「あれ、三日月さん。その椅子…」
「ああ、主がな。此処に一脚置いて下さった。なかなかに快適だぞ」
ある日の昼下がり、鯰尾が縁側を通る際にそこにいた三日月に声を掛けていた。
いつもならそこには基本何も置かれていないのだが、今日は三日月が座っている藤椅子が鎮座している。
座る面積も広めに誂えられており、見た目も涼やかだ。
すぐに移動する際に邪魔にならないように肘置きはないが、用途としては十分だろう。
縁側に平行に置かれているので、外の景色を見るには首を巡らせないといけないのだが、ゆったりと座っている男はそれを不便に思う事もない様だ。
元々縁側の幅も割と広めに造られている間取りなので、誰かがそこを通過する際にも迷惑にはならない。
「良いですね、縁側に座るのも長くなるとお尻が痛くなったりしますけど、これならゆっくり出来そうで」
「うむ、じじいには有難い」
「も~、あんまり横着すると、主に怒られますよ?」
「ははは、そうだな、気を付けるとしよう」
そんな会話が交わされ鯰尾が去って行った後も、三日月はのんびりと椅子に座って平和なひと時を楽しみ……それからようやく予定されていた仕事に向かうべく腰を上げたのだった。
藤椅子は概ね他の刀剣男士達にも好評で、ちょっと時間が空いた時などは短刀達も面白そうに座ったり、鶴丸が座り心地を確かめたりと楽しんでいる様子だったが、置かれて暫くするとその熱も落ち着き、普段の光景として溶け込んでいった。
そして、結局その椅子を日々愛用しているのは三日月宗近だった。
座り心地も柔らかく、何より背もたれがあるのが転寝をするのに非常に都合が良いらしい。
「あ、三日月さん。今度の遠征組について、ちょっと聞きたい事があるんですけど…」
「ああ、日向か。どうした?」
彼がその気に入った椅子によく座るようになってからは、周りの男士達も男を探す手間が省けているらしく、ちょっとした相談事をしたい時にも役立っている様である。
元々そんなに遠出をする事もない男だったが、それが審神者の計らいであったとしたら、上手くいったと言えるだろう。
「すっかり三日月さんの指定席になりましたな」
「はは、すまんな。空いていたらつい座ってしまう……ここに座れば、外の景色も眺められるものでな」
「確かに、ここは良い風も渡りますから」
その夜も、三日月は風呂上りに浴衣を着てのんびりと廊下を渡り、つい足がそちらへと向いていた。
暑くも寒くもないこの時期は、外に通じているこの場所でも非常に過ごしやすい。
座ってゆるりと庭を眺めていたところで、丁度そこに歩いてきた一期一振に声を掛けられ、和やかに言葉を交わす。
「ここ最近は、徐々に温かくなってきたな」
「ええ……もうじき、蛍も見られるでしょう」
「蛍か……それは良い」
庭先に蛍が舞う様は、毎年見る度に心を動かされる。
実に風流な光景に、刀剣男士達もその時期の夜は皆が蛍の舞を見ようとここに集まっていた。
いつもなら騒がしい鶴丸たちも、その場では一言も発さず、ただ、美しい光の演舞にその瞳を細めていたものだ。
(……そう言えば、彼は初めて此処で蛍を見る事になるか…)
三日月の脳裏に一人の男の姿が浮かぶ。
面影……自分にとって最も愛しい男。
強襲調査以降、此処に共に住まう様になった彼は、今は密かにしているが自分と恋仲の関係だった。
まだまだ世間知らずなところも多く、精神的にも未熟と言うか純粋過ぎる一面がある男だが、刀剣男士としては文句ない実力者である。
顕現したばかりのあの男なら、おそらく蛍を見た事もないだろう。
(一緒に見るのが楽しみだ)
きっと、あの瞳を驚きに見開き、蛍たちを一心に目で追うのだろう……
今年の自分は蛍より、彼のそんな姿に見入ってしまいそうだ…と思いつつ笑みを深めたところで、さて、と一期一振から暇が告げられた。
「そろそろ私も寝所に向かいますが…三日月さんはまだここに?」
「ああ、もう少しな…」
「では、先に失礼致します」
そう言って相手が場を去ったところで、三日月はふぅと息を吐き出し、背もたれに身を預けて庭へと視線を遣った。
小さな虫の声が聞こえてくる…明るいのは、満月のお陰か……
(…ああ…いかんな、少し眠たくなってきた……)
とろとろと微睡ながら、三日月がゆっくりと瞳を閉じてゆく。
頬を撫でる風が、心地よく己を眠りへと誘う……
少しだけ…ほんの少しだけ此処で休んでいくとしよう……と思いながら、やがて彼は、すぅ…と安らかな寝息をたてて椅子に座ったまま眠りに就いた。
その場に新たな客が訪れたのは、それから四半刻が過ぎた辺りだった。
(今日は少し遅くなり過ぎたか……起きているのも私が最後らしいな)
面影が夜の自主鍛錬を終え、入浴を済ませてから寝所に向かうべく、廊下を渡っていたところで、遠くに見えた縁側の椅子に何者かが座っているのが見えた。
「?」
もうかなり夜も更けつつあるのに、あんな場所で誰が……と目を凝らしたところで、三日月であると知った彼は少なからず慌てた。
(三日月…!?)
今の時期、気温は確かに寒くはないが、あんな場所で眠ってしまったら体調を崩してしまうのではないか?
刀剣男士は人間よりは強靭な肉体を持ってはいるが、それでも無敵ではないし、外的環境の影響を受けない訳でもないのに……
(……起こしに行くか…)
そんなに遠い場所でもないし、起こして寝所に行く様に促そう、と決めてから、面影はやや足早に縁側へと歩いて行った。
やはりもう皆寝所に引き籠っているのだろう、途中で誰にも会わずに彼は縁側に辿り着き、そのまま相手が寝入っている椅子へと近づいてゆく。
どうせ起こすのだから音を立てても問題ない筈なのについ忍び足になってしまっていたお陰で、面影は男に気付かれる事もないままに傍まで接近した。
「………」
起こすつもりだったのに、相手の側に寄ったところで、面影は無言のままに佇んだ。
辺りを満月の光が照らす中で、此処だけが別世界の様に見えた。
藤の椅子に腰かけ、背もたれに身を預けて寝入る男は、それだけで完全な美を体現している様だ。
微かに聞こえる寝息と上下する胸が、相手が生きているのだと知らしめているのに、それすらもが奇跡に思える。
こんなに美しい男だっただろうか……
(…ああ、あれ程に美しい刀身を持つ神なのだから、この姿なのも頷ける……)
柔らかに、微かに風に揺れる黒髪…
伏せた瞳は見えずとも、整った睫毛の一本一本すら完璧な造形…
左右の指を組み合わせて胸に置かれた両手は、麗しい顔の肌と同様に月光に白く輝いて、見る者の視線を離してくれない…
その細く長い指先を見て、面影はつい思い出してしまった。
(……あの指で…触れられていた………)
これまでにも何度も…あの指で髪を撫でられ、頬に触れられ、手を握られ……
「……っ」
ぞくん…と腰に甘い衝撃が走る。
(駄目だ……思い出すな…!)
こんな所で…と思いながら、止めようと思っても寧ろ逆に思い浮かぶのは、先日の彼との逢瀬だった。
三日月と触れ合う機会が増えた事が引き金になったのか、自身の身体は確実に成長を遂げていき…先日、相手の手によって初めて射精を経験したのだ。
思い出しては駄目だ…と思いながらもはっきりと思い出せる、彼の優しい指先の動きと激しい掌の愛撫……
粘膜を通しての刺激に、若い身体は瞬く間に陥落した。
昂りをその手に包まれ、指先で先端を弄ばれ、誘われるように扱かれ、激しい快感の渦へと叩き込まれてしまった……
「…ん……っ」
甘い疼きが腰に走り、思わず軽く前のめりになってしまう。
まずい…このままだと……我慢出来なくなってしまう……
早く相手を起こして、自分も部屋に戻らないと…と必死に考えながら顔を上げると、予想以上に近い場所に相手の寝顔があった。
「…!」
美麗な男の寝顔は、自分が今抱いている煩悩とはまるで無縁の世界の住人の様に見える。
この優しい苦しみをもたらしているのは間違いなくこの男なのに……
じっと見つめる相手の唇が、自分を誘っている様に見えた。
駄目だ、起こさないと……こんな事をしている場合じゃ……
そう思っているのに、身体がそれに反して、顔を相手のそれへと近づけてゆく。
(……綺麗だ)
相手が眠っているから、こんなに間近で彼の人を見つめる事が出来る。
そう思うと起こすのが惜しくなってしまい、ずっと見つめていたくなる……
いや、見つめるだけではなく、このまま唇を奪ってしまいたくなる。
しかしそうしたら、きっと彼はその瞳を開いてしまうだろう……ああ、でも、それでも……
(……三日月)
ちゅ…っ
唇を軽く重ねる…それで気が済むと思っていたのに、重ねた途端に更に渇きは増していった。
まるで炎の酒を呷った様に、かっと身体が熱を持ち、それが身体の中心へと集まっていく……
「ん……っ」
くぐもった声を漏らし、ちゅ、ちゅ…っと何度も唇を奪っていると、ぴく…と相手の瞼が震え、その双眸がゆっくりと開かれていった。
「……うん?」
ゆるゆると瞼を開いた先に面影の顔を見て、三日月が少しだけ首を傾げる。
どうやら自分が今どういう状況にあるのかがまだ分かっていないらしいが、それでも腕を伸ばして相手の腰を抱き寄せる。
「…おも、かげ…?………ああ、俺は…そうか…」
此処で寝入ってしまったのか……少しだけ転寝するつもりが、結構な時間を過ごしてしまった様だ…
「…起こしに来てくれたのか?」
何とも嬉しい起こし方をしてくれたものだ…と微笑んで呼びかけた三日月だったが、面影はそれに答える様子はない。
「?…面影?」
「……っ…」
見ると、相手はふるふると小刻みに身体を震わせ、きゅ、と唇を引き結び、瞳を閉じて何かに必死に耐えている様子だった。
「……どう、しよう……治まらない……みか、づき…」
「……!」
上気した頬に潤んだ瞳、熱っぽい声……そして、前屈みになってゆらゆらと揺れる腰……
それを見て、相手に起こっている事を察した三日月は軽く目を見開いてからくすりと笑った。
「……おいで」
「あ…っ」
ぐいと面影の右腕を引いて自身へと寄せると、そのまま彼に自分の身体を跨がせる形で両太腿の上に座らせた。
「…月に乱されたか…?」
面影も風呂上りに浴衣を纏っていたが、相手に跨る事で衽がはだけ太腿から下が露わになる。
そして、かろうじて布地で隠されていた部分は、下から突き上げられる形で尾根を作っていた。
「んん……っ、は、ぁ…」
今の自分がどんなに淫らな姿をしているのかも分からないのか、面影は目を閉じてゆらゆらと、三日月に跨ったまま腰を揺らしていた。
腰を揺らす度に、己の岐立したものが浴衣の布地に擦れ、そこから得も言われぬ快感が走り抜ける。
それが堪らなくて、もっと感じたくて、面影は混乱しながらも「どうしよう、どうしよう…」と胡乱な頭で呟きながら、腰を揺らし続けた。
揺れる度に帯で留められていた浴衣の上部も乱れ始め、襟の向こうの肌も見え隠れし始めている。
暫く無言で面影の痴態を眺めていた三日月が、ゆっくりと彼の両の襟を握って大きく前を開かせると、本来ならましろに白かっただろう彼の肌がうっすらと上気しているのが月光だけに照らされていてもはっきりと分かった。
そして、その両胸に色づいていた桜色の蕾が誘っているだろう事も……
「…愛らしい蕾だ…」
そ、と両手の親指で同時に蕾に軽く触れ、ゆっくりと捏ね回すと、びくっと面影の背中が跳ねる。
「はっ…あぁ!」
「好い反応だ……感じ易いのだなお前は…」
満足そうに微笑みながら、三日月は親指でひとしきりその小さな蕾を捏ね繰り回し、時折、人差し指も使ってきゅ…と優しく摘まみ上げた。
「ふぁ……あ…!」
「ああ……美味しそうだな…」
そして、三日月がぐいと上体を背もたれから離す形で前へと倒し……
ちゅう…っ
「う、くぅっ!?」
びりびりと胸に電撃が走るような感覚に思わず面影が仰け反ったが、それは皮肉にも蕾を吸い上げた三日月に、更にそれを押し付ける形になってしまった。
「う、あ…! みかづ、き…何をっ…」
「気持ち良いだろう?…ほら、どんどん赤く固くなっていくぞ…」
ちゅ……ちゅうっ……
右の胸の蕾を強く吸い上げながら左の蕾は指でからかい、そして今度は左の蕾を吸いたて右の蕾を圧し潰し……ひとしきり可愛がった後に舌先でちろちろと先端をくすぐると、声もなく面影がぎゅうと三日月にしがみ付いてきた。
その瞳は熱く潤み、激しく何かを求める様に腰が前後に揺らされる。
「あ、あっ……! 三日月…っ! もうっ…耐え、られ…っ!」
「うむ……こちらもだな?」
さわりと三日月の右手が相手の股間へと伸ばされ…浴衣の布地越しに昂りを握りこむと、すり、と先端の粘膜と湿り気を帯びつつある布地を擦り合わせた。
「んあっ! そ、れ…だめっ…!」
布が擦れるもどかしい快感に、先端から淫らな蜜が溢れ出し、じわじわと布地に広がって染みを作り出してゆく……
主が仕立ててくれた…三日月が見立ててくれた浴衣が…己の欲情で汚されてしまう…
「いや……だ……浴衣が…汚れて……っ」
「だが、好いのだろう? こんなに固くして……」
ぐいと握られ、しゅっ、しゅっと布地越しに扱かれると、ああ、と面影の口から甘い声が上がった。
男性だけではなく、また乳首にも唇を寄せられて、確実に絶頂が近づいて来る……
しかし、面影は必死にそれに対して抗った。
(嫌だ……! これじゃ……三日月に、触れてもらえない……)
布の擦れる感触は確かに心地好いものだったが、三日月の指との距離があまりに遠く感じてしまう。
自分は…もっと…もっと彼に………
「あぁ……三日月、お、ねがい…っ」
もう、声を張るのも難しかった彼は、必死に相手に取り縋り、その耳元で願った。
『ちゃんと……さわって……』
「!」
息も絶え絶えの相手の懇願に、三日月は思わず目を見開いて彼を見据え……困ったように笑った。
「…強請るのが上手いな、お前は…」
そんな可愛い声で乞われたら、断るなど出来ないだろう…?
「あいわかった……たっぷりと触れてやるぞ」
そしてたっぷりと…好い声で啼かせてやろう……
頷いた男は、する、と衽を完全に暴き、相手の岐立を露わにすると、つうっと裏筋を根元から先端まで一気に指先でなぞった。
「あ、んっ!」
途端にびくんっと昂ぶりが激しく跳ね、熱い露が先端から散って三日月の手を濡らす。
「ふふ…元気ないたずらっ子だな…」
きゅ、きゅっと茎を優しく握りこみながらそれを徐々に先端へと移動させ、やがて雁を掌で包み込むと、手首を捻って全体の粘膜を擦り上げる。
途端に、面影の艶やかな嬌声が響き、三日月の掌には熱い雫が溢れた。
それを更に塗り込めるように、ぐちゅぐちゅとわざと大きな音を立てながら面影の分身を扱き上げ、絶頂を促すように、先端の窪みをくりくりと爪先で穿る。
「あっ、ああああっ! だめ、だめ、だっ! なにか…く、るっ…!!」
自分でももう止められない大きな波の様なものが…奥から迫って来るようだ…!
自身の身体の事なのに……止められそうにない…!!
「達くのか? 面影…」
「い、く…?……どこ…へ…」
言葉の意味が分からず聞き返してきた若者に、三日月がああ、と頷き、相手に諭す。
「…快楽の絶頂に至ることを『達く』と言うのだ……達く時は、ちゃんと教えるのだぞ」
「う……ああっ……」
迎えるだろう絶頂の表現を教えてもらった男は、まるで覚えたての言葉を繰り返す幼子の様に素直にそれを言の葉に乗せる。
「三日月……っ…い、きそ…っ! あ、ああ、達く……い…っ」
「うむ……手伝うぞ、そら…」
目の前に快楽の渦が見えている若者にもう一歩を踏み出させるべく、三日月が相手の双珠を手の中に捕らえにゅくにゅくと揉み込むと、あっさりと面影は絶頂を迎えた。
「あああああっ!! っく、達くぅぅぅっ!!」
その瞬間、三日月の掌が相手の昂りの先端を覆い、びゅくびゅくと噴きあがる熱い樹液を受け止めた。
背中を限界まで反らし、面影が身体を硬直させて全身で絶頂を経験する。
「はぁ…っ…はっ……はぁ………」
達してから、息も荒くぐったりと三日月に凭れかかる面影の目の前で、相手はずるりと若者の股間から手を抜き出し、その掌に残された精の残渣を見て笑った。
「若いな……こんなに射精たか…」
とろりと粘った白い樹液を掲げてみせたその麗人は、躊躇いもなくそれに唇を寄せ、舌でぺちゃりと舐め取り始める。
「な…っ!!」
己が吐精したものをこれ見よがしに目前で舐め取られ、面影が真っ赤になって口をぱくぱくと動かす。
「な……にをっ…それ、は……」
そんなものを口に入れる…あまつさえ呑み込むなんて…と愕然とする相手に、三日月はぺちゃぺちゃと何度も舌を伸ばして全てを舐め取った後で誘う様に笑った。
「お前のなら……一滴残さず舐め取ってやろう」
「~~~!!」
蠱惑的な男の笑みに、こちらが思わず真っ赤になって顔を背けてしまったところで…面影がふと、ある光景に気付いてそちらに視線が釘付けになった。
(あ……れは……)
固定された視線の先は、相手の腰の中央…股間だった。
そこが明らかに不自然な形で盛り上がっている……
「……あ…三日月……その……それ、は…」
遠慮がちに尋ねると、相手は向こうの視線で何に気付いたのかすぐに察して苦笑した。
「ああ……まぁ、俺も男という事だ…お前のあんな艶やかな声と姿を目の当たりにして、興奮しないなど無理な話だ」
「…………」
三日月の告白を遠く聞きながら、面影はばくばくと自身の鼓動が激しく脈打つのを感じていた。
(三日月……が……)
……欲情、してくれたのか……?
「わ…たしに………?」
好かれている事は…自惚れていいなら感じていた……けど、対等に思われているというよりも、子供を導くような立場に立たれていると思っていた……
けれど、本当は……何でもない表情をしていながら、今の様に興奮してくれていたのか……?
(ああ………嬉しいと、思ってしまう……)
彼が自分にそういう反応をしてくれたのなら……自分もまた…彼に……
「三日月……」
「面影?」
身体を起こした面影が、ゆっくりと両手を相手へと伸ばし…彼がした様に今度は自分がその浴衣の袂をはだき、胸元を露わにすると、そこにあった蕾に唇を寄せた。
「面影…っ!?」
「ん……」
ぺろっと右の蕾を舐め上げ、ちゅうっと唇の奥に含んできつく吸い上げると、ぴくんと僅かながらに相手の身体が強張ったのが分かった。
感じてくれている……
(…こんなに……嬉しくなるとは……)
今までずっと相手にされてきたことを自分が返すことで、初めて分かる事もあるのか……
(なんて艶めかしい肌……乳首もこんなに綺麗な色で………ああ、もっと、触れたい…)
相手に身を委ねていた体制から相手を半ば押し倒すような体制へと変わり、面影は両手で彼の薄桃色の乳首をこすこすと擦り上げながら強請った。
「…三日月……私は、その、慣れていないから…上手く出来ないかもしれないが……」
「…………」
乳首を愛撫されながら、三日月は微かに息を荒くしつつも静かにその言葉を聞いている。
「…私も…三日月に触れたい……お前に、気持ち好くなってもらいたい……だめ、か?」
「…………ふ」
その懇願に三日月は薄く微笑み…返事の代わりに相手の右手を取ると、それをそのまま自らの股間へと導き、布越しに昂った分身に押し当てた。
「っ…!」
「面影…」
強請る様に、甘える様に、三日月が面影の耳元で囁いた。
『お前の手で……この浅ましいじじいを達かせてくれるか…?』
「っ!!」
それはまるで、堕落へと誘う悪魔の囁きにも似ていた。
しかし、そうと分かっていても果たして誰がそれに抗えただろうか……きっと全ての者が悦んで堕ちていっただろう…今の自分の様に……
こくこくと夢遊病者の様に何度も頷き、目の前で誘う様に色付いていた胸の蕾の双方に交互に吸い付きながら、三日月の昂りを布越しにゆっくり形を確かめてゆく。
(……凄く…固い……浴衣越しでも熱く脈打って……)
自身のですら興奮した状態の時のそれを触れる事は殆どなかったので、面影は今、初めて雄の昂りを手に実感していた。
直接触れていなくても分かる…かなり大きく長いそれは、太さも相応のものだ。
つい、愛撫よりも先に相手のものを感じたい欲が高まって、さわさわと軽く手を動かすのみの動作に留まっていた面影に、くく、と三日月が小さく笑って囁いた。
『その程度ではなかなか達けんなぁ………もっと強く…お前がやりたいようにしてくれて好いのだぞ?』
「!……わ、かった…」
相変わらず強気な態度を崩さない相手の煽りが悔しくて改めて愛撫に集中するものの、初めてである事には変わりないので、少しだけ逡巡する。
そして、先ずは三日月が自分にやっていたようにしてみようと、浴衣越しに握っていた手を動かし、相手を扱き始める。
「………ん…」
微かに漏れる声が異様に艶っぽくて、耳が犯されている様な錯覚に陥りながら、面影は少しずつ手を動かす速度を上げていく。
攻めているのは自分の方なのに、ほんの少しだけ聞こえてくる三日月の乱れた吐息と喘ぎ声だけでこちらまで追い詰められていく……
先端をぐい、と指先で布を擦り付ける様に弄ると、
「……は……っ」
切なげな三日月の声が漏れ、ぴくんと腰が揺れた。
「~~!」
我慢が出来ず荒々しく三日月の衽をはだけ、その全てを露わにすると面影が息を呑む。
(これが………三日月の……)
その器官の形や大きさは人それぞれだと言うが、三日月のそれは明らかに大きい方だと思った。
それは今も自己主張をするかの様に天を仰いで、面影の愛撫を待っている様に震えている。
「三日月…っ!」
「あ……っ」
夢中で直接相手の分身に触れ、その熱を皮膚に感じた瞬間、頭の中の何かが切れた気がした。
「三日月……三日月…っ」
「面影………ん……あぁ…っ」
どうしたら相手が好くなるのかちゃんと考えながらやろうと思っていたのに、最早それどころではなく、面影は熱い相手の雄を扱き上げる。
敏感な場所なのは分かっているので、力加減こそ入れ過ぎないようにと留意していたが、後はもうひたすらに手を動かすだけ……そこに技量など何もなかった。
その愛撫の最中、不意に三日月が動き、彼の右手が再び面影の分身を優しく捕らえると、相手はびく、と腰を揺らし、信じられないという表情を浮かべた。
彼への愛撫に夢中で気付かなかったが……また、自分のものも興奮して勃ち上がりつつあった。
「あ……」
握られ、じんわりと快感が中心から湧きだす中、三日月が相手の耳元に唇を寄せて囁く。
『俺のを触ってまたこんなになったのか……? 達ったばかりなのにいやらしい身体だ…』
「っ!?」
指摘され、何故かぞくんと身体が戦慄いた……嫌悪感はない、不思議な戦慄だった。
その次に襲ってきた羞恥に顔を伏せると、向こうはくすくすと笑いながら更に誘ってくる。
『……一緒に達くか?』
「!」
恥ずかしいのに、思わず頷いてしまった。
結局、主導権は相手の手に握られたまま、二人が互いに高め合い始める。
「ん…あ、ああっ…! み、かづき…っ」
「…っ…ん……面影……っ」
互いの股間から水音が響き、熱い吐息が交じり合う中、二人の唇が重なっては離れる。
舌を絡め合い、口吸いが激しくなっていくに従い、互いの手の動きも徐々に速まっていく。
「みかづき…っ……あっ…い、い……きもちい…っ」
「面影……もっと…強く……」
互いの荒い息が互いを更に高めていき、ぐちゅぐちゅと聞こえる愛撫の音が早く激しくなり、その時が近い事を知らせる。
既に理性は殆ど残っておらず、面影は激しく腰を振りながら三日月の掌に己の分身を押し付け快楽を貪っていた。
二度目だというのに、その勢いと熱は一度目から全く衰えず、ひたすらに相手が与えてくれる快感を悦んで受け入れ、爆ぜる時を待っている。
そして三日月もまた、腰を蠢かせながら相手の手を自らの好いところへ導いて、精を放つ瞬間を待ち侘びていた。
「あ、あああっ!! い…っ! 三日月! も…達く…っ!!」
「お、もかげ……俺も……っ」
二人は、ほぼ同時に相手が達する声を聞きながら、思い切りよく精を解放した。
びゅるっ びゅるるっと白濁した樹液が二人の雄から放たれ、ぱたた…っと互いの浴衣の布地へと落ち、染みを作っていく。
絶頂の快感を味わいながら面影は心地よい疲労感に包まれ、くたりと三日月の身体へ己のそれを重ねる。
二人の汗ばんだ皮膚が重なり熱を共有する心地よさに、彼らは暫く陶然としていたが、そこでひそ、と面影が呟いた。
「……結局……汚してしまった………」
どうやら、汗や体液で濡れてしまった浴衣の事を言っている様だ。
声色も後になる程に小さくなっていき、既に睡魔に捕らえられてしまったらしい。
また自分が相手の寝所に運ぶ事になりそうだな…と苦笑しながら、三日月は相手の髪にするりと己の指を差し入れながら答えた。
「……今度は俺が仕立ててやろう」
また『こういう事』があるかもしれないから、いっそ数枚ほど作らせておくか……と、密かに笑みを深めながら、男は相手の身体を優しく抱き締めていた………