秘密の共有




 その日、遠征が後半に差し掛かった日の夕方、いつもの様に隊長が皆に号令を掛けた。
「よっし、今日はこの辺りで野営だな。確か、廃屋が確認されている筈だ、そこに陣を張ろう」
 見れば、夕日が遥か彼方に見える山陰に既に半分は掛かっており、もう半刻もしたら辺りは宵闇に包まれるだろう。
 今回の遠征ではあまり近辺に人里がない事は分かっている…寧ろ、戦闘が生じる可能性が高い遠征では、敢えてそうなる様に仕向ける事も多かった。
 人的被害を出すのは最悪手…歴史に及ぼす影響等を鑑みてもそうだが、そもそも人の世の理をも守るために動いている自分たちが、彼らに害を与える様な真似をするなど本末転倒なのだ。
「じゃあ、僕が偵察に向かうよ。辺りに敵が潜んでいないか確認して、問題なさそうなら呼びに来る。それまで他の皆はここで待機して休んでて? さっきの戦闘でも疲れているだろうから」
 自分からそう申し出た日向に、隊長を任じられた鶴丸が笑顔で頷いた。
「おっ、頼めるか日向、悪いな」
「ううん、僕はさっきの戦闘でも皆に楽させてもらったから、この程度は何でもないよ。じゃあ、行って来るね、警戒よろしく」
 そう言い残して、日向が彼らの一団よりも先に獣道に近い粗い道を走って行ったところで、遠征組の足が一旦止まった。
 今は、彼の帰還を待ちつつ体力の回復に重点を置くべきだ。
「…日向には随分と助けられますな。彼も、全く戦闘に参加しなかった訳ではないのに…」
 申し訳なさそうに、一期一振があの少年の小さくなった後ろ姿を見つめつつそう呟くと、鶴丸もああとそれに対して頷いた。
「戦闘力そのものは、確かに俺達太刀や打刀よりは一歩引いてはいるが、戦ってのは力だけで全てが決まる訳じゃないからな。総合力に於いては、あいつの功績はなかなかに大きいぜ」
「ですな。戻った暁には、主にもその旨、よく申し伝えておかねば…」
 そう言った一期一振の目が一瞬遠くなり、彼は本丸においてきた彼の弟分達に想いを馳せた。
「…弟達が気になるか?」
 自分の僅かな変化からその心情までも見透かされ、一期一振ははっと我に返り、指摘した相手に苦笑した。
「ははは……お見通しですか、敵いませんな」
「まぁ分かるぜ。あいつらも日向と同じ短刀に、脇差だしな。それに同じ第三部隊の隊員でもあったのが、今回はお前と日向だけの派遣になったんだ。違和感を感じるのも仕方ない」
「確かに……しかし遠征ももうすぐ終わりです。戻る時に心配かけないよう、ここで油断せずに気を引き締めていきませんと」
「その通りだ。悪い方の驚きなんざ願い下げだからな。やっぱり心浮き立つ何かは喜びに満ちているものに限るぜ」
「同感です」
 一期一振の共感が得られたところで、鶴丸はうん、と一つ大きな伸びをして気持ちを切り替える。
「さて、じゃあ俺は、今夜の見回りの当番でも考えるか。くじ引きでも良いんだろうが、そろそろ体力差も考えんと……」
「ふふ、隊長も大変ですね。宜しくお願いします」
 へいへい、と軽く笑って手を振った鶴丸は、それから日向が辺りの偵察を終えて無事に帰って来る頃には、あっさりと見回りの順番や大まかな位置について決めてしまっていた。


(夜になると多少は涼しくなるのは助かりますな……近くの流れる川が、良い涼風を運んでくれる)
 深夜…今の時間帯の見回りを任されていた一期一振は、ゆっくりと辺りの気配を探りつつ、廃屋から少し離れた場所を歩いていた。
 自分たちが今、遠征している時代には、まだ風呂という概念は存在しない。
 なので、人里に立ち寄れても、風呂に入るという行為は期待出来ない。
 本丸で日頃、入浴という習慣を楽しみにしている彼らにとって、最早風呂はなくてはならない程に日々の生活に溶け込んでいるものだったが、戦の時やこういう場合は仕方がない。
 それでも近くに川があったことは僥倖で、遠征組の皆は、夜の襲撃に備えた見回りに向かう前か後に川で水浴びをして、汚れを洗い流す手段を取っている者が殆どだった。
 一期一振も例に漏れず、今から向かう場所川辺にいるだろう日向に見回りの交代を告げてから水浴びをする予定だ。
 因みに日向は、見回りの交代前に水浴びをしたいと言っていたので、この時間にはもう川辺にいるだろうと踏んでいた。
(さて、少々早目に着いてしまいましたな……日向は何処に……)
 川のせせらぎが聞こえる、しかし水場からは少し離れた場所を川に沿って歩きながら、一期は日向の姿を探す。
 見回りの任務上そんなに離れた場所にはいない筈だ、もしかしたら遡行軍等に見つからない様に土手の影で休んでいるのかもしれない…
 少し辺りを歩きながら探してみよう、幸い交代まではまだ時間もあるし……と、彼は土手の下へと足を延ばし、図らずも廃屋からは死角になる場所を歩いて行く。
『ん……っ』
「?」
 そんな彼の耳に、ふと人の声の様な音が聞こえてきて、一期は足を止めた。
(今のは…獣ではない、人の声の様だったが…?)
 念の為に本体の刀に手を掛けながら、ゆっくりと辺りを見回して気配を探る。
 敵意や悪意の様な類のものは感じられない……となると敵襲ではなさそうだ。
(…まさか、誰か、人が怪我でもして辺りにいるのでは……?)
 一瞬、そんな懸念が男の胸中に過ったが、誰か増援を呼ぼうかと思った時に再び問題の声が聞こえてきた。
『あ……っ』
 先程の様に漫然と聞き流していた訳ではなく、今回はしっかりと意識を集中して耳をそばだてていたので、かなりの確実性を持ってその音を拾うことが出来た。
 しかし、その声を聞いた一期一振は、寧ろ困惑の表情を浮かべて首を傾げる。
(今の声……日向のものだった様な…?)
 刀剣男士達は人間のそれと比較したら格段に耳が良い…と言うよりも、遥かに五感が優れているため、人間では聞き逃してしまう様なものでも確実に拾い上げられる。
 その聴覚で、一期一振は自分のすぐ近くに同志がいる事を察した。
 これが見回りでなければ声を上げて相手の返事を求めるところではあったが、如何せん、今は夜襲に備えての準隠密行動中の様なもの。
 そこで彼はもう少し辺りを探して、向こうがこちらを視認出来たところで意思疎通を図ろうという判断を下した。
(聞こえてきたのは、明らかにこの辺り……おや、こんなところに)
 ふと一期の足が止まって、その視線が川とは真逆の土手方向に向けられる。
 ただの土が盛られた土手壁が続いていると思われていたが、その一部に大きく深く抉れた場所があった。
 蛇がのたうつような形で窪みが出来ており、そこを上手い具合に丈がある茂みが覆い隠している。
 子供がかくれんぼをする際にここに隠れられると、音さえ出さなければなかなかに見つけにくいかもしれないなと思いながら、目を凝らして奥を覗き込むと、僅かな月明り、星明りにも鮮やかに返って来る銀の光を見つけた。
(間違いない…)
 あの鮮やかな銀髪は日向のものだ。
 しかし、こんな所で何を…と思ったところで、一期は察したとばかりに苦笑する。
 何を…などど考えるまでもない、仮眠を取っていたのだろう。
 確かにここなら誰の目にも触れずに身体を休ませる事が出来るし、川が近いので気温も適度で過ごしやすい。
(心地よく寝ていたのだろう…先程聞こえてきたのはもしや寝言かな?……しかし、悪いがそろそろ見回りの時間でもあるし、起きてもらわねば…)
 相手の確認も出来たところで…と、一期は何気なく軽い気持ちで声を出して呼びかけた。
「日向? そろそろ見回りの時間……」
「っ!!?? いっ、一期さん…っ!?」
 あまりにも不自然な驚き方だった。
 いつもなら、驚いた時にもそれ程に表情などにそれを出すことはなかった若者が、激しく動揺し、肩を揺らしてこちらを振り向いたのだ。
 しかし、次の瞬間……
「あ………っ!!」
 急にその若者の瞳が固く閉ざされ、びくんっと激しく戦慄く。
「……っ!!」
 そして、一期一振は見てしまった。
 相手が、己のそそり勃った分身を手で掴み、その先端から勢いよく白い放物線を放った瞬間を……
(あ……っ)
 即座に気付く。
 自分は、相手の…日向の自慰の現場に居合わせてしまったのだ。
 おそらくもう少しで絶頂に至るところだったのだろう、その時に自分が声を掛けてしまった事が引き金となってしまい……取り繕う事も出来ずに達してしまった……
(ああ……あれが…日向の……)
 いけないと思っていても、一期は日向の男性から目を離すことが出来なかった。
 あの外見の年代の若者にしては、立派な大きさと形を併せ持っている。
 既に十分な大人のそれとして通じるそのモノは、今は相手の手の中で精を放った後、くたりと頭を下に下げ、先端から白い糸を一筋垂らしていた……
「い……一期さん…あの…っ、こ、これは……っ」
「!!」
 日向の狼狽も露わな声にはっと我に返り、一期は慌てて視線を彼から逸らせた。
「すっ、すみませんでした日向! 貴方の姿を見かけたので、見回りの当番の声を掛けようと……覗くつもりは…無かったのです」
「えっ…あ…っ……も、もう、そんな時間……?」
 まさか、自慰に夢中で時間を読み違えていたとしたらそれこそ羞恥の極みであったが、察した一期が急いで訂正を入れる。
「い、いえ、大丈夫ですよ、まだ時間はあります! その、私が少し早目に来てしまっただけで……すみません」
「あ、そんな…一期さんが謝る、ことじゃ……」
「…………」
「…………」
 双方ともがいたたまれずに暫く沈黙を守っていたが、やがてそれを破ったのは日向の方だった。
「す、みません……遠征中は控えていたんですけど、どうしても我慢できなくて……誰にも見られない此処ならって………」
「えっ…ええ……適度に射精さないと、身体に悪い…ですから、ね……」
 今のがフォローになっているのかどうかも分からないまま、一期はどきどきと自らの動悸を自覚しながら、今は相手が手で隠している男根の事を思い浮かべていた。
(どうしよう……今回の遠征では忘れようとしていたのに……)
 あんな立派なものを見せられてしまったら、否が応でも思い出してしまう。
 本丸での弟達との甘く淫らな夜の営みを………
(あ……身体が熱くなって……いけない、のに……)
 必死にその場を取り繕いながら、一期は見回りを終えた後に、自分も何処かでこっそりと処理をしないといけないと思っていたところで、日向が縋るような瞳を向けて懇願してきた。
「い、一期さん…お願いです! 今のこと…どうか誰にも言わないでくださいっ…! 一期さんならそんな事しないって、分かってますけど…! その……っ、こんな恥ずかしいこと…」
 知られたくない…!と必死に願う相手の姿を見て、ぞくっと一期の背中に衝撃が走り抜けた。
 確かに、自分は今の事を誰にも言うつもりはない。
 人の知られたくない秘密を誰かに漏らすというのは己の矜持に反する事だ。
 しかし、向こうがどんなにこちらを信用していると言っても、口約束だけでは完全に安心する事は出来ないだろう。
 そこに安心を与えるには、また別の条件が必要になってくる…間違いなく自分が秘密を洩らさない様にする、枷が……
(…秘密には、秘密を………)
 秘密を漏らしてほしくなければ、自分も相手の秘密を共有したら良いのだ。
 互いの秘密を人質の様に見立て、手にしている限り、互いのそれらは守られる……
 彼と同じ秘密を、私も彼に差し出したら良いのだ……
 そしてそれは……今の火照った身体を持て余す自分にとっては、渡りに船だった。
「…日向…」
 小さな声で呼びかけ、一期一振はそっとその場で両膝を地面に着いて相手を真っ直ぐに見据えた。
「貴方の秘密を、覗いてしまった事を謝罪します……秘密を守ることを誓うのは言葉では簡単ですが、それでは貴方も心から安堵は出来ないでしょう……ですから…」
 ゆっくりと彼の手が己の上着の前に伸び、飾り布の留め金を外し、そのまま上着のボタンも外してゆく。
「…一期、さん…?」
 何をするのかと見守る日向が声を出したが、向こうは構わずに今度はシャツのボタンも外していき、最終的には上半身の服を全て脱いでしまった。
 そして驚くことには、彼は更に膝立ちになると腰のベルトをも外して、膝の上あたりまで一気にボトムスを押し下げた。
「あ…えっ!?」
 目の前で何が起こっているのか理解出来ず、呆然とする日向に、一期はほぼ全ての裸体を晒して艶然と微笑んだ。
「私も…貴方と秘密を共有しましょう……恥ずかしい秘密を…ね…?」
「……!!」
 全く、己が意図していなかった展開に、日向は更に混乱に陥ってしまう。
 何? 何が起こっているんだ…??
 混乱はしているが、お陰で当初に感じていた羞恥は最早忘却の彼方だった。
 自分としては秘密を守ってもらえると言質を取れさえしたら良かったのに、いつの間にか更に大事になって、今は相手が目の前で裸体を晒している。
 しかも、ただ、身体を晒すだけに留まらず………
「……見ていて…下さいね…」
「え…」
 大きな瞳を更に大きくした日向の前で、ゆっくりと一期の手が自身の胸へと伸ばされ、そこに薄く色付いていた突起を摘まみ上げる。
「ん……っ」
 甘い…密やかな吐息は、同性である日向ですらも惑わせる程の艶が含まれていた。
 柔らかな蕾は二つの指に挟まれ、膨らみながら形を変えつつ色付きが強くなってゆく。
(何を…見ているんだろう、僕は……)
 本来なら、目を逸らすべきなのかもしれない…ここまでの贖罪を相手に求めるつもりなど毛頭ないのだから。
 いや、そもそも贖罪ではなく秘密を守ってくれさえしたら良かった話なのだが、何故、今、こんな至近距離で相手の艶姿を見つめているのか……
(早く誤解を解かないと……別に一期さんが、こんなに恥ずかしい事をしなくても良いんだって…)
 しかし…口を開こうとした日向は、結局それを言葉として乗せる事は出来なかった。
 相変わらず、その大きな瞳は一期一振の裸体に釘付けになっている。
 もし自分が相手の行為を止める様に言ったら、今のこの光景を見る事が出来なくなるかもしれない……
 浅ましい考えだと分かっている…しかし、それでも止める事は出来なかった。
 もっと…見つめていたいと思ってしまった。
(……綺麗…こんな綺麗な人…が……こんな恥ずかしい姿を…僕に見せるなんて…)
 どくどくと、脳内に心臓の鼓動が響くのをどこか遠くでぼんやりと聞きながら、日向は知らず喉を鳴らす。
「日向は……」
「っ…! え…」
 唐突に呼びかけられ、はっと久し振りに視線を相手の胸から顔へと移すと、向こうはいつもと同じ優しさと…瞳の奥に妖しい光を秘めながらこちらを見つめていた。
「…自分で『する』時に……胸を弄る事は……あるのですか……?」
 あからさまな質問ではあったが、目の前で展開されている光景が刺激が強すぎたのか、今の日向には天気を尋ねるような軽々しい内容の様に聞こえた。
 なので、彼はすぐに躊躇いなく正直に答えた。
「う、ううん……したこと…ない…けど……」
「そう、ですか……は、ぁ…っ…すぐに処理するより、ここを触ったり…摘まんだりした方が、気持ち良いのですよ…?」
 ぺろっと舌を覗かせながら恍惚の表情で尚も蕾を弄る姿を見せる様は、まるで若者を誑かす淫魔の様だ。
「………」
 そんな相手の指導に、少年はじっと言葉もなく胸を凝視している。
 二人の間には人が三人は入るだろう距離が空いていたが、それでも刀剣男士の目に掛かれば、十分に視認出来る距離ではあったが……
(もっと……よく見たい……)
 こんな遠い場所からではなく、もっと間近で…あの美しい身体を…愛らしく見える膨らみを……
 そんな欲望が日向本人の様子から伝わったのか、一期は優しい笑顔を浮かべたままに日向に魅惑的な提案を持ちかけてきた。
「…もっと近くで……見てみますか…?」
「っ!!」
 相手の提案に、どくんっと一際強い心音が脳内に響いた。
 浅ましい欲望を見透かされたのに……それを、許してもらえた…?
「…良いですよ……さぁ、こちらに来て…見て、下さい……これも秘密ですから…」
 何処となく上ずった声で、一期一振は日向を自らの近くへと誘った。
 素直にそれに従い、ふらふらと日向は夢遊病患者の様に歩いていき、ぺたんと相手の前で膝を着くと、そっと頭を相手の上半身へと近付ける。
 まるで肉食獣の様な瞳をした少年は、目の前で指先で弄られる紅い蕾を食い入るように見つめていた。
「い、ちごさん……綺麗です……何だろう…その…乳首、大きくなっている様な…」
 賞賛の言葉を口にしながらも、素直な疑問を口にしてきた相手に、一期は笑みを深めて頷いた。
「ええ…男性のここも…女性と同じで、感じたら大きく固く育つんですよ……ほら…固く勃っているでしょう…?」
 くに、くに…と敢えて蕾を潰すように力を込めて揉み込むと、それが弾力をもって指を押し返している様子が分かった。
 声を失って凝視している若者の前で、相手の欲情を感じ取った一期がそれを煽るようにぴちゃ、と指を舐めると、そのまま再び蕾へと伸ばし、唾液を塗り付けた。
「あ……こうして…濡らして触ったら、もっと気持ちよくなるんですよ…ほら、まるで舐められている様でしょう…?」
 ぬらぬらと自らの唾液で光る乳首を相手に見せつける様に、一期一振がぐっと身体を前に突き出す。
「う、うん…いやらしく光って…何だろう…見ているこっちまで、ドキドキしちゃうよ…」
「……触って…みますか……?」
「…っ!!」
「……秘密を…もっと、共有しましょう…?」
 何もしていない…ただ目の前の光景を凝視していただけなのに、まるで全力疾走した後の様に息が荒くなっていた日向は、流石に暫く躊躇うような素振りを見せていたが……
「…い…いい、の……?」
 恐る恐る一期にぞう尋ね、相手がゆっくりと首を縦に振ったのを確認すると、恐々とした様子で手を伸ばし、さわりと蕾の頂点を軽く掠める様に触れた。
「あ……ん……」
 触れられ、男の口から甘く切なげな声が漏れた。
 それを聞いた日向の脳が一気に沸騰した様な感覚に陥り、彼は夢中で目の前の蕾を弄り回し始めた。
「ん…ああっ……そう……とても、好いですよ……日向…」
 艶やかな声でそう相手を褒めつつ、一期はうっとりと快感に酔っている。
(本当だ……すごく固くなってる……)
 くにゅくにゅと乳首を揉み込んでその弾力を感じながら、日向は更に大きく赤く腫れてきたその膨らみを見つめながら、おかしな欲望を感じ始めていた。
(一期さんの乳首……まるで小さな可愛い小梅みたい……美味しそう……)
 食べたい……この美味しそうな愛らしい実を……
 そう言えば、先程、一期一振も言っていた……唾液を塗り付けた時に、『舐められている様』だと。
 もし可能なら……それが許されるなら……
「……いちご…さん………舐めても…いい…?」
 うっとりと夢見る様に囁きかけてくる相手に、一期は寧ろ嬉しそうに頷いた。
「ええ……秘密ですよ……二人だけの…秘密…」
「秘密……うん……誰にも、言わない、よ……絶対に…」
 最初は日向の秘密を守る為の口実の筈だった行為が、今は互いの快楽を求める為の理由に摩り替っていた。
「ん……」
 胸に顔を寄せ、ぺろりと赤い果実を舐め上げると、固い感触が舌先に伝わってきた。
 ほんのりと感じた味は、相手の汗だろうか…しかし、それはとても甘く感じた。
「ああ、日向ぁ……気持ち好い…ですよ…」
 自分の行為で相手が快感を感じているらしいという事実を目の当たりにして、一層、少年はその行為に夢中になる。
 ぺちゃ、ぺちゃ…と何度も下で尖った胸の先端を擦っていると、吐息と喘ぎ声を零していた相手から懇願される。
「日向……吸って、ください…」
「え…っ…」
「お願い……きつく、吸って……」
 向こうの希望は、こちらのそれでもあった。
 あの形の良い小梅を思い切り吸い立ててみたい……その時、彼はどんな反応を返してくれるだろう……
 請われるままに、日向は右の胸の果実を唇の奥へと含み入れると、ちゅうっときつく吸い上げた。
「はあぁぁん…っ! あっ…好い…もっと…」
 背中を反らせて声を上げた若者の姿に、ぞくぞくと得も言われぬ衝撃を感じた日向は、それからも徹底的に相手の乳首を弄り倒した。
 ちゅっちゅっと吸いながら舌を使って膨らみを転がしたり、試しに軽く歯を立ててみたりしながら、敏感な相手が応える様子を見つめていると、どんどん自分の中の欲望が膨らんでいく。
(おかしい……一期さん、男士なのに……僕…欲情、してる……)
 そもそも刀剣男士という存在が人間に懸想する事はあるのかという基本的な疑問もあったが、今の自分は間違いなく目の前の男性に欲情しているのは間違いない。
 これは…自分はおかしくなってしまったのだろうか……?
 何を正解としたら良いのか、分からなくなってくる……何処まで秘密を共有したら……
「ひ…日向……ああ…見て…」
 不意に呼ばれ、久し振りに顔を上げると、上気した顔の一期が切げな表情を浮かべていた。
 その彼が日向と視線を合わせた後にすぅと視線を下へと下ろし、それに引き摺られる形で少年が同じく顔を俯け…硬直する。
(あ……っ…)
 膝まで着衣を下ろしていた相手の露わになっていた股間。
 最初に彼が服を下ろした時には「大人しかった」その器官が、今はしっかりと勃ち上がり存在を誇示していた。
(え…っ、こ、これどうしたら……み、見てって言われたけど、やっぱりダメ、だよね…)
 付喪神とは言え、自分達は今は人と同じ形を顕す形で顕現した存在、その意志もまた彼らと同一ではなくても似た様に模られているのだ。
 故に…裸体を見られる、特に性に関わる部分は忌避されるのだ、先程の自分もそうだった。
 更に自分は射精する瞬間を見られてしまったのだ、あの時の羞恥、焦燥は忘れられない。
 それに照らし合わせてみると、今の一期一振の身体の状態も似た様なものなのだ、相手の心情を鑑みたら目を逸らすというのが正解の筈…なのだが……
(だめ…なのに……どうしてだろう……見たいって、思っちゃう…)
 相手の恥部を凝視したいという欲を自覚しながらも、日向は一度はその目を逸らす事に成功した…のだが……
「ダメ……目を逸らさないで、見て、ください…」
「!!」
 今の自分はきっと平静を装えてはいないだろう、正直どんな表情を浮かべているのかすら分からない。
 しかし、相手に言われて視線を戻すのはほんの一瞬、僅かな間だった事は確かだった。
 それ程に…自分も相手の姿を見る事を望んでしまっていた。
(あ、すごい……他人の…勃起したのを見るの、初めて…)
 風呂場で他の刀剣男士達の身体を見る事はしょっちゅうだが、流石に今回の様な状況は初めての体験だし、今後もそうそう無い…筈。
 稀有な体験を正に今体感している自分は、一体どうしたら良いのか……
「あの…一期さん…」
 判断がどうしてもつかない日向は、目の前の男に声を掛けて判断を仰ぐことにした。
 見てと言われたので、それを口実に相手の大切な場所を凝視しながらも、彼の秘密を過剰に暴き立てているような申し訳なさに声が小さくなってしまう。
「…見て……私の恥ずかしい姿を……貴方が、私をこんなにしたのです、よ?」
「ぼ、くが?」
 尋ねてきた日向に一期はゆっくりと頷きながら、改めて己の胸を相手に見せつける。
「日向が、私の乳首にいやらしい悪戯をしてくれたから……気持ち良くて、こんなに大きく育ったのですよ……」
「僕が………育てた……?」
 僕の、胸への愛撫であんなに反応してくれた……?
 ぞくりと奇妙な優越感が日向の背を走った様な気がする。
 その感覚が消える前に、一期が日向に熱っぽい視線を注いだ。
「ねぇ……見ていてくださいね……んっ…」
「………っ!!」
 日向が注視している目の前で、一期は隠す素振りも見せずに徐に己の分身に両手を伸ばして握り込むと、ゆっくりと上下に動かして扱き始めた。
「いっ…一期さんっ!?」
 流石にそこまでは…と止めようとした少年だったが、相手の恍惚とした表情に、引き留めようとした手が止まる。
(こ、れ…止めるべきなの……? あんなに…気持ち良さそうなのに…?)
 惑う日向の懊悩を他所に、一期の己を慰める手は止まらない。
「ああ、気持ち好い………見られてるのに…っ、ゾクゾクして…止まらない…っ!」
 先走りが先端に滲み、手指に絡め取られ、それが茎を擦り上げる度に潤滑油の役目を果たしてちゅくちゅくと音を立てながら上下する様を、日向は一心不乱に見つめていた。
 目を逸らすなど、考えられなかった。
(ああ、すごくいやらしい一期さんっ…! あんなに大きくして、激しく扱いて…! どうしよう、見ている僕も、ヘンな気持ちになっちゃう…)
 ずくんと己の股間が疼いて見遣ると、先程に精を放って落ち着いていた筈の分身が、今また元気を取り戻して勃ち上がろうとしていた。
「あっ……そんな…」
 狼狽しつつそれを手で隠そうとした少年だったが、目にした現実は彼を新たな誘惑へと誘った。
(どう、しよう……また、こんなになっちゃって…全然、治まりそうにない…っ!)
 これは精神力云々で済む話ではない……やはり、物理的に刺激を与えて解放しないと……
「日向…」
「え……」
 呼びかけに顔を上げると、快感に頬を染めている一期が全てを察している様に微笑んで見つめてきていた。
「ご存知ですか……? 「ココ」は自分で触るより…人にしてもらった方がずっと……ずっと、気持ち好いのですよ」
「っ!!」
 それってもしかして……
 何故か期待してしまう様に胸が高鳴った少年に、相手の若者は抗い難い魅惑的な提案を申し出る。
「ねぇ、日向………『こすりっこ』、しましょうか」
「!!」
「二人で……もっと、気持ち好くなりましょう…ね…?」
 頭の中がぐらぐらと煮え滾っている様だった。
 断る理由は、ない筈だ。
 二人の秘密はこれで対等に守られ、二人共が等しく快感を得ることが出来るのだから。
 しかし、それでも一瞬日向が躊躇ったのは……これから先の世界に足を踏み入れてしまったら最期、もう戻る事は出来ないかもしれないという不安があるからだった。
(僕は……どうなってしまうんだろう)
 そう思いつつも、身体はそこから後ろに退く事は無く…自らの雄を隠していた手はゆっくりと相手に向かって伸ばされていく。
 伸ばしているのは紛れもなく己の意志なのに、その光景を少年は何処か他人事のように捉えて見つめていた。
 現実味が無かった、というのが、一番正しい表現かもしれない。
 この遠征に参加する前は、まさかこんな体験をする事になるとは夢にも思っていなかったのに。
 伸ばされた手を一期が優しく掴み、さぁと促すように彼の分身へと導き、握らせる。
 瞬間、掌に伝わってきた熱で、日向の思考は一気に現実に引き戻された。
「あ…っ!」
 熱い……そして、触れるだけで伝わってくる力強い命の脈動……
 握っただけなのに、その肉感だけでこちらまで欲情が止められなりそうな…いや、もう不可能なところまで来ているのかもしれない。
 きゅ…っ……
「っ……!!」
 身体の中心に触れられ、びくっと日向の身体が戦慄き、その腰が反射的に後ろに引けたが、肝心の中心は相手の掌の中に捉えられたままだった。
「あっ…!? いっ、一期、さんっ…!」
「ああ……素敵です……私の手の中でこんなに元気に跳ねて……」
 うっとりとした口調で囁かれながら、手の中で分身を優しく幾度も揉みこまれ、激しく身体を震わせながら日向が声を上げた。
「はあぁぁんっ…! なっ、なにこれぇっ!? こんな、こんなの、知らな……」
 首を横に振りながら喘ぐ少年の瞳が明らかに潤み、その奥に淫靡な光が灯ったのを、一期は見逃さなかった。
 更に手に力を込めてリズミカルに肉棒を擦りながら揉むと、瞬く間にその先端から透明の雫が溢れてきた。
「ふふふ……日向は物静かなのに、こっちの子は随分と暴れん坊なんですね……ほら、揉み揉みしただけで頭を振って、いやらしい涎を垂らしていますよ?」
「い、やぁ……そんな言い方、しないで……!」
 指摘を受けなくても、自身の分身がどんな恥ずかしい姿を晒して、浅ましい動きをしているのかという事は分かっていた、しかし、本能に則した行動であるだけに止められないのだ。
 隠してしまいたくても、本体を相手の手の中に握られてしまっている以上はそれも叶わない。
「日向、貴方だけ気持ち好くなるのは無しですよ?」
「っ!」
「さぁ、私も気持ち好くして下さい……早く…」
「う…うん…」
 請われ、半ば急かされるように、日向はようやくその手で相手を優しく包んだまま擦り始める。
「あ、ああっ……あんっ、あんっ…好い……好いですよ、日向…ああ、もっと二人で…」
 気持ち好くなりましょう……?
「あ……うん…僕も、すごく、気持ち好い……」
 互いの股間からちゅくちゅくと響く淫らな水音を聴きながら、日向は夢中で行為に没頭した。
 一人で行為をしている時に、ここまで快感に溺れた事はなかった。
(一期さんの言う通りだった……ひ、一人でやるよりずっと、ずっと気持ち好いっ! こ、んなの知ってしまったら、もうこれから一人でなんて…!)
 はぁはぁと息を荒げながら、快楽を与え、与えられていた日向の目の前に、一期の胸の果実が実っているのに気づいた彼は、殆ど条件反射で唇を寄せて口に含んでいた。
「んあーーっ! 日向ぁ、いやぁっん…!」
 一際大きな声で反応されたが、少年は止まらず、手を動かしながらぺちゃぺちゃと小粒の梅の実を舌先で転がした。
「はあぁぁ……おしゃぶり、とても上手ですよ……ああ、もう達ってしまいそう…」
「ぼ、僕ももうっ……げんかいっ、かも…!」
 互いの絶頂が近い事を悟った一期は、ふと、何かを思い付いたように瞳を見開き、笑みを深めて己の腰を相手のそれに密着させてきた。
「ねぇ日向……もっと、もっと深く秘密を共有して…感じ合いましょう?」
「え…?」
「ほら、こうして…」
 言いながら、一期は己の肉棒を手で支えると、その先端を相手のそれにぐりっと擦り付けてきた。
 所謂、『兜合わせ』だ。
「んあああっ! それっ、それって…! なに…っ!?」
「好い、でしょう? ほら、日向も一緒に…」
 促されるままに、日向も己を支え持ち、相手の先端に擦りつけると、びりびりとした快感がそこから全身に広がってくる。
 元々そこが敏感な場所であるのに加えて、視覚的にも実に刺激的である事が、彼らの興奮をより高めていた。
「こんなっ……こんなの絶対、一人じゃ、むりぃっ! あっあっ! 好いっ! これ、すごいっ!」
「ふふ、気に入ってくれて嬉しいですよ……さぁ、もっとお互い、強く擦り合って…!」
 ずりゅっ…!
「はっ、ああっ!」
 くんっと日向の頤が反らされ、声が上がる。
 先端だけでなく、今度は互いの裏筋を合わせる形で二本を密着させると、一期が上下に腰を揺らして擦り上げ始めた。
 ずりゅっ、ぬりゅっと擦れる度に、お互いの浮き上がった筋の形すら生々しく感じられてしまう。
「ああ好いっ! 日向の固いオ○ン○がごりごり擦れて…っ! 雁が引っかかって気持ちい…っ、ああん、もう達くうぅっ!」
「あっ…あっ…! い、一期さんが、そんな、いやらしい言葉…っ!? あっ、あっ、あああっ!!」
 最後の互いの楔の擦り合いが決定打になり、二人は一気に絶頂へと達した。
 日向はおそらく、目の前の普段清廉潔白な若者の口から飛び出した淫靡な単語で昂ったという事もあったのだろう。
 双方がほぼ同時に声を上げ、彼らの分身から白い激情の証が迸った。
 互いの手が丁度先端を覆っていたお陰もあり、彼らの衣類を汚す事はなかったが、その掌はねっとりとした白濁液で滑らかに濡れ光っていた。
 暫くは荒い息を零していた二人の内、やがて一期一振がのろのろと動き出す。
「はぁ…はぁ……もう、すぐ…交代の時間でしたね…」
「はぁ………あっ……そう、だった…」
 つい数瞬前までの行為に耽りすっかり頭から抜けていたが、彼らは元々、見張りの交代の為に会っていたのだ。
 これから一期は陣としていた廃屋に向かい、日向は彼から任務の引継ぎを受けて決められた範囲の見張りを行わねばならない。
「……私は川で水浴びを済ませてから戻ります。日向はどうします?」
「う、うん……僕も汗かいちゃったから、水浴びを済ませてから見張りに向かうよ」
 川で水浴びする事を選んだ二人は、それから短い時間でそれを済ませる為に共に川に入った。
「…………」
 無言のままに川の中に入り、身体に付いた汗や埃を水で流しながら、日向はじっと目の前で同じく水浴びをしている一期一振を見つめた。
(一期さん……凄く…綺麗だ…)
 仄かな月明りだけで浮かび上がる男の裸体は、まるで水辺に棲む精霊の如き幽玄さを漂わせていた。
 今まで何度も浴場で顔を合わせていた筈なのに、こんなに相手に見惚れたのは初めてだった。
 腰の下あたりまでの深さがあるその川に身を浸し、時折肩に水を掬ってはかけている相手の、一糸纏わぬ姿を見ていると、つい先程までの彼との行為が生々しく思い出されてしまい、その度に再び身体が熱を持ちそうで、日向はそれを抑えるのに必死になった。
 幸い冷たい水が彼の頭を十分に冷やしてくれたので、それ以上肉体が興奮する事はなかったが、それでも脳裏に浮かぶ一期の痴態はなかなかに消せるものではない。
(夢じゃ、なかった……んだよね…あんな綺麗な一期さんと…僕があんな……)
 最初は自分の自慰の現場を見られて、その秘密を守ってほしいと懇願した。
 そこで静かに全てが終わる筈だったが、向こうから秘密の共有を提案され……そのままあんな甘い時を過ごし……
(……これで僕達の秘密は守られる…僕も、一期さんのあんな姿を誰にも話すつもりもない……けど…)
 再度、一期一振の美しい裸体を見て、日向の胸はつきんと痛んだ。
(これで……終わり…?)
 秘密の共有という理由はこれで成った。
 そうなると、もう一期と同じ様な事を行う必要もなくなるという事なのだが……
(……また…して、ほしい…)
 あんな快感を知ってしまったら、もう、戻れない……
 でも、相手にそれをどう伝えたら良いのだろう…?
 悩んでいる間にも無情にも時間は確実に過ぎてゆく。
「日向? そろそろ向かいましょうか。途中まで一緒に行きましょう」
「う、うん…」
 悩んでいる間に、一足先に川から上がり、着替えを始めた相手に呼びかけられ、日向は何も言い出せないまま同じく川から上がって服を纏った。
「おそらく、遡行軍はまだ私達の居場所を把握できていないでしょう。強襲の可能性は低いとは思いますが、油断は禁物ですよ」
「うん、分かった」
 服を纏う事で、意識は一気に刀剣男士としてのそれに切り替わっていく。
 雑念を振り払えなければ、戦場ではすぐにそれは致命傷になる。
 相手も重々分かっている筈だろうし、それをこちらが理解していると信じているからこそ、今の様にいつも通り接してきてくれているのだろう。
 二人で揃って廃屋へと続く獣道を歩いていき、その道が分かれているところで彼らは別れた。
「では、気を付けて」
「有難う、一期さんも」
 そして日向はその場で相手と別れ、見張りの任務に集中したのだった……



(…よし、申し送りも無事に済んだし、遡行軍の気配も無かったし…夜明けまではあと数時間かな…)
 夜明けまでもう少し時間があるから、廃屋に戻って身体を休めようと考えながら日向はそこへと足を向けたのだが、いざその入り口まで来ると足が止まった。
「………」
 先に休んでいる筈のあの男は確か、納屋の中で休むと言っていた。
 あそこで休んでいるのは彼一人の筈だ。
(どうしよう……行きたい…)
 任務中はそちらに集中していたから、そんな事を思い出す事はなかったが、こうして意識が解放されると、やはり思い出すのはあの二人の甘いひとときばかりだ。
 もう一度……もう一度、彼と………
(……ダメ、かもしれないけど…でも……)
 自分に配されていた筈の廃屋の一室ではなく、結局日向は納屋へと向かった。
 向こうはまだ休息を取って眠っているかもしれない……
 無駄足になってしまうかもしれないが、それでも足は止まらなかった。
 納屋の入り口はおそらくは横開きの扉があったのだろうが、今は朽ち果ててぽっかりと闇の空間が口を開けている。
 その向こうに居るだろう彼の様子を見る為に、ゆっくりと静かに歩いていき、そっと奥を覗き込むと、あの鮮やかな髪が月光を弾いて鮮やかに光っていた。
 どうやら彼は壁を背に、本体である刀を抱えて座ったまま眠っている様子だ。
 相手の寝姿を確認し、少しだけ逡巡した後で、日向はゆっくりと相手の方へと歩いていく。
(…起こす…のは悪いかな……でも…)
 この機会を失ったら、もう二度と好機は回ってこないかもしれない。
 彼は本丸ではいつも、弟である鯰尾や薬研達と一緒の寝所に寝ているのだから、自分が入り込む余地はない…そう考えての事だった。
 自分でもどうしたら良いのか分からないまま、一歩一歩静かに一期に近づいていき、すぐに手が届くという場所まで近寄った時……
「っ!?」
 正に一瞬…いや、半瞬と言っても良い程の神業だった。
 音もなく、目の前の男の身体が動いたかと思った…そして吃驚した自分が一度瞬きをした時には、己の身体は見事に仰向けの形で床に転がされていた。
 そして首に当てられた刃の鋭さを感じると同時に、上から見下ろしてくる一期一振の冷えた視線と自分のそれが交差する…と、見る見るうちに向こうの顔色が変わっていく。
「ひっ、日向!?」
 自分が押し倒したのが同士だと気が付くと、彼は慌てて刃を引きながら自分の身体も引き、謝罪の言葉を述べた。
「すみません…! 無音で入ってきたので思わず……」
「う、ううん! 僕、も、こっそり入ってきちゃったから……ごめんなさい」
 日向が身体を起こし、互いに詫び合いながら向き直り、暫しの沈黙の後……
「…見張りは終わったんですね……私に何か御用が?」
 自分しかいないこの納屋にわざわざ来たという事は、他の者への用事という事は無いだろう、と一期が理由について尋ねたが、日向はそれに直ぐに答える事はなく、恥ずかしげに頬を染めつつ俯くばかりだった。
 いざこうして本人を前にしたら、適切な理由が思いつかない…
 そんな少年の態度に、何かを察した一期は僅かに瞳を見開いた後に、薄い笑みを浮かべながらこっそりと彼の耳元で囁いた。
「もしや………夜這い、ですかな?」
「っ!!」
 自分でも思いつかなかった言葉だが、確かにそれが一番的確だったかもしれない。
(そうだ…僕は確かに……もう一度、一期さんと…)
 川縁で与えられた体験が…忘れられなくて……してほしくて……此処に密かに足を向けた…
「あっ、僕………あの川での事…忘れられなくて……」
 俯きながら小声で答える少年に、一期は優しく微笑みながら自らの身体を寄せて囁いた。
「ふふ…悪い子、ですね……」
 ちょっとだけ意地悪な口調でそう言いながら、一期はするりと手を伸ばし、彼の股間へ服越しにそれを押し当てた。
「…っ」
 びくっと戦慄く少年に構わず、一期は更に掌を押し付け、そこから返って来る手応えから既に相手が岐立しつつあるのを感じ取る。
「あそこで射精しただけでは、足りませんでしたか…?」
「い、いつもならこんなになる事なんてないんだけどっ……一期さん…との事ばかり、思い出されて…止まらないんだ………起こして、ごめんなさい…でもっ……つらくて…」
 くにゅ…っ
「ふ、あ…っ!」
 布越しに強く分身を揉み込まれ、ひくんと喉を反らしながら日向の声が上がった。
「…遠征中ですし、服を汚す訳にはいきませんね……さ、脱いで…」
「あ……」
 一期から下の服に手を掛けられ一瞬躊躇ったが、確かに遠征地で悪戯に下着などを汚してしまってはいけないという意識があったのか、日向は素直にそれに従った。
 促されるままに立ち上がり下着ごと引き下ろすと、股間で育っていた分身が勢い良く飛び出し、一期の目前に突き出された。
「ああ………もうこんなにして…」
 川辺以来での早速の再会に、一期は声を漏らしながらそれを優しく握ると、ゆっくりと扱きながら唇を寄せる。
「こうされるのも…初めてでしょう…?」
 ぴちゃ…っ
「ひ、んっ…!」
 舌先で先端を嬲られ、悲鳴の様な声が上がる。
 一期の言う通り、初めてその器官に口淫を受けた日向は、その衝撃的な光景と凄まじい快感に怯えてすらいた。
(うそ、うそっ…! 僕のあれ、を口の中に入れるなんて……! 信じられないくらい、気持ち好いっ!)
「ん……ん…っ……おいしいです、よ……」
 ぴちゃ、ぺちゃ、と音を立てながら覗かせた舌で相手の楔の先端から茎、根元に至るまでを満遍なく舐めしゃぶっていた一期が、やがてその口を開いて、くぷりと日向の分身の雁の部分を呑みこんだ。
「ああ、あーっ!」
 びくっと腰を震わせ、前のめりになりながら日向は一期のさらりとした髪の中に手を差し入れ、指を絡める。
「い、ちごさんっ…! そんなの、だめっ! ああっ、気持ち好すぎて、おかしくなっちゃう…!!」
 ねる…ぬるりと雁を思うままに舌で嬲りながら、一期は頭も動かし始め、より深く相手を咥え込んで唇で擦り上げ始めた。
「ふぁ、ああっ、あああっ! んっ…好いっ、いいよぉ…! はぁぁっ…」
「ん、ふ……これ、好い、でしょう…? ほら……」
 ちゅ、と一度唇を離して、一期は人差し指の腹でとんとんと煽るように相手の先端を軽く叩いた。
「あ、あ………ん」
 喘ぐ日向だったが、先程までの口での濃厚な愛撫が中断された事ですぐに物足りなさを感じてしまい、ねだるように腰をくねらせた。
「い、いや……止めないで…一期さん…っ…もっと、なめて……」
「ふふ………こう、ですか?」
 請われるままに再び舌を這わせ、今度は下の二つの玉にもそれを伸ばしてゆく。
 細かい襞を伸ばすようにじっくりと舐めると、ひくひくと面白い程に反応が返って来て、一期は夢中になって相手を可愛がり続けた。
「くぅ……んっ…! あ、あっ…く、る…っ、もう、きそう…っ! いちごさ…っ…!!」
「……っ」
 少年の切羽詰まった声で察した一期が、相手の楔を深く咥えて舌を絡めつつきつく吸い立てた。
「あぁーーーっ!! いっく…! 射精るっ、んああああっ!!」
 その日、三度目でもある射精でありながら、迸った精は一期の口に溢れる程だった。
「ん……」
 とろりと白い液体が一期の紅い唇の端から一筋流れ出たが、ほぼ全ての精液は彼の口の中に収められ、それも彼の喉が上下すると共に嚥下された。
「う……そっ……飲ん…っ…」
 間近で自らの精を飲み下された光景を見せつけられ、はぁはぁと荒い息をついていた日向は、潤んだ瞳で尚も欲望を宿しながら一期を見下ろしていた。
 そんな彼の肉棒は、射精したばかりなのにも関わらず依然雄々しく天に向かってそそり勃っていた。
「元気、なんですね……全然萎えないなんて……」
「あ……こんな……へん…」
 自分の身体の事は自分がよく理解している筈だ。
 しかし、三度も達していながら尚も欲望を抑えられないのはこれが初めての事だった。
「口では満足出来ませんか…? ふふ、日向の身体は本当に欲張りなんですね…」
「一期さん……っ、ぼく…どうした、ら……」
 達したのにも関わらず、全く鎮まろうとしない己の身体の反乱に困惑するばかりの少年に、一期は思案する様に顎に手を当てた。
「……本丸でなら、筆下ろしも出来たのでしょうが……此処で行為に及ぶと、万一敵襲が有った場合に身体が対応出来なくなりますね…」
「…ふで、おろし…?」
 何故、そんな言葉がここで…?と疑問に思った日向の前で、一期は徐に自身の下の着衣を脱ぎ始めた。
「っえ!?」
 そして驚く相手の前で、彼の目前に臀部を向ける形で四つん這いになり、左右の太腿をほぼ閉じた状態にして振り返った。
「さぁ、私の太腿の間に、それを挟んで……」
「え…っ…なにを…」
 いきなり言われても理解が追いついていない日向に、ふりっと誘う様に腰を振って再度一期が促す。
「私の太腿に、日向のオ○ン○を挟んで好きなだけ擦って下さい……素股なら、身体への負担も少ないので、万一の事態にも対応は出来るでしょうから」
「は、はさむ…?」
「ええ、達けるようにきつく挟んであげますから……ほら、ここに…」
 前から手を回して、股間を強調する様に掴んで見せた相手に誘われるままに、日向は相手へと近付き、言われた通りに己の分身を手で支えると、そのままずりゅっと閉じられていた両の太腿の隙間に割り入れた。
「あっはぁ……これ、好い…」
「ああんっ、日向のオ○ン○、熱くて固いっ……素敵…っ」
 双方が共に喘ぎながら腰を揺らす度に、日向の肉棒は一期の内股を激しく刺激し、またその上面は一期の会陰と二つの宝珠、茎まで擦ってきた。
 腰がぶつかる度にパンパンと小気味良い音が響き、挿入こそしていないもののそれに限り無く近い擬似体験をする事で、日向は本能に圧される形で相手の腰を掴み、強く激しく腰を前後に振り立てた。
「すご、い……性交の真似事に過ぎないのに、こんなに好いなんてぇ…! あっあっ、一期さんの太腿で擦られて、もっと大きくなっちゃうぅ!」
「はぁぁん、好いっ! もっともっと奥に突き込んでぇっ!! オ○ン○とオ○ン○が擦れ合って、凄く好い…! あああ、もうっ、弾けちゃうぅっ!」
 若い雄の激しい抽送に悶えつつ、発情した獣の様に涎を流しながら、一期は己の雄に手を伸ばして自身でも扱き始めた。
「んっあっ、好い…っ、日向ぁ…」
「ああ、一期さん……凄く、いやらしい…っ」
 日向の先走りで一期の内股が濡れて、蠢く度にずちゅっずちゅっと濡れた音が響く中、少年の視線は目の前で激しく揺れる相手の臀部の中央の秘孔に縫い止められていた。
 それは、まるで呼吸をする様にひくんひくんと息づき、何かを待ち望んでいる様にも見えた。
(ここ、に……挿れるんだ……)
 自分は経験した事はない………この身体を得てから見たことも無い……が、刀であった頃に周りの人々の行動を見てきた、感じてきたその経験は確かに己の中に息づいている。
 男性同士の身体の交わりは、この場所を用いて行われるのだと……知っている。
(ああ……挿れたい…こんな、擦り付けるだけじゃなくて、この美しい身体の奥に僕のを思い切り突き入れて、啼き狂わせてみたい…!)
 いつもの穏やかな少年の思考とは思えない、激しい欲望…本能からの行動は、彼の昂りを一度相手の内股から引き抜き、ずりっと一期の臀部の隙間に擦り付ける形へと変わる。
 その熱い楔の茎の部分は、臀部の狭間に潜んでいる一期の秘孔の表面を強く撫でつけて、その熱を直接相手に知らしめた。
 欲しいのだと…求めているのだと……
「うあぁ…っ…だめ、だめっ……それ、しないで…っ、我慢してるのに…っ!」
 肉欲に流されそうになりながらも、かろうじて刀剣男士としての矜持を奮い立たせる事で抑えていた欲望が頭をもたげてくるのを、一期は必死に堪えた。
 遡行軍が此処に来る可能性は限りなく低い…その筈だ。
 しかし、それが完全であると誰も断定出来ない以上は、自分達は最悪の事態を予想して動かなければいけない。
 ここで相手を身体の内に迎えてしまえば、間違いなく自分の戦力としての期待値は大幅に落ちる…いや、足手纏いにすらなり得るかもしれない。
 しかもここは人数が豊富な本丸ではなく、ほんの数振りしかいない少数精鋭としての一隊に属しているのだ。
 双肩にのしかかっている責任は決して軽くない。
「だめ、ですっ…! 日向、私を困らせないで…っ! 今は、今は…我慢してください…っ!!」
「………」
 自分も辛いのだというかの様に腰を揺らして苦し気に訴えてくる若者に、日向は暫し沈黙を保っていたが、自身の気持ちを振り切る様に首を振った後に頷いた。
「……わかった…ここは、我慢する、よ…でも、約束して…! 本丸に戻ったら……もう一度、一期さんと……今度は、ちゃんと…したい…!」
 それが、彼が引き下がれる最大限の譲歩だという事は一期もよく分かっていた。
 既にここまで身体を重ねて快楽を貪り合っている二人だ、自分に断る理由は無い。
 しかし、彼はここで相手に一つだけ確認を取らねばならない事があった。
「ええ……貴方の望みに応えます……けれど、一つだけ…私は夜毎、弟達とも身体を重ねています……そんな私でも?」
「!?」
「人であれば、同胞とそういう行為は忌避されるものでしょう…しかし私達は本体は刀というモノから成る付喪神。人とは違う形で私達は身と心を繋いでいるのです……弟達は貴方とも仲が良かったですから、おそらく受け入れてくれるでしょう……後は貴方の気持ち一つです…」
「…僕は………」
 おそらく、人の男女の仲の様に、独占とかそういう愛情は受け入れられないという事を言いたいのだろう。
 彼は…一期一振という刀は等しく弟達と心身を繋ぎ、今の自分達の様に素直に快楽を貪っているのだと。
 そこには人がよく使う綺麗ごとは存在しない。
 同じ刀派の弟分達に対しての情はあるのかもしれないが、それでも考え方は人間のそれと比較したら恐ろしい程に単純だ。
 しかし、それは決して悪というものではない。
 これから自分達がより刀剣男士としての時間を長く重ねて行けば、自分達の在り様はまた変わっていくのかもしれないが、今は…それで良いと思う。
「……僕達は、今はこのままで良いと思うよ……人の言う愛とかそういう類のものはまだ分からない……けど、こうして身体を重ねて感じる気持ち好さは間違いなく自分が感じているものだから……今はそれを楽しみたい、かな…」
 言いながら、日向は再び己の分身を相手の内股に挟み込み、腰を前後に蠢かせ始めた。
「ほ、ら……こんなに気持ち好いこと……止められ、ないっ…! ああっ…!」
 そして再開された動きを受けて、一期も同じくあっという間に再び快楽に溺れて行く。
「んんっ! あっああっ…! い、いっ! そう、そのまま強くっ…オ〇ン〇で、もっと、もっとぉ!」
「く、うっ…! もうっ……堪らないっ…! すぐ、達っちゃいそう…!!」
 先走りが更に溢れて、一期の内股を下に伝い落ちる程のそれを潤滑油の代わりとして、日向の熱棒が幾度も激しく太腿と相手の宝珠、裏筋を刺激してゆく。
 強く腰を打ち付ける事で相手の揺れるリズムを乱しながらの行為は、まるで獣の様な激しいそれだ。
 いよいよ高速での腰の抽送に追い詰められ、一期がひくんっと喉を反らして高い声を上げながら絶頂に達する。
「あーーーああっ! 達くぅぅぅっ!!」
 そして数瞬遅れて、日向も同じく勢いよく精を放った。
「く、あぁぁっ!! と、まらな…いっ!」
 勝手に震える腰を抑えられず、胴震いをしながら最後の一滴までも絞り出し、内腿に擦り付けたが、若い身体の暴走はそれだけでは止まらなかった。
「ん、あ……っ? あ、まだ……」
「一期…さん…っ…もっと…もう一度…」
 それからも夜が明けるまで、一期は日向から幾度も責められた。
 素股や兜合わせ、口淫などで、一体幾度達したのか、最早記憶もない程に……
 そして最後には日の出を感じながら、一期はほんの少しだけ意識を手放し、休息を得る事が出来たのであった……




 結局、遡行軍の襲撃は起こる事は無く、隊は無事に本丸に戻る事が出来た。
 その夜から一期達の寝所には、また一人、新たな秘密の宴の参加者が増える事になったのだが、当人達以外でそれを知る者はいない…………