合わせ鏡 後編






『ん…っ…あっあっあっ……これ、はずかしい…のに……きもち、い……っ』
『素晴らしい眺めだ……好いところに当たっているのだろう?』
「………ん」
 何だろう……誰かの声…話し声が…聞こえてくる………
 失われていた意識が徐々に戻ってきて、輝見はゆっくりと閉じていた瞳を開く。
「…?」
 数秒は己の置かれている状況が理解出来ない様子だったが、直ぐに瞳に理性の色が戻り、はっと顔を前へと上げる。
 その時に気付いたが、どうやら自分は前のめりに倒れ伏しており、顔を下に向けた状態で気を失っていたらしい。
 身体に然程負担を感じなかったのは、柔らかな布団の上だったからだろう。
「あ………」
 まだ意識にはうっすらと薄い膜が掛かっている様な若者だったが、視界が徐々に明瞭になり、そこで明らかになったのは………
「はぁ…ん…っ 三日月…もっと、もっとぉ…!」
「ああ、良いぞ、好きなだけ動け…」
 仰向けになった全裸の三日月の腰に面影が跨り、上体を反らしながら身体を上下に揺らしている光景だった。
 面影が身体を揺らす度にその腰付近からぐちゅぐちゅと濡れた音が聞こえてくるのは、二人がそこで繋がっている生々しい証。
 三日月に身体の奥を繰り返し深く抉られていたのだろう、それまでに蓄積した快感の証だと言う様に、面影の雄はしっかりと勃ち上がっており、持ち主が動く度にゆらゆらと別の生物の様に頭を揺らしていた。
「ん…っ、んっ……あっ、そこ…当たってる…いい…も…いく……いくぅ…っ!」
 面影が背中を反らしているのは、その姿勢を取ることで奥を抉っている三日月の肉棒が、雄の感じ易い箇所を圧し、擦ってくれるからだろう。
 より大胆に自らの恥部と接合部を三日月に晒す事になってしまうと分かってはいたが、それでも面影は敢えてその姿勢を止める事は無かった。
(ああ……三日月…見てる……三日月に犯されてる私を……見られて……っ)
 羞恥が新たな快感を齎すのを感じながら、三日月の視線に面影が限界が近くなっている身を晒していると………
「おや、目が覚めたか? 輝見よ」
「っ!?」
 不意に三日月が首を巡らせ、こちらを見ている輝見へと軽い口調で声を掛けた。
 そんな男の行為で、ようやく面影も輝見に自分達の媚態を見られているという事実に気が付いた様だった。
「あ……っ……あああっ!!」
 輝見の視線が、最後の一押しになったのか。
(やぁ…っ! 見られながら……いっちゃうっ…!)
 びくびくっと全身を限界まで反らしながら戦慄かせ、面影は一際大きな嬌声を上げながら自らの雄から白い淫液を放ち、反射的に肉襞で包み込んでいた三日月の楔をきつく締め付けた。
「んああぁぁっ!!」
「…っく…」
 その直後、息を詰めた声を漏らし、唇を歪めながら三日月がぐんっと腰を上へと突き上げ、体内に溜めていた白の溶岩を若い肉体の最奥へと叩きつける。
「あああっ!! すごいっ、すごいぃっ! いっぱい、みかづきのがくる…っ!!」
「…………っ!」
 激しく絶頂に至った面影の艶姿を見て、輝見の喉がこくんと鳴った。
 自分が三日月に初めて犯され、気を失って、どれだけの時間が経過していたのかは分からない。
 けれど、おそらく彼らはその間に再び身体を繋げ、快楽を貪っていたのだろう。
 その事実を認識した輝見は、気を失ってしまった事を酷く後悔していた。
 意識を保てていたら、今の二人の戯れにも参加出来ていたのかもしれない……
(そんな……私も、もっと………)
「足りないのだろう?」
「っ!」
 心中を見透かした様な一言。
 思わず声の主の方へと顔を向けると、自分が絶頂に導いたばかりの面影の身体を優しく布団の上へと横たえてやりながら、ゆっくりと上体を起こした三日月が微笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「望みを叶えたらその者は消える……しかし、お前は依然この現世に留まっている。まだ満足していないのだろう…?」
「…………」
 実に明瞭な三日月の説明に、何の反論も出来ずに輝見はこくんと頷いた。
 事実、気を失う直前にも自分の心中を満たしていたのは『満足』ではなく『渇望』だったのだから。
 しかしそれは確かなのだが、直前、面影を相手に精を放ったばかりの相手に直ぐに甘えるのも心苦しいと思ったらしく、輝見はその場で正座したまま、もじ…と身体を揺らした。
 それでも、三日月は構わずに相手に対して手を差し伸べる。
「おいで、輝見……次は俺のことを気持ちよくしてくれるか?」
「……」
 まるで催眠術に掛けられたように、ふらりと身体を揺らしながら輝見は立ち上がるとそのまま三日月に歩き出し、傍に着くと再びぺたんと座り込んだ。
「……み、かづき……?」
「うむ………神水を飲むだけでは味気ない…」
 こちらを覗き込んでくる若者に、三日月が優しく手を伸ばし、するんとその滑らかな頬を撫でながら一つの願いを申し出た。
「お前の愛らしい口で…頼めるか…?」
「…!」
 相手が望んでいる事を即座に理解した輝見が一瞬瞳を大きく見開き、男の方を凝視する。
 互いが見つめ合い数秒が経過し……先に目を逸らしたのは輝見だった。
「う………ん…」
 照れ臭かったのか三日月の雄に早く触れたかったのかは不明のままだが、彼の視線は下へと向けられ、その先では面影の体内から引き抜かれた雄の証が精に塗れていた。
 無論、先程面影の奥に精を放ったばかりなので今は萎えた状態だ。
 そんな肉の楔に、続けて三日月に何かを言われる前に若者は手を伸ばして触れ、ぬるり…と生々しい感触を掌に感じる。
 面影の雄を舐めた時には、こうして触れ、まじまじと見つめるゆとりは無かった。
(こんな……大きいのが……)
 自分の内に挿入っていたのか…と今更ながら驚愕すると同時に、手に伝わる相手の楔の感触が彼の本能を激しく揺さぶった。
 奇妙な感覚だった……『早く欲しい』と思う一方で、別の自分が脳内で『美味しそう』と囁いている。
「は、ぁ…」
 三日月の腰に真横から覆い被さる様に頭を下げながら、輝見は口をゆっくりと開き……… 
 くぷ………
 同じくゆっくりと、先端を上へと持ち上げた三日月の雄を上から咥え込んでいった。
(これが……三日月の………)
 面影のものも咥えたばかりの輝見だったが、口腔内でなぞる男根の形と、舌に付着する雄液の味と香りに二人の相違を感じて胸が高鳴るのを感じる。
 同じ男性なのに、こんなに違うのか…………
(ヘンな感じ……でも、どっちも……美味しい……)
 ぐちゅ……くちゅ…っ……ちゅくっ……
 ゆるゆると頭を上下させ、口腔内の粘膜で肉棒の表面を擦り上げながら舌で舐め回すだけで、こちらの身体までもが熱くなってくる。
 責めているのは自分の筈なのに、肉棒で口中を犯されている様な気分になってしまう…なのに、止める事が出来ない。
(あ……三日月の………大きく…っ)
 口の中で愛撫を始める前から相応の大きさを誇っていた三日月の肉楔だったが、輝見が口淫を始めると直ぐにより一層大きく成長を始め、ぐぐ…と口いっぱいに膨張していった。
 それに構わず輝見は幾度も頭を上下に動かし、相手の粘膜を優しく擦り上げた。
 じゅぷ……ぐちゅっ………ぐちゅん…っ……
「ん……くぅぅ…ん」
 限界まで口を開くとだらだらと止めどもなく唾液が溢れてきて、三日月の分身が浸されるだけに留まらず、口の端からも零れ落ちていく。
(ああ……大きすぎて…入りきれな……っ)
 顎が疲れてきてしまい、思わず若者はちゅぽ…と口中から相手の昂ぶりを抜き出すと、改めてその全容を間近で見つめた。
「すごい……さっき射精したばかりなのに………もうこんなに…」
 彼自身の精液はもう自分が舐め取ってしまっていたが、代わりに塗り付けた自らの唾液でぬらぬらと艶めかしく光る逞しい雄は、既に輝見の手の支えなどなくても立派に天を仰ぐほどになっていた。
 口腔に収められなくなった代わりに、輝見はちゅ、とその茎に唇を付け、舌先を微かに触れさせながらゆっくりと先端から根元へと移動させると、次は先端へと戻していき、切っ先まで至ったところで亀頭を大胆に舐め上げた。
(オ〇ン〇ンって、なんていやらしい形………見ているだけで…堪らなくなる…)
 ぼんやりとそんな事を考えながらも、舌は止まる事無く幾度も幾度も茎を往復し、その粘膜を味わっていたのだが、そこにいきなり闖入者が参戦してきた。
「あ……面影…?」
「…私にも……させて」
 輝見とは反対側から面影が手を伸ばし、彼の手が触れていない茎の部分に軽く触れ、続けて自らの唇を寄せてきた。
「おや……子猫がまた増えたな……」
 ふ…と微かな笑い声を漏らしてそう呟いた三日月は、それでも悠然と両脚を投げ出した姿勢を崩さないまま二人のやりたい様にとさせてやり、彼らの艶姿を上から眺めている。
 そんな泰然とした男の視線を感じながら、二人の若者は正に合わせ鏡の様な立ち位置で各々が求めるままに男の雄へと縋りついた。
「はぁ………あ……三日月……」
 面影も自らの分身の後を追う形で三日月の肉楔に唇を寄せ、ぴちゃ…と舌を押し付け、ゆっくりと上下に動かし刺激を与え始める。
 まだ先程達かされた身体の熱も冷めていないのか、その肌はうっすらと朱に染まり汗に濡れている。
 その均整が取れた身体が艶めかしく布団の上でくねり、美しい顔を肉楔に寄せて愛おし気に愛撫する姿は、生きた美術品の様にも見えて美しかった。
 そしてそれと等しい美しさを持つもう一体の生きた彫像も、まるで張り合う様に反対側から同じ様に手と舌を伸ばしてくる。
 その様は、男性にとっては正に至福と呼べる光景だろう。
「あ……やぁ…面影……私、も………」
 最初に手を出していたのは輝見だったのだが、後から参加してきた面影の積極性に圧されたのだろう。
 出遅れるのではないかと恐れが表れた言葉が口から漏れたが、面影はそんな相手に静かに宥める様に答えた。
「ああ………お前も一緒に……三日月を…好くしてやろう…」
「う……ん…」
 相手からの誘いに輝見は安堵した表情で頷き……改めて、彼と左右から三日月の楔を責め始めた。
「は……ふぅっん………」
「ん……あぁ……ん、ちゅ…っ…」
 二人が肉棒の茎の至る所に唇を這わせ、舌を絡ませ、時々交代する形を取って先端を口に含んで吸い上げてくる。
 その間、彼らの視線は艶っぽく、まるで誘う様に目の前の肉楔とその持ち主の男の顔を交互に捉えていた。
「…………っ…」
 声を出す事はないが、くっと顎を引いて息を詰める三日月の表情……
 唇を引き結び、眉を寄せ、何かを耐えるその表情すら美しく、二人の劣情を大いに煽ってきた。
 嗚呼、なんて美しい………あの愁眉すらこの目を惹きつけて離さない。
 いけない事だと分かっているのに、もっと困らせてしまいたくなる。
 困らせて、可愛がって……大きく、固く、育ててあげたくなる……!
 それからも二人がかりで手指や舌を使って、思い思いに三日月の肉刀を慰撫していきながら、彼ら自身もまたその行為によって自らの肉体を昂らせていった。
「あ…っ」
 輝見が舌で三日月の昂ぶりの先端を少し強めの力で舐め上げ、その零口をぐりっと舌先で穿った時、その刺激に応じる様にとぷりとその零口から透明の雫が溢れて輝見の舌を濡らした。
 その特徴的な味が若者の味蕾を刺激した時、ずぐっと彼の下半身に疼きが走る。
 雄の味を自覚した事で彼の本能が再び覚醒してしまったらしく、輝見は握っていた三日月の雄に縋る様に頬を摺り寄せて願った。
「三日月……っ…私も…さっきの、面影みたいに…して……っ」
 彼の脳裏に浮かんだ、目が覚めた時に視界に飛び込んできた二人のまぐわいの姿。
 面影が三日月の上に跨り、腰を揺らして喘いでいた様を思い出し、殆ど勢いのままに言い出した言葉だった。
 酷く淫らで不埒な光景…その筈なのに、一切、そんな負の感情は沸いてこなかった。
 それどころか、純粋に知りたいと、経験したいと考えてしまったのだ。
 あの姿で犯されるのはどんな感覚なのだろうと………
 一度そう思ってしまったら、もう、それを打ち消す事は不可能だった。
「お願い……三日月…っ」
「うむ……十分良くしてもらったな。さぁ、おいで」
「ん……うん…っ」
 差し出された手に誘われるまま、輝見はそこからゆっくりと伸び上がると相手の胴の位置まで身体を移動させ、同じ様にゆっくりと跨る様に彼の上に座り込む。
 三日月の肉棒よりぎりぎり前の場所に腰を落ち着けたところで、相手の熱棒が輝見の臀部の狭間をぬるんと擦り、そのまま隙間に埋もれる形になった。
「あ、ん……」
「挿れて良いぞ……もう我慢が効かぬのだろう?」
 最早取り繕うまでもなく肉体の渇望を見透かされていた輝見は三日月に促され、そのまま背後に手を伸ばして相手の勃ち上がっている楔を後ろ手に軽く握った。
 先程まで散々触れて握るなどしていたのに、こういう状態で触れると改めてその大きさと熱さに気圧されてしまう。
(だ、いじょうぶ……さっきまで…挿入って、いたんだし…)
 どきどきと高鳴る胸の鼓動を聞きながら、輝見は膝立ちになった己の臀部の奥…秘奥の孔まで相手の楔を導いていき、ひた、と先端を押し付ける。
 熱い……
 しかしここで止まってしまったら、余計に躊躇ってしまうかもしれない、と、思い切る様に息を止め、輝見は相手の楔を固定させながらゆっくりと己の腰を落としていった。
 ずぷ……
「ん……ん…」
 内側の敏感な粘膜を、熱された塊が力強く押し広げ、奥へと侵入していく感覚………
 初めて受け入れた時と似ている感覚なのは当然だったが、ゆっくりと腰を落としていく間に輝見は少しだけ挿入が滑らかになっている事実に気が付いた。
(あ……これって…三日月ので…濡れて…?)
 たっぷりと注がれた精の残渣が粘膜同士の間で潤滑油の役目を果たしているのだろう。
 少しずつ勢いをつけながら腰を下へと沈めていく度に、ぐちゅ、ずちゅ、と大きな水音が接合部から響いてくるのも、その証左だった。
「あ、あ……っ、奥……奥、に…あんっ、あっ、ちがうとこ…当たって…」
 体位の相違によって、肉楔が強く刺激している場所が変わったのだろう。
 そんな言葉を呟きながらも腰を揺らす輝見に、三日月が優しく声を掛ける。
「ほら、好きな様に動いて、好いところに当ててみるがいい…」
「ん……うん……あう…っ」
 ず……ぐちっ…じゅぷ……
 輝見の動きを誘う為なのか、言葉と同時に小さく腰を動かし下から相手の秘穴を抉ってやると、びくっと身体を小さく痙攣させた後大きく身体が揺らいだ。
「あ? ん、はぁ…っ!」
 揺れる身体を立て直そうとしているのだろうが、快感が腰を砕いてしまっているのかゆらゆらとどうにも危なっかしい。
 そんなやじろべえの様に揺れる若者の身体を支えたのは、背後から身体を寄せてきた面影だった。
「はぁ……おも、かげ…?」
「…私が支えておくから………遠慮するな」
 その言葉の通り、それからも面影は輝見の身体を支える様に自らのそれを密着させ、その安心感からか輝見も再び身体を動かし、自分の体内の『ツボ』を探る様に腰を回す様に蠢かせた。
「ん…っ……んあ……あああ…っ」
 やがて輝見はこれまで与えられていた愛撫の感覚から、下腹部側のとある場所に三日月の先端を擦り付けると一際強い快感が得られると学んだらしい。
「あ、ん……あっ…ここ……好い、きもちいい……っ」
 とろんと蕩けた目で虚空を眺めながら誰にともなく呟き、夢中で腰を振っていると、自分を支えていた面影がするんと両手を彼の脇の下から滑り込ませてきた。
「え……? あ、だめっ、そんな、ぁ……」
「ほう…」
 三日月が見つめる中、面影が回した手が片方は輝見の胸へ、もう片方の手は相手の楔へと伸ばされていた。
「ふぁあんっ! あああ、そんな一気に、責められたら…あぁっ…!」
 三日月の肉楔により幾度も敏感な部分を擦られ、奥を突かれ、その傍らで面影に左右の胸の蕾を交互に弄られ、加えてもう片方の手で肉楔の茎を上下に優しく扱き上げられる。
 その三重の快楽に翻弄されるがまま輝見は面影に身を委ねながら喘いだが、それでも身体は嘘をつけないのか、変わらず腰は激しく上下し、その都度、ぐちゅぐちゅと淫らな音が接合部から響いた。
「ん………かがみ……っ」
 喘ぐ輝見の耳に熱い吐息と艶っぽい囁きが掛けられる。
 その声の持ち主である面影は、輝見を一方的に責めている立場でありながらその瞳は潤み、まるで身体に籠った熱を持て余している様な雰囲気を漂わせていた。
「あ…? やあっ……おもか、げ……そんなに強く…押し付けないで…っ」
 徐に輝見が後ろを振り返る。
 その彼の腰から臀部への移行部に、いつの間にかこちらも立派に勃ち上がっていた面影の熱棒が強く押し付けられており、上下に動く形で擦り付けられていた。
 相手の劣情が擦れる度に、その先端から滲む液体が接している面に溢れて更に滑りを良くしていく。
 それだけではなく、面影は楔に加えて両の胸の突起も同様に輝見の背中へと押し付け、こりこりと擦り転がされる快感を貪っていた
「あ……あ……きもちい……とまらな……っ」
「あっあっ…あんっ! やだ……ふたりとも…あつい……」
 二本の男根から身体の内外をそれぞれ擦られ刺激され、輝見の声が徐々に大きくなり、それに伴い身体の動きも大きく激しくなっていく。
「嫌だと言われてもな…」                 
 くっと三日月がくぐもった笑みを零しながら、淫らな踊りに耽る若者を下から悠然と見つめた。
「悦んで腰を振っているのはお前ではないか? そら、今も…」
 は…と一瞬瞳を大きく見開いた輝見だが、三日月の言う事を自覚する前に、彼の言う通りに腰が無意識に下に沈んで内を擦られて声を上げる。
「あっああぁ〜っ! や、ぁ…やぁ…っ!」
「ふふ……まだ嫌なのか? それなら抜くか?」
 三日月が意地悪な提案をすると、輝見は理性で思考する前に激しく頭を振って、逃がさないとばかりに腰をより深く落として三日月の楔を呑み込む。
「や、いや…っ、抜かないで…やめないで……! オ○ン○ン、もっと、欲しい…!」
「そうだな……素直が一番だ」
 それから、変わらず輝見は甘い声を上げ、二人の男に翻弄されながらも自らも激しく雄を求めて淫らに踊った。
 その動きが激しくなればなる程に、面影の雄へ与えられる刺激も比例して大きくなり、合わせ鏡に映り合う姿の若者達もまた互いに互いを高め合っていく。
「はぁ…はぁ…ん…おも、かげのも…ぬるぬる…!」
「ああ……かがみ…どっちも、大きく、固くなってる…! 三日月の…美味しいんだろう…?」
「ん…っ…おいし、ぃ…こし、とまらな…っ、あああっ…!」
「すごい……先っぽからいやらしい涎が溢れて…ああ、オ○ン○ンもびくびくして、達きたがってる」
「ああん、だめ…一人じゃいや…! 三人でっ……みんなでぇ…っ!!」
 出現した直後の冷静且つ論理的な態度は既に消え失せ、今の輝見は三日月と面影に甘え、只管に快楽を追い掛けていた。
「そうかそうか…では、そうしようか?」
「思い切り、達こう……輝見…」
 それまでは、輝見の自主性に殆どを任せる形であまり大きな動きを見せていなかった三日月が、面影と示し合わせる様に頷くと同時に、勢い良く下から輝見の淫肉を突き上げ始めた。
 そして面影もより速さを増して自らの楔を輝見に擦り付けながら、相手の乳首と肉棒に加える力を強めていった。
 それまでは微妙な力加減で今ひとつ物足りなさを感じるか否かというところに収まりながら、各々の箇所の快感はまだ若者の限界近くで均衡が取れていた。
 それが、複数箇所の愛撫が一気に最強強度に至ってしまった様なもの。
 その日、ほんの少し前に初めてを経験したばかりの輝見にとっては、それは破格の快感だった。
「あっ…? ひゃうううぅっ!! こ、れっ! すごっ、すごいぃっ! や、いやあぁっ!!」
「はは、また『嫌』か? 輝見は我儘だな?」
 言いながらも腰を止める様子もなく、三日月は相手の感じる部分を的確に擦って抉り、追い詰めていく。
「ん……ん……っ」
 一方、面影は輝見の言葉に返事を返す事はなかったが、三日月と同様にその愛撫の手を止める事はなく、腰もまた蠢かし続けていた。
 止めなかったのは、三日月もそうだったが、輝見の言葉の真意が分かっていたからだ。
 彼は、本当に『嫌』なのではない……『好い』のだ。
 好いのだが、それがあまりに過ぎるからこそ『壊れそう』になる。
 口では『いや』と言いながら身体は無意識の内に求めてしまうのが、逃げ道を塞ぎ、塞がれる事になるのがまた厄介なのだ。
 だから……せめて口で、求めている筈の快楽を遠ざける言葉を紡ぐしかない……
(私も……そうだった、から……)
 自らの楔を押し付け快楽を貪りながら、面影は自らの両手にもより力を込める。
「素直に……そのまま……」
 痛みを感じるか否かギリギリのところまで赤く熟れた蕾を捻り上げて捏ね回し、自らの涎でぐっしょりと濡れてしまった相手の熱楔をきつく掴んで激しく上下へ扱き上げる。
 快感に朦朧となってしまった面影の意識の中では、今目の前で喘いでいる輝見という別人というよりは、過去の自分が映っていた。
 自らと髪型を除いては寸分違わぬ姿を持つ相手だけに、面影の錯覚を助長させるには十分だった。
「ああ、面影……あっ…そこ……」
「我慢するな……ほら、此処も、もう……」
 此処、というのがどちらを指しているのかも分からない、面影本人も分かっていなかったかもしれない。
 そんな彼にも翻弄されつつ、淫らに揺れながら三日月を深く咥え込みながら内側できつく締め上げてくる輝見に、締め上げられている美しい男はうっすらと肌に玉の汗を滲ませながら笑っていた。
(何と素晴らしい眺めだ……これぞ眼福というやつだな)
 過去、己の腕の中で悶え狂う面影を見つめながら、ふと考える事があった。
 この美しい恋人は、自分以外の誰かに責められたらどんな表情で応えるのだろうか、と。
 しかし独占欲が強い三日月が、それを現実に許す筈がない。
 彼に触れて愛する存在は彼岸此岸、どちらであっても自分以外は考えられない。
 だが、相手が面影から分かたれた分身とも言える輝見という事であれば話は変わってくる。
 言うなれば面影と『面影』が戯れる様なものだ、三日月から見てもそれは浮気というものでもない。
 寧ろ、二人の『面影』が目の前で互いに高め合っている様を見る事が出来るのだ、三日月の願望を叶える形で。
 三日月がそれを拒む理由などある筈もなかった。
「……ああ、堪らぬな」
 視覚的にも刺激的な光景を大いに愉しみ、三日月の唇がより大きく弧を描くと、一際強く下から相手を突き上げた。
「〜〜〜〜っ!!」
 その一撃が輝見にとっての止めになった。
(いっ…達くっ! あっ、なか、勝手に締まって…!!)
 最奥に侵入してきた三日月の昂りを、飢えていた肉体が逃がすまいときつく締め付け、その奥に滾っている劣情の放出を誘った。
 それに抗わず、三日月は瞳を閉じてぐ…っと息を止め、自らの獣を解放した。
 びゅるるるっ!! 
 肉洞の奥に達していた肉楔の先端から勢い良く白濁が迸り、肉洞の内側を熱く浸していくのを感じながら、輝見もまた体内の奔流に誘われるように絶頂に達した。
「は、ああぁぁっ! い、くぅ…っ!!」
 背中を限界まで反らし一瞬身体を戦慄かせた輝見が、悲鳴を上げながら限界を迎えるのとほぼ同時に、面影もまた自らの欲望を解放していた。
 三日月と輝見の様子と、握り込んでいた輝見の雄の震えを感じ取り、高ぶりが限界に至ってしまったのも一因だろうが、何よりも、二人と共に達したいという欲望が根底にあったのかもしれない。
「あっ、わ、たしも…いっしょに……っ!!」
 ぐりりっと裏筋を相手の腰に強く押し付け、面影はそのままその白い肌に向けて熱い精を叩きつける。
 濡れた熱が背中に打ち付けられた感覚に、輝見が何が起こったのかを瞬時に悟った。
(あああ…っ…内も、外も……二人ので熱い…っ)
 そうしている間にも輝見の深奥には三日月の情欲が幾度も注ぎ込まれ、面影のそれもまた背中に放たれ、とろりと肌を伝い下りていく……
(……まだ)
 まだ、満足できない…と心の声が聞こえる中、三日月の楔が体内から引き抜かれていく感覚が生じた。
 思わず圧をかけて引き留めようとするも、一足遅れる形で逃してしまい、それを体感した輝見は明らかに楽団した様な表情を浮かべた。
「はは……何を考えているのか丸分かりだな…」
 手で支えて上体をしっかりと起こした三日月に、面影がゆらりと身体をふらつかせながらも抱きついてくる。
「三日月……あの……」
「うん? 次はお前か……これは身一つでは足りぬな…」
 相手の言いたい事を当然察した男は、顎に手を遣りほんの少しの間思案する姿を見せると小さく頷き、すぅ…と瞳を静かに閉じた。
「では……期待に応えるとしようか」
 そして、彼らの秘められた宴はまた別の形で続くことになるのである………




 外はまるでその世界の全ての存在が消えてしまった様な静寂に包まれていたが、部屋の中では薄闇の中で荒い息遣いと衣擦れの音が響いていた。
 しかし、その音の出処は、部屋の中に二箇所あった。
「んん……あっ、また、いく、いく…ぅ」
「はぁ…はぁ…ん、くっ」
 彼らの声は全く同じ……当然、面影と彼と同一の身を持つ輝見だ。
 しかし…
「ああ、いくらでも達け…そら…」
「ふふ…本当に面影と変わらぬ身体なのだな…愛らしい」
 彼らの側に寄り添うように時折漏れ出る声もまた、完全に同一の人物のものだった。
 若者達に身を重ねる事が出来るのは、無論三日月宗近しかいない。
 しかし今、面影と輝見の側には三日月と全く同じ容姿の男が二人、存在していた。
 面影は両手両膝を布団の上に付いており、その背後から三日月から覆い被さられている。
 そして後ろから淫穴に楔を突き立てられ、淫らな水音と共に激しく内側を擦り責められていた。
 更に、その三日月の片手は相手の下腹部へと回され茎を扱かれながら、時折、先端を指で穿られていた。
 一方、輝見もまたもう一人の三日月に向かい合わせで相手の組んだ足の上に座し、下から肉刀に貫かれながら、自らの裏筋を相手の鍛え上げられた腹筋で刺激されていた。
「面影をより愉しませる為の術だったが、まさか『二人』を抱く事になるとは…」
「うむ…しかし、この様な趣向も悪くない………」
 同じ顔をしている彼らは何でもないという態でそんな会話を交わしており、そんな彼らの腕の中では面影と輝見が悩ましい喘ぎ声を上げている。
「あ、あ…若月ぃ…またっ…あ、あ〜っ!」
「おや…また潮を吹いたのか? これで何度目かな?」
 幾度目の絶頂なのか……激しく悶えながら叫ぶ面影に応える様に、繋がっていた男が相手の状況を察して笑った。
 若月の方はまだ達してはいないらしく、向こうが身体を戦慄かせている間にも変わらず腰を揺らしている。
「や…っ…まだ、いって…るからぁ…っ! あっ、そんな、突いちゃ…っ! あ~~~っ!!」
 面影の嬌声が引き金になったのか、それから程なくして輝見も腕に込めていた力をより強めて目の前の三日月にしがみついた。
「っくあ、あぁ…っ! んっ、射精して…眉月…っ!」
「ああ、いいぞ…っ」
「っ~~~っ!!」
 びくっびくっと震えながら輝見が絶頂を享受している中、二人の接合部から白濁液が溢れ出てきて布団の上に零れ落ちる。
 若者達が快楽の余韻を噛み締めてからも、暫くは疲労もあってか動くことは出来なかったが、若月と眉月がゆっくりと労わる様に彼らの身を布団の上に横たえてやる。
 二人は三日月宗近が神気を使って分たれた分身。
 この術を展開するには、三日月の神域を展開し、相応の神気を費やす必要があるのだが、幸いと言うべきか此処は付喪神達の英気を養う療養所。
 気を満たす神水を含め、彼らの神力を高めるには絶好の場所。
 三日月宗近の身一つのままでは、面影と輝見の望みを叶えるには少々難がある為、久しぶりにこの二人に身を分けて各々で相手をする事にしたのだった。
 そうして若月と眉月に分かれてからどれだけの時間が経過しただろうか……
 時折、相手を変えながら彼らを可愛がった所為もあるのだが、面影と輝見が絶頂に達した回数も最早覚えていない。
 そんな二人が久方振りに解放された今、双方が頭側と足側を逆にした体勢となり、互いに向き合う形になる位置になったのは完全に偶然だった。
 そこで二人ともが少しなりとも疲弊した肉体を休ませると思いきや、彼らはほぼ同時に動き出し、身を寄せ合い始めた。
「あ……面影…」
「輝見…………」
 そして、位置的に互いの眼前に曝け出された相手の楔を、ほぼ同時に口に含んで嬲り始めたのだ。
 ぐちゅっ ちゅっ ちゅくっ じゅぽっ じゅくっ……
「ん…っ、んっ…!」
「ふぅぅ…っ……くふ…っ」
 濡れた音と小さく艶やかな呻き声が響き、それに合わせる様に彼らの頭が蠢くのを、若月と眉月が傍で見つめながら唇を歪める。
「すっかり仲良くなったな…あんなにじゃれあって…」
「うむ…ここだけで終わらせるには惜しい程だ」
 そんな事を語り合う二人の三日月の目の前で、依然、二人の面影は互いの肉棒を夢中で貪っていた。
「んく……っ…あ、もっと、吸って……輝見」
「はあぁう……面影……先っぽ…舌…ぁ…」
 強請り強請られを繰り返す内に徐々に興が乗って来たのか、初めは二人ともが布団に横たわっていたのが、やがて面影が下に組み敷かれ、輝見が上に乗り上がる形になってきた。
 それに加えて、口内の粘膜で楔を擦り上げる淫らな音がより大きく、激しくなっていく。
「……これは、見ているだけでは…」
「ああ、勿体ない」
 二匹の獣のじゃれ合いを見ている内に若月と眉月も再び猛りを取り戻したらしく、肉の宴に参加するべく動き出す。
「面影……今度は俺がいくぞ…」
「ああ…っ…眉月……」
 互いの分身をしゃぶり合わせたまま、眉月は面影の下肢を抱えて折り曲げさせつつ下半身を浮かせると、自らの昂りを秘孔に埋めていった。
 幾度も雄を受け入れていたそこは、殆ど抵抗もなく素直に熱棒を呑み込んでいく。
「ああぁ~~~っ…!」
 面影が悦びの声を上げている一方で、輝見もまた若月から迫られていた。
「では、次のお前の相手は俺だ……輝見」
「若月……っ……んんっ」
 高さを合わせる為、若月が膝立ちの体勢になり、眉月同様に固く大きく育った楔を輝見の淫孔に一気に突き立てると、こちらもあっさりとその先端が呑み込まれていく。
「はあぁぁ…っ! あつ、い…っ」
 幾度も幾度も内側の淫肉を擦られているのに、そこに『慣れ』というのは存在せず、現れる気配もない。
 寧ろ、犯される度により敏感になり、ほんの少しの刺激にも容易に快感を覚える様になっていってしまっている。
 愛しい相手に犯される、侵略される、開発される、それらの悦びが、この身の細胞一つ一つに刻まれ、浸み込み、忘れられなくなっていく……!
(気持ち好い……喉もお尻も奥の奥まで突かれて、オ〇ン〇ンも舐められて…身体中が痺れて達きそうっ…! 雄なのに、雌みたいに欲しがって……あああ、蕩けちゃう…っ)
 ぬちゅりと口内の肉棒に舌を這わせる一方で、同じく面影から己の肉棒を嬲られ、若月に淫洞を激しく貫かれ、輝見の脳髄が灼かれそうな程に熱くなる。
 それは面影も同様で、輝見の楔を舌で愛撫しながら眉月に激しく犯され、喘ぎながらも恍惚とした表情を浮かべていた。
(ああ、満たされていく………私の内が…若月……三日月に……!)
(こんなに何度も犯されてるのに、身体が悦んで……まだ、欲しがってる…)
 各々の耳に、自身の分身が犯され貫かれている音が飛び込んでくる。
 その音ですら面影と輝見にとっては肉欲を煽る媚薬の役目を果たし、二人は煽られるままに身体を揺らした。
 此処に至るまでも二人は若月達に繰り返し相手が変わる形で犯されており、身体の特徴も一致している事もあってもう今の相手が何度目になるのかすら覚えていない。
「凄いな……こんなに受け入れているのにまだきつく締め付けて…」
と、若月が腰を打ち付けながら笑うと、眉月も同じ笑顔を浮かべ、面影の最奥を手加減なしに抉る。
 薄暗がりの中、彼らの姿はまるで絡み合いながら吠える四匹の獣の様だった。
 汗と体液が飛び散り、それらに混ざり合った甘い声が冷えた空気を彩る。
 男達の身体からは孕む熱から生まれた湯気が立ち昇り、彼らの艶やかな肌を滑りながら消えて行く。
 ばちゅっ…ばちゅんっ…! ぐちゅっ、ずちゅっ…!
 肌と肌がぶつかり合う音と共に、接合部からは溢れる精の潤滑剤を助けに、粘膜同士が擦れる粘った水音が響き、獣達をより高みへと押し上げて行く。
「く…ふぅぅんっ…! あっあっあっ……いいぃ…くっ、くる……! すごい、の…きそうっ! ああああっ…」
 押し寄せてくる波に圧され、思わず口から面影の分身を離して輝見が声を上げる。
 一方、面影の目の前では若月の肉棒が幾度も輝見の淫孔を圧し拡げ、内側を擦りながら奥をごつごつと突いている光景が広がっていた。
 その淫ら過ぎる光景と、見えない処で己が犯されている実態が脳内で重なり、面影も輝見と同じく絶頂へと追い立てられていく。
「う、ふぅ、ん…っ! あ、あぁ、ふっ…!」
 面影は尚も口の中に雄を含んだままに呻いていたが、その激しい舌使いと吐息で刺激された輝見の悩ましい声が聞こえてきて、更に面影の口の中に熱が籠った気がした。
(あっ……輝見のオ〇ン〇ン、もっと大きく…っ……ん、これ、もうすぐ、もう、すぐ……っ)
 楔の太さがまた一回り大きくなった事と、先端から独特な味の果汁が溢れてきた事で、面影は輝見の果実が弾ける前触れを感じ、反射的に舌先で先端の窪みを甘える様に穿った。
「ひ、あぁぁ~~っ!! いく、いくぅぅっ!!」
 輝見が悲鳴に似た嬌声を上げ、面影の口の中へと樹液を放つと同時に、淫洞の奥で包み込んでいた若月の肉楔をぎゅうぅっときつく締め付ける。
「ん…く…っ!!」
 甘やかな責苦を受けた若月の声が小さく聞こえた直後に、彼の雄がどくん…!と激しく爆ぜ、面影の口中に白い溶岩を溢れさせた。
「んん……っ!」
 三日月のそれを飲んだ事はあるが、自分のそれを口にする機会はこれまで殆ど無かった面影にとって、その現実も味も刺激が強かったのだろう。
 ぞくぞくっと身を激しく震わせながら、面影の肉洞もまたきつく窄まり、眉月の射精を強く促した。
「ふ……っ」
 追い詰められた呻きなのか、相手の身体の反応を笑ってのものなのか……
 それは本人以外は分からないまま、彼も自らの限界を突破すべく一際強く面影の最奥を肉刀の先端で抉った。
「かは……っ!」
 突き上げられた衝撃と走り抜けた快楽の波に襲われ、面影の口がより一層大きく開かれ、そこから飲み下せなかった白の樹液が溢れ出てくる。
 喉の奥から詰まった声を漏らしながら、面影もまた体内に注がれる熱液と貫いてくる肉棒により、雄の快感の極みへと追い上げられていった。
「ああぁ〜っ!! いくっ! 射精るぅっ!!」
 どくっどくんっ! びゅるるるっ!!
(んくぅ…! こんなっ、大量に面影の精液が…っ!!)
 幾度も口の奥を白い弾で打たれながら、輝見の喉が上下に動いて音が鳴った。
 四つ巴の状態で交わっていた雄達が、各人が責められ、各々の欲情をほぼ同時に解き放つ。
 特に、面影と輝見は口で己の精を受け止めながら、最奥に愛しい男達の楔を突き込まれ、樹液を注がれるという鮮烈な刺激を刻まれたのだ。
 二人の肉体は悦びと興奮で小刻みに震え、二本の肉棒を上下の口から離そうとしなかった……




 それからも、四人は様々な形で交じり合い、繋がり合った。
 日常であれば陽光が時間の経過を教えてくれるのだが、此処は陽光と月光が常に差し込む不可思議な空間。
 一体どれだけの時間が過ぎているのかは、少なくとも面影と輝見は分からなかっただろう。
 繰り返し犯される快感の渦に巻き込まれて、彼らはその感覚を受け入れるので精一杯の様子だった。
 そして今も………
「二人に責められるのも悪くなかったが、やはり二人で一人を責めるのも好いものだな……」
「うむ……この恍惚とした顔……愛らしくて堪らぬ」
 ばちゅっばちゅっばちゅっ…!!
 ぐぷっ…じゅぷっ、じゅぷっ…!
「ん、ふぅ…っ……」
 若月と眉月の言葉の通り、二人は今、輝見一人を挟む形で可愛がっている。
 立姿の輝見は上体を前に倒し、若月に両手首を後ろ手に掴まれ、背後から獣の様に幾度も貫かれている。
 貫かれながら臀部を突き出す形になっている輝見は、目の前の眉月の肉棒を喉奥まで咥えて「食事」に夢中。
 全身から体中の水分が流れ出る勢いで汗が滴り、肉孔からは楔が出し入れされる度に、精液が泡立ちながらとろとろと太腿を伝って流れ落ちていく。
「ふふふ、此処が好いんだろう? 突く度に締め付けてきて…」
 ぺろ…と舌を小さく覗かせて、若月が上気した顔で微笑みながら呼び掛けても、口を塞がれている若者は言葉で返す事が出来ず、こくこくと首を激しく縦に振った。
 その目は背後の相手を切なげに見つめ、双眸には涙も滲んでいたが、苦痛故ではなく快感に依るものだろう。
「ふぅっ……! あ、む……」
 時折、貫いてくる若月に腕を掴まれ、後ろへと身を引かれる度に、輝見の口から濡れた音と共に楔が抜き出された。
 しかし直ぐに輝見自身が急いて口を寄せながら舌を伸ばし、喘ぎながらも再び口に含もうとしていた。
「んく……はむっ……は、うん…っ」
「はは、完全に性欲だけに支配されている様だな…」
「先刻までは面影を愛でていたからな……お預けを食らっていたのが余程辛かったと見える」
 理性を完全に手放し、本能に従うままに二人に犯されている若者の一方で、もう一人…彼の本体でもある面影は、気を失っているのか近くで身体を横たえ瞳を閉じていた。
「さて……面影が休んでいる間に、そろそろお前の欲を満たしてやるか」
 眉月がそう言うと、若月に掴まれていた若者の右腕を取るとそのまま自分の方へと引いた。
 そんな相手の動きに合わせ、若月が自らの熱楔を輝見の肉洞から引き抜き、同じく彼の左腕を取ると、眉月と動きを合わせて、軽々と上へと持ち上げた。
「あ、あ…っ!?」
 続けて、若者の腕を掴んでいるのとは別の側の手を使い、彼の太腿を後方から支えて神輿の様に抱え上げた。
 直線状に三人が並んでいる状態なので、輝見の太腿は左右に大きく開かれ、中央に彼の昂った雄がそそり勃っている。
 左右から挟まれる形で抱え上げられた輝見は流石にその状況に当惑した様子で下へと視線を動かしたが、当の仕掛け人である二人の美神は、これから自分達が行う事について認識を同じくしているのだろう、迷いなど微塵もなく愉しそうに微笑んでいる。
「そろそろ、お前を満足させてやらねばな……」
「面影も気に入っていたのだ……お前もきっと悦んでくれるだろう」
 そんな二人の言葉が終わると同時に、輝見の身体の位置が徐々に下へと下ろされていく。
「え……っ…あっ! そ、んな…っ!」
 そうしている内に、二人が画策している事を悟った輝見が慌てだす。
 太腿を支えられ、下ろされていく身の中心…その直下には彼ら二人の肉楔が並んで天を仰いでいた。
 凶悪な形状を誇るその二つの先端は、獲物を待ち構える様に先端から涎を垂れ流し、小さく痙攣を繰り返している。
「だめ、だめぇっ…! そんな、二本なんて……! むりぃ…っ」
 動揺のままに身体を揺らして逃れようとするも、只でさえ数で負けており、四肢を抑えられている状態なのでどうにも出来ない。
 そうしている間にも、ゆっくりとゆっくりと、自らの身体が下へと下ろされていく。
 それはまるで断頭台の刃が逆向きに迫っていく様に………
「あ、あ……」
 どくんどくんと胸の高鳴りが煩い程に聞こえて来る。
 そこには「壊されるかもしれない」という恐怖の二文字があった……が、それだけではない。
 共有している面影の記憶の中にある、自分が未だ知らない肉の凶器達がもたらしてくれる極上の愉悦に対する期待と欲望も確かに潜んでいた。
「ほら…力を抜いて…」
「急く事はしない……ゆっくりとな…」
 若月と眉月の言葉が耳を掠めたが、同時に切っ先が肉孔の入り口に触れた事で殆ど意識には入って来ない。
 ずくり…………
(あ……先っぽ……あつい……)
 二つの熱い肉の先端が触れ、孔の内側へと侵入してくる。
 通常であれば狭い肉洞をこじ開けるのは相応に辛かっただろうが、これまで幾度となく三日月、眉月、若月によって貫かれ、解され、白濁液を注ぎ込まれていたその入り口は、十分に油を差された扉の様に難なく開かれた。
 ずぷぷ……ぐちゅ……っ……
「んん…っ!!」
 二本の剛直が、熱く爛れた淫肉を擦り上げながら同時に侵入してくる。
 先端が埋まり、雁が圧し拡げてくるのがはっきりと分かり、その圧迫感に声が漏れてしまう。
 幸いにも、痛みはなかった。
 精液で十分に滑りが保たれていた事と、繰り返し雄を受け入れていた事で痛覚そのものが麻痺していたのかもしれない。
 何れにしろ、輝見が慄く程の苦痛が生じる事もなく、彼の肉体の奥へと若月と眉月の肉棒は徐々に呑み込まれていった。
 雁が奥へと埋もれ見えなくなると、最初より滑らかな動きで雄達の茎がそれに続く。
(ん、あ……きつ………おっき……ぃ)
 一本の時ですらその圧迫感はかなりのものだったのに、それがほぼ倍になって襲ってくるのだ。
 臓腑が全て荒々しい肉棒に取って代わられるようなあり得ない感覚に、輝見の口が大きく開かれ鯉の様に開閉を繰り返すが、言葉として出て来る声は何もなく、獣の様な吐息が漏れ出るのみ。
 熱が籠り始めているのは輝見だけではないらしく、三日月の分身達のどちらもが、美しく煌めく汗を全身に滲ませながら、男根から受け取る甘い刺激を愉しんでいる。
 犯している若者に予め無理はさせないという約定を交わしたので、彼らはその言葉を守り、まだ完全に挿入しきっていない分身達をゆるゆると慎重に進めていた。
 しかし彼らのどちらの瞳にも普段見る余裕の色は無く、代わりに肉食獣の様な獰猛な野生の色が爛々と輝いている。
 きっと、叶うのならば我武者羅に輝見のしなやかな身体を思うままに望むままに貪りたいのだろう。
 それでもその欲望を必死に抑え込んで相手を気遣う様子は、これまでの面影を思い遣る姿と全く同じだった。
「ん…っ……」
「全て……挿入ったな…」
 眉月の言葉の通り、ようやく二人ともが分身を根元まで肉壺に埋めると、彼らの口からはぁ…と溜息が漏れる。
「おお………素晴らしい…」
「やはり、極上の味わいだな…」
 分身同士、固い茎を互いに密着させながらみちみちと周囲をきつい肉洞に締め付けられ、二人の口元が微かに歪む。
「ほら……輝見」
「お前が満足するまで、幾らでも擦ってやろう」
 ぐちゅ…っ、ぐちゅっ、ずちゅっ、ずくっ……!!
「あ、ああぁぁっ…!!」
 二本の楔が各々で蠢き出し、各々が肉襞を擦り、最奥を代わる代わる突き始めると、顎を仰け反らせた輝見の身体が激しく動き始めた。
 太腿の支えも三人の動きによってゆらゆらと揺れ、その度に重力に従う様に二本の楔が限界まで挿入される。
「は、く…っ……」
 二本同時に奥を叩いたかと思えば、交互にピストン運動で肉襞を苛め、時には互いの肉茎を押し付け合いながら若月達は肉の悦びを刻んでいった。
「んっんっ! あぁあっ…もっと…ぉ……」
 最初は息も絶え絶えの様子の輝見だったが、全てを受け入れ挿送も始まった事が余計な緊張を解いたのだろうか、端的だが言葉を紡げるようになってきた。
 声も、少しずつ少しずつ大きくなってくる。
 そんな中、突然、より一層大きな輝見の声が響いた。
「ひゃううぅっ!!」
 見れば、大きく開かれた彼の両下肢の間に、気を失っていた筈の面影がいつの間にか膝立ちで入り込み、見上げる形で勃ち上がっていた雄の裏筋を根元から先端まで舐め上げていた。
 いつの間に…とは言うものの、若月達からの責めに翻弄されていた輝見は気付かなかったとしても、責めている男達は当然気付いていた筈。
 それでも面影の行為を止めなかったと言う事は、それを良しとしたという事だろう。
 その証に、彼らの面影を眺める視線には驚きではなく愉しさが混じっている。
「これは……気が利いているな…」
「良い子だ……面影」
 そんな優し気な声を掛けられながら、二人が眺めている前で、面影は変わらず舌を突き出して輝見を思う儘に味わっている。
「ん………ん、ちゅ…っ…」
「あ、あはぁん…っ…お、もかげ……そんなっ!」
 暫くは男根の表面を余すところなく舐めしゃぶっていたが、続いて雁を口腔内に含んで粘膜をたっぷりと責めてやると、口の中で元気に跳ね回りながら涎を零してきた。
(ああ、こんなに固くなってる……二人に犯されてとても気持ち良さそう……こんなの見せつけられたら…)
 責めている立場の筈の面影が、相手の激しい乱れ振りに触発されたのか身体をもじ…と蠢かせる。
 既に面影も繰り返し繰り返し愛されているのだが、その情欲の炎は依然鎮火していた訳ではないらしい……いや、分身相手でも多少は張り合う気持ちもあったのかもしれない。
 目の前で立派な雄を二本、美味しそうに呑み込んでいる淫孔を見ている内に身体がまた疼いてきたのだろう、自らの片手を下へと下ろし、自らの昂ぶりに指を絡ませ始めた。
(ああだめぇ…我慢出来ない…っ 口でしているだけなのに、私のオ〇ン〇ンまで疼いて…っ)
 自分達の快楽を分けてもらう様に輪に加わり、自らの雄を慰めながら面影が夢中で輝見を慰撫している内に、若月達もまた行為により一層熱が高まってきたらしく、挿送の速度が更に速まっていく。
「は…ぁ……あふぅ……! んはっ、あぁぁうっ!! はげしっ、はげしすぎぃっ! 勝手に、なか、オ〇ン〇ンにしがみついちゃう…っ!!」
 目の前で激しく出し入れされる肉棒達を見て、輝見の淫らな睦言を聞いていると、面影の肉欲も抗いようもなく高まり、口と手の動きが一層激しくなっていった。
(とろけ、てる……奥…奥が、切ない…っ! 私もまた、二人一緒にしてほしい……っ!)
 今宵、幾度となく抱かれたが、二人に同時に挿入されたのは輝見が最初。
 彼が達した後は自分もしてもらえるだろうか……と思いながらふと視線を上に上げると、今正に輝見が限界を超えようとしているところだった。
「そろそろ限界か…?」
 若月の言葉に応える余裕もなく、若者が叫ぶ。
「それ以上、突かれたらぁっ! あふぅっ! 奥の肉が締まって……っ! あ、あひっ、達く、また達くぅぅ~~~っ!!」
「達く時に突かれるのが好きなのだろう…? そうら…っ」
 一層の締め付けを感じながら、嬉しそうに眉月がぐんっと勢いをつけて最奥に突き込むと、声も途切れた輝見の喉が低く鳴った。
「~~~っ!!!」
 どくどくどくっ!!
 二人分の熱い樹液が一気に肉洞に注ぎ込まれ、輝見の脳を焼く程の刺激が全身を襲う。
 ああ……溶け合っていく……
 二人の肉棒の拍動を感じながら、二人の荒い息遣いを聞き、輝見は自らの心が満たされていくのを感じた。
 そうだ……私は、十分に満たされ、愛された……
 面影の影ではなく、輝見という名まで与えられて、私という存在を認めてくれた
 そうだな………もう、十分だ……
「あ………ぁ……っ…?」
 繰り返されてきた絶頂の筈…だったが、この時、これまでのとは異なる感覚が生じたのを察知したのは輝見本人だった。
(あ………わた、し……)
 本人が感じた異変には、他の三人も直ぐに気付いた。
 消えていく………
 見ると、輝見の身体が四肢の先端から徐々に消えていくのだ。
 肉体を構成している物質が目視出来ない程に細やかな粒子となり、大気へと溶け込んでいく様に……
(ああ……そうか……)
 先程、私が満足したから、条件が満たされたのだ……私が消える条件が。
 けれど不思議なものだ、焦りも悔しさも無い……只管に、今は幸せだ……
「………とても…好かった」
 自らが消える為に望んで行っていた行為だが、その時脳裏に去来する感情はどういうものだったのか……
 他の者達が理解する事は出来なかったが、少なくともその時に輝見の表情に浮かんだのは、穏やかな笑顔だった。
「輝見……」
 自らの分身が消えて行こうとしている様を見つめ、名を呼びながらも面影はそれ以上動けなかった。
 彼はそもそもこの現世には存在しない筈の者。
 感傷だけでその者を引き留めるのは道理に反してしまう事を、彼は知っていた。
 それでも、何も考えずに見送れる程に冷徹にはなれないらしく、寧ろ消えつつある彼より面影の方が心を痛めている様にすら見えた。
 その時。
 若月が徐に輝見の耳に口を寄せ、何かを囁いた。
 別離の挨拶なのかもしれないが、それにしてはその動作は多少不自然だった。
 誰にも聞かれないように故意にそんな形で呼びかけた様にも見えたが、そんな行動を受けた若者は驚きを示す様に大きく瞳を見開くと、ほんの少しの沈黙の後、迷いなく頷いた。
 そして、微かな笑みを浮かべ……
「あ…」
 面影の衝いて出た声の向こうで、完全にその身体を虚空に溶かして消えていってしまった。
「………輝見」
 己の分身との僅かな時間だけの邂逅。
 彼を消滅させるのが目的だったし、それは果たされた。
 消えたということは、彼の願いは無事に成就されたという事なのだろう。
 幾度も三日月と繋がり、彼の分身である二人の男にも愛され……それを十分に実感出来たということだ。
 微かに心の陰で抱えていた「彼が意図的に条件の達成を否定し、現世にいつまでも留まるかも」という懸念もあったが、どうやら相手はそこまで欲深くはなかった様だ。
 それでも、面影は奇妙な寂寥感を胸に覚えると共に、小さな疑問が湧いた。
 先程の若月の行動……彼は一体何を輝見に囁いたのか?
 あの時には若月に意識を向けていたのでもう片方の眉月の様子までは詳しく見ていなかったのだが、何も口出ししていなかった事を考えると、彼も若月の思惑を理解し、それを受諾していたというのは間違いない。
 只の別れの言葉という可能性も考えられるが………
「あ、の……若月?」
 疑問を解決するには当人から聞くのが最も確実で手っ取り早い、幸い聞きたい相手は今目の前にいる。
 彼が輝見に囁いた事を尋ねようと口を開きかけた面影だったが、それは眉月に不意に肩を掴まれた事で遮られてしまった。
「これで、本来の目的を果たせるな…」
「は…?」
 呆けた声を出している間に、若月も眉月の動きに倣い、反対側の肩に手を置いてくる。
「寂しい思いをさせたなぁ……面影よ」
 先程、輝見にしたのと同様に耳元で囁いてくる…しかし、今の声は堪らなく煽情的で…危険な香りがした。
「え…?」
 ぞく…と何かが背筋を走ったのを感じていると、その隙に二人の男は易々と距離を詰めてくる。
「今よりは、お前だけに触れ、お前だけを見て、お前だけを可愛がってやろう」
と若月が言えば、
「輝見に譲ったところもあっただろう……聞き分けの良い子にはご褒美を与えねば……」
と、眉月が頷く。
 彼らの柔らかで優しい言葉とは裏腹に、面影の背筋に今度こそ甘い悪寒が走った。
 これは…確実に「そういう」流れになってきているのでは……?
「あ、あの……二人とも…?」
 吃りながらも彼らを制しようとする面影だったが、無論、そんなささやかな抵抗に屈する彼らではない。
 面影自身、既に身に染みている程に分かっている事だが、『三日月宗近』の面影に対する執着は、どんな相手でも止める事は出来ないのだ。
「では、改めて始めようか…?」
「俺達はまだまだいけるぞ…愛しいお前を悦ばせる為に」
 やっぱり…!?
 確実な自分のこれからの未来を察し、面影は慄きながらも逃げられない現実を受け入れる他無かった。
 輝見が消えるまでは自分も肉欲に囚われ、何よりも彼らからの寵愛を求めていたし、確かにまだ身体の奥底には熱の残渣が残っている。
 その証に、二人に今触れられてから再び身体の熱が高まり、彼らを激しく望みつつあった。
「あの……っ」
 せめて疑問だけは解決したい、という思いも空しく……
「さぁ、昼も夜も無い此処で…」
「時を忘れ、獣の様に乱れ狂うと良い…」
「あ、ああぁぁ…っ」




 それから遠くない未来の本丸にて…
 その日の本丸は日常より些か不穏で賑やかな時を過ごしていた。
「主がおわす本丸には決して寄せるな!」
「蜻蛉切、そろそろ我々も前に行きまショウか?」
 蜻蛉切の緊張が混じった声とは裏腹に、彼の相棒とも言える妖刀の付喪神はいつもと全く変わらない悠然とした声音で、得物の鍔に手を掛けながら門の傍に立ちつつ呼びかけた。
 彼が門の右の支柱、蜻蛉切は左の支柱を背に佇み見下ろす先には、本丸へと続く山道を挟む森林が鬱蒼と生い茂っている。
 その茂みの向こうが、明らかに風とは異なる力を受けて不自然に揺れて梢が鳴る音が響いていた。
 敵襲であった。
 先ず気付いたのは、本丸に座しながらも本丸の至る所に結界を張り巡らせ、各所に繋がる霊糸を握っていた審神者その人であった。
 即座に主の主命が伝達され、全ての刀剣男士が各人の持ち場へと走り、戦闘開始となったのである。
 森林の中で揺れる緑葉の奥では、機動力と隠密に秀でた短刀達を始めとする刀剣男士達が時間遡行軍の侵入を防ぐべく奮闘している。
 短刀だけではなく、打刀や太刀の戦力も投入されているのだが、数としては決して多くない。
 それは森林という視界不良の場所では多勢は寧ろ不利に働くから、という事もあるが、この日の刀剣男士の数は本丸に属する全員のそれより少なかった所為でもあったのだ。
「……偶然だと思いマスか?」
 このタイミングで敵が奇襲を掛けてきた事が、という意味で端的に問うた村正だったが、それに対して蜻蛉切は困惑する様子も見せずに意図を汲み取り眉を顰めた。
「そうであってもそうでなくても……この巡り合わせは好くないな」
 此処の内情を何処かで察知したのか、それとも一か八かで奇襲を図ったのか……
「…主の采配は見事の一言だ……しかしそれでも守りが薄すぎる。攻めの手が足りぬ」
「まさか、三日月さんの手すら煩わせる事になるとは思いませんでしたね……裏門は彼と…?」
「面影一人だ……二人だけでも彼らなら対応は可能だろうが…」
 二人でなくても、此処の刀剣男士であれば彼らの実力ならば対処は出来るだろうと踏んでいる。
 しかし、今回の奇襲は向こうもかなりの戦力…数を揃えてきており、戦闘に突入してからかなりの時間が経過していた。
 冷静に見ても押しているのはこちらの陣営ではあるが、かなり接戦しているのは否めない。
 勝てるとしても、万一の不手際が生じて誰かが折れてしまった…という最悪の事態は避けたい。
「せめてもう一振、こちらに欲しいところデスけれど…」
 そう村正が言い掛けた時だった。
 一陣の風が、二人の間……門の中央を吹き抜ける。
 二人ともが、只の風だと感じた。
 それが違う……人の残像だと分かったのは、自らの隣を駆け抜けていく流れる気流の中に幽かな人影を捉えたからだ、まるで陽炎の様な。
「な……っ!?」
「速い、誰だ…っ!?」
 思わず声を漏らしてしまった村正の向こうでは、蜻蛉切がその正体を見極めようと瞠目していたが、その時には既に人影は戦場へと続く茂みの向こうへと消えてしまっていた。
 まだ侵略を受けていない本丸の方角から戦場へと駆けて行ったのなら、あの影は少なくとも自分達の味方である筈だ。
 しかし、ならば誰が?
 相手の正体は分からないまま。
 しかし微かに網膜に写った姿は、確かに自分達の陣営のある人物に似ていた様に見えた。
 それを認めるとしても尚、蜻蛉切は己の判断に納得は出来なかった。
(彼は……『面影』は、まだ確かに裏門を三日月殿と共に守護している筈…!)
 その場の敵を全て殲滅したら、他所の味方の加勢に加わるのは当然の流れである。
 しかし、今、面影が此処に来る可能性は限りなく少ない……早過ぎるのだ。
 例えどんなに剣士としての能力が優れていても、確認された遡行軍の数をこんなに短時間で殲滅させるのは不可能だ、と蜻蛉切は冷静に分析していた。
 ではあれは何者だ……? あの、面影の姿に酷似した様に見えるあの男は……?
 出来るなら直ぐにでも追って確認したかったが、今は此処を死守するのが己の役目だ。
 すっと目線を相棒へと戻すと、きっと向こうの心中もこちらと同じなのだろう。
 困惑した表情で見返してきたかと思うと、隠せない逸った表情へと変わりつつその視線をそのまま先の森林へと目を移した。
 主の命を受けていなければ、自分もあの戦場に向かいたい、という気持ちが彼の心にあったのは間違いない。
 それは敵を直に屠りたいという本能の希求もあるだろうが、あの人物の正体を確認したいという望みもあったからだろう。
 動きたい、しかし動けない二人の視界の先からは、断末魔なのか自らを鼓舞する咆哮なのか、猛々しい叫声が響いていた………




「上手くいった様で何より…」
 上座の御簾の向こうに座しているだろう審神者の前で、三日月は優しい笑みを浮かべながら袖で口元を隠して言った。
「……こんなに早くあの手を使う事になるとは思わなかったが、結果は上々だった…」
 そんな彼がすぅと視線を向けたのは、御簾の向こう……そこに鎮座していたあの鏡台。
 三日月の言葉に審神者が一つ大きく頷く。
 三日月と面影が件の温泉宿から本丸に戻った時、実は秘密裏にあの鏡も本丸へと持ち帰る事になったのだ。
 元の所有者である宿側とも色々と話し合ったらしいが、どの様なやり取りがあったのかは他の誰にも知られる事はないだろう……持ち帰った三日月が何を何処まで読んでいたのかも。
「面影が合わせ鏡を図らずも実行してしまった事には肝を冷やしたが……あの者はいつも俺を驚かせる」
 実は、旅行から戻って直ぐにこの鏡について政府の力を借りながら精査したところ、この摩訶不思議な鏡については以前より仄暗い噂があった様だ。
 宿の仲居頭が語っていた『合わせ鏡』の曰くもそうだったが、問題なのはその「続き」。
 これまで鏡に関わった人間の幾人かが、『行方知れず』になっているというものだった。
 それらの噂が、仲居頭が言っていた様に最近では殆ど聞かれる事が無かったのは、おそらく刀剣男士のみが客になっている宿に引き取られたからだろう。
 調査の結果、消えた人の殆どは女性だったそうだが、男、それも刀剣男士が女の様に鏡を持ち歩き、更にそれを鏡台前でかざすなんて事は無かっただろう事は容易に想像できる。
 では、消えたと言われた女性達は何処へ……?
 鏡に映った者の『願いを叶えたら消える』という条件は、その疑問に対する解答を示唆するものなのか?
 その疑問について、審神者が三日月に或る事を謎解きの様に問うた。
『では、これまでの写し身が望んだことは何だと思う?』
 対し、三日月は悩む素振りも見せずに審神者に即答した。
『自らが真になることだろうなぁ』
 難解な様に見えるが、深慮したら自ずと分かる事だ。
 現世に生まれ出た瞬間から既に偽物、紛い物、影である事を位置づけられた仮初の存在にとって、真の存在は眩く、焦がれる程に希求するもの。
 彼らは望みを叶えたら『消える』とされているが………果たして本当に消えたのだろうか?
 実は消えたのではなく……消えたと見せかけてその実体である存在を『抹消』し、自らがその身分に成り代わったのでは……?
 合わせ鏡で一人が二人になり、そして一人に戻る。
 但し、最初の一人と最後の一人は………真偽が逆になっているのでは…?
 その疑問に対する一つの解答であるという様に審神者は満足げに頷き、そうだろうと同意した。
 消えたのが一人だけならば噂にもならずに歴史の流砂の一粒として埋もれていただろうが、おかしなことに似た様な事例が様々な時代の中に紛れていたのだ……そして彼女達の傍には決まってあの鏡が在ったのだと……時の政府の調査でそれが分かった。
 写し身の面影も、真の面影に取って代わろうとする道はあったのかもしれない。
 しかし。
 当の写し身が願ったのは、陽光に当たる場所ではなく、三日月の愛だった。
 自らの存在の継続を明らかにする未来よりも、三日月を求めたのだ。
 面影の写し身が顕した面影の望みが、彼自身を救う事になるとは……
 いや、最悪その未来へ至ったとしても自分がそれを阻んだだろうと思いつつ、三日月は面影の強い想いを確認出来た事を密かに喜んでいた。
 さて、話は政府の調査後に戻る。
 こんな分野でも時の政府にとっては注目すべき事案となり、一時、裏では騒然となった。
 歴史の重要人物に、緻密な成り代わりを起こされたらそれこそ大問題だからだ。
 壊すか、それとも宿から政府の名の下に接収するか…
 しかしそんな話が持ち上がり、議論される以前に、この問題はある意味強制的に終息させられていた。
 怪異に遭遇した三日月が、先手の先手を打つ形で宿から問題の鏡を譲り受け、ちゃっかりと本丸に持ち帰った事によって。
 この譲渡については政府は何の関りもなく、多少は審神者の意志が関係しているかもしれないが、あくまで三日月が個人的に行ったものだったので、政府に何ら義理立てする必要はない。
 勿論、政府側があっさりと引き下がる訳もなく鏡を本丸から政府直轄管理にしようという動きもあった様だが、いつの間にかその話は立ち消えになっていた。
 鏡の話そのものが重要機密であったのでそれを知る者はごく限られた者のみ。
「今回の奇襲で、鏡がこの本丸に在る意義を政府にも改めて知らしめられた。あれを有効活用出来るのは、面影が属しているこの本丸のみ……これで少しは羽虫も黙らせられよう。おっと、これ以上は控えるか」
 袖で口元を隠して笑う蒼の神につられる様に、審神者の肩も微かに震えた。
 鏡がこの本丸に据え置かれる事を良しとされた理由。
 それには、面影も大いに関わっている。
 戦力が心許ないと判断された今日の奇襲の際……ここで初めて面影はあの鏡が本丸に運ばれていた事実を知った。
 そこに隠されていた鏡を見せられた面影は、直ぐに審神者や三日月が考えている策に思い至る。
 鏡の様に澄んだ刀身を持ち、自らよりも三日月への忠心を明らかにした若者は、彼らの望みに応じた。
 再び鏡面の前に立ち……喚んだのだ、彼を。
 輝見を。
 面影の心が揺らがない様に、輝見の望みもまた変わらなかった。
『また、私の望みを叶えてくれるのか?』
 一言を残し、彼は何の迷いもなく戦場へと向かって行ったのだった。
 結果は、向こうの遡行軍が哀れに思える程の勝利。
 実は蜻蛉切達が見かけたのは、紛れもなく面影本人である。
 輝見と同じ神気を纏う者とはいえ、やはり髪型などの微妙な変化に気付かれる可能性を考えると、彼らの元に向かうのは面影本人の方が好ましかった。
 いずれ他の刀剣男士達には、輝見という新たな戦力について知らせる必要があるだろうが、その時期と伝え方については審神者に一任する事としてある。
 面影も、審神者に従う者としての自覚は備わっているので、余計な差し出口を挟むことはないだろう。
「………では、全ては主の良き様に」
 座したままに一礼した三日月は、すくと立ち上がり、静かに相手の部屋から退室していった。
 歩いて行く廊下に差し込む光は既に昏くなりつつあり、あと半刻もしたら深い闇が訪れるだろう。
 忙しなかった一日を振り返りつつ、彼は自らの私室へと向かった。
 審神者の部屋から彼の部屋まではほぼ一本道で他の男士の部屋の誰よりも近い。
 故に、他の誰にも出会う事無く、彼は自らの部屋に到着し、中に入るとそのまま寝所へと向かった。
 そしてその襖を開けようとしたところで、直前で向こうから自動的に開かれた。
「……三日月」
 寝所から顔を覗かせたのは、着崩れた浴衣を纏った恋人である面影……と同じ容貌の男。
 その形は全て彼と一致しているが、髪型が対称だった………合わせ鏡の様に。
「待たせてすまぬな……主との話が長引いてしまった」
「……それ程には待っていない……いや、待ちきれなかった、というのが正しいかもしれない」
 男の詫びに対し薄い笑みを浮かべ、面影に似た男は小さく首を横に振ると、そのまま背後を振り返る。
 視線の先には、先に敷かれていた布団……そこに伏している誰かの姿を見て、三日月が唇を歪めた。
「既に二人でじゃれ合っていたか……」
 彼の言葉通り、布団の上に伏していた者こそ、面影本人だった。
 その身からは既に浴衣は剥ぎ取られ、布団脇の畳上に追いやられている。
 一糸纏わぬ姿で横たわった若者の身体は既に汗に塗れ、吐息は荒く、瞳は欲情に染まっていた。
 何より、身体の中心が完全に興奮して固く育っている姿を見る限り、そこで何が行われていたかは言うまでもないだろう。
「あの宿ですっかり快楽の味を覚えてしまった様だな…」
「面影にも私にも、それを教えたのはお前だ……三日月」
 するりと三日月の首に腕を絡めながら抱き着き、輝見は囁いた。
「お前が私の望みを叶える限り……私は此処でお前の望みを叶えよう」
 あの時、お前が囁いた約定に従って………
「良かろう、今日のお前の働きに報い、お前の望み、叶えよう」
 誘い誘われ、三日月は寝所の襖を閉じて中へと入る。
 そして、程なく甘い声が寝所の中で響き始めた。