「明けましておめでとうございます!」
「おめでとう、今年も宜しくな」
その日、本丸の至るところで、賑やかしくも目出度い挨拶があちらこちらから聞こえていた。
そう、一月一日、元旦である。
世間一般は呑気に只祝う日であるが、此処に限らず殆どの本丸に於いては実に感慨深い日でもある。
新たな一年を無事に迎えられたということは、
『敵に倒されることなく、また、本丸も潰されることもなく、この世に一年間存在することが出来た』
ということに他ならないのだ。
一年と言えば短く感じるかもしれないが、言い換えたら三六五日。
安穏と過ごしている者ならあっという間に過ぎるかもしれないが、日々戦いに身を置く者達にとっては、一日一日は決して軽いものではない。
そんな日々を重ね重ねて、三六五回それをやり遂げて、ようやく一年を過ごせることになるのだ。
戦いが日常の常である刀剣男士にとっては、一際、特別な一日であることには違いない。
さて、そんな正月だが、無論遡行軍の暗躍に対して最低限の警戒は続けていたが、流石に向こうも年初めから無粋な真似はしたくないとでも考えていたのか、本丸はのんびりとした空気に包まれたまま目出度い時を過ごしていた。
刀剣男士達は間違いなく審神者より高齢…の筈なのだが、そこは使役されている立場等の事もあってか、全員がささやかながら審神者からお年玉を貰っていた。
後は男士達の中でもお年玉のやり取りはあったらしく、あちらこちらから短刀達への労いの言葉と、彼らの歓声が上がっている。
そんな平和な風景の中で、艶やかな藤色の髪を持つ男が三日月にゆっくりと近づいて来て声を掛けた。
「あけましておめでとう、三日月。朝の主への誓詞は素晴らしかった。お前がこの本丸の筆頭近侍であることは私達にとっても誇りだ」
主である審神者への新年の挨拶は、年が明けて男士達が何より優先して行う重要な儀式である。
新たな一年、その始まりを告げる儀でもあり、いつもの戦闘服であっても誰もが身が引き締まる思いで臨む。
特にこの若者は本丸に迎え入れられて初めて迎える新年であった為か感慨もひとしおの様子で、その顔は興奮のためか僅かに紅潮し、拳は固く握られていた。
「おお、面影。あけましておめでとう。お前も、この新たな年に幸多からん事を心より願うぞ」
面影に声を掛けられた筆頭近侍である三日月宗近は、鮮やかな藍に染め上げられた装束を纏い、金糸で作られた髪飾りを付けている。
いつもの出立ち…の筈なのに、見る度にその美しさに見惚れてしまいそうになり、心の中で面影は慌てて頭を振った。
今朝の儀で厳かに審神者に対し、刀剣男士の代表として誓詞を述べていた三日月に目を奪われたばかりだと言うのに……
(まるで……絵巻物の様だった…)
清らかな光射す本殿で主である審神者に堂々と相対し、静かながら凛とした声で相手と言葉を交わし合うこの者の姿はまるで宗教画の様に神々しかった。
本物の神なのだ、さもありなんとも思うが自分とて同じ付喪神である筈なのに、彼を前にしたらその立場を忘れてしまう。
だから、心から願う、この美しい存在がこれからも永劫変わりなくいてくれる事を。
「有難う。三日月もどうか、この一年と言わずに永く息災でいて欲しい」
それが己の願いなのだと真摯に訴えると、向こうは一瞬大きく目を見開き…
「………ああ」
まるで大輪の花が綻ぶかの如き麗しい笑顔を見せてくれた。
「…っ」
直視に耐えない美しさというものは現実に存在するのだと思い知らされながら、面影が動揺も露わに目を逸らす。
勿体無い、もっと見つめていたいと心で叫びが上がるのだが、これはいけない、駄目だ。
(こんなに近くで言葉を交わすのは久し振りだから……ちょっと、きつい、な)
きついというのは当然悪い意味ではない。
実は年末の暫しの期間、三日月と面影は殆ど言葉を交わす機会が無かった、と言うより持てなかった。
十二月は師も走る師走。
それは各本丸についても政府についても例外では無かった様で、各機関の各種の通達やら申し送りやら、果ては審神者同士の挨拶云々、年の瀬ならではの行事が各機関でもそれなりに詰まっていた。
当本丸の審神者は決して怠惰な性格では無く寧ろその真逆をいく人物であるが、几帳面な性格が災いしてなのか、この者の年末の忙しさたるやかなりのものだった。
そしてその忙しさの煽りを受けるのは……最早疑う余地もない、最も側で付き従う近侍である三日月宗近だった。
『主と共に機関に向かう。留守居役は頼んだぞ』
『今日はほぼ一日、主と他の本丸へ挨拶へ行ってくる。帰りは遅くなるが、皆は気にせず休んでおれ』
『本日より禊に入るので、暫し暇を貰うぞ。申し送りは既に伝えた通りだ』
普段はのほほんとしている呑気な茶飲み爺だが、いざという時はやはり一番頼りになる存在であり、審神者もそれは重々承知しているのだろう。
十二月を迎える少し前から三日月が審神者の私室に呼び出される事が多くなり、それを体感する事で他の刀剣男士達はいよいよ年末が来たのだと実感していた。
ただ一人、面影だけは初めての師走であり、当初は三日月の姿が見えない本丸に戸惑っている様子であったが、それもやがて日々の仕事に忙殺されていった。
当然、皆が三日月だけに仕事を負わせている訳ではなく、須く本丸全体が忙しいのだから当然だ。
ある日…一日だけだが、遡行軍の襲撃を本丸が受けた時があった。
しかも運悪く当日は三日月が滞在していたのだが、この時の彼の様子を見た者達は心から同情した……遡行軍達に対して。
「お前達は暇でいいなぁ」
いつもと同じ優し気な笑みを称えたままそう言った男だったが、他の刀剣男士達は例外なく彼の背後に地獄の業火を見ていたに違いない。
そして、このくそ忙しい時に余計な仕事を増やしてくれた哀れな闖入者達は、無論、最短記録を以て三日月の手によって打ち倒されたのだった。
(あれは確かに遡行軍の方に非があったが………)
気の毒だった……後でこっそり短刀達が線香を供えていた程度には…………
まぁそんなすったもんだがあるにはあったが、以降は専ら本丸の事務的な業務に追われるのみであった。
きっと、あの哀れな一団の末路が向こうにも知られたからだろうというのが此処の刀剣男士達の一致した見解である。
しかし、その忙しさも今日の朝の儀でようやく一段落着くだろう。
今日はもう、敵に対する迎撃を除けば仕事をしてはならない、というのが主のお達し。
わざわざ禁止という形を取ってまで彼らに休みを促すのは、生真面目な男士の中にはつい休むのを忘れて自主練だの何だのと理由を付けて動いてしまう性格の者もいるからだ。
勤勉なのは美徳であるし真面目な性格も悪いことではない、しかし常に張り詰めた弦は切れるのも早いものだ。
時に心身を緩め、休むのも彼らの大事な任務であるという審神者の心遣いであった。
そんな心遣いを無碍にしない様に今日は面影もゆっくりと過ごすつもりである。
そして、今朝の儀以降は同じく解放されていた三日月にもようやく声を掛けられたことで、彼は相手の笑顔に照れながらもいつになく心が浮き立っていた。
そんな若者の心中を知ってか知らずか、三日月はにこにこと上機嫌なままでごそごそと自分の袂の中を反対側の手で探り、そこから一つの祝儀袋を取り出して、そのまま面影へと差し出した。
「よしよし、面影は特に良い子だからじじいが奮発してやろう。ほらお年玉だ、何でも好きなものを買うと良い」
「…………」
この男は自分の事を果たしてどういう立ち位置で考えているのか……いや、心遣いに対しては勿論感謝はするのだが……
(まさか、まだ私の事を子供扱いしているのだろうか………)
一抹の不安を感じていたところで、丁度そこに村正が通り過ぎ…二人の姿を見て直ぐに状況を理解したらしい。
「huhuhu……面影さん、あまり深く考えずに素直に受け取って良いデスよ? 三日月さんにとっては私達全員、子や孫の様なものデスから」
「え……」
振り返った先には相手が掲げたご祝儀袋…自分が差し出されたものと全く同じである。
つまり、そういうことだ。
「………」
このままずっと相手に祝儀袋を持たせたままというのも申し訳なく、結局面影は三日月から素直に袋を受け取った。
「その………有難う」
無難な謝辞を述べると、三日月はまた嬉しそうに笑って幾度か軽く頷いた。
「うんうん、素直なことは良いことだ」
頷きながら上げられた手が面影の頭の上に軽く乗せられ、なでなでなで…と優しく撫でられた時、遂に面影は耐えられず…
「~~~~」
顔を朱に染めて、視線を下に逸らせてしまった。
人前で一人前の男性が子供の様に愛し気に頭を撫でられたら、それはそうなってもおかしくないだろう。
子供扱いするな、と反抗しようにも、当の相手が遥かに年上であるのは事実であるのでそういう訳にもいかない。
そこで数回、深呼吸をして気を取り直し、面影は三日月に改まった様子で話しかける。
「三日月が年上なのは認めるしかないが…今年はもっと頼ってもらえるように努力するつもりだ。いつまでも子供扱いされるつもりはない」
「ふむ……此処に来たばかりの頃のお前はともかく、既に多くを学んでいる今の面影を子供扱いするつもりはないが……」
「本当に?」
「いち兄ーーーーーーっ!! お年玉ーーーーっ!!」
「これ! 新年早々騒々しいですぞ」
遠く聞こえてくる鯰尾達の元気な声と、それを困った様に嗜めながらも少しだけ嬉色を含んだ一期一振の声に、思わず三日月が苦笑する。
「……流石に彼程とは考えておらぬぞ」
「いや、流石に……」
無いだろう…と面影が考えていると、ぽんと思い出した様に三日月が顔を上げながら拳でもう片方の掌を打った。
「そうだそうだ、うっかりしておった。明日の準備がまだ途中だったなぁ」
「明日…?」
公の行事はもう全て済んだ筈だが…?と訝しむ面影の隣で、村正が何かに思い至ったのか、ああと小さく頷いた。
「今年もやるのデスね? 場所は本殿デスか?」
「いや、今年は俺の私室で行う。昔ほどの人数ではないし、あれぐらいの数なら俺の部屋の方が、寧ろ賑やかで正月らしくなるだろう。」
「………確かに、そうデスね。お手伝いは必要デスか?」
「いやいや、特に力仕事という訳でもないからな。村正も今日ぐらいはゆっくりしてやらんと、蜻蛉切がまた余計な気を揉むぞ?」
「huhuhu、善処シマス」
二人の会話が一段落つき、村正がその場を離れたところで、どうにも要領を得ない面影が遠慮がちに三日月に問い掛けた。
「すまない……その、二人は何の話をしていたのだ?」
「…ああ、そうか、面影は此処に来て初めての正月だったな。いや、すまんすまん。もう何年もお前と此処にいる様な気がして、その様に振る舞ってしまった。」
「いや、構わない。明日、何かあるのか?」
「うむ、書初めをするのだ。短刀や脇差達、他にも希望者があればその者達も、な。今年もそれをやろうという事で、前準備をしておこうとな」
「前準備…」
大体の内容は知っているが、見るのは初めてになるそれに俄然興味が湧いたのか、面影は自ら名乗りを上げた。
「手伝っても良いだろうか。少し、興味がある」
「おお、手伝ってくれるか? 有難い、では俺の部屋に行くか」
「ああ」
それから、三日月は面影を連れてゆっくりと自室の方へと向かい、特に何事もなく目的地に到着した。
(久し振り、だ……)
実は師走に入ってからは、殆どこの場を訪れる事はなかった。
自身も仕事などに追われていたが、それ以上に三日月が多忙を極めていたのだ。
年末にいよいよ近付いた辺りになると、禊にて穢れを祓い、身を清めて儀に臨むということで、篭って他者との接触を禁じていた時期もあった。
そんな味気ない日々を過ごし、今日ようやく久し振りに訪れる事を許された三日月の私室は、いつもと同じく整然としていた…何箇所かを除いては。
「これは……」
こちらに向かって真っ直ぐに畳の上に並べられた下敷きと、条幅の大きさの紙がいくつか、綺麗に並べられていた。
各々の紙の右脇には硯も置かれている。
文鎮で紙も固定されており、後は墨汁を準備し筆さえあれば直ぐにでも書初めが始められそうだ。
「………」
では、肝心の筆は…?と、きょろりと辺りをさり気なく見渡してみると、それらは容易に三日月の書机の上に認める事が出来た。
太い筆から細い筆、太筆・中筆・小筆といずれの大きさの物も揃っており、毛の種類も様々な物が取り揃えられている様だ。
三日月が準備したかったのもやはりそれらの筆だったらしく、内の一本を取り上げると慎重な手つきで毛先の具合を確かめていた。
「うん、良い感じに下ろせている……おっと、こちらはまだ糊を取っていなかったか…」
多少の不手際があった様だが、概ね筆の質感には満足いったらしく、三日月の表情は明るい。
「楽しそうだ…」
正直な感想を述べてきた面影に、三日月は、は、と何かに思い至った様な表情を浮かべ……ゆっくりと頷いた。
「楽しい……うん、それはそうなのかもしれん。今年もこうして筆を下ろして紙を敷き、何を願い、それを書くか迷う事が出来る。」
「………」
「前にも話したが、かつてここの本丸にはもっと大勢の刀剣男士達がいた。年が明けるその度にそれはもう大騒ぎでなぁ、書初めをする者達も大勢で、あの時は本殿でないと皆が入りきれなかった程だ。」
「…そうだったのか」
「遡行軍の強襲を受けてからここも随分と寂しくなったが、それでも年が明けたら必ず書初めをした。願いは明日に通じる…そう信じてな。その願いが通じたのかは知らんが、今年の正月は主を迎えた形で過ごす事が出来た。きっと短刀達も今年の書初めには新たな願いを掛ける事が出来るだろう。そう考えたら……うん、やはり嬉しいし、楽しいな」
一本の筆を手に取りながら毛先の感触を確認し、にこ、と笑う三日月の笑顔を間近で見て、面影はそれに見惚れると共に微かに胸の内に生まれた小さな痛みに思わず手を当てた。
「……羨ましいな」
「うん?」
「いや……お前に、ここまで心を砕かれて見守ってもらえる短刀達が羨ましいと思っただけだ……お前が皆に分け隔てなく優しいのは知っている筈なのに…」
醜い事を考えてしまった今の自分は醜い顔をしているのだろう、と面影は三日月から顔を背けて自戒する。
「子供扱いしないでほしいと思っていながら、こんな事で拗ねてしまうなど良い大人のやる事ではないな……反省す…」
ぐい…っ
「え…」
徐に片腕を引かれて少しだけ身体が揺らいだが、自力で立て直す前にふわりと柔らかな感触に包まれた。
三日月の狩衣の中に押し抱かれたのだと気付いたのは、数瞬後のこと。
「……っ?」
何があったのか分からないが兎に角離れないと、と真っ先に思い、ぐいと目の前で自分を拘束している相手の腕に手を当てて力を込めたが、向こうはびくともしない…ところで、どうやら彼が意図的に自分を拘束したのだと知った。
「え……?」
もう一度小さな声を零したところで、耳元に毒のように甘く身を縛る声が届けられた。
「そうか……大人として扱ってほしかったか…」
「……!!」
その言葉に含まれた漠然とした意味を察し、ひくんと肩が震えてしまう。
面影がそれに答える前に、三日月の悪戯好きな舌が後ろから相手の右耳朶を捕え、そのまま唇の中に引き込んでしまった。
「ん……っ」
生温かな口腔内で蠢く舌に耳朶をちろちろと蛇の戯れのようにからかわれ、完全に声を殺す事が出来なかった若者口から艶っぽい声が漏れる。
その心地よさに思わず流されそうになったところで、はっと面影は我に返った。
まだ夜も迎えていない、太陽は天の頂を過ぎたが、それでも十分に明るい時分からこんな事をしてしまうなんて…
そもそもここに自分と彼が来たのは明日の準備があったからであり、快楽に溺れる為ではないのに。
「み、みかづき……今は、やめよう……書初めの準備に来たの、だろう…? 筆を……」
甘噛みされ、舌で嬲られる耳朶の感覚から逃れるように必死に面影が言い募ったが、三日月の悪戯は止まる様子は無い。
それどころか彼は手にしていた下ろしたばかりの筆を持ち直し、さわり…と面影の首筋に走らせ始めた。
「はあ、ぁ…っ」
首筋や腹部など、あまり触れたり触れられる機会のない場所の皮膚は、四肢などのそれと比較して敏感になりやすい。
面影の身体も例に漏れなかった様で、筆に軽く撫でられただけでその身は面白い程に反応を示した。
筆の毛にも様々な種類があるが、三日月が選んでいたのは特に柔らかい毛質である柔毛筆だった様だ。
初心者には扱いが難しいと言われているが、そもそもここの本丸に住まう刀剣男士達が常用しているのが筆なのだ、扱いには長けているので短刀達が扱うと言っても選択肢としては間違っていない。
毛先まで十分に解れた状態のその筆で、三日月は幾度も面影の首筋を優しく撫で上げ、時折頤をくすぐってゆく。
「ふふ……筆も好い具合に出来上がっている様だ…なぁ?」
「あっ……そ、ういう使い方、じゃ……ふぁっ…」
用途がそもそも違うと訴えたくても、絶妙なタイミングで弱い場所を攻められ次の言葉を継ぐことも出来ず、どんどん面影は引き返せないところまで追い立てられてゆく。
(だめ………久しぶり、だから…感じやすく…)
相手が禊をしている間は当然禁欲期間でもあり、その間は自分にも触れられていなかった。
久方ぶりに与えられる愛撫に身体が悦んでいるのを感じる。
「う………」
心地よさに全身が弛緩し、ぐらりと身体が傾ぐ。
そのまま立っていられなくなる程に脱力した面影は、後ろの三日月に寄りかかるように身を委ね、相手もそれを優しく受け止めてくれた。
安堵感にそのまま流されそうになりながら、それでも面影はかろうじて残っていた理性を総動員して三日月を窘めた。
「三日月……もう、後は…夜に………夜なら…いいからっ…」
行為そのものを拒みたい訳では無いのだという事も含めて必死に訴えたが、三日月は唇を歪めながら相手の頬に口づける。
「俺とて、夜まで待とうと思ったのだぞ……?」
「え……?」
「すぐにでも抱きたい気持ちを抑えていたのに、お前があんなに可愛く拗ねるからだ……火を着けておいて我慢しろと?」
言葉こそ責めるものだったが、声音には寧ろ楽しんでいる様な色が含まれている。
「そんなこと、は……んっ!」
返そうとした面影だったが、ぐいと頭を掴まれて相手へと顔の向きを変えさせられ、そのまま深く口吸いを受けた。
「ん…ん…っ」
始めからぐちゅぐちゅと激しく口腔内を犯され、面影は混乱した。
頭の中に淫靡な水音が響くと何も思い浮かべられなくなり、感覚だけを追いかけてしまう。
相手の滑らかな舌、溢れてくる唾液、時折軽くぶつかり合う歯列……全てが懐かしいもの。
再びそれを実感できる悦びに、ぞくぞくと背筋に形容しがたい感覚が走り抜け、それは同時に抗う気力を削いでいった。
三日月は火を着けられたと言っていたが、今は口吸いを通じてその火を自分へと返しているかの様だ。
「あ……はぁ……」
いつの間にか、自らも唇を相手に寄せて思うままに貪り、舌を踊らせるまでになっていた。
息苦しさに久々に唇を離すと、とろりと唾液が互いの唇を繋ぎ、やがて切れ、そのまま下へと垂れてゆく。
はぁはぁと息が乱れ、瞳が潤んでいる面影の身体の状態を察し、三日月は自らがその場に座する形で相手も同じく座らせた。
それまでも殆ど三日月に身を委ねている状態だったが、座る事で完全に下半身からも力が抜けてしまったらしく、面影はしどけなく三日月に寄りかかる形になった。
(力……入らない……)
はぁはぁと息は乱れ、瞳は潤み、身体は与えられる快楽をただ享受するだけで言うことを聞いてくれない。
「ふふ……相変わらず素直だな、お前の身体は」
そんな反応を返す面影に囁きながら、三日月はするりと筆を持っていない方の左手を相手の身体の前へと移動させると、実に自然な動きで男の着ていたシャツの下端を掴み、ぐいと首元まで一気に引き上げた。
「あ……っ!」
素肌が外気に晒され、ひやりとした空気に触れたことでようやく自分の状況を認識した面影が小さな悲鳴を上げる。
再びシャツを引き下ろそうと、それを掴んだままの三日月の左手に面影も手を掛けるが、碌に力を込められない状態で目的を果たせる筈もなく、それは完全に無駄な抵抗で終わってしまった。
「じっとして……」
「…っ…」
三日月は言葉に呪などを込めてはいないが、面影にとって慕う相手の言葉は他の誰のそれより重いものであり、明らかに抵抗の力が小さくなったのが分かった。
その隙に三日月が見遣った先、面影の滑らかな白い胸に桃色の蕾が左右に二つ、ぷくりと膨らんで自己主張をしていた。
その膨らみが不自然に大きくなっていることを、三日月とほぼ同時に気付いた面影が恥じらいに目を固く閉じる。
どうして大きく成長しているのか……理由は明らかだからだ。
「面影………書初めは本来、明日…二日に行うものなのだ」
「……?」
今のこの場にはそぐわない蘊蓄をいきなり語り出した相手に面影が思わず彼を振り仰ぐと、何故かとても愉しそうな目をしてこちらを見下ろしていた。
「だが、明日は鯰尾達の世話をしてやらねばならんのでな……お前が妬かない様、俺とお前は一足先に済ませておくか」
「え……」
どういう意味なのか理解出来なかった面影が声を零したのとほぼ同時に、ざわっと何か異様な感覚が己の右胸を襲い、思わず彼はそちらへと視線を移した。
そこには三日月が握っていた筆がほぼ垂直の角度で、先端まで解れた白い毛先が面影の淡い蕾を覆い隠している姿があった。
「あ、あ……っ」
「先ずは、筆ならし、だな…」
書初め、という単語と繋げ、相手がこれから筆を用いて自分の身体を愛撫していくつもりなのだと悟った面影は、未知の感覚に対する拒絶から、狼狽しながらそれを阻むべく身体を捩った。
それでもその動きが然程激しいものではなかったのは、心の奥では『拒絶』より『興味』が大きかったからなのかもしれない。
そんな若者の心中を見透かした様に、三日月は唇の端を微かに歪めながら筆を小刻みに動かし始めた。
針よりも細く皮膚よりもしなやかな何十本もの獣毛が、覆っていた敏感な蕾の各所に触れ、擦り、くすぐり始めた途端、びくびくっと面影の身体が激しく震え、反応を返してきた。
「んあ…! あはあぁっ…!」
指とも舌とも違う、また別の形で与えられる快感に、堪えきれず声が上がってしまう。
どうしよう……考えていたより、ずっと、いいっ…!
三日月に触れられていない期間があったとは言え、こんなに感じてしまうなんて……
そんな風に狼狽している間にも、三日月の手は絶え間なく動き、胸の頂の蕾を左右交互に優しく、強く、毛先で嬲っていった。
「あ、あ……ああっ…」
くすぐったい、もどかしい様な感覚を与えられ、却って肉体の飢えは強まっていく様で、ああと面影は声を上げながら悶える。
愛撫が始まって程なく、その白い肌にはしっとりと汗が滲み、ほんのりと上気していった。
しっとりとした肌を幾度も往復している内に筆の先端も湿ってゆくが、それに構わず三日月は尚も筆を軽やかに躍らせ続けた。
「好い様だな……更に美味しそうに熟れてきたぞ」
するりと筆の先で一際強く蕾を撫でると、それに対してしっかりと二つの蕾は抵抗を返してくる。
三日月の言葉の通り、胸の膨らみはほんのりと彩が強くなっており心なしか大きさも更に増しているように見えた。
「ふむ……」
周りの乳輪までもがなだらかな膨らみを見せ始めたのを受けて、三日月が何かを思いついた様に一旦筆を離し、かたりとそれを側の書机に置く。
が、その手にはすぐにまた別の筆が握られていた。
先程の筆より細い小筆で、何より前の筆と違うところは毛先が細く固められているということだった。
ほんの少し前に三日月本人が「糊をとっていなかった」と言及していた筆であったそれを構え、男は再びそれを面影の胸へと運んでゆく。
細く尖った先端は、明らかな目的を持って面影の右の蕾…その中央に息づく窪みに向けられていき、それに気付いた面影は呼吸を止め、息を呑んだ。
「や、いやだ…っ………だめ…っ」
縋るように両腕を三日月のそれに絡めるも向こうはそんな制止は物ともせず、思惑通り面影の蕾の窪みに筆の毛先を潜り込ませて細かく振動させた。
「ああっ! あああ~っ…!!」
びくんっびくんっと電流が流れた様に激しく身体が跳ね、面影の口から引き攣った悲鳴が上がる。
その際、明らかに不自然に若者の下半身も激しく反応していたが、三日月はそれに気付きつつ敢えて触れようとせず、ひたすらに二つの胸の窪みを尖った筆先で犯し続けた。
最初に握られていた中筆とは異なり、糊が取れていない小筆の毛先はしっかりとした固さを備えており、容易に曲がったりはしない。
しかし執拗に三日月が乳首を擦り続けたお陰で、徐々に先端はその頑なさを捨て、爪先程の部分が解れてゆくと共に、奥で赤くなっていた粘膜を無情に刺激し続けた。
「はぁ…っ…はぁぁ…っ あ、あんっ……そこ…だめぇ…」
拒否する言葉を紡ぐも、快感が上回っているのか声音そのものには艶が含まれており、逆に誘っているようにすら聞こえた。
それは声だけではなく、しなやかな肢体の変化にも表れており……
「……どうした? そんなに物欲しげに腰を揺らして?」
三日月が密かな笑みを含んだ声でひそりと指摘した通り、胸への愛撫が始まってから程なく、面影の腰がゆらゆらと揺れ始めていた。
それだけではなく、まるで身体の中心の変化を気付かれまいとするかの様に両脚をもじ…と擦り合わせており、それが却って彼の肉体の変化を指し示していた。
「し、しらない……っ!」
知らない筈は無いのだが、予想通り羞恥で返答を拒否してきた相手に三日月は笑みを深め、それならば、と言うように彼の下のジャージに手を掛けた。
「こちらの筆を随分と気に入ってくれた様だが……さて、お前の『筆』はどうなっているかな……?」
「あ……っ!!」
『筆』と揶揄されたのが何かすぐに思いついたらしく、元から上気していた面影の顔は更に一気に朱に染まり慌てて抵抗しようとしたのだが、身じろいだ時には既に下の服は膝上まで引き下ろされていた。
「あぁ、いやぁ……っ!」
服で覆われていた己の劣情の証が露になり、それを間近で見てしまった面影は自身の現状を認識する。
年が明けた清々しい一日の昼間から想い人の部屋の中に囚われて、下ろしたばかりの筆や下ろしてもいないそれで散々に身体を暴かれ弄ばれている自分……しかも口では拒んでいながら、身体は素直すぎる程に反応してしまっており、何よりまだ一度も直に触れられていないにも関わらず、雄の証が既に悦びに打ち震えながら固く大きく育ち、天を仰いでいる……
「や……あっ…嫌…っ」
羞恥心はある筈なのに、三日月に見られてしまったという事実は何故か面影の身体を更に熱く淫らに変えてゆく。
「……お前の『嫌』は、『好い』なのだな…?」
くすくすと笑いながら三日月はそう言い、一度手放していたあの中筆を再び手に取ってみせる。
「筆ならしが随分気に入った様だな? では、お前の『筆』も一緒に遊ぶか…?」
「い…っしょ…?」
恥ずかしさに両目をしっかりと閉じていた面影は、そのせいで三日月がまた中筆を手に取った事に気付くことが遅れ、疑問と共に目を再び開いた時には相手の中筆が既に自身の雄の直上に迫っているところだった。
「あ、あっ!! そんな…っ!!」
手を伸ばして止めようとしたが間に合わず、三日月の筆の穂首がさわりと面影の肉筆の先端を優しく包み込んだ。
「ふぁっ、あああ~~っ!」
びくんっと面影の艶めかしい腰が震え、同時に雁の部分までを筆に呑まれた楔もぶるんっと激しく揺れる。
「嬉しいか…? そうかそうか…」
くぐもった笑いを零しながら、三日月はさわりさわりと雁を呑ませたまま、手首を器用に動かして筆で円を描いた。
その動きに従い無数の柔毛が、胸の蕾以上に敏感な粘膜を持つ楔をくすぐり、擦り上げ、瞬く間に隠れた零口から先走りの雫が溢れ出してくる。
それはとろりと粘膜を伝って茎へと流れ落ちていくところが、途中で包んでいる穂首に吸い上げられていき、筆が踊っている間に徐々にその部位がしっとりと湿っていった。
「ここも……好きだろう?」
同じ男性としての身体を受肉しており、更にこれまで幾度となく相手を抱いていたからこそ知っている弱点を三日月は確実に執拗に攻めてゆく。
ひとしきり亀頭を攻めた後、今度は筆を下へと下ろして茎を往復する形で優しく愛撫しはじめた。
「はあぁぁ…っ…あ、ん…ああんっ…! そこ……い、い……いい…っ…!」
息が更に荒く激しくなり、唇を閉じる事も出来なくなった若者は、熱に浮かされたまま涎を口の端から滴らせて快感を訴えてくる。
それまでは恥ずかしい姿を認めたくなくて、必死に視線を逸らしたり瞳を閉じたりしていた面影だったが、今は自らその双眸を見開き己の雄が嬲られている様子を凝視していた。
羞恥を忘れ、快楽に心身が呑まれつつある証だ。
「んっ…んあ……! きもちい……ああ…」
「ふふ、だろうなぁ……お前のいやらしい『墨』が溢れて、もう筆がぐっしょりだ…分かるだろう?」
しゅる…しゅる…と筆で茎のあらゆる場所を上下に繰り返し撫で上げながら、三日月はほくそ笑む。
恥じらいを忘れ、快感を素直に追いかけ始めた面影の姿は、美しくも淫らで見ているこちらさえも昂ぶらせてくる。
師走から禁欲の時期も長く、ずっと堪えていたのだ。
これまでの我慢の分、今日はとことん甘やかしてぐちゃぐちゃに蕩けさせてやりたい……
「…裏筋も好いが……此処も弱かっただろう、お前は…」
しゅっしゅっと素早い動きで裏筋を攻めていた三日月が、今度はその反対側…楔の背側を同じように筆で擦り上げると、面影は甘い悲鳴を上げながらしどけなく両脚を開き、昂りをを自ら晒して腰を振った。
心地よい快感を貪りたいと、肉筆を自ら濡れた筆先に押し付け、擦り合おうとする様に………
「んんっ…! あーっ! ああっ、も…っとぉ…みかづき…っ」
「はは……すっかり立派に勃ち上がってしまったな……墨も色付いてきたし…そろそろか?」
先走りはより一層先端の窪みから溢れ出し、じんわりと精を含んできたのか白く色付きつつあった。
もう少し攻めたら絶頂に至るだろうというところで、三日月はさてどうしよう…と少し考える素振りを見せた後、あぁと何処か愉しそうな笑みを浮かべて、また持っていた中筆を先程交換した小筆へと持ち替えた。
「……っ?」
「筆を下ろす際には、ぬるま湯で毛を固めた糊を溶かし解すのだ……此処には生憎、湯が無いのでな…」
つぅ…と小筆は命毛を下にした状態で面影の肉楔の上へと翳され、そのままゆっくりと下ろされていき……
「あ、あ…!!」
相手が何をしようとしているのかを悟った面影は、びくっと怯えたように身を固くし、いやいやと首を激しく横に振った。
「だめだ、やめて…くれ…!」
相手の男は決して自分を傷付けたり苦痛を与えたりはしない…分かっているし、信じている。
しかし……それが過ぎた快感であったらどうだろうか…?
余りにも激しい快楽は、肉体の許容量を超えた時、それも別の意味での苦痛になるのだ。
狂ってしまいそうな…いや、狂った方が楽なのではないかとすら思わされてしまう程の快楽……
今の三日月の行おうとしている仕草からは、その恐ろしい程の快楽の匂いがする…!
「や…っ! 三日月……ゆるして…っ!」
しがみついて希う若者に、蒼の衣の麗神は優しく微笑みながら諭した。
「怯えることはない……そのまま素直に受け入れよ…」
つぷり……
「ひん…っ…!」
細い小筆の最も先端…命毛の部分が面影の肉筆の頂に触れ……ゆっくりと埋められていく……
柔毛が零口を塞ぎ、少しずつその毛身が肉穴に呑まれていくに従い、面影の背中がぴんと限界まで反らされ、甘い悲鳴が響いた。
「あはあぁぁっ…だめ、ぞくぞくする…ぅっ!! そんな、やらしい奥まで来ないで…っ!」
「ふふ、そのいやらしい穴から熱い雫が溢れておねだりしているのに………そら、お前の熱く白い墨で、糊を溶かしてくれ」
ぐりり…っ!!
摘まんだ筆管をぐりぐりと激しく右に左に回転させると、それに合わせて繊細な無数の毛が、潜り込んだ先の粘膜を犯す。
指でも舌でも潜り込めない場所への初めての刺激は、面影が恐れていた通りの凄まじい快楽を伴って彼に襲い掛かった。
「ひっ、あっ、あっああ~~~~っ!!」
ただでさえ暫く触れられていなかった…性欲を閉じ込めてしまっていた身体……
ようやく愛しい男に触れられてもらったら期待より遙かに凶暴な快感を与えられてしまい、面影はこれまで身体に留めていた劣情を抑える事が叶わず、一気に身体の中心が爆ぜるのを感じた。
この時、あり得ない話ではあったが若者は微かに死すら覚悟していた……心地良すぎて、死んでしまうかもしれないと……
「あぁあああ~~~っ!! 射精るっ、射精るぅっ!! 熱い墨…っ、とまらな……っ、ああ、達くぅ~~~っ!!」
びゅっぷ…!! びゅっびゅびゅっ!!
小筆を零口に差し入れられていたのである意味蓋をされていた状態だったのだが、それでも勢いよく放たれた精の奔流を抑えきれず、筆の脇の僅かな隙間を通じて、白濁液が噴き上がった。
そして本流に当たるそれは挿入されていた筆の柔毛に吸い取られ、頑なにそれを固めていた糊を熱と水分で解してゆく。
「いや! 止まらない…! まだ、まだ射精てるなん、て…っ! うあああっ、射精る度に達って、るっ! あ~~、ああ~~~~っ!!」
「構わぬ………何度でも好きなだけ達くがいい」
ちゅぷっ…ちゅくっ…!
相手が達しても尚三日月の筆を弄る手は止まらず、今も繰り返し筆先を零口の奥へと律動的に突き入れ、射精を促していた。
「あっ…もっ……やめて……みか、づきぃ…あんっ……」
幾度射精したのか、幾度達したのか、既に分からなくなってしまっていた面影は全身を戦慄かせて愛撫に応じていたが、暫くしてようやく絶頂の波をやり過ごすに至った。
「はぁ………はぁ……っ…」
「今日は随分と濃厚な墨を大量に射精したなぁ……お陰ですっかり筆も解れたが」
つぷ、と零口から離した筆をそのまま口元に運ぶと、三日月が見せつける様にちろっと舌を出して面影の精液に塗れた筆先を舐め上げた。
「さて…?」
達したばかりで殆ど力が入らず投げ出されたままの相手の身体を良いことに、三日月は筆を側に置き、脇の上までたくし上げられていた面影のシャツをジャージごと脱がせてしまい、ついでとばかりにまだ足首に引っ掛かっていた下の服も取り去ってしまう。
その流れで久し振りに自由になった手で面影の達したばかりの肉筆を優しく包み込むと、彼はぬるりと自らの手指に相手の精の残渣を塗りつけた。
そしてその手を彼の背後から回す形で奥へと潜らせ、後蕾に触れさせると、ぐっと人差し指を潜り込ませた。
それは確かにいつも行っていた儀式の様なものだったのだが…今日に限っては予想外の事態が生じてしまった。
「い、痛…っ!」
「っ!?」
徐に上がった面影の苦痛の滲んだ声に、初めて三日月がその身体を硬直させる。
それまではまるで余裕が服を着ている様な態度だった男は、相手の後蕾から慌てて指を引き抜いてその表情を覗き込んだ。
「すまぬ、面影…! 無理が過ぎたか…?」
「あ……いっ、いや……」
思わず謝罪した三日月に対して、面影も声を上げた事を申し訳なく思ったのか、手で口を隠して俯いた。
「………?」
落ち着いたところで改めて相手の反応について考慮した三日月が、首を傾げて眉を顰める。
痛みを訴えられた瞬間、相手を傷付ける事を恐れてすぐに手を引いてしまったが、あの瞬間、確かに違和感を感じた。
過去の記憶を掘り返してみても、あんなに抵抗を感じる事はここ最近は無かった…筈。
禁欲の期間を迎える前はほぼ連日連夜身体を重ね、深く繋がっていたので、面影の秘蕾はそんな行為に馴染んでいたのに、今日久々に触れたとは言え、予想以上に蕾は頑なだった。
「面影……その…俺の思い違いかもしれんが……」
相手が何を言わんとしているのかを朧気ながらに察した面影は、顔を伏せたまま…しかしそれを赤くしながらぽそっと言った。
「それは……ひ、久し振り…だった、から……」
「え……?」
問い返されたもののそれ以上は無理なのか、面影は一層顔を朱に染めて深く俯いてしまう。
彼の返事を脳内で反芻した三日月は、瞳を大きく見開いて喫驚した様子で確認した。
「お前……まさか、お前も禁欲を…?」
「~~……」
返事は無かったが、相手の態度でそれが正解だという事はすぐに分かった。
「何故……お前まで付き合う必要はなかったのだぞ、それは知っていた筈だろう」
筆頭近侍であり審神者の信頼が最も篤い…そして神格が高い彼だからこそ、儀式に際して厳重な禊が求められたのであり、全ての刀剣男士に同様の苦行が求められた訳では無い。
それは去年の師走のある時期から全員にしっかりと周知されていた筈だった、勿論、面影にも。
褥を共にしなくなってからも、三日月は特にそれについて面影に言及する事はなかった。
自分が相手を抱けない時期は辛くないと言えば嘘になるが、それに面影まで付き合う必要は無い。
だから今この瞬間まで、三日月は禁欲の期間、面影は一人で自分を慰めていたのだろうとばかり考えていた。
二人だけの秘密だが、身体を重ねる関係になって以降、三日月は面影に自分の身を慰める為の手解きも行っていた。
三日月が遠征などで本丸を空けた時に、切なく飢える肉体を鎮めるために……
それなのに……彼もずっと禁欲に耐えていたというのか……?
「……だって…」
ひそ、と面影は遠慮がちに三日月に理由を告げた。
「…三日月だって辛いだろうに……私一人だけ気持ち好くなるなんて…嫌…だった、から……」
「…っ…!!!」
思わず、三日月は顔を手で覆って押し黙った。
目眩がする……いや、気を失ってしまいそうな高揚感すら感じる……
(……可愛すぎる…)
愛しさの余りにぞくぞくと戦慄を感じている三日月とは裏腹に、沈黙を守っている彼に何か思うところがあったのか、面影がそっと手を伸ばして触れてきたかと思うと不安げに見上げてきた。
「三日月……あの……」
「うん……?」
「……少しだけ……ほんの少しだけ、その…優しくしてくれたら……できる…と、思う……」
「!!」
「面倒…なのが嫌なら…夜までに自分で何とか、する、から……あ、あの…い、今じゃなきゃ嫌なら、痛くても…私が耐えたら良い話で……」
「~~~!!」
無意識の中、がんがんとその健気さで三日月の理性を殴り飛ばしてくる若者は、自分が何をしでかしているのか全く分からない様子で彼に必死に縋り付く。
「すまない…夜まで待てと言っていたのに……我が儘だと分かっているが……三日月に、拒まれたくない……」
ぶち…っ!!
忍耐?理性?おそらく両方の紐があっけなく千切れた音を脳内で聞いた三日月は、その次の瞬間には相手を勢い良く押し倒していた。
押し倒した先には、部屋の中に予め準備していた書初め用の条幅の紙が敷かれており、丁度長軸に添う形で、面影は身体を紙の上に横たえた。
「あ……っ…?」
「俺がお前を拒むだと…? 愚かなことを……」
ちゅ…と音をたてて優しく唇を塞いだ後、三日月が上から覗き込みながら面影に断言する。
「ああ、今じゃないと嫌だ」
「!」
「だが、お前の身体を暴くことが面倒でなどあるものか…お前に苦痛を与えるなど、俺を含めて誰にも許さぬ」
断言とほぼ同時に、三日月は身を起こしたかと思うと下に組み敷いていた面影の身体を抱え、そのまま反転させて四つん這いの姿勢を取らせると、自らも身体をずらして顔を相手の秘所に触れさせられる場所まで移動した。
「あ…っ…三日月…っ」
恥ずかしい場所を間近で見つめられている…こんな昼日中に……
これまでも数えきれない程に抱かれ、快楽を教え込まれ、おそらく自分でも知らないところまで身体を暴かれているのに今更だと言われるかもしれないが、それでも羞恥が無くなる訳でもない。
ふるるっと全身を震わせた面影を優しく見つめながら、三日月はそろりと人差し指の先端で、改めて相手の後蕾を優しく撫でた。
「これが俺達の姫初めとは、丁度良いか…」
ぴちゃ……っ
「ひぅ…っ」
水音が響き、それを聞かなくても蕾に感じた濡れた感触に、面影は男がそこに舌を這わせた事を察して引き攣った声を上げた。
「その言葉の通り処女の様に、姫君の様に、大事に愛してやろう……じっとしているのだぞ」
「んん…っ…あ、あ…はあぁ…っ」
ぴちゃ、ぴちゃ…と三日月はじっくりと舌先で蕾を濡らしながら円を描くように愛撫してゆく。
時々からかうように舌先で頑なな蕾を突く度に、面影の甘い声が上がった。
「あ、あ……っ! ああんっ…あ、ひっ…!」
「案ずるな……此処もすぐに思い出す。俺を淫らに求めていたことをな……」
ゆっくり、ゆっくりと……その言葉の通りに思い出させるように、舌と指を使って面影の身体に再び情欲の炎を点してゆく。
最初は確かに固く閉じられていたが、過去には幾度も雄を受け入れていた場所であり、三日月の優しくも執拗な悪戯に徐々に柔らかく解れていった。
「…痛ければすぐに言うのだぞ?」
先程の様に意図しなかったとはいえ、再び面影に苦痛を与える訳にはいかない。
初めて身体を繋いだ時の様に三日月が人差し指を慎重に秘穴に差し入れてみると、それは然程抵抗もなくつぷぷ…と吞み込まれていった。
秘所の内は熱く柔らかく、侵入してきた三日月の指に嬉しそうに絡みついてより奥へと引き込もうとしてきて、三日月は唇を歪めた。
「…良さそうだな」
三日月の言葉通り、面影の身体は過去の快楽を思い出しつつあり、もっと欲しいと言うかのように腰が艶めかしくくねった。
「んああ……あっ…う、ん…いい…」
新たな快感に反応したのは秘肉だけではなく彼の楔も同様で、達した後に一度は萎えた様子だったが、三日月の後蕾への愛撫に再び頭をもたげ、腹の下で揺れながら先走りを垂らしていた。
それを目ざとく見つけた三日月は、するっと股間を抜いて相手の昂りに手を伸ばし、柔らかく握り込むと、ゆるゆると上下に扱き始めた。
「あ、あ、ああ~~~っ…!」
太腿が痙攣し、三日月の手の中の肉棒も戦慄いて更に先走りを零し始めると共に、面影の蜂蜜の様な甘い声が三日月の耳を愉しませる。
ぱたっ……ぱたた……っ
「……?」
何処からか、液体が雫となって落ちる音を耳にして、快感に目を閉じていた面影がそれを開く。
音の出所はすぐに明らかになった。
目の前…いつの間にか自身の口の端から零れた唾液が、書道用に敷かれていた紙の上に染みを作っていた。
そしてもう一カ所…少しだけ顎を引いて見える先……
(あ…っ…)
自らの楔の先から、一滴の先走りが雫となってぱたっと紙の上で小気味良い音を立てて染み込んでいく様を見てしまい、面影はその背徳感に背筋を震わせた。
明日になれば、鯰尾達が和気藹々とこの場に集い、思い思いの願いを筆に込め、清らかな紙に書き記すのだろう。
そんな場所に、よりによって手本とならねばならない自分が、快楽に溺れて欲望の証を零し、穢してしまった……
(あ、あ………こんな…こんないけない事……私は……)
罪悪感を感じている筈なのに……いけないと思うほどに何故か身体と心が否応なく昂ぶってしまう………
場所を変えようにも、最早快感に絡め取られたこの身は動くこともままならない。
穢してはいけない……けれど、もっと、穢したい………
頭の中がぐるぐると回り自分が何を考えているのか分からなくなり……寄る辺を求めるように手元に触れた条幅紙をくしゃりと握りしめた音で、ほんの少しだけ意識が鮮明になった。
「いや………書初め……紙、が…」
汚したくない…という思いを訴えるべくそれを言葉に乗せた面影に、三日月は昏い笑みを深めながら耳元で誘うように囁いた。
「…構わぬ……お前の白い墨で、思うままに欲望を書き初めてみよ」
「っ!! や、いあ、ぁ……んあぁ! ゆ、び…増え、て……」
いつの間にか、内を暴く指が二本に増えて縦横無尽に秘肉を嬲っていた。
懐かしい……ああ、確かに欲しかった、求めていた感覚……
こうして毎夜、相手の楔に貫かれる前から指や舌で弄ばれ、幾度となく絶頂に導かれていた……
去年の自分は、今の自分の様にこんなに快楽に弱かっただろうか?
たった二本の指だけで、急な坂道を転がり落ちる小石のように欲望の坩堝に落ちていってしまう様だ。
「う、ああんっ…! みかづき…っ! ひぁ…っ」
「ああ、辛いのだろう…? 『筆』もこんなに張り詰めてしまって…一度、達った方が良さそうだな…」
ちゅくっ ちゅくっ ちゅくっ……
ぬちゅっ……くちゅっ……
肉棒を擦り上げる音と指で肉穴を弄る音が、より激しく強く耳に届けられ、それと同時に面影の嬌声も強くなる。
「あっあっあ~~~!! やぁっ…そこ…そこぉ…!」
「ふむ…此処だろう…? 可愛い果実が弄ってほしいと膨らんでいるぞ」
更に指を三本に増やしていた男は、淫肉の壁の向こうに潜んでいる雄特有の器官を捉え、指先でこりっこりっと強く擦り上げた。
指が幾度も果実を肉壁越しに刺激をした事が引き金になったのか、びくんっと面影が一際強く身体を震わせたかと思うと、
「ひあぁぁっ!! あ、あっ、だめっ、もう…射精ちゃう…っ!!」
悲鳴にも似た嬌声を上げながら、肉棒から再び激しく白濁液を吐き出した。
ぱしゃ…っ! びゅっ……ぱたた…っ
一度ではなく、幾度も幾度も粘度が高い白濁が紙の上に散ってゆく……清らかな白色の紙の上に、肉欲の証が華を咲かせてゆく……
それを目の当たりにし、面影は激しく首を振って口走る。
「やだ……あっ! だめ、なのに…っ…ああ、止まらな……いやらしい、墨、が…射精てる…っ!」
その後も面影の嬌声は続き、禁欲期間から解放された事を悦ぶ様に、肉棒が震えながら射精を続けた。
紙の上にひとしきり射精した後、ぐたりと上半身をその上に投げ出したが、面影の身体がそれで満足することはなかった。
「あ……っ…」
喉の奥から掠れた声を漏らしながら、新たに湧き上がってくる渇望を面影は持て余し始める。
(すご、かった……久しぶりだったから、気持ちよくて……いっぱい……でも…)
射精の快感が過ぎ去った後に訪れたのは、三日月に散々弄ばれた秘肉の奥の疼きだった。
彼の言葉に嘘偽りはなかった。
『案ずるな……此処もすぐに思い出す。俺を淫らに求めていたことをな……』
そう、暫し忘れていた、その場所を埋めてくれていた存在を思い出して、面影の奥は抑えきれない淫らな欲望の炎に炙られつつあった。
「んあ……ああん…や……おく…たりな…っ」
三日月が与えてくれた指や舌の愛撫では届かない場所の疼きに、面影は小さく苦悶の声を漏らす。
一度それを認めてしまえば、もう無いものとする事は出来なかった。
「ああ……ほ、し…っ…みかづ、き……」
「うん…?」
聞き返す三日月は、きっと自分が求めているものを分かっているのだろう…が、最初に痛がらせてしまった事実はどうやらこちらが考えている以上に彼の心に刺さってしまったらしい。
まだ内を指で解そうとしている相手に、面影はもう我慢がならないと首を振り、そろりと股間を通して秘蕾に指を遣り、くっと押し広げて見せた。
「もう、お、ねがい……っ…みかづきの、『筆』で……わたしに、わたしの身体に……書初め、して…っ!」
「…っ!……お前は…」
ねだられた三日月は、びくっと微かに身を震わせた後、荒々しく相手の腰を搔き抱いて耳元に口を近づけた。
「どうして…お前は俺をそんなに狂わせる…っ」
「あ…っ」
ぐい、と面影の秘蕾に灼熱の固い何かが押し当てられ、面影はそれを感じて歓喜に身を震わせた。
「そんな煽られ方をして、俺にも忍耐の限界はある……辛くしてしまうかもしれんぞ…?」
ある意味警告ともとれる言葉だったが、面影はそれに迷わずこくんと頷いた。
これは自身の選択…相手にその責任を問うつもりなどなかった。
「だい…じょうぶ…だからっ……はやくっ…もう…がまんできな、い…っ」
「……いく、ぞ…?」
みちり……と、音がたてられたような錯覚を覚えるような、そんな熱く大きな質量のものが、蕾を押し開き、侵入してくる…
「う…う…っ…」
息を吐き出しつつ籠った声を漏らして耐えていると、そっと脇から回された三日月の指先が、面影の胸の蕾を優しく捏ね回し始め、彼の注意を逸らしてくれた。
「ん…っ…はぁ……あ、おおき、い…」
三日月の肉筆は禁欲期間を経ているせいなのか、記憶にあるそれより大きい気がする…いや、自身の身体が暫くまぐわっていなかったからそう感じるだけなのだろうか…?
それでも、相手が優しく根気良く秘所を解してくれていたお陰か、特に傷つけられる事もなく、面影の身体は三日月の楔を根元まで受け入れることが出来た。
(ああ……私のなか……三日月で…いっぱ、い……)
圧迫感に、はく…と口を開いて口呼吸を繰り返してやり過ごしている内に、やわやわと淫肉が蠢いて楔を包み込みながら締め付け始める。
徐々に過去のまぐわいを思い出しつつある面影の身体は、確実に三日月の肉楔を受け入れた事で覚醒したらしく、貪欲にそれを引き込み始めた。
「ああ…そうかそうか…・・・ふふ」
言葉を交わさなくても、まるで肉体から直接望みを聞いたように三日月は笑い…ゆっくりと腰を蠢かし始める。
「飢えていたのは俺も同じだ……今日はその分もたっぷりと可愛がってやるぞ」
「あ、あっあっ…! んんっ…い、い……いいっ…! もっと…そこ…」
ずちゅ……ずちゅ……と粘膜が擦れ合う音が最初はとても緩慢な調子で響いていたが…もう粘膜を傷つける心配がないと看做した後は、三日月も徐々に腰の動きを速めていった。
「あ、あ、あぁっ! もっと! もっと奥…っ…ふああ、きて、きてぇ…っ」
「うむ…此処か?」
ぐちゅん…っ!!
一際強く激しく、深く突き刺す様に三日月の雄が面影の秘奥を貫くと、若者の口から歓喜の声が上がった。
「あああぁ~~~っ!! そ、こっ…すごい…っ! おかしく、なる…っ」
「…ああ、俺も好いぞ……もっと奥まで抉ってやろう…一緒に達くぞ…?」
前後の動きを暫し止め、代わりに腰をゆっくりと円を描くように蠢かして内を抉ってやると、ぶるぶると全身を震わせて面影が悦楽の笑みを浮かべながら頤を反らせた。
「ん…っ…い、達かせて……一緒に、達って…! みかづきの…おっきい筆で、激しく、突いてぇ…っ!!」
「はは、すっかり元通りだな………」
可愛い乱れっぷりだ…と耳元で言ってやると、まだ僅かに羞恥が残っているのか、いやいやと首を小さく横に振った。
「やぁ……言わないで…っ」
「だが、欲しいのだろう…?」
「う……うんっ……ほ、しい…ほしい…っ…なか…擦って……根元まで…挿れてぇっ…!」
「ふ…欲張りめ」
どちゅんっ! ぐちゅっ…ぐちゅん! どちゅっ…!
「あああ〜〜っ! み、かづきっ…! すご、はげしすぎ…っ! ああっ! ああんっ! お、奥まで、抉ってきてる! だめっ、達くっ! もう達くうぅっ! 」
「ああ、お前の久し振りの内も、とろとろに熱く蕩けて筆で擦る度に締め付けてくるぞ……良いのだな? ずっと射精せずにいた俺の墨で、お前の内に書き初めても」
「い、いいっ! みかづき…! お前の、熱くていやらしい墨、全部、私の内に注いでくれ…っ! 私の全てを…お前の墨で染めて……っ!! あ、あ、あ〜~っ!」
「っ!……面影…っ!」
それまで握っていた主導権を、三日月はあっさりと手放し……獣になった。
侵入し、擦り上げ、突き上げ、抉っていた行為の中でも常に傷つけまいと心を配っていたが、この瞬間、その優しさは消えた。
ぐちゅぐちゅと粘膜が擦れ合う音と共に、ぱんっぱんっと汗ばんだ肌同士がぶつかり合う音が一際高く上がり、同時に面影も高い嬌声を上げながら激しく乱れ狂った。
涙と涎を溢しながら犯され、蹂躙されるが、それこそが彼の求めるものだった。
「あっあっあっ!! これっ、すごいっすごいぃっ! なか、あつくてっきもちい…っ!! んああ、お、かしくなるぅっ!! ああーーー、い、くっ!! いく、いくいくっ!! もっ、はじけちゃ、うぅ!!」
「ああ……俺も射精すぞっ…そらっ」
「っ!!」
呼び掛けの直後、ぐん、っと三日月の肉筆がより一層大きさを増すのが感じられ、面影が息を詰めた。
ああ、来る………!
あの逞しい肉棒の中の細い路を通り抜け、白濁した溶岩が容赦なく己の肉壺の奥に向かって噴き出し、内から全てを灼いてゆく……!
ずっと、ずっと、共に禁欲していた時から待ち望んでいたものがようやく……!
「あ、あ、来てぇ…!!」
面影の懇願の声が、引き金になった。
どびゅっ!! どくっどくんっ!! びゅるるるっ!
「っく…!」
「〜〜〜〜っ!!」
小さく呻いた三日月に対し、面影は声すら上げることが出来なかった。
身体の深奥を、灼熱の鉄棒で叩かれた様な錯覚を覚える程に激しい衝撃に圧され、喉がひくんと鳴る。
同時に、内を満たしていた相手の肉筆がびくっびくっと激しく暴れ、淫肉を刺激し、一気に熱い奔流に包まれるのを感じた。
「あ、あ、ああああっ!!」
ようやく声を上げられる様になった時、面影の身体の奥から凄まじい快感が生じた。
それは否応なく彼の楔の解放を促し、彼もまたほぼ同時に精を一気に放っていた。
びしゃ…っ! びちゃ…っ!!
薄目で見つめる彼の視界で、新たに白い紙の上に明らかにそれと異なる「白」色の粘った『墨』が散らされていくのが見えた。
それを見ている面影の体内では、まだ三日月の射精が続いており、いつもより大量の体液が注ぎ込まれているのが分かる。
「ああ……達って、る……三日月と、いっしょ、に……! すごい…っ、すごい…っ!! どっちもまだ、いっぱい射精てる…っ、はあぁん…!」
面影の言葉の通りそれから暫く二人の射精は止まること無く、それが続いている間にも面影は絶頂を幾度も味わっていた。
断続的に最奥を精液で叩かれる度に達し、それで刺激を受けて自らの精を放った際にまた絶頂へと達する。
そんな快楽回路を幾度も巡り、ようやく三日月の射精が治まった時には、面影の全身からはその身を支える力すら失われ、ぐたりと抵抗もなくその場にくずおれてしまった。
「は、あ……はぁ……は…っ…」
「お…っと…」
条幅の紙の上に倒れ込みそうになった面影の身体を支えると、三日月はそっとその横に仰向けになる形で面影を寝かせてやる。
その際に身体を離したところで、ぬぷりと二人を繋いでいた彼の肉筆が秘蕾から抜かれた。
「あ………っ」
一瞬、名残惜しそうに秘穴が離すまいときゅ、と窄まったが、そんな願いは叶わず二人は一旦別々に分かたれた。
「…好かった様だな……」
面影の身体の反応と隣の紙に淫らに散った彼の白墨を見て、三日月が唇を小さく歪め、すっと自らの人差し指を紙上の相手の『墨』へと伸ばした。
ぬちゅり……とその白濁を指先で掬い取ると、三日月はそれをそのまま面影の胸の蕾に乗せ、にゅるんと優しく円を描いた。
「んあぁ……みか、づき…っ…」
「筆を使わぬ指墨というものもあるのだぞ…紙の感触も悪くはないが、ふむ、こんなに好い声は聞けぬ……」
くく、とくぐもった笑みを零しながら、三日月は指で散々相手の蕾に彼の精を塗りたくると、次はそちらへ唇を寄せてぺろりと舐め上げた。
「ふぁ…ああん…っ」
「先程は筆でからかっただけだからな……こうされるのも、好きだろう?」
ぴちゃ……くちゅ……
舌で相手の精を舐め、味わうと共に、敏感な性感帯をからかう男の悪戯に面影が甘い声と溜息を漏らす。
絶頂に達した身体には依然種火が燻っており、そう易々と情欲の焔が消せる筈はなかった。
「ん……あん……あっ…いい…」
「…………」
三日月の視線が、面影の唇に向けられる。
艶やかな紅い唇が零す甘い声は、三日月が何よりも好む声だった。
そしてそれをもたらす唇は、すぐにでも塞いでしまいたいという欲望を生じさせてしまう。
このまま唇で塞いでしまおうか?
……ああ、いやそれよりも……もっと淫らに、独占欲を満たすやり方で……その口を犯してしまいたい……
「……面影…」
そ、と身体を離し、三日月は場所を移動して相手の頭側に胡座をかく姿勢で座ると、その狭間に面影の首が乗るようにその頭を己の左大腿に乗せてやった。
「…? みかづき…?」
不思議そうにこちらを見上げてくる面影に、その唇に優しく触れながら、微かに欲情の彩を宿した瞳で三日月は声を潜めながら願った。
「…お前の内で書初めて、『筆』が汚れてしまった………この、愛らしい『筆洗』で、綺麗にしてくれるか…?」
「っ!!」
何を言わんとしているのかすぐに察した面影がかぁぁ、と一気に林檎のように顔を赤くした。
筆を綺麗に…というのは……この口を指し示しているのは…つまり、そういう行為を望まれているということで……
初めてではないしこれまでもそういう行為は行った事はあるが、やはり恥ずかしさを覚えてしまう。
しかし、恥ずかしさはあるが、嫌ではないのも事実だった。
日常では滅多にその表情を崩す事もなく、飄々と、淡々と、全ての事象を見守る姿を崩さない三日月宗近。
そんな男が自分に欲情してくれているのだと彼の熱く昂ぶる楔が教えてくれる時、確かに悦びが胸の内に生まれるのだ。
そしてその熱を秘蕾だけではなく口腔で感じる時に己の昏い欲望が満たされ、粘膜と舌を用いて愛撫してやると、その心地よさに相手が滅多に崩さない表情から眉を顰める姿を見るのが、面影は堪らなく好きだった。
相手を愛する行為で、感じてくれているのだと……
「…」
ちらりと盗み見るように顔の側にあった相手の肉筆に視線を遣るだけで、ずくんと身体の奥が疼いた。
(ああ…どうして…どうして人間の男には、こんなにいやらしい形のモノが、生えているんだろう……)
その淫靡な形を誇るモノのせいで、今も…目にするだけで他の事など考えられなくなってしまう……
滑らかなまろみを誇る亀頭、しっかりと張り出した雁首、立派な長さと太さを併せ持つ茎……
きっと相手が誰であろうと満足させられるだろうその雄の証は、今は大人しげに頭を下に下げているが、ぬらぬらと彼自身の白い墨に塗れて光っており、否が応でも面影の欲望を覚醒させていた。
(欲しい………いっぱい、舐めて…綺麗にして、気持ち良くしてあげたい……気持ち良くなりたい……)
それに、自分の内で汚れたと言うのなら、それを清めるのも自分の責任だ……これは、正当な理由でも、ある……
「三日月……その…」
己の浅ましい欲望が気取られない様に願いつつ、顔を朱に染めたまま面影は相手に応じた。
「お前が望むなら………私に…させて…」
「…ああ、頼むぞ」
ふ、と笑みを浮かべた男が、そっと手を面影の頭に添えてそのまま自然に自らの楔へと導き、若者はそれに抗う事もなく、素直に唇を触れさせた後でぬるりと口腔内へと迎え入れた。
「ん……」
ぺちゃ…ぴちゃ…と舌が楔を舐め回す音が響き、それに面影のくぐもった声と三日月の荒い吐息が重なる。
肉棒に纏わりついていた精の残渣を舐め取ると、面影は思い出したように相手の亀頭を含んで、ちゅうっと中に残っていた精液を吸い出した。
「っ……覚えの良い生徒だ」
これまでの夜の営みの中で教えた行為を素直に実践する相手に、三日月が息を詰めながら優しく頭を撫でる。
「ふぅ…ん…っ……ん…」
徐々に舌の動きが激しくなるに従い、面影の身体が再び熱を孕み始めた。
(や……ああ……これ、ほし…い……)
その熱が一か所に集まり始め、それが大きく育ち始めると、面影は耐えられなくなったのか、少しだけ腰を浮かせながら自らの肉棒に手を絡ませ始めた……ところで、
「あ……んっ…」
身体の動きを請けて、彼の秘蕾から注がれたばかりの三日月の白濁がとぷりと零れ出してきた。
「あ……っ…みかづき、の…」
このままだとそのまま皮膚を伝って畳に落ちてしまう筈だったが、それは即座に伸ばされた面影本人の手指によって阻まれ、掬い上げられた。
その指はそのまま自らの勃ち上がりかけていた昂ぶりに運ばれ、ぬるりと塗り付けられたが、それが心地良かったのか掌で昂ぶりを握り込むと、幾度も繰り返し上下に淫らな音をたてて扱き上げられ始める。
「ああ……堪らずに筆遊びを始めたか……良い眺めだ」
これ以上無い痴態。
雄を口に含んで中を蹂躙される一方で、侵された肉蕾から零れた精の甘露を自らの雄に塗り付け、快楽に溺れながら手淫に耽っているのだ。
そんな自身の姿に気が付いていないのかそれとも分かっていて目を背けたいのか、若者はちゅくちゅくと音を立てて自らのものを慰めながら、相手の楔の茎に唇を寄せて愛おし気に甘噛みをした。
「すご、い………大きくて…入らな…っ…」
面影の口淫を愉しんでいる三日月の楔は、若者の涎で淫らに濡れ光りながら、再び頭を天に向けて聳え立っている。
そんな相手の立派な様子に我慢が出来なくなった様に、面影が切なげに訴えながら身をくねらせた。
「みか、づき……ああ、もう一度……私を…染めて…」
「…欲しいのか?」
こくこくと素直に頷く想い人に、麗しい月神の化身は優しく手を差し伸べると、軽々と相手の身を持ち上げて自分と向き合う対面座位の形を取らせた。
「お前の乱れる顔を見たいからな……ほら、欲しいのなら自分で…」
「ん……」
促されるまま、面影は躊躇う事もなく自ら腰を浮かせると相手の楔を後ろ手に支え持ち、そのまま腰を落としていった。
ずぷぷ……と相手の灼熱の棒が秘所に呑み込まれていくのを感じながら、夢中で両足を彼の腰に絡めてより深く繋がり合おうとする。
その時、面影の楔の裏筋に甘やかな痺れが走り抜け、彼の身がひくんと戦慄いた。
「あ……っ」
足で相手の身を引き寄せた事で二人の下半身もこれ以上無い程に密着し、面影の勃ち上がっていた肉棒が相手の鍛え上げられている腹筋に擦り付けられていたのだ。
「はは、良いぞ、お前の筆も好きなだけ俺に書初めると良い。そら、たっぷり下から突き上げてやろう」
ずんっ…!!
「ひぅっ…!」
強く下から突かれ、悲鳴に似た嬌声が面影の口から上がったが、構わず三日月はずんずんと深く激しく相手の深奥を抉った。
そしてその動きの度に、面影の固くなった『筆』が相手の腹筋に擦り付けられ、先端から零れていた透明な墨でその場所を穢していく。
「うぁっ! あっ、あっ、ひぁぁっ!! あ、んっ! いいっ、いいぃっ…!!」
「本当に可愛いな…お前は…」
ずちゅずちゅと繋がった場所から水音を響かせながら二人の身体はより密着して揺れ合う。
その中で擦れ合うのは面影の楔だけではなく、互いの胸の蕾も刺激し合い、くにくにと形を変えていた。
(んあ……三日月の胸、固くて逞しい……あっ、乳首同士が擦れるの……いい…)
楔も乳首ももっともっと強い刺激が欲しくて、面影は夢中で足で相手の身体を引き寄せ、腰を揺らした。
「ああ…ああっ……! みか、づき……溶けそう…! きもちい…っ…」
「好い声だ…もっと、啼いて聞かせよ」
既に二度目の挿入でもあり、面影の秘奥は容易く三日月を呑み込んでいたので、自分がより激しく腰を上下させても苦痛を生じることは最早ない。
それを分かった上で、耳元で聞こえる甘い悲鳴を心地良く聞きながら、三日月は唇を歪めつつ相手を追い上げていった。
やがて面影の声も絶え絶えとなり、彼の楔がより固さを増し、先端から零れ落ちる雫も増えてきた事で相手の限界が近い事を察した麗しい男は一際強く下から面影を突いた。
「ひ…っ!! あ、あ~~~~~っ!!」
びくびくっと全身を痙攣させ、限界まで背を反らせながら面影は絶頂に至った。
「……っ!!」
同時に肉壺が三日月の楔をきつく締め付け、彼もまた頃合いとぐいぃっと腰を極限まで相手の最奥に押し付けながら、欲望を解放させた。
一際大きく膨らんだ彼の昂ぶりが、ぶるっと震えると同時に再び面影の身体を奥から灼く様に灼熱の白濁液が迸る。
「あああ!! いっ、達っく…! だめ……っ、三日月にかけちゃ…っ、ああ~~!!」
熱い欲望の証が体内を満たしていくのを感じながら、面影もまた三日月の腹から胸にかけて大量の白濁の熱墨を幾度も放った。
「んっ…んうう……っ」
「……ふ」
喉を反らせた先に愛しい男の顔を見て、面影は朦朧とした頭のまま、殆ど無意識の内に唇を求める。
それに応え、三日月はそ、と顔を下ろして唇で面影のそれを優しく塞いだ。
「あ……はぁ…」
ちゅ、ちゅ、と啄む様に幾度も軽い口づけを与えながら、最後の一滴まで面影に注ぎ終わると楔を引き抜き、ぐたりと倒れ込んでくる面影を支えてやる。
快楽に呑まれて意識を手放してしまった面影を抱きながら、三日月は心底幸せそうな笑みを浮かべていた…
「今日は何もしてはならんから、食事もおせちを好きな時に頂くことになっていたか………もうすぐ日が暮れそうだが、どうする?」
「……この状態を見てよく言えるな…」
少なからず恨み節が含まれているような返事をした面影は、かろうじて三日月から借りた浴衣を纏った姿だったが、ぐたりと相変わらず相手の私室の畳に身を投げ出していた。
対し、質問をのほほんと暢気に投げかけた三日月は、ちゃっかりと座椅子に座っていつもの狩衣姿に戻っている。
通常は他人の手を借りて纏うものだが、今はもう公の場に出る用事もない非公式の時間。
一人で着付けても一見程度なら十分に誤魔化せていた。
「………身体が重い…」
ただの二回まぐわっただけにも関わらず、腰が重くてとても動ける状態では無い。
いや、少し時間をおいたら動けるようにはなるのだろうが…少なくとも目を覚ました直後の今は結構きついものがあった。
「まぁ交わったのは二回だが、書初めの墨は結構な量……」
「それ以上言うな!!」
気を失ってから、禁欲で疼いていた身体の火照りも治まると共に、欲情に捕らわれていた意識も戻っていたので、面影は大声でそれ以上の相手の発言を封じた。
今横になっている自分の隣に敷かれていた、あの精を幾度も放った条幅は今はもう片付けられており、ただの下敷きの布のみが残されている状態だ。
「お前も悦んでいたではないか……共に禁欲に耐えていただけあって、激しかったな……今も動けなくなる程に」
「~~~~~~」
全くもって反論出来ない……
一度目は完全に受け身だったが、二度目の座位での交わりでは確かに自分も積極的に相手に足を絡ませて引き寄せ、その動きに合わせて激しく腰を振っていた記憶がある。
いや、腰を使っていたと言うのなら、その前、口淫の傍らで自慰をしている時から………
「どうした? 面影」
「………新年早々、一生の不覚だ……」
元はと言えば、自分がここまで快楽に弱くなってしまったのも……素直になってしまったのも……目の前のこの男のせいなのは間違いないのだが、どうして当人はこんなに涼しい顔をしていられるのか……
「そもそも此処に来たのは、書初めの準備の為だったのに……お前も何か書き初めたい一念があったのではないか? それを、こんな…は、はしたない…事で…」
まだ何も書く内容を考えていなかった自分なら兎も角、この男なら予め書き初める格言なりを心に決めていたとしてもおかしくない。
それなのに、静謐な書道紙に記したのは墨染色の文字などではなく、白濁の……
言いながら赤くなっていく面影を見遣りながら、三日月はしかし軽く考える素振りを見せてあっさりと応えた。
「まぁ、当たり障りの無い事は幾らでも書けるが…本当に書きたい、願いたい事は書けぬのだ」
「え…?」
「…他力本願な願いなのでな、誰かに頼る願いを書き記すというのは違うだろう。やはりそういうものは自力で叶えたい事を記すものだ」
「……お前一人で出来ないこと…? 誰かに頼らなければならない程に大変なこと、なのか?」
「ああ、そうとも。俺一人では無理だ」
「…………」
この男が個人では叶えられない願いとは……?
一瞬、遡行軍や本丸の安全に関わる事なのではないかと思ったが、それは何となく違うという空気を感じた。
今の三日月はそういう堅苦しい話とは無縁な、実に柔らかな表情を浮かべているのだ。
逆にそういう表情をさせている彼の他力本願の願いがどういうものであるのか…それは面影で無くても気になるだろう。
だから…面影は聞きたくなった。
「…それは…どんな願いを…?」
聞いて良いものかどうか分からず、遠慮がちに小さな声になってしまったが、向こうにはしっかりと聞こえたらしく、三日月は軽く首を巡らせて面影を見た。
「うん……まぁ、俺の欲張りなのだが…」
「? 欲…?」
「…今年も、お前といちゃいちゃしたい」
「い……っ!」
「可愛いお前を存分に甘やかして、これ以上無い程に抱いて蕩けさせて思うままにいちゃいちゃしたい」
「~~~~~~!!!」
湯気が出そうな程に熱を持ち、真っ赤になった相手の顔を見て、三日月が首を傾げながら笑う。
「俺一人だけでは無理だろう? お前の協力がないと、な」
ある意味凄まじい破壊力を持つ…ある意味ずるい口説き文句だった。
「お前…は…っ、また、そんな事を…」
「俺といちゃいちゃするのは嫌か?」
「だ、だから…! そういう聞き方は…ずるい、ぞ…」
分かっている癖に……そうやってこちらの口から言わせたがるなんて……意地悪だ…
「俺は正直な気持ちを述べているだけだぞ? 後は…お前の心持ち次第だ」
「それは………」
うう……と心情的に追い詰められ、遂に面影が白旗を掲げる。
「……い、いちゃいちゃは分からないが……私が側にいたいのはお前、だ……お前が望むなら、私は側を離れない……肌を許すのも…お前だけ…」
「…………」
言いながら自分が大胆な事を言っている自覚が出てきたのか、面影が口元に手を当てて口籠もり、そんな若者を三日月がじっと凝視していた。
どれだけ時間が過ぎたのか………
「…まだ少々固いが…及第点、か………今日もまだいちゃいちゃする時間は幾らでも残っているし、そこでじっくりと教え込むか…」
「は…!?」
まさか…まだこれ以上…するつもりなのか……!?
狼狽する相手に、三日月は当然だとばかりに強く頷いた。
「たかが二度抱いたぐらいで俺が満足する訳がなかろう…? 禁欲期間に我慢した分、お前にはとことん相手になってもらうぞ」
「……っっ!!!!!」
そう言えば失念していた…この男、自分に関して言えばとんでもない絶倫爺だったのだった…!
今更思い出した、が……もう遅い。
狩り態勢になってしまったこの男からは、逃げることは叶わない。
しかも相手の私室に閉じ込められた状態になっている今は尚更だ。
「さぁ…観念するのだな」
立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる三日月の宣告を遠く聞きながら、面影はこれから始まるだろう淫欲の第二幕の帳が開かれるのを感じていた………
この後、二人はちょっとした訪問者による騒動に巻き込まれるのだが、それが切っ掛けで面影は三日月の手により、より一層激しく攻められてしまうことになる………