍しく断固拒否の姿勢を取り、両耳を塞いで「あーあー聞こえなーい」ポーズすらとっている。
「三日月〜〜〜〜!!!」
 背中に縋ってくる面影の訴えをやり過ごしながら、三日月はあれから寝室へ戻った後の事を思い出していた。
(昨日は………本当に可愛かったな)
 昨夜、服を着直して誰にも見られない内に面影の寝所に相手を運んだ後、有言実行とばかりに三日月は面影と早速二回戦に雪崩れ込んでいたのだ。
 しかも自分が帰ってくる前に面影が使用していたあの玩具達が入っている小行李が放置されている状態だったので、悪戯好きな男はこれ幸いと、それらも用いて夜通し淫猥な遊戯に耽ったのである。
 その遊戯に翻弄されながらも、じっくりと可愛がられて面影も愉しんでいたのは事実だったのだが、それを思い出すとやはり恥ずかしいのだろう、背中に縋っている面影の顔は布団の中にあっても分かる程に真っ赤だった。
(しかし……少々素直過ぎるな…まさかここまでとは……)
 背から伝わるささやかな攻撃を涼風のように受け流しつつ、三日月はこっそりと昨日………いや、一昨日から続いていた或る事実についても考えていた。
(実は、もうとっくに解呪されている事を知れば、少々厄介な事になってしまうかもしれぬからなぁ……)
 実は一昨日、虚像で面影と対峙し、自らを『ご主人様』と呼称する様に軽い呪いと共に命じたのは事実だったが、彼の掛けた術は昨夜の内に綺麗さっぱり解かれていたのだ。
 解いたのは面影が最後の絶頂を迎えた時であるが、その時には瞳が光る事もなかったので、面影がそれを知る機会は得られないままだったのだ。
 しかしまさか、解いた筈の術がまだ己を縛っていると信じ、それに従うとは………
(…素直すぎる……)
 こんな性格で大丈夫だろうか……と不安に思ったものの、ふと三日月は普段の戦場に出ている時の彼の様子を思い出した。
 そう、戦場に出陣している面影…いや、日常生活を送っている彼は性格は素直で従順なのだが、それ以上に危機察知能力、警戒心が強いのだ。
 素直な性格は、まだ顕現して時間が短い事と生来の素が出たものだろうが、危機察知能力等はたった一振で戦場に投入された以降に培われたものだろう。
 当たり前だ、自分の判断一つ誤ればあっさりと砕かれてしまうのだ、生き残る為には相手を信じたい気持ちだけに従う訳にはいかない世界だったのだから。
 この本丸に来て少なくとも周りの刀剣男士達とは心の垣根はかなり低くなっているとは感じているが………
「………ふ」
 そんな若者が、自分の言葉だけは疑う事もなく素直に信じ…無意識下ですらそれに従おうとしたのか。
 この上ない優越感を感じながら、三日月が小さく声をたてて笑う。
 真実を相手に伝えない事は多少心苦しくは感じるが……まぁ、ずっと呪縛を仕掛けていたという汚名を被る事で許してもらおう。
 それにもしここで下手に真実を伝えてしまったら………
(……おそらく三日三晩は布団の中で籠城してしまうだろうからなぁ……)
 あの流れになると機嫌を直してもらうのにちょっと苦労する…………まぁそれでも可愛いと思ってしまうのだから自分も大概終わっている。
「な……何がおかしいんだ…っ!!」
 一生懸命怒っているという事を示したいのか、可愛い恋人はぽかぽかと背を叩いてくるが痛くも痒くもない。
 そんな仕草すら愛おしく思えて、三日月は再びぐるりと身体を反転させて相手と向き合うと同時に、ぎゅうと彼を抱きしめる。
「…!?」
「本当に…………お前は俺が大好きなのだなぁ」
「な……っ…!」
「俺もお前が大好きだ………止められる訳がなかろう?」
「!……そんな言い方は………」
 好きだから求めてしまう、という尤もな理由に面影はもごもごと口籠もり、赤い顔のままで相手の胸に顔を埋めて呟いた。
「……ず、るい……」
「うん………すまんな、お前にだけだ」
「………」
 結局のところ、また絆されてしまうのか………と思いながら、仕方ないと面影は息を吐いた。
 今回はここまでにしておいた方が良さそうだ……下手に突つき過ぎると…昨夜の自身のあられもない姿を蒸し返されてしまいかねない。
 よくよく考えてみたら、あれだけ責められてはいたものの、玩具のもたらす新鮮な刺激に乱れまくり、最後まで三日月にしがみ付いて啼きながら情を乞うていたのも己自身だった。
(……に……似た者同士…って、こと、か…?)
 自信をもって否定出来ないのが悔しいが…と思いながら、面影はまだ疲労が残る身体を相手に委ねながら目を閉じた。
「ああ…………もう少し、休んでおれ。時が来たら起こしてやろう」
 まだ朝餉に向かい内番に勤しむまでには時間がある。
 それまでは、久し振りに戻って来てくれた愛しい男の肌に触れていたい………と、三日月の優しい声に頷きながら、面影はまた暫しの眠りに落ちていく。
 その様子を見つめながら、ふと三日月はとある事実を思い出していた。
(そう言えば、確か今日の面影の内番は………馬当番だった様な?)
 昨夜、二人で色々と致してしまった場所で作業をしなければならないのか……
(ちょっとどういう反応になるのか気になる……内番の合間を縫って様子を見に行こうか…)



 そして三日月の記憶の通り、面影の内番は馬当番ということで、その日の彼はいつになく心が乱れている様な動きだったらしいが、その理由を知っているのは厩舎の馬達と手伝いに訪れた或る刀剣男士のみ………